生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第31話

 

【魔国ガーランド、城内の中の一室】

 

ミュウ「――でねでね! その時のパパが、すごーくかっこよくってね!」

 

ランデル「は、はははは……さっきから同じ話ばかりだなぁ、ミュウは」

 

ランデル「なんかもう……おなかいっぱい……」

 

レミア「こらこら、ダメですよミュウ。ごめんなさいね、ランデル君。ミュウとのお話に突き合わせちゃって」

 

ランデル「む! か、かまわぬぞ! 平民の言葉に耳を傾けるのも、余の役目だからな!」

 

ミュウ「ふふっ、よかった!」

 

ミュウ「……ミュウね、ランデルくんみたいなお友達がいなかったからすっごく楽しいの」

 

ミュウ「だって、同じくらいの子たちって、妙にミュウによそよそしいから」

 

ランデル(気持ちはわかるぞ同年代の少年たちよ……見た目結構可愛らしいからなぁ。余もうっかりしてるとドキっとしちゃう……)

 

ミュウ「ほーんと、みんながランデルくんやパパみたいにしっかり者の男の子だったらよかったのになぁって思うの! そうしたら、とっても素敵だなぁって……そう思わない?」

 

ランデル「そ、そうかなぁ……」

 

ミュウ「ふふっ、そうだよ。だって、ミュウは二人とも素敵な人だって知ってるから」

 

ミュウ「……パパはね、いろんな人から誤解されてるけど……とってもいい人なの。パパがいたから、ミュウは今があるの」

 

ランデル(……ハジメ、か)

 

ミュウ「パパはね、魔王って言うすごい人だけど……本当は、みんなのために頑張れるとってもいい人なの。ただそれが、すごすぎるから……みんなが、すごいすごいって言いふらして……」

 

ミュウ「誰も……パパをパパとして見てくれないの」

 

ランデル「……ミュウ」

 

ミュウ「……だからね、おねがいなの。ランデル君」

 

ミュウ「いつか、パパに出会うことが合ったら……」

 

ミュウ「……優しくしてあげてね。本当に、根はとっても優しいパパだから」

 

ランデル「……やさしい、か」

 

ランデル(……思えば、この世界に連れてこられたという香織や光輝も……元は普通の人間だった。それが、この世界に来て特別な力を得ただけで……)

 

ランデル(……余は……あの者たちと向き合ったことがあったか……?)

 

ランデル(誰も知らない土地の中で、帰ることも許されず、戦うことを強いられて彼らは戦っている……)

 

ランデル(神から選ばれた使徒と言うことでしか見てもらえず、その力の差で有能無能として分けてみようとする貴族や王族……)

 

ランデル(……変わらぬ、何も、変わらぬ)

 

ランデル(香織を別世界の女神と思って接して……死地に向かう光輝を疎んで……)

 

 

ランデル(他人の都合の良い面を見ようとして、見るべきところを見ようとしないのは……余も……)

 

 

――コンコンッ……

 

エーアスト「時間です。ランデル王子、こちらへ」

 

ランデル「……わかった」

 

ランデル「ミュウよ、そなたとの語らい。良き時間だった」

 

ランデル「……余に、考えるきっかけを与えるほどに。有意義な時間だった」

 

ミュウ「……? ランデルくん……?」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【氷雪洞窟】

 

【――雫の戦い】

 

――ギィンッ!! ガギィンッ!!

 

雫「はぁ、はぁ……!!」

 

雫の影『ふふっ、どうしたのかしら私。剣の動きが鈍ってきたわよ?』

 

雫の影『アナタの腕ってその程度? それとも……』

 

雫の影『鈍る要因があったりする……のかしら?』

 

雫「っっ……!! だ、だま、れぇ!!」

 

――ガギィンッ!! ギィンッ!!

 

フリード(……影のほうが優勢か。まぁ、だろうな)

 

フリード(この迷宮で生み出される影は、己の中に眠る弱さやコンプレックスその物を強く押し出した一面が魔物として現れる)

 

フリード(奴らを退ける方法は一つ……それは、己の中の弱さを受け入れた上で、影を乗り越えるか……)

 

フリード(力でもって、奴らを討つか……)

 

――ギィンッ! ギィンッ!!

