生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第24話

 

 

【――ハルツィナ】

 

――グググググ……ドドーン……

 

清水「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

 

恵里「や、やーっとたおせたー!!」

 

檜山「……っだぁー! しんどっ!! しんどいわマジで!」

 

パル「こ、この木の怪物みたいなの……すごかったですね」

 

ノイント「……」

 

スタスタスタ……スッ

 

ノイント「お見事ですよ。駒」

 

ノイント「引っ張ってあげますから。手を出してください」

 

清水「あ、ど、どうも……」

 

檜山「にしてもまぁ、お前よくやるよなぁ」

 

恵里「さっきまでの奴は植物を媒介にして襲ってくる……いわゆるトレント?みたいな魔物だった」

 

恵里「けど、どれだけ姿を変えようと、小細工を利用しようともキミなら関係ないもんね」

 

パル「精神系の魔法……でしたっけ」

 

清水「たとえ姿かたちを変えようとも、そいつの精神そのものに干渉して『攻撃を受けろ』って命じればいいからな」

 

清水「それに、魔物だから操ること自体苦じゃないし」

 

檜山「……忘れがちだけど、あのドMドラゴンがマヌケだったとはいえ、ドラゴンすら操れるんだもんなぁ、お前」

 

清水「は、ははっ、どーも」

 

ノイント「喜色の悪い笑顔を浮かべないでください」

 

清水「な、なんかアタリが酷い……!」

 

………………

 

清水「……それじゃあ、お前の家族は」

 

パル「……ボクたちは、あのヘルシャー帝国の中で死んだはずでした」

 

パル「シアおねえちゃんに従わなかったボクたちは、その場で斬首」

 

パル「……ボス、あっ、いや……シアお姉ちゃんのお父さんであるカムさんも……」

 

清水「う、嘘だろ……家族まで……」

 

檜山「……ちっ、マジかよあの女……」

 

パル「それで、気づいたら……今度はこの迷宮の中にいたんです」

 

パル「目覚めて、すぐに周囲を見渡したら……いたのが、『獣の神』を名乗る男の人でした」

 

恵里「……ここまで来たら、流れが読めるね」

 

恵里「従わなかったから、このままここに捨て置かれた……か」

 

パル「……はい」

 

パル「その後は、何とか仲間といっしょに迷宮をさまよって……」

 

パル「でも、迷宮のトラップにやられて……みんな……」

 

パル「……ボク、以外……っ!」

 

清水「……っ」

 

檜山「……ひっでぇぜ。身内のことを何だと思ってんだあの兎女……」

 

恵里「……ふんっ、家族なんて、そんなもんだろ」

 

檜山「いやぁ、お前ンところとくらべても……つっても、お前のこと知らねぇけどよ」

 

ノイント「さっきから何を無駄話をしてるんですか。はやく先に進みましょう」

 

清水「あー、はいはい……」

 

ザッザッザッザ……

 

檜山「……なーんもこねぇな」

 

恵里「何もないほうがむしろいいでしょ。こっちとしては好都合だし」

 

恵里「……」チラッ

 

パル「……? あ、あの……?」

 

恵里「……怪我、あったりしない?」

 

恵里「一応、傷薬なら用意してあるから」

 

パル「あ、ありがとうございます……」

 

恵里「……」

 

ザッザッザッザ……

 

ノイント「……そこの駒の人」ヒソヒソ……

 

清水「あのっ、せめて清水って言ってくれます……? 名前で呼んでほしい……」

 

ノイント「駒で十分でしょう、駒で」

 

ノイント「……考えていただけましたか? 我らの主に協力し、帰還と報酬の話を」

 

清水「い、いやっ、それは……そのっ……」

 

ノイント「なぜ戸惑う必要があるのです? あなたにはそんな強い意志なんて、あるはずもないでしょう?」

 

――むにゅっ……♡

 

清水「あっ、ちょっ、近い近い近い! なんか距離の詰め方がエグイよアンタ!」

 

