召喚士シルヴィアが求めるサメ   作:永瀬皓哉

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第27話:ルカの剣技

「本命をゴーレムと仮定して、今すぐに行うべきなのは骸喰狐(スカルフォクシー)の殲滅です。アンの作ったフライテイカーを信じて、素早く片付けましょう」

「だが数が数だぞ?」

「アンは決して中途半端な仕事をする人物ではありません。フライテイカーがひと薙ぎであれらを蹂躙できないのなら、非があるのはルカ、あなたです」

「言ってくれる。だが、ならばしくじることもあるまい!」

 

 わたしはゴーストシャークを再度召喚し、追加奉納を支払うことで骸喰狐(スカルフォクシー)を距離20以内に入れないようお願いしました。しかし正直、あれだけの群れに対して通常のゴーストシャークの威嚇では意味を為しません。何より霊体や魔力結晶体に対して特効を持つ蒼濁魔晶岩(ブルーマギアライト)のゴーレムが近くに構えている以上、下手に立ち回れば一瞬にして祓い殺されてしまいます。故に、わたしの追加奉納の内容が半端では意味が無い。

 

「わたしは追加奉納に『過去一年以内の夢の記憶』を全て支払います!」

「キゥッ!」

 

 追加の奉納とは覚悟の奉納。状況に相応しい覚悟を、奉納という形を以て示し与えることで召喚獣は魂のランクを飛躍的に向上させる。そして夢とはいえ、記憶とは魂の表層。過去一年分の魂を捧げたゴーストシャークは光のない真っ黒な瞳に青白い炎を宿し、その体躯はよりしなやかな力強さを増し――ゴーストシャーク・幽鬼態へとその姿を変えた。

 いくら群れを形成したとしても骸喰狐(スカルフォクシー)骸喰狐(スカルフォクシー)。天敵であるゴーストシャークが幽鬼態へとランクアップしたことで、彼らの遺伝子に刻まれた本能的恐怖が接近を躊躇わせます。

 

「今です!」

「フライ、テイカァァァッ!」

 

 ルカは双剣状態で構えていたフライテイカーを大剣状態にして勢いよく投擲すると、群れの中心に留まり、凄まじい回転によって竜巻を起こし骸喰狐(スカルフォクシー)たちを吸い上げて宙へと放り出しました。そしてそのまま地面に叩きつけるのかと思いきや、フライテイカーを投げたまま伸ばしていた手を大きく振り上げると、大剣状態のフライテイカーは竜巻の軌道に乗って空中の骸喰狐(スカルフォクシー)たちを鏖殺(おうさつ)。これには思わず「お見事」と声が洩れました。

 

「回転を維持したまま一ヶ所に留めるなんて、よく思いつきましたね」

「昔、紐のついた二重円盤の玩具*1に触れたことがある。特に何も考えず振り下ろすと回転したまま紐を辿って手元に戻ってきてしまうが、力を抜いて反動を押さえると手元から伸び切った距離を維持しながら回転を続ける。手を引けば手元にくるという性質からして、フライテイカーは紐の見えないそれに近いだろうと思ってやってみたが……間違ってはいなかったようだな」

 

 なるほど。その玩具がどういうものかは存じ上げませんが、先ほどの投げた手を伸ばしたまま動かなかったのは、おそらくはその玩具と同じ感覚で力を抜くためだったんですね。

 そして吸い上げられ竜巻の軌道に沿って宙へと昇っていく骸喰狐(スカルフォクシー)を、力のバランスを敢えて崩してフライテイカーを竜巻の軌道に乗せると、鋭く回転するフライテイカーは竜巻の回転によってさらにその勢いを増して彼らを追走・裂殺。発想こそ大胆ながらも絶妙な力加減とそれを確実にするだけの自信があってこそ成立する、まさにルカでなければ出来ない……やろうとも思わないほどの妙技、さすがです。

 

「さて……骸喰狐(スカルフォクシー)の増援が無ければこれであのゴーレムとは一対一(タイマン)だ。で、どうする?」

 

 ゴーレムの円錐武装は回転によって貫通力を増した殺傷性の高い槍のようなものとみて間違いありません。つまり、あちらの攻撃は少なくとも「面」ではなく「点」攻撃であると断定できます。しかし、問題はあちらの体躯そのものが強力な魔法耐性を持つ蒼濁魔晶岩(ブルーマギアライト)と堅牢な物理耐性を持つ鋼鉄の外殻鎧を纏っていること。

 動きを阻害させないためにか、あるいは蒼濁魔晶岩(ブルーマギアライト)から溢れる魔力を籠もらせないためか、各関節部のほかにも何か所か蒼濁魔晶岩(ブルーマギアライト)が露出している部分も見られますが、だとして剣技で岩を斬るなどということが果たして可能なのでしょうか。ルカの剣技は確かに剣の形を持つものを手にすればあらゆる抵抗を無視して切断しますが……それは木製の棒剣や生物の肉体など、達人が通常の剣を用いて可能な範囲でしかありません。鉱物……それも相手の攻撃をすりぬけて鎧の防ぎきれない部分だけを狙いすました一撃を、どう打ち込めば……。

 

「何を迷っている、ヴィー!」

 

 わたしが次の手を練ろうと観察を続ける間にも、ルカはゴーレムの攻撃をすべて防ぎ、あちらの視線がわたしに向けられることのないよう立ち回ってくださっています。

 弱点はわかっています。相手の攻撃の性質も、相手の防御がそれぞれどんな役割を持っているのかも。しかし、それでも手札が足りないのは否みきれ――、

 

「お前は言ったな、オレに「どうにかできるか」と! それにオレは答えたはずだ!」

 

 

 ――ルカ、いけそうですか?

