生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第42話

 

 

『本編』

 

 

【………………】

 

【エヒトがハジメとミレディを神の間に招き……】

 

【トータスとエヒトの真実が語られ、エヒクリベレイからの忠告を受け……】

 

【ハジメたちは、ハイリヒに戻り……】

 

【……一か月後】

 

【魔国ガーランド】

 

――コツ……コツ……コツ……

 

――……スタッ……

 

アレーティア「よくぞ戻りましたね。シア、ティオ」

 

シア「はい、我が魔王」

 

ティオ「……」

 

アレーティア「あなた達の活躍は兵士たちから伝え聞いています」

 

アレーティア「トータス各地にある多くの人間たちの国々を、群れを、その土地を。我らが力を持って勝ち取ってきたという報告を」

 

アレーティア「トータス侵略の進行度を、聞かせてくれますね?」

 

シア「……現在、我が同胞の結束により、忌まわしき人間どもは成すすべもなく、次々と自分たちの住まう地を我々に明け渡しています」

 

ティオ「魔国ガーランド、アンカジ公国、海上の町エリセン、ヘルシャー帝国、湖畔の町ウルと北野山脈地帯にある竜人の里」

 

シア「そして、亜人の故郷であるフェアベルゲンも、現在は我々の支配下にあります」

 

シア「残すところはハイリヒ王国を含め、周辺にある商業都市フューレンとホルアドを残すのみ……なのですが」

 

アレーティア「……苦戦を強いられている、ということですね」

 

シア「はい、例の『魔王』によって」

 

ティオ「……魔王ハジメは人類側に立ち、これまでに手に入れてきた神代魔法を活用したアーティファクトでゴーレムを次々に製造」

 

ティオ「自分以外の人類の力を底上げし、我らが力を持っても歯が立たない……それどころか、奪われてきた土地を奪い返そうと攻勢に出始めております」

 

ティオ「魔王ハジメによる入れ知恵と神代のアーティファクトの提供。それだけで、我々の数と力をもってしてもハイリヒ侵攻は失敗になっておりまする」

 

アレーティア「……さすがは、といったところか」

 

シア「現在、神代魔法による同胞の力の底上げとアーティファクトの強化を急がせ、対ハイリヒのために着々と準備を進めています」

 

アレーティア「ふむ。それで、その侵攻はいつごろに?」

 

シア「……明日にでも」

 

アレーティア「わかりました。我が部下と同胞たちに、休息与えます。あなた達、よくやりましたね」

 

シア「……ありがたきお言葉」

 

ティオ「では、我々はこれで」

 

――コツ……コツ……コツ……

 

アレーティア「……」

 

アレーティア「今日で……何人死んだかな……」

 

――……スゥゥゥゥ……

 

魔神「――よぉ、この世界の魔王。後悔でもしてるか?」

 

アレーティア「用もないのに話しかけてこないでいただきたい。私はこう見えて忙しいんですよ」

 

魔神「ククっ、つれねぇな。可哀そうだから話しかけてあげたのによ」

 

アレーティア「……かわいそう?」

 

魔神「あぁ、かわいそうさ。まったくもって、な」

 

魔神「お前は……お前たちは、本当に可哀そうだよ。魔王だの吸血姫だの、化物だの竜の姫だの……どこまでいっても『ステータス』にこだわり続ける。積み上げてきた実績やお前たちに与えられた飾り物の名前。それを与えられているがゆえに、どこまでもお前らはソレに引っ張られていく」

 

アレーティア「……何がいいたい」

 

魔神「自分は竜の姫だ。だから、竜の姫であることを貫こうとした」

 

魔神「自分は化物だ。だから、化け物であることを貫こうとした」

 

魔神「自分はアレーティアでディンリードの身内だ。だから、お前は貫こうとしている」

 

 

魔神「なぁ、アンタはここまで来て自分で考えたことがあるか――」

 

――ドゴォっ゛!!

 

アレーティア「……ふん。あの距離からの火球を避けるか」

 

魔神「はぁ、怖い怖い……あぁ、わかったよ。退散する。でもな」

 

 

魔神「お前の『ナカ』に残る物は、ずっと残り続けていくぞ。ずっとな」

 

――……シュウゥゥゥゥゥ……

 

アレーティア「……そうね。もう、私たちは戻れない」

 

アレーティア「私は、もうユエじゃない」

 

アレーティア「ハウリアの長は、もう残念兎じゃない」

 

アレーティア「竜人族の姫は、もう変態ドラゴンなんかじゃない」

 

アレーティア「……もう、みんな……もどれない」

 

………………

 

…………

 

……

 

【――ハイリヒ王国】

 

【――王国の外にある森の中で】

 

