【ハイリヒ王国】
――ザシュッ゛!!
「いやっ! いやぁぁぁぁぁぁぁ!! おとうさーーーん!!」
「やめてっ、止めてください陛下!!」
「助けて! 誰か助けて!!」
兵士たち「ほら! 黙って断頭台へ向かえ!」
兵士たち「異教徒どもめ! 貴様らは魔王ハジメさまに逆らう異物だ! 国を乱す者たちであるならば、排除しなければならない!」
「そんな、こんなのってないわ!」
「俺たちは! 俺たちはずっとエヒトさまを信じてきたのに! エヒト様! どこにいるのですかエヒト様!」
「お助けください! 信心深い我らをお助けください! どうか! どうか!」
兵士たち「ええい! いいからさっさと断頭台へ向かえ!!」
兵士たち「……次! 後がつっかえているんだ! ボサッとするなよ!」
………………
エリヒド「それで、どうなのだ? 予算の方は」
錬成士「十分かと。これほどの物資と資金があれば、あらたな教会と銅像を建てるのは難しくありません」
錬成士「あとは時間を頂ければ……なに、必ずやこの国を照らす魔王の偶像を建てましょう……!」
エリヒド「うむ、頼んだぞ」
錬成士「では、陛下。私は作業に戻りますゆえ……」
――カツカツカツ……
エリヒド「……」
エリヒド(近づいている……刻々と、近づいている)
エリヒド(もっとだ。もっと、我々の信心深さをあの方に捧げるのだ)
エリヒド(魔王ハジメさまを崇める数々の建築物は、この国だけではない。多くの国が、これまでの聖教教会を潰し、新たに建て直している)
エリヒド(あの方の下に……あの方の下に……!!)
エリヒド(どの国よりも信心深さを示すために! 我らこそが、魔王の信奉者としてふさわしいのだと示すために!!)
ルルアリア「……あなた」
エリヒド「ん? どうしたルルアリア」
ルルアリア「……ここのところ、あなたは大変疲れているように見えます」
ルルアリア「この国を思ってのことなのでしょう。民を想ってのことなのでしょう。あなたの背中には、きっと私には見えないほどに重く、大きなものが圧し掛かっているに違いありません」
ルルアリア「だからこそ……だから、こそ。その重荷を、せめて私にも背負わせていただきたいのです」
ルルアリア「だって、私たちはこの国を治める王族であると同時に……この世にしかないたった一つの家族なのですから」
エリヒド「ルルアリア……」
ルルアリア「だから、だから……」
ルルアリア「今一度、異教徒たちの処刑についてお考えを――」
エリヒド「な、何を言っているのだお前は!!」
ルルアリア「っ……! あなたっ……」
エリヒド「不穏なる異分子を排除せねば、来るべき魔王様の国に穢れが生まれてしまう!!」
エリヒド「あのお方のおひざ元に居られるのならば、私はどんなことでもする! どんなことでもだ!」
ルルアリア「あ、あなたっ……」
――タッタッタッタッタ……
兵士「へ、陛下! ご報告が!」
エリヒド「……わかっている」
エリヒド「行くぞ。この国を裏切る者たちの所へ」
ルルアリア「う、裏切り者……!?」
エリヒド「……ここのところ、城の中で害虫どもが騒いでいるのを感じ取っていたのだ」
エリヒド「悪しき神に惑わされし、愚かな者共よ……今こそ魔王様の名のもとに、その罰を下してやろうぞ……!!」
………………
…………
……
【魔国ガーランド】
――コツ、コツ、コツ……ピタッ
エーアスト「連れてきました。アルヴ」
アルヴ「ご苦労だ。神の使徒よ」
ランデル「……異国の者に、寛大な対応をしてくれて感謝する。魔王アルヴよ」
アルヴ「礼はいい。さて、時間を置いてやった。考えはまとまったか? ハイリヒの王子よ」
ランデル「あぁ、まとまった」
アルヴ「……そうか。ならば、話を進めて――
ランデル「待ってくれ。その前に、一つ聞きたいことがある」