ノイント「この程度で動揺してるのだから、大したことないでしょう」

 

ノイント「ほら、さっさと……?」

 

清水「えっ、どうし――」

 

――バシュッ……

 

………………

 

…………

 

……

 

【――???】

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「……? こ、ここは……どこだ……」

 

ハジメ「……は、えっ……?」

 

――ザワザワザワ……

 

ハジメ「……まちの、なか……」

 

ハジメ「……どうろ、ビルに……駅前の、デパート……」

 

ハジメ「っ! お、俺の世界……地球……!?」

 

――ザッ……タッタッタッタ……

 

ハジメ「ば、馬鹿なっ……俺は、確かにハルツィナに……」

 

ハジメ「……思い出せ、思い出せ……! なにが、あった……!」

 

ハジメ「……確か、俺たちはハルツィナの迷宮に来ていた」

 

ハジメ「その途中で、転移して何処かへと飛ばされて……清水、檜山、中村、ノイントの四人が消えて……」

 

ハジメ「それ以外のメンバーは、全員俺と行動して……」

 

ハジメ「……そうだ! トレントもどき! 俺が、やつらを一掃して、先に進もうとしたら……」

 

ハジメ「光りに包まれて、それで、それで……」

 

――タッタッタッタ……

 

ハジメ「武器は持ってる。格好も……変わってない!」

 

ハジメ「って、言うことは……考えられるのは、俺だけが元の世界に戻ったか……」

 

ハジメ「……ハルツィナの、新たな罠か……」

 

――タッタッタッタ……

 

ハジメ「……っ、こ、この道は……」

 

ハジメ「し、知ってる! ここからの道を、俺は知っている!!」

 

ハジメ「そうだ、この曲がり角の先! あそこに、俺の家が……!」

 

――ザッ……

 

ハジメ「……あっ」

 

ハジメ「たっ……!!」

 

――……ヨロヨロ……

 

ハジメ「……俺の、いえ……」

 

ハジメ「俺の……! 故郷……!」

 

ハジメ「やっと、この場所に……」

 

――ガチャッ……

 

ハジメ「……だれも、いない」

 

ハジメ「出かけているのか……? いや、その前に今日は何日だ……?」

 

ハジメ「平日か? いや、でもこの時間帯は確か母さんが打ち合わせを――」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(ちょっと待て)

 

ハジメ(なんで、なんで誰もいないのに)

 

ハジメ(げんかんの、鍵がかかって――)

 

 

少年「おや、おかえり」

 

 

ハジメ「!? だ、誰だ……!!」

 

少年「だれ? さぁ……だれ、だろうね?」

 

ハジメ「……」カチャッ……

 

少年「構えるんだね。隙が無いなぁ、キミは」

 

――コツ、コツ……

 

ハジメ(……黒い髪に、低めの身長……)

 

ハジメ(何の脅威も感じさせないが……なぜだ……)

 

ハジメ(俺はこいつを……知っている気がする……)

 

少年「……さて、キミとはちょっと話がしたい」

 

ハジメ「その場から動くな。テメェ、何者だ」

 

少年「焦るなって、答えてあげるから」

 

少年「まず……ここは、キミの知っている地球じゃない」

 

少年「ここは【ハルツィナ】の中。正確に言えば、迷宮によって作られた幻覚の世界だ」

 

ハジメ「……ちっ、やっぱりか」

 

少年「おや、気づいてたか」

 

ハジメ「元の世界に戻ったのに、通りすがった連中が俺を見ても驚かなかった」

 

ハジメ「こんな、武器をぶら下げてるような男が、だぞ。違和感には流石に気づくさ」

 

少年「ふふっ、そっか」

 

少年「なら、単刀直入に言おう」

 

 

少年「ここは、ハルツィナのコンセプトである『仲間の絆』を取り入れた『夢の世界』」

 

 

