生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第17話

 

 

【――シアの夢】

 

シア「私たちハウリアは、その身を踏みにじられる弱者として生まれてきました」

 

シア「弱肉強食――弱きものは食われ、強きものこそが他者を食らい、侵略する権利がある」

 

シア「それがまかり通るトータスでは、私たちはただただ食われるだけの餌」

 

シア「強者の目に入らない者は、対等な関係ですらない」

 

シア「それが、私たちの『あたりまえ』でした」

 

――……ずっと、それがキミにとっての日常だったんだよね

 

シア「はい」

 

シア「私の、私たちのあたりまえ」

 

シア「死と蹂躙こそが日常」

 

シア「……そこから」

 

 

シア「私の、『大魔王さま』が救ってくれた」

 

 

シア「あの人は、強かった」

 

シア「あの人は、猛々しかった」

 

シア「あの人は、勇猛だった」

 

シア「勇ましきあの人の背中を見て、あの人に見られて……私は強くなれた」

 

シア「戦うことの意味を、立ち向かうことの必要性を」

 

――……死が待ち受ける苦難

 

――平和で平穏な日常を求めていたキミたちは、一つのきっかけを持って変わらねばならなかった

 

――そして、変わった。強く、強く、強く……

 

シア「そう、私は変わった」

 

――だから、これからも変わり続ける

 

シア「……私は、強くなった。確かに、変わったと言えるでしょう」

 

シア「だけど、世界の法則そのものは変わっていない」

 

――……どういう意味かな?

 

シア「私は変わったけど、世界は変わらないまま」

 

シア「トータスは、結局は力を持って力で押さえつける者たちがいる」

 

シア「私は、それに適応出来ただけだった」

 

スッ……

 

シア「世界は変わらない。私も、結局は変わらない」

 

シア「この世界に馴染んだだけ。ならば、これからも強くならなければ、いけない」

 

――……そのための力が、欲しいんだね

 

シア「はい」

 

――……わかった

 

――私は、キミの味方だ

 

――共にこの世界の上へと向かおう

 

――私は……最後までキミといっしょだ

 

――私は……キミの『強さ』だ

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【フェルニル内部にて】

 

ザワザワザワ……

 

ハウリアの青年「――なぁ、知ってるか……」

 

ハウリアの女性「えぇ、聞いたわ。シアが……」

 

ハウリアの青年「さっきな……ボスに会ってきたんだけど――」

 

ハウリアの青年「あぁ、オレも見た……シアの話はマジだ――」

 

ザワザワザワ……

 

清水「……はぁー、すっごい壮観……これ、全員ヘルシャー帝国の元奴隷の方々?」

 

恵里「らしいね。南雲によって鍛え上げられた奴と、元々奴隷として飼われていたハウリアもいるよ」

 

鈴「ひっきりなしに耳がぴょこぴょこ動いてるよね。可愛らしなーって思ってたけど……こうしてみると……」

 

龍太郎「だな。ファンタジー世界で、こうして生きている……人外なんだなぁって思うわ」

 

清水「ほんとほんと……んでさ、これから話を始めるわけ?」

 

ハジメ「あぁ。今後のことについて、こいつらと話をつける必要がある」

 

ハジメ「――お前ら! 俺の話を聞け!」

 

ピタッ……シーン……

 

ハジメ「……さっきも話した通り、俺は数日前からヘルシャー帝国のガハルドに話をつけてきた」

 

ハジメ「お前たち亜人の奴隷解放、代替のために用意されたゴーレム、今後のフェアベルゲンでのお前たちの扱いについてだ」

 

ハジメ「交渉は成功。こちらの意見のだいたいが通った。ヘルシャー帝国の貴族たちも、俺の用意したゴーレムを喜んでくれた」

 

ハジメ「少なくとも、お前たちは解放されるし……フェアベルゲンに戻ってもお前たちの生活が脅かされることはない」

 

ハウリアの青年「……平穏な、暮らしを……」

 

ハジメ「あぁ、絶対に約束する」

 

ハジメ「……俺は、この世界に来てから色々なモノと巡り合った。お前たちを助けたのは……ハッキリ言って、単なるめぐりあわせと俺のためと……気まぐれも、ちょっとあった」

 

ハジメ「正直言って、俺のことを慕ってくれるシアのために、お前たちを助けようとしてるって部分もある。それでも、袖すり合ったお前たちのために……やれることはやるつもりだ」

 

ハジメ「それが、せめて何もかも無関心で通り過ぎないための……俺なりのやり方だから」

 

ハウリアの青年「……本当だったんだ……あれの話」ヒソヒソ……

 