――ザッザッザッザ……

 

兵士「……あの、この奥です」

 

ハジメ「案内ご苦労だった。わりぃな、忙しい時に」

 

兵士「い、いえいえ! 南雲さまにはいつも助けていただいているので……むしろこのような形でご足労かけているこちらのほうが……」

 

ミレディ「ストップだよ。話し合いはあとでね」

 

ミレディ「それよりも……いるんだよね。本当に、この先に」

 

兵士「あ、はい。仲間からの報告によれば……南雲さんやミレディさんから聞いた『例の魔物』が出現したそうです」

 

兵士「最初に発見したのが、私と同じ城の兵士でした。一目見た時は森の中をさ迷い歩いてて……亜人族の支配から脱走してきた人間だと思ってたんです」

 

兵士「それで、近づいたところ……奴は攻撃を仕掛けてきました。錬成による、土くれを発射する魔法によって」

 

ミレディ「……『錬成』…………そうか……」

 

ミレディ「……今回は、『彼』か……」

 

ハジメ「……」

 

兵士「あ、見えてきました! あれです、あれが仲間を襲った魔物です!!」

 

ハジメ「……っ」チャキッ

 

 

「っ……な、なんだ貴様らっ……!! お、お、おっ……俺に何の用だぁ!!」

 

 

ミレディ「………………」

 

兵士「こ、こいつです! こいつがっ……我々を襲った魔物です!」

 

ハジメ「……」

 

「お、おまっ、おまっ、おまえぇぇぇっ! ま、ま、また俺を追ってきたのか!? 俺を追ってきたのかぁぁぁ!?」

 

「お、お、俺を! 俺を、誰だと心得る!! お前らごとき木っ端なんぞ足元にも及ばぬ!! 神にすら届きうる天才錬成士だぞぉぉぉぉ!!」

 

ハジメ「……」

 

「な、何をすました顔をしてるんだぁぁぁぁぁぁ!! は、は、はやくっ! そ、そこからどけよぉぉぉぉ!!」

 

「俺が、俺が何者なのか!! 知っていてその態度なのかぁぁぁぁ!!」

 

ミレディ「……知ってるよ。ほんとうに、知っているとも」

 

ミレディ「――オーくん」

 

 

オスカー「っっ……!!! だ、だったらはやくそこを退けよぉぉぉ!!」

 

 

ミレディ「……ごめんね、オーくん。そういうわけにはいかないんだ。ボクたちは、ここでキミを殺さなきゃいけない」

 

ミレディ「痛みは一瞬だ。すぐに、終わらせるから……」

 

ハジメ「……ミレディ」

 

ミレディ「ごめん、みんな。ここはボクに任せてくれないかな」

 

ミレディ「……今の顔と、彼の今の姿を他の誰にも見られたくない」

 

………………

 

兵士「そ、それにしても不思議だ……本当にただの人間にしか見えない……」

 

兵士「本当に……あれが『魔物』なのですか……?」

 

ハジメ「……正確に言えば、この世界の人間たちによる『信仰』によって形作られた魔物だ」

 

ハジメ「オイ、あんた。このハイリヒに戻ってきたのは何日前だ?」

 

兵士「み、三日前ほどです……私は、エリヒド王の命により亜人たちの様子を探れと、遠方の地の調査を任されていました」

 

兵士「そのため、私を含め何名かの兵士たちはハイリヒで何が起きているのか知らないままで……その、遠征から帰ってきてから、このハイリヒで問題が山積みというか……山のような問題が起きたと聞かされました」

 

兵士「それで、その……我々はいまだ状況を把握しきれておりません。あの人型のような魔物は何なのですか……?」

 

ハジメ「……わかった。知らん奴らもいるだろうから、俺がいろいろと説明しておこう」

 

ハジメ「まず、お前たちが目にしたアレはな、先ほども説明したが人間の『信仰』によって形作られた……ありていに言えば、多くの人間のイメージ力によって形作られた『魔物』たちだ」

 

兵士「多くの人間たちのイメージ……?」

 

ハジメ「今、このトータスにおいては人間、亜人、魔人族……それぞれの種を超えて、自分たちが持ちうる『信仰』という強い思念によって、本来存在しない架空のモノが形を得る世界となってしまっている」

 

ハジメ「そうやって人の信仰……イメージが形となる世界において、まっさきに姿かたちを得たのが……この世界においてエヒトの次に知られている『7人の反逆者』だ」

 

兵士「人々の集合的なイメージが、反逆者たちの姿を持って召喚されている……ということですか?」

 

兵士「いや、しかしなんでまた……」

 

