生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第15話

 

【――夢の中】

 

バイアス「っっっっっっくそがぁァァァァァァァ!!!!」

 

――うわっ、うっぜぇー……どんだけ戦いを挑んでくるんだよ……

 

バイアス「なぜだ!? なぜだなぜだなぜだ!? なんで俺が負ける!!??」

 

バイアス「俺には力があるはずだ! 負けねぇ力が! 魔人族にも劣らない力が……!!」

 

――いや、あのっ、ちょっと落ち着いてくれません?

 

――ここ人の個人的なスペースなんでぇ! あんまり暴れられるとめっちゃ困るんだけどぉ!!

 

バイアス「クソが! テメェ、もう一度俺と戦え!」

 

――……えー……まだやる気なの……?

 

――そのガッツは買うけど、それに付き合わされる私はめっちゃ疲れるんだよ……? 知ってる……?

 

――いや疲れないけど。ぶっちゃけ精神態みたいなもんだから疲れ知らずだけど

 

バイアス「わけのわからねぇことをほざくな!!」

 

バイアス「次は剣だ! 剣で勝負だ!」

 

………………

 

バイアス「魔法だ! 魔法で勝負だ!」

 

………………

 

バイアス「武器だ! 武器を変えろ! 大槌でも槍でも持ってこい!」

 

………………

 

バイアス「盤上のゲームを持ってこい! 亜人族の森を襲撃するために戦略を組み立てるのは慣れてんだ!」

 

………………

 

バイアス「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

――うるせぇ! マジでうるせぇ!

 

――どんだけしつっこいんだよお前! スマ〇ラ負けまくった小学生の対戦相手でも引き際をわきまえてるぞお前!

 

バイアス「うるせぇ! 俺は勝つまでやるタイプだ!」

 

――お前、地球にいたら絶対に桃〇やりたくないタイプだわ……

 

………………

 

バイアス「……クソがっ、飯持ってこい飯!」

 

――んまぁ、夢の中だからいくらでも持ってきてあげるけど……いやほんとこれで大人しくしててね?

 

バイアス「……チッ。んで、何で俺がここに呼ばれたんだよ」

 

――いや知らんよ。気づいたらここに来てたんだもん何だよお前

 

バイアス「……つか、お前何なんだ? 魔物の類か?」

 

――それもっと早い段階で気づいてほしかったなー

 

――……まぁさっきも言ったけどここは夢の中だよ、夢の中

 

――だから朝になったらぜーんぶ忘れちゃうの! キミが何をしてもしてなくても!

 

バイアス「……ふぅん」

 

バイアス「……」

 

――ってか、なんでそんな荒れてんだよ

 

――どしたん? 話きこか?

 

バイアス「ノリがウゼェ」

 

バイアス「……」

 

バイアス「それ以上に例の国の姫もすっげぇウゼェ」

 

――姫……あぁ、リリアーナ姫か

 

バイアス「あぁ? なんでテメェが知って……」

 

バイアス「……いや、知ってて当然か。夢の中だしな」

 

バイアス「……俺には、婚約相手がいる。ハイリヒ王国のリリアーナ姫だ」

 

バイアス「近年における魔人族との争いが激化し、俺たちヘルシャー帝国も疲弊している。最近では襲撃も起きて……それらを両国で補うために政略結婚が行われようとしてるんだが……」

 

バイアス「最初はよぉ、楽しみだったんだぜぇ~? ちっちぇナリをしたガキをいたぶって母親にしてやろうと思ってよぉ?」

 

バイアス「……それがどういうわけか、久々に会ってみたら面構えが変わってやがった」

 

バイアス「あいつは、『強く』なってやがった」

 

――いいことじゃない?

 

バイアス「馬鹿か。弱い奴をいたぶってこそがお楽しみってもんだろ」

 

バイアス「それをよ、どこかで悪知恵身に着けたか、心構えを身に着けたか……あのアマ、求めてねぇような強さを手に入れやがった」

 

バイアス「もうあの女にかわいげを感じられねぇ。いたぶったところで……あの揺るがねぇ、決心を秘めた瞳を向けられた心が萎えちまう」

 

バイアス「……つまんねぇ結婚式になることは決定だ。結婚生活もな。征服も支配欲も満たされねぇモンに興味はねぇ」

 

――……あらー……歪んだ楽しみ方だねぇ……

 

バイアス「あぁ? 楽しみに歪みもクソもねぇだろがよ」

 

バイアス「敵をぶっ殺して悦に入る」

 

バイアス「うめぇ酒と飯を食らって楽しむ」

 

バイアス「きれいな女をモノにして得られる優越感」

 

バイアス「この世の『お楽しみ』は罪と穢れに満ちてる。天に唾吐かずして何が背徳だって話だろうがよ」

 

――……まぁ

 

――……否定はしない……

 

――……出来ないけどさぁ……

 

バイアス「……あぁ? オメェまさか……」

 

バイアス「若いころに似たようなことやった口か?」

 

――あっ! このお話ここでおしまいでーす!