ハウリアの女性「うん……やっぱり――」

 

ザワザワ……

 

恵里「……? なんだ……?」

 

清水「? どしたん?」

 

恵里「いや、なんだか……」

 

コソコソ……

 

パル「……その、失礼します。ちょっと、よろしいでしょうか」

 

恵里「……んあ? えっ、なになに?」

 

ハジメ「? どうした?」

 

恵里「えっ、いや……なんかわかんないけど、ちょっと……」

 

パル「すいませんボス。ちょっとこちらの方々にお話があるので……」

 

ハジメ「? あ、あぁ……まぁ、相談事っていうなら……」

 

パル「……恵里さん、でしたっけ。来ていただけますか?」

 

………………

 

恵里「えと、なんでまたボクなわけ?」

 

パル「俺……あぁ、じゃなくて……ええと……」

 

パル「ボク、ここに来てからちょっと、馴染めなくて……それで、話し相手になってくれればなぁって」

 

恵里「……はぁ? いやいやいや……馴染むもなにも、ここにはキミの身内や家族がいるじゃないか」

 

パル「……その、確かにそうなんですが……」

 

パル「みんなが……前とはちょっと違うっていうか」

 

恵里「違う?」

 

パル「……その、恵里さんも聞かされてる通り、元々ボクらはボス……あぁ、ハジメさんのことなんですけど……あの人に鍛え上げられて、今のようなキャラ付けをしていたんです」

 

パル「だから、ボクも馴染んでいました。実際、力を持ったときの高揚感とか、仲間内での連携とかが楽しくて……戦うことの必要性を教えられたときから、その強さを振るうことの楽しみを感じてたんです」

 

パル「……でも、ハジメさんが、もう戦わなくていい。平和に暮らせるようにって言ってくれた時は……そんないきなりって気持ちもあったけど……」

 

パル「よかった。戦わなくていいんだ。これで、平和に暮らせるんだって……安心したんです」

 

恵里「……まぁ、キミらの境遇はこっちもある程度聞かされてるよ。大変だったらしいじゃん?」

 

パル「あ、あはは……はい、本当に……大変でした」

 

パル「……訓練は厳しかった。ハジメさんは鬼のような人だったけど、ボクたちに強くなることの大切さを教えてくれた」

 

パル「だから……ボクやボクたちは感謝してもしきれないんです。そのうえ、こうやって平和に暮らせる場所を用意してくれたことが……本当にうれしい」

 

恵里(……人畜無害って顔しちゃってまぁ……)

 

恵里(あぁ、でもしょうがないか。ハウリアって平和を好む種族だし。戦わなくていいって言われて、本来の平和主義者な一面が復活したわけか)

 

恵里「……って、いやいやいやまてまてまて」

 

恵里「それとこれと何の関係があんの。ボクとキミとで」

 

パル「あ、そのー……」

 

恵里「っていうかボクとキミに接点なんてないでしょ? それなのにこうして会話してるなんて変――」

 

恵里「……」

 

恵里「あ、待て。わかってきた」

 

恵里「おいっ、そこで隠れて聞いてるやつ。こそこそしてないでこっち来なよ」

 

…………スタスタ……

 

鈴「あ、あははー……ご、ごめんねぇ……」

 

恵里「……はぁ、ったく」

 

パル「あ、あのっ、実はこうやってフェルニルに連れて来られてから、鈴さんが話し相手になってくれて……」

 

パル「それで、相談事があったら恵里さんにも言っていいんだよって……」

 

恵里「お前……なにボクまで巻き込んでんだよ」

 

鈴「……っ、だ、だって……」

 

スッ……

 

鈴「ハウリアの人たちは、家族なんだって」

 

鈴「みんながみんな、共同で暮らしている。大切な家族だから守り合う、助け合う……」

 

鈴「家族といっしょにいたいって言うなら……力になってあげたいんだ。私」

 

恵里「……バカバカしい。家族なんて、そんないいもんじゃないでしょ」

 

鈴「ちょ、ちょっと。なんでそんないいかた……」

 

恵里「家族って言うのはね、結局は血でつながった他人でしかないんだよ」

 

恵里「それをまるで特別な事みたいにありがたがって、バカバカしいったらありゃしない」

 

パル「……確かに、そうかもしれません」

 

パル「力をつけてから、そんな考えをするようになりました。力が必要で、成し遂げるためには強くなっていくしかない」

 

パル「家族の情は強くなるための、強固な連携のために……そう思ってもいました」

 

パル「でも……気づいてしまったんです。こうやって強くなるためなのも、それって……」

 

