【夢の中】
――……
――……
――……
――まて、いくら何でも静かすぎないか……?
――秘めた心の闇があるならば、引かれるようにこの場所にやってくる
――だというのに……これは……
――誰も来ないとは……どういうことだ……?
――……
キィィィィィンッ……
――……!? な、なんだ……
――えっ、ステータスプレートが……
――ハジメのステータスプレートが……光ってる……?
――ハジメの『信仰』の値が……無限の数値が……
――なんだ、何が起きてる……?
――……
――こ、これは……
――ちょっと中止! 中止だ! ステータスプレート調べるの中止!
――今すぐにハジメたちの様子を……
……ドサドサドサッ!!!
――……ん、は……?
光輝「っ……、えっ、ここって……」
檜山「はっ、なに……?」
香織「……えっ、えっ……?」
――……ん、んんんんん!?
ユエ「っ! ここって……」
ティオ「……夢の、なか……?」
――えっ、えっ、えっ
恵里「……こーれーはー……」
清水「は……? は!? どこよここ!?」
鈴「こ、今度は何なのぉ!?」
――ちょ、ストップストップ! なにこの大所帯!!
雫「……ねぇ、ここ」
龍太郎「たぶん、お前と同じだ」
龍太郎「……だんだんと思い出してきやがった。ここは、ずっと前に来たことがある『夢の中』だ……!」
光輝「……そ、そうだ……そうだ!! 俺たちは! ずっと前からここに来ていたんだ!!」
檜山「……なんで今まで忘れてたんだ。こんな場所、忘れるわけがないのに……」
清水「な、なんだろ……今まで空っぽだった頭の中に情報が……バーッと蘇ってくる……」
――うわうわうわうわうわっ……! なんだよなんだよどーなってんのよこれ……!
――封じてた記憶も蘇りだしてる!? なんで!?
光輝「! 声の主! そこにいるんだろ!?」
――ゲェー! 気づかれた!
光輝「コイツを……!」
光輝「南雲を! 助けてやってくれ!」
――……は? なにいって……
ハジメ?「……ぁ゛、ああぁ゛っ……」
――!! ハジメ……!?
香織「お、おかしいの! ずっと意識がはっきりしなくて……ずーっと声をかけても返事がなくて……!」
恵里「それだけじゃない。彼から感じられる『魂』から、明らかに『異物』と思わしきものを感じる」
恵里「……キミなら何か知ってるんじゃないか。南雲の不調を」
――……ちょ、ちょっと待て……
――まず一から説明しろ! 私が干渉してない間に何があったんだ!?
光輝「……」
………………
…………
……
【――時はさかのぼること数時間前】
【ハウリアの群れを掻い潜り、ヘルシャーを抜け出して……】
【フェルニルにて】
………………
ガハルド「……見ろよ。俺たちの国が燃えてやがる」
ハジメ「……」
バイアス「……」
ガハルド「帝国内は荒れに荒れまくり……抜け出した奴隷たちが殺しまわってるだろうな」
バイアス「……オイ、お前らの術で連中を止められないか」
恵里「ムリ」
ガハルド「……ちっ、はっきり言いやがる」
清水「あ、いやぁ……その……」
清水「……む、無理だよ。俺たちの体力や精神力もいろいろと限界なんだ」
清水「たぶん、今頃操っていたハウリアや死体のほうも元に戻っている」
バイアス「……ハッ、そうかよ」
バイアス「強さを示してきた帝国が、強さを持ち合わせた奴隷に逆転される」
バイアス「弱者共が自分を慰める様な英雄劇のように勝利を得やがった。笑えねぇ。ほんとうに……笑えねぇ」
