召喚士シルヴィアが求めるサメ   作:永瀬皓哉

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第24話:対策会議

骸喰狐(スカルフォクシー)の調査?」

 

 わたしとルカは午前中にこなした依頼の達成報告をした後、ひとまず宿に戻ってアンに午後の仕事について相談することにしました。

 骸喰狐(スカルフォクシー)の生態・性質も含め、現時点で考えられる幾つかの可能性(ケース)を提示した上で、わたしたちの対応を改めて考え直す必要があったからです。

 現状、わたしたちの目的である弟探しの旅に、この依頼を絶対に受けなければならない理由はありません。あくまで路銀稼ぎとして、羽振りのいい依頼のひとつに過ぎません。

 しかし、同時に「墓を荒らす骸喰狐(スカルフォクシー)の討伐」という問題の本質を理解してしまうと、放置して次の旅路へと歩を進めるというのは後ろ髪を引かれます。

 

「そうね……あたしも、シルヴィの仮説にそんなに間違いはないと思う。モンスターの生態に詳しいシルヴィが言うなら、習性と行動原理は変わらないはずだわ。でも、そうなると問題はその外的要因ってやつよね。共生関係は利害が一致しなきゃ発生しないから、彼らが墓を荒らすことで利益を得られるモンスターか、あるいは骸喰狐(スカルフォクシー)を天敵とするモンスターを狩猟する目的で使役しているのか……シルヴィ、心当たりはない?」

「……通常、ほとんどの屍喰らい(スカルイーター)というものは骨まで食べてしまうことが殆どですが、骸喰狐(スカルフォクシー)は死肉しか食べません。だから埋められてすぐの新鮮な死体を求めて幾つかの墓を巡回するほどです。もしも外的要因にとって、共生相手が「屍喰らい(スカルイーター)」ではなく「骸喰狐(スカルフォクシー)」でなければならない理由があるとすれば、おそらくそこが目的でしょう」

「骨が欲しい、ということか?」

 

 ルカの問いに、わたしは無言で頷きました。

 相手の狙いは骨――人骨。骨を使った魔法や呪術にはいくつか心当たりがあると言うアンですが、しかしだとすれば不可解な点がいくつか浮かぶという。

 

「シルヴィには前にも話したけど、魔法っていうのはたとえどういう種類のものであっても、基本的に「肌から魔力を吸収して、詠唱の発声によって魔法式を構築し、結果をもたらす」ものなの。だから、基本的にみんな肌と喉には日常的に細心の注意を払っているわ。それは専門分野が確立して「交霊術士」「死霊術士」「呪術士」「占術士」「薬術士」「錬金術士」と名を分けた魔法士でも同じよ。……いや薬術士と錬金術師はまたちょっとややこしくなるけれど、根柢にある原理は同じよ」

「肌と喉を大事にしているのはわかるが、それが今回の件と何か関係あるか?」

「――骸喰狐(スカルフォクシー)によるNeIV(ネクロウィルス)感染症……!」

 

 アンは小さく頷きました。

 もしも今回の犯人が「交霊術士」あるいは「死霊術士」による霊魂・死体の確保を目的とするものであれば、少なくとも墓から掘り起こした腐乱死体などは絶対に使わない。まして、死肉を貪り「悪徳」だけでなくNeIVの媒体(キャリア)になりえる骸喰狐(スカルフォクシー)を身近に置くことなど考えられない、と。それは魔法士でないわたしであっても「それはそうでしょう」と頷かざるをえません。なぜならNeIV感染症は、感染発覚からわずか三週間という短期間で死に至る悍ましく恐ろしい病であり、3段階のフェーズに分けて病状が進行します。この内、フェーズ1「発熱・発疹・過呼吸・口内乾燥・肌の褐色化」も、間違いなく患者にとっては想像を絶する苦痛を伴いますが、NeIVが「魔法士殺しのウィルス」と言われるのは特にフェーズ2の「発声障害」と、フェーズ3の「肌の硬質化」が原因だそうです。

 

「現状、NeIV感染症に対する特効薬・回復魔法は確立されてない。もし感染すれば間違いなく死ぬ。だけどそれ以上に、死ぬまでの三週間を「魔法士として死んでいくのを感じながら何もできず過ごす」というのが絶えられずに自ら命を絶つ魔法士は多いわ。魔法士にとって、魔法が使えなくなるってことは「人生を注いで尽くした努力と研鑽そのものの否定」だもの」

「なら、普通の交霊術士や死霊術士はどうしているんだ?」

「基本、交霊術士はお墓まで赴いたりしないわ。霊魂がまだこの世に留まっているなら、専用の探査魔法で居場所を見つけて、誘導魔法で遺族の家に導いてから依頼人の前で交霊術を使う。だからお墓どころか死体ともほとんど接点が無い。死霊術士に関しては人によるけど、基本的に腐乱死体は使わないわね。形の綺麗なモンスターの死体を用意して、必ず一定以上の距離をとって死霊術を使うわ。その場合でももちろん殺菌・防菌のフェイスベールと手袋は必須だし、魔法士の中では珍しく肌の露出が少ないのもそういう理由ね」

「詳しいですね」

「まぁわたしも使えるしね」

 

