生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第25話

 

 

【清水の理想世界】

 

【……学校の教室】

 

……ガヤガヤガヤ……

 

清水「……」

 

ヒロイン「ねぇ、清水君。どうしたの?」

 

ヒロイン「もしかしてまた居眠り? 普段からちゃんと早く寝るようにしなきゃダメって言ってるでしょ?」

 

清水「ん、えっ……あ、あぁ。分かってるよ」

 

ヒロイン「んもう、そっけないなぁ」

 

清水「ははっ、普段からこんなだろ? 俺って」

 

清水「お昼休みそろそろ終わりだろ? はやく午後の授業の準備とかしとけよ」

 

ヒロイン「誰かさんじゃないんだから大丈夫でーす」

 

コツコツコツ……

 

清水「……へへっ、そうでかい」

 

……ガラガラ

 

教師「よーし、授業の時間だ。席につけ―」

 

………………

 

清水「……ふぅ。放課後かぁ」

 

ヒロイン「おーい! 清水君、そろそろ帰ろうよー!」

 

清水「うわっ、声でけぇなぁ」

 

――ヒソヒソ……ねぇ、またあの二人一緒にいるよ……

 

――あの野郎、学園一のあの子にいっつも気にかけてもらいやがって……

 

――あーちっくしょ……バカバカしいったらないよなぁ

 

清水「……」

 

清水(俺の事を慕ってくれるヒロインがいる)

 

清水(学校では男友達なんて一人もいなくて、女がいっつも周りにいて)

 

ヒロイン「……ねぇ、この後の事、わかってるよね」ヒソヒソ

 

清水「ん、……あぁ。『モンスター』だろ」

 

ヒロイン「ふふっ、覚えておいてよろしい」

 

ヒロイン「――『奴ら』に対抗するには、私たちのような選ばれし者でなきゃいけない」

 

ヒロイン「特にあなたは、『伝説の能力者』……あなたの力は、世界を揺るがす唯一無二の力」

 

清水「……わかってるさ。やれるのは、俺だけなんだからな」

 

ヒロイン「よしっ! じゃあ、駅前に集合ね!」

 

………………

 

【――夜、駅前】

 

………………

 

ヒロイン「おーい! こっちこっち!」

 

清水「ああもう、大きな声出すなっての」

 

ヒロイン「ふふっ、いいじゃない! だって、もう仕事が早く終わったんだもの!」

 

ヒロイン「この後はデートだよ! ほらほら! はやくして!」

 

………………

 

ヒロイン「ねぇ、清水君はもうこの仕事に慣れた?」

 

清水「ん、まぁな」

 

清水「……なんていうかさ、ホント驚きだよ」

 

清水「俺、昔は単なるいじめられっ子で、漫画とアニメが好きなだけのオタクでさ」

 

清水「それが、伝説の能力者で、怪物にもそれを狙う組織にも……」

 

ヒロイン「……ふんっ、それでいていろーんな女の子にも囲まれてますもんねー」

 

ヒロイン「組織の上層部のあの人に、ロシアから来た転校性に……あっ、大昔にこの国を守護した巫女さま……」

 

ヒロイン「ほーんと、キミには女の子がたくさんいて怖いよ」

 

 

ヒロイン「みんながキミを『見ている」。キミのことを注目している」

 

 

清水「……注目、か」

 

ヒロイン「だから気が気でないんだよねー」ボソッ

 

清水「……」

 

清水(伝説の能力、それらに唯一対抗できる特別な力を持つ俺)

 

清水(俺は、特別な力を持つからこそ、みんなに見てもらえて、注目されて……だからこそ、俺だけにしか出来ない事を……頼まれて……)

 

清水(……俺の場所なんだ)

 

清水(特別な力も合って、俺の事を見てくれる人がこんなにいて、俺の事を認めてくれる人がいて)

 

清水(それが、俺の場所なんだ)

 

清水(これが、本当の俺なんだ)

 

………………

 

…………

 

……

 

【恵理の理想世界】

 

【学校】

 

………………

 

恵理の彼氏「どうしたんだい恵理」

 

恵理「……えっ、な、なに?」

 

恵理の彼氏「さっきからお昼ご飯を食べるペースが落ちてるじゃないか」

 

恵理の彼氏「……食欲がないのかい?」

 

恵理「えっ、あ、あはははは! ち、違う違う!」

 

