生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第29話

 

【ハイリヒ王国】

 

【――ランデルの部屋……】

 

――カリカリカリカリカリ……

 

ランデル「……」

 

ランデル(……神の使徒……あの、檜山と言うモノの知り合いに街を調べてくれと言って数日……)

 

ランデル(調査の方は進んでいるだろうか……)

 

ランデル(余は、王子ゆえに好きに動くことが出来ぬ。未来の王として、ハイリヒの主として、成せばならぬことがあまりにも多い)

 

ランデル(今こうして、余の言葉を聞いてくれる者たちの存在は……ありがたい……)

 

ランデル(……)

 

ランデル(いったい……いつから……この国はこのような形を取ってしまったのだ……?)

 

ランデル(お父様とお母様は……いまでは魔王ハジメを崇める熱心な信奉者。あの者を神か何かみたいに、異常なほど熱を上げて浮かれている……)

 

ランデル(いや、二人だけではない。城内の家臣たち、兵士たち……一部の物を除けば、偉大なる魔王を崇めるために、そのすべての思考を取り去ってしまっている)

 

ランデル(余がそうじゃないのは、ひとえにあの男が気に入らないからだろう。余は、香織のことを好いておる。光輝を含め、香織と親しい関係のある男は敵に見えるから……だから、なのだろうか……?)

 

ランデル(……この国は、いや、世界はずっと前から不安定だった。長く続く魔人族との戦い、世界の安定のために崇めてきたエヒト神。不安定から脱するために、安定を、安寧を求めるがゆえに神にすがることを選んだ)

 

ランデル(神の支配から逃れようとして、今、南雲ハジメや天之河光輝たちは戦っている。己が信じる者のために)

 

ランデル(それはきっと、あの者たちに信じられる芯のようなものがあるからだろうか?)

 

ランデル(……だが)

 

ランデル(それならば……)

 

 

ランデル(人が『神』を捨て、『自由』になったとき……その時、人は何を『得る』というのだ……?)

 

 

――コンコン……

 

ランデル「! 入れ!」

 

――ガチャッ……

 

遠藤「で、殿下……」

 

ランデル「おぉ! きてくれ――」

 

ランデル「……誰……?」

 

遠藤「言うと思った! 絶対に言うと思った!!」

 

遠藤「クラスメイトですよ! 神の使徒のひとり! 近藤たちから伝業を貰って来たからこっちに来たんですよ!」

 

ランデル「……いたっけ?」

 

遠藤「んもぉぉぉぉぉ! 影薄いからそういわれるの慣れてるけどさぁ!!」

 

ランデル「……は? えっ、アイツらは? 近藤たちは?」

 

遠藤「町の中で調べてきたことを伝えようとしたんですけど、さすがに王子の部屋に入るのは怪しまれるだろう……って」

 

遠藤「で、秘密の会話をしたいって言うなら、俺みたいに隠密行動に長けたやつが伝言を届けたほうが良いってコトで……俺がココに来たんです」

 

ランデル「そ、そうか。なら、部屋に入ってくれ」

 

………………

 

ランデル「……なんだ、これは……」

 

遠藤「……」

 

ランデル「南雲ハジメのシンボルマークに……彫像……?」

 

ランデル「それどころか……これは……」

 

 

ランデル「……『神託』!? なんだ神託とは!?」

 

 

遠藤「……人々が一斉に言ってるんです。自分たちは、魔王ハジメの声を聞いたと」

 

ランデル「はぁ!?」

 

遠藤「魔王ハジメが、町の人たちに囁くんだそうです。『お前は選ばれた戦士だ。俺と共に永遠の平和を取り戻すべきだ』……と」

 

ランデル「バカな!? 南雲ハジメたちは残りの迷宮攻略のために移動していると連絡が届いておるのだ!」

 

ランデル「それどころか、今のアイツにそれだけの気力はないはずだ! 信仰による力で、その体を蝕まれていると聞いているぞ!」

 

遠藤「えぇ、だから変なんですよ。あいつが干渉できるはずもないのに、なぜか人々はハジメに命令されてるって言いだして……」

 

遠藤「今、街の教会なんかでも人が集まって祈りを捧げてるところなんです。魔王ハジメよ、我々をお救いくださいって……」

 

