生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第23話

 

【フェルニル】

 

光輝「……! おい、見えてきたぞ!」

 

龍太郎「深い森の中……そうか、ここが……」

 

――ズルズル……ズルズル……

 

ハジメ「……あぁ、そうだ。フェアベルゲン……」

 

ハジメ「亜人族が、暮らす場所……」

 

香織「な、南雲君! 安静にしてなきゃ!」

 

ハジメ「だい、じょうぶだ……っ、だいぶ、調子がいい……」

 

ハジメ「座標を、こていし、て……おりる、場所を……っ」

 

――カハッ……

 

ハジメ「っ……!」

 

ユエ「ハジメ! ムリはしないで!」

 

ティオ「ご主人。あとはこちらでやる。さぁ、妾の肩に……」

 

ハジメ「っ、すま、ない……っ」

 

――ヨロヨロ……

 

ティオ「……」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「わるいな、ティオ……」

 

ティオ「……ふふっ、何を言うのじゃ」

 

ティオ「ご主人はご主人らしく、いつも通りでいいのじゃ……」

 

ハジメ「いつも、通りだなんて……」

 

ハジメ「おれ、は……ただの、いじめられっこ、で……」

 

ハジメ「ほんとうは、弱い、だけの……」

 

ティオ「知っておるよ。そんなこと」

 

ティオ「……ご主人。気づいておったか? 昨日の夜、うわごとのようにつぶやいた言葉を」

 

ハジメ「……なんて、言ってた?」

 

ティオ「……とうさん、かあさん。そういっておった」

 

ティオ「元の世界で、帰りを待つ家族がいるんじゃな……ご主人には」

 

ハジメ「……あぁ、まぁな」

 

ティオ「そうか……」

 

ティオ「羨ましいかぎりじゃよ」

 

………………

 

檜山「う、うぉぉぉぉぉ……きれいな場所だなぁ」

 

恵里「こういうのを鬱蒼としているって言うんだろうね。緑ばかりで目に優しすぎる」

 

清水「……ここがフェアベルゲン」

 

清水「いやまぁ、当り前だけど始めてくる場所ってドキドキするよなぁ」

 

檜山「あー、わかるわかる。なんだかんだここって異世界なんだなぁって思うわ」

 

恵里「……ボクは違う意味でドキドキしてるけどね」

 

清水「へ? なんでよ?」

 

恵里「……ここ、亜人族の故郷だろ」

 

恵里「ってことは……アレだろ。シアたちの生まれ故郷でもあるだろ」

 

檜山「……ぃいっ!! そ、そーいや……」

 

清水「……あ、あー……ここって今どうなってんだろうね……」

 

恵里「力をつけた兎人族、種族は違えども同胞が帝国で暴れまわっていた」

 

恵里「その情報がここにどれくらい届いているのか……」

 

恵里「なんにせよ、ここが地獄ではないという保証はないってワケさ」

 

檜山「少なくとも心を休める場所とはかぎらない、か」

 

清水「うえぇぇぇっ……」

 

――コツコツ……

 

バイアス「だからと言って、いかねぇワケにはいかねぇ」

 

檜山「アンタは……」

 

恵里「……おや、帝国の現皇帝さんじゃないか」

 

バイアス「現状は人間が追い詰められて亜人族が有利に見えるが、俯瞰してみれば意外とそうでもねぇ」

 

バイアス「なにせ、いくら亜人族の連中が南雲ハジメを神輿にしようとも、アイツらには実際にハジメがついてるわけじゃない」

 

バイアス「ヤローが本調子を取り戻せば、すぐにでも逆転できる」

 

清水「あっ、そっか」

 

バイアス「つまり、依然として亜人族は虐げられる側なのは変わんねぇってコトだ」

 

バイアス「こんな状況ではアイツらがどう思おうとも、自分たちにとって得があるほうにつくしかない」

 

バイアス「いくらあの兎人族が強かろうと……得体のしれない何かがバックにいようとも、それでフェアベルゲン全員が戦う意思があるとは限らない。だけど、それでも亜人族は強いほうについていくしかない……いや、強い生物の群れに従うことでしか生きていけねぇんだ」

