生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第7話

 

 

【──清水の夢の中】

 

清水「……勇者に、なりたかったんだ」

 

清水「俺は……ただ勇者になりたかった……それだけなんだ……」

 

清水「……」

 

──……なんで?

 

清水「なんでって、勇者ってかっけーだろ!?」

 

清水「あと、チート能力で、ハーレム作れて、いろんな奴から認められて……」

 

清水「……」

 

清水「俺さ、昔からアニメとかゲームが好きなオタクだったんだよ」

 

清水「アニメ関係のグッズは好きなモノだったらすぐさま全部買いあさったさ。フィギュアも抱き枕もゲームだって、壁にはポスターがびっしりでさ。ライトノベルなんかも読んでて……それで、自分でも書いてみたり……」

 

清水「あ、んでもってさ……へへっ……俺が主人公のやつも、かいちゃったり、なんかしちゃったり……」

 

清水「……」

 

清水「だからさぁ、憧れてたんだよ」

 

清水「勇者に」

 

清水「物語の勇者ってさ、絶対にハッピーエンドを迎えるじゃん」

 

清水「どんな敵にも勝てて、どんな奴にも負けない力を持ってて、ぜーんぶ肯定してくれる女の子に囲まれてさ……」

 

清水「俺もあんなふうになりたいって、あんな風に……あんな……」

 

清水「俺のことだけを……俺のことをただただ愚直に好きになってくれる女の子が欲しくってさぁ……」

 

──……

 

清水「……なのにさぁ、なのにさぁ……」

 

清水「現実はさぁ、ぜんぜんやさしくなくってさぁ……!」

 

清水「俺はさぁ……他の奴らと違うって思っててさぁ……!」

 

清水「でもさぁ……俺なんかより全然勇者が似合ってるやつがいてさ……」

 

清水「理不尽だって思ったよ。悔しくて腹立たしくてって思ったよ」

 

清水「それで俺が手に入れたのが『闇術師』だぜ?」

 

清水「どう聞いても裏も裏。絶対に主人公や勇者にはなれねぇようなもんが俺の適正だったってさ」

 

──……だから、誰かを操ろうとしたのか?

 

清水「……そうだよ。これを極めれば、すべて俺の思いのままだ」

 

清水「人間も、魔物も! それこそ女だって! 俺の好きなハーレムが、いくらだって作れる!!!」

 

清水「俺は……俺は……!!!」

 

──……そうまでして、欲しかったものなの?

 

清水「な、なんだよ……なにが、いいたいんだよ……!」

 

──……ねぇねぇ、聞かせてもらえる?

 

──君が、本当に『欲しかった』ものは何?

 

清水「……」

 

清水「……ほんとうに、ほしかったもの」

 

清水「……」

 

清水「はは、なんだっけ……忘れちゃったな……」

 

 

【愛子の夢】

 

愛子「あの、お話を聞いてくださってありがとうございます」

 

愛子「こういう話って、あんまり誰かに聞かせたりって言うのはないんですけど……ふふっ、おかしな話ですよね。お互い初対面なのに」

 

愛子「……私にとって、教師とは彼ら生徒たちにとって模範となるべき大人だと思っています」

 

愛子「なぜなら、私が相手をするのは全員『子供』です。体が大きい高校生であろうと、私よりも背が高かろうと彼らはまだ精神的にも未熟な子供なのです」

 

愛子「子供とは、最初から何も知らないままに生まれてくるものです。それが、決して悪いことではないんです」

 

愛子「だって、何も知らない子供を誰が責められましょうか。何も知らないからこそ、何かを知ろうとすればいいだけなのですから」

 

愛子「何にも染められていない、染まっていない子供だからこそ、何かを知ろうとして『何か』に成ろうとする。そういった過程を踏まえた上で、ヒトは大人になることであり、私たち教師は子供である生徒たちに模範たる大人でありつづけなければいけないのです」

 

愛子「……私は、そんな大人になりたいと、そう思い続けています。これは、異世界トータスに来てからも変わらない、私の想いです」

 

──……本当に?