 

雫「……っっ!! 私はっ……! 私はっ……!!」

 

雫の影『こうしていても、何も変わらない、変えられない』

 

雫の影『だって、私は知っているから。自分の弱さを、強い誰かに縋らなきゃ立ち上がれない自分の脆さを』

 

雫の影『頼れるもの、縋る物をいつだって探し続けていた。光輝だってそうだった、南雲くんだってそうだった』

 

雫の影『ここに来るまでだってそう。あなたは、魔人族の男にすら体を許そうとしていた』

 

雫「っっ!! あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

――ギィンッ!!

 

雫「ぐっ……ぐぅ……!!」

 

――ガランッ……

 

雫の影『……剣を取れば? 取ったら、今度こそ命を取るけどね』

 

雫「ぐっ……!! うぅ、うぅぅぅぅ……!!!」

 

雫(いたい、いたい、いたいっ……!! しにたくない、しにたくない、しにたくないっ……!!)

 

雫(なんで、私がこんな目にっ……どうして、私が……!)

 

雫(私は……私はただ、誰かに私を見てもらいたかっただけっ……!)

 

雫(本当の私は、女の子らしいモノが好きな子なんだよって誰かに言いたかった……!)

 

雫(かっこいい王子様が、私の手を取ってくれるって……信じたかった……!!)

 

雫(私はっ……!! 私はっ……!!)

 

………………

 

フリード「……ここまで、か」

 

フリード(恐らくだが、このまま見ていてもコイツは乗り越えることはできない)

 

フリード(人は変われる。それが、人間だろうが魔人だろうが変わらん。きっかけさえあれば、変わることが出来る)

 

フリード(この閉ざされた空間では、そんなことはありえ――)

 

――ドガァァァァァンッ!!!

 

フリード「っ!! な、なんだ……!?」

 

雫「えっ……?」

 

雫の影『……なに?』

 

――モワァァァァ……

 

香織「――げほっ! げほっ、げほっ! こ、ここは……」

 

香織の影『……ほんと、びっくりするよね。こんな場所にまで来ちゃうなんて』

 

フリード「あれは……」

 

雫「か、香織!? な、なんで!?」

 

香織「何でって……ああー……それは……」チラッ

 

――ドゴォォンッ!!

 

龍太郎「ぬぉぉぉぉぉ!! さっすがもう一人の俺! 負けられねぇ!」

 

龍太郎の影『ははっ! まったくだな! さぁ、もういっちょ行こうぜ!』

 

――ドゴォォォォンッ!!

 

フリード「……なるほどな。昇華魔法によって強化されたスキルで衝突してるうちに、この部屋の中に飛び込んできた、というわけか」

 

香織「……! 雫ちゃん、キズが……」

 

雫「っ……わ、私は……こんな傷、どうでもっ……」

 

香織「良くないよ! ほら、ちゃんと見せて!」

 

――バシッ!

 

香織「……しずく、ちゃん……」

 

雫「放っておいてよ! 私なんて!」

 

雫「……香織、私ってそんなにすごい子じゃないよ。弱くて、ダメダメで、みんなの足を引っ張ってばかりで……」

 

雫「頼れる男の子に縋りたい……私の事を何でも見てくれて、私の事を思いやってくれるような……優しい男の子がほしい……そんな、あさましい女の子なの」

 

香織「……」

 

雫「……えぇ、分かっていた! わかっていたのよ! 本当は、光輝たちや香織たちと居たのは自分のためだった! 自分の身可愛さに、光輝たちのカーストトップの位置が欲しかった!」

 

雫「誰かに世話を焼く自分を演じて……自分の安全地帯を……作りたかった……!!」

 

香織「……」

 

フリード「……」

 

香織「ねぇ、『影』たち。もうちょっとだけ、待っててくれるかな」

 

香織の影『……まぁ、攻撃しない限りは反撃しない。そういうルールだからね』

 

雫の影『えぇ、もうちょっとだけまっててあげるわ』

 

香織「……ねぇ、雫ちゃん。お願いがあるの」

 

