【魔国ガーランド、城内の一室】
ミュウ「……あ、あの……キミ、だれなの?」
レミア「……」
ランデル「え、ええと、余、余はな! かのハイリヒ王国の!」
ランデル「……あ、いや、ちょっと待ってくれ。お前たち、亜人か……」
ミュウ「うっ……」ビクッ
レミア(……これが普通、ですよね。彼が接してくれていたけれど、普通の人間であるならばこういう反応が一般的……)
レミア(しかも、この子の立ち振る舞い……どう見ても、平民の振る舞いじゃない。きっと、高貴な身分の子……本当だったら、私たちなんか顔を合わせることもできないような子……)
ランデル「……ふむ」
ミュウ「……っ」
ランデル「……あ、あぁ、なんだ。別にかしこまらなくてよい。別にとって食おうとはせぬ」
ランデル「余は……『ランデル』だ。ランデルでいい」
ランデル「お前たちは……この国の住人か?」
ミュウ「……ううん。ミュウたちはね、とっても遠いところから連れて来られたの」
ミュウ「ミュウたちは自分たちの故郷にいたの。でも、パパとお話しするために、ここに居ろって言われて……」
ランデル「父親……? そうか、それで……」
ランデル「……父親、か。余にも、父親がいる。母親もいる。どちらも、余にとって自慢の両親だ」
ランデル「……今は、余の事を見てくれてはいないのだがな」
ミュウ「見てくれないの? なんで? お父さんやお母さんなのに?」
ランデル「父親や母親だとしても、だ。余にはあまりわからんが……親と言うのは、子供に心配をかけまいとして、責任を背負う物らしい」
ランデル「……背負わせたくないからこそ、余の事を見てくれないのかもしれぬな」
ランデル「お前の父親は立派だな。交渉の場に着くためとはいえ、こうしてお前たちの事を想ってくれてるのだから」
ミュウ「うん! ミュウたちのお父さんはとってもかっこいいんだよ!」
ミュウ「だって、ミュウのパパは『魔王』って呼ばれてるくらいなんだから! ランデル君も、聞いたことあるよね!」
ランデル「……ん、えっ……?」
ランデル「魔王……って……ちょっと待て!! まさか、お前の言う父親とは――」
――ガチャッ
エーアスト「お呼びです、ランデル王子」
ランデル「……! す、すまぬ。またあとで話をしよう! 亜人の少女……」
ランデル「ええと、ミュウよ! またあとでな!」
ミュウ「う、うん!」
………………
【玉座】
エーアスト「連れてきました、『アルヴ』」
ランデル(……! こ、この者がアルヴ……! ガーランドの国を治める……魔王!)
アルヴ「……ご苦労であったな、神の使徒よ」
ランデル(な、なんという気迫……立っているだけで潰されるような威圧感……!)
ランデル(金髪赤目……外見は50代半ばに見えるが、あの肉体はなんだ……!? なんと雄々しく、たくましい……)
ランデル(力では絶対に勝てぬ相手か……余の国は、このような怪物を相手にしていたのか……)
アルヴ「……エーアスト、下がれ。あとはこの者と話がしたい」
エーアスト「……わかりました」
――シュッ……
ランデル「うぉっ!? き、消えた……」
アルヴ「……さて、ヒトが治めし国の者……いや、お前はまだ王子だったな。このような場に呼びつけたのは他でもない」
アルヴ「今、我々魔人族と人間族の間で行われているこの戦をやめるための……停戦を申し出たいのだ」
ランデル「停戦……? ちょ、ちょっと待ってくれ! 戦争をやめるだと!?」
アルヴ「なんだ? 不都合か?」
ランデル「い、いや……その、いきなりの事で……」
ランデル「……訳を、聞かせてくれないか」
アルヴ「……お前たちもわかっているはずだ。今、世界で人の信仰を集めていた神・エヒトがその信仰心を失っていることを」
ランデル「……あぁ、イヤと言うほど見せられた。我が国でも、揺らいだ信仰によって大騒ぎだ」
アルヴ「お前たちが崇めている神、エヒト。実は、このエヒト神は我々魔人族が崇めているモノと同一であり……」
アルヴ「お前たち人間族と争いを行わせるためのゲームだということも……知っていたかな?」
ランデル「……あぁ、そのことも……神の使徒として呼ばれた者たち(クラスメイト)から聞いた」
アルヴ「ならば、話は早いはずだ。もう、この戦争に意味はない」
アルヴ「元々が、お互いの国を守るための戦い。諍いも、争いも、何かを得るために、お互いの大義名分のもとに戦っているつもりだった」