清水「……」
恵里「……」
ハジメ「……その、ガハルド」
ハジメ「ハウリアの件、ゴーレムの件、今回のヘルシャーのことを含めて……」
ハジメ「すべて――」
ガハルド「やめろ」
ハジメ「あ、で、でも」
ガハルド「やめろ」
ガハルド「やめてくれ」
ハジメ「……っ」
ガハルド「お前がもしも俺に対して情けをかけようとしてるならな」
ガハルド「それは慰めにならねぇ。同情で包み込んだ侮辱ならいらねぇ」
ガハルド「……俺たちの国は自己責任の国。俺は、俺の判断と責任を持ってお前に乗っかった」
ガハルド「そして賭けに負けた」
ガハルド「ヘルシャーの代を俺で終わらせたわけだ」
バイアス「終わりじゃねぇ」
ザッ……
バイアス「俺はリリアーナと婚約した」
バイアス「帝国その物が消え、地位も土地も国も消えた」
バイアス「けどな、何もかもなくなっても俺には『俺』がいる」
バイアス「俺がいる限り、俺自身が帝国だ」
バイアス「そうだろ、南雲ハジメ」
ハジメ「……えっ」
恵里「ちょっと待て。確かにキミやガハルドがいるが……肝心かなめの国そのものがもうないんだぞ」
恵里「この婚約は国力を強化するためのモノ。それならば、ヘルシャーその物が消えたら意味が……」
バイアス「お前、帝国にゴーレムを売ろうとしてただろ?」
ハジメ「……! あれを、利用するつもりか……」
バイアス「お前が用意していたっつーゴーレムを俺たちに寄越せ」
バイアス「兵士にも奴隷にでもなんにでも使えるってんなら、俺はそれをハイリヒに持ち込んで売り込む」
バイアス「失ったヘルシャーをゴーレムで補う。それが俺の手段だ」
ガハルド「なに……?」
バイアス「俺とリリアーナの婚約は、本来はハイリヒとヘルシャーを結ぶことで魔人族に抵抗するためのモノだった」
バイアス「だが、帝国その物がなくなったら、俺とリリアーナの婚約に意味はない。帝国がなくなっちまったなら、兵もくそもねぇからだ」
バイアス「だからこそ、お前のゴーレムがいる。帝国そのものに売りつけようとしていた『商品』。帝国が買っていたモノを、兵力の代用として、ハイリヒに捧げる」
ハジメ「……相手のほうが、話しを聞いてくれる保証は」
バイアス「迷宮攻略者が作った特別製のゴーレムだぞ。何よりも、お前はハイリヒを攻め入った魔人族を退けている。説得力なんて十分だろうが」
清水(……南雲のつくるゴーレムは迷宮攻略者によるアーティファクト……! そうか、それを狙って……)
ハジメ「あんたらがいいなら、俺は構わないが……でも、本当に……」
バイアス「くどい。何を言おうとも、もう選んだんだ」
バイアス「何よりも、今のお前の犯した罪はデカい。ならば、その罪を償うためにもお前は相応のモノを差し出さなければならない」
バイアス「お前が、もしも俺たちに償いたいんだったら……その誠意ある形でゴーレムを寄越せ」
ハジメ「……」
ガハルド「……」
ガハルド(こ、こいつ……)
ガハルド(南雲ハジメの心に付け込みやがった……!)
ガハルド(南雲ハジメの強さは、本人でさえも無自覚に振舞っている強靭な力。こいつは、自分の身の程と言うものを、実は自分以上にわかっていない)
ガハルド(どれだけ力をつけていようとも根が一般人……生来のヒトの良さとしての弱さを、付け込まれた……)
ガハルド(それを、こいつは見事に見抜いて魅せて、迷宮攻略者としてのアーティファクトを……実質タダで手に入れやがった……!)
