【ハイリヒ王国】
――ガァンッ!!
エリヒド「まだか! まだ見つからんのか!!」
兵士たち「へ、陛下! 申し訳ございません! なにせ、巧妙にその身を隠しているようで……」
兵士たち「中には身内をかばっているモノもいるため、どうも円滑に見つけることが出来ず――」
エリヒド「ええい! 言い訳をするな! どうにかして異教徒を捕まえろ!!」
エリヒド「悪しきエヒトを崇める異教徒共を!! 偉大なる魔王ハジメさまに逆らう愚かなモノを排除するのだ!!」
兵士たち「っっ……!! は、はい! この身に変えても! 必ずや!!」
「偉大なる魔王ハジメさまのために!!」
「我らが崇める尊き者! ハジメさまのために!!」
「崇めよ崇めよ! 並ぶものなきハジメさまを称えよ!!」
エリヒド「おお……敬虔な信者たちよ……よくぞ言ってくれた!!」
エリヒド「悪しきエヒトを退け、この世界に最強の魔王をお迎えするのだ!!」
エリヒド「……そのためにも、アナタさまのお力が必要なのです」
――コツコツ……ピタッ
エリヒド「……来ていただけましたか……! 豊穣の女神……!」
愛子「……みなさん、よくぞお集まりくださいました」
兵士たち「おぉ……愛子さま……相変わらずお美しい……」
兵士たち「あの方を見てるだけで……心が癒される……」
兵士たち「あの方こそ、新たな世界の巫女なのだ……!」
愛子「……みなさん、世界は良き方向へと転がっています」
愛子「それは、みなさんがこの世界を想えばこそ……悪しきエヒトは、我々の聖なる力に恐れをなして逃げていくに違いありません」
――ウォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
愛子「さぁ! みなさん、立ち上がりなさい! この世界の平和のために!」
愛子「……さて、みなさん。分かっているでしょうが……異端者を見つけたら、キズを付けずに私の所に運んでくださいね」
愛子「彼らの対処は……私たちとルルアリア王妃と共に片付けておきますので」
愛子「……それでは国王。私はこれで……」
――コツコツコツ……
エリヒド「……団長! メルドはどこだ!!」
――ザッザッザ……
メルド「……は、ここに」
エリヒド「草の根を分けてでも探し出せ! 何としても! 何としても異教徒共を探し出すのだ!」
エリヒド「女どもは犯せ! 男どもは首を刎ねてさらしものにせよ!」
エリヒド「栄光の魔王! ハジメさまに罪人の命を捧げるのだ!」
エリヒド「……と、言いたいところだが。今は豊穣の女神さまがああおっしゃってるのだからな」
エリヒド「無傷で連れてくるのだ。いいな?」
メルド「……承知しました」
――ザッザッザ……
エリヒド「進めろ、進めろ……この世の平穏のために、必ずや……魔王ハジメさまを……!!」
エリヒド「あの方の名を……このトータスの地に刻むのだ……!!」
………………
…………
……
【氷雪洞窟】
――シュゥゥゥゥゥゥ……
清水「うおっっとぉ……とととっ……」
清水「……あ、広間? ここが次の部屋?」
鈴「あ、清水くん!」
龍太郎「よっ、来てくれたかよ」
清水「おお! 二人とも! そっちも乗り越えたんだ!」
龍太郎「まぁな。単純な力押しだからシンプルでよかったぜ」
清水「ん……ん……?」
鈴(この試練ってどっちかっていうと精神的なやつじゃ……)
――シュゥゥゥゥゥゥゥ……
――ザッ……
恵里「……っとぉ。とーちゃくっと」
檜山「はぁーい! 一番の……」
檜山「……ってわけでもねぇか。ちっ」
鈴「あ、え、恵理……」
恵里「……ふぅん。そっちも終わったんだ」
檜山「おっす。お前らも乗り越えられた口か」
清水「お前も元気そうじゃねーか。中村は、その……もうちょっと苦戦すると思ってたわ」
恵里「……まぁ、ね。お前も『私』も、とっくに克服したもんでしょ」
鈴(……えっ、『私』……?)