 

バイアス「だからあいつらは帝国の奴隷として虐げられてきた。今の今までな」

 

檜山「……」

 

清水「……」

 

バイアス「……さぁて、準備をしなきゃな」

 

清水「準備……?」

 

バイアス「言ってただろ、そこの女が」

 

バイアス「俺は帝国の現皇帝だってな」

 

――コツコツ……

 

リリアーナ「で、あれば。妻である私も同行する必要があるようですね」

 

清水「えっ、お姫さまも?」

 

リリアーナ「えぇ、もちろん」

 

リリアーナ「事は下手をすれば帝国と亜人族の関係の話だけではありません。これから世界中で起きるであろう亜人族の問題に目を向けなければならないのです」

 

リリアーナ「そのためにも、まずはフェアベルゲンの亜人族と話し合いする必要があります」

 

リリアーナ「ここにいる者たちが保守的なのか、はたまた過激なのか……彼らの意見に耳を傾けて、今後の亜人族の扱いに関する方針を決めるのです」

 

バイアス「それに、連中に何かあった時にこのフェアベルゲンを逃げ場所にさせないために抑えておく必要がある」

 

ハジメ「……みんな、そろそろ降りるぞ。準備してくれ」

 

………………

 

…………

 

……

 

【フェアベルゲン】

 

ハジメ「……静かだ。とても」

 

ユエ「誰もいないのかな……」

 

――シーン……

 

光輝「……誰もいないのか? 本当に?」

 

龍太郎「普段からこんなに静かなのか?」

 

ハジメ「いや、そんなはずがない。俺が初めてここに来たときはもっと騒々しかったし……」

 

ハジメ「それに、流石に往来で誰も歩いてないわけ――」

 

――チャキッ……

 

ハジメ「……お前ら、構えろ」

 

鈴「えっ、なに? なに!?」

 

バイアス「……クソッ、俺でもわかる。あちこちで『見て』やがったか!」

 

――……

 

――ザッザッザッ

 

アルフレリック「……久しぶりだな、少年」

 

ハジメ「……あ、あぁ」

 

アルフレリック「……そこにいる者たちは」

 

バイアス「……」

 

リリアーナ「……」

 

アルフレリック「……なるほど」

 

アルフレリック「ここで立ち話もなんだろう。ついてくるといい」

 

………………

 

…………

 

……

 

【広間】

 

アルフレリック「ここがフェアベルゲンの広間」

 

アルフレリック「本来であればほかの長老たちも含めて話の場につくのだが……」

 

ハジメ「俺たちだけか?」

 

アルテナ「そのほうが、都合がいいからです」

 

アルテナ「そうですよね。お祖父さま」

 

ハジメ「お前……」

 

ユエ「アルテナ!」

 

アルテナ「……お久しぶりですね。みなさん」

 

清水「あっ、えーと……」

 

恵里「確か長老のお孫さん……だっけ」

 

アルテナ「覚えてくださり光栄です」

 

アルフレリック「そして、そこの二人が……」

 

バイアス「ヘルシャーの現皇帝、バイアス」

 

リリアーナ「ハイリヒの姫にしてバイアスの妻、リリアーナ」

 

アルフレリック「……そうか」

 

バイアス「俺たちがここに来たのは他でもねぇ」

 

 

バイアス「テメェら亜人族の保護だ」

 

 

アルフレリック「……そう来たか」

 

バイアス「なんだ、多少は想像してたってか?」

 

アルフレリック「……外でのことは、こちらのほうにも届いている」

 

アルフレリック「ハウリアが……ヘルシャー帝国と元皇帝であるガハルドを討ったこともな」

 

ハジメ「……なに?」

 

バイアス「ちょっと待て。ヘルシャーはともかく、何でオレのオヤジが死んだことを知ってんだ」

 

アルフレリック「……そうか、やはりそうだったか」

 

リリアーナ「閣下が死んだのは私たちと同行していた時です」

 

リリアーナ「ヘルシャーの話が届いていたとしても、行方不明であることしか知れないであろう情報を、なぜあなたたちが……?」

 

アルフレリック「……それは」

 

――スッ……

 

