【――学校にて】
【昼休み】
――ガラララ……
「あ、南雲君! これからお昼ごはん?」
「よっ! この前、おもしれー漫画教えてくれてありがとな! 昼飯、いっしょに食わねぇ?」
ハジメ「……なんか、前よりもずっと話しかけられるようになったな」
エヒト『だろうな。お前が周囲と少しずつかかわるようになったから、だいぶみんなの態度が軟化してきている』
エヒト『そのためか、檜山たちを含めて一部のガラの悪い連中も絡み辛くなってきてるな』
ハジメ「……うん。いいこと、なんだよね」
――スタスタスタスタ……
清水「お、よう南雲」
ハジメ「あ、清水君。どうしたの?」
清水「んや、さ。これから昼飯だろ?」
清水「食堂まで付き合えよ。時間、空いてるだろ?」
ハジメ「なんかみんなして時間空いてる事をちょくちょく言ってくるね……」
清水「でもまぁ、空いてるのは事実じゃん?」
エヒト『実際、そう思われても仕方ないだろうな。割といつも寝てたし』
ハジメ「えぇ、そうですね……内申点、少し良くなったって先生から言われましたとも……」ボソッ……
清水「? なんか言った?」
ハジメ「……いや、なんでも。それより食堂行こうよ。混んじゃうよ、アソコ」
………………
恵里「よっ」
檜山「……あー、お前もくるんだ」
ハジメ「え、二人とも……?」
清水「あら? お前らも来てたの?」
檜山「そりゃ……ここ食堂だしな。俺たちだって来るよ」
恵里「だからま、示し合わせてお前を待ってたーとかじゃないからさ。安心しな」
ハジメ「う、うん……」
――ヒソヒソヒソ……
「なぁ、あそこの組み合わせ変じゃね?」
「あ、本当だ。檜山と中村さんと……ええと、誰だっけ。あの暗い感じの」
「ええと、清水だよ。ってか中村さんも雰囲気がちょっと違う……珍しい組み合わせだなぁ。仲良かったのかあの三人」
――ヒソヒソヒソ……
檜山「だーいぶ物珍しいみたいだな、俺たち」
恵里「だね。なんで見世物みたいにならなきゃいけないんだか」
清水「ま、なんにせよなんか食うか……ええと、注文注文っと」
………………
ハジメ「あ、あはは……まぁ、中村さんは前と違って性格がだいぶ変わった……っていうよりは、表に出し始めたって感じだもんね」
恵里「まぁね。もう、前みたいに取り繕う必要なんてないし……いまはさ、自然体のままでらくーにしていきたいんだよ」
清水「あれ、そーいや谷口は? お前ら仲良かったじゃん? 仲直りもしたし……」
恵里「……ここの所さ、ちょっとケンカ続きなんだよね。アイツと」
恵里「て言っても、好きなお菓子がどうとか、このテレビ番組面白いのにつまらないなんて言わないでとかさ」
恵里「趣味や嗜好って言うのかな。思ってたより合わない部分が結構あったんだよね。言いあうこともちょっぴり増えたし、そりが合わなくて距離を置いたりさ」
恵里「話してて思うよ。こいつには譲りたくない。こっちのほうに気を利かせろってさ」
ハジメ「……それで、相手が折れるのを待つの?」
恵里「……ん~~~~~……」
恵里「わかんない」
ハジメ「え?」
檜山「いや、わかんねぇのかよ」
恵里「……私はさ、別に鈴に対して言い負かしたいだとか、勝ちたいってつもりで話してるわけじゃないんだ」
恵里「いまさら、さ。私が言うのもなんだけど、今なら……友達だって、そこははっきり言えるよ。ちゃんと、言える」
恵里「だからさ、本音の部分を曝け出して話し合って、それでムカついて相手を言い負かしたいって気持ちもあるんだけど……」
