生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第16話

 

【……前回から数日後】

 

【ヘルシャー帝国 バイアスの自室】

 

バイアス「……はぁ……」

 

バイアス「……」

 

バイアス(俺は、あともう少しでリリアーナと婚約する)

 

バイアス(ハイリヒの姫にして、世界広しと言えども滅多にいないであろう美女)

 

バイアス(……なのに、ときめかねぇ。燃えねぇ)

 

バイアス(あの女は、俺のものだ。魔人族との戦争が長引くのであれば、あいつはどうあっても俺のモノにならざるを得ない)

 

バイアス(……)

 

ガンッ……!

 

バイアス「クソっ……クソっ……」

 

バイアス(すっきりしねぇ、気分がよくねぇ)

 

バイアス(調子づいた奴を踏みつけて、今まで自分が築き上げたものは全部無駄だったんだって叩きつけるあの瞬間……)

 

バイアス(俺に対して睨みつけるだけで、何もできずに……力で勝つことも出来ず、権力という面でも逆らうことも出来ず……踏みにじられる奴らを見下してやるのが最高に好きだった……)

 

バイアス(なのに、あの女は……リリアーナは『強く』なってやがった……俺が考えている以上に……!!)

 

バイアス(十にも届かなかったあのガキが、俺を睨んだ時……いつか屈服させてやれば楽しめると思っていたのに……!)

 

バイアス「……クソっ、乗り気がしねぇ……」

 

………………

 

…………

 

……

 

【ヘルシャー帝国 広間】

 

ムシャムシャ……

 

ガハルド「……でな? これが○○産地のステーキよ」

 

雫「へぇ……うわっ、すごいお肉がぎゅっとしてて……」

 

ガハルド「お? お前味とか分かるタイプか」

 

雫「はい。家の付き合いで……料亭やレストランにいく機会がたびたびあったんです」

 

雫「だから、マナーに関しては……王族の方に恥を見せない程度には」

 

ガハルド「ほう? じゃあ……」

 

…………

 

雫「お食事にお招きいただき、ありがとうございます」

 

ガハルド「あー、かしこまるなかしこまるな。『子供』なんだからもうちっと無邪気に食ってろ」

 

雫「……はぁ」

 

雫「あ、そ、それでは! ちょっとお話を!」

 

雫「これも、めずらしい物が好きな陛下にとっては大変楽しんでいただけるかと……!」

 

ガハルド「あ、あぁ……? んまぁ、こっちもしばらくは暇だから付き合ってやるけどよ」

 

ガハルド「……お前って、ほかの連中のところ行かねぇのか?」

 

雫「……えぇ、まぁ……例の婚約パーティーまでまだ日にちはありますし」

 

ガハルド「いや、だからそのため時間のつもりだったんだけどな……」

 

ガハルド「迷宮攻略のために奮闘している勇者一行のために、パーティーに参加する日にちまでじーっくりと体を休んでくださいねーって」

 

ガハルド「俺からのやさしさのつもりだったんだけどねぇ……こーんなムサイおっさんと飯を食うよりも……」

 

ガハルド「お前はあの勇者クンのところに行って慰めに行くのを優先するかと思ってたんだけどな」

 

雫「……光輝は光輝。私は私です」

 

雫「私が行かずとも、光輝は光輝で自分の時間を過ごしてくれる」

 

雫「私は母親じゃないんです。子供なんです」

 

ガハルド「自分には自分が過ごすための時間がある……ってか」

 

雫「はい。だからきっと……」

 

 

雫「他のみんなも、楽しんでますよ。いろいろと、ね」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

【ヘルシャー帝国 城下町 メインストリート】

 

檜山「南雲、今までお前をバカにしてすまなかった」

 

檜山「お前たちオタクの中では男は子供を産めるのって常識だったんだな」

 

ハジメ「オタク趣味を学んでくれることはうれしいよ」

 

ハジメ「でもなんでそこでオメガバースあたりの知識を叩き込むんだよ!! おかしいだろ!?」

 

清水「な、なんかやる気でちゃって……! たのしくなっちゃって……!!」

 