ランデル「……何がどうなっておる。自分たちの問題を解決するしか余裕がないモノが、なぜ国の者に干渉できる……」

 

ランデル「それではまるで……まるで……」

 

遠藤「……」

 

 

遠藤「人々を先導する……神の使徒のよう……?」

 

 

ランデル「……」

 

ランデル「遠藤……と言ったな。無理を承知で頼みたい」

 

ランデル「余を、神山の元へと連れて行ってほしい」

 

遠藤「……は!? なんで!?」

 

ランデル「お前も知っての通り、あの場所は聖教教会ゆかりの地。お前たちの語る真実を知る前は、あの場所は神の地として知られた場所だ」

 

ランデル「だが、お前たちの話が真実であるならば……神も魔王も、今はその力を落としている」

 

ランデル「なのに、人々の中では話しかけている『何か』がいる」

 

遠藤「……何か、って……なんですか」

 

ランデル「それを調べるために、余と共に同行しろと言っておるのだ」

 

ランデル「神山にいくには、例のゴンドラ以外にも別の道がある。そこを昇り、山へと向かう」

 

ランデル「……何かあれば、余がお主を庇う。我儘な王子の無茶ぶりに付き合わされたとして、何とかお前に非が無いよう話を運んでおく」

 

遠藤「……っ、わ、わかりました。でも、無茶なときは本当に逃げますからね!」

 

ランデル(……神はその力を失いかけている)

 

ランデル(魔王と呼ばれている男は消えかけている)

 

ランデル(それに加えて、姉さまの報告通りなら神に匹敵する者たちが……ハウリアや竜の姫に付き従っている……)

 

ランデル(誰だ……? 誰がこの状況へと転がしていった……?)

 

………………

 

【神山】

 

ランデル「……」

 

遠藤「……」

 

――ガラァーンッ……

 

ランデル「……な、なんにもない……」

 

遠藤「そりゃぁ、まぁ……だってここ、今はほぼ閉鎖中ですし……」

 

ランデル「そ、そうなのか?」

 

遠藤「真の神だとか、エヒト関連の問題」

 

遠藤「それらに関与していたイシュタルが投獄……いやまぁ、南雲たちに同行してますけど……」

 

遠藤「今はちょっと……国が落ち着くまではここはしばらく関係者以外立ち入り禁止になってるんだそうです」

 

遠藤「話では後任者がいるらしくて……その人に話をもちかけているらしいですけど……」

 

ランデル「! 余も話だけは聞いたことがあるぞ! 確か、十年ほど前に亜人差別に対する異論を唱えたという……」

 

ランデル「名は確か『シモン・リベラ―ル』……のはず。そうか、その者が来るまではここはそのままか……」

 

遠藤「……じゃ、じゃあどうします? 一度戻ります?」

 

ランデル「……もう少しだけ、ここら辺を見ておきたい。何かあ――」

 

――ゾッ……

 

遠藤「!!! 殿下!! 俺の後ろに!!」

 

ランデル「なッ……」

 

「……このような場所に誰がいるのかと思ったら……子供と……『駒』……ですか」

 

ランデル「こ、この者は……」

 

遠藤「こ、こいつっ……神の使徒の……!」

 

 

エーアスト「『エーアスト』……と、申します。まぁ、名など……個体を識別するための記号でしかありませんが」

 

 

ランデル「……」ズイッ……

 

遠藤「ちょっ、殿下!? 危ないですよ!」

 

ランデル「か、かまわぬっ! き、貴様! 神の使徒だな!」

 

エーアスト「……あなたは……あぁ、そういう事ですか。ハイリヒの国……今の王子ですね」

 

ランデル「貴様に問う! お前はここへ何しに来た!」

 

エーアスト「……この地の視察、および我が主の危機が及んだ時のための待機」

 

遠藤「た、待機……?」

 

エーアスト「……我が主は、分け合って今回のゲームを中止にしようと判断しました」

 

エーアスト「それその物は、我が主の選択。何ら異論はありません」

 

エーアスト「しかし、この身に伝わる我が主の力が日に日に弱まっている。我々を拘束する思念が、その繋がりを脆弱にさせているのです」

 

エーアスト「単なる選択でゲームを終わらせるのはまだいい。ですが、緊急性を要する『何か』があるのであれば、我々としても看過できません」

 

