生まれた時から最強だった   作:roborobo

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第9話

 

 

【香織の夢】

 

香織「言っちゃあなんだけど、私ってとっても美人でかわいい女の子だなぁって思うんだよね」

 

――お、おう……

 

香織「だってそうでしょ? 顔は整ってる、成績はそれなりに優秀。人付き合いだって、無下にはしない」

 

香織「恵まれた両親のもとに生まれて、友人関係だって良好。私のように、恵まれている人間なんて、そうそういないの」

 

香織「学校で何て呼ばれてるか知ってる? 我が学校自慢の二大女神」

 

――あ、知ってたんだ。っていうか自覚あったんだ……

 

香織「……」

 

――……おっと、そこで口が止まるってことは何か言いたくなさそげな話がおありか

 

香織「……」

 

香織「私たちくらいの年頃だとね、外見だとかその人の癖だとかいろいろ理由はあるけど、第一印象ってその人の印象を決定づけるの」

 

香織「私なんか、まさにそれだった。顔がよかったから、美人だったから。子供のころからちやほやされて、男の子も女の子もみーんな私に集まってきた」

 

香織「その時になって気づいたの。あぁ、私って顔がイイんだって」

 

――……他者からの評価が、イヤが応にもお前に容姿を客観的に見れるきっかけを作ったと言うわけか

 

香織「待ちゆく人が私を見れば、振り向かない男の人はいなかった。ジロジロとねめつける視線。『幼児』のころですら、セクハラめいたものがあるんだってことを、理解させられた」

 

香織「ねぇ、わかる? 幼児の時点で、大人は子供に欲情するんだってことを嫌でも思い知らされる気持ちが」

 

――……

 

香織「……コンプレックス、って言うのかな。誰にだって、外見で自分を嫌悪することがあるの」

 

香織「太ってるだとか、ブサイクだとか……私も、ほんとはおんなじ。成長するたびに、私の顔はイヤでもきれいになっていく。美少女から美女に、キレイに、美しく、整えられていく。私は、これと一生付き合っていかなきゃならない」

 

香織「そうなれば、周りの男の子はだんだん激しく接触してくるの。距離を取ろうにも、外見がイイからたくさん寄ってくる。挙句の果てには、『二大女神』なんていうブランドが出来上がればもうどうにもならない」

 

香織「そのたびに、男の子たちがなんていってるかわかる?」

 

 

香織「俺ならキミを幸せにできる。『本当の白崎さん』を知っている……だって」

 

 

香織「笑っちゃうよね。本当の私なんて、どこにもないのに……すり寄ってきて、私を所持しようとして、自己満足を満たすために近づいて……まるで、私はトロフィーみたい」

 

――……

 

香織「ほとんど何も知らない男の子が私の外見にすり寄って、何も知らない遠くの男の人はブランドで近づいてくる」

 

香織「男の人なんて、みんながみんな、こんなのバッカ。自分の理想を私に押し付けて、私が手に入ればそんな理想を自分のモノに思い込んでいるバカ」

 

香織「……南雲君以外の、男の人なんて……」

 

――……いやさぁ、前々から思ってたんだけどなんであんな陰キャが好きだったわけ?

 

香織「……えーっと」

 

香織「前から言ってたよね。私、彼の強さを見たことがあるって」

 

――……

 

香織「……南雲くんはね、本当はスッゴイ強いんだって思ってた。見ず知らずのおばあさんのために、ガラの悪い人を追い返すために何度も何度も土下座をしてたの」

 

香織「あれこそが、南雲君の本当の強さなんだ……彼は、たとえ弱くても自分より強い相手をやり過ごすために、どんなことだって成し遂げる」

 

香織「彼のような『強さ』が……その優しさが……私は、惹かれたの」

 

――……

 

香織「……えへへ。ちょっと恥ずかしいな」

 

――……

 

――なぁ、一つ聞いて良いか?

 

香織「? えっ、なぁに……?」

 

――……なぁ、お前って……

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

【――ハジメの夢】

 

ハジメ「……」

 

――うーっす南雲ー!(磯野のニュアンスで)

 

ハジメ「……」

 

――ゲームしようぜゲーム!!

 

――今日はさぁ、w〇iあたりを持って来たんだよねぇ?

 

――このころのゲームって、D〇からより発展させたかのようにプレイヤーの動きやら直感的な動きを反映しようとしてるじゃん?

 

――これとかさぁ、すごいんだぜ? 射撃ゲーム!

 

――これだったらさぁ、お前のバトルスタイルと合わさって現実でも有効活用できそうなんよ

 

――ねぇーだからさあー……

 

ハジメ「……」

 

――……こっち向けよお前

 

ハジメ「……」

 

――……はぁぁぁぁぁ……

 

――ぬぁぁぁぁんで、こっちがここまで気を遣わなきゃいかんのですかね……

 

ハジメ「……」

 

――……

 

――いやまぁ、ちょっと指摘しすぎたのは悪かったよ。でもさ、こっちだって別に悪意があったわけじゃない

 

――元からお前には友好的だし、好意だって持ってる

 

――私としては、単純にあんな指摘だとかお説教よりもお前と楽しめたらと思ってるよ

 

――……イヤ、ホンとここは本音なんだけどなぁ……

 

ハジメ「……」

 

――……

 

――ハジメ、今度からはここにユエ達を呼ぼうか?