 

――お帰りはあちらでーす!

 

バイアス「あぁ!? あ、テメっ! 体……うい…!!」

 

――……

 

――おぉ、帰った帰った

 

――さて、ステータスプレートの調査を進めんと……

 

――……

 

――……つーか、なんでここ最近呼んでない連中が来るんだよ……

 

――『魔法』の設定ミスったか……?

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

【ヘルシャー帝国 帝城 訓練場】

 

ガハルド「いやー、参った参った。コテンパンにやられた」

 

ハジメ「あの引きでこの結末!? 一行どころか一文字分も戦った気がしねぇんだけど!!??」

 

ガハルド「流石神の盾というだけあるな。全力で行ったのにぜーんぜんかなわねぇんだもん。こりゃムリだムリ! はははははは!」

 

ハジメ「な、なんだそのアバウトさ……あんた本当にこの国の皇帝か……?」

 

ガハルド「あぁ? 何度も言わせんなよ。皇帝ガハルド、それに間違いはねぇよ」

 

ガハルド「いやぁー戦った戦った! 疲れたなぁ!」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「な、なぁあんたさ……」

 

ハジメ「俺の武器に興味とかは?」

 

ガハルド「あぁ? 武器ぃ?」

 

ガハルド「んー……」

 

ガハルド「ねぇな、今んところ」

 

ハジメ「あ、あぁ……そう……」

 

ガハルド「まっ、それよりもよ。飯のほうにしようぜ」

 

ガハルド「動きまくって腹減っちまったよ! 俺!」

 

ハジメ「うわっ、ちょっ、ひっぱんな! オイ!」

 

………………

 

…………

 

……

 

【ヘルシャー帝国 帝城 広間】

 

ガハルド「ほれ! 飯だ飯! たーんと食え!」

 

ハジメ「う、うぉぉぉぉぉ……すっげぇ豪華な料理がズラッと……」

 

ガハルド「なんせお前は皇帝に勝った人間だからな。こんくらいパパっと用意してやるよ」

 

ハジメ「お、おぅ……ありがたくいただく……」

 

ガハルド「……」

 

ガハルド「そうやって出された飯にもすぐに口を出すのな、お前」

 

ハジメ「……」

 

ガハルド「あぁ、安心しろ。毒に対して耐性があるってのはわかってる」

 

ハジメ「……? ちょっと待て、何で知ってるんだ……俺が耐性持ちって」

 

ガハルド「……あほ、そこで耐性持ちだなんてばらしてんじゃねぇ」

 

ハジメ「あ、お前っ……カマかけ……」

 

ガハルド「いや、カマをかけたつもりはねぇ。どっちかっていうと、『予測』だな」

 

ハジメ「『予測』……?」

 

ガハルド「……んー……例えばよ」

 

ガハルド「お前、俺が飯を出してやるって言ったときも警戒を怠らなかっただろ?」

 

ガハルド「見てて分かるんだよ。目線とか瞳にぎらつき具合でどういった感情が乗ってるのかなってさ」

 

ガハルド「お前は俺に対し、あの戦いの後に飯の提案をされて、もしかしたら料理に何かあるかもって考えていたわけだ」

 

ガハルド「それなのに、お前はそのまま飯をかっくらった。食っても大丈夫な『保険』をかけている……と、ここまでは『予測』出来るわけだ」

 

ハジメ「は、はぁ……」

 

ガハルド「でだ、な。俺は思ったんだよ」

 

ガハルド「お前、かなり『鈍感』だなーって」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「ええと……」

 

ハジメ「これ、コケにされてるのか?」

 

ガハルド「馬鹿か。誉め言葉だよ」

 

 

ガハルド「お前はな、『鈍感の天才』だ」

 

 

ハジメ「……ん? はぁ……?」

 

ガハルド「問題だ。人は『結果』を求める。この結果は、夢だとか目標だとか女だとか名誉……なんでもいい。お前の好きな言葉に置き換えろ」

 