 

パル「家族と一緒にいたいから、なんだって」

 

 

恵里「……ふんっ」

 

パル「家族といたいから、一緒にいたいから……だから、そのために戦ってきたんだって」

 

パル「……恵里さんには、一緒に『居たい人』はいないんですか?」

 

恵里「――っ、なに、いって……」

 

恵里「ぼ、ぼくに、居てほしいヒト、なんて……」

 

恵里(――っ……『光輝くん』……っ)

 

恵里(そ、そうだ……ボクは、光輝くんに、居て欲しかった……)

 

恵里(……母親から疎まれて、誰からも必要とされなかったから……)

 

恵里(ボクのことを見てくれた……『光輝くん』を……求めて……)

 

恵里(……)

 

恵里(……ほんとうに?)

 

恵里(ぼくが、求めていたのって……)

 

恵里(……ほんとうは……)

 

鈴「――り? 恵里!?」

 

恵里「っ!? あ、あぁ……ごめん……」

 

恵里「……ぼーっとしてた」

 

パル「あ、あのっ……お疲れなら……」

 

恵里「……話し相手、だろ」

 

恵里「こっちが暇なときだったらいい」

 

スタスタスタ……

 

鈴「あ、恵里……」

 

恵里(……ボクは、結局は誰かを求めている)

 

恵里(いや、ヒトなんてだいたいがそうだ)

 

恵里(支えてくれる誰かを、自分を自分たらしめてくれるものを)

 

恵里(……ヒトは、縋れるもの、支えてくれる者がないほど生きていけるほど……強くない。ほかでもない、僕がそうだったのだから)

 

恵里(聖教教会の連中はエヒトを、光輝くんは幼馴染を、檜山は白崎を、清水は名声を……)

 

恵里(……南雲は――)

 

恵里(……ヒトは、自分が何なのか知らない。何かわからないから、自分を形にしてくれるものを求める……)

 

スッ……

 

恵里(――『ステータスプレート』)

 

恵里(目に見えない力を数値化してくれる)

 

恵里(……そう、これだってそうだ。この世界で身分証明となるこれも、見えない自分を見せてくれる)

 

恵里(目に見えないものに縋り、求める……)

 

恵里(ボクたちは、いつだって縋れるステータスを探している……)

 

………………

 

鈴「ご、ごめんねパルくん。変なことに巻き込んじゃって」

 

パル「……恵里さんって、お友達なんですよね」

 

鈴「うん。恵里、ここに来てからいろいろあって……」

 

鈴「だから、その胸の内を軽くさせてあげられることができないかって……だから、その……」

 

パル「……優しいんですね。鈴さん」

 

スッ……

 

鈴「……? お花?」

 

パル「ヘルシャー帝国にはいろいろなモノが集まる。雑多な場所だけど……いや、だからこそきれいな花もある」

 

パル「ハジメさんが、買ってくれたんです。これからは、戦わないように花を愛でることを思い出せって」

 

鈴「そっか。ふふっ、南雲君って細かいところに気付くんだね」

 

パル「……そうですね。今まで『ボス』としての一面しか知らなかったから……新鮮です」

 

鈴「……あっ、そういえば……」

 

鈴「さっき、相談したいことがあったって言ってたよね。結局何の話だったの?」

 

パル「……」

 

 

パル「『変』なんです。みんな」

 

 

鈴「……? 変?」

 

パル「シアの姉御……あぁ、その……シアお姉ちゃんが、ここの所みんなを集めていろいろお話してるみたいなんです」

 

パル「最初は、奴隷にされていた子たちの心のケアをしたいからって言ってて……だから、ハジメさんもシアさんに対してツッコむようなことはしなかったんですけど」

 

パル「……ひそひそ話ばかりしてるし……ハジメさんに対して……」

 

パル「視線が刺々しいっていうか……」

 

パル「物々しいのは、鍛えられてからそうだったから変わってないんです」

 

パル「でも、あれは……」

 

鈴「……あれは?」

 

 

パル「『家族』に向ける、目じゃなかった」

 

 

…………

 

……

 

【フェルニル内部の一室】

 

カリカリカリカリカリ……

 

ハジメ「……」

 

光輝「……」

 

檜山「……」

 

龍太郎「……」

 

ガチャッ……

 

清水「おつかれー、これ飲みも――」

 

ユエ「ん、ありがと清水」

 

ティオ「ウェー……そ、そこに置いておくれ……」

 

清水「……お、おぉ……」

 

清水「いや、なんかすげー資料の山々なんだけど……」

 

ペラッ……

 