恵里「でも、そうじゃないんだよね。勝つとか負けるとか、折れるとか言い負かすとかじゃなくて、話し合いって言うのは自分の思ったことを相手と擦り合わせていくような……そんな共同作業みたいなものなんだって」
ハジメ「……共同作業……?」
恵里「勝つってなったら、話術だとか相手の弱みを突けばそれでいいかもしれない。でもさ、私たちはあくまで感情的になりすぎないように距離を置きたいだけで、ケンカして言い負かしたいわけじゃないんだ」
恵里「だから、気持ちが落ち着いたら……また、顔を合わせに行くよ。そうやって、鈴との距離感を作っていくつもり」
清水「お、大人だなぁ……」
檜山「……勝つか負けるか、か」
檜山「俺も、ちょっとわからなくもねぇかもな。そんな気持ち」
檜山「……いや、ちょっと違うかな。俺の場合は」
清水「? どういうことだよ」
檜山「……俺さ、別に誰かと競ったりして勝ちたいだとか、負けたくないとか。そんなこと考えたこと、一度もないんだよな」
檜山「っつーか、勉強にもスポーツにも力入れたことねぇから。挫折とか未経験。努力したうえで、俺は勝ちを拾いに行くとか考えたことねぇモン」
檜山「だから、なんだろうな。俺、『相手に勝ちたい』だとか『相手に負けたくない』ってことは一度も考えたことないけど――」
檜山「『相手に勝たないでほしい』って気持ちは、あったと思う」
ハジメ「……勝ってほしくない?」
清水「……」
恵里「……」
檜山「だってよ、努力して苦労して、それで才能を持ってるやつにコテンパンにされたら腹立つだろ?」
檜山「そんな悔しい思いをして、辛い思いをして、苦しい努力なんかをするよりも手軽に勝った気持ちになれるのってさ」
檜山「自分が何もしないで、相手が勝手に負けてくれた方が……ずーーーーっと心穏やかじゃん?」
檜山「ま、なんつーかさ……根っから勝負事とか真剣になれるものがない……いや、作りたくねぇんだろうな」
檜山「だってよ、そうすりゃ自分のちっぽけさと向き合わずに済むじゃねぇか」
ハジメ「…………」
清水「……まぁ、うん」
恵里「向き合わなければ、か……」
恵里(私も……ずっと向き合わないままでいれば、『僕』のままであり続けたのかな……)
恵里(……いや、考えても仕方のないことか)
檜山「……で、だ。俺は少し自分の事について前向きに考えることにした」
檜山「って言ってもそんな大事な話じゃねぇけどよ。シンプルに進学先に大学受験をするって選んだだけなんだわ」
清水「おー……堅実」
檜山「別にデケェ勝負をしたことがないからってやらなきゃいけないワケじゃないしな。ま、コツコツやってくわ。自分のやれる範囲でな」
――ピピピピッ……
ハジメ「! あ、ごめん……父さんの会社から連絡だ」
清水「あ、そーいやおまえんちそうなんだっけ」
ハジメ「ごめん。電話みたいだ。ちょっと社内の話かもしれないから……僕、もう戻っておくね」
………………
清水「おーいったいった」
恵里「で、パーティの準備はどう?」
檜山「順調だとよ。ったく、あのキモオタ。こっちが気を使ってやってんだから、もーちょっと都合よく動いてほしいよなぁ」
清水「ははっ、そこを南雲にいっても意味ないって」
恵里「さーてと、こっちも鈴に連絡を入れておくから……サプライズなんだからな? お前たち、ぼろを出すなよー?」
檜山「へーへー」
清水「……」
清水「なぁ、思ったんだけどさ。勝つか負けるかって……なんなんだろうな」
檜山「? あん?」
恵里「なにさいきなり?」
清水「俺はあんまりわかんないんだけどさ……勝つとか負けるとか、どうしてそこにこだわるんだろうって。俺、前々から思ってたんだ」