ガハルド「じゃあ、この『結果』。人はどうやって得る?」

 

ハジメ「……??」

 

ガハルド「そこまで難しい話じゃねぇぞ」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「『過程』だろ。過程がなきゃ、結果はない」

 

ガハルド「いいこと言うねェ。正解だ」

 

ガハルド「過程が無きゃ結果はない。死ぬほどシンプルで、当たり前すぎる考えだ。本当にな」

 

ガハルド「そうだ、人は結果を求めるためならばどんなことでもする。でも、生きているうえで結果にたどり着ける奴なんて一握りだ」

 

 

ガハルド「だからこそ、その埋められない物を埋めるために、人は『補う』。『力』だの『知識』だの『財産』だのでな」

 

 

ハジメ「……??」

 

ガハルド「力が必要な奴は『鍛える』」

 

ガハルド「知識を蓄える奴は『学習する』」

 

ガハルド「財産を求める者は『蓄える』」

 

ガハルド「結果を得るためにはその手段が必要で、でもその手段にはさらにほかのもので補わなければならない」

 

ガハルド「でだ、な。お前は、それらを得るための……もっとも必要な『鈍感』さが備わっているわけだ」

 

ハジメ「……なんだよ、それ……」

 

ガハルド「お前、割と他人に対して関心がないタイプだろ」

 

ハジメ「……………………」

 

ガハルド「長い無言は肯定と同じだぜ」

 

ガハルド「自分の歩く道に『石』が落ちてる。邪魔だと思うやつはそれを蹴り飛ばす」

 

ガハルド「だが、その道に『人』がいたらどうする……?」

 

ハジメ「排除だ。邪魔をするなら、そいつは俺にとっての敵だ」

 

ガハルド「なら、その『人』が何よりも切り捨てがたい敵になっちまったら?」

 

ハジメ「……それでも排除だ。俺は、俺の歩くための道に迷いを産ませない」

 

……ドンッ!!

 

ハジメ「!?」ビクッ!

 

ガハルド「そう! まさにそれだ!」

 

ガハルド「道の最中には、人道とか倫理的に問われる選択肢だっていくつもある!」

 

ガハルド「目の前にあるものを! 同じ存在ではなく障害物と無意識に捉え、歩いてしまう! まさに『鈍感の天才』だ!」

 

ハジメ「な、なに言って……俺にそんな……」

 

ガハルド「だってオメェ、俺と対等に話してるつもりなかったじゃねぇか」

 

ガハルド「お前は奴隷代わりの人形を寄越そうとし、さらには自分たちの案をごり押しするためならば実力行使という手段を持っていた」

 

ガハルド「何がなんでも自分の思い通りに、貫き通すための頭! お前はそれを持っている」

 

ハジメ「……仮に持っていたとして」

 

ハジメ「それの……何が悪いんだ」

 

 

ガハルド「いや全然? 羨ましいなぁーってくらいだぞ?」

 

 

ハジメ「……は?」

 

ガハルド「人間、どっかしら自分の得たいもんのために突っ走ってる」

 

ガハルド「本能があろうが理性があろうが関係ない。むしろ、知恵が回る奴は自分の本能と理性すら客観的にコントロールしやがる」

 

ガハルド「そういう時の人間はつえーのよ。自分の目的のためならば、客観的に判断し、倫理だとか人道だとか言われても利や得のためならば選択できる」

 

ガハルド「これが自分の大事なモノだけならいい」

 

 

ガハルド「自分の『大切』すら削いでまで考えられる奴すら、いるんだからな」

 

 

ハジメ「……なんで、そんなことをする必要が……」

 

ガハルド「さっきも言ったろ? 補うためだよ」

 

ガハルド「自分が弱いとわかって強くなろうとする。でも、その強さを身に着けても『結果』にたどり着けなかったら?」

 

ガハルド「ソイツは、より結果のために補うために手段を択ばなくなる。人はそういうのを……」

 

ガハルド「『非情』だとか……『残酷』、というんだろうな」

 

ハジメ「……っ」

 

ガハルド「お前を見ててな、あとは他の人づてで聞いた人となりと照らし合わせてピーンと来たよ」

 

ガハルド「世間ではお前は『神の盾』だとか『魔王』と呼ばれている。それだけの名声を持ち合わせ、己の目的のためならば他者を蹴落とす『非情』ぶり」

 

ガハルド「あの交渉の中では、お前の欠点も浮き彫りになっていたが同時に長所も出ていた。他人と対等な関係ではなく、初めから上の立場でスタートを切ることで一気に優位に突っ走る」

