ルカが旅の一向に加わって数日。アンには薬売りのほか、ブルノおよびアルターリの居所を探る情報収集のために街の中で積極的に行動してもらい、わたしとルカは街の外でモンスター退治をしていました。召喚士として、モンスター生態学や生物学の知識を活かして目的のモンスターの住処や行動パターンを予測・対処するというのは、スフィルナで活動していた時よりも多くの「生態」に直面し、本から得られるもの以上のものを得られました。ルカも、彼の衛兵としての経験則や剣士としての直感を駆使して、わたしの知識では埋めきれない部分を補ってくれました。
もちろん剣士である彼が加入したことで、戦闘という面でも大きな変化が出ました。
アンと二人で戦う場合、基本的に攻撃魔法を使えず肉弾戦にも向かない彼女は、後衛に徹することになります。召喚士も本来はそうすべきなのでしょうが、なまじ格闘戦にも対応可能な分、召喚術を使う暇を与えてくれない強敵相手であったり、召喚獣を喚ぶには向かない環境であったりすれば、消去法でわたしが前に出なければなりませんでした。しかし、ルカが仲間に加わってくれたおかげで、わたしはようやく召喚士としての本分を果たすことができるようになったわけです。ありがたいですね。
「さて……ひとまず午前中の仕事はこんなものか」
お肉屋さんに頼まれた
アンと薬屋さんに頼まれた
衛兵さんから討伐依頼のあった
「しかし……召喚士というのはモンスターを使役して攻撃するだけのクラスだと侮っていたが、こうして組んでみれば本領はそこではなかったようだな」
「いえいえ、本領はそこですよ。ただ、コンビやチームとなると、副次的な効果が実感してもらいやすいというだけで」
「謙遜なら不要だが……確かに、そう言われてみれば単独で戦っている姿を見て、この影響力を理解してもらうのは難しいだろうな。どうしても、モンスターの方に目がいくからな」
「わたしとしては、召喚獣を「モンスター」と称する方を改めていただきたいですね。召喚士と契約し、モンスターの脅威から人類を
ひと仕事を終えたという様子のマグマシャークを抱きしめれば、彼は自分の表皮がわたしの身を焼かないように体温を調整し、そして『奉納』としてわたしの体温をほんの少し奪っていく。
体表から温度を奪われたわたしは溶岩の表皮に触れているとは思えないほどひんやりとした感覚を楽しむことができますが、あまり長くそうしていると、わたしの体調を気遣うマグマシャークが暴れて腕から離れていこうとするので、ほどほどにしておきます。
とはいえ、マグマシャークを抱きしめながらも、むすりとした視線を向けていたことにはルカも気付いていたらしく「すまない、改める」と告げて、話を元に戻します。
召喚士の本分は、召喚獣に指示を出して目的を成すこと。突き詰めれば「的確な指示を出し続けること」が召喚士の
剣士や魔法士は、自分がアクションを起こしながら次のアクションを考えなければならない。そのためには、どうしても視野が狭まってしまう。
ですが召喚士の場合、戦うのは召喚獣なので常に戦況を広い視野で捉えることができるため、召喚獣はもちろんチーム全体がどう動いているか、どう動くべきなのか。敵がどう動いているか、どう動かれるとよくないのか。それを常に観ながら指示を出せるというのが、ルカのいう「召喚士の影響力」ということでしょう。
「ヴィーが全体を把握して指示を出してくれるなら、オレは目の前の敵にだけ集中していればいい。敵に最も接近する前衛にとって、目に見える範囲のことにどれだけ集中力を割けるかが勝敗を分けることも少なくない。だから、見えないところを補ってくれる
「それもこれも、ルカが前衛を担当してくれるおかげです。わたしとアンだけでは、どうしてもわたしが前衛にならざるを得ませんから、こうして指揮を担当することもできませんでした」
なんてもったいない、と言いたそうなルカの視線には敢えて何も言いません。少なくとも、アンとのコンビネーションを不自由だと思ったことはありませんからね。
というよりも、アンが言い出さなければわたしは今でも一人で旅をしていたかもしれませんし、アンと組んで初めて共同戦線もよいものだと思えましたし……いいことしかありませんね?
「ひとまず、街に戻ろう。渡すものを渡して、食事をとってから午後の作業だ」
「墓を荒らす
「原因究明も兼ねた討伐依頼、ということだろう」
原因究明、とは言いますが……今のところ、ぱっと思いつくパターンは4つ。しかし、そのどれもが決して良くない状況であることを示しているのは、どういうことなのでしょう。
case.1――墓所のゴーストシャークは無事で、
ぱっと聞いた限り最善の状況にも思えますし、対処としては単純に
case.2――墓所のゴーストシャークは無事だが、
これはつまり、強力な悪霊などのせいで
case.3――墓所のゴーストシャークがなんらかの要因で消滅している。
わたしとしては最も想像したくない状況ですが、強力なゴースト・アンデッドによってゴーストシャークが消滅に追いやられ、墓所を守るモンスターがいないため
case.4――墓所のゴーストシャークが自ら住処を離れた。
最悪中の最悪と言えるでしょう。原因究明の難易度は実態を見ないとなんとも言えませんが、少なくともゴーストシャーク自身が「対処不能」と判断して住処を離れたということは、それだけの危険・脅威がその墓所に迫っているということになりますし、何より対ゴースト・アンデッドに対しては特効性能を持つゴーストシャークが対処できないという時点で、人間が対処するのは非常に困難かつ、それを解決しなければ元のゴーストシャークが戻ることも、次のゴーストシャークが新たに来ることもありません。正直、宮廷騎士団の中でも特に対ゴースト・アンデッドに秀でた宮廷騎士を頼らず解決することは不可能といっても過言ではないでしょう。少なくともわたしにはどうすることもできません。
「……これやめておきませんか? 最悪の場合、宮廷騎士を呼ぶような状況ですよ」
「
「ではルカは
「……なんでこんなに大繁殖してるんだ?」
ようやく、ルカにも状況の重大さが理解してもらえました。
先ほども述べたように、
彼らが一日で消費する死肉は、一匹あたりおよそ人間10人弱程度。それが大繁殖ともなれば大量の死体が必要になります。そして、
いったいどれだけの屍が消費されたのでしょう?
ゴーストシャークに勝てずスカベンジャーとならざるを得ない彼らが大繁殖する方法は?
「……なんらかの外的要因と手を組んだということか」
「おそらくは。その外的要因がゴーストシャークの相手をすることで
「こういう言い方はなんだが、召喚士の仕業という可能性はないのか?」
「可能性は無いわけではありません。ただ、単に共生関係を結ぶだけであれば召喚士である必要はありませんから……」
モンスターとの『共生』と『契約』は別物です。
召喚獣は自らのランクを上げるために召喚士の『奉納』を求め、召喚士は自らの目的のために召喚獣の力を借りる。そのために『契約』という形を以て互いを強制力で縛る。
ですが『強制』のない『共生』は、互いの利害が一致したことで協力関係に至っているに過ぎない。相手が自分にとって利益にならないと判断すれば、すぐに解消される関係です。
それだけに、召喚術よりも遥かに手軽ですが――脆い。
いかに両者の種の存亡がかけられた協力関係といえど、彼らは自分の意思の範囲で互いを縛るばかりで、その拘束には強制力が無い。
「『
「心得た」