恵理「あー、なんだろ……ちょっとボーっとしちゃったんだよね!」

 

恵理の彼氏「ふふっ、恵理ってばほんと不思議ちゃんだよね」

 

恵理の彼氏「……何か困ったことがあったら、いつでもぼくにいってね。ぼくは、いつだって恵理の味方だよ」

 

恵理の彼氏「いつだって、ぼくはキミの傍にいる」

 

恵理「……うん、うん……そう、だね……」

 

………………

 

恵理の彼氏「今日の授業はとても難しかったね」

 

恵理「……うん、そうだね」

 

恵理の彼氏「……あの教師、すっごいクソだったよね」

 

恵理「えっ、そう、かな……?」

 

恵理の彼氏「そうだよ! だって、あいついっつも恵理を指してくるんだよ!?」

 

恵理の彼氏「きっと恵理に嫌がらせをしたいんだよ! そうに違いないさ!」

 

恵理「……そ、そんなことないよ」

 

………………

 

恵理の彼氏「恵理、それじゃあまた明日ね」

 

恵理「……うん、また明日」

 

恵理の彼氏「……」

 

恵理の彼氏「今日一日、ずっと浮かない顔だったね」

 

恵理「……そうだね」

 

恵理の彼氏「恵理、何かあったらいつでもぼくにいってくれ」

 

恵理の彼氏「ぼくは、いつでも君を守る。キミが辛い顔をしていることが何よりも辛いんだ」

 

恵理「……う、うん」

 

恵理の彼氏「辛いことや苦しいことがあるなら、誰かに頼っていい」

 

 

恵理の彼氏「辛ければ、変わらなくていいんだ。恵理は今のままの恵理で素敵なんだから」

 

 

恵理「……あ、あり、……がとう……」

 

………………

 

…………

 

……

 

【恵理の家】

 

恵理「……た、ただいま」

 

恵理の母「あら、おかえりなさい!」

 

恵理の父「おっ、ちょうど帰ってきたところか」

 

恵理の父「ちょうどいい。恵理、出かける準備をしなさい」

 

恵理「? なんで?」

 

恵理の父「なんでって、今日は外食の日だろう?」

 

恵理の父「だって……な?」

 

恵理の母「ふふっ……」

 

恵理「……あっ」

 

恵理「結婚記念日……!」

 

恵理の父「はっはっはっは……まったく、恵理はうっかり屋さんだなぁ」

 

恵理(そうか、その通りだ……今日はお父さんとお母さんが結婚して20年……)

 

恵理(結婚して……20年……)

 

 

恵理(……いきて、たら……)

 

 

――……エリリン……

 

恵理「? いまの……」

 

恵理の母「……」

 

恵理の父「……」

 

恵理「……二階から……」

 

恵理「……ぼくの、部屋から……」

 

恵理の父「……なぁ、恵理」

 

恵理の父「恵理は、昔から変わらないなぁ」

 

恵理「? そ、そうかな」

 

恵理の父「あぁ、本当だよ。いっつもおとなしくて、とても賢くて」

 

恵理の父「だからなぁ、思うんだ」

 

恵理の父「恵理は、ずっとこのままでいてほしいなぁって」

 

恵理「……」

 

恵理「うん、そうだね」

 

 

恵理「私は……このままでいたいや」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

【檜山の理想世界】

 

――ピタッ……

 

檜山「……あーきた」

 

女ども「……えっ?」

 

檜山「いやー、なんつーかさ」

 

檜山「十分堪能したわ、俺」

 

――ズルッ……ドサッ……

 

女ども「ひ、檜山様!? 檜山様、どこにいくの!?」

 

檜山「あ? どこにいくも糞もねーよ」

 

檜山「……ここってさぁ、確かに理想っちゃ理想的だわ」

 

檜山「飯もある、女もある、快適で楽しい場所」

 

檜山「でもさ、そんだけなんだわ。金とか時間をかければ誰でも手に入るような場所」

 

檜山「んでさ、何がさぁ……くっだらねーってさ」

 

 

檜山「この世界、そもそも白崎もいなければ南雲もいねーんだわ」

 

 

女ども「そ、そんな! 私たちじゃ不足だとでも……!」

 

檜山「いや、不足じゃねーよ。むしろさ、理想的な世界だからさ……白崎以上に美人もいるし、もっと好きになれる女がたくさんいたんだわ」

 

