【ハジメの夢】
――……おーい、話しようよ
ハジメ「……」
――……少し前の和気あいあいとした雰囲気が嘘みたい
――楽しかったなぁ、またやりてぇなぁ!?
――なぁぁぁぁぁぁぁ……そう思うだろうがよぉぉォォォ……
ハジメ「……」
――……
――先に言っておくが
――私はお前の頭の中を確かに読むことができる
ハジメ「……チッ」
――だからこそ、「もしかしたら今度の戦いで利用される武器を読まれるかも……」
――「こちらの手の内を知られたら勝てなくなるかも……」
――……なーんて思ってたりするんだろ? でしょでしょ?
ハジメ「……」
――ファーーーーーーwwwwwwwwwwwwww このコミュ障さぁ、変に疑り深い真似するよなぁ
――こっちはお前の頭の中は読まない! 決して卑怯なことはしない! 信じてビリーヴ!
――あえて言うならまぁ……こちらも手の内を明かさないけど、それはお互い様だと思ってくれ
――……んで、これだけ言ってもまだ信用してくんねーの? めんどくせぇぇぇぇぇ
ハジメ「……」
ハジメ「一つ、お前を見ていて分かったことがある」
――? おぉ、いきなり確信めいたことを言うつもりか?
――あぁ、そういえば言うって約束だったもんな。明日……つまりはこの日、お前が目覚めたら……目指すであろう神山で戦ったら……
――私の正体を『少しだけ』明かすと
ハジメ「……」
――でもさぁ、お前が私のことを知るっつったってそんな簡単なもんじゃ
ハジメ「お前の口調、似てるんだよ。『ミレディ』に」
――………………
ハジメ「やたらうっとおしい接し方とイヤに芝居がかったしゃべり方」
ハジメ「頭の中に流れ込む思念……それゆえにどんな声かは俺はわからないが……」
ハジメ「お前のその喋りかた、素のものじゃない。もっと言えば、自分を演じるようなしゃべり方だ」
――………………
――演じる、とは面白い推察だな。なるほど、考えてみれば……ふむ……
ハジメ「そもそもがおかしな話だったんだ。お前の姿は見えない、声もどんなものかわからない。素性だってぜんぜんわからない」
ハジメ「何とかお前を推し量れそうな部分はその『口調』だけ」
ハジメ「だけど、話していてわかる。普段のお前のしゃべり方と俺に何かを指摘したりする際の言葉遣いが……明らかにスイッチを切り替えるようにしている」
ハジメ「お前は、誰かの影響を受けて演じている」
――なるほど
――それはお前も『同じ』だからか?
ハジメ「……? なに?」
――私はお前と知り合ってからは……そこそこ長い
――お前が地球にいたころの『豹変前』、トータスに来てからの『豹変後』も……
――あの奈落の底を境に、お前は……
ハジメ「……変わった? 変わらなかった?」
ハジメ「お前が聞きたいのはどっちだ?」
――……
ハジメ「お前は何度も俺に聞いたな。俺は、変わったけれど変われてないと」
ハジメ「……いったい、何を根拠に言っている」
――……
ハジメ「……」
ハジメ「確かにな、きっと俺は変わっていないかもしれない」
ハジメ「俺は周囲のことを顧みなかった。だけど、それで構わない。俺は俺の生きる道筋を自分で選んでいたし、それが俺にとって後悔のない選択だと思っているからだ」
ハジメ「親の七光りに甘んじているかもしれないだろう。けれど、それでも構わない。あそここそが、俺の生きる場所であり、生きる道筋を示してくれるから」
――……
ハジメ「俺は俺の生きる道を征く」
ハジメ「そう考えれば……学校のころから周囲を無視しているのも、異世界で敵を排除しているのも……変わらんな。確かに」
――……
ハジメ「誰に何を言われようと、俺は俺の生き方を曲げるつもりはねぇよ」
ハジメ「俺が『いじめられっこ』だろうが、『最強の魔王』だろうが……周囲が何を言おうと」
ハジメ「俺は、俺を――」
――本心を、語ろう。私の胸の内を
ハジメ「?」
――私の、本当の願い
――親友たるお前に願うこと
――お前を『最強』になんかさせないこと。それが私の願いだ
ハジメ「……? 前にも言ってなかったかそれ」
――そろそろ語ってもいいころあいだ
――……私は、お前に『最強』になんかなってほしくないと思っている
――……なぁ、ハジメ。『最強』って、何だと思う?
ハジメ「あ……? なんだそのふざけた質問……」
ハジメ「……ええと」
ハジメ「一番強いやつってことだろ? シンプルに」
――……あぁ、そうだ。最強とは、そういうものだ
――だが、『最強』を言葉で表すのにもっとも適したものがある
――それは『最強』とは『最も強い』という意味だ
ハジメ「……??」
――ヒトは、力でアレ芸術でアレ、己の磨き上げる才能を誇りに感じている
――ゆえに、ヒトはそんな己の誇りが優れていることを証明することに固執する。あたり前な話だ。個々人の根底の精神に根付いた部分であるならば、自分の人生をささげたものが素晴らしい物であることを目に見えた形として証明したくなるものだ
――時には才能を数値と表し、時には己の残した記録を破り……だが、何よりも優れていることを証明する方法は
――『他者との比較』……誰かと見比べることで優れていることを表し、誰かと競うことで優れていることを証明させ、時には比べ会う事で己の才をより高みに昇り上げる
――他者と研鑽し、研磨し、磨き合って衝突し……多くの他者が個人と擦り合って、より洗練され……
――そのうち、もう誰かと肩を並べられないくらいに研鑽されたものを……誰も触れられないものを……
――そうした頂点に立つものを、最も強い者……『最強』というのさ……
ハジメ「……ふーん」
――ふーんて
ハジメ「興味ねぇよ」
ハジメ「もう、そんなものは関係ねぇんだよ。俺は、ただ自分のやろうとしていることをやっているだけ」
ハジメ「だから……『最強』も『魔王』もついででしかない」
――……
ハジメ「俺が最強っていわれることに、お前に何か不都合でもあるのか? なぁ?」
――お前は『弱い』
ハジメ「……」
――……勘違いしないでくれ。弱いと言っても、別に力の話じゃない
ハジメ「回りくどいんだよ。ストレートに言え」
――……お前が最強になろうとしていることが、その『根源』が弱いんだよ
ハジメ「は? 根源……?」
ハジメ「……動機とか理由のことを言ってるのか?」
ハジメ「お前、何勘違いしてんだ? 俺はこんな世界に連れてこられて、理不尽に痛めつけられて……」
ハジメ「なにがあろうと家に、故郷に帰りたい。そう願っているじゃないか。これのどこが弱いんだ」
――……
――話を変えよう。実はな、少し前に龍太郎が面白い話をしていたんだよ
ハジメ「? ……あー、天之河の親友の……」
――まだ王都が襲撃される前のことだ。光輝……こういった話をしていた
――『強さを求めればあんな風にはならない』
――『以前と今とでお前のキャラが繋がらない』
――『悪いように開き直っているようにしか見えない』
――ってね
ハジメ「……」
ハジメ「はぁー……」ガリガリ……
ハジメ「まっったくもって『的外れ』、だな」
――……
ハジメ「そんな陰口を聞かされたところで、俺は何とも思わない」
ハジメ「……ま、別に誰かに俺のことを知ってもらおうとは思わないがな」
――……あぁ、そうだな
――お前の言うとおりだよ……
ハジメ「……そろそろ朝の時間か」
ハジメ「お前が敵なら、お前を倒す」
ハジメ「……待っていろ」
――……
――……
――……
――……いった、か
――……なぁ、ハジメ。お前は無理なんだよ
――お前は、どうあがいても『最強』にはなりえない
――お前がお前である限り、お前が考えるような最強にはなれない
――……なっては、いけない
――……本当に、お前の言うとおりだな。龍太郎の言葉は……少ししか正しくない
――的が外れたのではなく……『掠った』だけでしかないのにな
………………
…………
……
【……早朝の王都、各所にて】
【神山、その最奥】
エヒト「く、来るのか……! 本当に来るのか! イレギュラーたちが!」
エヒト「この世界の絶対唯一無二にして、支配する神を脅かす痴れ者たちが……! 土足でここに足を運ぼうと……!」
イシュタル「……」
信者たち「……」
エヒト「な、なにか答えぬか!! この世界を守護せし神が、脅かされようとしているのだぞ!!」
イシュタル「も、申し訳ございませぬ……エヒト様……」
イシュタル「何分、このような迷宮の奥深く……エヒト様のご威光により、魔物たちは触れることなく退けられておりますが……」
イシュタル「現在、我々信心深き信徒が祈りと歌を捧げ、入り口付近には多くの使徒と共に警護に当たっています」
イシュタル「その際には、エヒト様に触れさせぬよう手を尽くすつもりでありますが……」
エヒト「……」ブルブルブルッ……
イシュタル「悪しき異教徒どもがこの地を踏みしめることが出来ても、その時は満身創痍……! 我々の命が捧げられようと、仕留められずとも、エヒト様が指先一つで――」
エヒト「愚かなのは貴様のほうだぁ! イシュタル!」
イシュタル「ひっ……」
エヒト「我こそがこの世界の絶対!」
エヒト「我こそがこの世界の唯一無二!」
エヒト「天上より高き場所にて座し、遥かな場所ですべてを見渡す者!」
エヒト「それを……お前たち信徒が亡骸を積み上げてでも守らなければならぬ我に……汚らわしい異教徒どもに触れさせようと言うのか!!」
イシュタル「も、申し訳ございますぬ……! な、なんとしても! なんとしてもこの命に代えてでも……!」
イシュタル(どうして、どうしてこうなった……我々はエヒト様を崇める選ばれし者であるはずなのに……)
イシュタル(それが何故、このような場所に追い詰められているのだ……?)