 

 ――それはヴィーの指示次第だ。

 

 

「そしてお前も言ったはずだ! お前がすべきことと、オレがすべきことを!」

 

 

 ――ルカ。わたしはあなたに勝利を与えます。

 

 ――だから……わたしにあなたの力を貸してください。

 

 

「オレはすべきことを果たしている! だからお前もそうしろ! お前が言うことなら……オレが必ず成し遂げてやる!」

「ルカ……!」

 

 そう言い、ルカは大剣状態のフライテイカーで円錐武装を弾くと、今度は双剣状態に変えながら一気に懐に入り込み、目にも留まりきらないスピードで剣戟を叩き込むのですが……やはりあの鋼鉄の鎧はそれらを軽々と受け止め、迫るゴーレムの反撃に再びルカは後退を余儀なくされました。わたしにできること……わたしだからできること。サメの召喚を封じられたわたしにできるのは相手を観察し、弱点を探り、そして的確な指示を出すことだけ――。

 

 ――ではありません。

 

「ルカ! そのゴーレムをその場に留めておいてください!」

「任された!」

 

 わたしは召喚士。そしてアン曰く召喚術は空間接続魔法に似た性質を持った別体系の技術。

 空間を接続し、対象を「召いて喚ぶ」ことが召喚だとするのなら、元居た場所に「有ったはずのものを別の場所に存在させること」が召喚術。けれど「召いて喚ぶ」ことができないものでも「有ったはずのものを別の場所に存在させること」ができることは、先日スターヂャンを出た際に山賊の方々と交えた一戦で「手元と石の設置部分に召喚陣を設置して周囲の石を回収する」という形で立証済みです。そして……有ったはずのものが別の場所に移動するということは副次的に、有るべきものがその場所から消えるということでもあるはずです。

 

「不変の大地よ、普遍の大地よ。確かな地が続き、揺るがぬ地が続き、生命の芽吹く揺りかごよ、生命の還る石棺(せっかん)よ。在るべき使命を果たし、有るべき使命を失い、その静寂なる力に心を震わし、その激動なる力に身を揺らせ。召喚士シルヴィアが求める。大地よ、その豊かな土壌を我が望みのままに!」

 

 瞬間、ルカとゴーレムの足元とその奥、何もない空中に現れる召喚陣を見て、わたしはすぐに叫びました。

 

「退がってください!」

 

 わたしの指示に僅かな逡巡もなく、即座にその場を離れるルカ。しかしその堅牢な防御能力を保つため見た目以上の質量を持つゴーレムの鈍重な動きでは間に合いません。

 直後、ゴーレムの足元の大地は召喚陣と共に凄まじい勢いで降下していき、その場にあったはずの土がその奥の召喚陣から音を立てて小さな山を築き上げます。

 

「今です! 胴体の鉱石部分を両断してください!」

 

 急激に降下した足場によってゴーレムはバランスを崩し、仰向けになったまま体勢を立て直すことに四苦八苦している今なら、地中を掘り進むこともできないはず。

 それが可能かそうでないのかは半ば賭けではありましたが……わたしはそれを迷わずルカに指示(オーダー)し、返ってきた言葉は。

 

「さっきから何を迷っているかと思えば……容易いッ!」

 

 そう言って、ルカは勢いよく穴へと飛び込み、その手の双剣(フライテイカー)をゴーレムへと突き立てました。

 

「『鎧徹し』」

 

 落とし穴の中から聞こえたその声の直後、凄まじい蒼色の光が溢れたかと思うと、とてつもない轟音を伴った魔力爆発によってゴーレムは爆散。

 しかし、あの爆心地にはおそらくルカも……。

 

「役割は果たしたぞ」

 

 そんなわたしの心配も束の間。もくもくと爆煙の漂う落とし穴の奥。あの土の山に立ったままこちらへと視線を向けたのは、間違いなくわたしの大事な仲間の声。

 

「ルカ!」

 

 わたしはすぐさま彼に駆け寄り、彼の体を少し強めに叩きましたが、反応を見る限り彼はどうやら無傷のようです。

 

魔晶岩(マギアライト)は高密度の魔力結晶体だ。内部に衝撃を入れれば魔力爆発を起こすことは経験上知っている。だから『鎧徹し』を入れた後、すぐに飛び退いた」

「『鎧徹し』……?」

「剣を突き立てた相手の内側に衝撃を浸透させて爆砕する剣技だ。親父曰く『篭手調べ』『兜割り』『鎧徹し』の三剣技を修めて初めてリーシナの剣士として免許皆伝らしい」

 

 ルカのお父上……かつては王国最強の宮廷騎士だったといわれるマトヴェイ・リーシナさんですね。

 あの……そもそも当たり前のように言いますが、普通は免許皆伝というのは生涯をかけてそれを目標にすべきことでは?

 なんで免許皆伝したから社会に出た、みたいな言い方なんでしょうか。もしや免許皆伝を最低限のライセンスか何かと勘違いしていませんか?

 その三剣技、ルカはリーシナの剣士にとって基礎みたいな言い方をしてますが、武装強化された蒼濁魔晶岩(ブルーマギアライト)のゴーレムに剣を突き立てて内部爆砕するような技術、普通に考えてその流派の奥義のようなものだと思うのですが……ルカ、本当にそれは「三剣技」なんですよね? 「三奥義」じゃありませんよね?

 

「まぁ、今はそんなことよりも状況報告だ。衛兵を呼んでこよう」

「いえ、あのゴーレムは間違いなく召喚士が使役していました。もしもの場合に備えて、衛兵を呼ぶのはアンに任せ、わたしたちはここで待機しましょう」

 

 じゃあゴーストシャーク、このお手紙をアンのところまでお願いしますね。

 

「キゥ!」

*1
ヨーヨー

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