 

愛子「本当です」

 

愛子「この信念は、決して揺るぎません」

 

愛子「私は、全員を連れて帰りたい。そう思っていますし、願っています」

 

──……

 

──なるほど、あなたの志は立派だ

 

──しかし、トータスの惨状を知ったうえで、なおもあなたは同じ言葉を吐けるかな

 

愛子「……」

 

──命が保証され、生きることが保証され、生まれてきた生が祝福されることが約束された環境で生きてきたあなたが

 

──命なぞ紙切れよりも安く、軽いあの世界で

 

──同じ言葉が吐けるかな

 

愛子「……」

 

愛子「私は──」

 

………………

 

…………

 

……

 

【ウルの町はずれ】

 

ハジメ「……」

 

──チャキッ……

 

清水「……っ! ぅぅ……!」

 

愛子「南雲君、銃を下ろしてください」

 

愛子「……清水君、落ち着いて話し合いをしましょう。ゆっくりと」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(奇妙な再会を果たしたものだ)

 

ハジメ(ブルックから中立商業都市のフューレンにあるギルド支部長のイルワ・チャングから依頼を受けてやってきた湖畔の町ウル……)

 

ハジメ(俺からすれば立て続けに起こるギルドでの問題とユエたちのステータスの問題を解決するためにやってきた程度だった)

 

ハジメ(だけどそれが──俺にクラスメイトとの再会という奇妙な道を辿らせた)

 

ティオ「むぅ……シリアスじゃのぉ」

 

ハジメ(あとなんか変なドラゴンを拾った)

 

ティオ「説明ざつゥ!? 新しいプレイじゃなぁ!」

 

ハジメ(心の声を読むなバカ!!)

 

愛子「……清水君、おねがいです。先生とお話をしてくれませんか」

 

清水「……」

 

愛子「……私は、清水君ではありません。キミの気持ちはキミだけの物だから、私にはそれを覗き見る資格なんてありません」

 

愛子「それを知るには、キミ自身が心を開かなければ……私はずっと、なにもわからないままです」

 

愛子「どうか、八つ当たりでもいい。日頃のうっ憤だけでもいいから」

 

愛子「先生に……心の内を開いてくれませんか」

 

清水「……チッ」

 

デビット「オイ! 愛子がここまで言ってるのに……!」

 

愛子「黙っててください!」

 

デビット「ぅ……」

 

愛子「……清水君……っ」

 

清水「……ぃに、らねぇんだよ……」

 

清水「きに、いらなかったんだよ……っ! なにも、かもっ……!」

 

清水「この世界に来てからも……ずっと前からもっ……! ずっとずっと自分を押し殺して、ずっと息苦しくて……!」

 

清水「勇者のように活躍したかったのに、それすらも全部他の奴の特別なもので……! 俺にはそんな特別なものは何一つなかった!」

 

清水「誰も俺の価値を認めないバカで愚かな奴らばかりだった! だから、俺を認めてくれる魔人族に……アンタをっ、先生を殺せば」、魔人族の勇者として迎えてもらえるんだ……!」

 

愛子「……そ、そんな……」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(ひどくドロッとした瞳)

 

ハジメ(どこまでも底なしに深い心の闇の表れか……)

 

ハジメ(……こいつは、もう……)

 

シア「──! ダメっ、逃げてぇ!!」

 

愛子「えっ……?」

 

ハジメ「……っ!!」ダッ……

 

──バシュッ……!

 

清水「ァ゛あっ……!!」

 

愛子「きゃぁぁっ……!!」

 

………………

 

…………

 

……

 

清水(……あ、あー……? なん、で……)

 

清水(……あ、そっか……俺、裏切られたんだ)

 

清水(……いや、さいしょから……使い捨てだったんだ)

 

清水(……)

 

清水(なんだこれ……なんだったんだ俺の人生……)

 

清水(どこまでもずっと一人ぼっちで、逃げても逃げても……むしろドツボにはまって、俺を甘やかしてくれるヒロインなんてもちろんいなくて……)

 

清水(アニメや漫画やラノベに身を捧げても……)

 

清水(画面の向こうのヒロインは……これっぽっちも俺に頬んでくれなかったなァ……ははは……)