イシュタル(私は、幼少のころからエヒト様にこの身を捧げ、ゆりかごから墓場まで祈りを捧げる敬虔なる者として生きてきたのだ……)
イシュタル(世界を、ヒトの世界を明るく照らす者として、そのための豪勢で豪華な暮らし、何一つとして不自由で明るく照らされた道筋……)
イシュタル(亜人どもを奴隷とし、魔人族のような敵対種族すらも倒して……如何にして私が、エヒト様の忠実なるしもべなのかを証明してきたのに……)
イシュタル(イレギュラーと呼ばれるものによって乱され、惨めにも迷宮の奥で怯え、あれだけ虐げた亜人どもが力を振るってくる……)
イシュタル(なぜだ……わ、私は……エヒト様にこの人生を捧げたのに……)
イシュタル(! だ、ダメだ……信仰を揺らがせてはだめだ……!)
イシュタル(これまでも、ずっとずっとこのお方を信じてきたのだ! 今は試練! 耐えるとき!)
イシュタル(……だって、そう信じなければ……)
イシュタル(わ、私は……今までなんのために生きて……)
………………
【王宮】
リリアーナ「お父様……! お父様……!」
エリヒド「……お前には気苦労をかけさせてしまって……本当に、済まなかった」
エリヒド「神山へと逃げ込んだイシュタル。王都を襲ってきた魔人族……数え上げれば、解決しなければいけない問題は山積みなのに……」
エリヒド「その中で、お前がこんな無謀なことを……いや、お前に無謀な選択を無意識に敷いてしまったこの私を王として、父として軽蔑してくれ……!」
リリアーナ「……本当に謝るべきは私のほうです。王都がこのような状況において、それでも死者が出てしまっているのに……」
リリアーナ「私は、よりにもよってランデルやお父様が無事であることに喜んでいる……私こそ、軽蔑すべき女です……!」
エリヒド「いいや、それは違う。違うぞ、リリアーナ」
エリヒド「ヒトは誰しも他者から与えられた使命を全うするために生きている。だが、そのために生きているだけなのではない」
エリヒド「自分が自分であることを自覚しなければ、ヒトは問題に対して向き合うことは出来ぬ。今、この場では……一人の姫ではなく私の娘として泣いてほしい」
エリヒド「……あとのことは私たちのほうで問題に取り組む。今は寝室に行って、体を休めなさい」
………………
【王宮、ハジメの部屋】
チュンチュン……チチチ……
ハジメ「……朝か」
ユエ「ん……おはよう、ハジメ」
ハジメ「……あぁ、おはようユエ」
ユエ「……ねえ、ハジメ。本当に今日、戦うことになるの?」
ユエ「その……夢の中で話しかけてきた『アレ』と」
ハジメ「あぁ、そうだ。そのためにちょっとお前たちと話をしておきたいと思う」
………………
【訓練場】
ブンッ、ブンッ、ブンッ……
光輝「……はぁ、はぁ……」
雫「精が出てるわね。光輝」
光輝「まぁな。王都の一件も解決し、魔人族、ひいては多くの敵を退けた」
光輝「それでも……守れない命は多い」
雫「……」
光輝「……」
光輝「本当はさ、わかってるんだよ」
光輝「俺たちは、本当はこの異世界に連れて来られただけの人間だ。もっといえば、元々が無関係だったのに、与えられた力で現実を直視できないで……」
光輝「ただただ流されるままに触れた人間たちから、目をそらせない。割り切ることができない」
雫「……あ、あの猛攻は、大結界があっても防ぎきれなかった部分もあるのよ」
雫「王宮の人たちでもどうにもならなかった。ましてや、聖教教会が……身内に敵がいたのだから手の施しようがなかったのよ……」
光輝「……それは……」
雫「あなたに責任があると言うのならば、あの時、イシュタルに乗せられたあなたを……放っておけないと言いながら支えたのは私にもあった」
雫「なによりも、あんな不特定多数の犠牲者が出てしまったのならば……罪は、あなただけじゃない。みんなにあるわ」
光輝「……不格好な生き方しかできない、か」
光輝「目に見えたものがあれば手を出してしまう。手の届く範囲にあるのならば、伸ばさずにはいられない」
光輝「それなのに、手を伸ばすことにも苦しんで、手の上で包めたものも零れて落ちて行ってしまうことにも苦しむ」
光輝「すべてを救う事なんて、できないのに」
ザッザッザ……
龍太郎「おーい! ちょっといいかぁ!」
雫「どうしたのよ龍太郎。そんな急いで」
龍太郎「いや、あのさ……ほら」
龍太郎「南雲の奴さ、今日挑むんだろ? 神山の迷宮に」
光輝「……らしいな。あの奥には、先生を誘拐した……ノイントを強化した信徒たちがいるんだろ?」
雫「それだけじゃないわ。私たちを……光輝たちを利用したイシュタル、その信者たち……」
雫「この世界に私たちを呼び寄せたエヒトも……そこにいる……!」
龍太郎「そのことで、みんな殺気立ってるぜ」
龍太郎「あの奥には……俺たちを巻き込んだ元凶がいるんだ」
龍太郎「場合によっちゃあ、今すぐ叩きのめしてすぐにでも地球に……ってことも……!」
光輝「……いや、どうかな」
光輝「相手は手負いのようだけど、それだけで終わるとは思えない。神の……それこそ不透明なその力の全貌を俺たちは知らないんだ」
光輝「突撃をかましてやりたいのは山々だ。行くのは……賛成できない」
龍太郎「それじゃあ、エヒトは……」
光輝「……情けないが、今回も南雲頼りになるかもな」
光輝「本当だったら俺たちも迷宮の……解放者の魔法を覚えられればよかったんだろうが」
雫「……いろいろと、ね。間に合わないし、何やっても付け焼刃でしかないもの」
光輝「本当……あんなすごい力を持ってるんだから参るよな」
光輝「……俺にも、あんな力があれば……」
龍太郎「……」
………………
【王宮、食堂】
清水「……はぁ」
恵理「あ゛ー……」
檜山「……」
檜山「なーんも体に力が入んね」
清水「あの決戦だけでだいぶ体力持ってかれた上に、事後処理だとかで引っ張りだこだもんな……」
恵理「運動部関係の人たちはめちゃくちゃ重宝されてるもんね。瓦礫の撤去だとか救助者の探索だとかで治癒士と一緒に連れてかれてるし……」
清水「そういう中村も……魂にまつわる魔法が使えることがバレたからいろいろ連れてかれてるんだっけ?」
恵理「まぁね。被害者、犠牲者、重傷者、死亡者……」
恵理「ボクの力なら、この王都に漂う魂を頼れば、だれが死んでるか、生きてるかがわかるからねぇ」
恵理「っつーことで今スッゴイグロッキー。しかもこれから眠るんだよ。キッツイなぁ、もう」
檜山「……」
恵理「そういえば清水は?」
清水「俺?」
清水「俺はもう、もっぱら精神治療がメインよ」
恵理「精神治療?」
清水「今回の戦いで亡くなった人はかなりいるからな。各関係者や血縁関係者はそりゃあショックだろうよ」
清水「俺はその人たちの精神的負荷を和らげるために心の治療にあたっている。それでも気休めでしかないけどよ」
恵理「……ふぅん」
檜山「……」
恵理「おーい、檜山君。なんかいいなよ」
檜山「……」
檜山「細かい事務作業と各種資料への目通し」
恵理「……えっ、いろいろ地味じゃない?」
檜山「お前らみたいに日常生活で応用が利くのと違って攻撃しか出来ねぇのっ!」
檜山「あーほら……俺の知り合いで引きこもった連中がいくつかいるだろ?」
檜山「ほら、清水が魔法でドーピングしたやつら」