 

ガハルド「羨ましい限りだ。交渉事でも勝負事でもそれを活用できる奴はそうそういねぇぜ」

 

ハジメ「……」

 

……ゴクッ、ゴクッ……

 

ガハルド「っぷふぅー……酒、飲んでも酔わないんだったな」

 

ハジメ「まぁな」

 

ガハルド「おや、残念」

 

ガハルド「……だからな……あー、俺がいいたいのはな」

 

 

ガハルド「お前、次期皇帝になってみねぇか?」

 

 

ハジメ「……えっ」

 

ガハルド「俺はな、強ければ誰だっていいんだ。ましてやそれが、自分の血の繋がってないやつでもかまわん」

 

ハジメ「こ、子供……皇太子がいるんじゃないのかよ」

 

ガハルド「いるさ。でも、そいつは妾のうちの一人のガキでしかねぇ。そいつだって力が強いから選んでやってるってだけだ」

 

ガハルド「その点、テメェは見どころがある。力も申し分ねぇ、鈍感すぎて自分が他者に影響を与えることの意味を理解できないくらいに突き進んじまう。傲慢で横暴な圧制者としてはこれ以上ないくらいに素質がある」

 

ガハルド「どうだ? 悪い気はしないだろ? 今お前が侍らせている女たちには劣るが……それでもより取り見取りの女を選ばせてやるよ」

 

ハジメ「……いらねぇよ」

 

ガハルド「あ? なんでだよ。女、好きなんだろ?」

 

ガハルド「遠慮すんなよー、何人か見繕ってやるからよー」

 

ガハルド「……あっ、考えたら処女のほうがいいもんな。えーと……俺が手を出してないのは……」

 

ハジメ「そ、そうじゃなくて! 俺は今のユエたちが大切だから! 必要以上に女を増やすつもりはないんだよ!」

 

ガハルド「……………………」

 

ハジメ「……あんたからすれば女は増えればいい、なんて考えかもしれないけど、俺はそうじゃない」

 

ハジメ「俺にとって、ユエたちはかけがえのない『大切』だ。それを、周囲に見せびらかすようなトロフィーみたいなモノにしたくない」

 

ハジメ「アンタなりの良心のつもりなんだろうが、余計なおせっかいだ。だからこの話は――」

 

 

ガハルド「――……は? ちょっとまって……? お前そういう認識だったの……?」

 

 

ハジメ「……ん?」

 

ガハルド「えっ、待って待って待って……えっ? えっ……?」

 

ガハルド「……」

 

ガハルド「わかった、ストップ。ちょっと質問を変える」

 

ガハルド「ちょーっとばかしいいか? お前、俺の質問に全部答えろ」

 

………………

 

ガハルド「……地球……転移……クラスメイト……」

 

ガハルド「マジで……? えっ、それがお前たちの世界の生活基準……?」

 

ハジメ「まぁ……大分豊かな国だよ、俺たちの住んでる場所は」

 

ハジメ「とりあえずは俺の知識でしゃべれる分はしゃべり切ったけど……まだ聞きたいところはあるか?」

 

ガハルド「……なる……ほど……」

 

ガハルド「これは…………」

 

ガハルド「……」

 

ハジメ「ま、まだ何か考えてるの……? 何か聞きたいって言われても、俺にはもう何も答えようが――」

 

ガハルド「すまん、先にお前を含めて謝罪しなければならない点が多々ある」

 

ハジメ「? なんだよいきなりかしこまって」

 

ガハルド「……しょーーーーーーじきにいうとな、俺はお前たちの存在を『勇者』だとか『光の使途』ってくらいの戦うために呼ばれた戦士って認識でしかなかった」

 

ガハルド「学生とは言っても俺たちの世界の様に、多少の血なまぐさい世界のことを知っているかもしれねぇ、と」

 

ガハルド「危険な世界に踏み込んだならば、多少は切り替えるようにしろよ、と」

 

ガハルド「……だけどな、これでよーーーーくわかったよ」

 

 

ガハルド「テメェら、コトが済んだ全員元の世界に帰れ。とっととな」

 

 

 

【帝城 地下牢】

 

ユエ「……ハジメ、遅い」

 

香織「っていうか、ここすっごい臭いね……」

 

ユエ「んっ、ここは地下牢。とっ捕まえた罪人に、苦痛を与えるための場所」

 

ユエ「だからこういった場所は基本的に不衛生」

 

香織「……あんまり長くいたくないなぁ」

 