清水「勝てばうれしい、負ければくやしい。でも、そうやって優劣をつけてしまうのって……やっぱり自分の中の……矜持? プライド? みたいなのがあるから、そうなるのかな」
恵里「そりゃ……そうだろ? 挑戦したい、戦ってみたい。そういう動機があるからこそ、勝ちを拾いに行きたいんじゃないか」
檜山「ふぅーん……それってよ、南雲の言葉を借りるなら『大切』ってもんなんだろうな」
恵里「『大切』があるからこそ、頑張れる……か」
檜山「そこら辺の話を持ち出すとよ、すっげぇ共感できると思うんだよな」
檜山「なんか……そういう? 頑張りたくなるような動機? とか?」
檜山「自分にとって頑張れる何かがあるからこそ、努力ってやつを出来るんだろ。そういうのを夢があるとか目標があるっていうんじゃね?」
清水「そう、それだよ。その『大切』のことなんだ」
檜山「? どゆこと?」
清水「『大切』があるから勝ちたい。『大切』があるから負けたくない」
清水「そんな、自分の中にある軸や芯があるから挑めるかもしれない。でも――」
清水「大切なものが、大切じゃなくなったら。人って、どうなるんだろう」
………………
…………
……
【『影』】
――『動機』とは、人を人たらしめる物ゆえに
――人は自身の行動に、行為に。実行に移すための心理的な原理である動機を必要とする
――人の行動や行為は、その人物の裏や根元にある動機が行動力に影響する
――だからこそ、人は努力をする、鍛錬をする、経験を積み重ねる
――結果を得るために、努力が実を結ぶのだと信じて前へ前へと進んでいく
――……しかし、中には泥臭い努力以外の選択を選ぶ者もいる
――それは、余分な体力や消耗を避けたうえで結果を得ようとする者たち
――行動には時間も労力も必要とする。己がかけたコストに見合う結果が、大小で変わらぬのならば少ないコストのほうがいい
――かけるコストを減らし、必要最低限にまで抑えることは効率性や合理性のある事だ
――ゆえに、自身の無駄を削り、結果を得るために努力をする者もいる
――……では、そのために『削られるモノ』はなんだと思う?
――誰しもが『大切にしているもの』。人は、その結果を得るために努力という過程を挟む
――その結果へとたどり着くために、人は『過程』の中で無駄を削っていく
――修練や鍛錬のために娯楽を削る
――人間社会におけるストレスを排除するために一部の関係を削る
――自分の中には『大切』にしているものがある。だから、『大切じゃない』ものを削る
――……この考えも、決して間違いではない
――己の無駄を削り取り、余分を抉り、必要最低限のものだけを残していく
――自分が大切にしている者が明確な者は、何を切り捨てても大丈夫なのか、何を大事にしているのかが分かっているからだ
――自分の中の明確な線を引けるものは、何よりも強い。自分の中にある部分と折り合いをつけて、妥協できているものは現実と向き合える強さがある
――……問題なのは
――ソレを出来るものは、たとえどんな超人でも出来る事ではない、ということだ
――無駄なもの? 余分なもの? いらないもの?
――それを理性と知性を持って判断できる者なんて、大人どころか数百年生きる賢者ですらできやしないさ
――無駄な物か、無駄じゃない物かだなんて、それを判断するのは結局主観でしかない
――人の心は、主観と感情があってこそのモノだ。人の心は移りやすく、変わりやすい。人は、それを良く言い換えれば『成長』と呼ぶ者もいる
――そんな、移りやすく変わりやすい物の中で、主観によって断定された『大切』が、今でも『大切でいてくれる』なんて……誰がそう断言してくれる?