 

ハジメ「は……?」

 

――前々から思ってたんだ。流石に二人っきりだと話が弾まないなぁって

 

――それに、以前からちょっと気になってたことがあってな。その点を含めてユエ達と話がしたい

 

――異世界に来てからの話と……地球での話を交えてな……

 

ハジメ「……」

 

――……

 

――分かった。目覚めるまで、私はここから離れる

 

――……一人で考え事がしたいと言うのなら、そこにいてくれ

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(俺が、何もしてこなかった……?)

 

ハジメ(俺は、俺は確かに、やってきたはずだ……いろんなことを)

 

ハジメ(……学校は、元から単なる通過点で踏み台でしかない。だからこそ、ヒトとの距離を取って……)

 

ハジメ(『不要』……っ、だからっ……!)

 

ハジメ(っ、違う違う違うっ! 俺は、確かに、ちゃんと地球でいろんなことをっ……)

 

ハジメ(!! そうだ、俺はちゃんとトータスでいろんなことをやってるじゃないか!)

 

ハジメ(これまでだってユエやシアを助けた。ティオにミュウ、それにそれに……アンカジのオアシスの問題やグリューエン大火山を攻略して……ミュウをレミアに再会させた……!)

 

ハジメ(やってるっ、……俺は……おれはっ……誰かを切り捨ててない……!)

 

ハジメ「……かったるい」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「なんで俺が、こんな目に……」

 

………………

 

…………

 

……

 

【訓練場にて】

 

光輝「みんなっ、よく集まってくれた」

 

ザワザワ……ザワザワ……

 

「……えっ、なになに? どうしたの天之河くん……?」

 

「なんだよ……急に俺たちを集めやがって……」

 

「部屋で大人しくしてたかったんだけど……」

 

恵里「……」

 

「えっ、あれって中村さん?」

 

「オイオイ、なんでアイツがここにいるんだ?」

 

「どうでもいいから早く部屋に帰らせてくれよ……怖いよ……」

 

龍太郎「……」

 

雫「ね、ねぇ……一体なにするつもりなのよ龍太郎!?」

 

雫「どうして……王宮へ戻ったとたんにみんなを集めて……何をしようって言うの!?」

 

鈴「……あ、あのっ、天之河くん。あのっ、恵里のことなんだけど……」

 

光輝「……」

 

鈴「恵里のやろうとしたこと、きっと許されることじゃないってわかってる。でも、それでもっ、せめて罪を償えるなら」

 

キィィィィィィ……

 

鈴「……えっ、な、なんで剣を抜いて……」

 

ビュンッ……ドゴォォォンッ!!!

 

「きゃ、きゃぁぁぁぁっ!」

 

「な、なんだ!? 何やってんだアイツ!?」

 

「ひっ、ば、爆風……!?」

 

雫(これはっ……魔力のこもった剣で地面を殴った……!?)

 

光輝「お前ら、少し黙れ」

 

――ピタッ……シーンッ……

 

雫「こ、光輝! なにをやろうとして……」

 

グイッ……

 

龍太郎「……黙ってろ」

 

雫「ちょ、ちょっと……?」

 

光輝「……」

 

光輝「こいつは、俺たちを魔人たちに売ろうとした裏切り者だ」

 

――ザワッ……

 

「えっ……えっ……!?」

 

恵里「……っ」

 

光輝「こいつは元々、自分の隠されている能力をひた隠しにし、俺たちを裏切ろうとしてたんだ」

 

光輝「自分自身の私利私欲のために、俺たちを敵に売り、自分だけ助かろうとした……!」

 

「う、うそだろ……?」

 

「そんな、あのおとなしい中村さんが……」

 

檜山「……こいつの裏切りは俺が俺が証明する」

 

檜山「俺は、こいつに交渉を持ちかけられた。自分の計画のために、俺の利益になりうるものを提示してきたんだ」

 

檜山「ここまでは口約束だが……細かな計画の内容と道具については渡されていたから物的証拠はある」

 

「うわっ、マジかよ……何考えてるんだよアイツ……!!」

 

「ふざけんなっ! テメェ、みんなが頑張ってる中で……なんてことを!!」

 

恵里「……」

 

恵里「あ、天之河くん……」

 

光輝「……」

 

光輝「……恵里……」

 

恵里「……っ! 天之河くん……!!」

 

恵里(あぁ、そうか……そうだったんだ……)

 

恵里(天之河くんは、やっぱりボクの理解者だったんだ……こうやってボクをさらし者にして罰を与えつつ……みんなでボクを許すように諭そうとしてくれている……!)

 

恵里(あぁ、天之河くんっ、天之河くんっ……!!)

 

光輝「――……」

 

――ビュッ……

 

恵里「……へっ?」

 

――バギィィィッ!!!