アルテナ「……それにしても、ハジメさん。この短い間に、また強くなられたそうですね」

 

ハジメ「えっ、あ、あぁ……」

 

アルテナ「……ほんとうに、本当に、強くなられたんですね」

 

アルテナ「それこそ」

 

 

アルテナ「世界中に影響を与えるくらいに」

 

 

ハジメ「…………………………えっ」

 

アルフレリック「! アルテナ!」

 

アルテナ「……」

 

――スッ……

 

ハジメ「? それは……」

 

光輝「あれって……」

 

香織「……『タブレット』? えっ、なんでこの世界に?」

 

アルテナ「数日前、これを持った人物がこの森に訪れました」

 

アルテナ「彼が言うには、この道具はこのように使うのだと……こうやって教えてくれたのです」

 

――……ピピッ

 

ハジメ「……? 『動画』……?」

 

ユエ「……あれ、これって……」

 

 

ユエ「――『シア』!? ほかのハウリアたち!?」

 

 

清水「ま、待て待て待て……ここにいる連中、ヘルシャーで俺が殺したやつ……!?」

 

檜山「どーなってんだオイ!? こいつら死んだんじゃ……」

 

恵里「馬鹿!! フェルニルの連中が生き返ってたなら、ヘルシャーに残ってる連中だって生き返ってるだろうよ!」

 

恵里「……いやっ、違う! 問題はこいつらが生き返ったことだけじゃない! ここ……」

 

鈴「……ねぇ、ここ。ヘルシャーじゃないよ。別の場所だよ……!」

 

光輝「まさか……」

 

アルテナ「これは、ハウリアたちが『記録』したもの……だそうです。『動画』、というそうですね」

 

アルテナ「生き返った彼らは、ヘルシャーを抜け出した後、各地へと向かって『人間狩り』を始めたそうです」

 

ハジメ「なっ……!!」

 

アルテナ「止めどころを見失ったハウリアたちは、その力を持ってあらゆる場所でその猛威を振るっているのです」

 

アルテナ「人を殺し、街を、都市を占拠し、己の思うままに荒れ狂って……」

 

 

アルテナ「そして、そのたびにこう告げるのです。我々こそが、『大魔王ハジメ』さまの眷属だと」

 

 

ハジメ「――……えっ、えっ……??」

 

アルテナ「我々こそが偉大なるハジメさまの眷属であり、偉大なる我らこそが上位種だと」

 

アルテナ「彼らは各地でエヒト神の施設を破壊し、像を砕き、そのたびに『大魔王ハジメの像』を建てて」

 

アルテナ「あなたの威光を利用して、暴れまわっているんです」

 

――グラッ……

 

ユエ「ハジメ! ハジメ!!」

 

ティオ「す、すまぬ……すこし抜けるぞ!」

 

ハジメ「い、いや……いい! 俺は、まだここに残る……っ」

 

バイアス「……チッ、あいつら……」

 

光輝「あ、アルテナ。ここに来た者って……」

 

アルテナ「その人は、ハジメさんにそっくりな人でした」

 

アルテナ「名前を、『獣の神』と言って……」

 

龍太郎「! あいつか……!」

 

檜山「でも、あいつどうやってここまで来たんだよソイツ!? 俺たちがあった時にはフェルニルの上だったろ!?」

 

恵里「相手は超常的な存在だ。ボクたちの尺度で測れるものじゃあない何らかの手段を使ったんだろうよ」

 

光輝「いや、それだけではないはずだ。南雲、たしかフェルニルには……」

 

ハジメ「……!! ゲートホール……! まさか、トータスの各地で暴れたのは……」

 

香織「げ、ゲートホールって確か……」

 

ハジメ「……フェルニルに内蔵した、転送装置だ」

 

ハジメ「あいつら、あれを悪用して……」

 

光輝「そうなれば、蘇生そのものは獣の神の仕業か」

 

アルテナ「その通りです。あの者は、自身の力で亡くなったハウリアを蘇生させたそうです……その光景を、私たちは見ていませんでしたが、その者はそう語っていました」

 

アルテナ「獣の神は蘇生させたハウリアたちにこう語っていました。我々に従うか逆らうかを選べと」

 

