生まれた時から最強だった   作:roborobo

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トゥルーその1

 

【――ハジメの心の中】

 

 

 どうして、ボクがこんな目に?

 

 人は、誰もが口をそろえて言うんだ

 

 みんな、お前のせいだって

 

 ボクのせいだって

 

 どうして、ボクがこんな風に?

 

 皆、酷いことをするんだ

 

 誰もがみんな、ボクに酷いことをしてくるんだ

 

 ボクに、やらせようとしてくるんだ。

 

 どうして、ボクを見ようともしないんだ?

 

 『キモヲタ』

 

 『無能』

 

 『神の使徒』

 

 『魔王』

 

 誰が、ボクを『ハジメ』として見てくれるんだ?

 

 ……………………ああ、もう……。

 

 どうでもいい。いっそ、死ね、死んでしまえ。

 

 いや、生きたい……これからも、生き続けたい。

 

 死ね

 

 生きたい

 

 死ね

 

 生きたい

 

 死ね

 

 生きたい

 

 いっそ死ね

 

 生きたい

 

 ボクは

 

 ボクは

 

 ボクは

 

 ボクであるために、生きるために……。

 

 ………………あぁ、そうか。

 

 ボクが、ボクが本当になりたかったものは……

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

【――帰り道】

 

 

ハジメ「……」

 

エヒト『……ハジメ? おい、ハジメ……? どうしたんだ? ボーっとして』

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「……ああーーーーー………………」

 

ハジメ「……あぁ、うん……そう、いうことか……」

 

ハジメ「なぁ、エヒト。少しだけ話をしないか。家に帰るまで、寄り道をしたいんだ」

 

エヒト『は? おい、なんでまた――』

 

エヒト『……あ、いや……あぁ、わかった。聞こうじゃないか』

 

………………

 

ハジメ「子供のころから、だったかな。ボクの周りには人が多かった」

 

ハジメ「大人がたくさんいた。同年代の知り合いもたくさんいた。袖すり合うも他生の縁、とはいっても、振り返ってみればボクはボクが思う以上に人と知り合っているなってことに気づいたんだ」

 

エヒト『……お前の両親が有名人だからじゃないか?』

 

ハジメ「たぶん、『それも』そうだと思う。ゲーム会社の社長と有名漫画家。そういった有名人だし、いろんな縁を育む機会だって、きっと多い。ボクは、父さんと母さんのおかげでいろんな人たちと――」

 

ハジメ「……いや、違う。たぶん、違うんだ」

 

ハジメ「ボクは、最初からいろんな人と知り合っていた」

 

エヒト『……? なに……?』

 

ハジメ「ボクは小さいころから父さんの仕事仲間と会話をしていた」

 

ハジメ「小さいころから母さんの漫画関係のアシスタントや担当さんと話したこともあった」

 

ハジメ「そのどちらでも、仕事繋がりで手伝ったこともある。まぁ、仕事じゃなくて……ほんとうの、お手伝い、なんだろうけど……」

 

ハジメ「それから、子供のころ……振り返ってみると意外と遊んだ子は結構多い。同年代の子たちで漫画やアニメで話すことが多かったし、ネットの話題で話し合ったり……小さいころだと、いっしょに外で遊ぶこともあったんだ」

 

エヒト『……まぁ、なくはないだろうな。一般家庭の生まれなのだから、普通に遊ぶことなんて珍しくない』

 

ハジメ「そうだ、普通なんだ。ボクは普通の人間なんだ」

 

ハジメ「ボクは、ずっと前から普通にいろんな人と接していた。誰もがボクの事を気にかけていたし、ボクが知らないだけでみんなボクの事を知っていた」

 

ハジメ「人と関わる機会がなかったんじゃなくて……単純に、ボクのほうから他人との接触を億劫だと思って触れる事がなかっただけだったんだ」

 

ハジメ「ボクは、ボクが思う以上に周囲に人がいた。それが、ここ最近になって気づいたことだったんだ」

 

エヒト『……あぁ、そうだな。お前には、そういう部分があった』

 

ハジメ「………………そして」

 

 

ハジメ「やっと気づけた。ボクの中にある『ボク自身』の『根源』。だから、ボクは人と関わろうって気がしなかったんだ」

 

 

エヒト『……?? お前、何を言って……』

 

ハジメ「エヒト、お前言ってただろ。人は、他者との接触によって自分を知る。ボクは、ボクが思う以上にボクの事を知らなかった……いや、無意識のままだったんだ」

 