清水「あぁ……そういえば効力が切れた後は再び引きこもったんだっけ?」
檜山「そうだよ。俺はそいつらが何か出来ないか王宮の人たちと話し合って、特殊な力でなくとも取り組めそうな仕事をあてがってたんだよ」
清水「……なんか意外だな。お前のイメージに合わない縁の下の力的な……」
檜山「やー、そうでもねぇんだわ。お前らさ、今回の一件で聖教教会あたりはどうなったと思うよ」
恵理「……あ、それまだ知らないんだよね。これだけの騒ぎになったわけだし」
清水「魔人の襲撃、神の使途の誘拐……あたりも広まってるんだろ? しかも、神山へ逃げ込んだ信者やエヒトのことも知られてるっぽいし」
清水「これ、聖教教会の信仰が揺らぐよなぁ……あ、もしかして……」
檜山「……ま、そういうところのフォローだよ」
檜山「考えてもみろよ。俺らはさ、その聖教教会と信奉するエヒトによって連れて来られたんだぜ?」
檜山「……事情がなんにせよな、連れて来られた俺たちてめっちゃやばい立場だろ」
清水「うわっ……」
恵理「やばっ、ちょっとそこ考えてなかった……」
檜山「だからそのフォローだよ。俺たちは聖教教会とは無関係、もしくは無害であり悪意がないってことを知ってもらうための根回しだわ」
檜山「幸い、メルド団長や兵士たちに王宮の給仕……それに助けた市民からは恩もあって悪いほうに話は転がってないらしい」
清水「あー、なるほどなるほど……じゃあ、それなら……」
恵理「でも、よく周囲が信じてくれるようになったよね。ぶっちゃけ、キミってそんなオーラないのに」
檜山「いや、どっちかってーとソレを広めたのは……」
コツコツ……
香織「あっ、檜山君。ちょっといいかな」
檜山「おぉ、白崎……もしかしてさっきの打ち合わせの話か?」
清水(あぁなるほど。表立って活躍してるのが白崎とか天之河ってわけね)
恵理(こいつはその周囲で動く手足の一つみたいなポジションなのか。悪くない立場だな)
香織「うん。今さっき、リリィたちと話してたんだけどね。今後の私たちの扱いについてだけど……」
檜山「わかった。わりぃ、二人とも。またあとでな……」
タッタッタッタ……
清水「……なーんか、あいつもあいつで前向きになってきてんなぁ」
恵理「そりゃあ……キミとボクと違って、天之河くんと方向性は違っても元は陽キャ側じゃん、彼」
清水「……やべぇ、小悪党だから忘れてたけどあいつが一番社交性あるってこと忘れてたわ……」
清水「んんん! なんか理不尽!!」
恵理「嘆くな嘆くな」
清水「……」
清水「お前のほうってどうなの。最近」
恵理「……なにが?」
清水「いや、ほら……その顔の傷、だいぶ治ってきただろ。包帯も取れてきたし」
清水「知り合いとか」
恵理「いない」
清水「えっ」
恵理「……ボクに知り合いなんて、いないから」
清水「……う、うん」
………………
ハジメ「えー、お前たちにも言った通り」
ハジメ「今日、俺たちはエヒトの待つ『神山』へと向かう」
ユエ「……ん」
シア「はいっ……!」
ティオ「……」
ハジメ「あの中には、これまでにこの世界を苦しめてきた狂った神が待ち受けて……いや、逃げ込んでいる」
ハジメ「これは、何も世界を救うためじゃない。俺が元の世界に……故郷に帰るためであり、神殺しはそのおまけにすぎない」
シア「う、うわぁぁぁ……神殺しも結局はついでなんですねぇ……」
ユエ「……ハジメらしいと言えば、らしい」
ハジメ「すでにアーティファクトや武器……いざというときのためのポーションもしっかりと用意している」
ハジメ「迷宮をすべて攻略する前に……ラスボスに挑むことになってしまいそうだが……まぁ、かまわんだろう」
ハジメ「解放者たちもエヒトを打ち取り、人々に自由が戻ることを求めている」
ハジメ「言ってしまえば……まぁ、ちょっとした利害の一致だ」
ユエ「……私はハジメと最後まで一緒にいる。ハジメのいる世界に、私はいきたい。どんなことがあろうとも」
シア「わ、私にはお父様たちがいるけど……」
シア「もしも手軽に行き来が出来るようになったら……うれしいですぅ!」
ティオ「……」
ユエ「……ティオは?」
ティオ「ん、あ、あぁ……わ、妾は、か……」
ティオ「い、いやぁー! 妾としてはたとえどこへ行こうともご主人様に痛めつけてもらえるのならかまわんのじゃー!」
ティオ「し、下着の替えが欲しくなっちゃうのぉー!」
ハジメ「……?」
ユエ「……はぁ、この変態はいつも通り」
シア「それじゃあ、ハジメさん……!」
ハジメ「……あぁ」
ハジメ「もう天之河や王宮側には話をつけてある。いくぞ、お前ら」
………………
【王宮にて】
「……団長! 南雲ハジメ一行が神山の迷宮へと入っていきました!」
メルド「よしっ! 俺たちは神山と聖教周辺を囲む!」
メルド「戦いは激しい物となるはずだ! もしもハジメが打ち漏らした信者が外に出たときはかならず捕縛しろ!」
メルド「すべては……無能と下げずまれ、『最強の魔王』と呼ばれるようになった少年が解決してくれるはずだ……!」
「えぇ、あの『魔王』と呼ばれる少年なら……きっとやり遂げてくれることでしょう」
………………
リリアーナ「……ハジメさん」
光輝「リリィ、心配なのかい? ハジメのことが」
リリアーナ「……私は」
リリアーナ「ハッキリ言って、ハジメさんという人を良く知りません」
光輝「……」
リリアーナ「元々、あの人と会話したことは……ほとんどありませんでした。せいぜい、召喚されたばかりに無能と呼ばれている者がいること。そんな彼が亡き者になったと知らされたとき、周囲がアレが死んでよかったと言う言葉が広まったときぐらい」
リリアーナ「だから、私としては……彼がどのようにやってくれるかなんて、わからないんです」
光輝「そうか……言われてみれば、話してることなんてあんまないもんな」
リリアーナ「えぇ、ですが……私はこの短い間でも、とてつもない強さを見せつけられました」
リリアーナ「しかも、すべてがほんの『ついで』……あれだけの強さを持ちながら、謙虚さすら感じられるような、自分を主張しない人柄に……なぜか、信じられるんです」
リリアーナ「あの人なら、きっとすべてを解決してくれるって……!」
リリアーナ「あの……『最強の魔王』こそが解決してくれると……!」
光輝「……そ、そうか」
光輝(……南雲は、強い)
光輝(すごく強くて……それに見合った力を手に入れてる。仲間のユエさんたちも、果てしなく強い……)
光輝(……のに……)
光輝(なんで、なんでだ……)
光輝(この胸騒ぎは……)
…ワイワイ……ガヤガヤ……
龍太郎「ってな感じでさぁ、結構話してて面白かったんだぜ? 南雲の奴」
雫「あら、意外ね。異世界に来るまでは何だあんなやつって言ってたのに」
龍太郎「ん、まぁ……それはそれっつーか……趣味の一致だから別に悪く言うつもりはねぇっていうか」
龍太郎「あいつって、漫画とかアニメとか見てるだけかと思ったら、映画なんかも見るんだよな。某ハー〇マン軍曹形式の訓練で亜人たちを鍛えたーって言っててよ!」
雫「あぁ、だからあのシアってヒトはあんなに強いのね……南雲君の特訓に付き合わされたから」
龍太郎「だなだな!」
龍太郎「……でさぁ、俺思ったんだけどさ」
光輝「? 何がだ?」
龍太郎「前に言ってたの覚えてるか? ほら、前と今の南雲ってぜんぜん違うよなぁーって」