バイアス「おう、返事はどうしたよ」
ハジメ「……わかった。それが、アンタらの望むことなら……」
ガハルド(……バイアスの野郎、いつの間にそんな交渉術を得やがった)
バイアス「……」
バイアス(あぁ、そうさ。絶対に、こんなところで死ぬつもりはねぇ)
バイアス(俺を俺たらしめる帝国は消えた。ゼロから始まる俺のステータスを、俺自身で積み上げる)
バイアス(せいぜい利用させてもらうぜ……魔王様よ……)
清水「な、なんか大人な会話―……」ヒソヒソッ……
恵里「黙って聞いてろアホ」ヒソヒソッ……
バイアス「……見ろよオヤジ。あのヘルシャーの地を」
ガハルド「あぁ、焼けてるな」
バイアス「畜生共が起こした火だ。俺は、いつかあの火を畜生共に向けてやる」
バイアス「……今は譲ってやるさ。でもな、いつかはあの土地を奪還し、俺こそがヘルシャーの長になる。絶対にな」
………………
【フェルニル内部】
………………
龍太郎「……はぁぁぁぁ……見せるわけにはいかないってのはわかるけどよぉ……」
檜山「……死体だらけ、だな」
光輝「それでも結構きれいなのが幸いだな。息をさせないことで死なせてるから……」
光輝「ほぼ血まみれじゃないのが……うん、でもなぁ……」
龍太郎「死体なんて……みたいもんじゃねぇ、か」
龍太郎「んでよぉ、何人かいねぇのがいるんだけど」
光輝「リリィや雫には……こういうの見せるわけにはいかないからさ」
光輝「イシュタルさんは疲れたのか眠るーっつってね」
檜山「良いご身分だなぁオイ」
龍太郎「活躍してくれたからいいんじゃね?」
光輝「……まぁね」
光輝「……」
光輝「あー、でもなぁ!!」
光輝「この死体を残しておけって結構きついって!」
檜山「しょうがねぇだろ。清水やら恵里やらがなんか調べたいからっつってるんだからよ」
龍太郎「それでもどっかしらにしまっておきてぇな……何人か部屋の隅に置いておくか?」
光輝「……だな」
…………
ガチャッ……
香織「し、雫ちゃん! 今までどこに行ってたの!?」
雫「……ちょっとね、いろいろあって城の寝室で休憩してたの」
雫「疲れが、たまっちゃって……」
鈴「それだったら、言ってくれればよかったのにぃ。んもー、寂しいことするなぁ」
雫「あ、あはは……ごめんね」
雫「……」
雫「その、本当に疲れてるから……またあとで、ね」
鈴「そ、そっか! じゃあしょうがないね……!」
香織「……」
香織「ガハルド陛下に何をされたの」
鈴「……えっ、カオリン……?」
雫「……」
香織「陛下に雫ちゃんのことを何回か聞いてみたの」
香織「まるで、触れたくない物に触れる様な……そんな言い回しだった」
雫「……」
香織「……お願い。友達として、聞かせてほしいの」
香織「アナタたち二人に、いったい何があったの……?」
雫「……」
雫「大丈夫よ、香織。あなたが考える様な事なんて、何もなかったから」ニコッ
香織「……雫ちゃん……?」
鈴「えっ、えっ……?」
雫「……それじゃあね。私、本当に疲れてるの」
コツコツコツ……
香織「……雫、ちゃん……」
………………
雫「……」
雫「……はぁ」
雫「……」
雫「なんで……」
雫「どうして……みんな……」
ガハルド「おい」
雫「! へ、陛下……」
ガハルド「……お前、あのことは言ってないだろうな」
雫「……はい」
ガハルド「……そうか」
ガハルド「……」
雫「……」
ガハルド「いいか、これはお前のためでもある」
ガハルド「『何もなかった』……いいな」
雫「……はい」
………………
…………
……
【………………】
――……
――来る
――もう少しで
――……
――来れる
………………