ティオ「上のほうではまだまだ時間がかかるようじゃのぉ」

 

ティオ「先に地下牢に行って待ってろと言われたモノの……放置プレイも長すぎて……」

 

ティオ「興奮が高まってきてしまうのぉ!! 汚れたこの床に新たなシミを作ってみるのも――」

 

ユエ「や め て」

 

香織「……」チラッ……

 

………………

 

シア「……お父様。あんまりそわそわしてちゃだめですよ?」

 

カム「ふむ、すまないな。シア」

 

カム「なにせ久々のボスとのご対面だ。我々のような木端のためにわざわざご足労頂き、しかも皇帝相手と対等に肩を並べて要求を押し通らせようとしている……」

 

カム「ははっ……逃げ惑うだけのころが、嘘みたいに遠く感じてしまうな」

 

ハウリアの若者1「そ、それだけ俺たちが強くなったってコトですよ」

 

ハウリアの若者2「だよなぁ。ほら見て見ろよ。ここの傷跡、すっげぇくっきり残ってるぜ」

 

ハウリアの若者3「はんっ、俺なんか指折りした数なんて……」

 

ティオ「嫌な盛り上がり方してるのぉ……」

 

ユエ「体の傷をスコアみたいに自慢してる……」

 

シア「あはははは……」

 

………………

 

香織「盛り上がってるね、あっち」

 

ユエ「久々の家族の再会……ゆっくり付き合わせてあげるべき」

 

香織「傷だらけの緊縛状態のお父さんと対面させられるシアの気持ちを考えると複雑だろうけどね……」

 

ティオ「……いいのぉ!」

 

香織「ブレないなぁ」

 

………………

 

シア「……」

 

カム「……シア、ボスとの生活はどうだ?」

 

シア「? どうしたんですかお父様」

 

カム「いや……ふむ、少しお前の顔つきに陰りが見えてな」

 

カム「何か、ボスとの生活に不安でもあるのかと……思って聞いてみただけだ」

 

シア「……」

 

カム「何か不安なことがあればいつでも言え。少しは心が楽になるぞ?」

 

シア「……ふふっ、ありがとうございますです。お父様」

 

シア「――不安というのは、『私たち』の今後です」

 

カム「……不安……?」

 

シア「……私たちハウリアは、とてもとても弱い種族です」

 

シア「弱いから……逃げるしかなかった。誰かにすがるしかなかった」

 

シア「それで強くなったのに……それでも帝国という壁が立ちはだかっている」

 

シア「そして帝国を乗り越えても、今度は魔人族たちが立ちはだかってくる」

 

カム「そうだ。所詮、世の中は弱肉強食。生きてくためには強くなって食らうしかない」

 

シア「それは私も理解しているつもりです」

 

シア「だからこそ……いつまで、この戦いに身を投じなければいけないんだろうって」

 

ハウリアの若者たち「………………」

 

シア「私は、怖いんです。強く、強くなっても、さらにその先にある未来が、とても怖い……」

 

カム「……シア……」

 

ハウリアの若者1「あ、あの……少し聞きたいんですが……シアの姉御」

 

ハウリアの若者2「俺たちにはボスがいるじゃないですか。ボスの教えがあるからこそ、俺たちはそれを心の支えに出来てここまで戦えたんですよ!」

 

シア「……そう、そうなんですよね」

 

ハウリアの若者3「っつーか、さっきの話って本当なんですか? ボスが優しくなったって」

 

ハウリアの若者1「俺も信じられねぇな。ボスって、慈悲とかそういうのはなさそうなのに」

 

ハウリアの若者2「……もしも、もしも本当にやさしくなっていたら……」

 

ハウリアの若者2「ボスは……」

 

シア「……あの、そのことについて……ちょっと……」

 

………………

 

香織「? 何話してるんだろ……」

 

ユエ「うぅ……それよりもここ臭い……」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【ヘルシャー帝国 広間】

 

 

ハジメ「……いきなりとんでもねぇ手の平返しだな。あれだけ歓迎しておいて」

 

ガハルド「なんでもクソもねぇ。自分たちからこの世界に来たってんならまだお前らに非はあるが、無理やり連れて来られたってんなら、お前らは最初からこの世界の地に足をつけられてねぇ。マジで単なるガキだった」

 

ガハルド「……なるほどな。なんとなくだが分かったぜ。お前も、あいつらも、どこか『対等』に思えなかったのが。こーなっちまえばあの勇者君にぶちかました覚悟もハナっから的外れもいい説教じゃねぇか」

