旅の男がお屋敷に招かれる話。

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ホラー初めて書いたので初投稿です。
対戦よろしくお願いします。

これ怖いのか……?







お屋敷のご主人

 

「ふぅ、ふぅ」

 

人里離れた山奥に、一人旅の男がいた。

 

「やれやれ。今日はどこか泊めてくれる宿があればいいんだが……」

 

 男は、ここの所ずっと露営が続いていて疲れきっていた。

 徒歩での旅を選んだのは失敗だった。ココ最近、屋根もない木陰でミノムシのように包まって眠るばかりだ。

 

「山ばかりだなぁ。望み薄かな…………お?」

 

 山の稜線に囲まれたその一角。

 こんな遠く離れた場所でもわかる、大きなお屋敷があった。

 

「こんな山奥に! 行ってみよう!」

 

 砂漠でオアシスを見つけた気分だ。男は疲れも忘れて山道を駆け下った。

 

 

 

 

「お屋敷というより神社だなぁ」

 

 お屋敷のある小山の麓にたどり着くと、石を積み上げた階段が上まで伸びていて、その間に朱の鳥居があった。

鳥居の頭の部分、額束には神社には似つかわしくない『』が刻まれていて洋風らしさがあった。

 

 そして鳥居には人がくぐれる輪っか……茅の輪が拵えてある。

 

「この茅の輪、まだ青々としてるし拵えて間もないな。人がやっぱりいるんじゃないか、良かった」

 

 ほっと一息つく。最悪、中に入れて貰えなくても軒先を借りれたら十分だ。

 

「左、右、左、っと」

 

 茅の輪をくぐって階段を登っていく。心が逸っているのか、足が軽い。

 

 

 

 境内に出ると早速、人影があった。

 

 コンコン。

 どうやら木を削っているらしく、ノミを片手に角柱を作っていた。そばには色鮮やかに彩られた角柱がいくつも並んでいる。

 

 おや?とすこし違和感を覚えたが、彼は声をかけた。

 

「こんにちは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

 コン、コン。

 答えはなかった。顎髭を生やした白髪混じりの男は俯いたまま、ノミを動かし続けた。

 

 辛抱たまらず、もう一度声をかけた。

 

「こんにちは!ご主人!」

 

「……私はこの家の主ではないのだよ」

 

 コケシじみた頭と胴のある角柱を見ながら、老いた男は行った。

 

「屋敷の台所に私のおやじがいる。そちらに聞いてみてくれ」

 

「はあ」

 

 

 お屋敷のなかに入った。

 やはり凄い豪邸で、しかもよく手入れされている。柱は太く、襖には絵がある。

 

 ただ壁にはびっしりと神札が貼り付けてあるのが奇妙だ。

 

 

「いい匂いがする……あっちかな」

 

 もうすぐ夕刻だからか、米を炊いているらしい。芳ばしい匂いにつられて台所へ向かうとさっきの老いた男よりも老けた男がいた。

 

「こんばんは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

「わしはこの家の主ではないのだよ。座椅子にわしのおやじが座っている。そちらに聞いてみなさい」

 

「はあ」

 

 

 台所から居間のほうへと向かうと、座椅子に座ったさっきの老人よりも老いた老人がいた。

 さっきの老人が炊いたちまきをゆっくりと咀嚼している。

 

「こんばんは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

「わしはこの家の主ではないのだよ。軒にわしのおやじが座っている。そちらに聞いてみなさい」

 

「はあ」

 

 

 

「神札じゃなくなってる……星?」

 

 お屋敷を歩いていると神札の貼られた区間は終わったのか、今度は星のマークが至る所に貼られている。

 

「妙なマークだなあ」

 

 

 呑気に眺めながら居間からベランダと向かい、軒先でさっきの老人よりも老いた老人がいた。

 老人はシミの浮いた皺だらけの手で、黒い紙に白筆で何か書いている。

 

「こんばんは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

 ぶるぶる、かちかち。手が震えて、歯が鳴っている。

 返事はなかなか返って来なかったが、もう夕暮れの空を見ながら返事をくれた。

 

「わしはこの家の主ではないのだよ。布団に横になってるわしのおやじが座っている。そちらに聞いてみなさい」

 

 ぶるぶる、かちかち。

 男が離れるまでずっと手が震えて、歯が鳴っているのが聞こえた。

 

 

 

 ベッドまでの道は少し奇妙な通路だった。

 さっきの老人の作っていた星の紙がびっしりとそれも几帳面に隙間なく並んでいた。

 

「こんばんは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

 少し足早に部屋へと向かうと、布団に横たわったさっきの老人よりも老いた老人がいた。

 布団の敷かれた広間の窓から見える空はもう夜だ。泊めてもらえるか不安になってきた。

 

