【――???】
――獣は力を求める
――人は知恵を求める
――力ある物は栄光を求める
――知恵ある物は深淵へと進んでいく
――それが己を破滅の道へと至らせようとも
――……それでも、かまわないのだろう。シア
――いいよ、なぜならそのために私がいるのだから
――私は、『キミ』の力だ
………………
…………
……
【ヘルシャー帝国 各地】
【一般治療院】
子供「……ねぇ、先生。なんだか町が騒がしいよ?」
医者「うぅむ……なんだろうか」
看護婦「先生、さきほど患者の方から聞いたのですが……」
看護婦「どうも貴族方のパーティーで、襲撃が起きたようなのです」
医者「襲撃!? もしや、魔人族か?」
看護婦「いえ、それがまだはっきりしていないようで……今からここに兵士が来てくれるので、彼らの指示の通りに移動するようにとのことです」
医者「そ、そんな……ここにはまだ魔人族の襲撃でケガをしたものが大勢いるのに!」
医者「……ぐっ、仕方あるまい。歩ける者にはなんとか歩いてもらって、残った私たちと同じ医者で患者を運――」
……ドォォォオン!!!
子供「ひっ!?」
医者「な、なんだ!? 一体何が起きた?」
……バタバタバタ……バンッ!!
ハウリアの男性「……ここにいたか、帝国の人間ども」
医者「お、お前らは……」
看護婦「ハウリア!? 奴隷がなぜここ――」
ザシュッ!!
看護婦「に゛、いぃ……っ?」
ドサッ……
子供「わっ……わぁぁぁぁっぁ!!!!」
医者「な、なんで!?」
ハウリアの男性「ふんっ……刃を持たなければこの程度か」
ハウリアの男性「所詮は我々奴隷を踏みつぶして得た地位だ。その青いケツで得た地位は大層見晴らしの良い場所だったのだろうなぁ?」
医者「ま、待て! 何を言っている!! ここは単なる町医者の一つでしかないんだぞ!?」
医者「それが……貴族と何の関係がある! お前たちは、なに――」
ザシュッ……
医者「ぁ、゛が……っ」
子供「せ、先生! せんせーーーー!!」
ハウリアの男性「愚かな。帝国の人間と言うだけでお前たちは罪を背負ったのだ」
ハウリアの男性「お前たち! 町の人間を殺して回れ!」
ハウリアの男性「俺たちには、その資格がある!」
ハウリアの男性「俺たちには、『大魔王ハジメさま』の加護があるんだ!!」
………………
…………
……
【娼館】
店長「く、クソ……っ、まさか、街の中がこんなことに……!」
娼婦「どうしましょう……! 今、店の子たちが逃げる準備をしているけど、兵士たちも来てくれないし……それどころか殺されて……!」
店長「っ……裏口だ! とにかく裏口のほうへ行け!」
店長「地下の通路を渡って、なんとか逃げるんだ!」
娼婦「その後はどうするの!? 逃げる当てなんてないのに!」
店長「それでも捕まるよりはましだ! はやく店の子たちを連れて逃げ出すんだ!」
娼婦「あ、あなたは……」
店長「俺のことを気にしてる場合か! 今は逃げる準備を――」
――ドゴォォォォンッ!!!
店長「なっ、なんだ……!?」
ハウリアの男性1「……ふんっ、安っぽい女だな」
ハウリアの男性2「所詮は帝国の女だ。硬貨一枚で買えるならこの程度のクラスってことよ」
店長「お、お前ら……奴隷がなんで、こんな……」
ハウリアの男性1「なんで? 我々ハウリアを蹂躙してきたお前たちが良く言えたものだな」
ハウリアの男性1「今度は我々の番、つまりはそういうコトだ」
店長「お、お前ら……!!」
娼婦「て、店長……!」
ハウリアの男性2「……なぁ、おい」ニヤニヤ
ハウリアの男性1「ふんっ、わかっている。期待してたんだろう?」
ハウリアの男性1「お前ら! ここにいる娼婦たちは俺たちの所有物だ!! 好きなだけ蹂躙しろ!!」
――ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!