アルヴ「? なんだ?」
ランデル「……魔人族は、個々人が強い力を持った個人がいる種族だ。そちらが魔物を使役する前は、我々人間は数によって魔人族を相手に有利に立っていた」
ランデル「それでもなお、我々の力関係は対等だった。こちらの方が数が上だったとしてもだ」
アルヴ「……何が言いたい?」
ランデル「……あなた方の国の住人達は強いのだろう。だけど、その強さが人外なものであったとしても……」
ランデル「きっと、心は人の外にあるものではない。この国に生きる者たちも、同じように他者を大事にしている」
ランデル「そこには、亜人たちも関係ない。そのことを、余は待機していた部屋の中で知った」
アルヴ「……では聞かせてもらおうか。ランデル」
アルヴ「貴様の答えを。お前は、どのような王になりたいかを」
ランデル「……余は」
エーアスト「……」
アルヴ「……」
ランデル「……」
ランデル「余は」
ランデル「自分以外の者たちが、強くなってくれる国でありたい」
アルヴ「……訳を聞こうか」
………………
…………
……
【氷雪洞窟】
――ガギィンッ!! バギィンッ!!
ユエ「はぁ……! はぁ……!」
フリード「っ……やるものだな……『吸血姫』よ……!」
ユエ(こいつ……強いっ……!)
ユエ(こいつが使役していた白竜……ウラノスはレベル300にも匹敵する最強の竜だった……)
ユエ(それが! 魔人族一人に取り込まれて、竜だったときの豪快だった動きとは別に細やかな動きを見せるようになった……!)
――ヒュバッ!
フリード「距離を取って空間を断絶する魔法……綺羅といったか? あれを見舞うつもりか」
ユエ(攻撃手段は読まれている! でも、読めたところで攻撃を発動させなければ――)
――シュバッ、バシッ!
ユエ「っ!? うで、抑えられて……!? 距離、近っ……!」
フリード「この形態になったことで、身体能力が極限にまで引き上げられた」
フリード「この形態そのものが魔法その物。昇華魔法によって底上げされた力は――」
――シュバッ、バキィッ!!
ユエ「ぐぅぅぅっ!!」
フリード「撫でるように触れても、お前の体を紙屑のように吹き飛ばす」
――ババッ、シュタッ!
ユエ(一撃、かなり重い……! 回復……)
ユエ(……!? 『遅い』っ……? そんな、回復する速度が落ちている!?)
…………
龍太郎「お、おい……ユエってすっげぇ再生能力があるから強いんだろ!? なんであいつ押されてんだ!?」
光輝「……たぶん、そんな難しいことは何も起きてないんだ。シンプル、すごくシンプルな話だ」
光輝「単純に『攻撃力』が高い……! 高すぎる威力が、再生する速度よりもダメージのほうが多いんだ!」
ハジメ「……元々、フリードもあの白いドラゴンも、どちらもレベルウン100越えの化け物クラスだ。それらが合体して、しかも昇華魔法によって個々の力を引き上げているからとんでもねぇステータスを発揮してやがる」
龍太郎「じゃ、じゃあこのままだとやべぇの……!?」
ハジメ「ヤバいどころじゃねぇ。そもそもユエの戦闘スタイルは魔法で戦うタイプだ。それを高威力、高出力、最速の回復速度があればこそだが……それを凌駕する接近戦を得意とした分が悪すぎる……! 体力は回復できてもスタミナは……!」
香織「じゃ、じゃあこのままだとユエは……!」
雫「……」
雫(確かに、一見フリードのほうが有利に見える……けど……)
雫(でも、なんで……なんでなの……?)
雫(なんで……フリードのほうが苦しそうに見えるの……?)
…………
ユエ「はぁ゛……はぁ゛……! は、ぁぁぁっ……!!」
フリード「……」
ユエ(一部の攻撃を除いて避けられはしたものの……軽い魔法攻撃を受けてもビクともしないなんて……!)