檜山「……それってさ、俺って別に白崎が好きでもなければ、南雲についてもボッコボコにしてやりたいって気持ちも本気ってわけじゃなかった」

 

檜山「目標もなければ、やりたいこともないし、それでいて大それた夢なんてない」

 

檜山「なんてこたねぇや……俺は『何も持ってない男』だから、簡単に手に入る物で満足できるような……」

 

檜山「うすっぺらい世界しか作れなかった。それだけだったんだ」

 

女ども「そ、それでいいじゃないですか! それで、ずっとここにいれば!」

 

檜山「……あぁ、そうだな」

 

檜山「簡単に満たされる欲望なら、ずっとこの薄っぺらい世界に閉じこもってりゃいい」

 

女ども「だ、だから……!」

 

檜山「あぁ、だから」

 

――ブゥン…! バギィィィン!!!

 

女ども「か、壁が……!」

 

檜山「だったら、これからの『俺』を作っていけばいい」

 

檜山「夢でも、目標でも何でもいい。俺が、何よりもかけがえのない『ステータス』を、現実で掴めばいい!!」

 

――ダダダダダダ……!

 

女ども「い、いかないで檜山様!」

 

檜山「俺はな!! もううんざりしてんだよ!!」

 

檜山「ちっぽけな欲望で満たされることで満足してるのも! 足を止めて、ちっぽけな自分で満足してるのも!!」

 

檜山「じゃなきゃ――馬鹿にしてた南雲以下だからなァ!!」

 

――バギィィィイン!!!

 

………………

 

…………

 

……

 

【――現実】

 

――パキパキッ……パキンッ!

 

檜山「……っ、ぶっはぁぁぁぁぁ!!」

 

檜山「っしゃぁぁぁぁ!! 脱出ぅぅぅぅ!」

 

檜山「……なにこれ? 琥珀かなにか?」

 

檜山「あー、さてさてさて……周囲を見――」

 

 

ボスゴキブリ「ギチギチギチギチギチギチギチ!!!!」

 

 

檜山「……」

 

檜山「えっ、なにあれは……(ドン引き)」

 

香織「!! 檜山くん!?」

 

檜山「あっ、白崎!?」

 

光輝「起きてくれたか! 檜山!」

 

龍太郎「っゲェーーーッ!! 起きたの南雲じゃねぇのかよ! いやまぁ来てくれたのはうれしいけどよ!」

 

檜山「そ、その前に何事だよオイ!? なんだよあのゴキブリもどきの怪物!?」

 

光輝「どうもこの迷宮のボスにあたるらしい!」

 

ノイント「ここは、理想の世界から早く脱出しなければ、あの魔物によって食い殺されてしまう場所のようです」

 

檜山「あっ! あんた脱出できたのか!?」

 

ノイント「元々、空っぽの心を持っているようなものなので」

 

ノイント「理想の世界を魅せられようが、苦でもありませんよ。あんな場所」

 

ボスゴキブリ「ギチギチギチギチ!!!」

 

鈴「っぐぅぅぅぅ! 苦戦するぅぅ!」

 

檜山「っ! っつーか、お前らなんで苦戦してんだよ! こう、ズバっといけよズバっと!」

 

光輝「む、無理だ! なぜか……攻撃したくないんだ!」

 

檜山「んなっ、なんだそれ……って、もしかして何かの魔法か!?」

 

ノイント「察しが良くて助かります」

 

ノイント「『感情の反転』。好意を嫌悪に、敵意を好意に。それが今の迷宮のギミック」

 

ノイント「……これには私もやられました。いくら感情が薄かろうとも、戦う以上は敵意を抱きますから。まったく攻撃に転じたいという気持ちがわきません」

 

檜山「っ……! クソッ!」

 

ノイント「そのためか、みなさん守りに徹するのに必死……」

 

ノイント「さて、どうしましょうか……」

 

パル「はぁ、はぁ……!」

 

パル「た、耐えるんだ……なんとか……!」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【清水の理想世界】

 

年上ヒロイン「ふふっ、清水……いつか、アナタを私のモノにして見せるわ……!」

 

年下ヒロイン「えへへっ、清水お兄ちゃんだいすき♡」

 

外国からのヒロイン「……清水、アナタは私のものよ」

 

――系ヒロイン「ねぇ、清水さん」

 

――系ヒロイン「先輩、先輩……!」

 