ハジメ「……この世界の人間は、エヒトを崇めていた。エヒトを崇めることで、信仰によって神格を……神という存在へと昇華させた」

 

ハジメ「そして、エヒト自身も人間たちに恩恵を与えることで、神という存在のありがたみを感じ……強く深く信仰するようになっていった」

 

ハジメ「神が人に与え、人が神に求め続け、そして人は神に奉仕する。この循環する形があればこそ、今まで信仰が向かう先はエヒトだけで済んでいたんだ」

 

兵士「……なる、ほど……それがこの世界の仕組み……」

 

ハジメ(……もっとも、それはエヒト自身が仕組んだゲームによるもの……なんだけどな)

 

ハジメ「……だけど、今は違う。人々は、本来注ぐための信仰の行き先を失ってしまった。たった一つの、信仰を注ぐための器その物を」

 

ハジメ「注がれる信仰は行き場を失い、自由になった人は、亜人は、魔人たちは、自分たちが信じたいものを信じるために、あらゆるものを形にしてきた」

 

 

ハジメ「……神の敵対者としてイメージされてきた『反逆者』たちが、敵として召喚されるようになったのはそのためだ」

 

 

兵士「そ、そうか……歴史でも、オスカー・オルクスを始めとして反逆者たちは神の敵対者として描かれてきました」

 

兵士「それがいままので歴史だったから……人々は、反逆者たちを都合の良い悪魔として利用し始めた……ということなのですね」

 

ハジメ「そういうことになる。絶対的な神の地位を不動のものにするためには、それとは敵対する『アンチ』が必要になる」

 

ハジメ「そんな都合の良いモチーフが、トータスにはあった。反逆者たちは、そのために利用されているわけだ」

 

兵士「そうか……だから、近頃はああやって反逆者を名乗る魔物たちが蠢いているのか……」

 

兵士「……て、いう事は神代の魔法を使いし者たちがこの現代に!? それも無数に!?」

 

ハジメ「ああ、そうだ。だからこうして現地に赴いて俺たちが対処してるんだ」

 

ハジメ「恐らくだが、今は発生してもたかだか数人だろうが……人間の認識や信仰が深まれば深まるほど……現状が広く知られれば余計に反逆者たちが魔物として召喚され続けるかもしれない」

 

ハジメ「……いや、もはや発生だな。こんなの、ただの現象としか言いようがない」

 

兵士「そ、そんな……それでは今後とも皆さんが……」

 

ハジメ「いや、さすがに俺たちにも俺たちでやることがある。今後、反逆者たちを含めてハイリヒ周りの亜人族のこともあんたたちに任せるつもりだ」

 

兵士「わ、我々がですか!? あのような化物の集団に……!?」

 

ハジメ「そこは安心しろ。こっちのほうでお前たちのように一般人でも使えるアーティファクトを製造中……いや、錬成中だ」

 

ハジメ「勇者が使える限界突破を付与できるアーティファクトに剣よりも強い各種兵器……近いうちにあんたたちにも使えるように指南してやるつもりだ」

 

兵士「……な、なるほど。わかりました」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(……同情するよ、オスカー。あんたたちはコトここに至ってもなお、その名を辱められるなんてよ……)

 

ハジメ(ただ、俺たちも被害者なんでな。この世界の連中にやれることはやってやるが……)

 

………………

 

…………

 

……

 

【ハイリヒ、王城、広間】

 

光輝「以上! これにて練習終わり!!」

 

――ご指導、ありがとうございました!!!

 

光輝「俺たちが持てる剣の力をみんなに教えられたはずだ! ぜひとも友好的に活用してほしい!!」

 

光輝「さて……それじゃあ俺はこれで失礼する!」

 

………………

 

光輝「……ふぅ」

 

――カランッ……

 

龍太郎「よっ、お疲れさん。ほれ、スポーツドリンク……っぽいものだ」

 

光輝「お、南雲が作ってくれたやつか。ありがとな」

 

龍太郎「……で、どうよ。兵士の練度ってやつは」

 

光輝「うん。みんな、すごい上達が早いよ。俺が身に着けた八重樫流の剣術や技術を次々物にしているんだ」

 

光輝「この調子なら……このまま、この世界を任せられそうだよ」

 

龍太郎「ははっ、お前がそういうってんなら本当に大丈夫そうなんだな」

 

龍太郎「……そっかぁ。俺たちがいなくても、かぁ……」

 

光輝「……あぁ、いなくなっても……な……」

 

龍太郎「……」

 

――コツコツコツ……

 

ランデル「お、光輝! ここにいたか!」

 

光輝「あ、ランデル。今日の執務作業はいいのか?」

 

ランデル「なに。ちょっとした休息だ。ハイリヒの王とはいえ……ちゃんと気を抜けるところでは抜いておかんとな」

 