ユエ(負ける……このまま、じゃ……負ける……っ)
ユエ(私、は……私はっ……!!)
フリード「……こんなものではないはずだ。アレーティアよ」
フリード「お前たちは、長い間我々を苦しめ続けてきた。ならば、もっとあがけ。もっと戦え」
フリード「お前ほどの女が……その程度の者のはずがあるか!!」
ユエ「……っ、わ、私っ……はっ……!」
ユエ(私の、名前……もう、誰にも知られることのなかった私の名前……!)
ユエ(コイツが知っているということは……何かを掴んでいる……私の過去を……私の一族のことを……!)
ユエ(でも、でも……それがわかったら……)
――ボソッ……
フリード「……なに?」ピクッ
ユエ「私……私っ……!」
ユエ「私っ……ハジメと一緒に……いられなくなるっ……!!」
フリード「……」
ハジメ「ゆ、ユエ……?」
フリード「……」
――スタスタスタ……
フリード「……俺の目を見ろ」
ユエ「……え、え……?」
――ヒュッ……パシンッ……
ユエ「……っ」
フリード「戦いの場で雑念を抱くとは余裕があるな!! こんなのが! 私が今まで挑んできた敵だというのか!!」
ユエ「ふ、フリード……」
フリード「火山の時も! ハイリヒの時も! お前たちは神の盤上でイレギュラーとしてあり続けた!! お前たちの視線の先には、己が信じる者を貫かんとする信念を抱いていたではないか!!」
フリード「お前が信じる物は、影に囁かれた程度で揺らぐものだったのか!! それが! 私が今まで相対してきたモノの正体なのか!?」
フリード「応えろ! お前は! 『ユエ』か! 『アレーティア』か! どちらを持って私を乗り越えて行こうというのだ!!」
ユエ「……ふりー……ど……」
フリード「……」
――ザッザッザッザ……クルッ……
フリード「……もはや、神の使徒も、神の庇護もどうでもいい」
フリード「私が育ってきた、魔国も……もはや……!」
恵里「! ま、待て! フリード! お前――」
清水「え、え、なに? どしたん?」
――ギロッ……
恵里「っ……」
清水「……な、なに? どうしたの?」
檜山「いや、俺に聞くなよっ……!」
フリード(……黙っててくれるか。すまない、恵理)
フリード「答えろ。今、お前の目に前にあるのはなんだ。神の使徒か、魔国の将軍か」
ユエ「……変わらない」
ユエ「使徒も、将軍も、すべて私たちの敵でしかない」
ユエ「敵は……すべて! 潰す!!」
フリード「それでこそだ! 今のお前を、もはやユエともアレーティアとも呼ばん!」
フリード「お互いに潰し合う『敵同士』! ぶつけ合うのは! それだけだ!」
ユエ「えぇ、その通り……!」
――ヒュウゥゥゥゥゥゥッ……!!
ユエ「うち滅ぼせ!!【雷龍】!!」
フリード「滅せよ!!【震天】!!」
――ヒュバッ、ドゴォォォッ!!
清水「ぬぉぉぉぉっ!! す、すっげぇ嵐!!」
檜山「こ、こういっちゃなんだが……巻き込まれなくてよかったなオイ」
恵里「っ……フリード……」
………………
…………
……
【ハイリヒ王国】
――ザッザッザッザ……ドカァンッ!!