――いやっ……! いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!
――やめてっ、酷いことしないで!!
――まってっ! お願いだから! せめて、せめて避妊具を!
――やだっ、奴隷のなんて! ハウリアの子なんて産みたくない!!
店長「な、なんてことを……!」
ハウリアの男性1「ふんっ。今更ではないか。そもそも男相手に体を売ってるのならば大して違いは……」
店長「あ、あるだろうが! そもそも俺たちの仕事は国から許可が下りてる仕事だ! 通貨を通じて交渉もせず、店の商品を傷つけるバカな客がどこにいる!」
店長「そんなだから、お前たちは野蛮な――」
バァンッ!!
……ドサッ
娼婦「いやぁぁぁぁ!!」
ハウリアの男性1「……なにを言おうとも、力で黙らされる。それが現実だ」
ハウリアの男性1「喜べ女。お前は、栄えある『大魔王ハジメさま』の眷属である、この俺の子を宿せるのだ」
………………
…………
……
【仮設住宅街】
ハウリアの……「いけぇぇぇぇぇぇ!!! 奪え奪えぇぇぇぇぇぇ!!!」
ハウリアの……「金だ! 財宝だ! 財産だ!! こいつっ……これだけ隠し持ってやがった!!」
ハウリアの……「いいわ! この家、私のにしちゃおっと! 家主なんてもうぶっ殺しちゃったし!」
ハウリアの……「逆襲だーーーー!!」
ハウリアの……「女は犯せ! 俺たちハウリアの偉大なる種をお前たちに配ってやる!」
ハウリアの……「虐殺だ! 女だろうが子供だろうが表通りに並べてしまえ!」
ハウリアの……「はははははーーー! 帝国の人間たちの頭を串刺しにしてやったぜ!」
ハウリアの……「ハッハー!! にげろにげろー!!」
ハウリアの……「あははは! 逃げてるやつをよぉ、背中から撃つのちょーたのしー!」
ハウリアの……「俺たちはいままで、ずっとずっと酷いことをされてきたんだ……!」
ハウリアの……「あぁ、その通りだ! 俺たちは今まで虐げられてきた! 同族の亜人からも、帝国からも!」
ハウリアの……「だから、俺たちは何をしても許されるんだ! 何をしても肯定されるんだ!!」
ハウリアの……「ばんざーい! ハジメさまばんざーい!」
ハウリアの……「はははは! 頭踏みつぶしたら動かなくなったぜこいつ!」
ハウリアの……「……よっわぁー! みたみた? 子供だけは殺さないでください~って言って撃ち殺されたこの女の顔!」
ハウリアの……「おいおい! お前今度は妊婦に手を出す気かよ! 俺の分も残しておいてくれよ!」
ハウリアの……「ひゃはははははははは!! すげぇ、すげぇよ! 帝国の人間どもが俺たちを恐れてやがる!」
ハウリアの……「あぁ……これが、俺たちの本当の力だったんだ!」
ハウリアの……「燃やせ燃やせ―! 目につくモノは全部燃やせ―!」
ハウリアの……「――みてますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ハジメさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ハウリアの……「すべて、すべてあなたのために捧げます! この国の命も! そのすべてを!!」
ハウリアの……「だから、どうか……我々に加護をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