………………

 

…………

 

……

 

【清水の家】

 

清水の弟「うへー、またお兄さんの勝ちかー」

 

清水「はっはっはっは! まぁな!」

 

清水「このゲームは昔から得意だからなー、そりゃ負けるわけがないってもんよ弟クン」

 

清水の弟「……へへへっ、兄さんはすごいな」

 

清水の弟「ゲームも出来て、勉強も出来て、いろんなこと知ってて」

 

清水の弟「兄さんは、本当に……自慢のお兄さんだよ!」

 

清水「……ん、あぁ……うん」

 

清水「……」

 

清水(……こんなに、やさしくなかったよな……)

 

清水(……? やさしく、なかった……?)

 

 

清水(あれ……なんで、やさしくなかったんだっけ……)

 

 

………………

 

清水「ふぅ……ごちそうさま」

 

清水の父「お、よく食べるなぁ」

 

清水の母「ホントよねぇ、こんなに食べられるようになって……中学生の時は食が細かったのに」

 

清水の母「ふふっ、うれしいわ」ホロリ

 

清水「あ、あははは……なんだよ、そんなに心配しちゃって」

 

清水「じゃ、俺は自分の部屋に戻るから」

 

清水の兄「……」

 

………………

 

清水の兄「なぁ、幸利。お前、なにかいいことあったのか?」

 

清水「? なんでそう思うのさ」

 

清水の兄「お前って、そんなに明るい感じじゃなかったってかさ」

 

清水の兄「もうちょっと、内にこもるような感じだったからさ」

 

清水「あ、あははは……何をそんなに気にかけてんのさ」

 

清水の兄「はぁ……気にかけて当たり前だろうが」

 

 

清水の兄「家族なんだからさ」

 

 

清水「……うん、そうだね」

 

………………

 

【深夜】

 

清水「……」

 

清水「……」

 

 

清水(本当は分かってる。この世界が理想の世界だって)

 

 

清水(……俺の力が、精神操作に起因してるっていうもあるんだろう。この世界は、さっきから俺の心をこの世界に沈もうと躍起になってる)

 

清水(わかってしまう。ほんとうは何をすべきかなんて)

 

清水(……)

 

清水(おれは)

 

清水(なにがほしかったんだろう)

 

清水(あれだけ、たくさんのことを望んでいたはずなんだ)

 

清水(おれが)

 

清水(おれが)

 

清水(ほんとうに、ほしかったもの)

 

………………

 

【学校の屋上】

 

清水「……」

 

ヒロイン「どうしたの? 清水君」

 

清水「……お前か」

 

ヒロイン「……辛そうな顔、してたよ?」

 

ヒロイン「なにか……あったの?」

 

清水「……」

 

清水「俺さぁ、欲しかったんだよ」

 

ヒロイン「……? な、なにが?」

 

清水「……かわいいヒロインとかさ、特別な力とかさ」

 

清水「ずっとずっと、それより前から欲しかったんだ。俺は」

 

ヒロイン「……ふふっ、どうしちゃったの?」

 

ヒロイン「今のあなたには、それがあるじゃない」

 

清水「……」

 

――スクッ……

 

清水「……違う」

 

清水「俺が本当に欲しかったのは、ヒロインでも、特別な力でもないんだ」

 

ヒロイン「えっ……?」

 

清水「何よりも、自分の事を認めてもらえるもの」

 

清水「胸を張って、これが俺だって言ってもらえるようなも」

 

清水「俺の事を、見てくれる誰かが俺は欲しかったんだ」

 

ヒロイン「……うん、そうだね。だから、私はずっと君を――」

 

清水「違う。お前じゃない」

 

ヒロイン「……えっ?」

 

――スタスタスタ……

 

清水「……南雲はな、敵意があったとしても、俺の目を見ようとしてくれた」

 

清水「結果がどうあれ、アイツは俺の事を始めて見てくれた他人なんだ」

 

清水「それなのに……いま、こうして俺だけが現実から目をそらしてしまうなんて……」

 

清水「そんなの……筋が通らない!!」

 

――ダダダダダダ!