アルヴ「だが、我々が見ていたのは、戦うための理由は、神が自分を楽しませるための演出でしかなかった」
アルヴ「ならば、このようなバカバカしい戦いに何の意味もありはしない。早々に争いを終わらせ、早く自国を守るために手をかけたいはずだ」
ランデル(た、確かにその通りではある……もはや戦争としての意味が形を成してはいない。神は狂っており、争いはただの遊戯。その仕掛けを見破った以上、付き合ってやる義理はない)
ランデル(しかも、それがお互いに同じ神を信仰していたというのならば……そりゃあ、まぁ……この戦いに意味なんてない。その通りだ)
アルヴ「……不都合なことでもあるのか?」
ランデル「……その、余の……あぁ、いや……私の、一個人が判断できることではない」
アルヴ「そういえば、そちらの方もエヒトの信仰がなくなり、魔王ハジメの名が台頭したことによる混乱が続いているようだな」
ランデル「その通りだ。今、ハイリヒは混迷を極めている。かつて崇められていたエヒトの名を貶めるために、国の者たちが総出で教会や偶像を破壊して回っている」
ランデル「それでも、エヒトを信仰する者は多い。いくら『実は悪い神様でした』と言われても、今まで信じていたモノをすぐに曲げる事なんてできない。それが、彼らにとっての常識だったならば尚更だ」
ランデル「……それなのに、それなのにっ……今、我々の国では、そんな異端者たちが虐げられている!」
アルヴ「……ほぉ」
ランデル「父上は魔王ハジメを崇拝し、エヒトに代わる者として信じ、崇めている。いまだ信仰を曲げられぬ者たち、を悪神を崇める狂信者と決めつけて、流れるように死刑台に送っているのだ!!」
ランデル「もう……もう……私ではこの勢いを止められぬ……一王子でしかない私に、これ以上何かをする力なぞ……」
アルヴ「なるほど。確かに、お前はまだ王位を継承してはいない……ただの王子。王になるためには、まだ年も経験も足りてはいない」
アルヴ「だが、だからこそだ。この混迷を決めている中、いまだ冷静さを失わないお前だからこそ……私はお前をここに呼んだのだ」
ランデル「……? 私が選ばれた理由……?」
アルヴ「……少し、休憩が必要だろう。部屋に戻らせるとしよう」
アルヴ「一時間後に来てくれ。その時になったら、また話を進めよう」
――シュッ……
エーアスト「ランデル王子。こちらに」
………………
ミュウ「あ、戻ってきた!」
レミア「……お帰りなさい、ランデル君」
ランデル「お、おおう……その、ただいま」
ミュウ「だ、大丈夫? 何もされなかった?」
ランデル「い、いや、大丈夫だ。心配してくれてありがとう、ミュウ」
ミュウ「……あ、あのね、この国の魔王さまってどんな人だったの?」
ランデル「とても強そうだった。だけど、それ以上に……堂々と立ち振る舞っていた。あれが、王としての気品と強さなのだろうな」
ランデル「参った。とてもじゃないけど、今の余では敵わない。大人が相手であるならば、きっと余は何もできずに打ち負かされてしまうのだろうな」
ランデル「……でも」
ミュウ「でも?」
ランデル「……うれしかった、単純に」
ミュウ「え……?」
ランデル「今の余は、誰からも目をかけてはくれない。国策だとか言われても、今の余では学ぶことしか出来ず、関わることなんて何十年も後の先だ」
ランデル「だから、今の余なんて子供としか見ない。誰もが、な。それなのに、あの魔王は――」
ランデル「余を、国の長として、一人の人間として真正面に見てくれていた」
ミュウ「……」
ランデル「器で負けた気がした。余も、あんな王になれるのだろうか……」
………………
…………
……
【フェルニル、氷雪洞窟前】
――ズズズズズッ……
バイアス「……緑茶?って言うのか? うめぇよなぁコレ」
リリアーナ「そうですね。飲んでで落ち着くというか、何というか」
バイアス「だな。外の方はスッゲェ寒いってーのに、温かい室内で茶を飲めるたぁ贅沢な旅行だ」
リリアーナ「まったくですね。少なくとも、夫婦になってからの旅行なんてめったにないでしょうし。今のうちに楽しんでおきます?」
バイアス「は、したたかなお嬢さんだこと」
――バリッ……
イシュタル「しかし、この『せんべい』はいただけませんな。硬くて歯が痛い痛い」
イシュタル「だいぶ前にハジメ殿が作って見せてくれたどら焼きとか羊羹だとか。ああいうのが好みですなぁ」
バイアス(……こいつ一応、罪人だよな?)