恵里「教えていくうちにディープな知識も教えたくなったんだって」

 

恵里「オタクの悪い癖だよね。知識自慢したくなったらぺらぺらと口が動くようになっちゃう」

 

檜山「逆ア〇ル……人格〇泄……尊厳破壊……」

 

檜山「ぶっちゃけ、エロいとかどうとかより、すげぇ世界を見せつけられたな……って気分になって自分の見識が広まった気がしてビビってる。オタクってすげぇ」

 

ハジメ「なぁお前どうしてくれんだよ。水を吸い込んだスポンジのように変なの学習しちゃってんじゃねぇか」

 

ハジメ「どこ〇つでもこんな変な単語ぶち込まねぇぞ! もうこれ手遅れじゃねぇか!!」

 

清水「ご゛べ゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ん゛!!!」

 

恵里「泣くなよ大の男が……」

 

………………

 

ハジメ「……んで? 改めてなんで俺を呼んだんだよ」

 

檜山「いや、ほら、あれだよ」

 

檜山「……姫様の婚約パーティーってよ。まだしばらくかかるんだろ? 数日くらい」

 

恵里「お色直しだとかドレスだとかでね。それにほら、今は魔人族の襲撃で街のほうを直すために人員を割いてるらしいし」

 

清水「……あれ? でも皇太子であるバイアスってかなり悪辣で……こういった婚約パーティーにもノリノリだったりするんじゃないの?」

 

清水「そのぉ……こういっちゃなんだけど……ひゃっはー! きれいなお姫様とえっちなことしまくるために結婚するぜー! ……みたいな」

 

檜山「いや、なんだかな……どうもそのバイアスってやつが結婚に乗り気じゃねぇんだとよ」

 

恵里「はぁ? なんでまた?」

 

檜山「いや俺に言われても……」

 

檜山「……どーもなぁ……前に比べてお姫さまが魅力的じゃない―とか言い出してな」

 

檜山「それでむしゃくしゃしてるっぽくて、全然パーティーの準備に協力してくれねぇんだと。主役だっつうのに専用のスーツにぜんぜん袖を通さねぇの」

 

清水「へー、なんでだろ」

 

ハジメ「気にしたってしょうがないだろう。お偉い人の考えなんて、俺たちにはわからんさ」

 

ハジメ「……で、重ねて聞くがなんで俺が呼ばれたんだ?」

 

檜山「……おい、南雲。あれをみろ。あれを」

 

ハジメ「……? あれって……」

 

清水「あ、ヘルシャーのギルドか?」

 

檜山「ハイリヒと違い、粗野な気質のヘルシャーのギルドは酒場としての側面が特に色濃い」

 

檜山「あそこではかなーり強い酒が用意されてるみたいでな……」ニヤリ

 

ハジメ「……あ? もしかして飲み比べしたいってのか?」

 

檜山「そのとぉーり! だってよぉ、俺たち元の世界だと未成年だけど、こっちじゃ酒飲んでも許されるんだぜ!?」

 

檜山「飲んでも構わねぇよなぁ!」

 

恵里「……くっだらねー」

 

ハジメ「……またあとにしてくれ。こっちはシアたちのところへ――」

 

檜山「あ、逃げるんだ」

 

ハジメ「……」ピクッ

 

檜山「いやいやいやいやいや……構わないけどね?」

 

檜山「お前がさぁ、尻尾巻いて逃げるなら別にいいんだよ? 不戦勝で」

 

檜山「……そっかぁ、奈落で身に着けた耐性ってその程度かぁ……」

 

――ダッ……!

 

ハジメ「ほえ面かいても知らねぇからな!!! マスターーー!! 酒! 強い酒ェ!!」

 

檜山「フィッシュ!!! おらっ! 俺に続けお前ら!!」

 

清水「……ん? 俺も!?」

 

恵里「……えっ、ちょっと待ってボクも……?」

 

………………

 

【ヘルシャー帝国 メインストリート】

 

ガラガラガラ……

 

獣人の少年「……っ」

 

ガラガラ……グラッ……

 

ガシャンッ!