雫「……何をよ」

 

香織「うん、それはね」

 

 

香織「これからも、私の事を守ってほしいの」

 

 

雫「――……は?」

 

フリード「……??」

 

香織「何かあれば、私を守ってほしいの。私、『治癒士』だから。戦闘に向いた職じゃないから、戦う事なんて本当はできない」

 

香織「回復できる私、守ってくれる雫ちゃん。いてくれたら、私たちはどこまでも戦えるから」

 

雫「な、なに言って……私に、まだ戦えって言うの!?」

 

雫「こんなに傷ついてる私に……あなたは! まだ戦えって……そういいたいの!?」

 

香織「……初めてこの世界に来て、オルクスに行く前日の夜のことなの」

 

香織「私ね、その日の夜に、あるクラスメイトの事が心配になって……お話をしにいったんだ」

 

香織「私が見た夢は、その人が消えていなくなっちゃう夢。その夢を見ちゃったから、その人の事を心配して……お話がしたくなっちゃったの」

 

香織「その時にね、その人はこういったの」

 

 

香織「『守ってくれないかな?』って」

 

 

香織「……その人はね、自分の目的のためなら手段を択ばない人なの。自分が守ると決めたモノなら、人前で土下座をすることすら構わない人」

 

雫「……オルクスの前日……土下座って、えっ、それって……」

 

香織「自分の弱さや情けなさを受け入れた上で、心の内を開いたうえで、自分はこうだからって示せる人だった」

 

香織「だから、羨ましいって思えて……その時になって、気づかされたんだ」

 

香織「私、学園の女神って呼ばれて……自分の身を守っていたんだって気づかされた」

 

香織「私も、自分がカースト上位だからって……無意識に、甘えていたんだって」

 

香織「そんな、自分が出来ない事をできる彼の事を、自分にないモノを埋めてくれる人かもって……勝手に期待してた」

 

香織「……縋ってたんだろうね。その人なら、きっと私が寄りかかれる人になってくれるって」

 

雫「……香織、も……?」

 

香織「……雫ちゃん。私たちは強くない。強くないから、自分の心の中を受け入れながら、本当に見るべきものを探していくの」

 

香織「私、雫ちゃんの彼氏にも彼女にもなれない。縋れる相手にも、寄りかかれる相手にだってなれない」

 

香織「でも、あなたとずっと傍に居続けられる――」

 

 

香織「『友達』であることは、ずっと変わらないよ」

 

 

雫「………香織」

 

フリード「……」

 

――ザッザッザ……ガシッ

 

フリード「……これがお前たちの剣か。変わった形をしているな」

 

雫「わ、私の刀……」

 

フリード「……人は所詮、真に分かり合うことが出来ない者。心が、誰にも縛られないものであるがゆえに、誰にも侵されないものだからこそ……ヒトは、確固たる己を持てる」

 

フリード「だが、確固たる己とは、言い換えれば心とは常に孤立している物。ゆえに、その芯がブレた途端、寄りかかる者、繋がる者を欲してしまう」

 

フリード「出来ないがゆえに、相手に対し理解を求め、己のことを理解しろと相手に押し付ける」

 

フリード「己の脆弱さを、人となりを、その身の矮小さを知れば知るほど、遠く何も知らぬ他者とはもっとも大きく見えてしまうからだ」

 

――スッ……

 

雫「……!」

 

フリード「偉大なる者、大いなる者、それがどんな相手であれ、そいつらはお前自身じゃない。しっかり者に見える者であろうとマヌケなヤツであろうと、そいつらがどんな言葉でお前に投げかけたとしても、結局は『他人の言葉』だ」

 

フリード「八重樫雫。今、お前の心が出した答えはなんだ」

 

フリード「お前に向けられたこの刃。何のためにお前は手にする」

 

雫「……っ」

 

雫「……くっ、ぐぐぐぐっ……!!」

 

――ガシッ!

 

香織「! 雫ちゃん!」

 

フリード「……!」

 

雫の影『へぇ……なおも立ち向かうってワケ』 

 

雫「……っ」

 

――ザッ……

 

雫「っ゛……かまえ、なさいっ! 私の影!!」

 

――ザッ!!