光輝「そりゃいい。じゃ、これから食事でもどうかな。食堂のほうに行こうと思ってるんだけど」

 

ランデル「うむ、それはいい。二人についていこうではないか」

 

ランデル「……して、だ。お主たちに聞きたいことがいくつかある」

 

光輝「聞きたい事、ですか……」

 

龍太郎「……んー……」

 

龍太郎「あ、すまん王子様! コイツさ、これから用事があるんだわ!」

 

ランデル「え?」

 

光輝「りゅ、龍太郎……?」

 

龍太郎「ほれ、用事あるって言ってたろ? 王子様とは俺が話をしておくからさ」

 

ランデル「……」

 

光輝「……ん、あぁ……うん……」

 

光輝「……分かった。それじゃあ、ランデル。また……」

 

――スタスタスタ……

 

龍太郎「……で、だ。悪いな、王子様。俺なんかと二人っきりになっちまってよ」

 

ランデル「構わぬ。お主たちは旧知の中。先ほどの目配せで何かを伝え合っていたのは察せられる」

 

ランデル「あの者に聞かせたくない話か……もしくは二人で済ませたい話でもあるのか……」

 

龍太郎「どっちかっつーと前者だな。なぁ、王子様よ。あんた、ド直球でこれを言おうとしてたろ?」

 

 

龍太郎「この世界に戻るのかどうかをな」

 

 

ランデル「……見透かされていた、か」

 

龍太郎「……まあな。あんたたちからしたら、今トータス中で起きている事ってのは取り組まなきゃ行けねぇ課題だ」

 

龍太郎「これから先……ユエ達と激しい戦いを続けていくことになる。それは、トータスで生きる連中の問題だ」

 

龍太郎「でもな、俺たちは違うんだぜ。俺たちは元々、つれてこられただけの部外者だ。トータスの問題は、トータスで片づけなきゃいけねぇ」

 

龍太郎「ソンナ中で……とうとう俺たちは元の世界に帰る手段を見つけた。本当だったら、俺たちはこれで帰る予定だ」

 

龍太郎「そう、俺たちは……このままトータスを去れる。いつだってな」

 

ランデル「……お主たちの境遇も、今の状況も、すべて把握したその上で……」

 

ランデル「我は傲慢にも、こう聞こうとした……聞こうとしていた」

 

ランデル「この世界に、残ってくれるかどうかをな」

 

龍太郎「あぁ、そうだな。でもよ、王子様。それを聞くってのは……」

 

ランデル「……ははっ、分かっておるよ。自分でも恥知らずなことだと言うのは、十分にわかっている」

 

ランデル「まだ、心のどこかで善意で残ってくれるかもしれないと思っていた。その善意でもって、我々の事を選んでくれるとな」

 

ランデル「……すまなかったな。そのような選ばせるという決断、言わせたくなかったのだろう」

 

龍太郎「……へへっ、こっちこそ悪かったな」

 

……………………

 

光輝「……まったく、二人とも変に気を使わせちゃって」

 

イシュタル「まったくですな」コソッ

 

光輝「ッッッ……い、いきなりの登場は心臓に悪いからやめてほしかったな……」

 

イシュタル「こりゃどうも。いやはや、こうして二人きりになるのは初めてですな勇者殿」

 

光輝「……光輝でいいよ。そういうわざとらしいのはもう聞くつもりはないからさ」

 

イシュタル「……ふむ、そうですか。では光輝殿。ここらでちょっと――」

 

 

イシュタル「本音、交えながら話していきませんかな?」

 

 

光輝「……本音、ですか」

 

イシュタル「はい。本音です」

 

イシュタル「……はっきり言わせてもらいます。この世界はもう駄目でしょう」

 

イシュタル「人間族、亜人族、魔人族。それぞれがこの世界に住み続け、各々の地に身を置きながら暮らしてきた。そんな世界を支配してきたエヒトは、今や支配できないほどに弱り果ててしまい、実質この世界は自由となってしまった」

 

イシュタル「……そうなれば、この世界がたどる道は二つ。我ら人間族が勝つか、魔王アレーティアが従えし亜人の軍勢が勝ち……どちらかが支配するまで終わらない」

 

イシュタル「それゆえに、私はこの世界はもう駄目だろうと思っています」

 

光輝「なぜです? あなた達が諦めなければ、世界は再生するか――」

 

イシュタル「しませんよ、絶対に」

 

イシュタル「なぜなら、この世界は元々はエヒトの箱庭なのだから」

 