 

ヒロイン「!? ちょ、ちょっと待って! どこに、どこにいくの!?」

 

清水「俺は帰る! 元の世界に!!」

 

清水「父さんも、母さんも! そして、何よりも!!」

 

清水「そうだったんだ……! 兄さんや、俺の弟だって! 俺の事を見ようとしてくれた!!」

 

清水「みんなが見てくれてたのに! 俺だけが見ようとしてなかった!!」

 

ヒロイン「まって、待ってよ!」

 

ヒロイン「お願い! お願いだから! 私を置いてかないでよ! 清水君!!」

 

――タッタッタッタッタッタ……

 

清水「――もう、声も聞こえない」

 

清水「世界が消えていく、周囲の人間も消えていく……!」

 

清水「だけど、見る必要なんてありはしない! 俺はもう、何を見るのかなんて自分で分かる!」

 

――タッタッタッタッタッタ……

 

清水「父さん、母さん……兄さんたち! ごめん、今まで本当にごめん!!」

 

清水「俺は絶対に元の世界に帰る! 帰って……話すことから始めるよ!」

 

清水「俺はもう、目をそらさない!!」

 

 

清水「現実にも……自分自身にもだ!!」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

【恵里の理想世界】

 

【――】

 

………………

 

恵里の彼氏「……恵理、どうしたんだい? ぼくの恵理」

 

………………

 

恵里の彼氏「ぼくはキミの味方だよ」

 

………………

 

恵里の彼氏「辛いことがあったら頼っていいんだ。キミは、守られるべき人間だ」

 

………………

 

恵里の彼氏「何かあれば、ぼくがキミを守るよ」

 

………………

 

【恵理の家】

 

恵里の父「今日は駅前の新しいレストランに行くんだよ」

 

恵里の母「ふふっ、楽しみね」

 

恵里「……」

 

恵里の父「……どうしたんだい? はやく準備しなさい」

 

恵里「……」

 

恵里「ちょっとまって」

 

――……スタスタスタ……

 

恵里の父「……どこへいくのかな」

 

恵里の母「そっちは二階よ? どうして自分の部屋に戻るの?」

 

恵里の父「もう準備は済ませている。着替えなくてもいいんだよ」

 

恵里の母「そうよ? お父さんとお母さんとお出かけしないの?」

 

恵里「……すこししたら、戻るから」

 

恵里の父「……そっか」

 

恵里の父「わかったよ」

 

………………

 

恵里「……」

 

恵里(この世界に来てから、違和感があった)

 

恵里(クラスメイトがいる、見知った顔もいる)

 

恵里(だけど、ある一人がいない)

 

恵里(……いや、明確に一人だけ……取り除いたかのように、いない……っ)

 

――ピタッ……

 

恵里「……ここが理想の世界なら、ここにいる可能性がある」

 

恵里「……だけど、ここが理想の世界ということは……無意識に願う、そうならば……」

 

恵里「……私の、理想が……あるなら……」

 

――……ガチャッ……

 

 

鈴「――エリリン」

 

 

恵里「……」

 

恵里「あはは」

 

恵里「あはははははは!!」

 

恵里「……ははっ……あはは……」

 

鈴「……どうしたの? エリリン」

 

恵里「……なーんでお前がここにいるんだよ」

 

鈴「……だって、エリリンが会いたいって思ってから、鈴はここにいるんだよ?」

 

恵里「……うん、だよね」

 

――……ドサッ

 

恵里「……お父さんはもういない。お母さんだって、単なる金づるだ」

 

恵里「でも、なにより笑っちゃうのがさ。ボクの彼氏を演じてくれたのが」

 

恵里「光輝くんでも何でもない……知らない男がいたんだ」

 

恵里「結局、誰でも良かったんだ。光輝くんが誰でも助けるように」

 

恵里「ボクも、同じように誰でも良かったんだ。縋れるもの、頼れるものがあるなら」

 

恵里「……笑っちゃうよな。やってることが」

 

 

恵里「あの男を家に入れた――母さんと同じじゃん……」

 

 

鈴「……じゃあ、どうする? エリリンはどうしたい?」

 

恵里「……」

 

――スクッ……

 

恵里「……彼氏は誰でも良かったけど」

 

恵里「お前は、違うんだな。お前だけは……変わらないまま、理想の世界にいた」

 

恵里「あーあ……それが、答えだったんだ」

 

――スタスタスタ……

 

鈴「……どこにいくの?」

 

恵里「……この世界のお父さんは、ボクに変わらないままでいいって言ってくれた」

 

恵里「お母さんは、ボクに人の感情や心なんて容易く変えられるものだと教えてくれた」

 

恵里「……なら、変えてみせるさ」

 

――ダダッ!! タッタッタッタッタッタ!!!