兵士「ここです! 陛下!」
エリヒド「……ここにいたか……メルド!」
メルド「っ……陛下……」
エリヒド「それと……おお、ハジメさまの同胞どの。なにゆえこちらに?」
遠藤「う、うぅぅ……! みつかっちまった……!」
エリヒド「よく見てみれば、ほかにも見知った者たちばかり……」
エリヒド「さらには……豊穣の女神殿まで……」
愛子「っ……! 陛下……!」
エリヒド「ふむふむ……あなた方は魔王様と共にこの世界に足を運んだ者。そうであるならば、手厚く歓迎したいものだが……」
エリヒド「メルドよ。貴様には説明してもらうぞ。これは一体どういうことだ?」
エリヒド「お前は、この場所に異教徒どもを隠し、刑を受けさせないようにしてたな?」
エリヒド「このことが!! 何を意味するか分かっているのか!! あの方の怒りを買うことになるのだと……なぜわからん!!」
メルド「……お言葉ですが陛下、あなたはこの者たちが何をしていたのかを知っていますか」
エリヒド「……何をしたというのだ」
メルド「この者は、余が平穏であることを祈っていたのです」
メルド「偉大なるエヒト神に、人間族に永遠の平和あれと」
エリヒド「愚かな! 尻尾を見せおったな異教徒どもめ! 悪しきエヒトを崇めるとはやはり世界の異物であったか!」
メルド「――違う!! この者たちが祈ったのは、神への信仰だけではない!!」
メルド「祈ることは、神に祈りを捧げること!! 謙虚に生きる信者が、神に祈りを捧げることで、自分を、他者を! その幸せを守ってくれることを願うこと!!」
メルド「彼らが祈っていたのは神だけではない! 祈ることで!! この世の平穏を約束してくれると信じていたからだ!!」
エリヒド「……それでも、悪神に縋ったことは変わらん」
メルド「縋る先の話ではない! 祈る心の話なのです!」
メルド「エヒトも! 南雲ハジメも!! 結局は祈った先の矛先が違うだけで! 祈る者たちはずっと願っていたのです! 平穏を! 家族が、友が! 無事であってくれと!」
メルド「それが……それが、祈る者たちが暴走し、隣人を手にかけたというのならば――」
メルド「今っ!! 今の陛下は! あの聖教教会の者たちと何の違いがあるというのですか!!」
エリヒド「……なるほど……なるほどなるほどなるほど……それが、お前たちの答えか」
エリヒド「気にはなっていたのだ。異教徒排除したという話を聞くが、一部の者たちは死体を見る必要はないと私を遠ざけていた」
エリヒド「穢れた異教徒どもなぞ、その亡骸を陛下の目に入れる必要はありますまいといいながら……実際は、その遺体なんぞ、そこまで数を積み重ねてはいなかった……というわけだ」
エリヒド「そうであるならば、その手引きをしたものがいるはず……あぁ、おそらくそこにいる豊穣の女神さまもそのうちの一人なのでしょうな」
愛子「……っ」
エリヒド「あなたは、偉大なる豊穣の女神を演じながらも、一部の異教徒どもを逃がすように……神の使途と共に外に逃げおおせていたわけだ」
エリヒド「だが、あなただけではないはずだ。あなたを信頼しているデビットたちはもちろんのこと……外に逃がすように計らった者がいたはず」
エリヒド「そうだろう……?」
エリヒド「――ルルアリア」
――コツコツコツ……
ルルアリア「……あなた……!」
愛子「お、王妃様……!」
エリヒド「……やはりか。お前が、お前が私を――!」
ルルアリア「聞いてください陛下! あなたの! 今のあなたをよく見てください!」
ルルアリア「血走った目! 荒い息遣い! 今のあなたは……どのようなケダモノよりも悍ましい……!!」