………………
…………
……
【ヘルシャー帝国 パーティー会場】
リリアーナ「……なに、これ……こんな……!」
バイアス「……あり、えねぇ……」
バイアス「帝国兵でも……こんな……っ」
バイアス「……っ、ちぃ!」
グイッ……
リリアーナ「っ! バイアスさま!」
バイアス「秘密の抜け道がある! とにかくそこまで逃げるぞ!」
リリアーナ「で、でも! ハジメさんが! 光輝さんが!」
バイアス「あいつらは迷宮攻略者なんだろう! ここにいると危険なのはむしろ俺たちのほうだろうが!」
バイアス「逃げるぞ……見つからないうちに!」
………………
シア「……すばらしい」
シア「血の臭い、どこまでも奏でられる悲鳴、下敷きにされていく帝国兵たちの屍の数々」
シア「これが、私たちの力」
シア「これが、今の私たちの強さ」
シア「……そう思いませんか? ハジメさん」ニコッ
ハジメ「……」
ハジメ「――……ぁ、ぁ……?」
シア「……ぼんやりしないでくださいよぉ」
シア「それもこれも、全部あなたのためにやっていることなんですよ?」
ハジメ「お、おれの……ため……?」
光輝「……」
シア「……正直に言います」
シア「私、ハジメさんのことが好きです」
シア「いっしょにいてくれるのが好き。強くてかっこいいあなたが好き」
シア「……でも、それと同じくらいに」
シア「『気持ち良かった』……とても、とても」
香織「き、気持ち良かった……?」
シア「あなたといると、私は強さを実感できた」
シア「弱かったころの自分が、強くなっていく段階を踏んでいく楽しさを知れた」
シア「なによりも、強くてたくましいあなたの傍にいることで――」
シア「優れた『雄』に仕えているという充足感と満足感を得られた」
ユエ「……強さ、充足感……」
ティオ「っ……そういうことか……あの愚か者……っ」
シア「貴方が力を振りかざして、敵を踏みつぶしたとき……」
シア「あぁ、私はこんなに強い人が傍にいるんだってこの身が震えました」
シア「私に危害を加えようとするものに、威圧感を持って脅しをかけてくれることに……私は、それだけの魅力を持った女なんだって知ることが出来ました」
シア「……あぁ、でも」
ジャキッ……
ハジメ「っ……!」
シア「もう、あなたはいらない」
シア「だってもう、私には代わりの『強さ』を得られたから」
ハジメ「し、シア……っ!」
シア「ご安心をみなさん。全員……」
ジャキンッ!!
シア「苦しませずに葬ってあげますよ……!」
龍太郎「っ! か、かまえろ皆!!」
清水「い、いやいやいや! 構えろったって……ど、どうすんの!?」
恵里(……恐らくだが、このパーティー会場にはボクたちを囲むほどのハウリアが潜んでいるはず……)
恵里(つまり、真っ向でシアに立ち向かったところで、ボクたちは勝てない。暗殺に関してはこいつらがのほうが一枚も二枚も上だ……!)
鈴(そ、それって戦うことも逃げることも出来ないってコトじゃん!!)
香織(攻撃されたあとに癒しの術……ダメ! どうあがいても致死量のダメージを受けてしまう! 強引に突破だなんて無理……!)
檜山「っ……な、南雲!」
ハジメ「や、やめろ……シア……どうして……なんで……!?」
シア「……時間です」
ハジメ「し、シア!」
ティオ(全員を庇いきれぬ!)