龍太郎「それがちょっとわかったような気がすんだわ。なんか『影響』受けてんだよアレ!」
光輝「?? 影響……?」
龍太郎「そうそう。さっきのハートマ〇とかもそうだけどよ、妙に別人っぽいって思ってたんだけど……」
龍太郎「南雲の今の性格って、マンガとかアニメのキャラっぽくてさ。それっぽい行動というか……模範?」
光輝「……えーっと、つまり真似をしてるって言いたいのか? いわゆるごっこ遊び?」
龍太郎「でもこれ以外に形容のしようがねぇんだよ」
雫「えっ、龍太郎にはそう見えたの?」
龍太郎「雫はちげぇのか?」
雫「……私は……」
雫「……どちらかというと、私は根本的な部分は変わってないんじゃないかと思うの。彼」
雫「南雲君は、面倒だとか言いながらも自分のやりたいことをやっている。だから身の回りのことにしか考えないし、自分が大切だと思っている人しか守らない」
雫「これって、すっごいひどい言い方だけど、自分勝手な生き方をしているように見える……かもしれないわ」
雫「でもそうじゃない。彼は、自分のやれることしかやらないんじゃなくて……余裕がないだけ。彼は、そんなギリギリの中で戦っている」
雫「何が自分を苦しめないか、何が自分にとって益があるのか。世界だとか奴隷だとか狂った神なんて、それらを解決できるだけの力を持っているけど……」
雫「それを、『ついで』で片づけてしまう。ただ、すごい力を持って、自分の目標を果たそうとする。だからなのよ」
光輝「……」
龍太郎「ふーん……まぁ、アイツもアイツで苦労してるしなぁ」
雫「……今は彼を信じて待ちましょう。南雲君を信じて……」
………………
【神山の迷宮】
ハジメ「……」
ハジメ(俺はなんだ)
ハジメ(俺はなんなんだ)
ハジメ(俺は南雲ハジメだ。この世界に連れて来られた転移者、奈落のバケモノ、最強の魔王……)
ハジメ(……俺のことをこう呼ぶものは多い。言うやつがいなくても、とてつもなくヤバい奴だと俺を見てくる)
ハジメ(……)
ハジメ(俺は、俺のやることをやろうとしているだけだ)
ハジメ(……)
ハジメ(なのに、なんで、なんで……)
ハジメ(胸のもやもやが……取れないんだっ……)
ユエ「……ハジメ?」
ハジメ「ん……あぁ、すまない」
シア「とーってもきれいな洞窟ですねぇ……」
ティオ「……途中にある冒涜的な壁画、その途中にある神を書き記したとされる踏み絵……」
ティオ「この迷宮のコンセプトは神への信仰心を捨て去ること……?」
ハジメ「はっ、なるほどね。ただ幸いなことに俺たちは神なんて信じてねぇからな」
ユエ「ん……悪い意味でベストマッチ」
シア「途中にいる魔物たちもそんなに強くなかったし、このままガンガン進んじゃいましょー!」
ティオ「……」
……ガヤガヤ……
ティオ「……近いな」
ハジメ「いくぞ、お前ら」
………………
エヒト「う、うわぁぁぁぁぁっ!!! な、なんであいつが……こんな場所まで……!!」
ハジメ「……お前っ……」
ユエ「こいつがすべての元凶……!」
シア「でもぜんぜん威厳がありませんねぇ。これ本当にエヒトなんですかぁ?」
ハジメ「……」
エヒト「ま、まもれっ! まもれぇェェェ!!」
イシュタル「え、エヒト様……」
エヒト「な、なにっ、なにをしている! 私がっ、私が殺されようとしてるんだぞ!!!」
エヒト「なにボサッとしている! 盾になるなりしてまもれっ! まもれぇぇぇぇぇ!!」
ユエ「……みっともない。こんなブ男が……」
シア「はやく始末しましょう。もう見るに堪えません」
ティオ「……」
ティオ「――……!! ご主人!!」
ハジメ「わかってる!!」
ドパァンッ!!!
……
…………
――……さて、約束通りここに来てくれたねハジメ
ハジメ「お前っ……!」
エヒト「ひっ……な、なんだ……!?」
ユエ「この声は……」
――……余計なギャラリーがいるが、無視をしていいだろう
――さぁ、始めようか……!
シュゥゥゥゥゥ……
ハジメ「! 光が収束していく……」
シア「ひ、光の粒みたいなのが集まって……人の形に……?」
ユエ「……あれは……」
光の人型「――このような姿でキミたちの前に立って申し訳ない」
ハジメ「事情を少しだけ現す……とはいえ、姿も全部は無理ってか」
光の人型「まぁ、トップシークレットだしな」
光の人型「だが、力としては十全にあるものと思ってくれていい。かかってこい」
ドパァン!! ドパァンッ!!
光の人型「っ……ドンナーは健在だな」
ハジメ「ダメージが通っている……! 正々堂々戦いを挑んでくれるのは本当らしいな!!」
ユエ「ハジメ、援護する! 遠慮なくやって!」
シア「行きますよ~!!」
ティオ「はぁぁぁぁぁっっ!!」
………………
…………
……
【……神山の迷宮前】
ズズゥン……!!
「な、なんだ地震か!?」
「今の迷宮の中から響いたぞ……どれだけ激しい戦いなんだ……!?」
「さすが最強の魔王だ……! とんでもないスケールだ! 山を揺らすなんて……」
メルド「……」
「負けるな……負けるな『最強の魔王』!」
「あなたに俺たちの未来がかかってるんだ! どうか、どうか頼むよ『魔王』!」
「勝てー! 悪しきエヒトをぶっ倒して、新しい世界を作ってくれ『魔王』ーーー!!」
メルド「……」
メルド(……なんだ、なんだこの胸騒ぎは)
メルド(俺はあいつが負けることなんて一かけらも思っていない……はずだ)
メルド(なのに、なのに……なにか、戦いよりも、何かが……)
メルド(見落としてはいけないものを……見落としている気がする……っ)
………………
【各所に広がる人のうわさ……】
………………
「なぁ聞いたか? 神山に戦いを挑む魔王は『奈落のバケモノ』と呼ばれるすげぇやつなんだぜ」
「えっ、俺が聞いたところじゃどんな拷問すらも涼しい顔をしてやってのける『悪』だって……」
「ギルドのほうでもそれらしい奴で話が持ちきりだぜ。なんだったかな……レガニド? っていう、かなり強い冒険者をのしたんだって」
「ハルツィナのほうでクッソ強い亜人族がいてな。なんでも神山に向かった魔王がやったことなんだとよ!」
「都市に潜む裏組織を一日で潰したって……」
「自分の女に群がる男どもには容赦ないって噂だぜ」
「ウルの街の一件はマジでその男が解決したって――」
「かなりの大金持ちらしいぜ――」
「エヒト様よりも偉大で、遥かにしのぐ強さを持った……『最強の魔王』だとよ……」
「ギルドマスターにすら顔が利くんだとよ……」
「この王都を救ったのもその魔王様なんだぜ」
「すげぇ……いったい何者だよ『最強の魔王』」
………………
………………
………………
【王宮】
リリアーナ「戦いは、いまだ続いているようですね」
ランデル「ぅ、あ、あねうぇ……」ギュッ……
リリアーナ「……大丈夫ですよ、ランデル。きっと、きっとあの人がすべてを解決してくれますから」
ヒソヒソ……ヒソヒソ……
「魔王が……最強の魔王がどうにかしてくれる……!」
「大丈夫よ、きっと私たちは……」
「そうだ、エヒトなんて最初から――」
光輝「……」
光輝(なんだ、これ)
光輝(南雲はとても強い、負けるはずがないって思ってるのに)
光輝(そう考えれば考えるほど)
光輝(『何か』が間違ってるって……そう思ってしまうのは……なぜだ……!?)