 でしょうねぇ。

 たぶん交霊術と死霊術に限らず、呪術・占術・錬金術もできるのではないでしょうか。少なくとも薬術が出来るのは知ってます。

 アンのことですから、全部ひとくくりにして「魔法士」ができる範疇のことはだいたいできますよね。攻撃魔法ができないだけで。

 

「となると……アンに骸喰狐(スカルフォクシー)の討伐を手伝ってもらうのは難しいでしょうか」

「あたしがというか、この三人じゃほぼ無理ね」

 

 悲観的にも聞こえる言葉ですが、現状この3人の中で最も頭が切れるのは彼女です。わたしもルカも、静かに耳を傾けました。

 

「仮に今回の骸喰狐(スカルフォクシー)のいずれかがNeIVのキャリアだとした場合、まず近付くのが一番ダメだからルカは論外。次に攻撃手段のないあたしじゃ防戦一方だからこれもダメ。一番いいのはシルヴィがゴーストシャークで追い払ってくれることだけど、今回は墓を守ってたゴーストシャークが結果を果たせてないかもしれないんでしょう? なら少なくともゴーストシャークは手札から外した方がいい。となると残る手札は4枚。だけど内1枚はまだシルヴィじゃ制御できないのよね? となるとあとは3枚。メガロシャークは大きすぎてお墓を全部壊しちゃうから、マグマシャークかフォレストシャークしかない」

「マグマシャークの牙で焼き尽くせば……」

「そうね。確かにNeIVに限らずウィルスは熱に弱い。でも骸喰狐(スカルフォクシー)は群れで行動するのよ?」

 

 ほんの数匹の群れならマグマシャーク単体でも対処可能だとは思います。しかしそれらが「群れ」となり、その全てがキャリアだと想定した場合、マグマシャークだけでは対処が間に合わないと考えるべきでしょう。もしもわたしたちの方に群れの一匹でも接近を許せば、最悪この3人がNeIVに感染する可能性も考えられます。それに、マグマシャークはあくまで「NeIVに対して特効」というだけで、骸喰狐(スカルフォクシー)に対して特別強いわけではありません。もちろん召喚士(わたし)による奉納や指示によって通常個体よりも遥かに強くはなっていますが、個体としてどれだけ強くとも、数の暴力には敵いません。安全に対処しようとすればせいぜい7、8匹……。絶対にやらないという前提で、マグマシャークを犠牲にした戦い方をしても10匹を超えられるとどうにもなりません。

 

「……そのウィルスは空気感染するのか?」

「いえ。でもキャリアに噛まれたりしたらその傷口から感染するわ。他にも返り血を浴びた場合、もし擦り傷や切り傷などの傷口があれば皮膚からも感染するし、鼻や口元を隠してないと飛沫感染もする。正直、接近して攻撃するならマグマシャークみたいな対抗策がないと自殺行為にしかならない」

「飛沫範囲は?」

「仮に真っ二つにした場合、出血と同時におよそ距離20ほど。瞬く間にね」

「つまり距離20以上の場所から斬り裂けば問題ないということか?」

 

 わたしは敢えて何も言いませんが、わかりますよアン。その呆れと驚きの交じった視線も已む無しと言えましょう。わたしも直に目で見ていなければ似たような反応をしたはずです。

 ですが、わたしは既に午前中の依頼を共にしたことで、彼の「武」に関する非常識さを目の当たりにしています。断言しましょう。彼は距離20程度しか離れていないなら十分すぎるほど攻撃範囲圏内です。というか、彼が斬れない範囲は「視界外」だけです。どれだけ距離があっても、彼が武器を手にすれば「当たったら斬れる」を実行します。問題は当てる方法だけです。

 

「……一応聞くけど、あんた剣士よね? しかも刃物すら持てない剣士」

「そうだが?」

「じゃあどうやって距離20も離れた相手を斬るの?」

「刃物以外の棒状のものを投げつければ、あとは当たったら斬れるだろう」

 

 あぁ……アンの表情がどんどん険しくなっていきます……。どうしましょう、どうしましょう……。

 

「……ねぇシルヴィ、こいつ何言ってんの?」

「嘘みたいでしょう? でもルカはこれが本当にできるんですよ。びっくりしました」

「なんなら上等な鉄の棒ひとつあれば鉄塊でも斬ってみせるが」

 

 アンが「こいつこんなこと言ってるけど?」みたいな視線をこちらに向けてきたので、「本当ですよ」の意を込めて頷きました。

 するとアンは大げさな溜息をついて、腕を組みながら何かを思案し始めました。

 

「じゃあ二人とも、できるだけお金かけずにこの素材集めてきてくれる? できるだけ早く」

「何か策でも?」

「ルカのための武器を錬金術で作る。ようは刃がついてなければいいんでしょう? できるだけ剣っぽいデザインからも遠ざけて、投げたら手元に戻るギミックもつけてあげる」

 

 アンにそう言われたルカの表情は、少しだけ今までよりも柔らかくて、「すぐに持ってくる」と言って飛び出した彼を、わたしたちは苦笑いと共に見送ったのでした。

 

「さて、あんたもさっさと行きなさい」

「あ、はい」

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