清水「……ま、そうだな」
清水「ええと、とりあえる坂上と谷口と中村……で、あとは……」
龍太郎「ほれっ、あっちにいるぜ」クイッ
――スタスタスタ……
香織「あはは……みんな、お疲れさま!」
雫「……みんな、お疲れ様」
清水「お、おお……八重樫……」
恵里「……」
檜山「え、乗り越えらえたって……お前……」
雫「……うん、その……一応は迷宮基準で大丈夫って……言ってくれたみたいね」
雫「だから、このまま行けばちゃんと神代魔法を貰えると思う」
龍太郎「……そっか」
香織「……」
雫「……その、あの……」
雫「みんな、その……」
檜山「……」
清水「……」
雫「ここ最近の私、本当に変だったと思う」
雫「自分の事しか考えてなくて……みんなにも迷惑をかけて……」
龍太郎「……」
香織「……」
雫「だから、その……」
雫「ごめ――」
恵里「はい、ストップ。それ以上はもういいから」
雫「え、で、でも……あなたは特に……」
恵里「……この迷宮の仕組みで考えるなら、お前はなんとか乗り越えたって感じなんだろ?」
恵里「だったら、お前の内面についちゃ心配する必要はない。そういう事でしょ? もう大丈夫なんだろ?」
雫「……うん」
恵里「じゃ、それでいいんじゃないの?」
恵里「……何かにしがみ付いてなきゃ立ってられないのなんてお互い様さ。私だって、自分だけで立てるかなんてわからない」
恵里「私なんてもっと酷いからね。危うく裏切りかけてキミより被害を出しかけてたし」
檜山(それはほんとうにそう)
恵里「それでさぁ……ちょっとメンヘラったくらいのお前なんてまだかわいいもんだろ」
雫「……恵理……」
檜山「ま、自分の影がきっかけで見つめなおしたってところだろ?」
清水「あー……そっか……んじゃあ、いいんじゃねぇの? いろいろ荒れてたけど、さ。調子が戻ってよかったねってコトで」
雫「……みんな……」
龍太郎「まぁ、なんだ……俺のほうもさ、光輝と一緒で迷惑かけてたしよ」
龍太郎「でもよ……悩みがあるなら言ってくれよな。そういうの、言ってくれなきゃわかんねぇ頭してるからさ」
雫「……ふふっ、それもそうだったわね」クスッ
鈴「うぅぅ……シズシズも調子を取り戻してくれてよかったよ……」
恵里「……ま、でもさ。そうそう簡単に自分の事を変えられたら苦労はしないでしょ」
恵里「これからだよ、これから。悩みも苦労も、その先はアイツ次第ってね」
鈴「……これから……」
――シュゥゥゥゥゥ……
光輝「……みんな! ここにいたか!」
ユエ「……」
ハジメ「……」
龍太郎「おー! 光輝!」
香織「無事だったんだね!」
檜山「あー……で、お前らも?」
ハジメ「……ん、あ、あぁ。なんとか、な」
ユエ「……」
フリード「……」
フリード「……そういうこと、か」ボソッ
ハジメ「? いま、なんて?」
フリード「いや、気にするな。先を急ぐぞ」
ノイント「では、私が道案内をしましょう」ヒョコッ
フリード「うぉっ! ……あ、あぁ、神の使徒か」
ハジメ「……お前、今までどこ行ってたんだ?」
ノイント「みなさまが来るまで待機してました。退屈でしたよ」
香織「た、退屈……? え、だって試練は?」
ノイント「影の試練と言うのならば、私にはありませんでした。まぁ、元々私自身が迷宮の魔法を必要としてなかったのもあるでしょうが――」
ノイント「理由としてはもう一つ。私の体が原因でしょうね」
清水「……体?」
ノイント「私は、私たちは、心を持たぬ神の人形。己の個ともいえる物を持たないがゆえに……」
ノイント「心を試される迷宮の中で、私はそもそも試練を受ける資格なんて最初からなかった」
檜山「へ、へー……こういうことってあんの?」
フリード「……いや、初めて見たケースだ。だが、ありえない話じゃない」
フリード「心を持つ者、持たない者。己の影と向き合うということは、己の中に眠る『影』の有無が『自分の影』と立ち向かう際に難易度を決めるというコト」
フリード「それはすなわち……『影』を生むほどの『光』を持たない物には、強い影なぞ生まれるはずもない……か」
ハジメ「……」
ユエ「……」
フリード「……さて、なんであれお前らは試練を乗り越えた」
フリード「……ここから先に伸びる長い通路があるだろう。ここを通った先に、神代魔法を習得できる解放者の間がある」
清水「おぉっ……ってことは!」
檜山「ははっ、ま、よかったじゃねぇの。キモヲタくん?」
ハジメ「ん……あ、あぁ……そうだな」
フリード「ゆくぞ、最後の場所まで」
………………
…………