――……なぁ、ハジメ。キミは人を殺してきた。それはなぜか
――それは、人の命……もっと言えば、歯向かう『敵』は、自分の道を妨害する障害であり……無用な産物だからだ
――ゆえに、キミは切り捨てることが出来た。自分を傷つけるものを、無駄な物を、無用な者
――『敵』こそが、なによりもキミが切り捨てられる無駄なもの、取り除くものだった
――そう、キミは命と向き合うために殺してきたんじゃない
――『大切』なもの得るために、邪魔だから殺してきただけだった
――……それもまた、悪いことではない
――相手に命があろうとも、邪魔であれば切り捨てられる。割り切る、という気持ちは大事だろう
――それ以外だってそうだ
――人々がキミに対してドン引きしながらも、キミは自分がやりたいように、驚かせるような行為をして絶句させてきた
――貴族も、王族も、魔人族すらも。種族を超えてキミが我を通してきたそのやり方を……どうして、キミはそういう行動をとることが出来たのか
――人の命を簡単に奪えるのは、なぜか
――これも、簡単な話だ
――キミは、自分の中にある『効率性』と『合理性』による行動を持って、周囲の気持ちを慮ることは無駄だと判断したから
――自分の気持ちを……キミの気持ちを配慮してくれない者は、自分にとっての『大切』を阻む邪魔なものとしか思わなかったから
――自分の中にある効率性を重要視し、合理性のある行動を邪魔する者を敵対者としか思わなかったから
――自身の主観性によって関わってくる者たちを、自分の判断で『敵』と認定して『取り除くべき物』として見てきた
――……振り返ってごらんよ
――転移前の時から……キミは話しかけてくるクラスメイト達のかかわりを、『大切』を優先するための邪魔な障害物としか思わなかった。卒業後に親のコネで会社に入るまでの、通過点としか思わなかった
――この時から……ずっと前から、キミは何も変わらなかった。他者を『敵』として、他人を『敵』として、取り巻く邪魔なものを『敵』と認定して……聞き入れるという事をしなかった
――それが、トータスでの魔王としてのふるまいをしてきた……あの傍若無人な行為の芯
――……
――なぁ、ハジメ
――思わなかったのかな
――キミが、『大切』、『大切』と言っておきながら
――キミは、自分にとって大したことがない物、余分なものを排除してきた
――ならば
――『人生』を『趣味』のついでに生きているなら……キミはどちらを切り捨てるんだろうね
………………
…………
……
【――放課後】
【――他県、お寺の近く】
――スタスタスタ……
ハジメ「……ええと、天之河くん。ここへ何しに来たの?」
光輝「いいから」
ハジメ(……ここって、他県だよな。なんでまたこんな場所に?)
エヒト『……知らん。何を思ってこいつはこんな場所に呼び寄せたんだ』
ハジメ(だよねぇ。しかも学校とも家ともぜんぜん関係ない場所だよ。いや、ほんとなんでまた――)
エヒト『……あれ、ちょっとまて。ここら辺……』
ハジメ(? なに、どうしたの?)
エヒト『……そうか、ここは……そうだ! 確か、私がまだ地球を調べに来て……』
エヒト『それで、確かこの先は――』
――ピタッ……
光輝「南雲、ここで少し待っててくれ」
ハジメ「? お、お寺……?」
光輝「……すぐに戻るよ」
………………
光輝「……待たせたな。じゃあ、帰るか」
ハジメ「……ね、ねぇ天之河くん。ここって何なの?」
エヒト『……』
光輝「……ここにはな」
光輝「俺のおじいちゃんが眠っているんだ」
ハジメ「――……………………えっ」
エヒト『……やはり、か。ここは、光輝の祖父が眠る場所……』
ハジメ「お墓参り……ってこと?」
光輝「……うん。地球に帰ってきて、いろいろと忙しくて後回しになってたんだ」
光輝「だから、土産話をな。異世界に来た時の話を、全部伝えてきた」
光輝「……南雲。俺はな、ずっと自分の中の『正義』を掲げていた」
光輝「人として正しくあれ、人として正しくなりたい、人として正しいままでいたい」