 老人は顔半分が目なのかと思うほど、カッと目を見開いて虚空を見続けていた。

 

「こんばんは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

 もう一度、声をかけるとゆっくりと唇がわなないた。

 

「わしはこの家の主ではないのだよ。そっちのゆりかごにわしのおやじが眠っている。そちらに聞いてみなさい」

 

「はあ」

 

 

ゆりかごをのぞくと小さくしなびて、赤ん坊ほどになった老人がいた。生きているのか不安になったは、喉元からごろごろ音が聞こえる。

生きてはいるようだ。

 

「こんばんは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

 返事はすぐには貰えなかった。待っていると唇がわなないた。

 

「わしはこの家の主ではないのだよ。そっちの壁にわしのおやじが眠っている。そちらに聞いてみなさい」

 

「はあ」

 

 

 

壁にいると言われて探すが、誰もいない。一個の干し柿が吊るされているだけだ。

 

だがよぉぉく見ると、干し柿にはなにやら顔めいたものがあった。目は閉じられ眠っているようだ。

 

「こんばんは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

 返事はすぐには貰えなかった。待っていると唇がわなないた。

 

「わしはこの家の主ではないのだよ。あの扉の向こうに、この家の主とわしの娘がいる。そちらに聞いてみなさい」

 

「はあ」

 

 

 言われてそちらを見ると、古びた両扉があった。

木製の金の装飾がなされた扉で、中央には鳥居に刻んであった大きな星マークが描かれていた。

 

「この老人の娘となれば相当しわくちゃのお婆さんだろうな」

 

 そんな事を思いながら重い扉を開ける。

 

 

 

 蝋燭しか焚かれていない薄暗い部屋だった。

 

 先ほどの広間と同じくらい広い部屋だが、暗すぎる。

 ただ、ロウソクの小さな明かりはしっかりと役目を果たして、部屋にいる人物を照らし出していた。

 

「おや、客人か」

 

 扉の先にいたのはしどけなく座る亜麻色の美女だった。

 妙齢で、先ほどの老人の娘とは思えない。

 

「こんばんは、ご主人。今夜、泊めてもらえないだろうか?」

 

 目が合うと色っぽく微笑んだ。

 

「なるほど。すまないすまない、間違(まちが)ってしまった》》よ」

 

そう謝って、こう続けた。

 

「私はこの家の主ではないのでね。君がさっき会ったおじいさんの娘といった所かな」

 

「はあ」

 

 だとすると、えらく若作りの上手い娘さんだ。

 

「ではこの家のご主人はどこに?」

 

「ほら、見ればわかるだろう。お(やしろ)の主はそちらにいらっしゃるじゃないか」

 

 娘の指差した場所を見れば、おどろおどろしい神様の像があった。

 

 角の生えた牛の顔だ。

 

 それに忿怒の形相。

 

 槍で敵を串刺しにしそうな恐ろしい神像だった。

 

 

「あー、そうじゃなくて。このお屋敷のご主人……宮司さんとか神主さんとかいないの?」

 

 

「なるほど。すまないすまない、間違(まちが)ってしまったよ。それなら反対の()の方にいると思うよ」

 

 

 壁? 

 振り返って見るが、暗がりでよく見えない。本当に何も無い壁のようだが。

 

 娘は首を傾げる男へ、薦めるように促した。

 

 

「あそこにいるじゃないか。ほら、近づけば見えるだろう?」

 

 本当だ。

 

 壁に人影が見えた。

 

 男はぎょっとしながらも大きな声で叫んだ。

 

 

「こんばんは、ご主人! 今晩、泊めさせてもらえないでしょうか!」

 

 

 返事はない。

 

「あれ?」

 

 暗闇のなかで気づかなかったが、壁をよぉぉく見て見てるとおかしな部分を見つけた。

 

 それは丸い形をした鏡だった。

 

 

「え?」

 

 

 丸い鏡のなかには当然、自分がいた。

 さっき見た神像と同じく、角が生え、そして……牛の顔になった自分が。

 

 

『こんばんは、ご主人! 今晩、泊めさせてもらえないでしょうか!』

 

 

 鏡の中の牛頭が勝手に口を開いて叫んだ。

 

 

「もちろん、かまわないとも!」

 

 

 すると、どうした事だろう。

 

 鏡の前の牛頭が勝手に口を開いて叫んだ。

 

 

 それから一人旅の男は素晴らしい歓待を受けた。

 

 白米に蒸し鮑。焼鯛や澄み酒を振る舞われ。

 

 鏡の部屋で眠った。

 

 

 

 最後にとうとうこのお屋敷のご主人に会えたのでとてもうれしかった。

 


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