【――ハイリヒ王国付近】
――……なに、これ……
――なんで、国の人たちが死んでいるの……?
――なんで、魔物が国の中に押し寄せているの……?
――なんで、魔物たちが国の人たちを殺しているの……?
――南雲ハジメは……彼は、どこ!? 今、この国で何が起きてるの……!?
――……! い、急がないと……!!
【ハイリヒ王国 王城 王の間】
――ズルズル……ズルズル……
――……ドサッ……
光輝「……城の中で暴れていた兵士たちは『ここにある』ので全部だ」
光輝「後の人たちは、大体が話が通じる人たちだった。俺が切り殺した者と同じような、あんな狂気じみた光を目に宿した者はもういない」
ハジメ「……そうか」
龍太郎「っつーか、城の連中がどんな相手であれ負ける気がしねぇけどな。なんだかんだで、俺たちってめちゃめちゃ強いらしいし」
龍太郎「……ただ、その……な。巻き込まれた生徒たちはよ……」
ハジメ「っ……」
雫「……城下町のほうでも、襲ってきた魔物たちの方は清水君やノイントたちに手伝ってもらって処理してもらったわ」
雫「見てもらったところ、もう国の中で暴れている魔物たちはもういない。たぶん……大丈夫、だとは思う」
ハジメ「……本当に大丈夫なのか。国なんて広いんだから、魔物が隠れてる場合だって」
香織「うん。だから、国の中でひっそりと隠れていたクラスメイトの人たちに手伝ってもらってるの」
香織「……遠藤君とかは無事だったみたいなの。ほかにも無事だった人たちが国の中で魔物がいないか調べて回ってくれている」
香織「だけど……その……今、犠牲になったクラスメイトたちは……」
ハジメ「…………っ」ギリッ……
雫「……ねぇ、リリィたちにはこのこと……」
光輝「……もう伝えてある。取り乱しはしたが、今は冷静に対処してくれている」
光輝「今の所、檜山が生き残りのみんなと協力して、まだほかにも生きている人がいないか探しに行ってるけれど……」
――ザッザッザ……
檜山「よっ、集まってるみたいだな」
光輝「檜山! そっちは……」
檜山「斎藤や中野たちとあっちこっち駆けずり回ってる。とにもかくにも生き残りを集めねぇとだからな」
檜山「メンタル面っつーか……国の狂信で巻きこまれたクラスメイト達だけど……」
――ザッ……
清水「そのことについてはこっちが説明する」
雫「清水君……」
光輝「教えてくれ、清水。国の人たちに何があったんだ? いったい、どうしてこんな……」
龍太郎「やっぱあれなのか。あの、神とか、ユエたちと行動しているような連中とか……」
清水「いや、そのことなんだけど……」
清水「……中村と調べたところ、国の誰もが精神面に『異常』がなかったんだ」
ハジメ「……なんだと」
光輝「馬鹿な!? そんなはずがないだろ!?」
龍太郎「ソリャ何かの間違いじゃねぇのか!? あんな異常なこと……できるわけねぇだろ!?」
清水「そりゃ……俺だってそうかもとは思うよ。でも、それだと変なんだ」
雫「変……?」
清水「人の精神に干渉できる俺の力は……心の不調を知ることが出来るんだ」
清水「だからこそわかる。みんな、『操られていない』。ましてや、エヒトだとかユエたちにまとわりついているアイツらみたいなのから手を加えられている形跡なんて……あるはずが……」
香織「……ちょ、ちょっと待って清水君。もしも、もしもあなたの言う通り……この国の人たちが操られていないっていうなら……」
香織「じゃあ……ハイリヒの人たちは……自分の意志であんな事をしたっていうの……??」
――コツコツコツ……
ノイント「そう言う事になるのでしょうね」
ハジメ「ノイント……」
ノイント「前々から申しているように、すでに我が主はその力を失いつつあります。盤上の駒を動かせるだけの余力がないのであれば、あなた方をどうこうすることなんて不可能でしょう」
ノイント「で、あるならば……よそからの干渉を受けたことを考慮すれば、この世界において神を名乗るイレギュラー共の仕業にほかなりませんが……」
ノイント「……どうも。我々の目で見てもその形跡がない。不可解です。このような狂気、かつて我が主が描いたシナリオですら起こらなかった」
ハジメ「……神ですら描けなかったシナリオ……」
光輝「……何がどうなっている。いったい、だれが、彼らをこんな目に……」
ノイント「とにかく、今後のために手をつくさなければならないことは多いでしょう」
ノイント「何はともあれ、ハイリヒの問題は……あとは事後処理を残すのみ。あとはこの世界に蔓延るイレギュラーの女どもと我が主周りの話……」
ノイント「……クラスメイトについては」
清水「こっちのほうでメンタルケアをしていくつもりだ。俺の精神操作で、どうにか心を砕かないように癒しておきたい」
清水「白崎、すこし協力してくれ。その、数が多いし、おんなじ女の人が良いと思うから」
香織「うん! わかった!」
ハジメ「……?」
光輝「……? 南雲、どうしたんだ?」
ハジメ「あ、いやっ……なんか……なんだ……?」
ハジメ「こっちにっ……」
ハジメ「誰かが来る……なんだか、見知った誰かが――」
――バシュゥゥゥゥゥッ!!!