アルテナ「そうして、シアに従う者だけを生き返らせ、従わない者は……」

 

香織「ど、どうなったんですか……?」

 

アルテナ「ここ、フェアベルゲンにある迷宮……その中へと転移させたそうです」

 

香織「なっ……」

 

光輝「わざわざ生き返らせて、自分の手で殺すことなく、か……なんて悪趣味な……!」

 

アルフレリック「……ハウリアたちは、力を得て変わり果ててしまった」

 

アルフレリック「もはややつらを止めることは出来ん。手を付けられないほどに暴走したあの者たちは、我々では手に余る存在だ」

 

アルフレリック「もう、どうにもならん……我々では、とても……とても……」

 

光輝「……ここに、ほかの長老たちがいないのは」

 

アルフレリック「各々が好きな時間を過ごしているからだ」

 

アルフレリック「いつか来るであろう亜人族の滅びに備え、何としてももがく者」

 

アルフレリック「悲観し、その命を絶つ者」

 

アルフレリック「死ぬことも生きることも諦めて、その日が来るまで閉じこもる者」

 

アルフレリック「もう、我々にはこのような道しかない。こんな道しか選べない」

 

バイアス「なら、新たな道を示してやる。俺の奴隷と成れ」

 

アルフレリック「……っ」

 

アルテナ「……」

 

光輝「ちょ、ちょっと……!」

 

バイアス「お前たちがハウリアによって貶められた亜人族の名を、俺が護ってやる」

 

バイアス「その代わり、お前たちは俺の所有物と成れ。それがお前たちが選べる新たな道だ」

 

アルフレリック「……っ、少しだけ、時間をくれ」

 

アルフレリック「ほかの長老たちと会議し、結論が出るまで……待ってくれ……」

 

………………

 

…………

 

……

 

【――フェアベルゲン各地】

 

【……檜山達】

 

――ザッザッザ……

 

檜山「……おぉ、戻ってきたか」

 

清水「ん、ただいまーっと」

 

恵里「はい、これ食料。食って栄養をつけて、明日の迷宮に挑んでくれだってさ」

 

 

ノイント「結構な好待遇ですね。彼らからしたら、我々を見るだけでも複雑な感情でしょうに」

 

 

清水「……な、なんでここにいるの?」

 

ノイント「来てはいけませんか? 我々は明日からの運命共同体。共に迷宮攻略に挑む身です」

 

ノイント「それに、現状のイレギュラーの体調を考慮すれば頭数は多いほうが良いのでは? あなたたちにとって……」

 

清水「……んまぁ、そうだけど……」

 

恵里「それじゃあ、整理するよ」

 

恵里「明日になったら迷宮へ挑む。だけど、そのためには南雲たちが今まで攻略してきた迷宮のアイテムと魔法が必要になる」

 

恵里「これに関しては、その場所へ行ったら簡単に終わる。迷宮に入ること、そのものは何の問題もないだろう」

 

恵里「……肝心かなめの問題は、迷宮に入った後だ。いま、一番の戦力になると思っていたやつは、一番のお荷物に成り下がっている」

 

檜山「と、なれば……南雲の助けはほとんど期待しないほうが良いってコトか」

 

恵里「そうなるね。正真正銘、僕たちは自分で自分の身を守れるようにしなきゃってことになる」

 

清水「あのー……ノイントさん?」

 

ノイント「構いませんよ。助けを期待しているのなら、いくらでも力を貸してあげます」

 

清水「あ、あー……よかった」ホッ

 

――……ブルルッ

 

清水「んぁ……あはは、ちょっとその、お花を摘みに」

 

恵里「きっしょい表現だなぁ。男なんだからおしっこいってくるくらい言えよ」

 

清水「も、もうちょっとやさしめに言ってくれよ!」

 

………………

 

清水「……ふぅ。あー、すっきりした」

 

清水「……」チラッ

 

清水(きれいな月だなぁ……)

 

清水(例え世界が違っていても、見上げれば浮かび上がる月の綺麗さは変わんないんだな)

 

ノイント「その面でセンチメンタルなことを言われるときしょいですね」

 