少年「今、キミたちの体はハルツィナにある『琥珀』の中に閉じ込められている。その中で眠り、意識だけがこの世界にやってきてるって感じなのさ」

 

少年「抜け出す方法は一つ。この世界の都合の良い幻覚を抜け出し、元の世界に帰ること」

 

ハジメ「……はっ、なるほどな。誘惑を断ち切れ、か」

 

ハジメ「なら、とっとと抜け出してやるよ」

 

ハジメ「悪いがな……見たいモノだけを見て、見たくない物をみないこと、したくないんでね」

 

少年「……ふぅん。そう?」

 

少年「残念だけどさ、キミはそう簡単に抜け出せない」

 

ハジメ「……自信ありげだな」

 

少年「まぁね。ここは理想の世界。その人にとって、見たいものを見せてくれる場所」

 

少年「でもね、間違えちゃいけないよ。この世界が見せてくれるのは……」

 

少年「甘い、甘いものだけじゃないってことをね……」

 

ハジメ「……? なに、なにいって――」

 

――バシュゥ……

 

………………

 

…………

 

……

 

【――ハジメの理想世界、親】

 

愁「……あ、あのっ、菫さんっ!」

 

菫「……」

 

愁「……あ、あのっ……」

 

菫「……ふふ」

 

愁「……ん、んんん……」

 

愁「あ、あとで……」

 

愁「そ、そこのカフェでお茶しませんか!」

 

………………

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「は? は……???」

 

少年「おーおーおー、ういういしいね」

 

ハジメ「……おい、なんだよあれ」

 

ハジメ「何で俺はこんな場所で見知らぬ男女のやり取りを見なきゃいけないんだよ」

 

少年「……よーく見て見なよ。あれが誰なのかはキミが一番知ってるだろ?」

 

ハジメ「……!!! えっ、えっ、まさかっ……!」

 

ハジメ「父さんと母さん!? えっ、まさか若い時の!?」

 

少年「そうだね。キミのお父さんとお母さんが、まだ結婚する前。キミが生まれる前のことだ」

 

少年「父親は若手の社長、母親はまだ連載を一作受け持ってる新人漫画家」

 

少年「互いに自分たちのやりたい事を見つけ、それぞれがクリエイターの道を歩む若者」

 

少年「そんな創作関係の業界で知り合った二人は、クリエイターという趣味と仕事を兼ねた部分に共感し、交際を始めた」

 

少年「これが、後の南雲家……ってワケだ」

 

ハジメ「……」

 

少年「さて、次に行こうか」

 

………………

 

愁「おー! すごいなぁ!」

 

菫「あんよが上手♡ あんよが上手♡」

 

赤ちゃん「……ぁ、あぅー……」

 

………………

 

ハジメ「……あれは」

 

少年「夫婦になった南雲家……いや、親子になった南雲家、か」

 

少年「親子になった南雲家は、幸せの絶頂の中にいた」

 

少年「父親のゲーム開発は順調。母親の漫画はいくつもアニメ化し、仕事も家庭も順風満帆」

 

少年「キミがオタクの道にハマったのも……必然と言えるだろう」

 

ハジメ「……そうか。あんな風だったんだな。赤んぼのころの俺は……」

 

少年「感傷に浸ってくれるようでよかった」

 

少年「……さて、ここからがキミの見たくない物が見れるよ」

 

ハジメ「……えっ」

 

………………

 

…………

 

……

 

愁「菫!! 菫、大丈夫か!!」

 

菫「……ふふっ、もう。大げさねぇ、あなたったら」

 

菫「ほら、見てよ。怪我だってそんなにひどくないから」

 

愁「い、いや、しかし……」

 

愁「……いきなり、だったんだろう。夜道に、ナイフで切られたって……!」

 

菫「……警察の人から聞いたけど、私のファンだったみたい」

 

菫「ほら、この前の最新話で人気キャラを死なせちゃったじゃない?」

 

菫「どうやら……ね。そのキャラの推しだったらしいのよ」

 

菫「よくも殺しやがったな、って」

 