ミレディ「――っ……! はぁはぁ、はぁっ……!!」
龍太郎「うぉっ! 何もない所から急に!?」
光輝「……え、人形?」
清水「え、ええと……ちみっちゃいね?」
ハジメ「お、お前っ……!!」
ミレディ「っ……! ぁ、やっほー! 久しぶりだね、南雲ハジメ!」
ミレディ「ええと、ここは……王城だよね」
ハジメ「ミレディ・ライセン! なんでお前がここに……!」
光輝「……知り合いなのか?」
ハジメ「迷宮の主……といったところかな。魂をあのゴーレムに定着させて、意識だけを残している」
清水「は、はぇ~~~……結構すっごい技術……あとで中村に見せてやろうかな……」
ミレディ「緊急事態……って言っていいのかな。君がすべての迷宮を攻略したのを感じ取って、すぐさまここまで来たんだ」
ミレディ「ただ、雪原のあたりにいると思ってみたらぜんぜんいなくて……それで、ハイリヒのほうに姿を感じ取れたからじゃあ行ってみようと思ってたんだけど……」
ミレディ「……これは、何事なんだ。国のほうでは魔物が暴れた形跡があって、城の中も……なんでこんな……めちゃくちゃに」
ミレディ「……? あれは……」
ノイント「……あなたは」
ミレディ「――っ!!! お、お前ェェェェェ!!!」
香織「きゃっ、な、なにっ!?」
ハジメ「ま、待てミレディ!! どうした!?」
ミレディ「退け! 退くんだ南雲ハジメ!! そいつは!! そいつは!!!」
ハジメ「あ、そうかそういうっ……!! お、オイ! ノイント!! お前チョット外に出ろ!!」
………………
ミレディ「……な、なんだよ……それ……エヒトがもう、何もできない……?」
ハジメ「ここまでが、俺たちが体験したことだ」
ハジメ「エヒトの野郎は、本来注がれるはずだった信仰を余所のほうへと流されてしまった。だから、自分自身の力を維持することが出来ず、その姿を消滅させようとしている」
ハジメ「だから、今こうしてアイツに協力をしているんだ」
ミレディ「ま、待てよ!! それが確かな話だって、誰から聞いたんだ!?」
ミレディ「アイツのやりそうなことだ……! 弱っているふりをして、混乱しているキミたちをあざ笑ってるかもしれないんだよ!?」
光輝「そ、それは……」
ノイント「なるほど。確かにあなたがそう思うのは無理のないこと。我々に関して、疑わしいと思うのは当然でしょう」
ノイント「ですが、事実我が主はその力を失いつつある。その証拠が、この世界の荒れ模様です」
ノイント「この盤上の荒れ具合は、我が主が望んだ形ではありません。すべて、望まない形による異常事態によってもたらされた物」
ノイント「そうでなければ……イレギュラーの女どもの隣に……神という形で召喚されたあの者たちが産まれるはずがない。信仰という力が、別の場所に注がれるようになったからこそ起きた現象なのです」
ミレディ「そ、んなっ……じゃ、じゃあ一体何がおきてっ……」
雫「……なんだか、困惑してるみたいね」
香織「無理もないんじゃないかな……この世界の神のせいで苦しんだ一番の被害者だもん……」
龍太郎「……なぁ、少し思ったんだけどよ」
光輝「? どうしたんだ龍太郎」
龍太郎「あのよ、人の持つ信仰の力があればエヒトみてぇな神が産まれるんだろ?」
龍太郎「でもよ……信仰を注がれて力が手に入る~ってんなら」
龍太郎「エヒトだとか南雲だとかみたいな、『注げる器』がなくなったら……いったい『何が』出来るんだ?」
ノイント「………………それ、は…………」
ミレディ「……信仰の、その先……」