 

獣人の少年「ぅ、あぁっ……!」

 

帝国兵「……」ギロッ

 

スタスタスタ……

 

獣人の少年「っ……!」

 

ブンッ……バシンッ!!

 

………………

 

光輝「……」

 

光輝(……仕方のない、ことだ)

 

光輝(この世界では、亜人族の奴隷は当たり前の存在……あそこで繰り広げられている光景も、この世界では日常風景なんだ)

 

光輝(……仕方ないこと、仕方のないこと……なのに……っ)

 

光輝「……」

 

スタスタスタ……

 

シア「許せない事、だと思いますか?」

 

光輝「! シア……」

 

シア「ふふっ、ごめんなさい。いきなり話しかけてきちゃって」

 

シア「……許せませんか? あの光景が」

 

光輝「……本音を言うと、今すぐにでも助け出したいと思うよ」

 

光輝「俺には力がある。力を振るえば、すぐにでもあの子を助けられる」

 

光輝「でも、それじゃダメなんだ。この国にはこの国のルールがあるのに、よそ者である俺たちが首を突っ込んでしまえば……いらぬ問題を呼んでしまう」

 

シア「でも、助けたいって思っちゃうんですよね」

 

光輝「……そうさ」

 

光輝「助けたい、でも、助けちゃいけないって……理性でブレーキをかけなきゃ、すぐにでも突っ走ってしまいそうだ」

 

シア「ふふっ、さすがの勇者様も自分を止められるだけ『大人』な部分が残っていたんですね」

 

光輝「……ははっ、面目ないな」

 

――ほらっ、はやくしろ!

 

――キリキリ歩け!

 

――ったく、使えねぇ奴隷だ……

 

光輝「……」

 

シア「……見ないフリをすればいいんじゃないですか?」

 

光輝「えっ……」

 

シア「苦しいほど嫌なモノなのに、なんでずっと見てるんです?」

 

シア「嫌なら、見なければいいのに。そうやって自分の心を苦しめる物と向き合っていたら――」

 

シア「背負い続けたら、いつかあなた……」

 

 

シア「『潰れます』よ?」

 

 

光輝「……っ、わかってる……わかってるさ……」

 

シア「……あなた、前のハイリヒでの魔人族の襲撃の時に、私にこう言いましたよね」

 

シア「暴虐的なまでに力を振るって、キミは帝国の人間とどう違うのかって」

 

シア「それならば……あなたは」

 

シア「自分の限界や境目がわからないあなたは」

 

シア「たんに手に入れた力にふりまわされそうになっているあなたは――」

 

 

シア「『癇癪持ちの子供』とどう違うのですか?」

 

 

光輝「……ははっ、手厳しいな」

 

シア「……」

 

光輝「ごめん、キミの言う通りだ。ここを離れよう」

 

光輝「どちらにせよ、俺には関係ない話なんだ」

 

光輝「……離れよう。何もできないなら、俺たちはここにいるべきじゃない」

 

シア「……ですね」

 

………………

 

スタスタスタ……

 

シア「この先に、ハジメさんたちがいるんだそうです」

 

シア「さっき、香織さんたちから教えてもらったんです。ギルドのほうで檜山さんたちと酒の飲み比べをしてるって」

 

光輝「は、ははは……そうなんだ」

 

光輝「……あー、その……」

 

シア「? どうしました?」

 

光輝「……」

 

光輝「さっきは、ありがとうね」

 

シア「? はぁ……」

 

光輝「フォローしてくれたこと。言ってくれなきゃ、行ってたかもしれないから」

 

光輝「俺、いつもこんなだからさ……いつもいつも、目先のことに意識を奪われて、突っ走りがちっていうかさ」

 

光輝「こうして見ると……いつも雫とか香織に助けてもらったんだなぁって」

 

光輝「……考えてみれば、龍太郎もよく参加してたなぁ。ははっ、馬鹿男二人で暴走してちゃ世話ないな」

 

シア「……ふふっ、確かに光輝さんって見てると、付き合うの苦戦しますねー」

 