清水「これ、全部ハウリア含めたヘルシャー帝国の奴隷たちのリストか?」

 

ハジメ「ん、あぁ……」

 

檜山「奴隷は貴重な商材であり商品だ。商品として流通する以上、あいつらの情報をを商品としてまとめている資料が残っているはずだ」

 

檜山「商品としての健康状態、何人いるか、種族としての種類、歳や身長……」

 

檜山「んでまぁ、この国の商会だとか売人に資料の提出を求めたんだけど……まーうん」

 

清水「えっ、なんか問題あったの?」

 

檜山「問題だらけだわ。資料が残ってない奴隷が何人かいたんだわ」

 

清水「は……? 資料がない?」

 

イシュタル「まぁ、この手の流通問題に関してはついて回る『密売』ですな」

 

ユエ「……フェアベルゲンから『調達』してきたものから、こっそりと数をごまかしているのがあった」

 

ティオ「元々がフェアベルゲン自体が、帝国には干渉されていたとはいえ……亜人の全体の数なんて把握してるわけがないからのう」

 

ティオ「そうなれば、おのずと何人ほど拾ってきたかなんて現地でいくらでも誤魔化せる」

 

清水「う、うわー……」

 

檜山「だから、今こっちのほうで人数だとかそういうのを……あっ、おい南雲。こっちの数ミスってるぞ。この亜人族のケタが一つ足りねぇ」

 

ハジメ「うわっ、マジだ……」

 

光輝「にしてもあれだよね。別に全体の数をすぐにでも把握できるモンを作ってくれとまではいかないけど……こう、電卓とか……」

 

ハジメ「こちとら複雑な銃を再現するだけでも大変だったんだぞ……電卓の仕組みとかわかるわけがねぇ」

 

檜山「だからこうやって、そろばん弾いてやってるわけだ。涙がでてくらぁ」

 

清水「す、ステータスプレート……」

 

イシュタル「あれらはあくまで市民として認められたものに与えられるものなので……」

 

ティオ「ましてや奴隷階級なのじゃらかな。それどころか、生まれてから商品として数えられず、名前も与えられなかったであろう者もいるだろうに」

 

ハジメ「……なぁ、こういっちゃなんだけど」

 

ハジメ「八重樫のほうはどうした? ここ最近見かけないぞ」

 

香織「んー……雫ちゃんね、どうも陛下とお話することが多いみたいだから……こっちにこれないんだって」

 

光輝「おい、それって……」

 

香織「あ、大丈夫大丈夫。別に変なことはされてないみたいだよ。私のほうでチェックしてみたけど、何ともなかったし」

 

檜山「? あれ、でも八重樫のやつってガハルドのこと苦手じゃなかったか?」

 

香織「うん、だから私も不思議に思ってたんだけどね」

 

香織「まぁ、雫ちゃんのことだから大丈夫だとは思ってるけど」

 

清水「……」ペラッ……

 

清水(っ……うぅっ、結構生々しい情報が載ってるな……)

 

清水(こんな、商品扱いされているのが……ヒト……改めて、同じ生き物をこうして淡々と道具扱いして――)

 

清水(……いや、俺も……か……)

 

清水(……買いたいって気持ちがあったのに……こう、どんどん萎えてしまうなぁ……)

 

清水(……)

 

ハジメ「……」カリカリカリ……

 

清水(……)

 

清水(俺、欲しかったんだよなぁ……奴隷)

 

清水(俺が書いていた小説のように……なんでもいうコトを聞いてくれる女奴隷……)

 

清水(俺に従順で、俺の言う事だけを聞く女が……)

 

清水(……)

 

清水(なんで、欲しかったんだっけ)

 

清水(俺のことを褒めてくれて……俺のことだけを肯定してくれて……俺のことだけを見てくれて……)

 

清水(俺の書いたヒロインたちみたいに……)

 

清水(……)

 

清水(俺のことを……ぁ……あぁ……そっか)

 

 

清水(俺のことを、見てくれる人が……欲しかったんだなぁ……俺)

 

 

清水「……ん、あのさ」

 

ハジメ「?」

 

清水「一応、飲み物以外にも……こう……」

 

清水「やれること、ないかな……」

 

………………

 

ハジメ「……っしっ! みんなお疲れ!」

 

光輝「っだぁぁぁぁぁ! つっかれたー!」

 

龍太郎「……ネル……オレ、チョット……ネル……」

 

ハジメ「なんか、その……すまん、皆。こんな時間まで手伝わせて」

 

光輝「……手伝わなきゃ終われないだろ?」

 

香織「でしょ?」

 