 

雫の影『……ふぅん?』

 

香織「雫ちゃん……!」

 

フリード(!! 構えた……! いやっ、しかしあれは……)

 

雫「……同一人物同士の戦いなら……分かってるわよね」

 

雫の影『……なるほどね。一撃で終わらせようってワケね。でも、うまくいくかしら?』

 

雫の影『影は、アナタと同じ動きを取る……!』

 

フリード(横一文字!! 鍔迫り合いもない、真正面から向かって切り伏せていくのか!?)

 

フリード(そうなれば、お互いの胴を切り合う衝突にしかならない……ならない、が……)

 

雫「……」

 

フリード(影との戦いは自分との闘い。相手を斬ることは自分をも斬ること)

 

雫の影『……』

 

フリード(この戦い、踏み抜いた一歩に迷いが生じた者から……負ける……!)

 

雫「……」

 

雫(縋れるモノ、頼れるモノ……もう、そんなのどこにもいない)

 

雫(だけど、私の事を頼ってくれる――)

 

雫(『友達』の目は、『現実』!)

 

雫「――ならばっ!!」

 

――――ヒュバッ!!

 

――……カチンッ……

 

雫「……」

 

雫の影『……』

 

――ズルッ……ドサッ……

 

雫の影『……忘れない事ね。影は、いつでもあなたの……なかに……』

 

――シュゥゥゥゥ……

 

雫「っっ……!! わすれは、しないわっ……っつう、おもいっきり、きってくれたわね……」

 

香織「雫ちゃん!」

 

フリード「……だいぶ無茶をしたな、少女よ」

 

雫「……ふふっ。構わないでしょ? 捨て身で戦ったところで……」

 

雫「今は、自慢の治癒士が隣にいる。だから大丈夫だって踏んだわけ」

 

フリード「……まったく」

 

香織「さて、雫ちゃんが終わったら……」チラッ

 

香織の影『うん、私たちの番だね』

 

香織「まぁ、でも……きっと泥沼だろうなぁ。私の戦い。攻撃手段はあるにはあるけど……」

 

フリード「殴り合いだろうな。正直な話、お前たちには武器らしい武器もない以上、どっちが先に倒れるか根競べになりそうだ」

 

雫「……なら、しばらくここで見守ってるの?」

 

フリード「そうするしかあるまい。終わるまで待ってやる。根気よく付き合ってくるといい。自分とな」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――最奥】

 

 

【それぞれの影】

 

清水「……ま、いろいろあったよなぁ。この世界に来てからさ」

 

清水「裏切ったりもした、絶望したりもした。でも、やり直せるきっかけを、見つけられた」

 

清水「だから、もう見て見ぬふりなんてできない。そうだろ、俺」

 

清水の影『ふぅん。妙に悟りを開いたような顔をしてるな』

 

清水「当たり前だ。戦おうぜって言っちまったんだ」

 

清水「最後まで付き合ってくれよ。俺の影としてな」

 

………………

 

檜山「やりたい事もなかった。ただ、場当たり的に欲しいもんがあったら欲しいなって生き方をしていた」

 

檜山「南雲の奴を見下していたのなんて、深い理由はない。俺が気に入らないからだ。何となく見下して、何となくおれの方が上だと思ってた」

 

檜山の影『じゃあ、これからは心を入れ替えるって?』

 

檜山「んー……」

 

檜山「無理」

 

檜山の影『……はぁ? あんな決意を抱いておきながらか?』

 

檜山「俺はきっと、これから先もアイツを見下し続けるだろうし、アイツと仲良くなれることはぜってぇにない」

 

檜山「根っこの部分が合わねぇんだろうな、俺ら。だから、俺たちの関係は元の世界に戻っても変わんねぇさ」

 

檜山「俺はあいつを見下し続ける。俺がなんも持ってない負け犬なら、俺が見下し続けてりゃアイツは魔王なんかじゃねぇだろ」

 

檜山「俺は俺を受け入れて、俺のまま生きていく。それが、どこまでやれるか試してやるんだよ」

 

………………

 

