【ハイリヒ王国】
【――ランデルの部屋】
エリヒド「おぉ、ランデル! ちゃんと勉強をしていてえらいぞ!」
ランデル「はい! 余もいつかこの国を背負えるように、父上を支えられるようになるまで賢くなって見せます!」
ランデル「目指すは賢者!」
エリヒド「はっはっは! それはよかった!」
エリヒド「だが、計算や歴史だけでなく……」
ドサッ……
エリヒド「これから、エヒトに変わる新たな神のことも学ばねばならぬぞ」
ランデル「……これは」
エリヒド「聖教教会に残った信者がまとめた、今後の宗教関係の資料だ」
エリヒド「これからは、ハジメさまがこの世界を治めることになる」
エリヒド「そのためにも、過去に信仰してきたエヒトを捨て去るために、長年書き記した過去の資料を焼き捨てる予定だ」
ランデル「や、焼く!?」
エリヒド「何か問題か?」
ランデル「お、お言葉ですが父上! いくらエヒトが過去の者になったとしても、それらだって貴重な資料のはず!」
エリヒド「おぉ、過去の歴史的資料を残すべき、という意見か。しっかり賢くなって感心感心」
ランデル「あ、ありがたきお言葉……い、いやっ! それはそれとして!」
エリヒド「おっと、そろそろ異界の勇者殿と会議を開かねば!」
ランデル「か、会議……?」
エリヒド「城に残った方々も、ハジメさまを崇めている。あのお方のために、みんな尽力してくれているのだよランデル」
ランデル「……えっ、えっ……」
エリヒド「さて、そろそろ行かねば……」
スタスタ……ガチャ、バタン……
ランデル「……」
ランデル「……!」ゴソゴソッ
ピピッ
ランデル「あ、姉上……姉上……っ!」
………………
…………
……
【ブルック】
――ザワザワ……
――なぁ、知ってるか……ハジメさまの話を
――あぁ、知っている。なんでもヘルシャーを支配したのは……
――すげぇ……いったいどこまで伝説を積み上げていくんだ……
キャサリン「……」
キャサリン(……きな臭いね。確かにすごい何かを持っているとは思っていたが……)
キャサリン(この流れ……あまり良くない。よくないよ……)
【服屋】
――ザワザワ……
――崇めるんだ……俺たちの新たな神を……!
――崇めよ……ハジメさまを崇めよ……!
クリスタベル「んん~? 街の雰囲気がおかしいわねぇ?」
クリスタベル「……何が合ったのかしら」
【フューレン】
ドット「支部長、失礼します」
イルワ「……来たか、ドット」
ドット「その様子だと、すでにお耳に届いているようですね」
イルワ「ここにいれば嫌でも噂がいくらでも入る」
イルワ「……例の少年を崇める声が聞こえてくる。元から彼自身に特別な素養や……何かに巻き込まれている様子なのはわかっていたことだ」
イルワ「しかし、この流れは……何か異様なモノを感じさせる」
イルワ「エヒトを信仰する者たちは今までも見てきたが……これは……」
ドット「……どういたしましょうか」
ドット「今後、この流れが強まっていけば、下手をすれば彼の素性を隠している我々にも……」
イルワ「……見極めるときが来たようだな」
………………
…………
……
【アンカジ公国】
フォルビン「おぉ、ゼンゲン公よ! こうして言葉を交わせること、大変喜ばしい!」
ランズィ「……」
フォルビン「貴公も聞かされているだろうが、我々が異端認定したかの人物……ハジメさまは、エヒトに変わる――」
ランズィ(……あれから幾日。我らの恩人は、いつの間にかこの世界の神よりも偉大なる者として崇められていた)
ランズィ(それらを異端者認定していた者も、このように我々にすり寄ってきている。エヒトの旗本が、その流れが悪く鳴った途端にコレだ)
ランズィ(使途殿よ、いま、貴方の心はどこにある……?)