リリアーナ(私よりよっぽどしたたかですね)
イシュタル「……行ってしまわれましたね、最後の迷宮に」
リリアーナ「氷雪洞窟。ここが、最後の迷宮……」
リリアーナ「私たちの旅の終わり。ここで、すべての決着がつく……と思われますが」
バイアス「でもよぉ、一応はエヒトの奴は弱り切ってるわけだし。あいつらは元の世界に帰れる、ハジメの奴は元の調子に戻せる」
バイアス「トータスのことに関しちゃ……まぁ、あとは俺たちでどーにかするしかねぇよなぁ」
イシュタル「そもそも帰れる、となってしまったらとっとと帰ってしまうでしょうしな。頼みの綱ともいえる勇者殿は、もうある程度割り切った考えが出来る位には成長してるようですし」
イシュタル「はぁ……はてさて、迷宮の中はどうなることやら」
バイアス「……」
リリアーナ「……」
バイアス(不安定な不確定要素……と言ったら、いろいろ見受けられたしなぁ)
リリアーナ(……雫さん。大丈夫でしょうか……)
………………
…………
……
【――氷雪洞窟】
清水「さむっ、さむいわ~……」
檜山「そりゃあ、名前に『氷雪』ってついてんだから寒かろうよ」
恵里「だろうね。だけど、それだけじゃない。心なしか……魔法の力が弱まっているように感じる」
清水「えっ、マジで……? 魔法威力軽減とかそういうの?」
香織「きっと、この迷宮の仕組み何だろうけど……みんな! なんともないかな!」
龍太郎「おう! 俺のほうは闘気やる気もりもりって感じだぜ!」
鈴「私も私も! 魔法の力を抑えられても、やる気だけは削れやしないってね!」
香織「そっか、それはよかった……かな」チラッ
雫「……? ええと、どうしたの? 香織」
香織「……ううん。何でもないの! ほら、ここが最後の迷宮だからさ……気を引き締めようねって思って!」
香織「だから、ね……ユエ、南雲君のほうはどうかな」
ユエ「ここに来る前に、ハジメの体を調べたけど……今のところは問題はなかった」
ユエ「というより、日に日によくなってる気がする……なんでかは、わからないけど」
光輝「あれだけ体も心も異常を引き起こしていたのにか?」
ユエ「考えられることとしては、ハジメの中で起きている信仰の力が弱まったか……」
ユエ「もしくは……何らかの作用が起きて、ハジメの体を守っている……のか……」
ハジメ「だったら今がチャンスだ。ここを抜けて、最後の神代魔法を習得する」
ハジメ「……急ごう。今はだいじょうぶとは言え、いつ前みたいな発作が起きるか、わからないんだからな」
光輝「……あぁ、そうだな。急ごう! みんな!」
――ザッ……
ノイント「……待ちなさい。誰かが、この先に……っ」
ハジメ「……お前ら、構えろ」スチャッ
――……ザッザッザ……
フリード「……しばらくぶりだな」
ハジメ「……あ!? フリード!?」
ユエ「な、なんであなたが……」
フリード「知っているはずだ。ここは、魔国ガーランドから近い場所。行こうと思えば、すぐに来れる場所だと」
光輝「この場所に何の用だ? お前はもう、魔法は手に入れたはずじゃ……」
フリード「そうだ。私はもう、すでに魔法を習得している。ここに来る必要はない」
フリード「しかし……これから迷宮に挑むお前たちにとって、案内は必要じゃないかな?」
ハジメ「! それって!」
フリード「……道案内くらいはしてやる。ついてこい。こっちだ」
――ザッザッザ……
檜山「うぉぉぉぉぉぉ!! やったぜオイ! こりゃだいぶショートカットになるんじゃねぇ!?」
清水「経験者だからな。ちょうどいい、頼らせてもらおっか」
恵里「……」
ノイント「……どうしました? 恵理」
恵里「あ、あぁ。いこうか、みんな」
恵里(……気のせいか……? 今、こいつの肩に……)
恵里(フリードの肩に……『死んだ者』の残滓を感じた……)
………………
――グォォォォォ!!!