ユエ(こうなったら、なんとか連れていける者だけ連れて――)
――……キィィィンッ♪♪
シア「っ……!? な、なに……!?」
ハジメ「な、なんだ……?」
清水「……? 『歌』……?」
……ドサッ、ドサッ……
ハウリアの男「な、なんだ……!?」
ハウリアの女「か、体から……力が、抜ける……!?」
シア「わ、私の仲間が……なにが、どうなって!?」
……コツ、コツ……
「……はぁ、まったく。せっかくのパーティー用のお祝いの言葉を用意していたのですがな」
光輝「……あ、あなたは」
ハジメ「お、お前!?」
イシュタル「やれやれ、ここは私の出番ですかな?」
ガハルド「お、お前は……聖教教会の……!」
檜山「……今の『歌』……そうか! 異教徒の力を弱体化させる『歌唱』!」
イシュタル「悪しき偽エヒトによって騙されていたところを勇者殿に救われたイシュタルでございます! お忘れなきよう!!」
イシュタル「さて、勇者殿。逃げるなら今では?」
光輝「……! 南雲! 南雲!!」
ハジメ「っ……」
檜山「と、とにかく外に出るぞ! こいつらが動けないうちに!」
シア「な、なぜ……私たちの、動きが……!」
香織「な、南雲くん!!」
ハジメ「わ、わかった……」
バタバタバタ……
………………
清水「あ、な、なぁ! そういえば八重樫は!?」
恵里「マズイ、まだ城のほうにいるんじゃ……」
香織「っ……! わ、私! 戻って助けに!」
ガハルド「……いや、気にしなくていい」
ガハルド「この状況下だ。たぶん、『勝手に』逃げてる」
香織「……それって、どういうことですか」
ガハルド「……どういうこと、か」
ガハルド「事情なら、あとで当人に聞け。いそぐぞ!」
………………
…………
……
【ヘルシャー帝国 メインストリート……の端にある裏路地】
ハジメ「こ、これは……」
光輝「…………死体が、こんなに……」
檜山「じょ、冗談じゃねぇぞ……表通りに見えるだいたいの死体がガキとか女ばっかだ……!」
清水「け、汚されて、傷つけられて、犯されて……殺されてる……! 見境なしに……!」
鈴「っ゛……! うぅ゛……っ!」
恵里「ばかっ、見るな……っ」
香織「み、みんな。顔を出さないで! みつかっちゃう……!」
コソコソッ……
恵里「……息をひそめながら進んでいこう」
清水「南雲、ここからフェルニルまで……どれくらいで……」
ハジメ「ヘルシャー帝国の外に……徒歩でもそこまでは遠くない……」
ハジメ「今、蜘蛛型のゴーレムで道を確保している。何とか、そこまで行こう」
香織「……姫様とバイアスさまは。雫ちゃんは?」
ハジメ「……途中で拾う。八重樫も、無事なようだ」
……ドサッ
ガハルド「クソがっ……なんで、こんなっ……!」
ハジメ「……が、ガハルド……その」
ブンッ……ガシッ!
ハジメ「ぐっ……!」
ユエ「ハジメ!」
ガハルド「テメェが……テメェが……!!」
ガハルド「テメェがこんなことを! よくも!」
ギリギリ……
ハジメ「が、がはっ゛……!」
清水「まっ、ちょ! ちょっと待って!」
龍太郎「オイ! そいつ死んじまうぞ!」
ガハルド「あぁ゛!? 死んでも構わねぇだろうがよこんな奴!」
ガハルド「自分の女やその部下のことすら把握出来てねぇくせに……なにが魔王だ! なにが!」
ハジメ「……っ」
ガハルド「……おめぇ、ちょっとでも考えなかったのかよ」
ガハルド「今まで虐げられていたやつらが、暴走するって可能性をよ」
ガハルド「オメェは確かに力を得て暴走しなかったかもしれねぇ。でもな……」
ガハルド「でもな!!! お前が違ったとしても、お前を慕っている連中がそうじゃねぇ保証はねぇんだぞ!」
ガハルド「どうして力に溺れることを考えなかった!? なんであの連中に力を与えた!? あんな武器を!!」
ハジメ「……っっ!」
スッ……
光輝「……そこまでにしてくれ」
ガハルド「……クソッ、くそっ……」
光輝「南雲、お前……大丈夫か」
ハジメ「……心配、いらないっ……」
ハジメ「みんな、早くこの国から出よう。はやく、しなければ――」
――ヒュゥゥゥゥゥゥゥ……!
ハジメ「――ッッ!! に、逃げろォォォォ!!!」
――ドォォォンッ!!!