……
――ザッザッザッザ……
清水「……なーんかさぁ、あっという間のような……長かったような……」
檜山「いろんなことがありましたー、で片づけるにはいろいろありすぎたよな……」
龍太郎「でもよ、これで終わるんだよな。俺たちの戦いも、旅も……」
フリード「……」
雫「……元の世界に帰ったら、か……」
香織「まずは家族に会いたいよね。それで、それでそれで……」
恵里「……はぁ、能天気な奴ら。まだ終わったわけじゃないでしょ?」
ハジメ「……」
鈴「ふふっ、でもちょっと気が抜けちゃうのは分かるかもね」
ノイント「ですが、帰る前に我が主と話し合いをしなくては」
光輝「……俺たちが戦うことになったのも、元はそっちの神が呼び出したからだもんな」
光輝「俺としても、いろいろと話しをしておきたい。文句の一つでも、言ってやらなきゃ気が済まない」
ユエ「……! みて、あの場所……魔法陣がある」
………………
【転移魔法が仕込まれた部屋】
ハジメ「……この先なのか、フリード」
フリード「そうだ。この先に、変成魔法を習得できる解放者の部屋がある」
フリード「それを手に入れれば、お前は概念魔法を習得し、お前の中に注がれる思念からその身を防ぐことが出来る」
フリード「そして、この問題を解決したとなれば……お前たちはエヒトと交渉して元の世界に帰ることになるだろう」
清水「うぉおおおおおお! ゴール! じゃあ実質ゴールじゃん!」
光輝「……よかったな。南雲」
ハジメ「……あ、あぁ」
雫「それじゃあ、フリード。早速、この魔方陣の中に……」
フリード「……」
――ザッザッザッザ……
フリード「……」
雫「……? フリード?」
龍太郎「あ? なんだ? どしたん?」
香織「あの、どうしたの? あとはその部屋に入るだけなんでしょう?」
フリード「確かに、この先にある魔法はお前たちにとって必要なモノだ。何としても、手に入れなければならないものだろう」
フリード「……南雲ハジメ。お前、体の不調はどうした?」
ハジメ「? 不調なら……ここ最近は何とも……」
フリード「何故だ。なぜ、お前の体に不調が起きない」
ハジメ「なんで……って……そんなの、俺が分かるわけが……」
フリード「概念魔法は文字通り、人の概念に干渉するための魔法。生きる者であるならば、その思考と精神によって形作られたものを形容するもの、『概念』」
フリード「すべての神代魔法は、概念魔法に繋がっている。むろん、変成魔法もその例に漏れない」
清水「……? 何言って……」
フリード「変成魔法の力は『有機的な物に干渉する力』。生物は有機物、ゆえにこの力を活用して魔物が生まれた」
フリード「私が従えてい『た』、ウラノスもその一匹だ。魔物は、変成魔法によって作られてくる」
フリード「……だが、それは言い換えてしまえば、すべての魔物には変成魔法が仕込まれている、ということになるのだ」
光輝「……?」
光輝「――っっ!!! えっ、えっ!?」
香織「……ちょっと、まって……それって……」
フリード「南雲ハジメ。お前は、自他共に認めるイレギュラーその物。お前の体が、なぜそのような変異を遂げたのか」
フリード「他でもない、魔物を食らったせいだ。お前は、魔物を食らうことで魔物の力を取り込み――」
フリード「変成魔法、そのものを体に宿したのだ」
ハジメ「な、なに……!?」
清水「ま、マジで? ……いや、でもちょっと待てよ……?」
清水「仮に南雲の体に変成魔法が仕込まれたからなんだってんだよ?」
檜山「むしろいいことなんじゃねぇの? 要は無意識に近道してたってことになるんだろ?」
恵里「ば、バカ!! 変成魔法が体に仕込まれてるって……それって!!!」
フリード「魔物は、通常の動物が魔力によって変化することによって生まれてくる」
フリード「その特異性ゆえに、魔物を従えることが出来ず、今の今まで捕えて研究をしようにも困難だった」
フリード「だからこそ、お前みたいに食おうなんてことは普通は考えない。だが、誰もしなかったからこそ、お前はその領域に踏み込んだ。魔物を食らうという手段に、文字通り食らいついた」
香織「で、でも! ハジメくんは動物じゃ……あ――!」
フリード「……人間だって動物だ。言ったはずだ。前例がないだけだ、と」
ユエ「……ハジメは、ずっと前から魔物に変異していたってことなの……?」
恵里(……南雲の体に起きていた変化……それは変成魔法による変化だった……)
恵里(人の理から外れることで、有機的な変化が起こり……だから、あんな姿に……?)