愁「……っ! 今度からは、俺が送り迎えする」

 

愁「お前のやりたいことは、俺がフォローするさ。夫、なんだからな」

 

菫「……あなただって、無茶しないでね」

 

菫「また来たんでしょう? よくも俺の作品をパクりやがってって……逆恨みのメールが」

 

愁「こんなの、よくあることだ。普段から『ボクのアイディアを採用してください』、なんてのも来てるけど、どれもこれも害はない」

 

愁「……まぁ、害はないっていうよりは、警察もそこまで本気になってくれないから、ってのもあるんだけどな」

 

菫「あなた……」

 

愁「ははっ、まったくイヤになるよな。会社のアドレスに送ってくるんだからさ」

 

……トコトコ……

 

小学生くらいのハジメ「……おかーさん? どうしたの?」

 

菫「……ふふっ、何でもないわ。ハジメ、もう遅い時間でしょう? はやく寝なきゃダメよ……」

 

愁「……『また』、引っ越しをしなきゃならないかもな」

 

………………

 

ハジメ「っ……! こ、これは……」

 

少年「……ま、よくあることだろ」

 

少年「キミの両親は有名クリエイター。ゲームは飛ぶように売れて、漫画は世間でもネットでも話題に」

 

少年「そんな人の心を揺り動かす創作物を世に出し続ける者たちが、トラブルに巻き込まれないわけがない」

 

少年「キミの両親は、いつだって悪意ある者たちによる敵意に包まれていた」

 

少年「自分で選んだ道の中、共通の趣味で出会った二人は愛を育み、子供を授かり、幸せの中にいた」

 

少年「けれど、その幸せにはいつだって障害があった。有名クリエイターだけあって、多くの者たちがあの二人に敵意を向けた」

 

少年「創作者としての嫉妬や敵意を向ける者、そのおこぼれにあずかりたい者たち、好奇心で実家に突撃しようとした者たちでさえいた。なんせ、近所にいるってんなら見たい会ってみたいは当然だ」

 

少年「このころには、顔も名前も知らない親戚から金を貸してくれって催促があったらしいよ? 特に……お母さんは漫画家だからね」

 

ハジメ「そ、そんな……」

 

少年「いつしか、あの二人は何度も引っ越しを繰り返し、ようやく安住の地を手に入れた」

 

少年「見知った顔の人、信頼のある人……悪意がない者たちのいる場所をようやく見つけ、二人はついに腰を下ろして生活することが出来るようになったんだ」

 

少年「だからこそ……キミのご両親は、あれだけ過保護になっていたんだろうね」

 

ハジメ「……し、知らない。こんなこと、俺は……聞かされて……」

 

少年「聞かせたいと思うかい?」

 

少年「子供想いの両親が、大人のいざこざを子供であるキミに」

 

少年「ましてや、目に入れても痛くない、かわいい子供であるキミに」

 

ハジメ「……そんな俺を……」

 

ハジメ「企業の、即戦力だって、言ってくれるくらいに……」

 

ハジメ「面倒を見てくれたんだな……」

 

少年「……即戦力、ね」

 

ハジメ「……? な、なんだよ……」

 

少年「……先に進もうか」

 

………………

 

…………

 

……

 

愁「いやぁ、すまないなハジメ。今日も仕事を手伝ってもらって」

 

ハジメ(中学生時代)「ははっ、なんてことないよ」

 

ハジメ「それに、この程度の仕事ならボクでも簡単だからね」

 

菫「ホントよねぇ。ハジメは何でも出来るもの」

 

菫「知ってる? ハジメのアイディアをこの前の新連載に取り入れてみたの。そうしたらすっごい人気が出たのよ!」

 

愁「すごいなぁ、ハジメは。もう即戦力にしていいくらいだ」

 

ハジメ「ははっ、そんな……」

 

ハジメ「……っと、それじゃあ会社のほうに行かなきゃだね。じゃ、先行ってるね」

 