龍太郎「……なぁ、思ったんだけどさ」
龍太郎「南雲の『アレ』っていつまでやるんだろうな」
光輝「あれ? ……あぁ、影響だとか模範だとかっていう?」
龍太郎「あ、あぁ……だってよ、あいつって、前よりも今のアイツになったのは奈落に落ちた影響だろ?」
龍太郎「でもさ、この戦いが終わって、元の世界に戻って……」
龍太郎「その時の『今のアイツ』は……『前のアイツ』に戻れるのか……?」
光輝「……それ、は……」
香織「……なんだか、イヤな空気だよね」
光輝「香織……」
雫「……その、実の所を言うと私……、同じ気持ちなの」
雫「みんな、南雲君をすごいすごい言ってるわ」
雫「実際に、彼は本当に強いし、それに見合うだけの努力はしてきた。でも、最強だとか魔王だとか言ってるのに」
雫「誰も……いじめられっ子の彼を知っている人は誰もいないじゃない……」
龍太郎「……知らないってより、興味ねぇし……知りたくもねぇんだろ」
龍太郎「すげぇ力を持っていて国宝級のアーティファクトをいくつも持っていて、あいつの出した功績や才能にはだれもが目を付けているのによ……」
光輝「南雲個人を見ようとしない……」
光輝(そうだ、俺が感じる嫌悪感はこれだ。偉大なる威光を笠に、その恩恵にあずかろうとヒトが集まるこの光景)
光輝(神であるエヒトがヒトを支配しようとしたのは事実。だが、すべてがすべて支配されていたわけじゃない。この支配構造において、それらを知りながら甘受しようとした者たちはいた……)
光輝(それならば……)
光輝(今ここにいる人間たちは……聖教教会の信者たちとどう違うんだ……?)
龍太郎「ま、俺も同じようなもんだったからな。あいつがこの世界に来るまでは、単なる怠け者ってことくらいしか知らなかったし」
龍太郎「……なんていうかさ、何かきっかけや知ろうとする機会がなきゃ知りようがねぇんだよな。他人なんて」
光輝「……耳が痛いな。俺も、そうだったし」
雫「……」
香織「……信仰や神様ってなんなんだろうね」
香織「人の心の支えになるって言ったり、なのに人をどこまでも残酷にしてしまったり……」
檜山「……」
香織「そんなにも、神様ってすごい物なの……?」
檜山「……」
檜山「俺は……この空気……ちょっとわかるかもしれねぇ」
光輝「檜山?」
檜山「なんつーかさ、なんだかすごくて偉大なモノって、それを信じてたり心の支えにしていると」
檜山「それを信じる自分もすげぇんじゃねぇかって思い始めるんだよ」
光輝「自分が……? ちょっと待て、偉大な神を信仰してるのは、神の偉大さに惹かれたからだろ?」
檜山「……この空気や今までの聖教教会のナリを見ていてそう思えんのかよ」
檜山「確かにエヒトによって支配されてたかもしれねぇけどよ、それ以外の部分ではこの世界の人間たちは思う存分に利用してたぜ」
檜山「亜人なんかその最たる例じゃねぇか。神がどうとか言いながら、利益になることや利便性で利用してた」
檜山「神を信奉すると言いながら、自分たちの欲望を満たす奴しかいねぇ。信仰という建前をうまく利用してな」
雫「……えらく深く理解してるわねあなた」
檜山「……俺も」
檜山「二大女神をモノにすれば……自分がすげぇんじゃねぇかって思ってた」
光輝「……」
檜山「だからわかるんだよ。この熱狂ぶりが」
光輝「……そうか」
香織「……もしも、もしもだよ」
香織「この戦いが終わったら、南雲君を連れでどこか出かけようよ」
雫「……どうしたのよいきなり」
香織「私たち、南雲君のこと全然知らなかったもん」
香織「今の魔王なんかじゃない、いじめられっ子で体を張れる彼と一緒に……私は、もう一度あの学校で過ごしたい」
檜山「……ま、大丈夫だろ。あいつはよ、きっと根っこがキモオタなのは変わんねぇよ」
檜山「……アニメかぁ、見識広めるために俺もなんか見てみるかね」
光輝「あぁ、そうだな。信じよう」
光輝「『最強の魔王』なんかじゃなく……『いじめられっ子な南雲』を」
………………
…………
……
【神山】
ハジメ「――ハァっ! ハァッ! はぁっ、はぁっ……!!」
ドパァンッ!! ドパァンッ!!
光の人型「……とうとう、残った武器もそれだけか」
光の人型「お前が用意してきたアーティファクト、魔物を食らうことで得たスキル、すべて用意してきたお前の牙は」
光の人型「この私を消すのには至らなかったわけだ」
ハジメ「……な、んで……!?」
光の人型「単純な理由だ。お前よりも、私のほうが強かった」
光の人型「それだけだ。理由なんてな」
ズバッ……!
ハジメ「がっ……!!」
ユエ「は、はじ、め……!!」
シア「やめ、るですぅ……! こっちをっ、こっちをっ……むけぇぇ……!!」
ティオ(……しんじ、られぬ……!)
ティオ(全ての攻撃は命中した……手ごたえもあった……なのに、まったく倒しきれない……)
ティオ(攻撃も仕組みが全くわからん……! 何もない空間に斬撃が起きたり……光弾を命中されただけで妾の体力を削り切った……!)
ティオ(な、なによりも……妾たちにすべてのスキルを使い切らせて……勝ちおった……!)
ティオ(格が違う! なんでっ、なんでこのようなバケモノがトータスに眠っていた!? なぜそれだけの力を持ちながらエヒトを無視していた!?)
光の人型「……さて」
ハジメ(ま、まけるっ……まけるっ……!!)
ハジメ(いやっ、まだだ! まだやれる! 俺は、俺は帰るんだ! みんなのところにっ、父さんと母さんの場所に!!)
ハジメ「ウォォォォォォ!! まだだあぁァァァ――」
スパァンッ……!
ハジメ「――ぁぁぁ……ぁっ、あっ……??」
シア「ひ、ひぃっ……!?」
ユエ「……な」
ユエ「えっ……はじ、め……?」
ユエ「う、うで……『両腕』が……!!」
ハジメ「――ぁ……」
ハジメ「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ゛ぁぁ゛!?!?!? ぎ、義手っ……! 義手がっ……!!」
ハジメ「りょ、うでごと……!」
光の人型「根元から切った。再生は出来ない」
ハジメ「っっ!! あ゛っ――!!」
ビュンッ……ボギ゛っ、ゴグブシュッ゛!!
ハジメ「ひょ゛ぉ゛っ゛っ……! ぉ゛っ、ッゴォ゛っ……!!??」
光の人型「……」
ハジメ(……な、なにされて……)
ハジメ(あっ、光……地面の水たまり、おれの、かお……)
ハジメ(……くだ、かれた……?)
ハジメ(あご、くだかれてる……えっ、これじゃ、まほうも……)
ゴソゴソッ……
パシッ……
ハジメ「ふぁ……ぽ、ぽーひょ……」
ハジメ「お、れの……かいひゅく、ひゅだ……っ」
ポロッ……バキンッ……
シア「回復、しゅだんが……」
ティオ「つぶされた……!!」
光の人型「……」
ハジメ「……」
ハジメ(えっ)
ハジメ(なんだこれ)
ハジメ(武器もない、攻撃手段もない、立てない、しゃべれない、何もできない)
ハジメ(からだも……あっ、ダメだ。両足も立てないように踏みつぶされている……)
ハジメ(……)
ハジメ(おわ……り……?)
ハジメ(えっ、えっ、ちょっとまってよ)
ハジメ(ここで、おわり……?)
ハジメ(勝手にこの世界に連れて来られて、クラスメイトに奈落に落とされて、戦いたくもないのに戦わされて)
ハジメ(今まで必死にここまでやってきたのに、理不尽に立ち向かってきたのに)
ハジメ(し、ぬ……?)