 

清水(……)

 

清水(死ぬのかなぁ、俺)

 

清水(このまま何も知らないまま、連れてこられただけの単なる一般人のままで……)

 

清水(それどころか理不尽に強いどこぞの中二病野郎のカマセにされたまま……)

 

清水(何も成せず、成し遂げられず……)

 

清水(俺は……)

 

……

 

…………

 

………………

 

愛子「おね、お願いですっ……! 彼を利用していた魔人族は逃げました! 彼を、私は絶対に改心させます……!」

 

ハジメ「……」

 

愛子「おねがいです、おねがいですっ……!」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(何度も何度も泣くように言葉を続けて、俺に許しを請うように願う先生)

 

ハジメ(どこまでも変わらぬ、先生としての信念が、そこにある)

 

ハジメ(……寂しい生き方、か)

 

ハジメ「清水、答えろ。俺には、お前を救う手立てがある」

 

清水「……」

 

ハジメ「だが、その前にお前に聞きたいことがある」

 

 

ハジメ「……お前……『敵』か?」

 

 

清水「……」

 

清水「もう、いい……ど、でも……」

 

愛子「えっ……」

 

ハジメ「……?」

 

清水「も……やだっ……ったく、ない……」

 

清水「い、きたく、ない……」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(瞳のよどみが……わずかに和らいだ……?)

 

ハジメ(これは……こいつ自身の心境に大きな変化が起きたってのか……? でもこの短期間で……?)

 

ハジメ(……)

 

ハジメ「清水、今からこれを飲め」

 

………………

 

愛子「……南雲君、本当にありがとうございます」

 

シア「ハジメさん……! やっぱりやさしいですぅ!」

 

シア「あ、でも、どうして今回に限って助けたんですか?」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「アイツの瞳が、今までと違っていたからだ」

 

愛子「違う……?」

 

ハジメ「俺は腐るほどあんな目を見てきた。どこまでも昏くて、救いようがない『目』を」

 

ハジメ「だけど、あの一瞬のうちで何があったのか……あいつから、改心の兆しが見てとれた」

 

ハジメ「ああもあっさりと人が変わるなんて……」

 

愛子「変われますよ、南雲君」

 

ハジメ「……? 先生……?」

 

愛子「ヒトは、成長し、変わることが出来るんです。どんなヒトでも、自分がなりたいと思えばなりたい自分になれるんです」

 

愛子「清水君にも……変われるチャンスはあったんですよ」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(なんだ、これは)

 

ハジメ(殺そうと思っていた敵が、敵じゃなくなった)

 

ハジメ(立ちはだかる敵は全部殺して、故郷に帰ることを願っていたのに)

 

ハジメ(なのに、なんで)

 

ハジメ(なんで、釈然としないんだ……)

 

ユエ「……? ハジメ……?」

 

愛子「……南雲君。私は、今からあなたにとても酷な言葉を投げることになると思います」

 

愛子「『ヒトの命を奪う事は、決して許される行為ではない』」

 

ハジメ「は……?」

 

愛子「……キミが、ここに至るまでに踏み越えなければならない苦難があったことは承知の上です。そうでもしなければ、キミはきっと生き残れなかったのでしょう」

 

愛子「だからこそ……だからこそ、私はキミに心掛けてほしいのです。命が奪い合う世界の上で、帰る場所が命が奪い合う事が大罪の世界に戻るためであっても」

 

愛子「ヒトの命を……ヒトを傷つけるのはいけないことだと。この気持ちを絶対に忘れないでほしいのです」

 

ハジメ「……それで、もう誰も殺すなってか?」

 

愛子「いいえ、心掛けてくれるだけでいいんです」

 

ハジメ「……?」

 

愛子「なぜなら、この人としての当たり前の概念を忘れた途端に、きっと南雲君は……」

 

 

愛子「『私の知ってる南雲君』は、本当にいなくなってしまうから」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

【……清水の夢】

 

清水「……あぁ、いつぶりだろ。ここ」

 

清水「なんか久しぶりだなぁ……ははは……」

 

清水「あ、うん、その、あんたともこうして話すのも……」

 