ルルアリア「お願いです! お願いですあなた!! もうこれ以上、自分を見失わないで! これ以上、罪のない人たちの亡骸で罪を重ねないで!」
エリヒド「……お前」
ルルアリア「あなたの心のつらさを、その恐怖を! 私は知っているつもりです! だか――」
――ドスッ……
ルルアリア「……ぁ゛、あ……」
遠藤「っ……!!!」
愛子「あっ……あぁぁぁぁぁ!!!」
メルド「……っ」
ルルアリア「……ぁ、ぁな、た……」
――ドサッ……
エリヒド「……」
エリヒド「奴らを斬れ。私が許す」
兵士たち「はっ! 魔王様の名のもとに! ハジメ様の名のもとに!!」
メルド「っっっ……!! くっ、遠藤! お前は彼らと先に逃げてくれ!!」
遠藤「なっ、そんな!」
愛子「団長さん!!」
………………
エリヒド(……メルドめ。惜しい男を失ってしまった)
エリヒド(我々が祈った先は、最強無敵の魔王だ。あの方こそが、我々を永遠なる安寧の地へといざなってくれるのだ)
エリヒド(誰もが傷つけられない場所、誰もが平和に暮らしていける場所)
エリヒド(あのお方の膝下にこそ、我々の絶対的安全地帯が約束されるのだ)
エリヒド(リリアーナ、ランデル。お前たちや、民たちが平和に暮らしていける世界はすぐそこだ)
エリヒド(待っていてくれ。私は、王としても、父としても、)
【魔国ガーランド】
アルヴ「……誰もが強くなってくれる国……だと?」
ランデル「……私にはまだ、国の動かし方なぞ分からない。経験を積むのはこれから、知識だけしか詰め込めない」
ランデル「だから、私は王である自分以外の者たちが強くなってくれることを願う国になってほしい。それが、私の願いだ」
アルヴ「……ふむ」
アルヴ「いまいち、わからん」
ランデル「……わからん、とは」
アルヴ「王であれ、長であれ、国の頭が背負う物は『権力』、『威光』。これもまた、力だ。その背中に背負う背景があればこそ、民はその光によって歩むことが出来るのだ」
アルヴ「なれば、お前はお前の持つ威光をないがしろにするのか? 指し示した光がなければ、民はその足取りを迷わせる」
アルヴ「それなのに、お前は他者に強くなれと願うのか」
ランデル「そうだ、魔王アルヴよ。それが、私の願う国だ」
ランデル「……あなたの言う通り、人は力強い光によって導かれるもの。言い換えれば、力強く放たれる威光がなければ、人は迷う」
ランデル「だけど……その光が、人を狂わせるものだとしたら?」
ランデル「その光によって……人が道を間違えたとしたら?」
アルヴ「……」ピクッ
ランデル「……人は、いや、生き物は強くない。特に心は脆い。縋れるもの、頼れるものがないほど、生物は強くない」
ランデル「束縛されて自由がないモノ、束縛されずともただ広い道だけが目の前に広がっているだけの無責任な自由。どちらに転んでも、人はどの道を選べばいいのかわからず迷ってしまうのだ。結局は、な」
ランデル「だからこそ、人は目に見える物を、感じられるものに縋りついてしまう。不安定で不確かだから、確かな物として存在してくれる、『形ある』ものを頼りにしてしまうのだ」
ランデル「魔王アルヴよ。あなたはそれが何なのか知っているはずだ。偉大なる光、人の不安定な物を説明付けるための抽象的概念」
ランデル「それこそが――」
アルヴ「『神』」
ランデル「そうだ。そうだけど、違う。人は、本当は『神』という名前に縋っているのではない。縋れるものがあれば、なんだっていい、誰だっていい。だから……」
ランデル「自分たちで呼び出しておきながら、神の使徒と勝手に決めつけて、自分たちの都合の良いように利用する彼らを……」
ランデル「勇者として祭り上げた。魔王として祭り上げた。そこにあるのは、天之河光輝と南雲ハジメ。その本質は何も変わらんのだ」