ランデル「……だから、ここに何かあると思って調べに?」

 

エーアスト「街の方……いや、国の異常さはもうあなた方も気づいてるのでしょう?」

 

エーアスト「この国で起きている熱狂……いや、この国だけではない。世界中で巻き起こっている、あのイレギュラーに対する熱のあげ方……」

 

ランデル「……そのことについても、姉上から聞き及んでおる。信仰が、南雲ハジメに流れて行ってると……」

 

エーアスト「ふむ、やはりあなた方も耳にしていましたか」

 

エーアスト「……あなた、名は」

 

ランデル「……っ、ランデル! ハイリヒ王国王子! ランデル・S・B・ハイリヒ!」

 

エーアスト「……ふむ」

 

エーアスト「ランデルよ、ハイリヒという盤上に置かれた駒よ」

 

エーアスト「我々と共に、魔人族の国へと来なさい」

 

遠藤「えっ!?」

 

ランデル「……な、なんでまた……」

 

エーアスト「先ほども申し上げた通り、我々はこの国をずっと見てきました」

 

エーアスト「歴史の裏、亜人たちを虐げる背景、そこにはいつも我々神の使徒が暗躍し、主を喜ばせるための盤上を用意してきたのです」

 

遠藤「こ、この……こいつっ……!」

 

ランデル「ちょ、ちょっと待つのだ! だから余ではもう、何の利用価値も……!」

 

エーアスト「いいえ、ありますよ。なぜなら……」

 

 

エーアスト「あなたは、今この国のトップに近い者の中で……『まとも』でいられる立場に立っている」

 

 

ランデル「……なんだと……?」

 

エーアスト「我々は、ずっと人を、国を操ってきた。時には言葉で、時には魔法で無理やりに。そうすることで、主が望む盤上を用意してきたのです」

 

エーアスト「ですが、今のこれは……状況が変わってしまった。誰しもが、我々が関与していない、何か得体のしれない物を崇め、この手では収まりきらない者によって翻弄されている」

 

エーアスト「そして、それは……神の使徒である我々ですら把握しきれていないのです」

 

遠藤(……言われて見りゃ……かなりの異常事態なんだよな……これ……)

 

遠藤(ずっと歴史の裏で世界を操ってきたコイツラですら……把握できない何か……)

 

遠藤(それが……この世界の人たちを惑わせている……ってことはそれって……)

 

遠藤(……その『何か』は……エヒト以上の……?)

 

エーアスト「……もしも、あなたがこの事態を収めることに協力するのであれば、あなたがこの国の王になったとき……歴史の裏からあなたたちを支えましょう」

 

ランデル「翻弄する側であるお前たちが、翻弄されてるがゆえに、余に力を貸すというか……」

 

ランデル「……い、いいだろう! お前たちの話に乗ってやる!」

 

ランデル「……遠藤、ここまでの同行、ご苦労だった。あとは、余に任せるがいい!」

 

遠藤「い、いや! でも! 今王子がいなくなったら、城内混乱するんじゃ!」

 

ランデル「少し空けるだけだ! ……それに、今城の中にいること、それその物が危険なのだ」

 

ランデル「父さまや母さまも、どう言ったわけかハジメを信奉している。あの目は……子供の余でもわかる。あれは、イかれた……狂信者としての目だ」

 

ランデル「……余は、父さまと母さまを救いたいのだ。そのためにも、余にも出来る何かをしなければならないのだ」

 

遠藤「……っ」

 

ランデル「……ここからは余がどうにかしてみせる。悔しいが……この使徒の言う通り、今トータスでは得体のしれない異常事態が起きている。それを解決するためにも、余も前に出なければならないのだ」

 

ランデル「……これを」

 

――カチャッ……

 

遠藤「……これは……通信機……?」

 

ランデル「南雲ハジメが余に渡してくれたものだ。それで、余の方から連絡を取る」

 

ランデル「国で何かが起きたら、逐一報告してくれ……頼む、この通りだ」

 

遠藤「……わ、わかりました。でも、くれぐれも無茶はしないようにね!?」

 

ランデル「あぁ、わかってるさ」

 

ランデル「……エーアスト! 案内を頼む!」

 