 

恵里「んっべぇ゛ぇ゛っ!? ぐげぇ゛ぇぇっ!!??」

 

「なっ……」

 

「け、剣のさやで……おもっくそぶん殴りやがった……!!」

 

光輝「……」

 

雫「!!! こ、光輝っ!!!」

 

鈴「え、恵里ぃぃ!!」

 

光輝「龍太郎、二人を黙らせろ」

 

龍太郎「……」

 

グイッ……

 

雫「あ、あなたなにやってるの!? ……まさか、この集まりって……」

 

鈴「え、恵里の公開リンチ……!? 嘘でしょ、ねぇ、ねぇぇ!?」

 

光輝「……」

 

光輝「ゆるされると、思ってるのか」

 

恵里「へっ……え゛っ……?」

 

光輝「自分自身の『利益』のために、他者を顧みることなく、自分の欲望だけを優先して……」

 

光輝「あまつさえ、俺たちを裏切り、売ろうとした……!!」

 

光輝「それを、はいそうですかと言って水に流せると思ってるのか……!!」

 

恵里「……ァ゛、ま、まっへっ……」

 

恵里「歯、はが、おれちゃよっ……鼻も、まが、まがっへ、はなぢっ……」

 

光輝「傷なら、いくらでも癒せる」

 

光輝「そのための王宮の治癒士を用意している。仮に、お前が戦えなくなっても、お前という裏切り者を抱え続けるよりは何も出来ずに引きこもってくれた方が楽だ」

 

恵里「ま、まっへぇ゛゛ッ!! まっで、やべで、こぉ、ぎぐんっ!!」

 

――ブンッ、グチャァァッ!!

 

恵里「んひィ゛ィィい゛っ!!!」

 

鈴「あっ、あぁぁっ……!!」

 

――バギッ、ボギッ、ゴンッ゛ッ゛!!

 

恵里「おぼぉ゛ォ゛ォ゛っっ!! ンぐぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇっ!!」

 

雫「やめて……やめてぇ……!」

 

檜山「お、おいっ、いくらなんでも、さすがに……」

 

光輝「……」

 

――……カランッ……

 

恵里「はぁ゛---……はぁ゛----…………」

 

光輝「……」

 

光輝「よし」

 

恵里「! ひゃ、ひゃっと、おわ……」

 

――スッ……

 

 

光輝「今まで引きこもっていた連中は恵里を殴れ」

 

 

檜山「……は……?」

 

光輝「手段は問わない。武器でも素手でも魔法でも、死なない程度に痛めつけろ」

 

光輝「これで、ヒトを傷つける感触を覚えこめ」

 

鈴「!?!? なっ、なっ……!!」

 

恵里「……ぁ、うぇ……?」

 

「……ちょ、ちょっと、はぁ!?」

 

「い、いやよ……そんなのいやっ……!!」

 

光輝「……」

 

光輝「俺たちは、もうこれ以上甘えられないんだ」

 

「……な、なに言ってるんだ……?」

 

光輝「この世界は争いで満ちている。俺たちの戦いはれっきとした戦争だったんだ」

 

光輝「敵はもっと悪辣な手で攻めてくる。戦えるのは俺たちだけだ。なのに、それでいつまでもこのままじゃ……俺たちは元の世界に帰れない」

 

光輝「誰かが手を汚さなければ先に進めない、勝てない」

 

光輝「俺たちは、確かにこの世界に呼ばれて連れてこられた被害者だけど……それでも環境に順応しなければどうにもならないんだ」

 

――スッ……

 

光輝「……さぁ、やれ……」

 

「ぁ、うぅ……!!」

 

「やだっ、やだぁ……!」

 

――ズンッ……!!

 

「ひっ……!」

 

鈴「い、威圧……!?」

 

雫「……こ、光輝……」

 

光輝「……いいか、お前ら」

 

光輝「ここで恵里を殴れないのなら、俺がお前たちを『ぶっ殺す』」

 

「……ぅ、うぅぅ……」

 

「ご、ごめんなさい中村さん……」

 

恵里「……っ、うぞ、うぞっ……!!」

 

恵里「ま、まっでェ゛ェ゛ェ゛!! み、み゛んなぁ゛っ! やべでっ、ほ、ほんどに、いだいのっ! ほんどにいだいのぉぉぉぉ!!!」

 

光輝「……部屋に戻るぞ」

 

龍太郎「……」

 

鈴「ま、待ってよ天之河くん!」

 

雫「……っ」キッ

 

………………

 

雫「光輝、聞かせなさい。あれは……なんなの……!」

 

光輝「……」

 

鈴「どうしてっ、どうして……! あそこまでっ、する必要なんて……!!」

 

光輝「……」

 

雫「答えなさい……! 光輝――」

 

――ゲホッ、ゲホッ……

 

雫「……こ、光輝……?」

 

光輝「はぁ゛-……はぁー……!」

 

龍太郎「……光輝、もういい。もういいだろ」

 

光輝「……っ」

 

龍太郎「……部屋に戻って休めよ。お前は、しばらく休め」

 

――ズルズル……ガチャッ……

 

雫「……な、んで」

 

龍太郎「あいつが、なにも背負わねぇとおもったのかよ」

 

雫「……えっ……」

 

龍太郎「あいつだってな、何度も考えたんだ。こんなこと、やってもいいのかって」

 

龍太郎「でもな、やらなきゃいけなかったんだ。これから先、魔人たちに勝つには、どうしても全員の力を結束しなきゃならねぇ」

 

龍太郎「なのによ、それで仲間が使い物にならなきゃどうにもならねぇんだ。だから……」

 

龍太郎「あいつは、自分がその手本になったんだ。あいつ、俺が言うのもなんだけど、頭いいんだけど……融通が利かねーっつーかよ」

 