愁「おう! 頼んだぞ! 未来の若手社員!」

 

――バタバタ……ガチャン……

 

愁「……」

 

菫「……」

 

菫「実際は、どうなの?」

 

愁「仕事に関しては簡単な雑務や資料作成くらいだ。会議には参加させてないし、新入社員の研修……を、より簡単にしたようなことしかやらせてないさ」

 

愁「ただ、まぁ……実際助かってるからな。人手が足りないときには頼りにしてるよ」

 

菫「……それは、あの子も内心はそうだと思ってるはずよ」

 

菫「きっと、この仕事にやりがいを感じている。みんなから感謝されている」

 

菫「充実感と充足感……それが、親の庇護によって成り立つぬるま湯であってもね」

 

愁「……」

 

菫「……」

 

愁「……学校、行ってほしいんだ。本当は」

 

菫「……っ」

 

愁「確かに、俺たちの庇護のもとで生きてくれるならそれでいい。だけど、それじゃあアイツの自主性は全く育たない」

 

愁「学校に行って友達を作ってほしい。だけど……どうにもならないんだな。アイツは、学校に馴染めない」

 

愁「……馴染めないから、こうやって俺たちの仕事を手伝わせる。将来的には俺の会社でやっていくのもいいだろう。俺のコネでな」

 

愁「……もう、そうするしかない……のかも、知れない」

 

菫「……私のせい、よね」

 

愁「違う。俺たちのせいだ」

 

愁「学校で馴染めないアイツにやりがいを作らせて、ぬるま湯で囲ってしまっている」

 

………………

 

ハジメ「……は、えっ……?」

 

少年「……確かに、キミのご両親はキミのことを即戦力だとほめていた」

 

少年「身内の中での、お世辞としてね」

 

ハジメ「な、んで……だって、俺のこと……」

 

少年「考えれば分かることだろう」

 

少年「何もゲームを作る会社がゲームの事だけを考えるはずがない」

 

少年「マンガを描く仕事が、描くだけで終わるはずがない」

 

少年「それを、未成年の、ましてや自分の子供にやらせるのであれば、周囲とトラブルを起こさないように隠れてフォローするだろうさ」

 

ハジメ「な、んでだ……!? なんでだ!? なんで、父さんと母さんは、そんなことを!!」

 

ハジメ「なんで、なんで……!」

 

少年「なんで? そんなの、分かり切ってるじゃないか」

 

 

少年「キミは、この時からすでにいじめられていた」

 

 

ハジメ「……っ」

 

少年「学校のクラスメイトからいじめられたキミは、学校に通うのがイヤになって不登校になりかけていた」

 

少年「キミはそんなことを両親には言わなかったけど……本当は、気づいていたのさ。気づいていたからこそ、仕事を手伝ってほしいという名目でキミを会社に、仕事場に連れて行ったのさ」

 

少年「即戦力がどうとかって言ってたのも、ほぼ不登校気味だったキミにやりがいのあることをやらせたかったから」

 

少年「学業がうまくいかず、進路を選べるほどの技術も知恵も結果も出せなかったら、自分たちの会社に就職させるつもりだった」

 

少年「……そうとも知らないのに、キミは高校に行ってからこんな風に思ってたんだよね」

 

 

少年「高校になんていかなくてもいいくらいに、自分は戦力として、社会に必要とされている」

 

 

ハジメ「あっ……あっ……」

 

少年「滑稽だな。親の庇護によって作られたレールの上で、キミは大人を演じているつもりだった」

 

少年「ほかでもない、その大人に助けられていたのにね」

 

ハジメ「そ、んな……そんな……!」

 

少年「驚いたかい?」

 

少年「キミのご両親はとても過保護だった。でも、過保護にならざるを得なかった。本当だったら、何のしがらみもない、単なる会社員になって……住む場所のランクが下がって、給料が減っても、キミとのコミュニケーションを増やしてもっと自立するように面倒を見たかったはずさ」