………………
…………
……
【フェルニルにて】
清水「……あれから何日か経った。俺たちはこの世界を支配するエヒトを倒すために、迷宮のすべての魔法を手に入れて立ち向かうつもりだ」
清水「だけど、あろうことかハジメに信仰のステータスが生まれ……この世界が望む新たなる神のために、あいつはその器になろうとしていた……」
清水「それを何とかするためには、残りの迷宮の魔法を習得し、あいつ自身が概念魔法を習得し、信仰という概念に抗う必要がある……」
清水「……ってのが、これまでの経緯よね」
檜山「そーね」
清水「なんだよねぇ」
檜山「……」
清水「……なぁ、あともうちょっとで残り二つの内の一つ……フェアベルゲンの迷宮だろ?」
清水「俺たちはそこを攻略しなきゃいけないわけだ」
檜山「おう」
清水「だったら一致団結する必要があるわけだ」
檜山「おう」
清水「……」
………………
ハジメ「はぁ゛……! はぁ゛……!」
ユエ「……ハジメ……ハジメ……! 私の手を握って……!」
香織「……っ、何とか肉体の調子は戻ったけど、体を蝕む『信仰』そのモノがずっと残っている……!」
恵里「闇の魔術だとかそういうんじゃない。光も闇も関係なく、もっと純粋でむき出しなエネルギーそのものだ」
恵里「こりゃあ……ちょっとでも和らげて進行を遅らせるってのは難しいかもね。文字通り、南雲自身が耐えなきゃってなわけか」
イシュタル「エヒトを信仰する信者は大勢いますが、いくら何でもそう簡単に既存の信者たちがすぐに鞍替えしたとは考えにくい」
イシュタル「で、あるならば……元々神を信じられぬ、もしくは祈ること、縋ることをあきらめていた弱者たちが、南雲殿に寄りかかることを選んだ……といったほうがいいでしょうな」
香織「弱者……?」
イシュタル「例の兎人……シアが宣言していた通り、おそらくアレを聞いていたのはヘルシャーにいた亜人だけではないはず」
イシュタル「捕まっていた奴隷たち、今の今まで人間たちに虐げられていた亜人たち自身の信仰……神を信じられぬ者たちが、初めて信じられる神を得た」
香織「そ、それが南雲くん……」
イシュタル「幾年に渡る者たちの信仰……そうたやすく跳ねのけられるものではないでしょうな」
香織「そんな……!」
ハジメ「ぐ、うぅぅ……!」
ユエ「は、ハジメ……!」
ティオ「……」
ティオ(弱い、あまりにも……)
ティオ(握った手があまりにも弱弱しい……衰弱するとは言っても、ここまでとは)
ティオ(このお方が魔王と呼ばれていても、結局は人。そんなことは、火山の時に分かり切っていた)
ティオ(けれども……そうだ……)
ティオ(ご主人も、人の子であり息子……帰るための原動力は……)
ティオ(……『家族』……)
………………
リリアーナ「……はい、はい……わ、わかりましたランデル。それでは、引き続き……」
ピピッ
光輝「……リリィ? それはなんだ?」
リリアーナ「ハジメさんから譲ってもらっていた、通信機器、という道具です」
リリアーナ「何かあれば、これでハイリヒの方々と連絡を取れるようにと……譲ってもらっていたものです」
リリアーナ「それで……ハイリヒのほうですが……どうも、あちらの空気がおかしい……というか」
龍太郎「……おかしい?」
リリアーナ「お父様を含め、貴族内や待機している生徒のかたがた……どうも、彼らが口々にハジメさんの噂をしているんです」
リリアーナ「もしかしたら、あのお方こそが真のエヒト……いや、悪のエヒトを倒すために顕現した善のエヒトの化身なのでは……! と」
光輝「な、なんだと!?」
バイアス「……もしかしたら、それこそがハジメってやつの浸食を手伝っているのかもな」
龍太郎「ちょっと待て、おかしいだろ!? だって、神様として扱われてるのは南雲のほうじゃねぇか!」
リリアーナ「だからですよ。ハジメさんは以前、エヒトに関係する問題をトータスの住民に説明するために『悪のエヒト、善のエヒト』の話を作りました」
リリアーナ「だからこそ……なんですよ。悪のエヒトが存在するならば、じゃあいま自分たちを守ってくれている善のエヒトは何者なのか」
リリアーナ「その話を広げた張本人……それがハジメさんだから。話を広げた彼自身が、トータスの大衆の信仰の受け皿になってしまった」
バイアス「俺は話だけしか聞いてねーが、迷宮攻略者であるアイツは、迷宮だけでなくあらゆる場所で活躍した……らしいじゃねぇか。イシュタルのジジイから聞いたぜ」
バイアス「なんでも人さらいの組織を潰しただの、砂漠のオアシスを復活させただの」