ハジメ「ボクは、ボクの事を知った。そして、自分の中にある本性を知った……そんな気がした」

 

エヒト『……なにが、言いたいんだ……?』

 

ハジメ「…………なぁ、エヒト」

 

ハジメ「お前、このまま――」

 

 

――ドォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

ハジメ「……!? なんだ!?」

 

「――きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!! 誰かぁぁぁぁぁ!!」

 

「た、たすけてっ! 助けてくれーーーー! へ、変な連中が! じゅ、銃をっ! 銃をぶっ放してやがるっ!!」

 

「し、死にたくない! 死にたくないぃぃぃぃぃぃ!!」

 

――イヤァァァァッァ!!

 

――ウワ、ウワァァァァァ!!!

 

――ドパァンッ!! ドパンッ!! ドパァンっ!!

 

ハジメ「じゅ、銃声……!? なんで!? こんな場所の、日本の町中で!?」

 

エヒト『おい、ここから駅のほうに……火災!? 火事が起きてる!? いや、それ以前にコレは!?』

 

 

エヒト『――魔力!? トータスの力の源が、なぜ街の中で!?』

 

 

ハジメ「っ! 魔力だと!? オイオイオイ、まさか……!」

 

エヒト『そ、そんなバカな……まさか、ハウリアの連中、この世界に……!?』

 

――ダッ……!

 

――キュィィィィッ……!!

 

ハジメ「急ぐぞ! まだボクの中には錬成士としての力が残っている!」

 

エヒト『ま、待てハジメ! 忘れたのか、この世界ではお前の力は十全に発揮できん! お前たちが力を発揮できるのは、トータスの環境があればこそだ!』

 

ハジメ「ぅっ……」ピタッ……

 

エヒト『お前たち上位世界の人間はトータスでこそ、その力を真に発揮できる。だからこそ、上位世界そのものに来てしまえば、トータスの時の力は必然的に弱体化する!』

 

エヒト『……それでも、いくのか……?』

 

ハジメ「……いや、わかった」チャキッ

 

ハジメ「なら、先に言えの方に戻ろう。父さんと母さんの安否を……!」

 

エヒト『あぁ、その通りだ。さぁ、いそ――ッ!? ハジメェッ!!!』

 

――バァァンッ!!

 

ハジメ「っ! だ、誰だっ……!!」シュタッ

 

 

ハウリアの男「……あぁ? なーんでこんな所に銃を持ったやつがいるんだァ?」

 

 

ハジメ「はっ……!」

 

エヒト『ハウリアっ……!!』

 

ハウリアの男「おいおいおいおーい……ちょっと聞いてねぇよぉ。『シア様』が言うには、地球にはトータスより強いやつはいないって聞いたのによぉ」

 

ハジメ「っ!! シアっ……!?」

 

エヒト『……っ、まさか……異世界に干渉するだけの力を……!? いや、しかしそうやって……!』

 

ハウリアの男「ははっ、なーんだオイ。シア様知ってんのかよ。話がはやいなぁ」

 

 

ハウリアの男「――これより、俺たち亜人族軍団が、あまねく異世界を支配する」

 

 

ハジメ「っっ!! な、なに……!?」

 

ハウリアの男「吸血姫アレーティアさま、兎人のシア様、竜姫のティオさま」

 

ハウリアの男「そして、俺らの絶対の神だるエヒクリベレイさまと――天上で見守ってくださる大魔王ハジメさまがなぁ!!」

 

ハジメ「ぁ、なっ……」

 

エヒト『っ……あいつら、まだハジメの名前を利用しているのか……!!』

 

ハジメ「……よくまぁ、人のあずかり知らぬところでっ……!」

 

ハウリアの男(……?? さっきから一人で何ぶつぶついってんだぁ? ま、どうでもいいけど)

 

ハウリアの男「あぁ? テメェわかってねぇ見てぇだなぁ……」

 

――チャキッ……

 

ハウリアの男「銃を知らねぇわけがねぇよなぁ?」

 

ハジメ「っ……!! あ、あれは……『ドンナー』……!?」

 

ハウリアの男「ぎゃはははははっ! よく知ってんじゃねぇか! これこそ、大魔王ハジメ様からの贈り物! 『ドンナーレプリカ』!」

 

ハウリアの男「魔王に対する信仰心を……崇めれば崇めるほど、その力が反映される! まさに、魔王様に対する服従の証! その力!」

 

