篠澤広のPは悩んでいた。
最近破竹の勢いで伸びていた広のファン数が伸び悩んでいる。
ファン数が増えたといってもまだまだ上位のアイドル達と比べると少なめだ。
ここで停滞してしまうのはあまりいい流れではない。
幸いなことに広にはまるで信者のような熱狂的なファンが比較的に多い。すぐに離れていくということはないと思うが、だからといって安心はできない。
俺はあさり先生に相談に行った。
「P君、顔色が悪いですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですあさり先生。少し寝不足なだけです」
「無理は禁物ですよ。篠澤さんのプロデュースについてはしっかり考えられていると思います」
「そうでしょうか。データ等を見るとどうしても不安で」
「データだけが全てじゃないですよ。・・・最近アイドルの顔は見えていますか」
「顔・・・ですか」
「先生からのアドバイスをするならば、もっと篠澤さんのことを見ることをおすすめしますよ」
「見てはいるつもりなのですが、その、彼女はとても不安で常に心配しています」
「ふふ、P君が篠澤さんを大事に思っているのは伝わってきますよ。でもそれだけではだめです。アイドル達は常に成長しているんです。学園生活を通して、友人や先輩たち、授業やトレーニングを通して、知らず知らずの内に大きな成長をしています。そしてその彼女たちと共に成長して導いていくのがあなたの役目ですよP君。しっかり『今』の篠澤さんを見てあげてください」
「今の広さんを・・・」
「ええ。さあ先生からのアドバイスは以上です!あなたの頑張りはちゃんと見ていますからね」
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あさり先生との相談が終わり、プロデューサー室に行く。
「俺はちゃんと向き合えていなかったのか。・・・なんだかふらふらするな。でもなんとか今日中にでも方針を固めたい」
プロデューサー室のドアを開けると、篠澤広がソファに座っていた。
「広さん、今日は休みの日ではないですか」
「うん。Pも今日は休みのはず、何してるの」
「俺はちょっとやることがあって・・・。広さんはしっかり休んでください」
「うん。今休んでる。ねえP、お茶入れてあげようか」
「お茶ですか。・・・ではお願いします」
「任せて」
部屋にお茶のいい香りがただよう。少し気持ちが落ち着く。
「はい、どう、ぞ」
「ありがとうございます。広さんは飲まれないんですか」
「わたしはさっき飲んだから大丈夫」
「そうですか」
しばらくパソコンに向かっていたが、どうにも頭が働かない。
「ねえP」
「・・・どうしました」
「忙しいところごめん、少し教えてほしいことがある。こっちに来てほしい」
ソファの上でこちらに手招きをしてくる。
「なんですか一体」
俺はソファの方に向かう。
「隣に座って」
「広さん遊びなら、あとで・・・えっ」
すると急に身体を引っ張られ、俺は広の方に倒れこんだ。
俺の頭は広の膝の上にいた。
「すみません!今どきます」
「だめ」
俺の身体が広に押さえつけられる。
「P、わたしなんかの力に負けるほどPは疲れている」
「疲れていません」
「P最近ちゃんと寝られてる?」
「・・・寝ています」
「うそ」
「嘘では・・・」
「P、私の目をちゃんと見て」
彼女の目が俺の目をのぞき込む。彼女の髪が垂れ下がり幕ができた。
世界と隔たれた場所で彼女のオレンジ色の瞳だけが見える。
「ちゃんと眠れてる?」
「・・・眠れていません」
「どうして」
「最近、広さんのファン数が伸び悩んでいます。その状況を打破する必要があります。その打開策を考えていて、最近寝不足気味でした」
「ふーん。Pはわたしのことをたくさん考えてくれたんだね。ありがとう」
「Pとして当然のことです」
「そんなことない、よ。ところでP、わたしにちゃんと休むようにって言うよね」
「・・・ええ、言いますね」
「それはどうして」
「しっかり休まないと、良いパフォーマンスができないからです」
「じゃあ今のPは良いパフォーマンスができてる?」
「できていません」
「正直でよろしい、じゃあ今のPにできることは」
「しっかりと寝て休むことです」
「よくできました」
そういうと広は俺の頭をなでた。
「・・・子供扱いをしないで下さい」
「Pがかわいくて、つい。ねえ、P。耳かきしてあげる」
そういうといつのまにか広の手には耳かき棒が握られていた。
「いつのまに。そこまでしてもらう必要はありませんよ」
「大丈夫。千奈や佑芽にも好評だった。腕は心配しないで」
「いえ、そこを気にしているわけでは」
「いいから、動かないで、ね」
「ちょっ、はーまったく」
俺はなすすべなく耳を差し出した。
(なんだか懐かしいな。子供の頃、母さんにしてもらったっけ。広さん楽しそうだな、鼻歌まだ歌って。・・・・・・なんだかいい匂いだ。これはさっきのお茶か、広さんの匂いか。ひどく落ち着く・・・。意識が遠く・・・)
「ふふ、P寝ちゃった。わたし耳かきの才能あるかも」
「Pいつもありがとう、大好き」
その後、Pは睡眠のおかげか良いアイデアが浮かび、再び篠澤広ファン数は伸び始めた。