清水「なんでどいつもこいつも人の思考を覗き見る様な事言うの?」

 

ノイント「というよりも、あなたの思考が読みやすいのですよ」

 

ノイント「あなたは、この中であの檜山と呼ばれる男と同じくらいの小心者」

 

ノイント「気が弱く、意志も薄弱。それゆえに、流されて生きていくのがあなたの性になっている」

 

清水「な、なんでここまでぼろ糞に言われなきゃならんのさぁ!」

 

 

ノイント「それゆえに、あなたがこうしてイレギュラーに同行しているのも、ただ流されるがままに戦ってるだけ」

 

 

清水「……えっ」

 

ノイント「考えても見なさい。あなたは、ほかの転移者同様に、我が主が盤上を盛り上げるために戦えと用意されてるだけの存在」

 

ノイント「そのため、アナタたちには最初から戦う理由がない。あるとすれば、巻き込まれたからこそ、元の世界に帰りたいだけ。戦うのも、強くなるのも、それらはすべて手段でしかない」

 

ノイント「あなたも変わらない、そうでしょう?」

 

清水「そ、それは……」

 

ノイント「誤魔化さなくてもよろしいかと。我々光の使途には、アナタがの事が手に取るようにわかる」

 

ノイント「貴方は意志が弱い。弱いからこそ、大きな流れに巻き込まれて、流されるままに導かれてしまう」

 

ノイント「欲望に負けて魔人族に力を貸そうとしたのも、僅かな義憤によってイレギュラーに同行してるのも」

 

ノイント「結局は、その時その時に自分にとって心地よい道を選んでるだけ。そうではないですか?」

 

 

ノイント「だからこそ、あなたは私の『アナタたちだけを帰そう』という言葉で揺れている」

 

 

清水「う、ぁ……っ」

 

ノイント「……」

 

ノイント「もういいでしょう……?」

 

――スッ……ギュッ……

 

清水「えっ、わわわわっ……!」

 

ノイント「手を握られただけで緊張し、女が近づいただけで揺れてしまう」

 

ノイント「その程度の決心ならば、この世界に留まる必要なんてないでしょう?」

 

ノイント「……帰ること、本気で考えたほうがよろしいですよ?」

 

――……おーい、なにしてんだー?

 

清水「あっ、檜山……」

 

ノイント「……さて、私も与えられた部屋に戻りましょうか」

 

ノイント「それではまた明日。英雄さん」

 

………………

 

…………

 

……

 

【……光輝たち】

 

光輝「……ユエ、南雲の容体は」

 

ユエ「だいぶ落ち着いてる。普段通りなら大丈夫だろうけど」

 

ティオ「明日の迷宮攻略について考えるとなるとだいぶ厳しいであろうな」

 

ティオ「意識は朦朧、時折過呼吸を引き起こしてしまう。養生してほしいが、今のご主人を治すには迷宮に挑むしかあるまい」

 

ティオ「……その、お前たちに負担をかけてしまうようで申し訳ないが」

 

光輝「水臭いことを言わないでくれティオ」

 

龍太郎「元からこいつは俺たちのクラスメイトだしな」

 

香織「だね。頼まれなくたって、勝手に助けちゃうよ」

 

香織「それが光輝くんだもんね」

 

 

雫「……」

 

 

鈴「……ね、ねぇ。シズシズ、少し前からあんな感じだけど、何が合ったの……?」

 

香織「それが、私にもぜんぜん話してくれなくて……メンタルが不調になる、何かがあったっぽいんだけど……」

 

龍太郎「……なーんか俺たちって色々な地雷を抱えてんなぁ」

 

光輝「だな」

 

雫「……」

 

雫(南雲君、あんなに大事にされて……)

 

雫(私も、あんな風に……)

 

雫(あんな、風に……)

 

ティオ「……」

 

ゴソゴソッ……

 

ティオ「……のう、ちょっといいかの」

 

光輝「? あ、なに……?」

 

ティオ「……」

 

ティオ「……その」

 

光輝「……??」

 

ティオ「……」

 

ティオ「ご、ご主人といつまでも友好的にいてほしいのじゃ」

 

光輝「へ?」

 