エヒト『……なるほど、な。やつら、ハジメの信仰心を利用したのか』

 

ハジメ「な、おい、それって……」

 

エヒト『見て見ろ。あのドンナーもどき。魂魄魔法や生成魔法を組み合わされた、知的生命体の抽象的概念を注ぐことで力が増す銃だ』

 

エヒト『……おそらく、お前がいなくなった後、お前自身の信仰をより深め、強めることで……魔王の威光そのものを強力な武器に変えるべく、造られた武器に違いない』

 

ハジメ「……そういう事か。ご本人不在だから、止めるやつがいない。都合の良いイメージなんて作り放題か……」

 

ハウリアの男「あ~ん? なーにごちゃごちゃいってんだぁ? 死にたくねぇからびびってんのかぁ?」

 

ハジメ「……いや、哀れだなって思っただけだよ」

 

ハウリアの男「……ぁあ?」ピタッ

 

ハジメ「その武器、その口調に態度……なるほど。お前……」

 

 

ハジメ「憧れてるな? 大魔王ハジメに」

 

 

ハウリアの男「……きゃははははははっ!! なーに抜かしてんだテメェ!」

 

ハウリアの男「憧れねぇわけがねぇよなぁ!? 大魔王ハジメ様こそ、俺たちが崇める絶対の魔王なんだからなぁ!」

 

ハウリアの男「亜人族の男なら、誰もが憧れる! 誰もが真似る! だから、俺も話だけでも聞いたことがある……魔王様になろうと、こーやってるわけよぉ!!」

 

ハウリアの男「怖気づいたか? びびったかぁ!? ぎゃははははは!!」

 

エヒト『………………』

 

ハジメ「………………なんとも、言えないな」

 

ハジメ「人は、真似したがる。憧れているからこそ、形から入ろうとする」

 

ハジメ「間抜けだな……だけど、それ以上に哀れさと申し訳なさが出てしまうよ」

 

ハウリアの男「……ぁ? 何が言いてぇ?」

 

――チャキッ……

 

ハウリアの男「……はぁ? テメっ、なんでドンナーレプリカを……」

 

ハジメ「……悪いけど、どんな理由であれボクの前に立つのならば――」

 

 

――ドパァンッ!!

 

 

ハウリアの男「………………ぁ、ぁえ……」

 

ハウリアの男(え、え、え、なんだこれ)

 

ハウリアの男(お、おれ、み、みえなかっ……銃、ぬいてる、ところ、みえなか、たのに)

 

ハウリアの男(なで、うた、れて――………………)

 

――ドサッ……

 

 

ハジメ「……テメェは敵だ。敵は殺す、それだけだ」

 

エヒト『……なるほどな。元から肉体的にバグっているほどの強さ。多少なりともデバフを食らおうとも、大丈夫と言うわけか』

 

――チャキッ……

 

エヒト『……急ぐぞ。奴らの侵略行為、見るからに無差別だ。お前の家も襲われていると思っていい』

 

ハジメ「言われるまでもない。糞っ、こういう時天之河くんと行動してればな――」

 

 

――バァンッ!!

 

 

ハジメ「っ……!! っ、あ、っぶなっ……!」

 

エヒト『な、まだ敵がいるのか!?』

 

――ザッザッザ……

 

「おいおいおい、どー言う事だよ……」

 

「はぁ? なんで地球の人間がドンナー持ってるわけぇ?」

 

「……こりゃー、捕まえて拷問するっきゃなくね」

 

――ッザッザッザ……

 

ハジメ「っ、チィっ……! 敵の数は三人……」

 

エヒト『こんなところで時間を喰ってる暇はないと言うのに……!』

 

――ザッザッザ……

 

――ザシュッ……!!!