龍太郎「あ、いや……ほんと! ほんとちょっと不思議に思っただけだからよ! 別にそこまで深刻にならんでも――」
ハジメ「……信仰……注げる先……神の、力……」
――ピクッ……
ハジメ「っ……! こ、今度は……なんだ……!?」
光輝「? 南雲……?」
ノイント「……あなた達、構えなさい」チャキッ
龍太郎「あ? ノイント!?」
ミレディ「っ……何かが、こっちに来てる!」
檜山「えっ、えっ!? 何かくんの!?」
ハジメ「……誰だ。姿を現せ」
「――ずいぶんなご挨拶じゃないか。南雲ハジメ」
ハジメ「――っ……! 部屋の隅だ!!」
光輝「っ……!!」
「そう身構えなくていい。今、こうして君たちの前に姿を現したのは……ただ、少しだけ話がしたいからなんだ」
檜山「て、テメェは……」
「さて……初めましての人も多いだろうね。こうして、形を成し、意思を成し、キミたちの前に立っている。だから、話すのは初めてのはずだ」
――コツ……コツ……
「……人は、目に見える形でしか物事を信じる事を出来ない」
「目に見えるモノ、すがれるもの、たよれるものがなければ……人は生きてはいけない。強くない生き物であるがゆえに」
「私は……そんな君たちのすがるもの、たよるものとして生まれた物」
ハジメ「……何者だ。うだうだとくっちゃっべってるくらいなら、名を名乗れ」
「……紹介しよう」
エヒクリベレイ「私は『善神・エヒクリベレイ』。この世界の真の神にして、キミたちが生み出した本当の、本物の神」
ハジメ「……エヒクリベレイ、ってっ……え、その名前っ……」
エヒクリベレイ「驚いたか? 驚いただろうね。なにせ、この名前を考えたのはキミで……このような概念を考えたのもキミだ」
エヒクリベレイ「南雲ハジメ……本来、エヒトの器として呼び出されるはずの天之河光輝を差し置いて、この世界の盤上をひっくり返すほどの力を持ちし存在」
エヒクリベレイ「キミという駒は、この世界において多くの者たちを掻きまわした。それもこれも、元の世界に戻りたいというキミの執念合ってのモノ」
エヒクリベレイ「いやはや見事なものだ……それだけの心の強さ、それだけの精神力。そのどれをとっても、そこにいる勇者とは比べるべくもない」
エヒクリベレイ「ゆえに、キミは周囲に対して気にかけることなく、ただただ前へと進むことを自分自身に良しとしてしまった。それが、今の結果を招いた」
ハジメ「俺が……この結果を招いた……?」
清水「その、ミレディ……さん? アイツに見覚えは……」ヒソヒソ……
ミレディ「……知らない。雰囲気はあの糞野郎に似てるけど……でも、ぜんぜん違う……」
ミレディ「お前、なんなんだ……? エヒトでもなければ、何でもないなら……じゃあっ!! お前は何なんだ!?」
エヒクリベレイ「……ふぅむ。何者か、と聞かれてもな。もう答えはとっくに言っている。私は、お前たちの信仰によって産み出された真なる神」
エヒクリベレイ「エヒトのように、元々肉の体を持ちし人間が信仰を得ることで神格を得たのとは違い……純粋に人の心によって産み出された、本当の神だ」
清水「に、肉の体……?」
ミレディ「いやまてっ!!! その前に……『人間』!?」
ノイント「……!? 我が主が、元は人間……?」
エヒクリベレイ「まぁ、驚くだろうね。君たちからすれば単なる超常的な物にしか見えないだろうし、そっちの人形からすれば今まで盤上の駒扱いしてきた人間と同列だと聞かされたのだから」
エヒクリベレイ「……エヒトは、はるか昔……遠い異世界からこの世界にやってきた異世界人だ」