龍太郎「こういう極端なことしか出来ないけど……みんなを救いたいから、こうするしかねーんだよ」

 

雫「……あっ……」

 

鈴「そ、そっか……ああやって罰を与えたことにすれば……」

 

雫「……生徒の殺人への忌避感と中村さんの償いを同時に行えるってこと、か……」

 

龍太郎「雫、お前はあいつがそんな軽薄で、何も出来ないと思ってんのか」

 

雫「……そ、それは……」

 

龍太郎「思ってたんだろ? 子供っぽくてわがままな奴だから、きっと今回も変な間違いを起こしてたんだって……」

 

雫「あなた、気づいてたの……?」

 

龍太郎「ははっ、幼馴染だからな」

 

龍太郎「人間、だれしも間違えるからさ。あいつが完璧じゃないときだって、何度か見たことがあったから」

 

龍太郎「だから、さ。こうして分かってあげられる俺たちが……俺たちのリーダーを支えなきゃならねぇだろ」

 

龍太郎「お前が思うほど、あいつは子供なんかじゃねぇよ」

 

雫「……っ」

 

雫(……私、光輝の悩みをわかっていなかった)

 

雫(彼だって気負っていたのに、それなのに、いつものように思い込んで、勝手に暴走してるって思って……)

 

雫(……)

 

雫(私、イヤな女の子だ……)

 

………………

 

…………

 

光輝「……」

 

光輝「……は、ははは……嫌な感触だな……」

 

光輝「人を殺したときよりも……殴っているときの方が、何倍も痛いや」

 

光輝「……」

 

光輝(……これでいい、これでいいんだ)

 

光輝(『なぜ』かは知らないが、俺はずっと……心のどこかで人との仲で不和を呼ぶを事を恐れていた。俺自身が……そうやって嫌われることを、嫌っていたんだ)

 

光輝(皆の目を覚まさせるには……戦いの生々しい感触を覚えてもらうしかない。例え、帰還した時に恨まれようと全員が全員、死なずに帰してやれるのなら……)

 

光輝(恨まれ役は、いくらでも買ってやる……! すまない、みんな……!!)

 

光輝(……)

 

光輝「……なぁ、南雲」ポツリ

 

光輝「俺も、お前みたいに強くなりたいよ」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【メルジーネ海底遺跡】

 

ハジメ「はぁ……ユエたちとはぐれちまったな」

 

香織「うん……」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ(香織が、落ち込んでいる)

 

ハジメ(……無理もねぇか。ここに来てから、こいつは自分が活躍できていないことに負い目を感じている)

 

ハジメ(ハッキリ言って無理もない話だ。なにせ、解放者たちの魔法を得ながら、そもそもが吸血姫、バグウサギ、竜の長などなど下地からして恵まれている連中だ。例えチート染みたクラスメイトであろうと……修羅場の数ではどうあがいても香織は劣る)

 

ハジメ(なにせ、ここメルジーネ海底遺跡はイヤらしい魔物や敵もわんさかいれば、さらには過去に狂った神により争わされた神の盤上を見せ続けられてる。精神的にも摩耗している)

 

ハジメ(その上、船を降りてから……霊に憑りつかれたときに……解放してやってからやたら静かだ)

 

ハジメ(……)

 

ハジメ(こいつが、俺に好意を抱いている……か)

 

香織「……」

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「なぁ、香織。お前、何のために俺についてきたんだ」

 

香織「……えっ、なんのためって……」

 

ハジメ「俺には、ユエがいる。これだけは絶対に譲れないし、誰にも譲らない」

 

ハジメ「アイツがいるからこそ、今の俺がいる。奈落に落とされても俺は俺でいられた。いつもは雑な扱いをしているが、シアやティオだって、俺からすれば……大切な仲間だ」

 

ハジメ「……ハッキリ言って、お前に俺の隣を預けられる席なんてない。もしも、お前の中にある葛藤が――」

 

香織「違う」

 

ハジメ「……は?」

 

香織「私は……そんなことで悩んでいたんじゃない」

 

ハジメ「……?」

 

香織「……もう少し、一人で考えさせて」

 

ハジメ「あ、あぁ……」

 

香織「……」

 

香織(……私は、南雲君のことが好き。彼の隣にいたいと思うし、生きてくれてうれしかったし……外見が変わっていても、あのころから中身は全く変わっていない。その優しさは、ユエ達の存在が証明している)

 

香織(なのに、なんでだろう……私の気持ちが、彼に寄りそえない。ぐるぐると胸の内を渦巻いている)

 

香織(……理由は一つだけわかる。実は、私は自分で南雲君たちについていこうと決断していない)

 

香織(あの時、オルクスから脱出したあの日……私は、光輝くんの配慮で、ついていってるだけだった。彼の力になってくれと)

 

香織(自分の気持ちに決着をつけている。だけど、自分の判断で同行していないから……どこかで、私は彼の心に寄り添うことが出来ない)

 

香織(……変わる、変わる、変わっていく……)

 

香織「……」チラッ

 

ハジメ「……? な、なんだ……?」

 

香織(彼の外見は変わった。だけど、変わった……ように、おもう……けど……)

 

香織(……)

 

香織(……あれ……?)

 

 

香織(……ほんとうに、彼は『変わった』の……?)