ティオ「妾もあまり知らなかったことじゃが……ご主人は一人でいようとすることが多い」

 

ティオ「ユエやシアから……彼女たちから積極的に迫られなければ、ご主人は相手をしてくれることがない。ああ見えて、結構消極的で……受け身な殿方なのじゃ」

 

ティオ「だから、もしも元の世界に帰ることがあっても……出来るだけ、話しかけてあげるようにしてほしいのじゃ」

 

光輝「え、あー……うん、任せてよ。元からそのつもりだし」

 

光輝「あぁ、それにティオたちだって南雲についてくるんだろ? アイツの嫁じゃないか」

 

光輝「なら大丈夫さ。あいつが一人になることはない」

 

光輝「ティオたちがついてるんだからさ」

 

ティオ「……ふふっ、ははは……そう、じゃな」

 

………………

 

…………

 

……

 

【翌日】

 

【フェアベルゲンの迷宮・ハルツィナ樹海の前】

 

バイアス「っつーことで、俺たちはお前たちが戻ってくるまでここに腰を落ち着けることにした」

 

光輝「だろうな。迷宮攻略は俺たちだけでいいし」

 

リリアーナ「皆さんが迷宮に行ってる間、それまで私たちは亜人の方々と交渉を続けるつもりです」

 

リリアーナ「方針は固まってきているので、そう長くはかからないでしょうが」

 

バイアス「ただ、これからの亜人たちの扱いはもっと酷い物になっていくだろうな」

 

バイアス「……神や洗脳でもない、純粋な怒りによってな。こうなれば、アイツらの待遇は地の底を突き破る」

 

光輝「……」

 

ハジメ「……」

 

イシュタル「……ささ、みなさん。もう見送る話はここまでにしておきましょう」

 

イシュタル「光りの使途のみなさま。迷宮攻略が成功するよう、私たちがここで祈りを捧げます」

 

イシュタル「さてさて……今後の私の立場を含めて積極的に自己紹介せねば」

 

光輝(こいつはブレねぇなぁ)

 

ノイント(まぁでも、中には結構いましたよ。こういった狡い信仰者)

 

………………

 

…………

 

……

 

【――ハルツィナ樹海】

 

――グッ……ヨロヨロ……

 

ハジメ「……っ」

 

ユエ「ハジメ、辛かったらいつでも私たちに寄りかかっていいから……」

 

ハジメ「あ、あぁ……」

 

龍太郎「さーて、どうするよ光輝」

 

光輝「とにかく、この迷宮でやることは俺たちが何としてでも攻略してみせること」

 

光輝「そのためにも、南雲自身がこの迷宮に認められる必要がある。迷宮のギミック、魔物を攻略し、何としてでも最奥にあるであろう魔法を南雲に習得させる」

 

香織「けっ……っこうキツイねぇ、それ……」

 

光輝「みんな、気を引き締めて行こう!」

 

雫「……そうね」

 

………………

 

ノイント「……ふむ。なるほど。中々に巧妙に仕掛けられていますね」

 

ノイント「恐らくですが、ここから先……そう遠くない場所に魔物の大群が押し寄せてくる仕組みが仕掛けられているはず」

 

清水「えっ、わかるの?」

 

ノイント「元々、盤上に関してはある程度知らされているので。主から携わった知識を引き出せば、推測そのものは可能です」

 

檜山「へー、すっげぇ便利」

 

恵里「……」ザッザッザ……

 

鈴「……あ、あの。エリ……恵理、大丈夫?」

 

恵里「……」

 

鈴「つ、辛かったら何でも相談してね! 聞いてあげるからさ!」

 

恵里「……あっそ」

 

――ザッザッザ……

 

――ザッザッザ……

 

――ピタッ……

 

ハジメ「……? なに……?」

 

ユエ「行き止まり……?」

 

檜山「あっ……? ここで終わりかよ?」

 

光輝「なんか、あっけないなこの迷宮」

 

――キョロキョロ……

 

恵里「……」

 

鈴「……どうしたの?」

 

恵里「……なぁ」

 

 

恵里「アイツが捨てたっていうハウリアの死体……どこへ行ったんだ?」

 

 