エヒクリベレイ「何もないこの世界を、共にやってきた仲間たちと共に作り替えてきた。多くの生物を作り出し、自分たちが住みやすい環境に作り替えた」
エヒクリベレイ「それこそが『異世界トータス』。君たちがずっといたこの世界は、文字通り本当にエヒトにとっての箱庭だったのだ」
ハジメ「……それが、トータスの成り立ち」
エヒクリベレイ「だけどある時……エヒトは気づいた。自分が作り上げたこの世界を作っては壊し……ツクッテは壊す……そんな娯楽を見つけてしまったエヒトは、次第にさまざまな手法で世界を乱し始めた」
檜山「……それが、この世界の戦争ってわけかよ」
ミレディ「……っ」
エヒクリベレイ「そのうち、エヒトは思いついた。自分もほかの生き物たちと同じように、肉の体が欲しいと」
エヒクリベレイ「だから欲した。自分が肉の体を持てるように……顕現できるようにと、適した体を。それこそが……」
光輝「っ……! そうか、俺が……」
雫「じゃ、じゃあ私たちがこの世界に来たのは……光輝のついでで……?」
エヒクリベレイ「……ま、そういうことだ。不幸なことにね」
エヒクリベレイ「自分が楽しむために世界を乱し、自分が楽しむためにキミたちを呼び出した。あまりにも醜悪で、俗物的な神……だけど、信じられないことにアイツの正体は人間だったんだよ」
エヒクリベレイ「それが事実。君たちがずっと超越的な者だと思っていたアレは、ただ、魔術に精通し、その極地へと至ることで生物としての格が幾段も上の存在……そんなモノに成っただけの存在さ」
――カチャッ……
ハジメ「……御託は良い。それで、結局お前は何しにきやがったわけだ」
雫「こうして顔を見せに来たのなら、ただからかいに来たわけじゃないってことでしょ?」
香織「戦いを挑みに来たのか……はたまた私たちを仕留めに来たのか……!!」
龍太郎「そろそろはっきりさせてもらおうや……」
エヒクリベレイ「血気盛んだな。私がここに来たのは、キミたちに取って悪い話ではないんだよ」
ハジメ「……なに……?」
エヒクリベレイ「さて、率直に言おう」
エヒクリベレイ「この世界の問題はすべて解決した。エヒトの被害にあった君たちには元の世界に戻ってもらい、このまま無事に帰還してもらいたい」
ハジメ「……っ!? どういうつもりだ……!」
エヒクリベレイ「だから、そのままだと言ってるじゃないか。君たちが元の世界に帰ると言うのならば、私は協力しようと言っているんだ」
エヒクリベレイ「そのための帰還魔法も……ちゃんと用意してある。ほれ、こんな感じにな」
――バシュッ……スゥゥゥゥ……
清水「! あ、穴が……空中に穴が!」
檜山「おいっ……あれ、日本か!? 日本じゃねぇかよ!!」
雫「ほ、本当に帰れる……帰れるの……!?」
エヒクリベレイ「キミたちが帰りたい、というのならいつでも返してあげよう。魔法やスキル……そういった力も、持ち帰りたいなら持ち帰ると言い」
エヒクリベレイ「今までご苦労だった。君たちは本当に辛い戦いを乗り越えてきた。もう、無理をする必要はないんだ」
ハジメ「……た、戦いが終わる……」
ミレディ「ま、待て!! 待つんだ! みんな、惑わされないで!!」
ミレディ「っ……いったい、なんなんだ……! お前っ!! いったいなんなんだ!!!」
エヒクリベレイ「……解放者よ。頼むから話の腰を折らないでくれ。私は彼らをこのまま帰してやりたいんだ」
――チャキッ……
光輝「……何が帰してやりたいだ……! なにがっ! 君たちを話の腰を折るな、だ!!