清水「……どれくらいぶりだったっけ?」

 

──キミが引きこもっていたあたりくらいだったね

 

清水「あー、思い出した思い出した……」

 

清水「そっか、あれ以来か……闇術師の力を磨いて洗脳しようとして……」

 

清水「……」

 

清水「なぁ、そういえば聞きたいんだっけ。俺の身の上話」

 

清水「……まぁ、聞かせられる範囲なら」

 

清水「……俺さ、昔からアニメや漫画なんかが大好きだったんだ。趣味嗜好とか、元々の性質って言うのかな。ああいった世界観や作風みたいなのが俺の肌に合っていたんだよ」

 

清水「可愛い女の子キャラがいっぱいいて、それで俺のことを受け入れてくれて、現実のめんどくさいことを全部忘れさせてくれて……」

 

──ならば、なんでキミはそこまで暗い人間になってしまったんだ?

 

清水「……自分で言うのもなんだけど、俺は大人しい性格の子だってよく言われてたんだよ」

 

清水「そういう奴ってさ、まず周りから狙われるんだ。何もしないから。抵抗しないから」

 

清水「それで……中学の頃にイジメられて登校拒否になって、創作物にはまっていたら……自然と、オタクになってたってことだよ」

 

清水「なんとか中学を卒業して、高校に入れたけどもさ。クラスでの南雲を見せられて……あぁ、大人しくしてなきゃまた虐められるんだって思ってたよ」

 

清水「……世の中、オタクに対する偏見が和らいだって言うけどさ、やっぱそうじゃない人って結構いてさ」

 

清水「俺の両親はまだ理解を示してくれたけど、俺の兄貴や弟なんかはガッツリ肌に合わないタイプだからさ。邪険に扱われたよ。父さんと母さんはアニメに理解はなくても……俺のことを心配してくれてたから、趣味については目をつぶってくれてたんだと思う」

 

清水「そうやって厳しい環境と逃げられる環境を用意されて、俺はずるずるずるずると……」

 

清水「気づけば、今の俺になっちまってたんだ」

 

清水「……」

 

清水「なぁ、あんたさ。俺、だいぶ前にアンタにこういったことを覚えてるか」

 

 

清水「俺が、本当に欲しかったものはなんだったのかって」

 

 

清水「……ラノベの主人公のようにチーレム作って無双することもヒロイン達に囲まれることも俺は出来なかった」

 

清水「勇者として選ばれて、特別な力を振るって俺は暴れたかった」

 

清水「現実世界でも異世界トータスでも、俺には出来ることなんて、何一つとしてなかった」

 

清水「求めても求めても得られることもなく、だけど俺は何一つとして得ようと言う努力なんてしてこなかった」

 

清水「……いまなら、今なら俺はわかるかもしれない」

 

清水「俺が本当に欲しかったのは」

 

 

清水「『居場所』、だったんだ」

 

 

清水「肯定してくれるヒロインが欲しかったんじゃない。俺を認めて、優しくしてくれる誰かが欲しかったんだ」

 

清水「チート能力で無双したかったんじゃない。ラノベを読むくらいしか能がなかった俺にも、他の人には出来ない何かすごいことが欲しかったんだ」

 

清水「勇者も主人公も……ちっぽけで惨めで何にもない、根暗で陰キャな俺を満たしてくれる……何かが俺は欲しかったんだ」

 

清水「……」

 

──……今は何をしているの?

 

清水「……みんなと一緒にクラスメイトのところへ戻っている最中だ」

 

清水「各貴族や王族は俺の罪を指摘してくるだろうけど、元々が戦争に勝手に巻き込まれ、精神が不安定なところで魔人族に利用された被害者……」

 

清水「先生としてはこういった話で押し通すつもりなんだそうだ。元々、異世界から連れてこられた勇者が引き起こした事件……ともなれば無視できない事態だからな」

 

清水「あれこれ理由を並べ立てられて、俺が無罪になる様に話が動くと思う」

 

清水「……もしも、ある程度この戦いの決着がついたら遺族のためにしてあげられる何かを探してみようと思うよ」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

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