…………
……
【フェルニル内部】
………………
恵里「んじゃ、これから死体の様子を調べるよー」
恵里「今からボクと清水で死体に残る残留思念を探ろうと思う。ボクたちの力があれば、生前のこいつらがどんな考え方をしていたのかわかるはずだ」
清水「ええと……イシュタルさんとリリアーナ姫。ユエとティオは別の部屋でお願い。その、こんな光景だし」
リリアーナ「私は構いませんが……」
イシュタル「私はよろしいのですかな?」
恵里「聖教教会のトップに立ち会ってもらえると助かるなぁとは思ってるんだけどね。いろいろな人の意見は欲しいし」
恵里「でもさぁ、何かあった時のためにリリアーナ姫を守ってくれる人は必要なんだよね。何気に実力者じゃん、アンタ」
イシュタル「はっはっは……そう言ってくれると嬉しくなりますな」
ユエ「えっと、私たちは?」
ティオ「良いのか? ここにいなくて」
恵里「さっきも言ったように、今はリリアーナ姫を守る様に見ていてほしいんだよ」
恵里「……職業としての勘、っていうのかな。なるべく、この部屋にいさせたくない」
………………
恵里「……」
鈴「……ど、どーかなー?」
恵里「……」
檜山「……何してんだアイツ」ヒソヒソッ……
清水「……なんか、魂を見てるって言ってたよ」
清水「死体に残る残留思念を調べてみたいんだってさ」
檜山「あ? なんで?」
恵里「……」
恵里「南雲、お前……自分の持ってる武器を盗まれてたりしない?」
ハジメ「? ええと……」ゴソゴソッ……
ハジメ「俺のアーティファクトは一つも盗まれていない。奪われていたのは……フェルニルだけのはずだ」
恵里「……そうか」
香織「……何か気になることがあるの?」
恵里「……」
恵里「不可解」
ハジメ「……? 不可解?」
恵里「こいつらの行動、色々と気になる点が多すぎる」
恵里「まず、南雲を裏切ったこと」
檜山「……こいつに見切りをつけたからだろ。魅力がなくなって、自分たちの一族にとって利点がなくなったからーっつって」
恵里「利点云々で語るなら、なおのこと裏切るべきじゃない」
恵里「だって、武器も弾薬も、元々は南雲が作ったものだ」
恵里「それで裏切ったりしたら……南雲の支援を受けられなくなる。武器の補充も支援もないのに、なんで裏切ったんだって思わないか」
バイアス「武器やら弾薬がなくなったとしてもヘルシャー帝国があるからじゃねぇか?」
ガハルド「……帝国には外部に漏らすことが憚れるアーティファクトがいくつかある」
ガハルド「南雲ハジメからの支援を受けられずとも、それをあてにしていたと考えれば不自然ではないが……」
恵里「いや、物資の支援だけじゃないんだ。もっと、ほかにもあるんだよ」
恵里「こいつらの『魂』から、『何者』かが干渉した跡がある」
ハジメ「は……!?」
ユエ「……操られていたってこと?」
恵里「……か、どうかはわからない」
恵里「だけど、こいつらの魂から感じられるものは、喜びに満ちていた……もっと言えば、勝利を確信できるきっかけ、そういったものに触れた事によるものだ」
恵里「……仮説だけど」
恵里「たぶんこいつら、誰かから干渉を……もっと言えば、南雲に代わる『あて』があったのかもしれない」
光輝「あて?」
恵里「いくらハウリアたちが南雲本人に見切りをつけるのであれば、もっと……搾り取れるだけ搾り取って、機を伺ってから殺すはずだ」
光輝「いや、酷い発想だな……」
恵里「それなのに、話もまとまりかけて、今後帝国からも襲撃を受けることのないゴーレムの案を蹴っ飛ばして……そのうえ、すべての人間を、ヘタすれば同じ亜人族からも敵対されるような選択を選ぶなんて……いくら何でもリスキーがすぎる」