イシュタル「すべての生き物も、この世界のあらゆる土地も、文化も、思想も信念も。本当だったらあなた達の世界のように、自然の成り行きと流れるがままに袖すり合う他生の縁を繰り返してきた世界とは違い……すべてが、仕組まれてきたものなのだから」

 

イシュタル「……たかが文化だとか国の繋がりを裏から牛耳るなどと生易しい物ではない。亜人族のルーツしかり、この世界の生態系その物が神の管理下によって調整されてきたのです」

 

イシュタル「それを……ある日突然、自由になったから好きにしろと言われたら、どうなりましたか?」

 

光輝「……今の状況がソレ……か」

 

イシュタル「その通り。もう、どうにも止まりませんよ」

 

イシュタル「誰のせいでもないし、誰のせいでもある。この現状をどうにかするには、向き合い続けるしかない」

 

イシュタル「そして、その使命を誰も果たしたがらない、やりたがらない。そんな責務を背負えるほど強い物なんて……今はもう、どこにもいない」

 

イシュタル「何よりも――」

 

光輝「……あぁ、そうだな。『俺も』そう思っているからだ」

 

光輝「……俺も、ただ偶然の成り行きで……神の器になりうる者として選ばれただけの存在だ」

 

光輝「だから、もう背負えない……背負いたくない。これではっきりとわかった……わからされたよ」

 

 

光輝「俺は、『勇者』なんかじゃなかった」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

【――フェルニル、艦内】

 

――こぽこぽこぽっ……

 

――カチャッ……

 

雫「どうぞ。私たちの世界のお茶よ」

 

香織「それと……はい、これ。南雲くんにつくってもらったあっちでのお茶菓子」

 

リリアーナ「ふふっ、ありがとう……ん、おいしい」

 

バイアス「あ~……あれから一か月か。なんか……あっという間だな」

 

バイアス「このちょっとした間に王城でのハイリヒ内の生き残りのリスト制作と今後の方針。対亜人たちの防衛の繰り返し……」

 

バイアス「お前たち神の使徒ならびに神代魔法習得者がいてくれてるからどうにかなってるけどよ……」

 

雫「そうね。私たちがいなかったら、今頃ハイリヒはとっくに滅亡。神の使徒としての力を持つ私たちは、この国を護るかなめとも言える存在なのよね」

 

香織「うん……そうだね。きっと、私たちがいなくなったらこの世界の人たちは……」

 

香織「……きっと……」

 

バイアス「……」

 

リリアーナ「……」

 

バイアス「ん、んんっ……先に言っておく」

 

バイアス「ヘルシャー帝国は滅亡し、もう俺はもうガハルド並びにヘルシャーの血縁者ではない。今後は、ハイリヒの姫に婿入りした形で、あのガキ――」

 

リリアーナ「……」ゴホンッ

 

バイアス「……ランデル陛下の家臣としてサポートしていく予定だ」

 

雫「……! あなたが……?」

 

バイアス「お前も知っての通り、例の……兵をまとめあげていた団長が亡くなっちまっただろ」

 

香織「あ、そっか……メルドさんがいなくなったから、その引継ぎをバイアスが……」

 

バイアス「今、この城の兵士たちを纏めるやつがごっそりいなくなっちまってる。兵士たちを統率し、他国から攻めてくる亜人族を迎え撃つにはこうするしかねぇんだ」

 

バイアス「今は……お前たちが残してくれているアーティファクトや南雲ハジメによるゴーレムたちがいるからどうにかなっているが……今後、その力を扱いこなすのは俺たちしだいだ」

 

バイアス「兵の訓練と統率を引き上げ、与えられたアーティファクトに振り回されないように俺たち自身も力をつけていく必要がある」

 

バイアス「それが……この世界で生きていく俺なりの答えの出し方だ」

 

香織「……バイアス」

 

雫(ヘルシャーが滅亡し、南雲君たちに同行するようになって……この動乱の中、彼もまた自分の生き方を見つけたのかもしれない)

 

雫(その志がある限り、きっと……自分の心を見失ってまで縋るようなことは……おこらない、かもね)

 

――ガチャッ……

 

檜山「おーい、ちょっと失礼するぜー」

 

リリアーナ「あ、檜山さん」

 

バイアス「ん? なんでお前がここに?」

 

檜山「いやな、こっちも人仕事終わったからこっち来たんだわ」

 

檜山「……お、おやついただき」ヒョイッ

 

雫「あーもう、意地汚いわよあなた」

 

檜山「へへっ、いいだろうがよ……あ、んで、話ってのはよ……」ゴクンッ

 

 

檜山「……例の城での暴動を受けていた先生やクラスメイト達の記憶と肉体の処理が終わった」

 

 

香織「……そっか」

 

雫「……南雲君……」

 