 

少年「でも出来なかった。なぜなら、もう引き返せないから。彼らくらいの年齢になれば、転職は厳しいが出来なくもないだろうが、問題はそこだけじゃない」

 

少年「かたや有名漫画家、かたや有名ゲーム会社の社長さんだ。もはや、一個人の判断では決定できないほどに、あの二人は多くの責任を背負い、周囲を巻き込んで社会に組み込まれている。家族からも、そして社会からも逃げないために、二人はキミを守っていたんだ」

 

少年「……きっと、キミが高校にちゃんと通学している時……あの二人は安堵してただろうね。きっと、ハジメはもう大丈夫、だって」

 

 

少年「そんな君が、ただの暇潰しで通学し、授業中は昼寝してばかりだと知らずにね」

 

 

――ドサッ……

 

ハジメ「……馬鹿な、そんな……俺は……」

 

ハジメ「なにも知らないで……そんなっ……!!」

 

少年「……言っておくが、これは確かにボクがつくった幻覚ではあるが、キミたちの世界を元にして作ったものだから……事実だよ」

 

少年「……さて、見るべきものは何も家族だけじゃない」

 

少年「そう、ほかでもない、キミを取り巻く者たちだってそうさ」

 

ハジメ「なっ……」

 

少年「耳を澄ませてみなよ。聞こえるはずだよ」

 

………………

 

――……社長、またあの子を連れてきたのか

 

――確か……2、3年位前からか。もうそんなになるか……

 

――元々、不登校だったから会社に連れてくるようになったけど、高校に上がってからもまだ来てるんだなぁ

 

――……あの子、学校でちゃんと馴染めてるのかな……

 

………………

 

ハジメ「な、なんだこの声……誰の声だ……?」

 

少年「キミのお父さんところの社員さん」

 

ハジメ「しゃ、社員!?」

 

ハジメ「……! そ、そうだ! この声、聴いたことがある!」

 

ハジメ「確か……そうだ、俺に仕事を教えてくれた……」

 

ハジメ「いつも作業中に、仕事の報告を聞きに来て……よく気にかけてくれた人……!」

 

少年「キミのお父さんは、何かあった時に部下に見てもらうように頼んでいたんだ」

 

少年「この人、元々キミと同じくらいの年が近い子がいたから気にかけてくれたんだね」

 

少年「……キミは、思い出すのに時間がかかったようだけど、ね」

 

ハジメ「……っ」

 

………………

 

――……ちっ、まーたあのガキが来てやがる

 

――別にさぁ、来てくれるなら構わねぇよ

 

――でもさぁ、上司のさ、それも社長さんところのガキとかどう接しろってんだよ

 

――こっちも気を使うしさぁ……下手なこと言えねぇよ……

 

………………

 

ハジメ「い、今の……」

 

ハジメ「……あっ! 確か、よく俺に声をかけてくれた……」

 

少年「この人もお父さん所の社員さんさ」

 

少年「この人は二十台半ば。業界に夢を見て入ってきたところ、仕事が順調に行ってたところに君が会社にやってきた……」

 

少年「とても気を使っただろね。上司の息子さんとか、仕事のこと以上に気にかけなきゃいけない部分だし」

 

ハジメ「……あんな風に陰で悪態をついてたのに……気を使って……」

 

少年「そりゃ、キミは悪人でもないし、素直な性格だからね」

 

少年「余計に気を遣うさ。たとえ、陰でなんて思っていても、波風立てないように取り繕う。大人な対応だね」

 

………………

 

――おっ、ハジメ君はすごいねぇ!

 

――将来はお父さんの会社を継ぐのかな?

 

――……ふふふっ、私の事、覚えておいてくれよ

 

――何かあった時には私に頼りなさい! ね!