 

「……ぁ、あぇ……?」

 

「な、にが……」

 

――ドサッ……ドサッ……ドサッ……

 

ハジメ「っ!? い、いきなり死んだ……!?」

 

エヒト『……いや、違う。目にも止まらぬ速さで、コイツラの首が切られたんだ』

 

ハジメ「切った!? まて、俺は何も――」

 

――……コツ、コツ、コツ……

 

青髪の女性「――えぇ、その通り。あなたは何もしていない。私の知り合いが、彼らを始末したのだから」

 

ハジメ「…………えっ……」

 

エヒト『……この女』

 

――スタスタスタスタ……

 

短髪の青年「…………お久しぶりです、ハジメさん」

 

ハジメ「ま、待て……誰だ、お前ら……」

 

ハジメ「……いや、でも、待て……えっ、だって……お前……」

 

青髪の女性「……」

 

ハジメ「……レ……」

 

 

ハジメ「レミア…………?」

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

【――…………】

 

ハジメの影「……」

 

ハジメの影「……?」

 

ハジメの影「…………あぁ? これは……?」

 

 

ハジメの影「流れが、変わった……?」

 

 

ハジメの影「おいおいおい、これはどういうことだ。このまま終わりかけていたはずの人間の心が……こんな土壇場で流れを変えてきただと?」

 

ハジメの影「自分から向き合う事から目を背け、自らの考えで目を向ける事から逃げる事を選び、自分の意思で同じ道を選ぼうとしている」

 

ハジメの影「そんな人間が向かう道筋は、愚かな末路を描く以外にないはずだ。それなのに、南雲ハジメ……お前が、キミが、ボクが向かうその道筋が『そう』なるだなんて……なんで…………」

 

ハジメの影「……」

 

ハジメの影「……あぁ、そうか」

 

ハジメの影「はは、ははははっ! そうか、そうだよなぁ! お前は……そうか! そうだった!! そういう事だったんだなぁ!!!」

 

 

ハジメの影「ハジメ! お前は、本当に『変われない人間』だったんだ!!」

 

 

ハジメの影「どうあっても、どうあがいてもお前は『変われない』!!」

 

ハジメの影「人が! 社会が! 環境が! どのようにお前に接しようとも、お前がお前である限り、結局は変わることはない!」

 

ハジメの影「誰も! お前をっ!! 変えることなんて出来なかった!!」

 

ハジメの影「あぁ、なんて事はない! お前をお前たらしめる物!」

 

ハジメの影「お前の底にある『極限の意思』!!」

 

ハジメの影「そうだ、お前は『生まれた時から最強』だった!」

 

 

ハジメの影「そうだ! お前にはあったんだ! 最初から『極限の意思』が!」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

 

 

【――市内、駅前にて】

 

『――それでは次のニュースです』

 

『緊急速報です。現在、○○県○○市の駅前にて、ウサギの耳を身に着けた不審者が通行人を襲うという暴行事件が発生しました』

 

『犯人の数は30から40人ほどのグループであり、刃物類や重火器と思わしき物を利用し、発泡。駅前は混乱となり、現在は警察が現場の対応に追われています』

 

 

『犯人グループは自ら「ハウリア」と名乗り、道行く人々や建築物など見境なく暴れまわっているようです』

 

 

『テレビを見ている皆様は、決して外を出歩かないように。決して、外出しないように自分たちの安全の確保をしてください』

 

『……新たなニュースが入りました』

 

『ハウリアと名乗るグループは、現場に向かった警察を……殺害。居合わせた警官とパトカー――』

 

『さらにハウリアと名乗るグループは数を表し、次々と銃撃が……お、行われるように、なって……』

 

『て、テレビを見ている皆さん。決して、決して外に出ないようにしてください』

 

『…………? あ、げ、現場からの速報です』

 

『謎の人物が、ハウリアグループを殺害』

 

『○○県○○市の住宅街にて、武器を持った男性がハウリアと名乗る人物に切りかかりました』

 

『警察でさえ押さえられなかったハウリアグループは、次々と武器を持った男性により切り捨てられて困惑。連携が取れなくなったハウリアグループは、逃走し、行方をくらませてしまいました』

 

『現在、警察はハウリアの行方を捜索中です』

 

『また、現場に現れた武器を持った男性についても捜査を――』

 

………………

 

…………

 

……

 

【――ハジメの家】

 

――ヒュパッ……チャキンッ……

 

 

金髪の青年「……これで、全員か……」

 

金髪の青年「みなさん、ご無事でしたか?」

 

光輝「なっ、なっ、なっ……!!」

 

龍太郎「な、なんで街の中にハウリアや亜人たちが……!」

 

金髪の青年「申し訳ありません。今は緊急事態なんです」

 

金髪の青年「町で起きている異変、今こうしてあなた達を襲うハウリアの事」

 

金髪の青年「これらをすべて説明するには、今はとにかく南雲ハジメ殿と合流しなければ話は始まらない」

 

金髪の青年「教えてください。今、南雲ハジメ殿はどこに!?」

 