恵里「それなのに、南雲に媚びを売ることもなく、それでも裏切りを選んだということは……」
恵里「南雲に代わる、強力な『後ろ盾』が出来た可能性が高い」
ハジメ「ま、まて……お前の仮説の通りなら……」
光輝「南雲とは別の……ハウリアたちの支援者がいたってコトか?」
ハジメ「な、なら言い換えれば……」
ハジメ「そいつらに唆されたってことか!? だからシアは……!」
恵里「待て待て。仮に唆されたって言っても結局はこいつらが自分の意思で裏切ってるんだよ?」
恵里「そういう方向に希望を持つべきじゃないと思うなぁ」
ハジメ「そ、そうか……」
檜山「いやっ、つかお前はなんでそこま分かるんだよ」
檜山「ハウリアが南雲を利用し尽くすだとか、別の支援者がいたから裏切るとか」
恵里「だって、同じ立場だったら僕『も』そうするもん」
檜山(あぁ、納得……)
光輝(あぁ、納得……)
清水(どうしよう、俺も同じ考えだ)
恵里「……だけど、不可解なのは接触してきた相手の正体だ」
恵里「『魂』レベルにまで影響を及ぼすっていうのがわからないんだ」
恵里「普通の人間に接していたら、こうはならない。もっと……超次元? 一種の、高位な生命体に触れた痕跡……?」
恵里「……少なくとも、亜人だとか魔人だとか、そんなものじゃない。異様な、何か底の見えない何かが……」
清水「な、なんだよそれ……こいつら、何をあてにしていたんだ……?」
香織「……? あれ、ちょっとまって?」
光輝「? どうしたんだ香織」
香織「いや、あのね……なんだか」
香織「死体の耳が、動――っ」
――…………ムクッ……
ハウリアの男性「……あぁ……」
香織「あっ、え……!?」
光輝「っ……な、なにっ……!?」
ハジメ「――っ!! みんな! 離れろ!!」
――ズバッ!!
ガハルド「――っ……ぁ゛っ、あっ……?」
ハジメ「なっ、あっ……!?」
ガハルド「な、にぃ゛……!?」
――ドサッ……
バイアス「お、オヤジィィィィ!!!」
光輝「が、ガハルド陛下が……!」
龍太郎「こ、殺された……!」
檜山「ば、馬鹿野郎! そんなことよりも、アイツ!!」
ハウリアの男性1「……っ! よ、蘇った……! やっぱり……!」
ハウリアの男性2「うぉぉぉぉぉ!! 蘇った! 俺は蘇ったんだ!!」
ハウリアの男性3「やはり俺たちは……『加護』があるんだ! あの方の加護が!」
清水「し、死体が!? 次々に蘇ってる!?」
ハウリアの男性1「っ!! 見ろ!! 敵だ! 俺たちの敵が! この船の中にいる!」
ハウリアの男性2「殺せ! 殺せェェェェェ!!」
――ドパパパパパパパパンッ!!!
ハウリアの男性1「ぐぁ゛っ!!」
ハウリアの男性2「ぎぃっ゛っ!!」
ドサッ……
ハジメ「っっ……!!」
檜山「う、うぉぉぉぉ……! さ、流石の早撃ち!!」
ハジメ「俺のことはいい! それよりも、ガハルドは!」
光輝「陛下! ガハルド陛下!!」
バイアス「……ダメだ」
バイアス「死んでる……! 首を横一文字……即死だ……!」
鈴「そ、そんな……!!」
清水「ま、待ってくれよ! その前になんでコイツら生き返ったんだ!? だって、だって死んでっ……!!」
恵里「……ちょっと待て、こいつら……」
恵里「っ!! 脈が止まってない! まだ生きてる……いや、蘇ろうとしている!!」
――ブンッ、ガキィンッ!!
雫「ぐ、うぅぅぅっ!」
香織「雫ちゃん!」
ハウリアの男性「っ……! このっ、女ぁ!!」
檜山「やべぇぞ! また蘇り始めやがった!」
清水「ど、どうすんだよ! こいつらキリがねぇぞ!」
ハジメ「……! こうなったら!」
――シュッ……ピピッ!!