エヒクリベレイ「……? なんで私に剣を向けるんだ?」
光輝「すっとぼけるなよ!! この状況、この……ハイリヒで起きた元凶は!! お前のせいなんだろう!!」
光輝「国の人たちがあんなことになったのも! ハイリヒの人たちがあんなふうになったのも!!」
光輝「ユエ達にまとわりつく……神を名乗る変な奴らも!! あれだけ南雲を愛していた彼女たちが! あんな風に変心したのも!!」
光輝「お前が!! 全部お前が仕組んだことなんだな!?」
エヒクリベレイ「……? 『私が』……?」
ノイント「現在、この盤上を引っ掻き回されているのは何者かによる意思を感じ取った……というのが、この場にいる者たちの総意です」
ノイント「そうでなければ、この世界に干渉し、あらゆる魔術の頂点に立つあのお方よりも強力な力を持てるはずがない……」
ノイント「それならば、あなた自身が……我が主の力を奪い、この世界の信仰を奪い去り、さらにはイレギュラーの女どもにあのような男どもをあてがった……と、考えるのが自然ですが」
エヒクリベレイ「……なるほど、そう解釈したか」
エヒクリベレイ「いやはや……いやはやいやはや……天之河光輝。キミは、多少成長したモノと思っていたが、やはり根っこにあるのはご都合主義……自分の信じたいものだけを信じ、見たいものだけを見るという底の部分はまったく変わらなかったのだね」
光輝「っ……かわらなかった、だと……?」
エヒクリベレイ「まったく、何とも悲しいことを言うではないか」
エヒクリベレイ「彼女たちはいきなり心が変わった?」
エヒクリベレイ「国の者たちが、いきなり凶暴になった?」
エヒクリベレイ「おかしなことを言うね。彼らは、彼女たちは、いつだっておかしくなってもおかしくない。そんな状況だったというのに」
エヒクリベレイ「いや、そもそも……人が変心するということが、急に起こる物だと思うことが、いかにして傲慢なことか……」
エヒクリベレイ「何よりもこの状況を望んでいたのは、ミレディ・ライセン……キミだったではないか」
ミレディ「――…………は…………?」
ハジメ「っ!? なに、いってっ……」
エヒクリベレイ「キミはかつて、望んだはずだ」
エヒクリベレイ「人の心が、神に支配されることなく自由の意志の下で暮らしてほしいと」
エヒクリベレイ「かつて、その志を同じくした者たちと共に……その気持ちを重ねて……自分たちの力を、後世に残した。それが迷宮だ」
エヒクリベレイ「そして、今。エヒトはその力を失い、この世界において心を支配する者はいなくなった」
エヒクリベレイ「同時に、その人形である神の使徒たちも、裏で歴史を操りながら苦しめてきた彼女たちも……トータスという盤上を乱すことは出来なくなった」
エヒクリベレイ「人の心は惑わされることなく、超常なる物によって干渉されることなく、ただ在るがままに、流れるがままに世界は進んでいる」
エヒクリベレイ「これを――『自由』以外にどう表現する? キミがあれだけ望んでいた人々の自由そのものではないか」
ミレディ「えっ゛……ぁ、えっ……?」
エヒクリベレイ「そもそも……おかしな話だな? 人は自由の下であれば、その心は善性と善意しか持たぬのか?」
エヒクリベレイ「自由の下で善意を選ぶものもいれば、悪意を抱いて事に及ぶ者もいる。そのことを、お前は知らないはずがないな?」
光輝「……人間が、自らの意志で悪意を選んだ……そう言いたいのか」
エヒクリベレイ「それ以外に何がある?」
エヒクリベレイ「人は、狂った神から解放され、これまで『造られた狂気』によって平和を狂わされてきた」
エヒクリベレイ「だけど、神の干渉も、神の使徒による干渉すらもはねのけ、ついにトータスの民は自由を手に入れたのだ」
エヒクリベレイ「自らの意志で人を殺め、自らの意志で他者を迫害し、自らの意志で弱き女をその手で犯して見せたではないか」
エヒクリベレイ「自由なる意思によって、なされてきたではないか」
光輝「だ、だけどっ……!! 神がっ……! それに、南雲を信仰しようとしてっ……!! これも、お前が……!!」
エヒクリベレイ「……難しい話ではないよ」
エヒクリベレイ「人は、神の支配から脱却し、自由なる意思によってより優れた神に縋ることを選んだ。ただそれだけだ」
ミレディ「ぁっ……あぁっ…………」
エヒクリベレイ「……それなのに、なぜ喜ばない? 矛盾してるではないか」
エヒクリベレイ「まぁ、信じられないというのなら別にいいが……帰りたいとなったら、いつでも呼び出してくれても構わない」
ハジメ「っ!! まてっ! どこへいくつもりだ!」
エヒクリベレイ「……どうもしないよ。私は、『求められている』。今私の力を必要としている亜人の者たちの所に……私の力を託しにいくところさ」
清水「それってユエ達の所にいくってことか!?」
檜山「お、オイ! まて、行くなオイ!!」
――ドパァンッ!! ドパァンッ!!