シア「案外、元の世界でもそうだったんですか?」

 

光輝「んー、だと思う……あんまり意識してないけど」

 

シア「へぇ……じゃあ、ハジメさんについて何か知ってます?」

 

光輝「……南雲、んー……?」

 

光輝「いや、あんまり……実のところを言うとさ……」

 

 

光輝「俺、南雲のこと、あんまり知らないんだ」

 

 

シア「? 知らない……?」

 

光輝「いや、変な話なんだけどね。俺、南雲とは同じクラスだけど、南雲と直接話すことって全然ないんだよ」

 

光輝「いつもぐーたらで、香織の面倒を見てもらっていて……だから、怠け者だなぁって……内心、馬鹿にしてたっていうか……」

 

光輝「本音を言うと、見下していたっていうか」

 

シア「認めちゃうんですね。見下していたって」

 

光輝「どうしても言い返せない部分だからね」

 

光輝「……だってさ、あいつはさ」

 

光輝「俺の大切な幼馴染に、すっごい好かれてたんだぜ」

 

シア「……」

 

光輝「雫や香織は、俺にとって特別な幼馴染なんだ」

 

光輝「いつもきれいで、かわいくて、一緒にいて楽しくて……」

 

光輝「それが、俺だけに向いてくれなくて……悔しかったんだよな」

 

シア「……ふぅーん」

 

光輝「だから、気づいちゃったんだよね」

 

シア「気づいた?」

 

光輝「うん。俺――」

 

 

光輝「あの二人のこと、『幼馴染』としてしか、見てなかった」

 

 

シア「……? どう違うんです?」

 

光輝「あの二人は幼馴染だから、ずっと一緒にいてくれることが俺のなかで当たり前になっていたんだ」

 

光輝「かわいくて美人で、一緒にいてくれる幼馴染。学園の二大女神って言われてて……たぶん、知らないうちにあの二人のことを、自慢できる『アクセサリー』みたいに思っていたのかもしれない」

 

光輝「……笑っちゃうよな。これってさ、南雲に対する認識と変わらないんだ」

 

光輝「俺は南雲のことを見下していた。オタク趣味を持っていて、周囲と関わらないアイツの姿を見て、あいつは『こういうやつ』だって頭の中で形作って……」

 

 

光輝「自分より『格下』ってステイタスを与えていた。そして、そんな格下が俺の幼馴染に接触していたのが許せなかったんだ」

 

 

シア「……」

 

光輝「……最近さ、思うところがあるんだ」

 

ヒュンッ……

 

シア「? ステータスプレート?」

 

光輝「このステータスプレートを見ているとさ、これって、俺たちの力や数値を表示してくれるだろ?」

 

光輝「ここには、俺の能力やスキルが刻まれている。俺と言う人間を、端的に表してくれる」

 

光輝「これを見れば自分の強さを知ることが出来る。そして、他人の物を見れば相手の強さを知ることが出来る」

 

光輝「自分の力を知り、相手の力を知り、それで判断する。表示される画面という上っ面で判断する」

 

光輝「それって……」

 

 

光輝「俺たちの世界で、南雲のことを『格下』で見ていたときや、二人を『二大女神』として見ていたのとどう違うんだろうって」

 

 

シア「……」

 

光輝「俺、ここに……トータスに来てから、思うことが増えたんだ」

 

光輝「普段から学校に来てるときは、学校にいるときの皆しか見えない」

 

光輝「でも、学校以外のところでも、皆は皆の生活を送っていて、俺の知らない一面がある。その一面を、俺は向き合わなければ、いけない……」

 

シア「だから、あなたはハジメさんのことも知らなきゃって?」

 

光輝「うん、そのために話しかけたんだ」

 

シア「……は?」

 

スッ……

 

シア「……これって」

 

光輝「あいつが、ここに来てから兎人族解放のためにまとめれた資料……の予定一覧だよ」

 

光輝「各国に対する説得するための資料、リリアーナ姫やガハルド陛下との協議の中で交わされた約束事、あいつが製造を急がせているゴーレムの発表資料……今のところ、ここら辺を重点的にいくつかの案をまとめているらしい」