ハジメ「お前ら! 近くの物に掴まれ!!」
光輝「えっ、なにが――」
――バタァンッ!! ビュゥゥゥゥゥ……!!
ハウリアの男性たち「わっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
清水「わっ、わぁぁぁぁぁぁ!! ゆ、床の穴が開いたぁあぁぁぁぁぁ!?」
ハジメ「万が一のために備え付けておいた緊急脱出用のための機能だったが……殺しても生き返るならフェルニルから追い出す!」
ハジメ「お前ら、しっかりつかまってろ!」
………………
………………
………………
ハジメ「……と、とりあえず……ハウリアの連中は外へと落とした……これで……」
光輝「みんな! 無事か!」
龍太郎「な、なんとかな……」
雫「……こっちもよ」
香織「みんな! 大丈夫!?」
檜山「お、おう……」
清水「ひぃー、ひぃー……ま、まだ足ががくがくする……!」
恵里「とんだエキサイティングな体験だったな……」
バイアス「……オヤジの死体は、あのまま落ちて行っちまったか」
ハジメ「……あ、その……」
バイアス「止めろ。情けねぇ言葉は聞きたくねぇ」
バイアス「それよりもさっきのはなんだ!? なんであの連中が生き返りだしたんだ!?」
恵里「……あいつらは、脈がなかった。いや、それどころか首を切られてるものもいたんだ」
恵里「なのに、全員が全員……欠損した部分を復活させて生き返りやがった……あれはいったい……」
――パタパタパタ……バンッ!!
ユエ「い、今のなに!?」
ティオ「……この惨状は……」
光輝「二人とも……」
イシュタル「……どうやら、我々が考えているよりも事態は急転しているようですな」
――……聞こえるか。異界の者たちよ
ハジメ「っ……な、なんだ……?」
光輝「……声……?」
――聞こえるのならば、お前たちの船にある甲板へと来るのだ
――ハウリアの代表として、お前たちと言葉を交わそう
ハジメ「……!? これって……」
清水「お、オイ中村……さっきのやつ、ハウリアの代表って言ってたよな……」
清水「もし、お前と俺の考えていることが一緒なら……この声の主は……」
恵里「……みんな、行こう」
恵里「ユエ、ティオ、それとイシュタルさん。キミたちは引き続きリリアーナ姫の傍に」
………………
…………
……
【フェルニル 甲板】
光輝「……! つ、着いたぞ……やつは、敵はどこだ!」
雫「落ち着いて光輝! 相手が敵だって決まったわけじゃ……」
龍太郎「! おい、あそこだ! あそ、こ……」
檜山「……宙に、浮いてる……?」
獣耳の青年「……」
雫「……お、男のヒト……?」
鈴「……なん、なんなの、あれ……あのひとも、ハウリア……?」
清水「わかんねぇよ、俺に聞かれても……!」
香織「……」
香織「あの人、どこかで……」
香織「……いや、あの『顔』……」
香織(……南雲くんに、似てる……?)