 

………………

 

ハジメ「……この人は……」

 

少年「……もう、見ただけで分かるでしょ」

 

少年「将来の即戦力だと言う言葉、いくら察しの良いキミならそう言われて簡単に浮かれるはずがない」

 

少年「だけど、それがキミのことを気遣う両親だけじゃなく、それこそ持ち上げようとした誰かがいるなら話は別だ」

 

ハジメ「……ゴマを、すってるやつが……いたのか……」

 

少年「親だけでなく、無関係な社員すらも期待してくれる言葉を投げてくれた」

 

少年「キミは真に受けてしまったのさ。ゴマを擦ろうとして、『社長の息子』であるキミを持ち上げようとしたその悪意に気づけなかった」

 

ハジメ「……俺の周囲に、こんなっ……こんなっ……」

 

ハジメ「! ま、まて! それだったら、なんで俺のアイディアが採用されたりしたんだ!?」

 

ハジメ「俺は確かに父さんたちの仕事を手伝って、それで結果を残した! アイディアだって、採用された!」

 

ハジメ「デザイン、設定! これらがちゃんと取り入れられて、父さんの会社のところで作られた作品は……ヒットして……!!」

 

少年「……」

 

少年「これも、見て見るがいいさ」

 

………………

 

――……おーい、これこれ

 

――ん? ……あー、これっすか

 

――あぁ、アソコん所のだよ。ほら、有名な即戦力クン

 

――これ、採用しておくんスか

 

――まぁな。社長ンところの機嫌を損ねるわけにはいかねーだろ

 

――あー……じゃあ、これどーします?

 

――この間のコンペのやつか……ん……

 

――没にしとけ。元々、この部分にはそこまで力を入れる必要がねぇところだからな

 

………………

 

ハジメ「――えっ……えっ……?」

 

少年「……有名ゲーム会社の社長の息子のアイディア」

 

少年「無下にするわけにはいかなかっただろうね。キミに対する媚びを売ること、作品の完成度を高めるためににアイディアを取り入れて作品のクォリティをアップさせて……当時の部下の人たちは、それらを両立させてたんだろうねぇ」

 

少年「息子さんへのご機嫌取りをしながら、仕事もばっちりこなしてたわけだ」

 

ハジメ「う、嘘だ……だって、俺は、ずっと俺は……」

 

ハジメ「……じゃ、じゃあ……これまでも……? これまでも、ずっと……??」

 

少年「……これすら、あったわけだ」

 

………………

 

――……っ、クソっ、クソっ、クソっ……!!

 

――俺っ、やっと、やっとこの会社に入れて……!!

 

――ずっとずっと勉強して、やっと、俺のアイディアが通ると思ったのに……!!

 

――なのに、なのにっ! なんで……!

 

――あいつは、社長の息子ってだけで……俺の、アイディアががっ……!!

 

――ちくしょう……どれだけ努力しても、権力や地位を持ってるやつには、勝てないのかよ……っ!!

 

………………

 

ハジメ「あっ……あっ、あぁ……!!」

 

少年「……先に行っておこう。これは、キミの両親は関係ない」

 

少年「というより、会社の社員たちの間の話……だからね」

 

少年「キミを守るために、それでないがしろにされた人たちがいたのは想像に難くないだろう」

 

少年「キミのアイディアを通すために、ほかの者たちはないがしろにされた」

 

少年「キミを持ち上げるために、ほかの者が放り出された」

 

少年「これが、キミの世界だ。キミの現実だ」

 

 

少年「これこそが、キミが帰りたがっていた『故郷』の正体だ」

 

 

ハジメ「―――う、うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

少年「……」

 

ハジメ「お、おれはっ……! こんなっ、ばかなっ……!!」

 

ハジメ「おれが……っ! おれがっ……! みんなをっ……!!」

 

少年「……さて、一通り見てもらったわけだが」

 

少年「感想を、聞かせてもらおうか」

 

ハジメ「……な、なにが目的だ」

 

ハジメ「お前の役割が甘い夢を見せるなら……これは……」

 

ハジメ「まったくの、正反対じゃねぇか……!」

 

少年「……何を言ってるんだい?」

 

