召喚士シルヴィアが求めるサメ   作:永瀬皓哉

24 / 41
第23話:不自由という絆

 ルカが旅の一向に加わって数日。アンには薬売りのほか、ブルノおよびアルターリの居所を探る情報収集のために街の中で積極的に行動してもらい、わたしとルカは街の外でモンスター退治をしていました。召喚士として、モンスター生態学や生物学の知識を活かして目的のモンスターの住処や行動パターンを予測・対処するというのは、スフィルナで活動していた時よりも多くの「生態」に直面し、本から得られるもの以上のものを得られました。ルカも、彼の衛兵としての経験則や剣士としての直感を駆使して、わたしの知識では埋めきれない部分を補ってくれました。

 もちろん剣士である彼が加入したことで、戦闘という面でも大きな変化が出ました。

 アンと二人で戦う場合、基本的に攻撃魔法を使えず肉弾戦にも向かない彼女は、後衛に徹することになります。召喚士も本来はそうすべきなのでしょうが、なまじ格闘戦にも対応可能な分、召喚術を使う暇を与えてくれない強敵相手であったり、召喚獣を喚ぶには向かない環境であったりすれば、消去法でわたしが前に出なければなりませんでした。しかし、ルカが仲間に加わってくれたおかげで、わたしはようやく召喚士としての本分を果たすことができるようになったわけです。ありがたいですね。

 

「さて……ひとまず午前中の仕事はこんなものか」

 

 お肉屋さんに頼まれた垂耳兎(ラビロップ)5羽。

 アンと薬屋さんに頼まれた紫光咬切(バイオレットホーン)20匹。

 衛兵さんから討伐依頼のあった双角蝙蝠(バイコンバット)30匹は……左の翼膜をカットして持ち帰りましょう。

 

「しかし……召喚士というのはモンスターを使役して攻撃するだけのクラスだと侮っていたが、こうして組んでみれば本領はそこではなかったようだな」

「いえいえ、本領はそこですよ。ただ、コンビやチームとなると、副次的な効果が実感してもらいやすいというだけで」

「謙遜なら不要だが……確かに、そう言われてみれば単独で戦っている姿を見て、この影響力を理解してもらうのは難しいだろうな。どうしても、モンスターの方に目がいくからな」

「わたしとしては、召喚獣を「モンスター」と称する方を改めていただきたいですね。召喚士と契約し、モンスターの脅威から人類を(まも)ってくれている仲間なのですから」

 

 ひと仕事を終えたという様子のマグマシャークを抱きしめれば、彼は自分の表皮がわたしの身を焼かないように体温を調整し、そして『奉納』としてわたしの体温をほんの少し奪っていく。

 体表から温度を奪われたわたしは溶岩の表皮に触れているとは思えないほどひんやりとした感覚を楽しむことができますが、あまり長くそうしていると、わたしの体調を気遣うマグマシャークが暴れて腕から離れていこうとするので、ほどほどにしておきます。

 とはいえ、マグマシャークを抱きしめながらも、むすりとした視線を向けていたことにはルカも気付いていたらしく「すまない、改める」と告げて、話を元に戻します。

 

 召喚士の本分は、召喚獣に指示を出して目的を成すこと。突き詰めれば「的確な指示を出し続けること」が召喚士の役割(ロール)です。

 剣士や魔法士は、自分がアクションを起こしながら次のアクションを考えなければならない。そのためには、どうしても視野が狭まってしまう。

 ですが召喚士の場合、戦うのは召喚獣なので常に戦況を広い視野で捉えることができるため、召喚獣はもちろんチーム全体がどう動いているか、どう動くべきなのか。敵がどう動いているか、どう動かれるとよくないのか。それを常に観ながら指示を出せるというのが、ルカのいう「召喚士の影響力」ということでしょう。

 

「ヴィーが全体を把握して指示を出してくれるなら、オレは目の前の敵にだけ集中していればいい。敵に最も接近する前衛にとって、目に見える範囲のことにどれだけ集中力を割けるかが勝敗を分けることも少なくない。だから、見えないところを補ってくれる召喚士(ヴィー)の存在は、とても大きい」

「それもこれも、ルカが前衛を担当してくれるおかげです。わたしとアンだけでは、どうしてもわたしが前衛にならざるを得ませんから、こうして指揮を担当することもできませんでした」

 

 なんてもったいない、と言いたそうなルカの視線には敢えて何も言いません。少なくとも、アンとのコンビネーションを不自由だと思ったことはありませんからね。

 というよりも、アンが言い出さなければわたしは今でも一人で旅をしていたかもしれませんし、アンと組んで初めて共同戦線もよいものだと思えましたし……いいことしかありませんね?

 

「ひとまず、街に戻ろう。渡すものを渡して、食事をとってから午後の作業だ」

「墓を荒らす骸喰狐(スカルフォクシー)の討伐、ですか……。おかしいですねぇ、たいがいの墓所はそこに住まうゴーストシャークが守ってくれるはずなんですが……」

「原因究明も兼ねた討伐依頼、ということだろう」

 

 原因究明、とは言いますが……今のところ、ぱっと思いつくパターンは4つ。しかし、そのどれもが決して良くない状況であることを示しているのは、どういうことなのでしょう。

 

 case.1――墓所のゴーストシャークは無事で、骸喰狐(スカルフォクシー)の撃退に成功している。

 ぱっと聞いた限り最善の状況にも思えますし、対処としては単純に骸喰狐(スカルフォクシー)討伐のみなので簡単な方ですが、原因を究明しようとすると一番厄介な状況です。骸喰狐(スカルフォクシー)は死肉しか食べませんし、何より大食らいですから、小動物の死肉くらいではお腹が膨れませんし、繁殖もできません。つまり、彼らが繁殖するだけの死肉が別のところに存在していて、墓所に攻め込み徹底抗戦の構えでいるはずのゴーストシャークから生還しているということになります。おそらく、状況の性質としては最悪の部類です。