 

ハジメ「……??」

 

ガハルド「……お前の話を聞いてな、よーやくわかったよ」

 

ガハルド「お前、良くも悪くもかなりいい加減な人間だ。大らかだとかおおざっぱだとかそう言われる奴。あと、男女の評価間で、特に形容できる言葉がないから適当に『優しい人♡』みたいな言葉で終わらせるタイプだ」

 

ガハルド「んでもってお前自身が自分から相手に対して執着しねぇから、相手から勝手に愛想をつかされて逃げられるタイプだ」

 

ハジメ「嫌な人格判断だな!? まるで見てきたように言いやがって!」

 

ガハルド「あほ、これでも褒めてるほうだ。女をトロフィー扱いだの都合の良いアクセサリーだの言われて、もっともな倫理観で反論する当たり、お前の根底にあるのは人間としての倫理観がしっかりと根付いてるからだ」

 

ガハルド「力を付ける人間は根幹も『変わる』。変わろうとする過程の中で、結果を求めるがあまりにソイツは自分を見失う。ブレるっていうのはそう言う事だ」

 

ガハルド「だけどお前はブレなかった。力を得る過程について……詳細は知らねーけど……お前の中の倫理観はいい寄ってくる女を大切にするという相手に対する慈愛だけは消えなかった。それは、良くも悪くもお前の根が人間のまま。まさに変わらない、鈍感さがあるからだ」

 

ハジメ「……褒めてんだが貶されてんだか、緩急付き過ぎて全くわからん……」

 

ガハルド「だけど、長所が出るって言う事は欠点と隣り合わせだ」

 

ガハルド「お前、アイツらのことを本気で口説いたことはあるか?」

 

ハジメ「口説くどころか基本的に攻められまくりだし、夜なんて一方的にリードされまくりだし……」

 

ガハルド「……お、おう……」

 

ガハルド「あー、えと……お前の話聞いてると、どうもお前の性格上、お前が言い寄ったりって寄りは……つまりだな」

 

 

ガハルド「あいつらのほうから押しかけている。そうなんじゃねぇーの?」

 

 

ハジメ「……それはさっきも」

 

ガハルド「ベッドの上での話だけじゃねぇ。お前は鈍感のままに自分の才能と技術を磨いた。内向的だとかアクティブな才能を持っていようが、技術を持ってるやつはモテる。女が寄ってくる」

 

ガハルド「人間だって動物だ。自分を養ってくれる雄とつがいになれるのを無意識のうちに臨む。だから俺んところには女がたくさんいるのさ」ガハハハ……

 

ガハルド「だけど、お前のは無意識のうちに育てられたものだから……そいつは自分の魅力を客観的に見ることが出来ていない。自分が、なんで好かれているっていうのか理解していない」

 

ガハルド「無意識のうちに育った魅力はどんどん育っていくのに、ソイツの情緒と自意識はずっと意識がないまま。それなのに、魅力的な女はお前に対して寄ってくる」

 

ガハルド「お前はアイツらのことを大切にしている。だけど、それで言い寄ってきたアイツらに対し、お前は言い寄ることも縋ることもしようとしない。その距離感と気持ちの尺度がどれくらいなのかを、お前はわからない」

 

 

ガハルド「強固な絆は薄氷と裏表の関係だ。信頼なんて、あっさり崩れる。そういうもんだろ?」

 

 

ハジメ「ん、んなわけ……」

 

ガハルド「じゃあ、お前は『お前』をどう思ってるんだよ」

 

ハジメ「……ええと」

 

ハジメ「……『神の盾』で……『魔王』と呼ばれて……」

 

ガハルド「その神の盾も魔王も、じゃあお前はそうなりたいから目指したのかよ?」

 

ハジメ「……ぐ、偶然の産物、だな」

 

ガハルド「……そこで見栄を張るんじゃなくて正直なところがお前の長所だろうな」

 

ガハルド「……」

 

ガハルド「お前に言っておく。俺の信条をな」

 

 

ガハルド「俺は、この国の人間を守るためならどんなことだってする」

 

 

ハジメ「……え??」

 

ガハルド「それが俺の皇帝としての責務……」

 

ガハルド「っておい、なんだよそのきょとんとした顔」

 

ハジメ「いや……なんか……そういう、すっごいまともっぽい言葉がすっげぇめずらしくて」

 

ハジメ「ここって弱肉強食で自己責任の国なんだろ? なんか、あんまそれっぽくない心がけだなぁって」

 