フリード「魔物は、改造した者にとって好きな姿に変えられる。それは肉体的な物ではなく、狂暴になって戦わせることも……私のウラヌスのように、忠誠心を持って戦ってくれることもある」
フリード「魔物化は、単に外見が変わるだけではない。その肉体を含めて、その精神すらも変えられる」
龍太郎「せ、精神って……そ、それって……!」
フリード「……南雲ハジメ。お前は魔物を食って変わったと言ったな?」
フリード「もしも、もしもだぞ? お前のその姿も、心も、変成魔法による変化だというのならば」
フリード「お前が、本当にお前のままだという確証はあるのか?」
ハジメ「……っっ!!!」
フリード「……なんにせよお前らはもう、この迷宮に来る必要性はなかったわけだ。体調を元に戻すだけというのならば、お前はすでに概念魔法を習得してるも同然なのだからな」
光輝「ちょっと待て。だったら、お前はなぜこの迷宮に案内した?」
フリード「……」
光輝「攻略法もわかっていた。来る必要性だってなかった。なのに、ここに南雲を含めて俺たちを案内した理由はなんだ?」
フリード「……」
――ザッザッザッザ……
フリード「知りたいか。そのワケが」
光輝「……? フリード?」
フリード「信仰による思念は、すでに取り除くことが出来た」
フリード「それなのに、この真実を隠したうえでお前たちを呼び寄せた本当の理由」
フリード「知りたいか? 本当に――」
ノイント「……構えなさい」チャキッ
清水「うぉっ!? の、ノイント!? 何を――」
フリード「……貴様らに『命じる』」
ノイント「――っっ!! な、なぜそれを――」
フリード「――『動くな』」
――ヒュバッ!!!
――ピキィィンッ!!
光輝「がっ、がぁぁぁっ!?」
龍太郎「な、なんだ……うご、けねぇ……!!!」
ユエ「み、みんな!?」
フリード「……動けない、か……これは驚きだな。これが、神の力……」
ノイント「な、なぜ……! なぜ、あなたが……!!」
ノイント「我が主と同じ力を!! 『神言』の力を宿しているのですか!! フリード!」
ハジメ「ん、だとっ……!?」
清水「な、にがっ……!!」
ユエ「み、みんな! ハジメ! 光輝!」
フリード「……」
ユエ「っ……! フリード! あなた、いったい何を企んで……!」
フリード「……」
――ザッザッザ……
フリード「……貴様に、決闘を申し込みたい」
ユエ「……えっ? な、何を言ってるの!? 今はそんな場合じゃ……!」
フリード「貴様が勝てたら、私は退こう。後ろの部屋に行くといい」
フリード「だが、私を乗り越えられないというのならば……この先に行く資格はない」
檜山「ば、バカか! こういっちゃなんだけどよ! テメェごときが倒せるほど! そいつは弱く――」
恵里「待て! アイツ……まさか……」
鈴「ど、どうしたの?」
恵里「……ここに来たときから、気になっていたんだ。コイツ……フリードの体から……」
恵里「別の魂を感じる……! 魔物の……竜の魂を!」
恵里「『食らったな』!! お前! 自分の相棒である白竜を食らったんだな!?」
ハジメ「なっ……!」
ユエ「な、なんですって……!?」
フリード「……」
恵里「ずっと気になっていたんだ……一つの体に二つの魂……それが、ずっとお前から感じられていた……!」
恵里「それは、お前が自分の相棒を食らったことで、その身に宿したからだ……そうか、そうだったのか……!」
清水「い、いやいやいや!? おかしくない!?」
檜山「あの量を!? あのでっけぇ竜をどうやって!? マジで全部食い切ったの!? どうやって!?」
恵里「知るかぁ! いっぺんに聞くなバカ共!! こっちだって情報の整理が出来てないんだよ!!!」
フリード「……」
――シュルルルル……パサッ……
檜山「っっ……!! 服を、脱いだ……?」
フリード「っっ……ふぅぅぅぅぅぅぅ……!!!」
フリード「――はぁぁぁぁぁぁ!!」
――ビキビキッ……ググググググッ!!!
龍太郎「……な、んだよ……体が、変わって……!!」
鈴「……トカゲのうろこ……ううん。竜の鱗が……!」
光輝「……竜の牙に、尻尾……それでいて、あの肉体……」
ハジメ「う、ウソだろ……まるで、ウラノスと合体したみたいだ……!」
フリード「まるで、ではない……ウラノスは、我が肉体と一つになった」
フリード「魔物は、まさに肉体を弄られて作られた魔法生物その物。それを食らおうとすれば、自ずと食らった物もその変異を肉体に引き起こす」
フリード「南雲ハジメ。今の私は、お前と同じ『イレギュラー』を引き起こした者の身、というわけだ」
ハジメ「なっ……なっ……!!」
ユエ「ハジメと……同じ、体……!!」
フリード「我が名はフリード。フリード・バグアー」
フリード「『竜魔人・フリード』! それが私だ!」
フリード「……ユエ! 貴様に決闘を申し込む!!」
ユエ「わ、私に……!?」
フリード「変成魔法が欲しいと言ってただろう」
フリード「……確かに南雲ハジメの体には変成魔法が刻まれてるが……あれは完全ではない。あくまで、一時的に思念による流入を少し防げてるだけだ」
フリード「お前が、あの者を助けたいというのならば……」
フリード「私を乗り越えて見せろ!」
フリード「この氷雪洞窟最後の番人!! お前たちの最後の敵を!!!」
………………
…………
……