ハジメ「っ……! あたらない? 弾が奴の体をすり抜ける……!」
ミレディ「だめだ、消えてしまう……!!」
エヒクリベレイ「さらばだ異世界の者たちよ。機会があれば……また、あいたいものだね」
――……バシュッ……
清水「き、消えやがった!」
龍太郎「ま、待てこの野郎!!」
ノイント「……無駄ですよ。もう、この場にはいません。やつを……見失ってしまった……」
………………
…………
……
【ハイリヒ 王城 客間】
清水「っ……くそっ、どーするよコレっ……」
龍太郎「どうするったってなっ……あの野郎、いろいろ不可解なモン残していきやがった……」
雫「……アイツが残した帰還の穴って……どうなの?」
ハジメ「……穴その物はずっと空きっぱなしになっている。ここに飛び込めば、たぶん……本当に元の世界に帰れる」
ハジメ「しかも、迷宮で手に入れた羅針盤も……反応している。この先に、マジで俺たちが帰るべき場所へと……繋がっているんだ」
光輝「か、帰れるのか……本当に」
ハジメ「そうじゃなかったら、迷宮やそこで得た神代魔法込みで罠と考えなきゃいけなくなる。あいつのことは信頼できないが……本当に帰れる、と思っていいかもしれねぇ」
雫「ほ、本当に帰れるんだ……! ほん、っとうにっ……!!」
清水「あ、いやっ……でも、さっ……帰れるったって……」
鈴「……うん。みんな……その……特に、女子は……」
ハジメ「……その点については、こっちでフォローする。俺たちには変成魔法があるからな」
雫「変成魔法……みんなの肉体を操作するの?」
ハジメ「あの魔法は肉体を変化させる魔法。この力を使って、クラスメイトの穢れた体を少しだけ元に戻す」
ハジメ「そして……そうしたら……元の地球に戻れたら、転移されてからの記憶を消す。そうでもしなきゃ……いくらなんでも……」
光輝「……頼む、そうしてくれ。記憶を消してあげなければあまりにも不憫だ……」
ハジメ「全員の体のケア、メンタル面を考慮した記憶消去。とりあえず、これがやることとして並べておこうと思う」
ハジメ「……それと、トータスの……」
光輝「なぁ、香織。今、リリィは……」
香織「……大丈夫。慌てることなく、対処してくれると思う」
香織「……ハイリヒの方は、ハジメ君がバイアスにあげた自立可動ゴーレムの力を借りて、なんとか復興していくみたい」
香織「元々、ヘルシャー自体が滅亡しちゃったからね……もう、国がどうとか言ってられないみたい。これからはハイリヒで暮らして、亜人族たちと敵対しながら、どうにかやっていくって……」
清水「あ~……生き残り連中とか今どうなってんのマジで……?」
雫「かなりの人たちが殺されたみたい。ハイリヒの貴族、王族は男の人たちが大半殺されている。女の人は……」
鈴「……うぅっ」
雫「……言わない方がいい、わよね。ごめんなさい。とにかく、今のハイリヒはかなりの数の人たちが殺されてしまって……そもそも、貴族だとか平民だとか……もう、そんなこと言ってられる状況じゃないみたい」
雫「というより、これじゃもう……ハイリヒ自体も……」
龍太郎「っ~~~ってことはよぉ……これって、俺たちが元の世界に帰ったら……ハイリヒは……」
香織「りゅ、龍太郎くん……」
龍太郎「いや、だってそうだろ? ここで俺たちが帰ったら……」
龍太郎「ぜってぇユエのやつら……ここを狙うぜ……」
ハジメ「っ……」
光輝「それはっ……そう、だけど……」
雫「……確かに、あなたの言う通り。このまま放っておいたら、この国は……いいえ、トータス中のありとあらゆる人たちが殺される……」
清水「なんせ、アイツらが持っている力や、スキルも……元をただせば――」
光輝「ば、馬鹿!!」
清水「……え、あっ……!!」
ハジメ「……………………」
清水「ご、ごめ……南雲、俺っ……!!」
ハジメ「……いや、いいんだ。何かを言い返せる立場じゃない」
ハジメ「それで、どうする。結局、俺たちは元の世界に帰るべきなのか、はたまた……残るべきなのか」
光輝「……」
龍太郎「……」
雫「……」
香織「……」
檜山「……」
清水「……」
鈴「……」
――バァンっ!!