 

 

香織(優しさとか……なんだ、なんだろう……彼の本質は、確かに変わっていないように、思える……)

 

香織(……思えば、彼は自分から誰かに接しようとしたこと……私は一度も、見ていない……)

 

香織(学校のときだってそう。私は南雲君に積極的に話しかけていたけど、彼から話しかけられたことなんて……一度だってなかった……)

 

香織(いつも学校で一人で、いつも一人ぼっちで、何かをしようとしていなくて……)

 

香織(彼自身が……何かに合わなければ、何かをしようとしていなくて……)

 

香織(……)

 

香織(……考えてみれば、私は自分から誰かから積極的に付き合わされることはあっても……誰かに積極的に付き合わせようとなんて……したことが……なかった……)

 

香織(だって、自分から何もしなくても周囲が関わってくるから。だから……)

 

香織(……だ、から……)

 

ハジメ「……おいっ、オイ香織……?」

 

香織「……」

 

 

香織「……あぁ、『そう』……だったんだ……」

 

 

ハジメ「あ……? お、オイ……」

 

香織「……は、ははっ、は、ははは……っ」

 

香織「そっか……そう、だったんだ……」

 

ハジメ「……??」

 

香織「……ごめんね、南雲君」

 

香織「そろそろ、行こうか」

 

香織「……ねぇ、南雲君。さっき、霊に憑りつけれていた時……こう言ってたよね」

 

香織「『大切』だって」

 

ハジメ「……あ、あぁ……」

 

香織「こんな、はっきりとしていない私に『大切』って言ってくれてありがとうね」

 

………………

 

…………

 

……

 

【……少し時間が戻って、香織の夢の中】

 

 

――お前、本当に南雲ハジメのことが好きなのか?

 

香織「は……?」

 

――見ていてずっと思っていた。お前は、今までの人生の中で、南雲……ハジメがこれまでと違う男性だと思ってから好きになったと

 

――これは確かだろう。自分にとって、惹かれる異性の良さなんて、ヒトによっては違うからな。あいつの言葉を借りるならば、いわゆるツボという物がハジメにあったのだろう

 

――だけどな……お前……

 

 

――今までハジメと『まとも』に『話し合った』ことはあったか?

 

 

香織「……は、話し合い……?」

 

――振り返ってみろ。お前がハジメのことを好きになったのは、たまたまハジメが体を張ったところを目撃したからだ

 

――この時点でお前はハジメと面識がない。たまたまの光景で好意を抱き、お前自身が好きになった相手に対して……

 

――好意をぶつけていた……だけではないか……?

 

香織「そんなことない! そんなこと……!」

 

――……本当か? 思い返してみろ……

 

――あいつは、一度でも……ハジメからお前に話しかけたことはあったか?

 

香織「それは!」

 

香織「……そ、れは……」

 

香織「……っ」

 

――ないよな、あるわけがないよな

 

――だって、お前自身がハジメの良さだけを知っただけで会って、普段から、日常的に付き合いがある中で知ったわけじゃないのだから

 

――アイツのあずかり知らぬところで好意を募らせようと、伝えようともしなかった。なのに、ただただおせっかいな自分なりのアピールを繰り返すだけで……

 

――お前は……あいつに対して、本当に、『得』になることをしてきたか……?

 

香織「……ぁ、あ……」

 

香織「わ、私は南雲君の、ことが、すきでっ……」

 

香織「彼はっ、彼は今までの、男の子と、ちがってっ……!!」

 

――……すごいな、お前だけがハジメのことを理解しているんだな

 

香織「そう! そうだよ! 私は、『イジメられて』、『オタクの彼』を本当に理解しているの!!」

 

香織「私だけが、ハジメくんをっ――!」

 

――……ねぇ、じゃあさ

 

 

――それ、お前が今までされてきたコトとどう違うの?

 

 

香織「……は、へ……?」

 

――『他人から一方的に好意をぶつけられた』『話しかけてもいないのにしつこく付きまとってくる異性』『迷惑であることを全く考慮しない』

 

――……おかしな話だな? お前が愚痴っていた、これまで邪険にしてきた男たちの特徴が……

 

――なんで、お前に当てはまるんだろうな……?

 

香織「なっ、あっ……!!」

 

――お前は知っていたはずだ。あずかり知らぬところで好意を抱かれて、ただただ接してくるだけの異性が如何にジャマでしかなかったことを

 

――なのに、お前はそんな連中と同等に堕ちながらも、それらを客観的に考えられないのか。わかるか? その意味が

 

香織「や、やめてっ……! やめてっ……!!」

 

――……ヒトは、他人がいなければ生きていくことは出来ない

 

――お前たち学生は、若いうちはまだまだアイデンディティが未熟であり、他者を介して己を顧みる。他人の目こそが、自分を客観的に見ることが出来るのだ

 

――なのに、お前はハジメを見て、その客観性を失った。過去の愚かしき連中と同等なことをしながら、それに気づけなかった

 

――それは……

 

香織「やめてっ! やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

――お前は、本当はハジメが好きではない

 

――お前自身の目でハジメの一側面を都合よく解釈し、己の理想をハジメに押し付けていただけだ

 

 

香織「っっ……! ぁ、ああぁっ……!!」

 

――素敵な異性を自分のモノにしたい、そんな自慢の彼を傍に置いておきたいと言う……自分に自信がないからこその所有欲、独占欲

 

――お前のその感情は、お前をトロフィーのように見ていた男連中と何ら変わりはなかった

 

香織「……っ、っっ……」

 

――それゆえに、お前は奴が手に入らないことに癇癪を起す

 

――お前がハジメを想うのならば、本来であれば力としても足手まといのお前はついていこうとはしない

 

――……もしも、お前の心が独占欲で来るものであるならば……こう思うのではないか?