光輝「それが当たり前で、それが自分にとっての価値観だった。これが俺にとっての基準となって、俺を今まで支えていたんだ」
光輝「だけど、トータスに来たことで全部崩れた。今まで俺が正しいと思っていたことは全部通じなくて、それが通じていたこの地球だけでしか……何の意味も持たない物だったんだって」
ハジメ「……天之河くん」
エヒト『……』
光輝「でもな、その時思ったんだ。俺は、どうして正義を掲げていたのかって」
光輝「それはな、南雲……俺の正義は、きっとお前の掲げているモノと同じだったんだよ」
ハジメ「……? え、僕と?」
エヒト『……??』
光輝「俺にとっての正義は俺にとっての基盤であり、土台だった。それが揺らいでしまえば、すべてが崩れてしまう。俺にとっての大切なものだから、崩れた途端に自分を見失ってしまう」
光輝「なによりも、それに見合った力を持たないがゆえに、現実と理想のズレが俺を苦しめたんだ」
光輝「くるしかった。つらかった。でも、俺はこの『正義』を捨てることが出来なかった。だって」
光輝「『正義』こそが、俺の『ステータス』だったから」
ハジメ「……正義が、ステータス?」
光輝「俺の中の測るためのもの。俺にとって、絶対に譲れない基準。それが、正義だったんだ」
光輝「だから、俺は苦しむしかなかった。俺は、どんなに辛くても正義というモノを捨てきれないから、前を見るしかなかったんだ」
光輝「正義を掲げている者は当たり前の事。正義を掲げていれば、いつかきっとどんなことでも報われる――自分の我欲とごちゃまぜにして、分別がつかなくなるくらいに……俺にとって、拭い難いほどの軸だったんだ」
光輝「目を逸らすことも出来なかった。だって、そうしたら俺は俺でなくなるから。俺にとっての基準だから、俺は自分を見失ってしまうから」
光輝「そして、気づいたんだ」
光輝「俺の掲げている『正義』は、お前の中にある『大切』と一緒なんだろうって」
ハジメ「…………へ? 僕と同じ……?」
光輝「お前、前に言ってたろ。自分にとっての大切なものがあるなら、迷うことなく力を振るうって」
光輝「お前の力は、明確な意思の下に使われるべき……それが、お前なんだろうなって」
光輝「魔物を殺すのも、魔人族を殺せるのも、敵を殺せるのも……それは、お前の中にある『大切』が、『軸』となってしっかりと根付いていたからなんだ」
光輝「きっと、お前の強さは『大切』を守り通すことにあるんだろう。それが、お前の心なんだ」
ハジメ「……その、そう言ってくれるのはうれしいけど……」
ハジメ「いや、だからと言って、それで何の話を――」
光輝「……なぁ、南雲」
光輝「お前、『大切』なものはあるのか?」
ハジメ「……………………なに、いって……」
光輝「……ユエも、シアも、ティオも。もう、トータスのほうに置いてきてしまった」
光輝「彼女たちはもう、お前の事を大切に想っていない。だけど……お前はそうじゃないだろう?」
ハジメ「な、何言ってるんだよ! 僕は、やっと故郷に帰れたんだよ!? 会社にいけて、父さんや母さんたちの手伝いをして!」
ハジメ「やっと、焦がれるほどに待っていた日常を……取り戻せたんだよ!?」
ハジメ「僕には――『大切』なものがここにあるんだよ!?」
光輝「……それは、本当に『大切』なのか?」
ハジメ「………………なんていった、いま」
光輝「お前、ここの所少し変だ。授業中はぜんぜん寝てない。勉強だってしっかりやっている。授業態度は改善されたと思っていい」
ハジメ「じゃ、じゃあいいじゃないか!!」
光輝「だけど違う。今のお前は、どこか上の空だ。元の世界に帰ってきてから、もぬけの殻のようになっている」
光輝「そして、その空となった殻に……まるで無理やりにでも詰め込むみたいに勉学に勤しんでる。これはなんだ?」
ハジメ「っっ゛……!! オイっ、いい加減にっ……!!」
光輝「……ユエ達で空いた胸の穴を……地球での暮らしで埋め合わせようとしてるんじゃないのか?」
ハジメ「――ッッ!!! 天乃河ァ!!!」
――ヂャキンッ……!!