光輝「ハウリアの死体……獣の神が捨てた人たちか」

 

恵里「アルテナたちは、従わなかったハウリアたちをこの迷宮の中に捨ててきたって言っただろ」

 

恵里「だったら死体の一つくらい、残っててもおかしくないはずだ」

 

清水「……言われて、みりゃ……」

 

檜山「ここに来るまで、どこにも見当たらなかったぞ……?」

 

香織「……あっ、もしかしてどこかに隠れてるのかな?」

 

龍太郎「生き返ってるって話なら、各々が行動しててもおかしくねぇよな」

 

ハジメ「……最悪の場合、さっきの魔物たちに襲われて再び殺されて……ってのも考えられる」

 

恵里「……」

 

恵里(南雲の言う通り、生き返っても魔物がひしめく迷宮の中で殺されてもおかしくない)

 

恵里(だけど、死体の一つも見当たらないのはなんでだ……?)

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(か、考えられるのは……)

 

ハジメ(うまく逃げられたか、それとも死体が残らないほど食い尽くされたか)

 

ハジメ(……ま、まて……)

 

ハジメ(なにか、何か思い当たりが……これ、もしかして……)

 

ハジメ(あ、うぅぅ……頭が、ぼーっとする……っ)

 

檜山「……」

 

檜山(この最深部、やたら広いよな)

 

檜山(スペースをやたらとっていて、それに……)

 

檜山(ノイントの魔物の大群によるギミックって――)

 

ハジメ「――っ! これ、はっ……!」

檜山「――っ! オマエら!!」

 

清水「えっ、えっ?」

 

檜山(なんで! なんで失念していた!! あん時は俺のヘマだったのに!!)

 

ハジメ(檜山も気づいたか! ああ、そうだよな! 俺たちはこれと似たトラップにかかったことがある!)

 

檜山「みんな!」

 

ハジメ「固ま――」

 

――シュゥゥゥゥウゥ……

 

………………

 

…………

 

……

 

【……迷宮内、某所】

 

清水「……っつ、ててて……」

 

恵里「ったぁ……! クソっ、なんだよ!」

 

檜山「……よっ、目覚めたみたいだな」

 

清水「あ、檜山お前!」

 

檜山「どうやら無事みたいだったな。あーあ、まさか飛ばされちまうとは」

 

恵里「飛ばされた……そうか、転移系の魔法」

 

清水「あ、あー……そういや経験者だったわ、お前」

 

檜山「まっ、何とかバラバラになって飛ばされずに済んだけどな。はっはっは」

 

――ザッ……

 

ノイント「かと言って、戦力が分散されたことに変わりはありません」

 

檜山「……よっ、あんたも無事だったかよ」

 

ノイント「はぁ……そのような顔で見られると落ち込みますね」

 

檜山「んなわざとらしいリアクションで言われてもこっちには何も響かねぇぞ」

 

檜山「……さて、これでハウリアの死体が残らなかった訳が分かったぜ」

 

清水「転移の魔法……そうか、生き返ってそこら辺を歩いて、それで転移の魔法に巻き込まれたってことか」

 

恵里「だとしたら探しようがないなこれじゃ。自分たちが生きて帰れるように切り替えたほうが良い」

 

恵里「もうハウリアがどうとかの話じゃない。急いでここから出ないと――」

 

ノイント「……」

 

 

ノイント「いる」ピクッ

 

 

檜山「……どこだ」ザッ

 

清水「な、なになになに!? なんかいんの!?」

 

ノイント「……そこの曲がり角ですか」

 

ノイント「ふむ、この気配……」

 

恵里(直接攻撃を得意としたノイントと檜山を前に)

 

恵里(群れでくる魔物であるならば、一つ二つの死体を作ってボクの操り人形に)

 

恵里(いや、魔物ほどの単純な脳みそなら清水の力で十分に操れる……!)

 

――……ザッ

 

――……ザッ……

 

ノイント「……」

 

ノイント「なるほど、生きていましたか」

 

清水「……えっ、えっ……?」

 

檜山「……まさか」

 

恵里「……はっ、運がいいな。キミ」

 

 

パル「……えっ、み、みなさん……」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

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