エーアスト「……それでは、行きましょうか。今から、転移の術であなたをガーランドに送ります」

 

遠藤「……! で、殿下! お気をつけて!」

 

………………シュゥゥゥゥゥ……

 

…………

 

……

 

【……魔人族の国、ガーランド、客室】

 

ランデル「……! こ、ここがガーランドか……!」

 

エーアスト「ここはあなたのための部屋です」

 

エーアスト「将軍や魔王には話を通してあります」

 

エーアスト「詳しい話については後程……それでは、今日の所はごゆっくりと」

 

――ギィィィ……バタンッ

 

ランデル「……」

 

ランデル「はぁぁぁぁぁぁ……! き、緊張した……!」パタッ

 

ランデル「うぅ……とりあえず、ここが魔王城……ガーランドの根城……部屋の外に出ることは出来んが、何か調べることが出来るはず……」

 

ランデル(少しだけ探ってみよう。姉上、まってください。このランデル、必ずや――)

 

――ガタンッ!!

 

ランデル「!! だ、誰かおるのか!? い、い、いいい、いるなら顔を……」

 

「……だ、だれ……? だれなの……?」

 

ランデル「……お、お主は……」

 

 

ミュウ「……? 男の子?」

 

レミア「人間の、子供……?」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

【フェルニル】

 

 

フリード「……」

 

清水「……」

 

檜山「」

 

――シーンッ……

 

清水「……」

 

檜山「……」

 

清水「ねぇ、何でほかのみんな居ないの……?」ヒソヒソ……

 

清水「こいつはこいつで幻覚っぽいのフェルニルに送ってくるけどさぁ……なに? 何で本体がこっちにやってこないの?」

 

檜山「アイツらはアイツらでいろいろと話しを整理してるんだとよ」ヒソヒソ

 

檜山「だから俺たちでなんとか場を保たせる。いいな?」

 

フリード「余計な気遣いは不要だ。そちらの方で準備が整うのが終わるまで、待ってやる」

 

清水「……だって!」

 

檜山「……あぁ、そう……」

 

恵里「……馬鹿かオマエら」

 

――……コンコンッ……ガチャッ……

 

ハジメ「……フリード。こちらの話は整理がついた」

 

フリード「……ふむ、イレギュラーであるお前と……」

 

光輝「……エヒトによって召喚された神の使徒のひとりである俺」

 

ユエ「……私を含めた三人がこの場に相席する」

 

ハジメ「三人とも、悪かった。あとは俺たちに任せろ」

 

清水「えっ、でもこれって国同士の話に関係する話なんだろ?」

 

檜山「リリアーナ姫はでてこなくていいのかよ」

 

光輝「この話は、あくまで俺たちがフリードと個人的な話し合いをしたいってだけだ」

 

ユエ「国同士の話であるならば、迷宮攻略が終わってからでいい……というよりは、ハジメの容態を考えたらそっちを優先するべき」

 

ハジメ「姫さんとの話は、また追々って感じでな」

 

ハジメ「……で、だ。フリード、アンタにいろいろ聞きたいことがある」

 

フリード「言ってみろ」

 

ハジメ「ズバリこれだ。これから向かう迷宮攻略と習得できる魔法の内容、これだ」

 

フリード「……! お前……」

 

光輝「? 迷宮と魔法……?」

 

ハジメ「ユエ、こいつとのやりとりをを覚えているか。火山での話だ」

 

ユエ「……この男は言っていた。自分が神代魔法を習得したからこそ、魔人族の神にして魔王である『アルヴ』が語り掛けたと」

 

ユエ「これまで行ってきた迷宮には……今まで攻略されてきた痕跡がなかった。特に、一部の迷宮にはほかの迷宮攻略の証が無ければ入ることが出来なかった」

 

ユエ「そうなれば、こいつが迷宮の魔法を習得していて、なおかつほかの迷宮攻略に手を付けていないならば……残るは……」

 

光輝「……! 【氷雪洞窟】!! そうか、最後の迷宮か!」

 

清水「あ……そういや言ってたな。氷雪洞窟は魔人族の国に近い場所にあるって」

 

ハジメ「教えろ。氷雪洞窟の試練の内容を、そこで得られる魔法の力の内容を」

 

フリード「……」

 