恵里「はいはい、ちょっとお話し中に失礼するよーっと」
ハジメ「中村……」
鈴「エリリン……? どうしたの?」
恵里「んー……ちょっとね、南雲。今時間空いてる?」
――……スタスタスタ……
――コトッ……
ハジメ「……? なんだ、これ……」
恵里「迷宮で手に入れた羅針盤をさ、こっちのほうで参考にしてみて作ったコピー品」
恵里「ほら、私の降霊術って魂を感じ取ることが出来るでしょ? それで、作ってみたのがこれなの」
恵里「でさぁ……それでちょっと調べてみたんだよ。この世界の魂のありよう、その流れをね」
鈴「魂の流れ……?」
恵里「……聞いて驚くなよ」
恵里「この『流れ』、どういったわけか私たちの世界と繋がっている」
ハジメ「っ!? ど、どう言う事だオイ!!」
恵里「……この世界の魂がアッチの方に流れ込み、逆に私たちの世界の魂がトータスにも流れてしまっているんだ」
恵里「言ってたんだろ、あのエヒクリベレイってやつ。異世界という概念は、同じ異世界という場所から来なきゃ出てこない発想だって」
恵里「おそらくだけど、この世界の人間たちに『異世界という概念』が生まれた。その結果、異世界のことを意識し始め……そうして思念による繋がりが生まれ始めた。これをもしも放置してしまえば……」
光輝「まてっ……それって……」
龍太郎「トータスで起きている影響が、俺たちの地球にも起こるかも……ってことか!?」
恵里「可能性は高い。だけど、不可解だ……」
鈴「不可解って何が……?」
恵里「言ってたんだろ、エヒクリベレイ。エヒトは異世界から来た。だから、異世界という概念があって当然だった」
恵里「だけど、トータスの人間にそんな概念があるか? この世界の文明と娯楽のレベルで……他所の世界っていう概念、あるのか?」
光輝「でも、聖教教会は……そういった概念があるからこそ――」
檜山「……ちょっと待て。なぁ、そういった概念が広まれば……つまり、異世界っていう考えを持ってるやつらが増えるとそうなるんだよな」
恵里「そういうことになるね」
檜山「……なぁ、異世界って……他所の世界の事を意識してるって……それって……」
ハジメ「――………………」
ハジメ「……ユエ……?」
光輝「っ! まさかっ……! ユエたちがっ!?」
恵里「……あぁ、そう言う事か。ユエたちは……異世界での、つまり地球でのことを南雲から聞いている」
恵里「お前、言ってたよな。故郷でのことをユエ達に話していたって。ユエやシア、さらにはティオ……だから、地球のことは、知っているって」
光輝「南雲がユエたちに地球の事を話したから……それで、地球を意識したからそんな繋がりが……?」
恵里「豊富な物資、恵まれた環境、さらには広大で平和な土地……こんなの、あいつらからしたら……」
清水「そ、それって……やばくねぇか。さっきのハイリヒの城の……兵士連中みたいに……」
清水「ち、地球の人間連れてかれて……さっきみたいなことを……!!」
ハジメ「っ……!! っ……っ!!」
香織「ど、どうしようっ……! このままじゃ、地球も巻き込まれるっ……!!」
光輝「このことをリリィたちに報告しよう。それと、クラスメイトのみん――」
――ピキィィィン……
ハジメ「っ゛……!? ぐ、ぅぅっ……!」
光輝「南雲!? オイ、どうした!?」
香織「南雲くん! どうしたの、南雲くん!」
香織「なぐ――」
………………
…………
……
【――ハジメの夢の中】
ハジメ「……ここって」
――……
ハジメ「っ! お、お前……!!」
――……いるのか、ハジメ
ハジメ「あ? 俺はここにいるに決まって……」
――……そうか
――すまない、すこし……見えないんだ
――……しばらく、そこにいてくれ
ハジメ「……見えないって……何があったんだ?」
――……ハジメ
――今さっき、お前たちの状況を把握した
――切羽詰まってることも
――いろいろと……大変な目に合ってることも
――だから、こそ……いま、お前に伝えなければならない
――明日の昼、お前を迎えに行く
ハジメ「……? 迎え……?」
――……そこで、お前に会いに行く
――私のいる所に、お前を案内しよう
――そして
――話そう
――本当の私のことも
………………
…………
……