光の人型「……なぁ、ハジメ。お前に面白い物を見せてやるよ」
シュゥゥゥゥゥ……
ハジメ(な、なんだ。何する気なんだ)
ハジメ(光の輪……? なにかを、呼び出そうとして……)
愁「……こ、ここは……?」
菫「えっ、何よココ! さっきまで仕事場にいたのよ!?」
ハジメ「……ふぇ゛……?」
ユエ「? だ、だれ……?」
シア「一組の男女?」
ティオ「……まさか!」
ハジメ「……とー、ひゃ……おかぁ、は……」
ユエ「っ!!! いやっ、いやっ……!」
ハジメ(……)
ハジメ(まって)
ハジメ(まってまってまって)
光の人型「……」
ハジメ(なぁ、待ってくれよ。おかしいだろ)
ハジメ(関係ないだろ。なぁ、関係ないだろ)
ハジメ(その二人は関係ないじゃないか。その二人は、その二人は無関係じゃないか)
光の人型「……」
スッ……
ハジメ(やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ)
スゥゥゥッ……
ハジメ(いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ)
光の人型「……」
愁「な、なんだ……なんなんだ……!?」
菫「……いやっ、いやぁっ……!!」
ハジメ(おねがいだからやめてそんなのってないだろどうしてどうしてどうしてこんなこんなめにこんなっなんでなんでなんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――)
ズバッ゛――
………………
…………
……
【神山】
パチンッ
光の人型「はい、おしまーい」
ハジメ「――っぶはぁぁぁっ!!!」
ハジメ「ぁっ、えっ、あっ……!? てっ、腕っ! あるっ! 顎、くだかれてないっ!!」
ハジメ「な、いまのっ、なにっ……」
タタタタタッ……!
ユエ「ハジメっ、ハジメーーーー!!」
ギュッ……
ハジメ「……ユエっ」
ユエ「よかった……本当に良かった……!! 無事で……」
シア「な、なにがどうなって……私たち、生きてるし、傷も残ってない……」
ユエ「幻覚の、たぐいだとでも……」
光の人型「幻覚などではない。今のは、確かにお前たちが体験したことだ」
光の人型「傷も、受けた体験もしっかりとお前たちの体に刻まれている。ただ、その時間を少し巻き戻しただけ――」
ハジメ「……」
ティオ「……」
ティオ(まったく……まったく歯が立たなかった……!)
ティオ(技も魔法も! この妾の力をもってしてもまったくかなわなかった……!!)
ティオ(真の意味でのバケモノ! こうして立てているのも、結局はこいつの気まぐれによって生かされてるだけ……っ)
ハジメ「……」
光の人型「……さて、勝ち負けに限らず、お前は私に戦いを挑んでくれた」
光の人型「その例として、多少だけ私の正体を――」
ハジメ「――何なんだよぉォォォォォォォォォォ!!!!」
ユエ「っ!?」ビクッ!
シア「は、ハジメさん……!?」
光の人型「……」
ハジメ「なんでっ、なんであんな目にあわされなきゃいけなかったんだよ!!! どうしてっ、どうして俺ばっかりがっ、こんな理不尽な目にあわされるんだっ!!!」
ハジメ「学校の時からそうだった! 俺は、ただ自分の好きなように生きてきた! 誰かに迷惑をかけないようにして、ひっそりと生きてきた! それで孤独だとか陰キャだとか言われようと、お前らにはなんのかんけいもないじゃねぇか!!! 知った顔をして俺に干渉するなよ!!」
ハジメ「アニメが好きで何が悪いんだ! 漫画やゲームが好きで何が悪いんだ!! そんな理由で虐められる理由はねぇんだよ! そのくせ俺に積極的にトラブルに巻き込もうとしやがって!! なにがっ、なにがっ! なにがっ……!!」
ハジメ「………………っ」
ハジメ「……『ぼく』、が……っ゛、なに、じだっでんだよっ゛……!!!」
光の人型「……そうだ、お前は何も悪くない」
光の人型「ただの巻き込まれた少年であり、ただの……いじめられっ子だった」
光の人型「だからこそ、お前は最強なりえないのさ。絶対に」
ユエ「は、ハジメは最強になれない……?」
シア「どういうことですか! こんなに強くて! でも時にはやさしいハジメさんのどこが……!」
光の人型「ハジメ、お前はなんだ?」
ハジメ「……お、れは……」
ハジメ「……」
ハジメ「いじ、められっこ……」
光の人型「……いや、お前を言い表す言葉にはもっと適切なものがある」
光の人型「それは、お前はこの世界に呼び出された『だけ』の転移者だからだ」
光の人型「だから……お前は『最強』になりえない」
光の人型「時にキミたち。最強とは、どんなものだと思う?」
ユエ「……絶対的強者」
シア「誰にも負けない……屈しない存在ですぅ!」
ティオ「……至高の強者」
光の人型「うむうむ。いい答えだ」
光の人型「なら次の質問だ」
光の人型「最強とは……どうやって成り立つ?」
ユエ「最強の……なりたち?」
ティオ「……強くなりたい、そういうことじゃないかの」
シア「ええと……いっぱいいじめられたら、強くなって見返したいって気持ちになります」
シア「あっ、つまり……強くなるための『行動原理』……?」
光の人型「そう、ヒトはだれでアレ、自分の行動や思考に目標を持つ。もっと言えば、趣味でアレ生きる意義を持ったうえでソレを磨き上げていくのはヒトのサガだ」
光の人型「則ち、個々人に眠る行動原理……心の内で成し遂げたいかという根幹だ」
光の人型「これには二種類いる。純粋に強さを磨くための『上昇志向を持つ者』。虐げられたコンプレックスを抱いて他者を見返してやると『奮起する者』だ」
光の人型「……ハジメはな、これのどちらにも当てはまらないんだよ」
ハジメ「……な、んで……」
シア「えっ……えっ!? で、でもこのヒトは……」
光の人型「ハジメ、お前が強さを求めるようになったのはいつからだ? 前の世界からか?」
ハジメ「ち、ちが……この世界にきて……ならくに落ちてから……」
光の人型「そうだ。お前はそもそもこの世界で……」
光の人型「ひゃぁぁ! すっげぇつえぇやつが多くてオラワクワクすっぞ!! ……とかじゃなく、単純に連れて来られた『だけ』だから強くなりようがないんだよ」
光の人型「だってお前には、上昇志向がない。身の回りのもので満足し、親から与えられた者だけで足りるを知ったから自分の中の世界を広げてこようとしなかった」
光の人型「この時点でお前には前者のタイプじゃない」
ティオ「……なら、やはり」
光の人型「そう、虐げられて奮起するもの……と思うだろう。が、実はこれも違う……」
ユエ「えっ、どれも違う……?」
光の人型「そもそもお前、元の世界でいじめられてから何か……誰かに見返したいって思ったことがあるか?」
光の人型「今の自分は惨めだけど、勉強して誰よりも立派になるんだ……って思ったことが……一度でもあったか……?」
ハジメ「……そ、れは……」
光の人型「な い だ ろ う ? だって、お前は……さっきも触れたが親から与えられたもので満足し、将来の道だって親が用意してくれた」
光の人型「何をしなくても全部親がやってくれる……奮起する必要性すらない。そんな環境で……自分を磨こうなんて野心、お前にあったか……?」
ハジメ「……ぁ、えっ……? あ、れ……?」
光の人型「ポジティブな意味で上を目指そうとせず、昏い気持ちを持って上を目指そうとする根幹部分がない」
光の人型「まさに無味無職で不毛な砂をかむ様な青春……しいて言えば『虚無のような時間』……」
光の人型「……だけど、お前は強くなってる。強くなり続けている。解放者たちの魔法を習得し、その力だけはどんどん手に入れて行ってる」
光の人型「……なんでだと思う?」
ハジメ「……ぁ、ぇ……?」
光の人型「ねぇ、ねぇ? ねぇ、なんで?」
光の人型「答えてよ、ハジメ」
ユエ「……こ、これは答えられる。ハジメは奈落から脱出して、元の世界に帰――」
光の人型「おぉ、ハジメ。ユエが答えを言ってくれたぞ」
光の人型「元の世界に帰る、それが『答え』だと」
ハジメ「…………」
ユエ「そ、そう! それがハジメの答え!」
ハジメ「…………??」
シア「な、なんらおかしなところなんてありませんよ……元の世界に帰ることのどこが……」
ハジメ「……」
ティオ「……?」
ティオ「…………あっ!!」
光の人型「さすが竜の長だな。強さを求めることのベクトル、その重要性をお前は知っている」