リリアーナ「……なんと、いったらいいのか……」

 

檜山「あー、やめろやめろ。たぶん、南雲のやつもそんな言葉望んじゃいねーよ」

 

檜山「……どっちにしろよ、どうにもならねぇし、どーしようもなかったんだろな。俺たちも、そっちも」

 

檜山「誰かに何かを求められて、それに応えようとして『何か』になっていくし……そういう風に、させられていくんだろうなって思う」

 

檜山「だけどよ、どれもこれも違うんだよな」

 

檜山「俺たちは救世主としてこの世界に連れてこられたけど、望んだわけでもないし、なる気もなかった」

 

檜山「そっちだって、世界をどうにかしたいからと思ってはいても、誰かを『拉致』して『駒』にしようって気は……まぁ、なかったんじゃねぇかなって思う。今となっては、な」

 

リリアーナ「……」

 

バイアス「……」

 

檜山「誰かに『何か』を見出して、自分が『何か』に成れた気がしていた。そして、他人を自分たちの事をどうにかしてくれる『何か』として動いてくれると信じていた」

 

檜山「なんとも、な……バカげた一方通行だわ。それで行き着く先が、ぐっちゃぐちゃの今なんだからな」

 

檜山「……俺たち、何がしたかったんだろうな」

 

雫「……」

 

香織「……」

 

リリアーナ「……」

 

バイアス「……」

 

檜山「……ちょっと外出るわ。空気吸ってくる」

 

――カタッ……

 

香織「私もちょっといいかな、檜山君」

 

雫「……? 香織……?」

 

………………

 

香織「今の檜山君、ちょっと大人びていたね」

 

檜山「ははっ、学園の二大女神にそう言われるとうれしいもんだわ」

 

檜山「……あー、良い風だわ。なんか、こうやってボーっとしてるのっ……久々な気がする」

 

香織「……」

 

香織「檜山君ってさ、私の事好きなんだよね」

 

檜山「……まぁ、たぶんな」

 

香織「それって、私が学園の女神だから?」

 

檜山「うん」

 

香織「あ、否定しないんだ」

 

檜山「できねぇよ。だって、そうだったから」

 

檜山「……ブランド物とかさ、すっげぇ豪華なものがあったらさ、欲しがるじゃん? そう言うの」

 

檜山「それと同じだったんだよ。お前はさ、俺にとってすっげぇ豪華なアクセサリーとか……ブランド物とかそういう認識だったんだよ」

 

檜山「傍に置いておきたい、コレクションしておきたい。恋ってよりは……収集欲。ほかの連中に自慢したいとか、そういう認識だったんだ」

 

檜山「……俺の気持ちは、恋じゃなかった」

 

香織「……」

 

香織「私ね、この女神ってレッテルに……ずーっと苦しめられてきたんだ」

 

檜山「……あぁー、確かにな。変なやつに付きまとわれていたし」

 

香織「ふふっ、自虐はやめなよ……生まれた時からこの顔だったし、生まれた時からみんなから可愛いって言われてた」

 

香織「かわいい顔ってステイタスは、私にとってすっごいうれしかったんだけど……それでね、異性のトラブルが増えだしたりして……それが、嫌だったんだ」

 

香織「勝手に周囲から女神みたいに扱われて、付き合える友達なんかも限られて……それこそ、雫ちゃんや光輝くんのような幼馴染にしか心を許せなかった」

 

香織「嫉妬だとか、勝手に私を持ち上げたりとか……ほんとうに、嫌だった」

 

 

香織「私は、周囲から押し付けられていた『女神』が……すごい嫌だったんだ」

 

 

檜山「……」

 

香織「……ん、ん゛ー……あー、本音を言ったらすっきりしたかも」

 

香織「じゃあね、檜山君。私、そろそろ部屋に戻るから」

 

檜山「……ん、おう」

 

香織「あ、そうだ」

 

香織「あとでセックスしておきたいから夜中に来てよ」

 

檜山「おう」

 

香織「うん、じゃあね」

 

――スタスタスタ……

 

檜山「さーてと……俺もやること山積みだなぁ……」

 

檜山「ええと、クラスメイトの体調の管理に各兵士たちにアーティファクトの使用方法の説明と……」ブツブツ……

 

檜山「……」

 

檜山「……」

 

檜山「えっ」

 

………………

 

…………

 

……

 

【ハイリヒ 食堂】

 

ノイント「――さて、食事は終わりましたね?」

 

清水「ん、まぁ……」

 

恵里「あのさ、食事が終わったからってはい話し合いをしましょうってすぐにやれるわけねぇ~~~んだよ。食後ってもんを考えろよ食後ってもんをよ」

 

鈴「あ、あはは……」

 