バイアス「ともなれば、エヒトへの信仰がそのままハジメに移っていくだけでなく……元々信心深くなかった者たちすらもハジメに対して崇める様な流れになっても何にもおかしくねぇ」
光輝「っ……なんてことだ!」
龍太郎「ヤベェ……どんどん取り返しのつかねぇことになってるじゃねぇか」
光輝「フェアベルゲンまでもう少し……」
光輝「耐えてくれ……南雲……!」
………………
雫「……」
雫「……陛下……」
雫(……さむい)
雫(からだが、さむい)
雫(さみしい)
雫(私を見てくれる人が……)
雫(どこにも、いない……っ)
…………………
…………
……
【――時は戻り……】
【ヘルシャー帝国、ガハルドの寝室】
ガハルド「……」
ガハルド「……はぁ」
ガハルド「なぁ、こりゃどういうことだ?」
雫「――お待ちしておりました、陛下」
ガハルド「今日はうまい飯をたらふく食った」
ガハルド「あとは迫っている子供の結婚式のために、この身を休ませて……」
ガハルド「そう思っていたところにコレだ」
雫「……」
ガハルド「何度も何度も口説き倒そうとしていた女が、ある日を境にコロッと態度を変えて俺に媚びてきやがった」
ガハルド「食事の時もそうだ。お前は俺と関係を持とうとしていた。態度で分かった」
ガハルド「これまで、俺がモノにしてきた女と同じような目を俺に向けてな」
雫「……」
雫「あなたに、魅かれたからです」
ガハルド「あぁ……?」
雫「貴方の魅力が、わかったんです。ようやく」
雫「その強さ、その逞しさ、本当に縋るべき、強くてたくましい男のヒト」
雫「陛下、あぁ、陛下……」
ガハルド「……」
雫「おねがいです、どうかあなたのおそ――」
チャキッ……
雫「っ……!!??」
ガハルド「近づくんじゃねぇ」
雫「な、なん、で……」
ガハルド「……んー、あれだな」
ガハルド「長々と言うのは趣味じゃねぇ。ハッキリ言ってやる」
ガハルド「テメェ、俺にすがろうとしてるな?」
雫「す、縋る……?」
ガハルド「最初にあった時、俺はお前を気に入ったんだ。その年ごろでありながら、決して折れぬ芯の強さ、戦士としての誇り高さにな」
ガハルド「だけどな、南雲ハジメや例の勇者クンを見ているうちにな……お前もどこか怪しいところがあるんじゃねぇかって思い始めたんだよ」
ガハルド「お前、南雲や勇者に縋れないから、俺のほうに寄ってきたな?」
雫「ち、ちが……!」
ガハルド「違わないね。俺はな、経験上分かるんだよ。強い女には二種類いるってな」
ガハルド「一人は本当に強くて誰も頼らず頼られるような奴。こういった奴は女傑って呼ばれて、本当の意味で芯が強い女だ」
ガハルド「もう一人は……強くならざるを得なかった奴。縋れるものがなく、頼れるものがいないから、自分でやるしかないからしっかりしなきゃと考える奴」
ガハルド「お前は後者だ。自分の弱さに打ちのめされてるからこそ、俺に縋りついて甘えてきた弱者さ」
ガハルド「強い女じゃなくて弱い女なら俺はいらねぇ。妥協を重ねたうえで寄られたうえで抱かれに来たのならお断りとしか言いようがねぇ」
雫「だ、だって! だって!!」
雫「仕方ないじゃない! だれも、私を見てくれないんだから!」
ガハルド「おっ、本性を現したか?」
雫「光輝は、私の王子様になってくれると思っていた!」
雫「でも全然違った! 彼は人気があるだけで中身は子供! なんにもない、空っぽの男………!」
雫「南雲君も違っていた! ただが流されるがままに強くなるだけの、身勝手な人!」
雫「彼も私を見てくれない……誰も、私を見てくれない……!!」
雫「誰も私を……『女の子』として見てくれない……!!」
ガハルド「……」
ガハルド「はぁー……」
ガハルド「……はっきり言ってやるよ」
ガハルド「お前、かなり『女』だよ」
雫「……へ……?」
ガハルド「誰も女として見てくれない? ンなわけねぇだろ」
ガハルド「お前らの関係は少しだけ聞いている。だから、過去についても多少は把握してるつもりだ」
ガハルド「お前……ぶっちゃけ、光輝に対してまとわりついてたのって、自分が優位に立つためだろ?」
雫「……えっ……えっ……?」
ガハルド「暴れん坊で甘ったれた勇者君(笑)をよ、自分みたいなしっかり者が見てあげなきゃたいへーん、ってよぉ」
ガハルド「そうやってお前はあの勇者君に取りいって、仕方のない奴だってつって、そうやって自分の地位を得ていたわけだ」
ガハルド「だからお前はあいつのことをダメダメだと思いながらも離れなかった。あいつを、都合の良い、自分の上位カーストを守るための踏み台にしてな」