光の人型「ハジメ、それはな……お前の力は元の世界に帰るためのものだ。言ってしまえば、お前の力は『そのためだけの力』なんだよ」
ハジメ「……は……?」
光の人型「お前は、理不尽にもこの世界に連れて来られ、あらがうために力を得ようと頑張った。しかもお前には、実は自分でも気づいてないほどに、生き汚く奮闘する力があった」
光の人型「そう、帰るための……帰るため『だけ』の力―――」
光の人型「お前の最強は、実は単なる『おまけ』でしかない」
光の人型「帰るには力が必要だった。それで立ち向かってくる敵が強かったから、強くなるしかなかった」
光の人型「『奈落のバケモノ』も『最強』も『魔王』なんてものはすべて副次的」
光の人型「最強にならなければ元の世界に帰れないから……『最強にならざるを得なかった』。それが答えだ」
ユエ「た、ただのおまけ……」
光の人型「そもそも考えてみろ。お前、この世界に来たのは野心があったからじゃないだろ?」
光の人型「無理やり連れて来られたから、故郷に帰って父さんと母さんに帰りたい。それだけだろ?」
光の人型「たとえ……エヒトがこの世界で最弱だとして、それでも倒すのに必要な力を得たってだけなのに……」
光の人型「そんなおまけでついてきたレッテルに、何の価値がある? 目指そうとして目指したわけでもない、おまけの名声に……意味なんてあるのか?」
ハジメ「ぁ、は……?」
光の人型「考えてみろ。お前はそんな器か?」
光の人型「他者と比べて能力も低く、他者の気持ちを汲み取る気持ちも劣り、他者と同調することも協調する能力にすら欠けている」
光の人型「お前を育てた環境は、最高だが裏を返せば最悪なほどにお前から成長する機会を奪い去っていく。ぬるま湯に浸れる恵まれた環境が、お前の社会性を理不尽なほどに奪い去っていく……」
光の人型「なのに、お前が強くなれたのは……以前にも触れたとおり、強くなれるだけの才能と素養があったから『最強になってしまう』んだよ」
光の人型「そんな何物でもないお前が、ただただ目先の好きなことをやっているうちに勝手に自分に引っ付いてきた称号、それが『奈落のバケモノ』、『最強の魔王』なんだよ」
光の人型「……たんなるおまけで張り付けられたレッテル。それが、最強の魔王。それが、お前の魔王としての姿の正体だ」
ハジメ「……ぁ、ああぁぁぁっ……!!」
ハジメ「ど、どこだっ……!! どこだぁぁぁぁっ!!」
光の人型「……私が破壊した銃で何をしようっていうんだ?」
光の人型「話を続けよう。次はお前の人格形成だ」
光の人型「お前は気弱ないじめられっ子だった。大人しい性格で、他者とかかわりを持とうとしない消極的な部分はあれど労わり慈しむ気持ちは確かにあった。一側面としては、だが」
光の人型「だが……きっかけや奈落の底という環境を押し付けられたとはいえ、お前という人間が根本から変わらないのであれば、ならばお前はどうしてそんな人格を形成したのか?」
光の人型「それは……お前がとあるもから影響を受けているからだ」
ティオ「待て。それはおかしな話ではないか?」
シア「あ、あなたさっきハジメさんが他者とのかかわりがうすいって言ってたじゃないですか! それで、どうやって影響を……」
光の人型「そう。他者と接触することで自己が磨かれるのは必然。だけど、お前は他人とのかかわりが薄い。今のお前を形作るには、素材が足りない」
光の人型「……だが、あったのだ。お前を、今のお前としてたらしめる要素。それが……」
ユエ「……? もしかして、ちょくちょく言ってたハジメのオタク? だとか創作物……?」
ハジメ「なっ……」
光の人型「……これは、ハウリアの時の特訓が一番わかりやすいだろうな」
シア「えっ……?」
光の人型「お前のあの時の鬼教官のような振る舞いは、某有名映画による影響のものだ。本来、誰かに指導したことすらない若輩のはずのお前が、他者に教えることが出来たのは我流の習得方法と映画の登場人物のまねごとをしていたんだよ」
光の人型「すなわち……『創作物の影響』。誰かとかかわったことのないお前が、お前たらしめる要素のうちの一つがこれだ」
光の人型「お前の性格、お前の所作振る舞い、お前の武器のドンナーやユエの名前も……」
光の人型「お前が、創作物を嗜むことで受けた影響が、お前自身が気づかないうちに、無意識にそれらを模倣していたからだ」
ユエ「も、もう一つは……」
ハジメ「ぐっ……言うな言うな言うなァァァァっっっ!!!」
光の人型「……よく、お前を畏怖する者たちはこう形容するそうだ。そこらのちんぴらやヤクザより怖い、とな」
光の人型「ならばこれだけでわかりそうなものだろう。『いじめられっ子』のお前なら」
ハジメ「っっ……! がっ、あぁぁぁぁっ!!」
ブンッ! ブンッッッ!!
ティオ(……技を、すべて受け流されておる)
光の人型「……実は、そんなお前でも影響を受けた人物たちがいた。大人しくて何もしないお前は、ただその性格ゆえにトラブルに巻き込まれた」
光の人型「オタクのような自分を排撃し、大人しいってだけで攻撃的になり、憎々しくも心の底では思いながらも……そんな昏く暗澹たる気持ちを抱えていた」
光の人型「だが、それは言い換えればお前にとって自信を弱者たらしめる他者……強者こそが、お前にとって積極的にかかわった他人ということになる」
光の人型「お前は、自分が気づかないうちに、自分よりも強い強者……かつて、お前をキモいうざいなどと排撃してきた『いじめっ子』たちを……無意識のうちに『模倣』していたんだよ」
ハジメ「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
光の人型「お前にとっての理不尽な象徴、それが『いじめっ子』」
光の人型「お前を馬鹿にし、理解しようともしない的外れのくずども『いじめっ子』」
光の人型「恵まれている自分よりも、頭に何にも詰められていないバカな『いじめっ子』」
光の人型「人間関係が希薄なお前が影響を受ける他者となれば……これ以外に、積極的に他者と関係性を築き上げたことが、一度でもあったか?」
ハジメ「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ブンッ……ブンッ……
ティオ「……ごしゅじ、ん……」
ユエ「で、でも待って……それだったらハジメがあそこまで攻撃的になる理由に……納得がいかない」
ユエ「そんな臆病な人間なら……どうしてあんなふうに……」
光の人型「ああ、簡単だ」
光の人型「こいつには人の命を奪う覚悟なんて、最初からないからだよ」
シア「……は? はぁ!?」
ユエ「ま、まって! それは……!」
光の人型「おかしい、そういいたいんだろ。だが違う。こいつの人間性を考えれば、むしろあり得る話だ」
光の人型「先も触れたとおり、こいつは他者との関係が希薄だ。他人に対して興味を持たないし持とうとしない、消極的ゆえにな」
ハジメ「こ、の……っ」
ティオ(……もう、腕を振る力も……)
光の人型「……そう、他人に興味を持とうともしない。自分から積極的にコミュニケーションをとろうとしない」
光の人型「何もしなくても満ち足りてるから。他者は必要ないと断定する。周囲のことや自分のことしか考えられないから、その範囲から逸脱したものは切り捨てられる。自分を苦しめられるくらいならな」
光の人型「……だからなのだよ。他人を、自分にとってなんら益がなくて邪魔な『敵』としてしか捉えられないからこそ切り捨てられる」
光の人型「命を奪う覚悟があるのではなく、覚悟を背負うことそのものを放棄しているから。だって、奪う命によって心が傷つくならいらないから」
ドサッ……
ハジメ「がっ……ぁあっ……!!」
光の人型「人の命を奪う覚悟というのは……他者を『敵』ではなく、自分と同じ生きてる命だと認識出来る経験があって初めてわかるもの。もっと言えば、命を命だと知り、その重みを分かったうえで切り捨てられてこそ」
光の人型「『他者』の重みを知っている者にしかできないのだよ」
ハジメ「……ち、がう……っ」
光の人型「違う? 本当に違うなんて言いきれるか?」
光の人型「お前にとって、周囲の『大切』だけを守れて、あとは切り捨てられればいい……なんて言ってたではないか」
ハジメ「……っ」
光の人型「言ったはずだ。学校にいたころと異世界にいるお前。やり過ごそうとしているのも、排除するのも……同じことだと」
ハジメ「……めろっ……」