ガハルド「あほか。力でねじ伏せて他者を圧倒し、自分の利益だけを追求する」

 

ガハルド「じゃあなんで利得よりも責務という重責が伸し掛かる『皇帝』の席についてんだよ」

 

ガハルド「だったら俺はもっと気楽で気ままな蛮族に落ちて、もっと無責任にふるまうはずだろ」

 

ハジメ「………………あっ」

 

ガハルド「……お前、俺が無責任な人間だと思ってたな?」

 

ハジメ「うん」

 

ガハルド「うんじゃねぇ、そこで正直に答えんなあほ」

 

ハジメ「いや、だけど……あんたとしては力を振るえればそれでいいんじゃないのか?」

 

ハジメ「だから俺の力に目をつけていた。最強の兵器があれば帝国を強化できる。そう思ったからなんじゃないのか?」

 

ガハルド「あぁ、そうさ。でもな、それは単純に俺個人が強くなるだけじゃねぇ。国そのものを強くできるからだ」

 

ガハルド「俺だけがどれだけ強くなろうと結局は魔人族のように強いやつに滅ぼされる。だからそうならないために、俺は『個人の強さ』だけでなく『個々人の強さ』で補う」

 

ガハルド「俺が強くなれば国を守れる。他者を護れるということは民は俺を支えてくれる。民がいれば、食も住も栄えて豊かになる」

 

ガハルド「そして、それは巡り巡って俺を豊かにしてくれる。豊かになれば、俺のところに女が出来て、子供が出来て、帝国は未来へと繋げられる」

 

ハジメ「……だけど、それでもこの国で生きる以上は『自己責任』。そうなんじゃないのか」

 

ハジメ「そこまでして民に――」

 

ガハルド「馬鹿だろ、お前」

 

ハジメ「っ……」

 

ガハルド「この国は確かに生きる上では自己責任がついて回る」

 

ガハルド「けれどな、そんな俺が上についたうえでの役回りは、トップに立つことで問題にあたり、国に背負わされた『国そのものの責任』を解決していかなければならねぇんだ」

 

ガハルド「国の責任は俺の責任。国を守れず、他国からの侵略を受けて民が蹂躙を受けるってんならそれはここに住む民の責任じゃねぇ。責任を全うできない俺が愚か者なだけだ」

 

 

ガハルド「お前みたいに弱肉強食と自己責任をはき違えてるやつがほど言いがちなんだよな。自己責任は、責務で苦しんでる他者を見ないふりして関わらないための方便だって言いたげにな」

 

 

ハジメ「……」

 

ガハルド「ハッキリ言って、お前は『鈍感の天才』だ」

 

ガハルド「周囲に対して無関心で、自分のやりたい事だけに熱中する求道者」

 

ガハルド「それゆえに、お前は他者に対して関心が持てない。自分の進む道の途中に、『他者』という物がないからだ」

 

ガハルド「その時点でテメェに掲げられた『魔王』という肩書は為政者でも支配者として指すものじゃない。力を振り回し、お前に対して畏怖の念を抱く環状――言っちまえば『蛮族』の延長線上のものだ」

 

ガハルド「お前は人を支配できないし、しようとも思わない。仮に、他者に対して関心も持てないお前が人を支配する……その時は――」

 

 

ガハルド「その魔王さながらに、『洗脳』という形で黙らせる。絶対にな」

 

 

ハジメ「そ、そんなことするわけねぇだろ!!」

 

ガハルド「ああ、そうだ。お前は私欲や悪意を持ってそれを使わない」

 

ガハルド「だって、お前の根にあるのは善性だ。根が善に寄ってるから、決して悪事には使わん」

 

ガハルド「じゃあ悪事じゃなかったら? 他者を……例えば、お前のことを慕ってくれる女に危害が加えられる……とかだったら?」

 

ハジメ「そ、それは……」

 

ガハルド「お前は、お前のことを賞賛する者に対しては寛容だ。まぁ、こんなん誰にだって持って当たり前の感情だが……」

 

ガハルド「だけど、お前はお前自身の力を悪事に使おうとはしなくても……守るためという大義名分があれば絶対に使用する」

 

ハジメ「……っ、うっ……」

 

……ゴトッ

 

ガハルド「はぁー……腹がたまってきたな……」

 

ハジメ「……」

 

ガハルド「なーんかあんま食わなかったなー、お前」

 

ハジメ「……」

 

ガハルド「……」

 

ガハルド「ハッキリ言ってよ、お前らの底が見えた途端、こう思ったわ」

 