 

光輝「俺も、いくつかあいつに協力した。勇者といっても、結局は俺はただの強いだけの駒だ。それでも、勇者であることの威光はいまだ有効だ」

 

光輝「これがまとまれば、無血で、誰も傷つくことなくキミたちは自由になるフェアベルゲンの森に平和が戻るんだ」

 

シア「……私に、なにかやれることがある、ってことですか?」

 

光輝「あるさ」

 

 

光輝「南雲の傍にいてやれる。そうだろう?」

 

 

シア「……そっか、そうですね」

 

光輝「こう……言っちゃなんだけどさ。キミやユエには感謝してるんだ」

 

光輝「あの奈落の一件……あいつにとっては苦しい経験があったのは想像に難くない」

 

光輝「そこで、支えてくれる誰かがいなきゃ、きっと俺はあいつの他の一面を知る前に……ずっと会えないままだと思うから」

 

シア「……」

 

光輝「だから、出来る事なら……この冒険が終わったあとも――」

 

シア「ふふっ、分かってますよ」

 

シア「もう、変な所気を効かせようとしますねぇ。私はちゃーんと、未来の『大魔王』さまのお、く、さ、ん! ですよ!」

 

光輝「……て言っても、ユエがいるなら一番ってわけではないんでしょ」クスッ

 

シア「あっ、ひどーい!」

 

ハハハハハ……ッ

 

………………

 

【ヘルシャー帝国 ギルド】

 

――ゴクッ゛、ゴグッ゛、ゴグッ゛……!!

 

――ドンッ゛!!!!

 

ハジメ「ぶはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

檜山「ぶはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

ハジメ「ワンモア!!」

檜山「ワンモア!!」

 

 

清水「えーと……白ワインはあっさりしてるから魚介系とマッチして……」

 

清水「あっ、赤ワインは癖が強いから牛肉が合う……へー!」

 

清水「……あいつらが飲んでんの赤だよね……? しかもだいぶ強めの……」

 

恵里「一応、いっしょに頼んだステーキを頬張ってるから食い方としては間違ってないかな」

 

恵里「……でも、ジョッキみたいなので赤ワインガブガブ飲んでるのはぜっっっっったいにちげーんだろーなーってのはわかる」

 

――ゴクッ゛、ゴグッ゛、ゴグッ゛……!!

 

――ドンッ゛!!!!

 

――……ワンモア!!!

 

清水「……何杯目?」

 

恵里「さぁ……?」

 

檜山「ぐ、ふっ……げぇぇぇぇえっふ……!! おめ、なかなか、やるじゃねぇか……!」

 

檜山「ガッコーん時は単なるクソッタレオタクかと思いきや、ふっつーに酒飲んでるって知ってるときはびっくりしたぜ、オイ。なぁ、不良少年」

 

ハジメ「お、おおおっぷぅ……! おめ、もだろうが……! 人のこと、いえるかよ……!」

 

ハジメ「ぐ、うぅぉおおおおおおお!!!」

 

檜山「ま、まだイケるのかよ……!! クソっ! マスター、ワンモア!!」

 

清水「すげー、まるでおちょこ感覚でかっぱかっぱ飲んでるぜオイ」

 

恵里「はー……飽きないもんだなぁ」

 

………………

 

ハジメ「よくっ……おれに、挑んできたもんだな……! ガッコーのとき、は……クソ弄ってくるだけに、自信はありました、ってかぁ……!?」

 

檜山「げふぅぅぅ……! あ、あほか……! そもそも、おめー……弄っても、何もしてこねぇじゃ、ねぇか……!」

 

ハジメ「……あぁ……?」

 

檜山「ガッコーの時でも……普段から授業中は寝てるだけで……アニメだとかゲームだとかが趣味の、オタクってくらいしか……わかんねーし……!」

 

檜山「ぶっちゃけ、俺……おまえのこと、ぜんっっっぜんしらねぇ、やつだし……!」

 

ハジメ「……はぁ? お前、そんな知らないやつに……絡んで……げぇふ゛……たのかよ……っ?」

 