 

――ユエには負けたくない

 

――何よりも、自分の心を埋めてくれる彼を誰かに渡したくない、と

 

………………

 

…………

 

……

 

【……再びメルジーネ海底遺跡、祭壇にて】

 

香織「……」

 

ユエ「……香織?」

 

シア「あのー、どうしましたか?」

 

ティオ「……」

 

ハジメ「……これで、『再生魔法』を取得した」

 

ハジメ「なぁ、よかったな香織」

 

香織「……」

 

ユエ「……ねぇ、どうしたの?」

 

香織「……」

 

シア「あ、あのっ、ハジメさん……香織さんは、何かに憑りつかれてでも……」

 

ハジメ「……いや、香織にそんな反応はない」

 

ハジメ「なぁ、どうしたんだ香織……お前さっきから変だぞ」

 

香織「……」

 

スッ……ペコッ……

 

ハジメ「は……?」

 

ユエ「……えっ、な、なに……?」

 

香織「……今まで、あなた達に迷惑をかけてごめんなさい」

 

香織「私が今まであなた達についていったのは……実の所を言うと、自分のことがわからなかったの」

 

ハジメ「……何を言って」

 

香織「南雲君、あなたに一つ言いたいことがあるの」

 

香織「私は、あなたのことが好き」

 

ユエ「……それは、宣戦布告と見て――」

 

香織「……『だった』」

 

ユエ「へ?」

 

香織「……私ね、あなたみたいな男の子は、初めて見るタイプだったの。優しくて、誰かを思いやられる本当の強さを持っていて、そんな……あなたのことを尊敬して、それが本当の強さだと思っていたの」

 

ハジメ「……あぁ、そうだ。だからこそ、俺は変わっ――」

 

 

香織「変わってない。あなたは、何一つとして」

 

 

ハジメ「……え?」

 

シア「……?? あのっ、前々話についていけ……」

 

ティオ「シアよ、黙るのじゃ」

 

香織「……私、あなたのことを優しい男の子だと思っていたの。不良への土下座もそう。あなたは、いざというときに誰かに頭を下げられる、自分の身を捨てられる優しさを持っている」

 

香織「……でも、本当は違った。あなたを見ていて、何よりも違ったのは……あなたは、実はとても……」

 

 

香織「他人に、興味を持てない人なんだって。やっと気づけたの」

 

 

ハジメ「……ぇ、は……?」

 

香織「ねぇ、思い出してみて南雲君。あなた、学校にいた時から……私のこと、心では邪魔だと思っていたんだよね」

 

香織「ううん。それだけじゃない。あなたは、クラスメイトその物を邪魔なものとしか思っていなかった」

 

ユエ「そ、そうなの……?」

 

ハジメ「……否定は、しない。それで他のクラスメイトからやっかまれたから。まぁ、いい迷惑だったけど、俺は気にして……」

 

香織「そう、あなたは気にしてなんていない。まったく。でも、それが悲しいことに私の好みと……かみ合っていただけだった」

 

香織「だって、本当にそんな優しさがあるなら、他者を思いやれるなら、あなたはあのクラスと馴染めていた。そのコミュ能力で誰かと付き合えていた」

 

香織「私は……そんな『なにもしない』あなただからこそ……からっぽなあなたに都合の良い理想を押し付けていただけだった」

 

ハジメ「お、おいっ……なにいって……」

 

香織「……人間は、自分の頭で物事を都合よく解釈しちゃうんだって。私は、きっとあなたの一側面を、自分にとって都合よく解釈してただけだったんだ」

 

香織「私は、ただただあなたが見せていた優しさや強さに見える……『何か』だけをずっと見ていただけ。あなたの『何か』を、自分が惹かれる都合の良い物に考えていただけ……」

 

香織「……私の気持ちは、恋ですらなかった」

 

ハジメ「……そんな……」

 

ユエ「……それじゃあ、あなたは最初からハジメを明け渡すっていうの?」

 

香織「……」

 

ユエ「あなたは勝手についてきただけ。そんな人間なら、あなたが口を挟む必要は――」

 

 

香織「あなたって、本当に南雲君のことが好きなの?」

 

 

ユエ「……えっ……」

 

香織「ううん。あなただけじゃない。シアやティオも、本当に南雲君のことが好きなの……?」

 

シア「な、なに、言ってるんですか!?」

 

ティオ「……」

 

香織「あなた達の絆は知っている。それが短期間のモノではないことも、私は承知している」

 

香織「でも、あなた達って南雲君の『どこ』に惹かれたの……?」

 

ユエ「……っ」

 

ユエ「私は、暗闇の底で見つけてくれたハジメのことが好き。暗闇の中で、彼は私に『光』を見せてくれた」

 

シア「……わ、私は……弱いままだった私に、家族を守れるほどの『力』を授けてくれました。それが、好きな理由ですぅ!」

 

ティオ「……」

 