檜山「……どっちにしろ、奴隷が解放されれば現地での協力者が増えるからな」

 

檜山「今後、トータスがどんどん混沌としていくなら味方なんてあったほうがいいし」

 

香織「ふふっ、檜山君結構賢いんだね」

 

檜山「賢くなるしかねぇって……やれることを自分から見つけてアタマツッコんでかなきゃ、あとから流されて『こんなはずじゃー』とか言いたくねぇしな」

 

ハジメ「……」

 

スッ……ペコッ

 

香織「……南雲くん」

 

光輝「……」

 

ハジメ「こうして手伝ってくれてること、本当に感謝している」

 

ハジメ「……正直に言えば、ハウリアの安否は俺たちやお前たちが元の世界に帰ることに何の関係もないことだ」

 

ハジメ「それを、ほぼ俺の気まぐれ同然に、気になったから……助けたいなんて突発的に思ったことに手伝ってくれてること。本当に感謝している」

 

ユエ「……ハジメ」

 

ティオ「……」

 

ティオ(……なるほど。これは、確かに普通の少年)

 

ティオ(強さも、その内面……いや、そう思っていたところも、結局は窮地で……行動の選択の幅が広がっただけ)

 

ティオ(確かに、これは魔王の器ではない……)

 

ティオ(死ぬことだってあり得る、人間なのは理解しておった……)

 

ティオ(……妾もまだまだ、じゃな)

 

ハジメ「婚約の日は近い」

 

ハジメ「この日から、ハウリアを含めた亜人たちの奴隷解放を宣言する」

 

ハジメ「その際に、俺の開発したゴーレムを発表。亜人族に変わる、有能なサポートゴーレムを宣伝し、リリアーナとバイアスの婚約パーティーと共に大々的に取り上げようと思う」

 

ハジメ「もう、すでにガハルドや今回のパーティーの主役である二人にも許可を取ってある」

 

ハジメ「みんな、当日までゆっくりと休んでくれ」

 

………………

 

ハジメ「……って、俺言ったんだけどな。なんでまだ起きてんだよ」

 

光輝「ダブルチェックは基本だろ?」

 

檜山「なーんか落ち着かねぇんだよ。アタマ休ませていたら、実はとんでもない見逃しがありましたーってのがありそうでさ」

 

龍太郎「……んごー……」

 

ハジメ「こいつはこいつで何で部屋で寝てねぇんだよ」

 

光輝「何かあったときのために、手伝えるなら起こしてくれだってさ」

 

ハジメ「ソファで寝ていたら体痛めるぞ……ああいう気のゆるみからちょっとしたミスを招くんだがなぁ」

 

檜山「……お前はそういうのねぇのかよ」

 

ハジメ「こういってはなんだが、俺は常日頃から父さんたちの仕事を手伝っていたからな。仕事に抜かりはなかった」

 

檜山「ってったって、両親からのフォローはあったわけだろ?」

 

ハジメ「ん゛……まぁ、そうだが」

 

檜山「……言っちゃなんだけど、お前わりと周囲から気を使われてたんだぜ。お前、そういうところ気にかけたこともなかっただろ」

 

ハジメ「……えっ、マジ?」

 

檜山「マジ」

 

光輝「マジ」

 

龍太郎「マジ」

 

ハジメ「ま、え……あっ! 龍太郎、お前起きてたんじゃねぇか!」

 

龍太郎「そりゃ起きるっつーの。あんだけ騒いでたら」

 

龍太郎「……っつーかな、前々から行ってやろうと思ってたけど、お前学校行事に参加してるときとか、すっげぇ嫌そうな顔してるの何人か見てるんだからな?」

 

ハジメ「……そ、そうだったの?」

 

龍太郎「そうだよ。学校行事はサボりまくるわ、学校内の決め事に関してはお前いないわ……」

 

龍太郎「お前、覚えていないだろうけどな……召喚される前に、家の用事で学校来ない日があっただろ?」

 

龍太郎「そん時に、クラスメイトの一人がお前ンところに宿題やらその週に配られたプリントを持ってった奴がいたんだよ」

 

ハジメ「……いたかな、いたかも……」

 

龍太郎「玄関でお前に直接渡してたってソイツ言ってたぞ!?」

 

龍太郎「んでよ、お前その次の日当たりに登校して……ソイツになんていった?」

 

龍太郎「『だれ?』だぞ!? だれって! お前っ、いくらなんでもそりゃねーよ!」

 

ハジメ「えっ、えぇぇぇぇぇ……!? あ、あったっけぇ……!?」

 

龍太郎「おい、二人とも。この際だから言っておくけどな」

 