檜山「あ、ったりまえ、だろうが……俺は、元々、白崎のことしか興味……げふ゛……なかったし……」

 

檜山「あいつを、二大女神を狙っていたら……そこに、おめぇが割り込んで、来たから……お前を、恨んで、げふぅ゛……だけ、だよ……!」

 

檜山「だから、気づいた、っつーか……」

 

 

檜山「白崎を通してみた、テメェしか……知らねぇ、から……『普段の南雲』なんて、おれ、わかんねぇ、んだよ……!」

 

 

ハジメ「……あっ」

 

清水「……あー、言われてみれば」

 

恵里(……確かにそうだ。あくまで白崎のための恋敵であって、檜山が直接的に南雲に対して矢印を向けたことってないな……)

 

檜山「んで、よぉ……見識、ひろめるために、何をするかって思って……アニメ、だとか、オタク、知識だとか以前に……」

 

檜山「普段から、自己主張、ぜんっっぜんしねぇ、テメェと、サシで飲み合おうってよぉ……!」

 

ハジメ「……」

 

檜山「なんにもわかんねぇ、やつならよぉ……! だったら、ぜんぶゲロるまで、相手にしてやろうってよぉ……!」

 

檜山「ステータス、だとか……クッソくだらねぇ、『魔王』じゃなくてよぉ……!」

 

檜山「『いじめられっ子の糞オタク』として……向かってこ、ぐぅ゛え゛え゛え゛え゛!!!」

 

清水「うぉぉおおおおおお!?!?!? 吐きかけてる!?!?」

 

恵里「あーもー、バケツバケツ……」

 

………………

 

マスター「……オメェら静かにしろよ」

 

清水「ひぃ……す、すいません……!」

 

恵里「いや、あの……マジすんませんでした」

 

ハジメ「す、すまない……」

 

スタスタスタ……

 

清水「……ええと、南雲の勝ち?」

 

ハジメ「せめて引き分けってことにしといてやれ」

 

恵里「妙な優しさを見せるね……」

 

清水「……はぁー、まぁ、なんとも……ね」

 

ハジメ「……お前ら、檜山の話を聞いてどう思った」

 

清水「……どうって」

 

恵里「ま、率直に言うとキミの内面とか気にしたことなかったよ」

 

恵里「だってキミ、クラスで誰かに話しかけているところなんてほとんどないじゃん」

 

清水「えっ、でも白崎と……」

 

恵里「それは『話しかけられてる』。ボクが言いたいのは『話しかけている』」

 

恵里「基本的に受け身じゃん、キミ。檜山が言うと説得力ないけど、的を射てる」

 

恵里「あんまりさ、キミのこと知らないんだよね。自分から動かないから」

 

ハジメ「……」

 

清水「……俺も、オタクって以外のこと、あんま知らねぇかも」

 

清水「優しい奴なのか、嫌な奴なのか……周囲から変な目で見られたくなくて、放っておいてたけど」

 

恵里「言っちゃなんだけどさ、自分から動かない奴なんて、他人からどう思われたってしょうがないんだよ」

 

恵里「だって、『何も知らない』もん。じゃあ、知ろうったってどうすればいいってなるでしょ?」

 

 

恵里「一番わかりやすい、上っ面の部分だけしか見てもらえない。人間、分かりやすい『ステータス』にしか見てもらえなくなるワケ」

 

 

清水「わかりやすい、部分……か」

 

恵里「檜山のやつはさ、南雲のことを『オタク』としか見てなかった」

 

恵里「南雲は檜山のことを卑怯でクズな『いじめっこ』としか見てなかった」

 

恵里「第一印象って大事だよね。一度、それで根付いたら簡単に離れない。それを取っ払うには、自分から『こう』だって主張しなきゃいけない」

 

恵里「ほんと、やんなるよね。こういうの」

 

清水「……お前は、そういうことで昔嫌なことあったの?」

 

恵里「……別に、どうでもいいでしょ」

 

バタバタバタ……

 