アルヴ「……だからこそ、強くなるべきは王ではなく、民であるべきだと?」
ランデル「あくまで、私の中にある指針だ。人を導くための威光を、目を晦ませるためにあってはならん」
ランデル「王の威厳は必要だろう。拠り所だって大事だ」
ランデル「威光は畏怖のために。されど、明日を生きる者たちの背中を照らすために」
ランデル「私の国の光は、そうであってほしい」
アルヴ「……少しだけ聞きたい」
アルヴ「お前は、なぜそのように思ったのだ」
ランデル「……私は」
ランデル「私のことを、頼れるもの、すがる者として見てほしいものがいた」
アルヴ「……」
ランデル「その人は、心が潰されてしまっていた。神の恐怖に、世界の恐怖に、見たこともないような脅威に心が潰されてしまっていた」
ランデル「だから、その人は新たに縋れるものを探してしまった。だって、怖いから。心に支えがなければ、恐怖には立ち向かえないから」
ランデル「その人の近くには、家族がいた。でも、家族では恐怖に立ち向かう支えになることはできなかった」
ランデル「……本当は、もっと見てほしかった。心を打ち明けてほしかった。内政や、国の政なんてわからないけれど、見たこともあるかもわからない『神』や『魔王』よりも――」
ランデル「――心のよりどころとして、見て欲しかった」
アルヴ「……」
アルヴ「部屋に戻れ。こちらも、考えをまとめたい」
………………
…………
……
【城の一室】
ランデル「……ただいま戻った」
ミュウ「う、うん。お帰り、ランデル君」
ランデル「……」
ミュウ「……」
ランデル「その顔、聞いておったのか。余の話を」
ミュウ「あの、ね。少しだけ、エーアストさんに頼んだら聞かせてくれたの」
ミュウ「……ねぇ、ランデルくん。ランデルくんのお父さんって……」
ランデル「……父上は、怖かったに違いない。いや、ほかの者たちも怖かったに違いない」
ランデル「終わることのない戦争、魔人族の恐怖。その中で、きっと力を持った南雲ハジメたちの存在に焼き付けられてしまったのだ」
ランデル「恐怖してしまったからこそ、立ち向かう事よりも膝を折って強者に縋りつくことを選んだ。あれは、信仰などではない。『媚び』だ」
ランデル「だからっ……あんなふうに、折れてしまったのだ……!!」
ミュウ「……っ、ランデルくん……」
ランデル「王としての責務を果たすために、父上は立ち続けなければいけなかった! 進み続けなければいけなかった!!」
ランデル「だから、だから崇める者なんて誰でもよかったんだ! 神だろうと魔王であろうと!!」
ランデル「……だけど、だけど……っ! それでもっ……!!」
ランデル「余を……見て欲しかったのだ……!!」
ミュウ「……っ」
ランデル「頼るのならば、縋るのならば近くにいる家族を見て欲しかった……!」
ランデル「分かっていた……! 子供だから、頼りないちっぽけな余では見てもくれないとっ……!!」
ミュウ「……」
――……ギュッ……
ミュウ「……泣いてていいよ。今……今、だけは……」
ランデル「……う、うぅぅぅぅっ……」
………………
…………
……
【氷雪洞窟】
――ギィンッ!! ガギィンッ!!
檜山「お、おいっ……押してるぞ……! フリードの奴!!」
清水「ちょっ、これマジでありえるんじゃないの……ユエの敗北っ……!」
恵里(……んなワケあるかっ……! さっきからフリードの体から、ありえないほどの光が発生しているっ……!)
恵里(しかも魂から感じられる魔力……あれは、相容れぬがゆえに起きる『拒絶反応』……!)
恵里(この戦い……勝っても負けてもフリードは……!!)