 

鈴「――恵里!」

 

恵里「ごめん、ボクは……現実のお前に会いに行く!」

 

――タッタッタッタッタッタ……

 

恵里「お父さんはもうこの世にいない! だって、死んじゃったから!」

 

恵里「ボクのことを支えてくれる人なんて、どこにもいない! でも……いつかは見つけてみせる!」

 

恵里「人の気持ちなんて、簡単に変えられるなら!!」

 

恵里「『ボク』は――」

 

 

恵里「――『私』は!! 私自身を変えたい!!」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

【現実】

 

バキィィィン!!

 

――ドシャァ!

 

パル「ぐ、ぐぅぅぅぅ!!」

 

香織「ぱ、パルくん!!」

 

龍太郎「ば、ばっかやろ!! お前、下がってろ!」

 

ボスゴキブリ「ギチギチギチギチギチギチ!!!」

 

パル「っ……! た、戦わなくちゃ……いけないんだっ……」

 

パル「こ、これ以上……シアおねえちゃんや……みんなの暴走を止めるためにも……!」

 

――ザッ!

 

パル「理想世界の! 昔の世界なんて要らない!!」

 

パル「暗殺のバルドフェルトじゃなく、ハウリアのパルとして! ここに戻ってきたんだ!」

 

――ガバァ!!

 

ボスゴキブリ「ギチギチギチギチ!!!」

 

光輝「ご、ゴキブリがパルのほうに!!」

 

鈴「に、逃げてぇェェェ!!」

 

ノイント「っ……ちぃ!」

 

――ビタッ

 

ノイント(手が、止まるっ……! 攻撃を食い止めようとすると、抵抗が……!)

 

檜山「くっ、クソッ! 魔法が、出したくてもだせねぇ!」

 

――バババッ!

 

パル「っ……!!」

 

パル「……あ、あれ……」

 

 

死体「あ、あぁぁあぁぁ……」

 

 

光輝「し、死体……?」

 

鈴「死体を……操るって……まさか!」

 

「――まったく、男の子だけにヒーロー気取りかい?」

 

パル「あ、あなたは……!」

 

「……この世の中に、ヒーローがいないなら」

 

 

恵里「せめて、キミのヒーローにはなってやるよ」

 

 

鈴「え、恵理ーーー!!」

 

龍太郎「お、お前……この死体は……」

 

恵里「……この迷宮によって亡くなった死体だ。おかげさまで簡単に調達できたよ」

 

――ババババババ!

 

鈴「こ、これは……」

 

龍太郎「う、うぉぉぉぉ……偉いグロテスクな肉壁だなぁオイ……」

 

恵里「これで簡単に時間は稼げるが……」

 

パル「え、恵里さん!」

 

恵里「よそ見をするな! こいつら、まだ何かしてくる!」

 

ボスゴキブリ「っ! ギチギチギチッ!!」

 

――ドドドドドッ!!!

 

光輝「! こ、この数の……雑魚ゴキブリ!」

 

鈴「ひ、ひぃぃぃ……これだけいるのに嫌悪感がぜんぜんない~~!! かえって怖い―!」

 

檜山「クソッ! こいつら、ザコなのに……!」

 

 

清水「――じゃあ、お前らの心をどうにかすればいいんだな?」

 

 

――ズズズズズズ……!!

 

光輝「えっ、しみ、ずッ…!」

 

龍太郎「……ん、あ? あれ……?」

 

檜山「こ、心が……元に戻ってる!? やった、ちゃんとこいつらが気持ち悪く見える!!」

 

ボスゴキブリ「っ!?」

 

清水「へへっ、運が悪かったな」

 

清水「精神操作は元から俺の得意分野でね」

 

清水「ハルツィナさん、ダンジョンギミックぶっ壊して悪いね。アンタ、俺と相性最悪だよ」

 

鈴「こ、これなら!」

 

ノイント「……勇者の駒よ」

 

光輝「言われなくてもわかってる!!」

 

――チャキンッ!

 

――ズバッ!!!

 

ボスゴキブリ「ぎ、ち……ぎち……」

 

――ドズンッ……!!

 

ノイント「とっとと壊してここから出ましょう。不愉快です」

 

光輝「……まったくだ!」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

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