雫「なっ、ちがっ、そんなっ……!」
ガハルド「誤魔化すなよ。俺は知ってるんだよ。お前みたいなくだらねぇ女、いくらでも見てきたし、いくらでも言い寄られてきたからな」
ガハルド「女にとって、良い服やら化粧やら宝石ってのは自分をよく見せるためのアクセサリーにして『ステイタス』ってわけさ」
ガハルド「お前は自分に自信がないから、良い男って言うステイタスが欲しかった。それだけのくだらない女さ」
スッ……
ガハルド「俺はこの部屋を出ていく。お前は勝手にここで寝ていろ」
雫「ま、まってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
雫「まって、待ってください!! 私のこと、いくらでも犯しても構いません! いくらでも、好きなようにしてもかまいませんから!!!」
ガハルド「アホか。俺は『良い女』を抱きたいんだ。『くだらねぇ女』でもましてや『ガキ』なんざいらねぇ」
雫「……っっっ、わ、わだしはぁ゛ぁぁぁっ!! わ、わだしっ、ん、ぁ゛……! わたしっ……!!」
雫「が、がくえんの……っっ、『に、二大、女神』……!!」
ガハルド「あぁ、そうだな。女神だな」
ガハルド「狭い箱庭で、経験なんてないだろうガキ共から与えられた『ステイタス』だ」
ガハルド「女であることにも疎んじていた『二大女神』に縋りつくなら、俺はもういらねぇよ」
……バタンッ……
雫「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!!! ま、っってぇぇぇぇぇえ!!! まってよぉぉぉぉぉ!!!」
雫「おねがいっ、お願いだからぁァァァァァ!!!!」
雫「みてっ、わたしをみてよっ!!!」
雫「誰か私を……ささえてよぉぉぉぉ……!!!!」
………………
…………
……
【――現在……】
【フェルニル】
清水「……あれ? 八重樫?」
雫「! あ、清水君……」
清水「ええと、ここで何してんの……?」
雫「……あなたは?」
清水「俺は、ちょっとトイレにいこうかなって」
雫「……そっか」
雫「ねぇ、ちょっといい?」
清水「ん? な、なに……?」
雫「私のこと、抱いてみない?」
清水「………………………………………………?????????」
雫「あっ、別にどこだっていいのよ?」
雫「トイレのほうでもいいし、寝室でもいいし」
清水「…………???????」
雫「……あ、もしかして避妊具のことも聞きたいの?」
雫「別に気にしなくていいわよ。どうせこんな世界だし、別につけてなくても」
清水「あの、ウェイトウェイトウェイト」
清水「………………?????」
清水「へ、あのっ、どうしたの……?」
雫「……なんてことないわよ」
雫「ほら、アナタって南雲君と同じようにオタクだったでしょ?」
雫「それも誰からも相手にされてない陰キャだったでしょ?」
雫「じゃあ、私みたいに二大女神に相手されるのっていいことだと思わない? うれしいでしょ?」
清水「……は? は……????」
清水「ちょっ、ストップ!! マジでストップ!!!」
清水「何……? 何の何の何!? いや、あのっ、マジでどーしちゃったのねぇ!?」
雫「いや、だから――」
恵里「はい、スト―ップ」
檜山「よぉ、八重樫」
清水「ふ、二人とも……」
雫「あら、来ていたのね」
雫「ねぇ、良かったらなんだけど」
恵里「うんうん。じゃあ、ちょっとこっち来ようね」
恵里「あそこでお話聞いてあげるから」
トコトコトコ……
清水「……」
檜山「……」
檜山「災難だったな」
清水「イヤ怖えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇよ!!?!?? なに、何あれ!? 何!?」
清水「八重樫のやつ、目が淀んでるなんてもんじゃなかったんだけど!?」
清水「俺たちの知らないところで何が合ったのアイツに!?」
檜山「まぁ、……いろいろあったんだろうね……としか」
清水「そ、それで済ませていいやつじゃねぇだろアレ……」
檜山「……」
清水「……」
清水「俺たち、大丈夫かなぁ……」
檜山「……言うなよ」
清水「いや、だってさ」
清水「俺たちの中で一番強いはずの南雲が……あれじゃねぇか」
清水「天之河だって、めっちゃ強いけど迷宮の魔物にはぜんぜん勝てなさそうだし」
清水「それ以下の……以下の以下の俺たちなんて……」
檜山「やめろ」
清水「……それに、エヒトどころかそれと同等のやつだって……」
清水「お、俺たち……もう……」
ゴヅンッ!!!