――ズズゥン……
光輝「はぁ、はぁ……! だ、だいぶ、苦戦したけど……」
龍太郎「はは! それでもやれなくはねぇな! こいつら、まとめて蹴散らせたぜオイ!」
鈴「迷宮攻略者としての成長を感じちゃうよね!」
香織「フロストオーガに、ゴーレム……タートル……強力な敵だったけど、成長した私たちと……」
檜山「ははっ、魔人将軍の力があれば怖いモノなしってな!」
フリード「……とは言っても、敵の攻略法を教えてやっただけだがな」
龍太郎「ま、それでも大分助けられたしな! サンキュ!」
恵里「それで? 次に攻略するべき場所は?」
フリード「あぁ……次は……」
フリード「! たどり着いたか……光の扉……!」
――キィィィィィ……
龍太郎「おぉ……これが……」
ハジメ「フリード。この扉の先に、例の『影』たちが……」
フリード「あぁ、いる。お前たちにとって、凶悪な敵が。己の中の心の影が」
フリード「奴らを乗り越えられない限り、貴様らに先を進む資格はない」
清水「……アンタはどうするんだ?」
フリード「……私も一応、進もうと思う。この中に入れば、各々の影と戦うことになる。そのために、一対一の状況にさせられてしまうため、お前たちは仲間を頼ることも出来ずに自力で戦うしかなくなる」
清水「え゛っ、マジで~……」
フリード「だから、私も行こう。私も分断される可能性はあるだろうが……」
雫「! 一人……ひとり、だけ……っ」
香織「……し、雫ちゃん……」
光輝「覚悟は決まっている……いこう、みんな!」
ハジメ「……っ」
………………
…………
……
【氷雪洞窟、扉の向こう】
フリード「……ふむ、『前と同じ』だな」
フリード「さて……おや」
雫「えっ、えっ……フリード……!!」
フリード「……そうか。剣士の女が一人、か」
フリード「……ふん」
――ザッザッザッザ……
フリード「……どうした、いかないのか?」
雫「い、いくわ! 行くから待って……!」
――ザッザッザッザ……
フリード「……この一本道を通っていけば、広い場所に出る。そこが、自分の影と戦う場所となっている」
雫「……」
フリード「この迷宮のコンセプトが、自分の影と戦う以上、お前はそれを自分で乗り越えなければならない。戦闘に関しても、奴らは鏡映しのように同じ手を使ってくる」
フリード「いいな? 自力で勝て。私は見守ることしかできないのだからな」
雫「……」
フリード「……聞いているのか?」
雫「あ、え、えぇ! 聞いてるわ」
雫「……」
雫(魔将軍フリード……彼は、ぶっきらぼうではあるけれども、その内面には同族を想うやさしさが込められている……)
雫(私に対してアドバイスをしてくれるのも……優しさによるもの? 歩幅だって、合わせて歩いてくれてるし……)
雫(……もしかしたら)
雫(もしかしたら、この人は……)
雫(私を――)
――ギロッ……
雫「ひっ……!」ビクッ
フリード「……その眼をやめろ。媚びた目つきを向けられるほど、耐えがたい侮辱はない」
雫「ぶ、侮辱って……私、そんなつもりじゃ……!」
フリード「そんなつもりが無ければ、そんな目はできないだろう。己の弱さに押しつぶされ、誰かに寄りかかることで心の安寧を得ようとする、薄ら安っぽい娼婦のような目をしていたぞ」
雫「な、何よソレ! 私が! 私がどんな思いで!!」
フリード「うぬぼれるのも大概にしろ女っ!!! 誰がこの場でお前だけに目を向けるものか!!」
雫「ひっ!」ビクッ!
フリード「誰もが、理由はどうあれ、力の有無が何であれ、自分の意志でここに立っている! お前はなんだ!! 何のためにここに来た!? 何のために立っている!?」
フリード「たとえどんな状況に陥ろうとも、結局人は一人だ! 一人で立たねばならんのだ! 誰かに甘ったれることを前提としてしか考えられぬお前に……誰が支えようなどと思う!」
雫「っっっ……!! わ、私だって!! 私だってがんばった!!!」
雫「魔物との戦いも! 魔人族との戦いも! 辛くて、苦しいから! だからっ! だからっ! 誰かが私の良いところを見てくれるはずだって!! 私の事を救ってくれる王子様がいてくれていいはずだって!!」
雫「そんなことを想って何が悪いの!? 頑張ることは報われてもいいって……どうしてそんな風に思っちゃいけないの!?」
フリード「辛いことがあったから……報われてもいいはずだ……だと……?」
フリード「……誰かにこう思ってほしい、自分の努力に対して報われるものがあっていいはずなどと、都合の良い夢は捨てろ! 捨ててしまえ!」
フリード「誰かに自分の良いところを見てほしいだと!? 誰かが自分の事を救ってほしいだと!? ……なぜだ! なぜ!」
フリード「自分で自分の良いところを見ようとしない! 自分で自分を救おうとしないのだ!!」
雫「……え……えっ……?」
フリード「……ふん。しゃべりすぎたな」
フリード「いくぞ、人間の女。はやくたどり着かなければ――」
雫の影『えぇ……たどり着かなければ、何なのかしら?』
フリード「!! 来たか!」
雫「……! あれが……!」
雫の影『ふふっ……こんにちは。もう一人の私』
雫の影『……遊んでくれるわよねぇ?』
………………
…………
……