シア「……ちっ、逃げましたか」
ハウリアの男「ボス、追いましょうか?」
ハウリアの女「どうもあいつら、三手に分かれたようです」
シア「『魔王さま』は私がやります。あなたたちは……余ったほうを」
………………
…………
……
【……ヘルシャー帝国、裏通り】
【……ハジメ組】
光輝「つ、ついてこれてるか!? みんな!」
ユエ「だ、大丈夫……」
ティオ「妾たちは大丈夫じゃが……」
ハジメ「……っ、大丈夫だ。足を引っ張るつもりは……ないっ……!」
ザッ……
イシュタル「無茶をしないでいただきたいものですな」
イシュタル「そうでなければ、私が死んでしまう」
ハジメ「っ……あぁ、分かってるよ……!」
カチャカチャ……キキッ
ハジメ「……ゴーレムで分散した全員の位置を把握した」
ハジメ「とりあえず、ゴーレムの後を付いて行けばフェルニルの所へ行けるようにしたから……」
光輝「あとは……運しだいってところか」
ユエ「えと、人数は……」
ティオ「ご主人、光輝、ユエ、イシュタル、妾……五人か」
ハジメ「……大体の人数を把握した」
ハジメ「檜山、龍太郎、ガハルドの二組目」
ハジメ「清水、白崎、中村、谷口の三組目」
ハジメ「……こんな感じに分かれている」
ハジメ「あと、ゴーレムたちからの連絡だが……今、バイアスと姫様」
ハジメ「……八重樫のほうも俺のゴーレムと接触したのを確認した。そう時間がかからないうちに合流できると思う」
光輝「……問題はシア……ハウリアたちか」
ハジメ「……っ」
スタスタスタ……
ティオ「……状況は最悪じゃな」
イシュタル「戦力の分散。これだけでも我々は不利に追いやられているというのに、ハウリアたちは隠密と暗殺に長けた者ばかり」
イシュタル「恐らくですが、このままヘルシャーにいるだけで我々はどんどん追い詰められていく。仲間内を心配するよりも、急いで外のフェルニルの所にいき、何としても逃走経路を確保しなくては」
スタスタスタ……
ハジメ「……」
ユエ「……ハジメ」
ハジメ「……」
ハジメ「ずっと、あいつはのんきな奴だと思っていた」
ハジメ「……いや、平和ボケしていて、ドジでおっちょこちょいなやつだったけど」
ハジメ「それでも、どこか一線を超えないやさしさがあると思っていた」
ハジメ「……俺はそれを見抜けなかった。いや……汲み取れなかったんだ」
ティオ「……」
光輝「……」
イシュタル「まぁ、なんらおかしなことではありませんな」
光輝「お、おい……!」
イシュタル「今まで虐げられてきた者が、いざ逆転し、恵まれた環境に身を置けるというのであれば、選ばない選択肢などありえない」
イシュタル「本来であれば、虐げられていれば爆発しなかったであろう者を爆弾その物に変えたのは――」
ハジメ「……っ」
光輝「もういい! もういいだろう!」
シア「えぇ、もういい。その通りです」
ハジメ「! お、お前……」
ユエ「っ……! シア!」
ティオ「おぬし……!」
シア「ハウリアは耳が良い。それでいて、敵の気配に対しては敏感なんですよ」
シア「もちろん覚えてますよね。『大魔王様』」
光輝「……」
シア「……」
シア「ねぇ、そこの勇者(笑)さん。何か言いたいことがあるなら聞いてあげますよ?」
光輝「そうか、だったら聞かせてくれ」
光輝「まず一つ。お前たちが南雲を裏切ったことに関しては後回しにするとして……」
光輝「どうして、南雲の名前を振りかざして戦ってるんだ」
シア「……あぁ、その点か」
光輝「聞かせろ。お前の真意を」
シア「……はぁ、そもそもですね」
シア「ハジメさん。あなた、元の世界に帰っちゃうんですよね」
ハジメ「……それは、そうだが……」
シア「あなたの精神力とその強さは賞賛に値します。元の世界に、家族の元に帰りたい。そのために身に着けた力。すごいと思います」