 

 case.2――墓所のゴーストシャークは無事だが、骸喰狐(スカルフォクシー)が繁殖している。

 これはつまり、強力な悪霊などのせいで骸喰狐(スカルフォクシー)に対処できていないということですね。ゴースト・アンデッドに対しては極めて強いゴーストシャークの対処が間に合っていないという時点で、人間が手を出すにはかなり危険だと言えます。ただ、危険度は高いものの高い戦力をありったけ投入すれば対処可能という意味では、case.1よりはなんとかなる方だと思います。

 

 case.3――墓所のゴーストシャークがなんらかの要因で消滅している。

 わたしとしては最も想像したくない状況ですが、強力なゴースト・アンデッドによってゴーストシャークが消滅に追いやられ、墓所を守るモンスターがいないため骸喰狐(スカルフォクシー)が繁殖・暴走している可能性です。シンプルに強力な戦力投入で解決できるかもしれない、という意味ではcase.2に似ていますが、ゴーストシャークが消滅しているということは、別のゴーストシャークが住み着くまでこの墓所は無防備になってしまうため、骸喰狐(スカルフォクシー)をはじめとした屍喰らい(スカルイーター)系のモンスターとの長期的な戦闘を想定しなければならず、街や街の住人としては負担の大きい状況と言えましょう。

 

 case.4――墓所のゴーストシャークが自ら住処を離れた。

 最悪中の最悪と言えるでしょう。原因究明の難易度は実態を見ないとなんとも言えませんが、少なくともゴーストシャーク自身が「対処不能」と判断して住処を離れたということは、それだけの危険・脅威がその墓所に迫っているということになりますし、何より対ゴースト・アンデッドに対しては特効性能を持つゴーストシャークが対処できないという時点で、人間が対処するのは非常に困難かつ、それを解決しなければ元のゴーストシャークが戻ることも、次のゴーストシャークが新たに来ることもありません。正直、宮廷騎士団の中でも特に対ゴースト・アンデッドに秀でた宮廷騎士を頼らず解決することは不可能といっても過言ではないでしょう。少なくともわたしにはどうすることもできません。

 

「……これやめておきませんか? 最悪の場合、宮廷騎士を呼ぶような状況ですよ」

骸喰狐(スカルフォクシー)が繁殖しているくらいで大げさじゃないか?」

「ではルカは骸喰狐(スカルフォクシー)の主食が何で、一度にどれだけの食事をして、どうやって繁殖しているか考えてみましたか?」

「……なんでこんなに大繁殖してるんだ?」

 

 ようやく、ルカにも状況の重大さが理解してもらえました。

 先ほども述べたように、骸喰狐(スカルフォクシー)屍喰らい(スカルイーター)の大食漢。小動物の屍が10や20あったくらいでは腹の足しにもなりません。

 彼らが一日で消費する死肉は、一匹あたりおよそ人間10人弱程度。それが大繁殖ともなれば大量の死体が必要になります。そして、屍喰らい(スカルイーター)の多くは自ら死肉を作らない。つまり、生者を襲って死者に変えようとはしません。死者の肉を食べ続けて魂に染み付いた悪徳は、生者の血を彼らにとっての猛毒に変えてしまっているからです。だから彼らは屍が土葬された墓所を襲うのですが、そうなるとゴーストシャークが天敵として彼らを阻みます。そうなると、彼らは自然界でスカベンジャーをしながら細々と種を残すことしかできないわけですが……さて、そこで『大繁殖』というこの現状です。

 

 いったいどれだけの屍が消費されたのでしょう?

 

 屍喰らい(スカルイーター)は屍を用意できない。

 骸喰狐(スカルフォクシー)屍喰らい(スカルイーター)の大食漢。

 ゴーストシャークに勝てずスカベンジャーとならざるを得ない彼らが大繁殖する方法は?

 

「……なんらかの外的要因と手を組んだということか」

「おそらくは。その外的要因がゴーストシャークの相手をすることで骸喰狐(スカルフォクシー)は安全に食事ができ、骸喰狐(スカルフォクシー)は群れ全体がその外的要因の配下となり働くことで共生関係を結んでいるとみて間違いありません」

「こういう言い方はなんだが、召喚士の仕業という可能性はないのか?」

「可能性は無いわけではありません。ただ、単に共生関係を結ぶだけであれば召喚士である必要はありませんから……」

 

 モンスターとの『共生』と『契約』は別物です。

 召喚獣は自らのランクを上げるために召喚士の『奉納』を求め、召喚士は自らの目的のために召喚獣の力を借りる。そのために『契約』という形を以て互いを強制力で縛る。

 ですが『強制』のない『共生』は、互いの利害が一致したことで協力関係に至っているに過ぎない。相手が自分にとって利益にならないと判断すれば、すぐに解消される関係です。

 それだけに、召喚術よりも遥かに手軽ですが――脆い。

 いかに両者の種の存亡がかけられた協力関係といえど、彼らは自分の意思の範囲で互いを縛るばかりで、その拘束には強制力が無い。

 

「『強制力(けいやく)』という召喚士と召喚獣だけが持つ『不自由(きずな)』と、『利害の一致(共生)』などという生温い協力関係を一緒にしないでくださいね、ルカ」

「心得た」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。