召喚士シルヴィアが求めるサメ   作:永瀬皓哉

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第34話:動きだす運命

「ひとまず、アンは今の方法でしばらく時間を稼いでください。その間にわたしが作戦を立てます。ルカはアンのサポートをしつつ我々の防衛をお願いします」

「あの、シルヴィアさま。私は……」

「ソフィーはメガロシャークに接近する第三勢力を警戒。この騒ぎを聞きつけて別の大型生物が来る可能性もゼロではありませんので、異常を感じれば即座にわたしへ報告」

「来るわよ!」

 

 アンの声に反応するよりも早く、メガロシャークが自らの判断で接近する爆王大蛇(スネークレイダー)の吐く酸液を回避。

 未だ戦いに慣れていないソフィーは咄嗟に重心を低くできず飛ばされそうになるも、そうなることを察してかルカがそんな彼女を抱えて体勢を保ち、続くいくつかの酸液を躱したことであちらの手が止まり、その隙を衝くようにアンが分身音撃閃光弾(スタングレネード)を展開。フライテイカーによって起爆させられ、強烈な音と光に苦しみ悶える爆王大蛇(スネークレイダー)ですが、彼がのたうち回る度に眼下の大森林を覆う大木たちがメキメキと倒されていくのを見て、その圧倒的なパワーとサイズに我々の恐怖心は増していきました。

 メガロシャークを見れば誰もが納得する通り、サイズの差は戦力の差です。大きければ強い。誰でもわかる強さの指標と言っても過言ではありません。

 

 スネーク型モンスターの大まかな攻撃手段としては2つ、有毒型モンスターとなるとそこに咬撃あるいは発射による毒液攻撃が加わります。

 ひとつは長い胴体を相手に巻き付けて絞め殺す方法。ヘビは全身がほぼ筋肉なので、巻き付かれたら正攻法では脱出不可能です。なのでヘビと戦う際は常に距離に気を付ける必要があります。

 もうひとつは毒の有無に関係なく強力な顎と鋭い牙を用いた咬撃ですが……ヘビはモンスターでなくとも自分の頭の2~3倍のものは丸呑みします。種類によっては5倍近い大きさのものさえ呑み込むのですから、全長210の爆王大蛇(スネークレイダー)が本気でこちらを捕食しようとするならメガロシャークさえ丸呑みされてしまうでしょう。

 ですが、ここまではあくまでも「スネーク型モンスター」に共通する攻撃手段。これに加えて、今回は爆王大蛇(スネークレイダー)特有の攻撃手段が1つ追加されます。

 それがその名の所以ともなった可燃性の高い特殊なたんぱく質で構成された鱗を発射し、自切箇所に酸素が触れることで引火、爆発を発生させるというものです。

 鱗ひとつでも魔法士の爆発魔法(バーン)を上回る威力を誇るにも関わらず、追い込まれた爆王大蛇(スネークレイダー)は体に生えた鱗の半分程度を一斉に撒き散らし、地上を焦土に変えてしまうと言われています。まして今回の戦場は大森林。こんなところで大規模爆撃など起こされてしまえば森林火災どころかこのアスペリマムの地形が変わってしまいます。

 

 つまり、わたしたちがすべき行動には幾つかの条件がつけられていることがわかります。

 ひとつ、地上に降りてはならない。アンの分身音撃閃光弾にやられてのたうち回るだけで、樹齢1000を超えるであろう大木たちが小枝のように折られ倒されていく様を見るに、地上で戦闘を行うのは無謀きわまることがわかります。

 ひとつ、逃げてはならない。スネーク型モンスターは非常に執念深く獲物を執拗に追い続けることで有名です。対峙してしまった以上、逃げたところであれは必ずいつかわたしたちを追ってくるでしょう。無関係な人々にこんな脅威を押し付けるわけにはまいりません。

 ひとつ。じりじりと追いつめる戦いをしてはならない。爆王大蛇(スネークレイダー)は追いつめられると体表の鱗の半分を撒き散らして逃げることは先述の通り。なので、倒すにしても少しずつ追いつめるのではなく一気に、極大戦力を一瞬で叩きつけてトドメに持ち込まなければ大惨事は避けられません。

 

 わたしはそれを全て仲間たちに伝えますが、やはりそれに相応する手札は我々にはない。

 唯一の希望となるのはメガロシャークですが、メガロシャークを攻め手に回せば我々は地上へ降りることになるため条件不成立からの即死となるでしょう。

 となると……やはり、切れる手札は()()()()だけ。

 

「あれほど巨大な相手を一撃で仕留めるとなると、それこそドラゴンやメガロシャーク級のモンスターでなければ話にならんか……!」

「アンナさまの飛行魔法(フライト)でメガロシャークさまをご自由にするというのは?」

「残念だけど、飛行魔法(フライト)は慣性や姿勢の制御が複雑で常にひとつの対象にしか使用できない。当然あたしが死んだら維持もできないから、この状況では実質的にあたししか飛ばせない」

 

 アンは短略術式(ショートカット)の応用である多層展開(マルチタスク)で複数の魔法を同時に発動できますが、それはあくまで「異なる魔法を同時に発動できる」という意味であり「同じ魔法を重ねがけできる」というわけではありません。なので飛行魔法(フライト)のような、単体にしか効果を及ぼさない魔法はアンであってもその対象を増やすことはできないということです。