ユエ「ハジメ? ここで何やってるの?」

 

ハジメ「おー、来てくれたかユエ」

 

ハジメ「……来てくれてなんだけど、この酔いどれを運んでくれ」

 

………………

 

…………

 

……

 

【……その日の夜】

 

【ヘルシャー帝国 バイアスの自室】

 

バイアス「……」

 

バイアス(婚約の日は近づいている……どんな形であれ、俺は結婚することになるだろう)

 

バイアス(……あの、かわいげがなくなった女を……)

 

――コンコンッ……ガチャッ……

 

バイアス「あ? ノック……?」

 

バイアス「ちょっと待て、そもそも入っていいって言ってな――」

 

 

リリアーナ「将来の皇太子妃ならば、挨拶なんて軽い物で良いでしょう?」

 

 

バイアス「……なんでテメェがここに」

 

リリアーナ「婚約の日は近づいています。神聖なる婚約の儀であれば、伴侶であるあなたも協力してくれなければ成り立ちません」

 

バイアス「あ? そんなの俺の気分次第――」

 

リリアーナ「そんなことを言っておられる余裕、ありますか?」

 

リリアーナ「現に、この国は魔人族に抵抗できず傷を負った。迷宮攻略者と言う協力者はいますが……彼らの本来の役割は迷宮の攻略であり、国を守ってくれることではない」

 

リリアーナ「彼らの行動が、結果的に国を守ることに繋がるのであって、彼らは直接国を守ってくれるわけじゃない……そもそも、迷宮を攻略するのであれば、そんな余裕はまったくない」

 

リリアーナ「聡明なバイアス皇太子ならば、お分かりですよね? 私たちは、手と手を繋いで、協力すべきだと」

 

バイアス「……」

 

リリアーナ「……」

 

――シュルッ……パサッ……

 

リリアーナ「今、この場で契りを結んでください」

 

バイアス「……婚前交渉、って言うんじゃねぇか。これ」

 

リリアーナ「女の処女を踏み散らして、悦に浸るのがあなたの趣味なのでしょう?」

 

リリアーナ「この国の未来を思えば、素足で荒野を踏みしめて歩く覚悟が私にある」

 

リリアーナ「……あなたに、その覚悟は?」

 

バイアス「まて、その前に聞かせろ」

 

バイアス「お前、どこでその強さを手にいれた?」

 

リリアーナ「……『強き者』たちを目にしたからです」

 

バイアス「……?」

 

リリアーナ「私たちを助けてくれる、強き者たち。ですが、彼らは本当は私たちと変わらない人間なのです」

 

リリアーナ「単なる人間を駒にしているだけ……それならば、上にたつ私たちが、張れる場面で体を張らなければ示しがつかない」

 

リリアーナ「だからこそ、私はこの道を選ぶ」

 

バイアス「それが、俺に踏みにじられることであっても……か?」

 

リリアーナ「苦難の道を素足で歩くよりも楽ではありませんか?」

 

バイアス「……」

 

リリアーナ「……」

 

リリアーナ「……あなたは、弱者を踏みしめて前に進む者」

 

 

リリアーナ「か弱き少女の体一つ踏みしめられないのならば、あなたはその程度の男というだけでしょう」

 

 

バイアス「……」

 

バイアス(……なるほどな、やっとわかった)

 

バイアス(俺は、楽な道を選べねぇのが嫌なんだ)

 

バイアス(自分だけが楽しめて、『悦』も『快』も得られる……『苦』がない道を、選びたかったのか)

 

バイアス(だから、容易く得られないこの女が嫌になったんだ。簡単な女じゃなくなったから……)

 

バイアス「……」

 

シュル……

 

バイアス「来い。せめて愛撫してから慣らす」

 

リリアーナ「――覚悟、見届けましょう」

 

スタスタスタ……

 

バイアス(……あぁ、そうだ。どうせなら、こっちのほうがいい)

 

バイアス(容易く折れるような少女の声を聞くよりも……)

 

バイアス(決して折れない力を屈服する味も……悪くねぇはずだ)

 

………………

 

…………

 

……

 

 

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