………………
フリード(……限界は近い……か……)
フリード(……ふんっ、構わん。私の役目は、ここで終わる)
フリード(私には、きっともったいない最期だ)
フリード(……ずっと、ずっと怖かった)
フリード(氷雪洞窟の厳しさも、そこにいる魔物たちの余りの強さに苦戦したりもした)
フリード(だけど、私は乗り越えた……いや、乗り越えてしまったのだ)
フリード(神の歴史を知り、私はこう思ってしまった)
フリード(『勝てない』。ならば、膝を折って縋るしかないと)
フリード(自分の心と向き合うことが出来なかった。向き合うよりも、遥かに強い強者であるエヒトに縋ることを選ぶことしかできなかった)
フリード(エヒトが悪いのではない。人間が悪いのではない。イレギュラーたちが悪いのではない)
フリード(頼れるもの、縋るものがあると分かったとたんに……縋りついた……)
フリード(私が悪い……それだけなのだ)
………………
清水「……神に対してさ、妄信的になっちゃうのってさ。なんでだと思う?」
檜山「あ? なんだよ急に」
清水「……現実で辛い目に合っているから、なんだってさ。辛い目に合っているのは、きっと何かワケがあるんだって。こうして悪い目に合っているのも、何か原因があるんだって」
清水「だからさ、妄信になっちまうやつらはこう思っちまうのさ。きっと……いつか自分たちは報われる。誰かが、見てくれているって」
清水「そういって、理不尽や絶望に意味を見出そうとして、苦しいことに合理的な答えを探そうとするんだ。誰よりも苦しい目に合っている自分たちは、特別なんじゃないかって」
檜山「……そういう考えを、何て呼ぶんだ」
清水「……『選民思想』」
………………
――ドサッ……
ユエ「はぁ゛……はぁ゛……!!」
フリード「……ここまで、か……」
――シュゥゥゥゥゥッ……
ユエ「っ! フリード……あなたっ……!」
ハジメ「お、お前……肉体が崩壊しかけている!?」
フリード「……っ、黙れ……私のことを、気にかけている、場合か……!」
ユエ「まさかっ……ずっと無理をしてたの!? なんで!? なんでそうなってまで!」
フリード「そう、なってまで、か……ほんとうに、なんでだろうな……」
フリード「……いや、もうわかっていたさ」
――……スクッ……
フリード「……」
フリード(――私は、縋ってしまったのだ)
フリード(この世界に取り巻く神の正体を知って、その力の前に屈してしまった)
フリード(立ち向かうよりもひざを折り、神の元に下れば安全を保障してくれると思っていたからだ)
フリード(なぜなら、絶対的強者とは、絶対的な安全地帯)
フリード(その強者のひざ元に居れば、私たちは、私の仲間の安全は……保障される……だから……私は縋ったのだ)
フリード(……すがって、しまったのだ)
フリード「……」チラッ
雫「っ……えっ……?」
フリード(……雫よ、すまなかった。本当は、お前のことを叱る資格なんて私にはないのだ)
フリード(お前の目は、神に縋るあの時の私の目と同じだった。お前を見ていると、自分を見ているようでいら立ちを隠せなかった)
フリード(私もまた、何かに縋ることでしか、神という偉大なる絶対的強者に生きることを認めてもらうことでしかできない弱者だった)
――ザッ……
ユエ「……! フリード……!」
ハジメ「構えた……!」
フリード(……人は、その心のうちに確かな物を抱くことで前に進むことができる)
フリード(力、知恵、その物にしかできぬ技量。そうやって、得意な何かを得て、伸ばすことで……人は自信というものをつける)
フリード(目には見えぬ自信と力量を形にしたもの、そう、それこそが――)
フリード(ステータス。人は、己の心の支えたる何かを求めるために、ステータスを求めるのだ)
――ググググッ……
フリード(未来に不安を抱いていた。神に立ち向かう確固たる自信や、民を守れる力と自信が欲しかった。私のステータスでは、絶対に立ち向かえないと思ってしまったからだ。だから、あきらめたんだ)
――グググググッ……
フリード(誰かにゆだねたかった。だから、神に縋ってしまった。目に見えるステータスプレートの数値で、抗っても無駄だと……無意識に膝を折ってしまったのだ)
フリード(己の『ステータス』に自信がなくなったその時、人はより優れた何かに縋ってしまう。だから、近くにある物よりも遠くのものに縋ってしまう)
――ググググググググッ……
ユエ「っ……!!」
フリード(だから……だからっ……!)
フリード(赤目の少女よ、俺が、お前のステータスの糧になろう……!)
フリード(俺は、迷宮を攻略しても魔法に見合った心までは得ることはできなかった! 絶対的な恐怖に屈服し、膝を折ることしか頭になかった!)
フリード(誰かか俺の心を支えてくれるわけがなかった。迷宮を攻略しても得ることなんてできなかった!)