ノイント「まぁ、その話は横に置いといて」

 

恵里「置くな置くな置くな」

 

ノイント「まず、今後のトータスのことについてです」

 

ノイント「イレギュラー……あぁ、南雲ハジメからの説明ですが、我が主は今後ともこのトータスを管理、維持するために『しばらくは』神として君臨し続けるのだそうです」

 

清水「それって……いろいろと、トータスで起きているから?」

 

ノイント「いえ、トータス各地で起きていることに関してはトータスで生きる者たちがやるべきこと」

 

鈴「え、でもそれって……神様は改心したんじゃないの?」

 

ノイント「国々、種族、国家間での争いであるのならば、この世界で生きる者たちがやるべきことであり、神が干渉することではない、のだそうです」

 

ノイント「これに関しては、我が主がこの世界が神の支配によるものではなく、この世界で生きていく物たちが神の手を借りずとも生きられるようにするための……神なりの配慮、ということなのです」

 

恵里「……ちょっと待て。それだったらエヒトがやる事っていったいなんだよ」

 

恵里「この世界で起きたことは、この世界の者たちが解決するべき。うん、それはその通りだ」

 

恵里「じゃあ、生き永らえてまでやることって、なんだよ?」

 

ノイント「……」

 

 

ノイント「亜人たちが、ほかの異世界に侵略をしないようにするため……です」

 

 

恵里「――っ!?」

 

清水「し、侵略!?」

 

鈴「ど、どういうこと!?」

 

ノイント「……今、亜人たちは自分たちの力をより高めるために……神代魔法を習得させるために次々と迷宮を攻略させているはずです」

 

ノイント「なにせ、すでに迷宮攻略者であるアレーティアたちが敵の長なのですから。攻略方法を知っているのならば、細々とした連中、一人一人が神代魔法を習得していくはず」

 

恵里「それって、下手をすりゃフリードたちの時とは比べ物にならないくらいに……!」

 

清水「神代魔法を習得するどころか……あ、そうか! 概念魔法にたどり着くやつも!!」

 

ノイント「……その通りです。この世界の中だけならば、まだいい。ですが、他所の世界に手を出すのであれば、それは逸脱した行為」

 

ノイント「ゆえに、我が主はそのことが起きないように……食い止めるために、まだしばらくは生き続ける、のだそうです」

 

清水「と、とんでもないことになったなぁ……」

 

恵里「……ねぇ、それって……」

 

鈴「っ!! そ、そうだよ! それって、鈴たちの世界にも来る可能性があるってことでしょ!?」

 

ノイント「そうなるでしょうね。そもそもからして、あなた達を呼び出そうと言う案が出たのも、元々は我が主……エヒトさま本人が異世界人だから出来た発想」

 

ノイント「それを、我が主と同等の力を得ようとしているのならば、魔王アレーティアたちも同じ発想に至ってもおかしくはない。なぜなら、ほかならぬ異世界人であるイレギュラー――南雲ハジメと同行していたのですから」

 

ノイント「……もしかしたら、今こうしている間にも彼らは力をつけ始めているかもしれない」

 

清水「……っ!」ゾッ……

 

恵里「……おいおい。それだったら、こっちはこのまま帰るわけにはいかなくなるんじゃ……」

 

ノイント「いえ、その必要はございません」

 

ノイント「……我が主は、この世界で起きた問題……亜人たちによる異世界侵略が起きないように対策を施すとのことです」

 

鈴「そ、そうなの……? それじゃあ、安心、なのかな……」

 

恵里「……具体的には?」

 

ノイント「……」

 

清水「お、おい……ノイント……?」

 

恵里「具体的な案、あるんだろ? 今ここで言ってくれよ」

 

恵里「じゃなきゃこっちは安心できない。エヒトにだって、限界はあるんだろ?」

 

ノイント「……我が主はこの世界で最も優れた魔法の使い手、神の境地へと至った存在――」

 

恵里「その神の境地に至れる存在が、あいつら亜人たちの連合軍にごろごろいるのにか?」

 

ノイント「……」

 

恵里「お前、さっきこう言ってたろ。概念魔法に至る者たちが何人か出るだろうって」

 

恵里「……もう一回聞くぞ。本当に、帰っていいのか?」

 

ノイント「…………」

 

清水「ちょっ、お、おいっ……ノイント……?」

 

鈴「だ、大丈夫なんだよね……? 鈴たちがいなくても、この世界や地球は……」

 

――ガタッ……

 

ノイント「……そうですね。あなた達は、このまま帰るのでしょう。ならば、この話はこれ以上関係ないはずです」

 

ノイント「ご安心を。あなた達の世界が侵略されるなんてこと、ありませんよ」

 