エヒト『っ! ど、ドンナー……!? おい、やめろハジメ!!』
ハジメ「今すぐその汚ねぇ口を閉じろ!! これ以上は――!」
光輝「……そうか、いまだ力は健在か。いや、神代魔法を手にし、概念魔法を習得した以上……力は、僅かでも残ってるんだな」
ハジメ「しゃべるんじゃねぇ……! これ以上、深堀するなら……俺は、お前を……!!」
光輝「……お前はずっとそうだった。向き合えない何かがあれば、避けようとしてきた」
光輝「そして、今こうして向き合っている俺が――邪魔になれば敵意を向けてくる」
ハジメ「しゃべるんじゃねぇェェェェェ!!!」
――パシュッッ……!!!
エヒト『っっ……!! は、ハジメ……!!』
光輝「……」
ハジメ「消音機能がついてるから周囲に音が漏れることはない……! あっちのほうで万が一のために作っておいた、エアガン仕様のドンナーだ……!!!」
ハジメ「次は当てる……! 狙い打つ!!」
光輝「……」
ハジメ「糞っ、どうして今になって聞きやがる……どうして!! 今になって俺にそんなことを聞きやがる!!」
ハジメ「お前はなんだ!! なんなんだ!!」
光輝「……」
ハジメ「『勇者』か!?」
光輝「違う」
ハジメ「それとも……『敵』か!?」
光輝「違う」
光輝「お前の『クラスメイト』だよ、南雲」
ハジメ「―――………………っ」
光輝「……俺たちじゃ、どうあがいてもお前の中の『大切』の代わりになんてなれない。なる気もない」
光輝「だけど、もう無理なんだろ、お前。ゲームや漫画やアニメやラノベよりも……『大切』をあっちで作ってきたから、もう娯楽では埋められないんだろ」
ハジメ「っ……っ」
光輝「……」
ハジメ「……いつから」
光輝「……」
ハジメ「いつから、僕の様子が変だと気づいたんだ」
光輝「少し前から」
ハジメ「なんで」
光輝「……見ていて、思ったんだ」
光輝「自分の軸に揺らされて、見失う姿」
光輝「俺も、同じだったから」
――ザッザッザ……
光輝「南雲、もう俺は家に帰る。駅が近いし、お前だって一人で帰れるだろ」
光輝「……ちゃんと、まっすぐ家に帰れよ。きっと、お前のご両親だって心待ちにしてるだろうさ」
ハジメ「……なんで」
ハジメ「なんで、今になっておせっかいを」
光輝「的外れなおせっかい」
光輝「そんなの転移前から変わらないだろ、俺」ハハッ
光輝「……それもあるけどな。お前を見ていて、言わなきゃと思ったんだ」
光輝「南雲、俺のいった事はおせっかいかもしれない。空まわった善意かもしれない」
光輝「それでも、俺なりにお前の事を想って言ったつもりだ」
光輝「だから、忘れないでくれ」
光輝「――敵なんて、本当はどこにもいない」
………………
…………
……
【――帰り道】
――ザッザッザ……
ハジメ「……」
エヒト『……あー、うん。散々だったね。うん』
ハジメ「……」
エヒト『……光輝の言った事は正しいことだと思う。たぶん、今のお前は宙ぶらりんなのだろう』
エヒト『様々な経験を経て、いろんなものを見てきて』
エヒト『そして、トータスにやり残したことがたくさんあって……』
ハジメ「……」
ハジメ「思ったんだ。僕」
ハジメ「天之河くんの言う通り。思えないんだ、楽しいって気持ちが」
ハジメ「ゲームが面白くない」
ハジメ「アニメが面白くない」
ハジメ「漫画が面白くない」
ハジメ「ラノベが面白くない」
エヒト『……』
ハジメ「あれだけトータスに帰ったらやりたい事だって心に決めたものが、何一つとして僕の心に残らない」
ハジメ「僕は……なぁ、僕は本当に……」
ハジメ「あれのために……あんな必死になってまで帰ろうとしていたのか……?」
ハジメ「ユエやシアやティオたちをおいてけぼりにしてまで……?」
ハジメ「本当に……」
エヒト『……その、なんだ』
エヒト『そこまで深く考えずとも――』
――イヤァァァァァァァァ!!!