ハジメ「やめろぉぉ……っ!!」
光の人型「……つらいだろう、苦しいだろう」
光の人型「今まで、お前は誰かに何かを言われようと心に何も響かなかった。だって、的外れなことしか言わない敵ばっかりだったから」
光の人型「……私は『敵』ではない。だからこそ、お前の心に響く言葉を届けられる」
ハジメ「め、ろ……っ、やめろぉぉぉっ……!!」
光の人型「……お前が、いかにして最強になり得ないと言うことがよくわかったろう」
光の人型「お前は本当に自分のやれる範囲でのことをやろうとしているだけ。その規模があまりに大きすぎるために、お前は最強というレッテルが後からついてきて待ってきただけ……」
光の人型「単にこの世界に呼ばれただけのお前は、最強になるだけの素養や才能はあっても……それを支える根幹部分が最初から欠落していた。言ってしまえば、お前はどこまで行っても開き直り続ける『途方もなく強い被害者』でしかなり得ない」
光の人型「なのに、お前が強くなろうとする。強くあろうとする。その根本部分にあるものは……」
ハジメ「い……」
光の人型「……」
ハジメ「……いや、だ」
ハジメ「……いやだいやだいやだいやだ……」
ハジメ「き、ききたくなっ、ききたくない……っ……!」
光の人型「……余裕がない、歯向かう敵がいると安心できない。殺したり排除したりやり過ごさなきゃ安心できない」
光の人型「頂点に立つ最強とは実は程遠い心理構造」
光の人型「もう誰にもいじめられたくないという……『絶対的強者』という名の『絶対的安全地帯』」
ハジメ「……ぁ、ぁぁぁ……っ」
光の人型「勝者であろうとするほど貪欲でもなく、ただやりたいことをやってるだけだから強者をやってるだけ」
光の人型「そんなお前が……最強になったところで、何かが残るわけではない」
光の人型「だって、お前が残した軌跡が、ただその一側面が『最強の魔王』と映って見えるだけなのだから」
ハジメ「……っ……ぅぅっ……」
シア「……」
スッ……
ハジメ「……シア……?」
シア「御託はもういいです。話は、それで終わりなのですか?」
光の人型「……」
ティオ「……?」
シア「確かにハジメさんの過去はそうかもしれません。でもっ、それでもこのヒトは……私にとって、特別な人なんです」
シア「これ以上、このヒトは傷つけさせませんっ……!」
光の人型「……」
シア「だいたいなんなんですかアナタ! 人の心にずかずか乗り込んできて、好き勝手言って!」
光の人型「……」
シア「あなたなんて……あなたなんて…! 何の権利があって……!」
光の人型「……あぁ、そうだな。私に、それを言う権利はないだろう。その資格も」
光の人型「だって」
光の人型「ただ、『私』と同じ道を辿ってほしくないと言う思いで、言ってるだけなのだから」
ハジメ「……は?」
ユエ「えっ……?」
シア「お、おなじ……?」
光の人型「……」
光の人型「……むかし、な……ハジメ、お前たちの世界に合わせてわかりやすく言わせてもらうとな」
光の人型「そりゃあもう、才能に溢れたイケメンウルトラハイパースーパーエリートマンがその世界にいたんだ」
ハジメ「……」
光の人型「そいつは、自分にたぐいまれな才能があると言うことに気づいていた。両親も良い家の生まれの人間で、才能を伸ばすのに長けた環境に恵まれていたのだ」
光の人型「機会にもいくつも恵まれた。自分を良く魅せられるチャンス、そのたびに私の才覚によって発表できたものはそのたびに世界を揺るがし、私を稀代の天才とほめたたえた」
光の人型「……だがな、才能があったがために、そいつは『自分』がわからなくなった」
光の人型「ただ自分にとってやりたいことが見つからなかったし、ただ与えられた才能と環境にいただけ。周囲は私のことを才能に溢れた天才と持ち上げているだけで、自分がそれに見合ったものに釣り合っているかわからない」
光の人型「……そのうち、気づいてしまった。周囲が張ってくるレッテルと自分の境界線が。才能や技術によって残された物を宝のように扱ってくれていても」
光の人型「自分が見てくれていないことに気づいてしまった。誰もが、私の残した才能によって生み出された技術の結晶を……」
光の人型「私の努力の軌跡を見ようともせず、結果だけしか見てくれない」
光の人型「世界を揺るがすものはいくらでも見てくれる。心からの称賛を送ってくれても私個人に興味を持ってくれる者は誰一つとしていない」
光の人型「……なのに」
光の人型「周囲には、それ以前には私のことを気にかけてくれる者はいた」
光の人型「……友達がいた」
ユエ「……その人たちは」
光の人型「……気にしなかった」
光の人型「私のほうが」
ユエ「……っ」
光の人型「しつこいほどに私のことを気にかけてくれる人たちがいた。しつこいとしか思わなかった」
光の人型「たんなるがり勉だといってやっかむ者たちもいた。思えば、そいつはグループのムードメーカーだったと思う」
光の人型「恋愛できるきっかけやチャンスはいくつかあった。私はそれを……邪魔としか思わなかった」
光の人型「他者と繋がるきっかけも、気にしてくれる人たちを、すべてを振り切った」
光の人型「後に残ったのは……私の才能や遺産を食いつぶそうとする者しか残らなかった。『才能』による威光だけしか……私を見てくれなくなった」
ハジメ「……」
光の人型「……ハジメ、これでわかっただろう」
光の人型「お前を最強だとか魔王だとか言っている中で……だれが、お前個人を見ようとしてくれる人がいた?」
ハジメ「……」
光の人型「……王宮や聖教教会は、お前の職業のことしか気にかけなかった」
光の人型「お前が助けた者たちは……ハウリアやアンカジの民は、お前に対して恩があっただろうが……膨大な力があったからこそだった。それがなかったら、お前を、お前個人として見てくれる人はいるか?」
光の人型「こうしてお前の名が売れているが……誰かが、一人でも、お前個人を知ろうとしてくれた者がいたか?」
ハジメ「……ぉ、れは……っ」
ハジメ「……ぼ、くは……っ」
光の人型「……お前の最強が、いかにして薄氷の上のものか理解したはずだ」
光の人型「強者の理論なぞ、それより上の強者によって握りつぶされるものだ。今のお前みたいに」
ハジメ「……っ」
光の人型「そもそも、元の世界に帰ってオタク趣味に興じていたいだけなのに、相応の強さが必要ってだけなのだ。この時点で最強の魔王がどうだかなんて破綻しているだろう」
光の人型「……平和に暮らしたい。そう思うなら必要以上に強くならなくていいだろう。他者を切り捨てるような真似をしなくてもいいだろう」
スゥゥゥゥ……
ティオ「! 姿が……」
光の人型「……迷宮の奥にエヒトたちがいるだろ」
光の人型「……ただ、簡単に終わらせることはできないだろうが」
………………
…………
……
【ハジメの夢、その日の夜】
――まぁ、あんなドンパチしてりゃそーりゃ逃げますわい
ハジメ「いやまぁ、あんな長引かせてりゃ逃げるよな……まさか使途が手引きして逃がしてたとは……」
――イシュタルたちとかすっげぇ荒れてたよね。私たちは何のために信じてきたのですかー!って
――いやぁ、長々とやるもんじゃないね! 説教!
ハジメ「……あの説教を抜かしておけばこの冒険終わってたんじゃねぇの?」
――しゃーない。切り替えてこ
ハジメ「話長引かせた奴のいう事がソレ?」
――……
ハジメ「……」
――……
ハジメ「……」
――あっ、ところでゲームやる?
ハジメ「こっちの懐かしめなパーティーゲームで」
…………ピロロロロロ、イェーイ! フゥー!
――うぉー、いいなぁこの懐かしめなモデリング
ハジメ「この時期のゲームってやったら怖いよなぁ。敵キャラ」
ハジメ「つたない感じがいい感じにシュールで怖いっていうか」
――だなぁ
――あっ、テメッ、出し抜くのねーだろきったねー
ハジメ「るっせ、弱いのが悪いんだよ」
――……
ハジメ「……」
――……
ハジメ「……」
――……
ハジメ「……」
――お前は、私みたいになるなよ
ハジメ「……」
――お前には気にかけてくれる友達もいる、機会も青春もこれからだ
――……私は、お前にただ創作物がすきなオタクでいてほしいだけだ
――……
――しんみりしてる話を隙とばかりに出し抜いていくとかお前さぁ
ハジメ「話するかゲームするかどっちかにしろよ」
ハジメ「やりたがってたろ」
――はぁ、骨が折れるわい。コミュ障の付き合いは
………………
…………
……