――コツコツコツ……

 

鈴「い、行っちゃった……」

 

恵里「……清水」

 

清水「……あぁ。たぶん、あり……えるんだろうな。俺たちの世界への侵略」

 

恵里「エヒトは弱体化、解放者であるミレディたちも近々処刑される。頼みの綱は、実質この世界には残っていない」

 

恵里「それなのに……このまま元の世界に戻れ、だと……? 糞っ、何も知らずに死ぬのを待てと言われてるのと同じじゃないか……」

 

清水「……ノイント……」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【――数日後】

 

【ハイリヒ 王城、王の間】

 

――コツコツコツ……スタッ

 

リリアーナ「……みなさん、揃いましたか?」

 

――スッ……

 

ハジメ「……あぁ、俺たちはここにいる」

 

ハジメ「そうだろう、みんな」

 

光輝「……この世界に召喚されたクラスメイト代表、天之河光輝」

 

龍太郎「その幼馴染、坂上龍太郎」

 

雫「……八重樫雫」

 

香織「……白崎香織」

 

鈴「……谷口鈴」

 

清水「し、清水利人」

 

恵里「……中村恵里」

 

檜山「檜山大介だ」

 

ハジメ「以上、この場にはせ参じた」

 

ハジメ「……今、残りのクラスメイト達は眠っているままだ。彼らに代わり、今はこの場で俺たちの総意を……姫であるあんたに聞かせる」

 

リリアーナ「……わかりました。では、その言葉を聞いたうえで、あなた達に問いかけましょう」

 

――スゥゥゥ……

 

リリアーナ「みなさん。今まで皆さんは、この世界を護るために呼び出されて……辛く厳しい戦いの中を、勝ち抜いてくれました」

 

リリアーナ「今、古き神であるエヒト……エヒトルジュエは私たちに協力し、彼の力を持って亜人たちの猛攻から防いでくれている」

 

リリアーナ「ですが、亜人の連合軍の勢いはすさまじく……このままいけば、彼らの力は我がハイリヒの王国に攻め入ってくるかもしれない」

 

リリアーナ「いや、それどころか……彼らの力は、下手をすればあなた達の世界に……その故郷に刃を向けるかもしれない」

 

リリアーナ「南雲ハジメさん。あなたが残してくれた強力なアーティファクトがあれば、きっと私たちは戦えるでしょう。ですが、戦えても勝つことは……きっと、難しいはず」

 

リリアーナ「そうなれば……このハイリヒが崩されたら……あなたたち地球の人たちは……」

 

ハジメ「……」

 

リリアーナ「……」

 

リリアーナ「南雲ハジメさん。あなたが選ぶのは、二つに一つ」

 

 

リリアーナ「私たちが亜人たちに勝つことを信じて、元の世界に戻るか」

 

リリアーナ「はたまた、ここに残って……亜人たちに立ち向かうか……」

 

 

リリアーナ「……答えを、ここに」

 

ハジメ「……」

 

イシュタル「……」

 

バイアス「……」

 

ランデル(……光輝……みんな……)

 

ノイント「……」

 

エーアスト「……」

 

ハジメ「……なぁ、みんな」

 

光輝「……」

 

――スタスタ……ポンッ……

 

光輝「……俺は、お前の選択を尊重する」

 

ハジメ「……天之河」

 

光輝「俺はもう、勇者であることを……続けられない」

 

光輝「誰かを護ることも……誰かのために戦うことも……できない……」

 

光輝「……だけど、いや、だからこそ……お前が選んでくれ」

 

光輝「俺には、自分で選ぶという事が出来ないほどに……自由なる意思を背負いきれない」

 

龍太郎「……ま、難しいことは考えんなよな。選ぶのはお前だけど、連帯責任ってやつもあるしよ」

 

雫「ふふっ、それもそうね。一蓮托生?っていうの?」

 

香織「……南雲君」

 

鈴「あ、あのっ、大丈夫だよ! きっと、みんなだって何も知らないままだし……嫌な事、全部忘れられてるしさ!」

 

清水「えー、と、まぁ……うん。気負わなくていい、んじゃねぇかな……」

 

恵里「ま、ちゃちゃっと決めなよ。どちらに転ぼうとも、いまさらぐちぐちいうつもりはないけどね。あ、コイツは知らんけどさ」

 

檜山「俺をオチにつかうなっつの」

 

ハジメ「……あぁ、わかった」

 

ハジメ「……姫さん、俺の……俺たちの答えは決まっている」

 

リリアーナ「……わかりました。聞かせてください」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「俺たちは――」

 

 

 

ハジメ「元の世界に帰る。俺たちはもう、戦わない」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

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