香織「……」

 

ユエ「トータスで出会った彼は、誰よりも強くて、誰よりも逞しくて、だから……私は彼を支えたくて……!」

 

香織「……ねぇ、ユエ。気づいてる?」

 

 

香織「あなた達は、さっきから『トータスに来てからの南雲くん』のことしか喋ってないことを」

 

 

ハジメ「……!」

 

ユエ「……な、何言ってるの?」

 

香織「彼が地球でいたころはどんな人だったか知っている? 彼の両親がどんな職業についてるか知ってる?」

 

香織「彼が……この命の安い世界に来る前の、平凡なオタクだった時の彼を……あなた達は知っている? いや……一つでも知ろうとしていた?」

 

香織「彼の持つ……『光』や『強さ』に結び付く……ただただ何もない、彼の『空っぽな部分』を自分たちで解釈してるだけじゃないの?」

 

ユエ「な、なに言って……!!」

 

香織「でも、それは仕方ないことだと思うよ」

 

シア「ふぇ……?」

 

香織「ユエは閉じ込められて、シアは種族ごとの危機。ティオも……シアとほぼ同じ理由」

 

香織「ここにはいないミュウちゃんだってそう。あなた達は、覆しがたい現実に苛まれている中を、覆してくれる南雲君に惹かれているだけ」

 

香織「そんな強い力を持っていれば……そこに目を惹かれないわけがない」

 

香織「だからこそ、あなた達は絶対に知りえない。この世界の魔法……過去を映写する何らかの技術がない限り」

 

 

香織「トータスに来る前の彼を、知ることは出来ない」

 

香織「彼が、自分から心を開かない限り」

 

 

ユエ「……わ、私は、ちがっ……!」

 

ティオ「やめぬか、ユエ」

 

ユエ「てぃ、ティオ……?」

 

ティオ「……ご主人が、何も言えないままじゃ」

 

ハジメ「……えっ、あ、あ……」

 

ティオ「……」

 

 

ティオ「妾は、我が種族のための『復讐』に……ご主人を利用しようとしている」

 

 

ユエ「……えっ……!!」

 

ハジメ「!? お前っ……」

 

香織「……あなただけは、包み隠さず言うんだね」

 

ティオ「我が一族の誇りにかけて、嘘は言わぬ。お前は、包み隠さず、ご主人の底にあるものを教えてくれた」

 

ティオ「ならば、妾も本心で語らねば……なるまい。そう思ったからだ」

 

ティオ「そうでなければ……きっと、このまま嘘をつき続けることになるから……」

 

香織「……」

 

ティオ「だが、それでもこのお方を好いているのは本当じゃよ。復讐したい気持ちも、お慕いしている気持ちも……本物なのじゃ……」

 

香織「……意地悪なことを聞いちゃったね。ごめんね、四人とも」

 

ユエ「……どうして、今になってそんなことを……」

 

香織「……光輝くんとおんなじことを言っちゃうけど、彼のことを支えて欲しかったから」

 

ユエ「えっ……」

 

香織「これ自身が私の本心でもあるの。彼のことを慕ってはいるし、クラスメイトとしても彼に親愛の情がある」

 

香織「……南雲君、よく聞いてほしいの。これは、とてもお節介な私からのアドバイス」

 

ハジメ「アドバイス……?」

 

香織「……南雲君、あなたの周りにはいろんな人が集まる。それが、何なのかわかる?」

 

香織「あなたは何もしないし、言い返さない。だから、何もしないあなたのことを周囲は自分の思った解釈をあなたに押し付けるの。『言い返さないから』」

 

香織「私はユエたちのように『好意』を持つ者もいれば、檜山くんや……関わってくる敵のように『敵意』を返している」

 

香織「あなたは、自分から相手に対して積極的に何かをしようとはしない。好意も敵意も、与えられたら返す。それだけ。言い換えれば、あなたは誰かに何かをされなければ……」

 

 

香織「自分から何もしな――」

 

 

ドパァンッ!!!

 

香織「っ!?」ビクッ!!

 

ユエ「は、ハジメ!?」

 

ハジメ「……っ、だ、だまっててくれ……!」

 

ハジメ「……俺はっ、俺はっ……!!」

 

香織「……」

 

ハジメ「……っ!」ハッ

 

シア「は、ハジメさん……?」

 

ハジメ「……すまない、香織」

 

ハジメ「みんな、とっとと済ませよう」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

【ハジメの夢の中】

 

――あーあ、やっちゃったー

 

ハジメ「……」

 

――……まさかなぁ、いやでもなぁ……

 

――まー、でもありえないことでもなかったかな。自分の中のコンプレックスに近い物に触れれば苛立つのは見えてたよ

 

ハジメ「……」

 

――……

 

――まっ、あれだわ。メルジーネ海底遺跡攻略おめっとさん

 

――にしてもあれだよねぇ。いろいろ苛立つ者がありまくりだからってソレをユエにぶつけちゃいかんよキミ

 

――ベッドの上とかスッゴイ激しかった。地震かな? って思った

 

ハジメ「……」

 

――……

 

――ハジメ、香織にいろいろ言われてどう思った?