フリード「氷雪洞窟の試練は、己の鏡と向き合う試練――己が内面に眠る影と相対し、打ち勝つ試練だ」

 

ユエ「影と……戦う……?」

 

フリード「あそこでは自分の心に眠る影や弱さが『敵』となって現れる。自身の持つ力、スキル、ステータスをそのままに、それに如何にして勝つかが重要だ」

 

フリード「私は、それを何とか乗り越えた。乗り越えることで、神代魔法が一つ、『変成魔法』を習得するに至った」

 

光輝「……その、魔法の内容は?」

 

フリード「……ありていに言えば、『魔物を作る魔法』だ」

 

檜山「魔物を作る?」

 

フリード「既存の生物の肉体を作り替え、その力を異形の怪物へと昇華させる」

 

フリード「私はこの力を得たからこそ、この戦争において魔人族が有利に立たせることが出来たわけだ」

 

清水「……そういえば、俺たちが呼ばれた最初のころに……そういった話が合ったよな」

 

恵里「イシュタルのおっさんが言ってたよね。そっか……あの時点ですでに力を得てたわけか」

 

ハジメ「迷宮攻略における……コツみたいなのは?」

 

フリード「先ほども言った通り、自身の弱さそのものが敵だ。これは、同じ力を持った者がそのまま襲い掛かってくる」

 

フリード「ゆえに、攻略法と言われても、そんなものは『ない』。己の弱さを見せつけられたうえで、その力を示さなければ……勝てん」

 

光輝「ぐっ……攻略法を聞いてもあまり意味がないタイプってことか……」

 

ユエ「でも、技量と言う点ではハジメは負けていない。強くなっていく影に対し、ハジメ自身が強くなれば……」

 

清水「おぉ~! さっきまでの俺よりも一分一秒強くなってる理論ってやつだな!」

 

恵里「まぁ……こいつならそれが出来るんだろうけどな。強いわけだし」

 

フリード「……ふん。まぁ、出来るだろうな。お前なら。これまでも我々の力を砕いてみせたわけだ」

 

フリード「ならば……その力、存分に振るうと言い」

 

ハジメ「……ん、あぁ……」

 

………………

 

【夜】

 

ハジメ「……はぁ~~……ねむ」

 

ユエ「お疲れ様、ハジメ。話、まとまったね」

 

ハジメ「あぁ。これまでの迷宮攻略と違って、フリードは経験者だ」

 

ハジメ「内容が分かれば、準備のやりようがある。武器の調整とか、天之河たちに氷雪洞窟攻略のためにいろいろ指南していくつもりだ」

 

ユエ「……頑張り屋だね、ハジメ」

 

ハジメ「ははっ、当り前だよ。絶対に、元の世界に帰るんだ」

 

ハジメ「……父さんと母さんが待ってくれてるんだ。こんなところで、負けやしないさ」

 

ユエ「……そうだよね。ハジメには、帰る場所があるもんね」

 

ハジメ「……あぁ、そうだ。父さんと母さんが待っている、俺たちの故郷……地球にな」

 

ハジメ「そして、お前の帰る場所でもある」

 

ユエ「……」

 

ハジメ「……ティオやシアの言葉、俺の中にまだ残ってるんだ。流されてるままじゃ、きっとダメだって」

 

ハジメ「だから、これだけははっきりと言うよ。俺は、ユエを連れて帰る。ユエと一緒に、あの場所へ戻るって」

 

ユエ「……ハジメ」

 

ハジメ「……っと、すまない。そろそろ寝る準備をしなきゃな」

 

ハジメ「明日は迷宮攻略だ。そろそろ準備を――」

 

――ザッ!!