ガハルド「あぁ、お前らって、無理やり連れて来られただけで……ただ力が強いってだけで……」

 

 

ガハルド「この国に連れて来られている『奴隷』どもと何ら変わりねぇってコトがな」

 

 

ハジメ「……」

 

ガハルド「どれだけ強くなっても、善に悪に寄っても、結局はお前らの根にあるのは幼い情緒と精神性のみ」

 

ガハルド「だからあの勇者くんであれ仲間たちであれ……すっげぇ不安定のままに生きている」

 

ガハルド「中には光る様な女もいたが……」

 

ガハルド「この様子だと……外面はともかくとして中身は……なぁ……」

 

ハジメ「……」

 

ガハルド「……オイ、もういいぞ。地下牢に行って」

 

ハジメ「えっ……」

 

ガハルド「飯の終わりごろに地下でハウリアたちを解放するように言っておいてある」

 

ハジメ「……すまない」

 

……ッタッタッタッタ……

 

ガハルド「……」

 

ガハルド「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

ガハルド「なんとまぁ……めんどくさいもんが来ちまったもんだ」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【ヘルシャー帝国 帝城 地下牢】

 

ハジメ「……みんな!」

 

ユエ「ハジメ!」

 

香織「や、やっときたぁ……」

 

ティオ「うぅ……悪臭たちこめる地下牢で放置プレイ……たまらんのじゃ……」

 

ハジメ「こいつだけもうちょっと放置してよっかな……」

 

ユエ「……近くにいる兵士が嫌そうな顔してるからやめてあげて」

 

ハジメ「……雫や天之河は? いないのか?」

 

香織「ほかのみんなは城のお部屋で休憩してるよ。ハジメ君がガハルドさんと決闘してる間、話し合ったり訓練したりしてるんだって」

 

香織「それよりハジメくん。シアのほう……」

 

ハジメ「ん、あぁ……」

 

…………

 

カム「ぼ、ボス!」

 

ハジメ「お前たち! 無事だったか!」

 

カム「えぇ! ボスも変わりなく……!」

 

ハウリアの若者1「……あ、あれ……ボス……?」

 

ハジメ「久しぶりだな、お前たち」

 

ハジメ「もうガハルドのほうには話はつけてある。お前たちの扱いに関しては、こっちのほうで好きなようにしていいそうだ」

 

ハウリアの若者2「そ、そーなんですか……?」

 

ハウリアの若者3「す、すげぇ……さすがボスだ。あの皇帝にすら対等だなんて……」

 

ハウリアの若者1「あ、あの! 一体どのようにして従えさせたんですか! ボス!」

 

カム「お、オイ! 何言ってんだお前!」

 

ハウリアの若者2「や、やっぱり拷問にかけたりしたんですか!?」

 

ハウリアの若者3「ボスのことだ! きっと……!」

 

ハジメ「……いや、何か説得してたら話が終わった……みたいな感じだな」

 

ピタッ……

 

ハジメ「……ん?」

 

ハウリアの若者1「……えっ、ボスが説得……?」

 

ハウリアの若者2「あのっ、説得って拷問のメタファーですよね?」

 

ハジメ「ど、どう思ってるんだよお前ら……俺のこと……」

 

ハジメ「普通に説得しただけだよ。力に関してだって、命を奪わない決闘形式で勝っただけだし」

 

ハジメ「……まぁ、交渉結果に決闘は関係なかったけど」

 

カム「おぉ……! よかった……!」

 

カム「不要な戦いがないならないほうでいい。それでボス、我々の脱出は……」

 

ハジメ「俺の魔法で、お前たちを帝国の外に転移する」

 

ハジメ「外に置いてあるフェルニルのほうで待機しててくれ。時期が来たら森のほうに帰す」

 

ハウリアの若者1「……は、はぁ……」

 

ハウリアの若者2「……な、なぁ……なんだかボス……」ヒソヒソ……

 

ハウリアの若者3「……あぁ、妙にやさしいよな……」

 

シア「……」

 

………………

 

…………

 

……

 

【ヘルシャー帝国 広間】

 

……ムシャ……ムシャ……

 

ガハルド「……あ゛ー……飯は出来る限り残さない主義だが……」

 

ガハルド「残しまくりやがって……食っても食っても減る気がしねぇ」

 

ガハルド「はぁ……俺も年かね。油物が重いこと重いこと」

 

……コツッコツッコツッ……

 

ガハルド「……あ? お前……」

 

雫「……」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

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