龍太郎「俺はお前たち二人と違って、南雲に対して負い目がない。だからズケズケ言える」

 

龍太郎「でもな、お前らはお前らでこいつに直接なんか言ってもいいぞ。ぶっちゃけコイツ無神経すぎる」

 

光輝「……あ、あー……」

 

檜山「……ん、んン゛っ……」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「あのっ、お二方。俺の無神経エピソードってあと、何本ほど……」

 

光輝「……両手で数えきれないくらいには」

 

ハジメ「10以上!?」

 

檜山「……足を含めて」

 

ハジメ「両手足!?」

 

龍太郎「お前さ、自分から距離取って、誰ともかかわろうしないでさ。それでよくまぁ、孤高気取ってるなぁって思ってたよ。俺」

 

ハジメ「いや、それは……お前たちが……」

 

龍太郎「だけど、自分から心を開こうとしなかっただろ? お前」

 

龍太郎「お前さ、自分から相手に対して『こういうやつなんだろうな』って決めつけがちなんだよ」

 

龍太郎「お前が変に壁を作らなくてもな、こっちはお前に対して何か危害を加えようなんて考えちゃいねぇんだ」

 

ハジメ「……な、なんで、そんな風に気にかけてくれるんだよ。元々無関係だろ。親友でもないし」

 

龍太郎「……バカだろ、お前」

 

 

龍太郎「クラスメイトだから、みんなお前のことを気にかけてたんだろ」

 

 

ハジメ「……あっ」

 

光輝「……ん、まぁ……」

 

檜山「……」

 

龍太郎「お前が誰かに心を開かなきゃ、俺たちだって開かねぇ」

 

龍太郎「お前が誰かに相談でもしなきゃな、お前のことなんてお前と言う人間がわかんねぇまんまなんだよ」

 

龍太郎「だからみんなお前のことを煙たがってたってワケ」

 

龍太郎「……ったくっ」

 

ドカッ……

 

龍太郎「で、ダブルチェックするのはどの資料だよ」

 

ハジメ「……こういうの得意なのか」

 

龍太郎「運動系の部活ってスケジュールにうるさくってな。トレーニングだけでなく、トレーニングする施設についての日程とか……あとはまぁ、いろいろあんだよ。体動かす以外のことが」

 

龍太郎「……で、何して欲しいんだよ。言えよ」

 

ハジメ「……あ、あぁ……」

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

【――結婚式当日】

 

【――パーティー会場の外】

 

――こちらアルファ。○○ポイント制圧完了

 

――こちらブラボー。全〇ポイント制圧完了

 

――こちらチャーリー……

 

――こちらエコー……

 

――……『ボス』が作戦を決行するようだ

 

――お前たち、準備を進めろ

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【ヘルシャー帝国、婚約パーティー】

 

ザワザワ……

 

ガヤガヤ……

 

清水「ふ、ふぇぇぇ……すっげぇお貴族様の御戯れ感……!」

 

檜山「お、おぉぉー……? 大丈夫かコレ。俺たち浮いてない?」

 

香織「浮いてない浮いてない」クスッ

 

……チラチラ……

 

――……ヒソヒソ……まぁ、あれが……

 

――うむ、なんとも聡明な……

 

……ヒソヒソ……

 

恵里「……こっち、チラチラ見て来てるね。勇者ご一行って言うのがそんなに珍しいのかな?」

 

鈴「鈴たちは迷宮攻略者だからね。世界を救う英雄様だから、とっても物珍しいんだよ」

 

……ヒソヒソ……

 

――……あの話は本当なのかしら……

 

――あぁ、なんでも信仰していた神が……

 

……ヒソヒソ……

 

龍太郎「……良い噂だけじゃなさそうだけどな」

 

光輝「今の神様関係の話はだいぶゴタゴタしてるっぽいからな」

 

ハジメ「噂話って言うならそのまんまにしておけばいい。それに……」

 

……ヒソヒソ……

 

――うわぁ、きれい……!