獣耳の青年「……初めまして、だね」
獣耳の青年「私は、ハウリアを支援している者。今回のヘルシャー転覆のために彼女たちの力となったものだ」
ハジメ「な、なに……!?」
バイアス「……ってぇことは……テメェが……!!」
光輝「名前を名乗れ! お前は、何者だ!」
獣耳の青年「……私の名前か」
獣耳の青年「私に、つけられる名前なんてものは……本来ないのだが……ふむ」
獣耳の青年「なら、便宜上……こう名付けるとしよう」
獣の神「私は『獣の神』。哀れなる獣の力を持って生まれし者たちのために生まれた……彼女たちの『神』」
ハジメ「……神、だと……?」
獣の神「あぁ、そうだよ。彼女たちが崇める、神そのものさ」
獣の神「ただ……キミたちが戦っている『狂神』とは……ちょっと違うものだけどね」
光輝「お前の巣状なんてどうでもいい……何が目的だ。ハウリアたちを唆して、何をしようとしてるんだ!」
獣の神「何を……って、言われてもね」
獣の神「私は……ただ『求められた』だけ、だからね。何も企んでいないさ」
龍太郎「あぁ……? 何を言って……」
獣の神「神とは、本来そう言うものだ」
獣の神「形のないものに、形を与える。だから、私は生まれ落ちた」
獣の神「そして、それは……キミだってそうなんだよ。ハジメくん」
ハジメ「……なにが、いいた――」
ハジメ「――っっ!!!??? んぎっ゛!? んぎぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?!?!」
光輝「な、南雲!?」
ハジメ「がぁ゛っ、あぁあああああぁぁぁぁあぁっ!! あ、だ、まがっ、いだっ…!? な、にがぁ゛っ……!!!」
獣の神「……先に行っておくと、私は何もしていないよ」
獣の神「ただ、望まれた。望む者がいた」
獣の神「だから、ハジメくんは今そうなってる。それだけさ、それだけなのさ」
ハジメ「なに゛、いっでぇ゛……!!」
獣の神「……さて、挨拶はここまでにしておこう」
獣の神「それじゃあね、みんな。今度は……ちゃんとした場所で話し合いをしよう」
――シュウゥゥゥゥゥ……
龍太郎「ま、待て! 待ちやがれ!!」
清水「……だ、ダメだ。もう、どこにもいない」
香織「それよりも南雲くんだよ! どうしちゃったの! 南雲君、ねぇ!」
ハジメ「あぁぁああぁぁ゛っ……!!」
檜山「苦しみ方が尋常じゃないぞ……一体コイツに何が合ったんだよ!?」
恵里「……ちょっと待て、これ……」
恵里「!? 何かが『干渉』している……!? 南雲の魂を歪める、何かが触れているんだ!」
香織「か、回復! とにかくフェルニルの中に! 回復の術で、かれ、を――」
――どさっ……
光輝「……香織? 香織!?」
龍太郎「な、なんだぁ!? なんで、そいつが……た、おれ、て……」
――ドサッ……
光輝「み、みんな!? な、ん――」
光輝「っ……お、おれ、も……?」
――ドサッ……
………………
…………
……
【……時は戻って現在】
【夢の中】
――……ハウリアの暴動……?
――……獣の神……?
――ヘルシャー帝国の……めつ、ぼう……?
光輝「……」
龍太郎「……」
――……まて、待て
――どういうことだ
――な、なにがあった!? どうしてそうなった!?
――私がお前たちに干渉してない、そのわずかな間に何が合った!?
檜山「わずかな間だと!? 僅かどころじゃねぇ! 俺たちはあそこで数日間留まっていたんだよ!!」
――な、なに……?
恵里「……キミがここに閉じこもっている間に、シアはハウリアを引き連れてヘルシャーを支配した」
恵里「……周囲の反応、そしてボクの中で眠っていた記憶。これらを考察するに……」
恵里「お前、ボクだけじゃなくて複数人モノ人間を自分の夢の中に引き入れてたな……!」
――う、うげぇ……!