少年「ぼくはちゃんと、甘い夢を見せてるじゃないか」

 

 

少年「キミは、元の世界に帰ることに戸惑いを感じている」

 

少年「だって、キミは人殺しだから」

 

 

ハジメ「……!!」

 

少年「キミは人殺しで、しかも、このトータスを荒らしに荒らしまわった」

 

少年「それでも甘い夢にまどろむ気がないのは、半ば強い精神性を持ったがために、『ちゃんと現実を見なきゃ』と心がけてしまってるから」

 

少年「だから、キミは見る気もしなければ、見てもいなかった故郷の裏側を、厳しい現実を見なければと思ってしまったのさ」

 

ハジメ「あ、あぁぁ……あっ……!」

 

少年「キミは、元の世界に帰りたいけど、帰りたくない」

 

少年「こんな自分に、元の世界に帰る資格なんてない」

 

 

少年「そんな自分のダメなところを、現実を見せてくれる誰かを欲していた。だから、こうしてこの世界が繰り広げられているわけさ」

 

 

ハジメ「っ……!! ぁ、あっ……!」

 

――ドサッ……

 

少年「……ま、これで終わりかな」

 

少年「出たければ、出てもいい」

 

少年「ここにいたいのならば、ここにいてもいい」

 

ハジメ「……あっ、あぁぁ……っ」

 

少年「……夢を見れるほど馬鹿じゃなく」

 

少年「厳しい現実を見てしまうほど半端に賢い」

 

少年「はたして、どっちが幸せなんだろうね」

 

少年「夢を見るか、現実を見るか」

 

 

【――清水の理想世界】

 

………………

 

…………

 

……

 

――チュンチュン……チチチチチ……

 

清水「……は? どこだ、ここ……」

 

清水「あれ、えーーーと……俺……」

 

清水「……あっ、そうだそうだ。今日は学校に行く日だったな」

 

……バタバタ……ガチャンッ

 

清水「おはよう、父さん。母さん」

 

清水の父「おう、おはよう」

 

清水の母「あら、もう起きたの?」

 

清水「うん。今日はほら、約束があるからさ」

 

清水の母「あら、そうだったわねぇ」

 

ドタドタドタ……

 

清水の兄「あ、お前もう起きてたのか」

 

清水「おはよう、兄さん」

 

清水の弟「へぇー、兄さんの割には早いね」

 

清水「う、うるせぇなぁ」

 

――ピンポーン

 

清水「……あ、もう来たみたいだ」

 

清水「んじゃ、行ってくるよ」

 

清水の兄「おう、お前のガールフレンドによろしくなー」

 

清水「ちゃ、茶化さないでよ!」

 

清水「……」

 

清水(俺は清水幸利。高校に通う、男子生徒だ)

 

清水(今、玄関にいるのは俺の事を慕ってくれる女の子の一人。それも、将来を誓い合った女の子だ)

 

清水(俺は、世間一般でいうところのハーレムを持った男だ。まったく、モテる男はつらいよな)

 

清水(……父さんと母さんがいて、兄さんや俺の弟が俺の事を慕ってくれて……)

 

清水(これが、俺の日常なんだ)

 

………………

 

…………

 

……

 

【――恵里の理想世界】

 

………………

 

…………

 

……

 

恵里「――お父さん、お母さん! おはよう!」

 

恵里の父親「おはよう、恵理」

 

恵里の母親「あらあらこの子ったら、いっつもお父さんにべったりなんだから」

 

………………

 

…………

 

……

 

【――檜山の理想世界】

 

………………

 

…………

 

……

 

女ども「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!! 檜山さんすてきーーーーーーーーーー!!!」

 

檜山「がはははははははは!!!!」

 

女ども「檜山さまぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

檜山「ふほほほほほほほほほほほほほ!!!」

 

女ども「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

檜山「はっはーーーーーーーー!!」

 

檜山「お・れ・の・じ・だ・い、きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

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