 

ハジメ「……ユエ、構えろ」

 

ユエ「……ん、何かいる」

 

「……ふん、そうまでして怯える必要もあるまい。お前ならそう苦戦する相手でもなかろう」

 

ハジメ「!? フリード……お前、何しに来たんだよ?」

 

フリード「就寝前に失礼なことは承知の上。イレギュ――」

 

フリード「……いや、『南雲ハジメ』。お前に聞きたいことがある」

 

フリード「吸血鬼よ。ハジメを借りるぞ」

 

ユエ「……わ、わかった」

 

………………

 

ハジメ「……で、なんだよ話って」

 

フリード「なに、他愛のない世間話だ」

 

フリード「我々は、あの火山の中で相まみえて、神の下で力をぶつけてきた」

 

フリード「しかし、言葉だけは交わしたことが無かった。お互いに、必要最低限の話すら、な」

 

――ボスンッ……

 

フリード「聞かせろ、南雲ハジメ。お前は、どういう人間だ。どういう生き物だ」

 

フリード「お前の話を聞かせろ」

 

………………

 

…………

 

……

 

フリード「……ゲームや漫画、と言うのはわからんが……娯楽関係の仕事に就いているのがお前の両親か」

 

ハジメ「お前らの所の盤上の遊戯……チェス?かなんかを作ってるもんだと思ってくれ。母さんの方はまぁ……小説家……に、近いのかな。この世界だと」

 

フリード「ふむ……なるほどな。お前の持つ武器、女たちに持たせていたあの武器の数々。元々がその独創的な発想から来たと考えれば納得がいく」

 

フリード「存外、面白い話を聞けたようだ。なるほど、それが南雲ハジメと言う人間か」

 

ハジメ「あぁ、そりゃどうも」

 

ハジメ「……で? なんでまたこんな話を俺にさせたんだよ」

 

フリード「人となりを知るためだ。これからの迷宮、氷雪洞窟はこれまでと違い、力によるものではなく精神の強さその物が試される」

 

フリード「時に……ハジメよ、覚えているか。迷宮とは、そもそもなんだったのか」

 

ハジメ「あ? あー……そりゃあ覚えてるよ」

 

ハジメ「迷宮そのものが、エヒトに対抗するための場所。その力を得るための試練そのものだ」

 

ハジメ「迷宮に認められれば、エヒトに匹敵する力が手に入る。そのための神代魔法だ」

 

フリード「……だけか? 得られるのは、魔法だけか?」

 

ハジメ「? 何が言いたい?」

 

フリード「私も迷宮攻略した。たった一つとは言え、エヒトに反逆する者たちの内の一人に、その力を認めてもらえたのだ」

 

フリード「だが、その迷宮攻略者として認められたはずの私は……あろうことか、エヒトの眷属神たるアルヴ様に従うことを選んだ」

 

ハジメ「……?」

 

フリード「……まだわからんか?」

 

 

フリード「迷宮を攻略すれば、エヒトに対抗できるとは限らなかった、というわけだ」

 

 

ハジメ「! おいっ、それってどういうことだ! それじゃあ攻略に意味が……!!」

 

フリード「あぁ、そうだ。意味なんてないように思えるだろう。だけど、その意味を潰したのは他でもない私だったと……今ではそう思える」

 

ハジメ「……えっ?」

 

フリード「考えてもみろ。これだけかは知らぬが、迷宮には力だけではなく心の強さも試される。それはきっと、力には力を、心には心を。それぞれに相応しい試練によって試され、その時になって初めて力を得られるわけだ」

 

フリード「だが、考えてもみろ。所詮は、ヒトの手から離れた迷宮。機械仕掛けのカラクリと大して変わらん。これを、もしも……」

 

 

フリード「心で試さなければならない試練を、力づくで攻略してしまったら?」

 

 

ハジメ「……いいことなんじゃないのか。心で攻略できなかったから、力で攻略したわけで――」

 

フリード「愚か者が。まだわからんか。心の強さは、エヒトに惑わされぬために、確固たる芯を持つことが求められるのだぞ」

 

ハジメ「あっ……」

 

フリード「それでは迷宮攻略に何の意味もない。心の強さで乗り越えようとせず、力任せに乗り越えてしまっては、得られるのは魔法だけ。大事なのは、試練と真っ向に向き合うという想い」

 

 

フリード「だからこそ、エヒトに惑わされぬための試練を乗り越えておきながら、惑わされた愚か者がココにいるのだ。お前の目の前にな」

 

 

ハジメ「……フリード」

 

フリード「忘れるなよ、南雲ハジメ。真に乗り越えるべきものは、決して力だけではならぬ」

 

フリード「……お前は私と同じ道をたどるなよ」

 

――シュゥゥゥゥゥ……

 

ハジメ「! 消えた……」

 

ハジメ「……」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

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