恵里「……きっと、誰かがボクを救ってくれると思っていた」

 

恵里「ドブの底の底。誰にも手を差し伸べてくれないボクは、きっとこれから先も深い闇の中で生きると思ってたの」

 

恵里「だから……なんだろうね。ボクに手を差し伸べてくれた彼は、王子様だった。ヒーローだった」

 

恵里『あぁ、でも……違っていたんだよねぇ? 彼はヒーローでも何でもなかった』

 

恵里「……いいや、彼はヒーローだよ。間違いなく。光輝くんは、ボクにとってのヒーローだった」

 

恵里の影『……はぁ? あんな奴が?』

 

恵里「うん、あんな奴だから、だよ。自分の気持ちを汲んでくれて、ボクにとって欲しい言葉をくれる。そんな便利な存在を、ボクを肯定してくれる人を……欲しかったんだ、ボクは」

 

恵里「ヒーローには、ヒーローの物語がある。ボクは、ヒロインなんかじゃない。ヒーローの物語に、ちょっと触れただけのモブ」

 

恵里「……救われたモブは、その後をどうやって生きればいいと思う?」

 

恵里の影『……』

 

恵里「言葉に詰まったか。だろうね、本体が答えを見つけたのならば、影であるお前はボクを追い詰められない」

 

恵里「それはね、救われたモノは救われっぱなしじゃいけないのさ。助けられたのならば、自分の足で立たなきゃ、生きていかなきゃいけないんだ」

 

恵里「――ボクにはもう、ヒーローなんて必要ない」

 

恵里「『私』は、私の足で立って歩いて行けるから」

 

………………

 

ハジメ「……」

 

――ドサッ……

 

ハジメの影『……っ、さすが、だな……もう一人の俺……』

 

ハジメの影『同じ姿、同じ力、同じ能力……姿かたちをまねても、心はマネできない……ゆえに影……』

 

ハジメの影『さぁ、通るといい……お前が信じるように、進めばいい……』

 

――シュゥゥゥゥゥ……

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「よ……」

 

ハジメ「弱い……?」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【魔国ガーランド】

 

 

アルヴ「……来てくれたか、ハイリヒの王子よ」

 

ランデル「……」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【氷雪洞窟、ユエの影】

 

 

ユエ「……」

 

ユエ(……薄れていた記憶が、鮮明になり始めていく……)

 

ユエ(同族であるあの男に騙されて、迷宮の奥深くに閉じ込められて、私はずっとずっと……長い年月をあそこで過ごした)

 

ユエ(辛かった、苦しかった……裏切られた心の痛みが、私を私のままでいさせてくれた……)

 

ユエ(もう、この世界に私の居場所はない……ないから、私はハジメと共に世界を超えていく……)

 

ユエ(……超えていく……はずだった……)

 

ユエ(私がこの世界に執着がないのは、もう一族も故郷すらも……私には残っていなかったから……)

 

ユエ(シアやティオが私たちから離れたのは、彼女たちなりにこの世界に残る理由があったから……)

 

ユエ(だから……もしも……)

 

 

ユエ(もしも……私に、元の世界に戻る理由がなくなったら……?)

 

ユエ(もしも……私が、この世界に残る理由があったとしたら……?)

 

 

ユエの影『――残ってしまったら、どうなってしまうんでしょうねぇ?』

 

ユエ「……」

 

ユエの影『さて、あなたがこの世界に見切りをつけたのは、アナタを裏切ったあの男――ディンリードの裏切りが原因』

 

ユエの影『だけど、もしもあの裏切りに意味があったとしたら? 事情を説明できないほどの、よほどの理由があったとしたら?』

 

ユエ「……」

 

ユエの影『貴方の心には、いまだソレが残り続けている。だから、私の言葉を無視できないままでいる……』クスクス

 

ユエ「……っ」

 

ユエの影『ふふふっ……おやおや、それでもなお私に立ち向かいますか』

 

ユエの影『えぇ、えぇ、かまいませんよ。あなたのお好きなようにするといい』

 

ユエの影『ただ、お忘れなく』

 

 

ユエの影『影は、ずっとついて回ることを』

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

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