清水「ってぇぇぇぇぇ!! な、何すんだ!!」
檜山「いうんじゃねぇ! それ以上、ウダウダいうなら俺がぶっ殺すぞ!!」
清水「なっ、そこまで――」
檜山「テメェが辛気くせぇことしか言わねぇからだろうが!!」
檜山「無理かもしれねぇ、ダメかもしれねぇ、考えたってダメかもなんてのは俺だってわかってんだよ!!!」
清水「で、でも……」
檜山「オメェは違うだろうが! やれてた側だろうが!!」
檜山「お前がいたからフェルニルも取り返せてヘルシャーから抜け出せたんだろうが!!」
清水「……えっ」
檜山「あ? じゃあ何か? テメェが以下の以下の以下なら俺はそれ以下だろうが」
檜山「俺はなんっっっっっっっにも出来なかったぜオイ。ヘルシャーの時なんて、タンカ切ったのに逃げる事しか出来なかった」
檜山「そのお前がここで弱気になってどうすんだよ! 何もやれてねぇ俺はどうなるんだよ!?」
清水「……」
檜山「……」
檜山「クソッ、ちょっと眠る。疲れたわ……」
スタスタスタ……
清水「……」
清水「俺も……ちょっと、夜風に当たろうかな」
………………
…………
……
【フェルニル 甲板】
清水「あー、夜風が染み渡りますわ」
清水「……」
清水(……おれ、どうすればいいんだろうなぁ)
清水(俺たちがこんなにも必死になってるのって、エヒトを倒すため……)
清水(もっと言えば、元の世界に戻るためなんだよな……)
清水(俺たちの元の世界……俺の、帰るべき世界って……)
清水(……周りの目から逃げて、創作物の世界に逃げて)
清水(家族からも……距離を取って……)
清水「……」
清水「南雲は、違うんだよな」
清水(聞いてみれば、アイツには帰るべき場所も家族もいる)
清水(帰るための原動力がある)
清水(……じゃあ、俺は……)
清水(俺って……)
……コツコツ……
ティオ「……? おや、お主は」
清水「あっ、ティオ……さん」
ティオ「呼び捨てでよい。今ここにいるのは単なるティオじゃ」
清水「……その、ティオ、さん。あ、いや……」
清水「ティオは、南雲が元の世界に戻ることをどう思ってる?」
ティオ「……そう、じゃな」
ティオ「……」
清水「……?」
ティオ「わからぬ」
清水「わからぬ……?」
ティオ「あの方は強い。強いが……」
ティオ「その強さは、妾たちに向けられるものじゃない」
ティオ「元の世界に帰るために、故郷の家族のところへ戻るための力じゃ」
ティオ「あの方は……ここに留まることはない」
清水「……それは、そうか……」
清水「あれ、じゃあティオは南雲と一緒に俺たちの世界へ……」
清水「……あ、あれ? じゃあティオは自分の家族とは……」
ティオ「……お主にも」
ティオ「帰りたい家族の元は、あるのじゃろう?」
清水「えっ……」
清水「いや、俺は……」
清水「俺、は……」
ティオ「? ……なんじゃ?」
清水「えっ?」
――ヒュゥゥゥゥゥゥッ……
ティオ「……何かが、落ち――っ!?」
ティオ「清水! こっちに!!」
清水「えっ、うわっ!?」グイッ
――ドンッ!!!
清水「な、なんだっ……アレ……!?」
ティオ「……あ、あれは……」
――シュゥゥゥゥゥ……
ティオ「な、どういう、ことじゃ……?」
清水「え、ええと……」
ノイント「……」
清水「……どちらさま、でしたっけ……?」
………………
…………
……