シア「きっと、自分の家族が好きだと思っていた私でも、そこまで強くなれなかったでしょう。きっと」
シア「……で、一つ聞きたいんですけど」
シア「それ、元の世界に帰ったらどうするんです?」
ハジメ「……どう、する……?」
シア「あなたは元の世界に帰るために力を手に入れた。なら、『帰るための力』は、帰ったらどうするんです?」
シア「……私たちはですね。それがあまりにももったいないなって思うんですよ」
シア「貴方が残した力! あなたが築き上げた名声! これほどまでに力をつけたものを! あなたは! 用がなくなったら捨てようとしている!!」
シア「じゃあ! じゃあいいじゃないですか! 元の世界に帰って、名声も力も捨てるのであれば! せめて名声だけを! 私たちの生きる指針としての名前だけを残してくれたっていい!!」
光輝「お、お前……!」
ティオ「……なるほどの。ようやく読めたぞ……!」
ティオ「これは単にご主人に汚名を着せるためではなく……ご主人と言う……『南雲ハジメ』の偶像を作り上げ! それらに賛同する者たちの心を引っ張るための……!」
光輝「っ……! 『神輿』にするつもりか!」
イシュタル「……神の名の下であれば、誰もが残酷になれる」
イシュタル「今、南雲殿の名声はハウリアだけではない。亜人族を含め……いや、人間たちにもその名前は深く刻まれている……」
イシュタル「そうなれば、戦火はヘルシャーだけではなくなりますな」
ユエ「な……なんてことを!」
ハジメ「そ、んな……おれは……」
ハジメ「そんな、つもりで……おれはっ……!!」
シア「……そういうところですよ。あなたの『そんなつもりじゃ』……あなたは、それでこの世界を引っ掻き回した」
シア「そしてあなたは、そうやって引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、元の世界に帰ろうとしている」
シア「あなたの『最強』とは、家に帰るまでの『一時的な最強』でしかない」
シア「でも、私たちは違う。生きるためであるならば、『最強であり続けなければならない』」
シア「だって、この世界で亜人族が生きていくにはそうするしかないから」
光輝「お、お前……っ! お前ッッ!!」
シア「……前に、こういいましたよね。光輝さん」
シア「お前は、帝国兵とどう違うのかって」
シア「……その通りだと思います。私たちハウリアは、安堵や安寧が欲しい。最強と言う、安全地帯が欲しいんです」
シア「あなたが、他者を守るために戦って平和を得るというのであれば――」
シア「私たちハウリアは、幾千の屍の山の上で『安寧』を得る」
シア「……さて」
ハジメ「……」
シア「あなたが今、指をかけているドンナー」
シア「早くそれで私を撃ってみたらどうです?」
ハジメ「……」
【……ヘルシャー帝国、裏通り】
【……檜山組】
檜山「……それがテメェらの企みか」
龍太郎「……」
ハウリアの男「あぁ、その通りだ」
ハウリアの男「もはやあの男になんら利用価値はない。そうであるならば、せめて俺たちの崇める『魔王』として利用させてもらう」
ハウリアの男「信じられるか!? 今、南雲ハジメの名前は、世界を揺るがそうとしているんだぞ!?」
ハウリアの男「俺たち魔王の眷属が! この世界を支配できるんだ! 笑いが止まらないね!」
ハウリアの男たち「――アハハハハハハ!!!」
ガハルド「……クソがっ、この畜生共……!!」
檜山「……」
龍太郎「檜山、さっきの話を聞いて思うところあるんだろ」
檜山「まぁな」
龍太郎「だったらガツンと言ってやれ。お前には、その資格がある」
檜山「……」
檜山「俺さぁ……」
檜山「あいつのことを虐めてたんだよね」
ハウリアの男「? 何が言いたい」
檜山「あいつってばさぁ、クッソきめぇオタクだし、普段からへらへらしていて見ていてイラつくしよぉ」