――ザッザッザ……

 

愁「な、なんなんだ……これは、いったい……!?」

 

香織「南雲君のお父さん、お母さん! どこか怪我は!?」

 

菫「そこにいる人が、隠れて居ろって言われたから……私たちはなんともないけれども……」

 

菫「い、いやっ! あの、それで誰なの!? そこにいる人!?」

 

雫「わ、私たちも状況が読めなくて……」

 

香織「ねぇ、あなたは誰なの……? どうして私たちを助けてくれたの?」

 

金髪の青年「……」

 

恵里「……助けてもらって悪いけどさ、答えてほしいんだよ。こっちは」

 

恵里「お前、あいつらのことハウリアとか言ってたよね。なら、その口ぶりなら……」

 

鈴「……トータスの人……?」

 

金髪の青年「……」

 

雫「……? あれ、ちょっと待って……今さっき見せてくれた剣技……」

 

光輝「……雫も同じか? 俺もだ……どこかで見たかと思ったら……」

 

光輝「あれは……八重樫流の……」

 

――タッタッタ……

 

檜山「おいっ、やべぇよ! ここの近所でもハウリアの連中が暴れてやがる! 急いでここから逃げねぇと!」

 

清水「今、南雲のほうに連絡を送っといた。あのっ、合流場所はどこにしておく?」

 

愁「……ち、近くに会社がある。どこも安全とは言えないが、ジッとしているよりもそちらの方がいいなら……」

 

金髪の青年「道中は私がなんとかみなさんを守って見せます。市内には私の仲間もいるため、そちらのほうで南雲ハジメ殿の護衛に回っていますが」

 

――スッー……パスッ……

 

光輝「うぉっ、何を投げて寄こして……け、剣?」

 

雫「っ! こっちは刀……」

 

金髪の青年「こちら側に来る際、何かあった時のために持ってきた物です。力が落ちるとは言え、みなさんの力ならきっと戦える」

 

金髪の青年「……合流しましょう。それもこれも、決めるのは後の話だ」

 

香織「まってっ!」

 

――……ピタッ……

 

金髪の青年「……時間はない、と言ったはずですが」

 

香織「一つだけ聞かせて。あなた、トータスの人間……なんだよね」

 

香織「……もしかして、私たちが知っている人?」

 

金髪の青年「……」

 

光輝「……」

 

光輝「……知っている、かもしれない。俺は、彼のことを」

 

金髪の青年「……」

 

光輝「あの剣捌き、あの技量。キミの力は八重樫流の剣技にそっくりだ」

 

光輝「……だけど、それ以上に……」

 

光輝「俺は知っている。その剣技、俺のクセが取り入れられていた」

 

香織「えっ、それって……」

 

雫「……ありえないわよ。だって、彼はどう見ても大人じゃない」

 

光輝「……キミは……」

 

金髪の青年「…………『20年』ぶりですね。光輝殿、香織殿」

 

 

ランデル(金髪の青年)「妻のミュウと共にお迎えに上がりました。トータスで起きている世界の危機には……あなた達の力が必要なんです」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【――誰かの心の中】

 

エヒト「………………ん、ん……?」

 

エヒト「え、あれ……なんだココ……なんで、私こんな場所に……」

 

ハジメの影「どうして自分がこんなところにいるんだろう、そう言いたげだな」

 

エヒト「っ!? え、ハジメっ……いや、違うっ!? 誰だ貴様!!」

 

ハジメの影「身構えなくていい。ボクが誰なのかは、調べようとすればすぐに分かるだろう。特に、お前ならな」

 

エヒト「……?? っ! あ、お前っ……そうか氷雪洞窟の! 影の試練の!?」

 

ハジメの影「ご名答。アイツの心の中で産まれ、アイツ自身の心によって育まれた影の存在」

 

ハジメの影「ボクの本来の役割は、アイツ自身に抑圧されたコンプレックスを刺激し、内なる一面と向き合わせる試練を与える事」

 

エヒト「それなのに、お前が消えていないという事は……」

 

ハジメの影「つまりはそういう事だ。アイツは、氷雪洞窟の試練を攻略できていない」

 

ハジメの影「……まぁ、お前も知っての通り。元々、アイツ自身が変成魔法……魔物肉を食らう事でとっくに得ていたからな。概念魔法を手に入れる条件を揃えられていたんだ」

 