 

――な、なんと美しい……! まるで宝石のようだ……

 

……ヒソヒソ……

 

ハジメ「……こっちもこっちで、あまり向けられたくない視線を感じてしまうが……」

 

ユエ「ん、気にしなくていい」

 

ティオ「この程度の眼差しなぞ、気にするほどもないのぉ」

 

ユエ「ふふっ、ティオとしてはやっぱりハジメのほうに向けてほしい?」

 

ティオ「ふむ、そうじゃな。有象無象よりもたった一人に……」

 

ティオ「……いや、向けられるべき瞳がある。妾では……」

 

ユエ「……?」

 

清水「……? あれ、そういえば八重樫は?」

 

檜山「結局、ここんところ全然見かけなかったな。アイツ」

 

光輝「なぁ香織。本当に雫は……」

 

香織「ん、んー……大丈夫のはず、なんだけど……」

 

ユエ「……」チラチラッ……

 

ティオ「やはり気になるか。ユエも」

 

ユエ「……シアが、いない」

 

ユエ「ねぇ、ハジメ。今からでもシアのところに……」

 

ハジメ「……そうしたいところなんだかな。話はそこまでだ」

 

ユエ「! 主役の登場……!」 

 

ハジメ「シアは、休みたいからって自室に籠っている」

 

ハジメ「……心配するな。あいつもちょっと、これからのことで気疲れしてるんだろう」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【――外】

 

――こちらデルタ。全ポイント爆破準備完了

 

――こちらインディア。Mポイント制圧完了

 

――こちらロメオ。Pポイント制圧完了

 

――こちらタンゴ。Rポイント制圧完了

 

――こちらヴィクター。Sポイント制圧完了

 

――こちらイクスレイ。Yポイント制圧完了

 

――こちらズールー。Zポイント制圧完了

 

………………

 

…………

 

……

 

【――パーティー会場】

 

バイアス「……ふん。きれいじゃねぇか。その『白いドレス』」

 

リリアーナ「そうですか? あなたのような殿方に合わせた『黒いドレス』にしようと思っていたのですが」

 

バイアス「くくっ、着てみろよ。結構似合うかもしれねぇぜ」

 

リリアーナ「御冗談を。殿方に恥をかかせるような真似はいたしませんので」

 

リリアーナ「……これは私の決意と覚悟です。この国を、そして南雲さんたちの力になるための」

 

リリアーナ「あなたと正式に婚約し、力を身に着ける。いまさら、股下の痛みなんて苦でもありません」

 

バイアス「ちっ、かわいげのねぇ女だ」

 

リリアーナ「どうせ側室を囲むのですから、私に興味なんてないでしょう?」

 

バイアス「……ふんっ、なめるなよ。テメェ一人くらい、乗りこなしてみせるさ」

 

バイアス(……)

 

バイアス(妙、だな……会場の雰囲気が……)

 

バイアス(浮ついた空気の中に『殺気』を感じない)

 

バイアス(……おかしいことじゃない。パーティー会場であれば、楽し気な雰囲気が蔓延して、そんな剣呑なものなんて広がりようがない)

 

バイアス(だが、それがかえって変だ。『殺気』を『感じさせない』だなんて……)

 

バイアス(まるで、高レベルの技術を身に着けたアサシンのように――)

 

………………

 

――こちらアルファワン。これより我らは、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む

 

――そう、我々最弱の爪牙がどれほどのものかを

 

――……『ボス』。命令を

 

………………

 

ガハルド「――パーティーは始まったばかりだ。今宵は大いに食べ……」

 

恵里「……?」ピクッ

 

鈴「? エリリン?」

 

ガハルド「大いに踊ってたのしんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる」

 

恵里「……『増えた』……」

 

清水「へ? なにが?」ムシャムシャ……

 

檜山「うめっ、うめっ……! ここの国の飯もうんめぇ~~……!!」

 

光輝(品がないなぁ)

 

ガハルド「この婚姻により人間族の結束は強固となった! 恐れるものなど何もない! 我ら、人間族に栄光あれ!!」

 

恵里「……ボクの、職業としての感が……告げている……!!」

 

 

恵里「死体が……『増えて』いる!!」

 

――――ガシャンッ!!!

 

ハジメ「っ……!? なんだ……!?」

 

ユエ「えっ、く、暗い……!?」

 

清水「う、うぉぉぉお!? なになに!? 今度は何の催し物!?」

 

――いやぁぁぁぁぁ!? なにっ!? なんなのぉ!?

 

――たすけてっ! 死にたくないっ! 死にたくないぃ!!

 

……ブンッ……ヒュパッ!!

 

……ブシュッ……

 

――……っ、あ、ぁ……っ

 

……ドサッ……

 

ガハルド「っ! こ、これは……!」

 

――ぎゃっ、や、やめ゛……

 

――ぎっ、ひっ……!

 

――が、ぁ゛っ……!!

 

……ブンッッ……ギィンッ!!

 

光輝「――っ!! みんなっ!! これは!」

 

ハジメ「襲撃だ!! お前たち、かまえろ!!」

 

龍太郎「清水、檜山! 俺の後ろに!」

 

清水「う、うぉぉぉぉ!?」

 

……ブンッ、ヒュパッ!!!