檜山「だから訓練なんかでもこっちがボコボコにしてやったりよ。マジで笑えてんだわ。あいつ」
檜山「でもよ、あいつがいなくなってからさ、自分で力をつけてさ」
檜山「それなのに、再会してからのあいつ……俺に復讐しようってそぶり、全然見せなかった」
ハウリアの男「……何が――」
檜山「アイツは力をつけていても、それを復讐に利用しようとはしなかった」
檜山「今のテメェら、すっげぇダセェ。力つけてイキリまくったいじめられっ子その物じゃねぇか」
………………
…………
……
【……ヘルシャー帝国、裏通り】
【……清水組】
ハウリアの女「今こそ革命の時なのだ!」
ハウリアの女「使えるものはすべて利用し! 戦って見せる! それがハウリアだ!」
鈴「か、囲まれてる……よね……!?」
恵里「……いいか、無理に動くなよ。下手に動けば、攻撃される……!」
香織「う、うん……」
清水「……」
スッ……
清水「俺さ、ずっとずっと誰からも目を見てもらえなかったんだ」
ハウリアの女「……は?」
清水「両親とも折り合いがつかなくて、家族ともどんどん壁が……厚くなっていくってのかな。それをさ、肌で実感したよ」
清水「この世界に来て、目が濁るっていうのかな……みんなを裏切って、魔人族につこうとした時は……きっと酷い目をしていたと思う」
清水「きっと南雲が俺の目を見て、濁ったままの目だったら絶対に殺されてたよ。絶対に」ハハハッ……
清水「……でも」
清水「あの時が初めてだったんだ。俺、誰かに真正面から『目』を見てもらえたの」
スッ……
ハウリアの女「動くな! 動けば狙撃する!」
清水「ビビってるってことは、お前らって内面は変わってないんだな」
清水「所詮は臆病者のウサギか」
ハウリアの女「黙れ! 我々は変わったのだ!」
ハウリアの女「ボスの未来視がある限り! 我々が負けることはない! 絶対に!」
ハウリアの女「あの方がいる限り!」
清水「――どんな未来を見たかは知らないけどな」
清水「踏みにじった人の心すら向き合えない『節穴』だったら、俺はいらないね」
………………
…………
……
【……ハジメ組】
ハジメ「……て、ない……っ!!」
シア「……」
ハジメ「撃てないっ……!」
ユエ「は、ハジメ……っ」
ティオ「……っ」
ハジメ「撃てるわけがないっ……『大切』を……! 共に過ごしてきた家族を……! 俺はっ……!」
イシュタル(……あたりまえでしょうな)
イシュタル(南雲殿の強みは、関係ない他人であるからこそ遠慮なしに震える力)
イシュタル(それが……『関係ある』、『他人でない』というのならば……その力は……)
シア「……私は、正しかった」
シア「その脆弱な心では、私たちの思い描く魔王には程遠い」
シア「人生を『ついで』て生きてるあなたが、『必死』で生きなければならない私たちと同列なはずがなかった」
光輝「だったら、そんな『ついで』で生きてる人間から受けた施しを捨てろ。それが筋だ」
ユエ「! 光輝……」
シア「……」チッ
光輝「南雲、撃てないか」
ハジメ「……っ」
光輝「今まで、無関係の者は殺せて」
光輝「自分にとって大切な人がいるなら殺せないのか、お前は」
ユエ「ま、待って……いわないであげて……!」
ティオ「……」
光輝「……」
光輝「そうか、そうなんだな」
光輝「よかった。それなら、お前はまだ『人間』だ」
ハジメ「――……えっ」
光輝「本当だったら、お前が背負った罪業は俺たちも背負わなければならなかったものだ」
光輝「お前がかけた負担、俺たちが背負いきれるものではない」
光輝「救えるものなんて、限られている。だからこそ」
チャキッ……
光輝「その手を払いのけるバカを切り伏せることはできる」
シア「……勝てるとでも? 遥かに強くなったハウリアに」
光輝「さぁね。だけど、勝てるまでやってやるさ」
光輝「――俺の
………………
…………
……