ハジメ「! 今の声……」
エヒト『……向こう側からか?』
………………
ヒデ「うっぉ、マジ美人じゃ~ん!!」
女性「い、いやっ……! やめてっ、やめてくださいっ……!!」
ヒデ「へへへへっ……いいからこっちこいよぉ。そこのラブホまでチョーっと……な!」
――タッタッタ……
エヒト『っ……! これはっ……!!』
ハジメ「……下種なナンパ、か」
ヒデ「あぁ……? んだ、テメェ……」
ヒデ「見せもんじゃねぇんだぞ! わかってのか? アァ゛!?」
ハジメ「……」
女性「ひっ……」タタッ……
ヒデ「あ、糞っ……オイ! テメェが声をかけるから女がいっちまっただろうが!!」
ハジメ「……」
ヒデ「……」
ヒデ「あ、切れた。切れたわ……」
――チャキンッ……!!
エヒト『っ……ナイフ……!』
ヒデ「おめぇ、俺が○○組の構成員だと知らずに声をかけやがったな?」
ヒデ「正義をこじらせた屑がよ。その身を持って思い知らせてやんよぉ……!」
ハジメ「……」
エヒト『……愚かな。この少年は、力が衰えてもお前ごとき矮小なる者には届かぬ強者』
エヒト『ハジメ、とっとと奴をあしらえ。そして、そのまま家に――』
エヒト『……ハジメ?』
………………
…………
……
【『影』】
――……強さとは、他者と比べることで知ることが出来る
――……最も強いことだと、自分がそうだと知るには他者と比較することでしかわからない
――……そして、もっとも強くなるためには、ただガムシャラに向かうのではなく効率性と合理性を重視し、無駄を省く必要がある
――そう、無駄な物……いわば、キミにとっての『敵』
――敵がいるからこそ、敵対者が生まれる
――敵対者がいるからこそ、敵対者に負けないための力がいる
――キミは、最初からそうだった
――クラスで接してくる者たちを『敵』と断定し、不要な関りだと決めつけて切り捨てていた
――トータスで関わった者たちを、その興味が及ばない者たちを無駄だと言って切り捨てていた
――クラスの者たちと関わらないように、関係を避けていた
――トータスで相対している敵を、潰してきた
――逃げるか、攻めるか。両者として存在するこの選択、まるで違うものに見えるこれら
――実は……キミからすれば、違うようで、本質は同じ
――それは
――『向き合わないこと』、それがキミの本質だ
――自分を傷つけ、おせっかいを焼き、友好的に接してくる者ですら不要だと決めつけて『避けていた』
――自分に向かってくる者たちを、自分を傷つける者として傷つけられないように、その前に『潰してきた』
――自分の心のうちに深く入り込むような『的当たり』な言葉が効かないようにと、力ずくですべてを捻り潰してきた
――まるで、違うように見えるこれらの行動。だけど、その根幹にあるのは
――見たくないから、見る気もしないから
――自分にとって不要だと、無駄なものだと言いながら『切り捨てる』
――他者とも物事すらも、自分の興味を引けない者に対しては、意識を向けようともしない
――『向き合わないこと』。それこそが、キミの中にある本質
――……じゃあ、なんでキミは『最強の魔王』になれたと思う?
――人との関係性、クラスメイト達との日々、トータスでの戦い
――それらを、ただの道筋であり不要なものとして見てこなかったキミが……どうして、最強の魔王として恐れられるようになったと思う?
――……答えはもう言ったよ
………………
…………
……