 

リリアーナ「っ!? こ、これは……!」

 

バイアス「くっ! おいっ、ボサッとしてんなバカ女! こっちだ、はやく!」

 

香織「ひ、姫様が!」

 

光輝「いまはバイアスに任せ……!?」

 

ギィンッ! ガギィンッ!!

 

光輝「くっ……! や、闇討ち!?」

 

…………ビュンッ、ズバッ……!

 

ガハルド「ぐっ……! ぐ、あぁぁぁあ……!」

 

――い、今の声……まさか!

 

――陛下が、負けた……!?

 

……バンッ……

 

光輝「ひ、光りがつい……た――!!」

 

ハジメ「……」

 

龍太郎「……おい、どういうことだ……この、惨状……!!」

 

香織「……っ! むごたらしいなんて、もんじゃない……!!」

 

香織「貴族が……兵士が……男も、女も関係なく……!!」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「……な、なんで……」

 

ガハルド「ぐ、こ、これは……!」

 

ガハルド「ま、魔物の……動きを止めるための……毒……か……!」

 

……コツコツコツ……

 

「――状況を把握してくれたようですね。ガハルド・D・ヘルシャー」

 

ガハルド「……お、おめぇか……この惨状を……」

 

ガハルド「男も、女も見境なしに……まとめて、皆殺しにして……」

 

ガハルド「『男』を裏切って……暴れてんのは……」

 

ハジメ「…………」

 

 

ハジメ「……『シア』……?」

 

 

シア「……」

 

ガハルド「がっ、くそっ……」

 

ガチャッ……

 

シア「動かないでください。ドリュッケンの一振りは、あなたの頭をたたき割るのに一瞬だけの時間があれば十分なんですよ」

 

シア「みなさん、良く動いてくれました。これで、歴史は変わります」

 

スッ……

 

ハウリアの青年「はい、『ボス』」

 

ハウリアの女性「これで、我々は救われる」

 

光輝「き、キミたちは……なんで……!?」

 

檜山「……おい南雲。こりゃぁ、どういうわけだ……」

 

ハジメ「あっ、……え……?」

 

ユエ「し……シア!?」

 

ティオ「おぬしっ……なにをっ! 何をやっておるのだ!?」

 

シア「何を、とは」

 

ティオ「ご主人が、お前たちのために亜人族の奴隷を解放するため、尽力していたのは知っているじゃろう!!」

 

ティオ「それを……なぜっ、なぜおぬしは!!」

 

ハジメ「な、んで……?」

 

ハジメ「……シア……?」

 

シア「……」

 

シア「みなさん、ちょっとそこにいてください」

 

シア「今から、『宣言』してきます。我々、ハウリアの新たな時代のために」

 

シュパッ……

 

ハジメ「ま、待て!!」

 

チャキッ……

 

ハウリアの青年「待ってもらおうか」

 

ハジメ「お、お前……!」

 

光輝「……どういうことだ。答えろ」

 

光輝「キミたちは……いったい、何をしてるんだ。何がしたいんだ」

 

檜山「大体からして、お前らのボスは南雲じゃねぇのか」

 

ハウリアの青年「……簡単な話ですよ」

 

ハウリアの青年「『ハジメさん』。あなたは、囚われていた我々に優しい顔を向けてくれた」

 

ハウリアの青年「だから、思ったんです。あぁ、あなたは――」

 

 

ハウリアの青年「『大したことのないやつ』だったんだって」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

【ヘルシャー帝国 城の頂上】

 

シア「……」

 

シア「……すぅぅぅぅぅぅ……」

 

シア「……」ピタッ……

 

 

シア「――聞けェェェェェェェェェェ!!! 我が同胞ォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

シア「いまっ! これよりっ!! この国は我々ハウリアが支配した!!」

 

シア「地を跳ね、空へと映す我々を拒む天蓋はなくなった!」

 

シア「もはや!! 何物も我々を押さえつけることは出来ない! 誰にも……! 誰にもだ!」

 

シア「自由……自由だ!!! 今こそこの自由の中で、我々が全うしたかった欲望に身を任せ、本能のままに荒れよ!!」

 

シア「殺せェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

シア「犯せェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

シア「奪えェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

シア「すべては! すべては!!」

 

 

シア「我らが崇める『大魔王ハジメさま』の名のもとにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

【――???】

 

――……結局、信仰のステータスがわかんないままだなぁ

 

――はぁ……どーしたもんか

 

――……

 

――ここ最近、全然人がこねーな

 

――……あーあ。ハジメたち何してっかなー

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

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