 

ハジメ「全てが的外れだ」

 

――……

 

ハジメ「俺は、昔から誰かに迷惑をかけないように……争うのが嫌だからこそ、喧嘩を起こさないように……してたんだ……」

 

ハジメ「だからっ、だから俺は……『優しい』はずなんだ……」

 

――……

 

ハジメ「今までだって、ずっと誰かとトラブルを起こしてこなかった!」

 

ハジメ「俺がトラブルに巻き込まれるのはっ! 相手の方が俺をトラブルに巻き込むからだ!!」

 

ハジメ「周りに気を使って、俺は俺のやれることをしてきただけだ! なのにっ、なのにっ!!」

 

ハジメ「あんな言われはないんだよ! 誰かが俺に口を突っ込む権利なんて――」

 

――お前、私の言ったことを覚えているか?

 

ハジメ「お前っ、お前まで俺に……!!」

 

――『優しい』? よくそんな言葉を言えたものだな

 

――その言葉こそが……何よりもお前にとって遠い言葉であるはずなのにな……

 

ハジメ「……な、なんでだよ……だって、俺は……」

 

――私は言ったはずだぞ。お前は、他者との関係を切り捨てて、誰かとの付き合いを断ち切ってきた……

 

――『寂しい生き方』を自分で選び続けていたと

 

――そんな寂しいと言えるほどに……何もないお前の青春に、そんな優しさが、他者に与えられていたか?

 

ハジメ「そ、それは……!」

 

――他者とのかかわりの中で、付き合い方や社会性を育む。それこそが、ヒトが得られる優しさの一つだ

 

――だけど、お前は……前にも言ったように、そんな優しさを誰かに向けたことがあるか?

 

――光輝たちにその優しさを向けたか? クラスメイトの誰かと積極的に付き合おうとしたか?

 

――……確かにお前自身に才能とやらがあれば、きっとこれから先、恵まれた人生が待っているだろう

 

――過去の偉人も己の才能を持って、社会性が欠落していても乗り越えてきたケースもある

 

ハジメ「そ、そうだ……! だから、俺は……」

 

――だが、それはお前自身が他者を切り捨てる理由にはならない

 

――ましてや……お前にゲームや漫画の創作物などの……創作の才能があるとも思えない

 

ハジメ「……」

 

チャキッ……

 

――……ふぅん。怒りのあまりに、夢の中でドンナーを取り出せたか

 

ドパァンッ!!!

 

――……無駄だ無駄だ。そうやったところで、私には当たらんよ。それで、話の続きだが……

 

ハジメ「クソッ、クソッ、クソ! どこだっ、どこにいる!」

 

――……創作物は、ヒトの作る鏡のようなものだ。作品こそが、創作者の思想や技術が色濃く表れる

 

――そうなれば必然的に……創作者に求められるのは『他者への理解』。当たり前だよな。だって、幅広い多数の人間に見せるのであれば、その深い人間性が求められるのだから

 

――浅い人間では浅い思想による作品しかできない。だからこそ、社会の中で己を深め、その色濃さを作品に投影せねばならない……

 

ハジメ「どこだっ……どこだぁ!!」

 

――……誰かに見てもらう事を意識するという事は……誰かが、どう思うのかを考えなければいけないという事

 

――他人を最も理解しなければならない仕事に就くはずのお前は……他人とのかかわりを断ち切ろうとしている。これが、いかに滑稽だという事に……まだ気づかないか?

 

――いや、もっと言えば……

 

 

――クラスという狭い世界のことすら向き合えないお前が……大多数の、大衆と向き合えると……思っているのか……?

 

 

ドパァンッ!ドパァンッ!! ドパァンッッッ!!!

 

ハジメ「はぁ、はぁ、はぁっ……!!」

 

――お前のリアリスナ面と利己的で……ドライに考えられるその精神は確かに見上げたものだ

 

――だがな、邪魔なものを排除し、それで心を痛めない物は、何も感じられなくなる。社会に馴染めなくなる

 

――それどころか、他者を傷つけることを厭わなくなり、ヒトとしての忌避感を、ハードルをあっさり超えられるようになる

 

――恐らくお前は、自分にとってどうにもならない大衆を相手にしてしまえば……

 

 

――そんな連中を、ジャマで言葉が通じないものと断定し、己の圧倒的な力で拒絶するはずだ

 

 

ハジメ「あぁぁ゛、ぁぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーーっ!!!」

 

――……これも言ったはずだぞ。お前の、どこが変わったのだと

 

――……地球にいたころの縮こまって誰かに触れないでいようとするのも……

 

――……トータスに来てからの力を得て、圧倒的な力で威圧し、弾圧するのも……

 

――結局は、どちらも変わらない。避けるか排除するか……何も変わらない……

 

――お前は、『優しい』のではない

 

 

――排他的で人付き合いに消極的だからこそ、ヒトとの軋轢を生まないことを『やさしい』と言い換えていただけだ

 

 

ハジメ「――……っ、っっ……」

 

ドサッ……

 

ハジメ「……っ、く、はぁ、はぁ……」

 

――……

 

ハジメ「……」

 

ハジメ「……戦え」

 

――……

 

ハジメ「戦え!!」

 

――……私は話し合いがしたいんだ

 

ハジメ「戦えェ!!!」

 

――……

 

――……また、今度話しかけるよ

 

ハジメ「っ! 消えるな! 戦え!」

 

ハジメ「戦えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

………………

 

…………

 

……

 

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