清水「……俺も、何となくだけどアンタに話しかけられていたのは覚えているよ」
雫「……私も、かも」
香織「うん、こっちも」
龍太郎「……見たところ、クラスメイトしか入ってきてねぇみたいだな」
光輝「聞かせてくれ。今までのことを考えたら……あなたは俺たちをこの夢の世界に呼び込んでいた」
光輝「連れてくるのはそっちのほうから。俺たちのほうにはこれなかった。なのに、その反応からするに……」
光輝「あなたは、意図しない形でこの世界に俺たちを呼んでしまった……そういうコトなのか?」
――……そう、いう……ことに、なる……な
光輝「……そうか、そうなのか……」
ハジメ「……ぐ、うぅぅ……」
香織「……少しだけ、容体が安定してる。この世界の影響なのかな」
――私が出来るだけ、ハジメに干渉する『力』を弱めているからだ
――夢とは、現実と幻の境目にある空間。この領域の中にいれば、他所から干渉されることはない
――……だからこそ、わかったことがいくつかある。ハジメに設定された『信仰』のステータスの正体がな
光輝「信仰……?」
――最近、こちらのほうでハジメのステータスについて調べていたんだ
――その際に、こいつのステータス一覧にだけ表示されてある物があった。それが、『信仰:∞』のステータスだった
――……やっとわかったんだ。このステータスは、ハジメ本人が集めた信者からの信仰そのものだ
光輝「し、信者……?」
龍太郎「えっ、それって……エヒトみたいな信者がいるってことか……?」
――お前たち、前にハイリヒの侵攻を覚えているだろう?
――あの活躍を含めて……ハジメはトータス各地で事件を解決し、そのたびに多くの人たちからの信頼を得てきた
――エヒトによって抑圧されてきたこの世界で、トータスを変えうる新たな存在……エヒトなんかよりも、信じられて、自分たちを救ってくれる存在そのもの
――ゆえに、トータスでこれまで信仰されてきたエヒトの『信仰』が……ハジメにすり替わり始めたんだ……!!
檜山「す、すり替わるとどうなるんだよ……」
――……エヒトが神と成ったのは、古来から集められてきた人間たちの信仰力の積み重ねによるものだ
――人の祈りが人を神に変えるのであれば、それはその人間個人への否定そのもの
――このままトータスの者たちによる信仰が深まれば……
香織「ど、どうなってしまうの……?」
――……ハジメは、神その物になりうる
――強さの象徴、弱者にとっての強さを体現した存在
――自分たちの心の弱さを支えてくれる、都合の良い神へと変えられる……
――ハジメの人格その物が抹消されて、トータスによって都合の良い『神』へと昇華されてしまう!!
清水「なっ……なんだと!?」
檜山「ま、待てよ! だったらエヒトってやつはどうなんだよ!」
香織「先生は!? 先生は豊穣の女神として、信仰を集めて……」
――……信仰の種類が違う
――エヒトは他者を恐怖で押し込めていたからこそ、信仰によってその人格を変えられることはなかった
――愛子の場合、彼女はあくまで恵みをもたらす者として信仰を集めてきた。彼女に対して向けられていた思念は、親しみや親愛なる祈りそのものだ
――だが、ハジメは違う。あまりにも強すぎるうえに、エヒトという強大なる壁を乗り越えてきたからこそ……
――ハジメの『活躍』に人は想いを馳せる、ハジメの『強さ』に人は見せられる
――『活躍』と『強さ』に魅せられるからこそ……そのハジメ『個人』を抹消し、自分たちにとっての都合の良い神様へとすり替えようとしているんだ……!
光輝「……このままいくとどうなる……た、対処法は!」
――……
――概念には、概念だ。人々の思念がハジメを蝕むのならば、それ以上の思念を持ってハジメを守ればいい
――残りの迷宮の魔法をいそいで習得しろ! 『概念魔法』を手に入れれば、トータスの者たちに対する信仰から身を守ることが出来る!
光輝「……! 残りの魔法か……!」
ハジメ「ぐっ、うぅぅぅぅ……!!」
香織「南雲くん……! おねがい、耐えて……!」
龍太郎「……! か、体が浮き始めたぞ!」
光輝「こ、声の主! またっ、また会いに来る! また有益な情報があったら聞かせてくれ!」
――わ、わかった!
――……
――な、なんてことだ……!
――なんで、どうしてこうなった!? 私の計画に、こんなイレギュラーはなかったのに!?
――今まで秘密裏に進めてきたサポートも、ついに知られることになってしまった……こんな……!
――……っ、仕方あるまい。とにかく、こちらも対策を立てねば……
――……ハジメ
………………
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