フリード(だから、だから!! 今、ここでお前の糧となろう! あの時、迷宮を攻略しても強き心を得ることができなかったこの身をもって! この世界に変革をもたらすお前の糧となろう!!)
――グッ……
ハジメ「フリードの構えが……! 止まった……」
光輝「な、何か来る……!」
ユエ「……」
――ズズズズズズズズズズッ……
ユエ「――敵を滅せよ……【五天龍】……!」
――グォォォォォォォ!!
フリード「……素晴らしい魔法だ。お前の最大最強の技、見せてくれて感謝する」
フリード「ならば、私も応えよう!! お前の技に!」
フリード「ウラノスよ! お前の力! 引き出させてもらうぞ!」
――キィィィィィィィ……ッ!
ハジメ「フリードの、手から……光線が……!」
――バシュゥッ!!
ユエ「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
フリード「おおおおおおおおおおっ!!!」
――ドォッ……!!!
――ドゴォォォォォンッ!!!
香織「きゃ、きゃぁぁぁぁぁ!!」
雫「っ……フリード……!!」
――シュゥゥゥゥゥt……
清水「け、煙が……晴れて……」
檜山「ど、どっちだオイ! どっちが勝った!?」
ハジメ「……」
………………
ユエ「……」
――ユラッ……ドサッ
ハジメ「っ……! ユエ!」
光輝「そ、そんな……」
ユエ「ぅ゛……な、そんな……」
フリード「……舐めるなよ。お前が五つの龍で来るならば」
フリード「俺は……愛すべき白竜ただ一匹で挑むのみ……!」
龍太郎「そ、そんな……それじゃあ、この勝負……」
フリード「……そこのお前が考えている通りだ。この勝負――」
――シュゥゥゥゥゥ……
フリード「……私の、負けだ」
光輝「ふ、フリード!?」
龍太郎「え、え……な、なんでお前の体が消えて……」
恵里「……限界が、来たんだ。合体の限界が」
ハジメ「なに……?」
恵里「元々、南雲のようにじっくりと食らった魔物を体になじませるようにしていけば、まだ安全だったかもしれない」
恵里「だけど、あんたはこの短期間で無理やり合体させて、しかも変成魔法で体をいじくりまわしたから……肉体が……!!」
フリード「……あぁ、そうだな。いじくりまわした結果がこれだ」
フリード「それでも……お前たちを見届けることができて、私は満足だ」
光輝「ふ、フリード……」
――ドサッ……
ユエ「っ……フリード……!」
フリード「……ふふっ、最期に、みるのが……お前のような美人ならば、悪い気は……しないな……」
ユエ「……あなた、どうして私の本当の名前を知っているの……どうして、あなたが……」
フリード「……その答えは、近いうちに……わかる……っ。『彼』には、この場所に来てもらえるように……たのんだ、から……」
ユエ「……彼……?」
フリード「ん、ぐ……っ、ぐ、げほっ……!!」
――カランッ……
清水「うあ!? な、なんか吐き出した!?」
恵里「……これは……」
恵里「! ウラノス!? これ、変成魔法で飴玉ほどの大きさに変えられたお前の白竜か!?」
ハジメ「そうか……確かにこれなら、あのサイズでも肉体に取り込むことはできる、か……」
ハジメ「いや、でも……お前の肉体の崩壊は……」
フリード「……構わんさ。私も、私のなすべきことをなすことが出来た」
フリード「少年、たちよ……これで、ようやく私の悔いは、なくなる……迷惑を、いろいろと……かけた、な……」
清水「……フリード」
檜山「……っ」
ノイント「……」
フリード「っ……さらばだ、少年たちよ……さら、ば……だ……」
――シュゥゥゥゥゥゥ……
雫「……フリード……あなたは……」
香織「なんだか……綺麗な最期だったね」
ユエ「……みんな、いこう」
ハジメ「あぁ、これで最後だ」
ハジメ「ここから先に、最後の魔法がある」
………………
…………
……