 

「ルカの攻撃で首を落とせない?」

「接近できれば不可能でもないが……近付けると思うか?」

「ただジタバタするだけであれほどの被害が出るわけですから、明確に攻撃的な意図を持って振るった胴体がぶつかればルカさまといえども……」

 

 ルカの「切断」は自らが剣士に相応しい心意気を持って振るった剣状のものはあらゆる物体を2つに分けるという達人の中の達人が辿り着く境地。

 そのため対象のサイズや強度に関係なくルカが「斬りたい」と思ったものは必ず両断できるわけですが、それでも「接近」という前提を要する以上は今回の場合では手札にもなりません。

 フライテイカーなら遠距離からも攻撃可能ですが、そうなるとルカの「切断」の性質は失われてしまう。あくまでルカが手にしている状態で成立する妙技なわけですから。

 

「……わかりました。奥の手を使いましょう」

 

 どれだけ考えても、状況が好転する手段は今のわたしたちの手札に見つかりそうもありません。

 こうして議論する間にも、爆王大蛇(スネークレイダー)の攻撃は幾度も迫っていて、それらをメガロシャークがどうにか躱し続けてくれていますが、それももう長く続かないでしょう。そもそもここまでの旅路で疲弊していた彼を休ませるために着陸したにも関わらず、さほど休む間もなく再召喚されたわけですから、彼はただでさえ消耗した体力に鞭を打ってこの時間を稼いでくれているということを忘れてはなりません。

 

「アン。まずは分身音撃閃光弾(スタングレネード)を再展開。わたしが合図をしたらルカがフライテイカーでそれを起爆。効果を確認後、爆王大蛇(スネークレイダー)拘束魔法(バインド)をかけてください。連続で、最低でも5秒以上は身動きを封じてください」

「前半はともかく、あんな巨体を5秒かぁ……ギリギリできるかできないかっていう絶妙なラインの無茶振りしてくれるわね……」

 

 頷いて準備に取り掛かるルカに対し、アンは自信なさげに声を洩らします。

 けれど、わたしはそんな彼女に対して素直な意見を告げました。

 

「できますよ」

「何を根拠にそんな……」

「わたしの信じるアンなら」

 

 そう言って召喚杖を構えたわたしを、アンはしばし見つめたまま硬直しました。

 何がそんなに驚くようなことだったのでしょう。あくまで思った通りのことを言っただけのつもりでしたが……まぁ、それは後にしましょう。まずは目の前のこれをこなしてからです。

 

「チーム・Four"S"! Ready!」

One for "S"(わたしたちはチームのために)!』

 

 合言葉と同時に、アンの魔法とわたしの召喚術の詠唱が開始。ルカはそれの防衛を務めつつ、ソフィーは何かを探るように爆王大蛇(スネークレイダー)を凝視していました。

 

「召喚士シルヴィアが求める」

「水の導きにより、我が問いかけに応えよ。ミラー」

「邪悪なる牙を持つものよ」

「魔の導きにより、我が問いかけに応えよ。バブル」

「滅亡の深淵より来たれ」

「光の導きにより、我が問いかけに応えよ。フラッシュ」

「召喚――」

 

 

 ――レヴィアシャーク!!

 

 

 

 

「ボス!」

 

 同時刻。『アルターリ』のアジト最奥にて食事……と呼ぶにはあまりに荒々しく肉を頬張る男の前に、その部下らしき細身の若者が息を切らしながら声をかけた。

 不機嫌そうに部下を睨みつけたその男は、ボトルのワインをひっくり返すようにして口に放り込むと、ひと息つくように声を洩らす。

 

「……なんだ、騒々しい」

 

 アルターリはここしばらく、平穏とは決して言えないまでも変化の少ない日々を送っていた。

 金品の強盗など当たり前、暴力・強姦・拉致・麻薬。あらゆる無法を良しとする犯罪集団『アルターリ』にとって、この外道と悪逆の日々こそが平々凡々とした日常であった。

 そして同時に――その平々凡々とした日々に退屈と窮屈を感じているのが、何を隠そうアルターリのボスであるこの男であったのだ。

 

「アスペリマム上空で強力な魔力反応を検知したと、魔法部隊から報告がありました! おそらく、ボスのお求めになっていた例のモノかと……!」

「――ッ!? すぐに魔法部隊の精鋭を連れて斥候部隊を出せ! もし本当にアレが出たならすぐには消えん! 何があっても宮廷騎士より先に到着し、何かしらの情報を持ち帰れ!」

 

 だがそんな退屈と窮屈に苛立ちながら諦観に等しい享受も致し方なしとしていた中で、部下の持ち込んだ報告は彼の興味を大いに引いた。

 そう――それは彼が求めに求めたもの。それを求めてこの祭壇を――『アルターリ』を"奪った"のだ。

 

「チーム・GUIBLY(ギブリー)も連れていけ! もし宮廷騎士団が居ればヤツらに対応させろ!」

「い、イエス・ボス!」

 

 物語が――この国を巻き込む運命の火時計が、動き始める。

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