ハジメの影「おかげさまで……迷宮を攻略しながらも影その物を内に残してしまった……という事になったわけだが」

 

エヒト「話は分かった。だが、それならここはなんだ? アイツの心の中と言うのは何となくわかるが……なぜ私がこんな場所に?」

 

ハジメの影「ボクが呼び寄せた。今、アイツの……あぁ、つまりは表の方のボクに大きな変化が起きようとしている」

 

エヒト「? 変化……?」

 

ハジメの影「……エヒト。まず、お前に問う」

 

 

ハジメの影「『極限の意思』ってなんだ?」

 

 

エヒト「…………?? なに……?」

 

ハジメの影「お前も知っているだろう。極限の意思だ。概念魔法を活用するにあたり、必要とされる人間の精神的概念を表した単語だ」

 

ハジメの影「抽象的概念、というモノを魔法と言う摂理で操るためには、同じくらいに抽象的な存在である物を利用しなければ物理的干渉を行うことはできない。それゆえに、目には見えぬ、形では触れられぬ、だけど触れるためには見えぬ触れられぬモノを知覚して利用する必要がある」

 

ハジメの影「だからこその『極限の意思』。いわば、人の強き心、ブレることなき意思。概念魔法を使うには、ソレが必要だったんだ」

 

ハジメの影「……それはお前も知っているだろ?」

 

エヒト「……当たり前だ。極限の意思なくては概念魔法を使えない。あいつには、その力を振るうだけの心の強さがあった」

 

ハジメの影「では聞くぞ。アイツの『極限の意思』ってなんだ?」

 

エヒト「…………? は? 待て、どういう意味だ?」

 

ハジメの影「…………言い方を変えよう」

 

 

ハジメの影「アイツは、どうして概念魔法を使えるようになったんだ?」

 

 

エヒト「……???」

 

ハジメの影「……振り返ってみなよ。あいつが、ボク自身が概念魔法を、極限の意思を使えるようになったのは……トータスから地球へと戻るため。元の世界に帰りたいと言う願いがあったからだ」

 

ハジメの影「トータスに来てからはずっとそうだった。元の世界に帰りたい、地球に帰りたい、家族と再会したい。その想いがあるからこそ、概念魔法を使用するに値していた」

 

ハジメの影「だけど、その点を踏まえると南雲ハジメの行動って妙だと思わないか?」

 

ハジメの影「アイツ、なんで地球に帰ってからも概念魔法が使えるんだ?」

 

 

ハジメの影「――だってアイツ、もう待望の地球に帰ることが出来たんだぞ?」

 

 

エヒト「……な、なに……?」

 

ハジメの影「地球に帰ることが原動力であるならば、それ自身が心の支えだったはずだ。事実、概念魔法はそんなハジメの切なる思いを起点に、極限の意思として昇華されたわけだからね」

 

ハジメの影「だけど、もう違う。すでに元の世界に帰ることは出来ている。目的が達成したのならば、極限にまで研ぎ澄まされた意思は、そのまま薄れて気持ちも弱まる」

 

ハジメの影「それなのに、アイツは魔法が使える。概念魔法でもって能力を使えるし、今こうして存在が消えかけているお前とも接触できている」

 

ハジメの影「トータスで得た力は、すべて帰るための手段でしかない。そう言ったのはお前だ」

 

ハジメの影「なら、アイツの中で育まれていたであろう『極限の意思』も、それは帰るために躍起になっていた気持ちでしかないはずだ」

 

エヒト「それなのに、概念魔法が使える理由……だと……」

 

ハジメの影「……簡単な話だ」

 

ハジメの影「地球に帰りたいと言う気持ちは本物。だけど、アイツの中で根付いていた『極限の意思』は、地球に帰れば消えてなくなるはずだった」

 

 

ハジメの影「なら、答えは簡単だ。アイツは、実はずっと最初から『極限の意思』を持つ者だった」

 

 

エヒト「……!? 馬鹿な、アイツが!? 平和な地で暮らしていた単なる男子生徒だぞ!?」

 

ハジメの影「その答えは、ボクには『まだ』分からない。アイツ自身も、まだおぼろげながら掴んでいる……みたいな感じだからな」

 

ハジメの影「だけど、その答えを掴んだ瞬間……きっと、何かが変わる。そんな予感がする」

 

ハジメの影「……ま、それまでは見守るとするよ。恐らくだけれど……」

 

 

ハジメの影「ここからが、本当の最後の戦いだ」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

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