「ひとまず、アンは今の方法でしばらく時間を稼いでください。その間にわたしが作戦を立てます。ルカはアンのサポートをしつつ我々の防衛をお願いします」
「あの、シルヴィアさま。私は……」
「ソフィーはメガロシャークに接近する第三勢力を警戒。この騒ぎを聞きつけて別の大型生物が来る可能性もゼロではありませんので、異常を感じれば即座にわたしへ報告」
「来るわよ!」
アンの声に反応するよりも早く、メガロシャークが自らの判断で接近する
未だ戦いに慣れていないソフィーは咄嗟に重心を低くできず飛ばされそうになるも、そうなることを察してかルカがそんな彼女を抱えて体勢を保ち、続くいくつかの酸液を躱したことであちらの手が止まり、その隙を衝くようにアンが分身
メガロシャークを見れば誰もが納得する通り、サイズの差は戦力の差です。大きければ強い。誰でもわかる強さの指標と言っても過言ではありません。
スネーク型モンスターの大まかな攻撃手段としては2つ、有毒型モンスターとなるとそこに咬撃あるいは発射による毒液攻撃が加わります。
ひとつは長い胴体を相手に巻き付けて絞め殺す方法。ヘビは全身がほぼ筋肉なので、巻き付かれたら正攻法では脱出不可能です。なのでヘビと戦う際は常に距離に気を付ける必要があります。
もうひとつは毒の有無に関係なく強力な顎と鋭い牙を用いた咬撃ですが……ヘビはモンスターでなくとも自分の頭の2~3倍のものは丸呑みします。種類によっては5倍近い大きさのものさえ呑み込むのですから、全長210の
ですが、ここまではあくまでも「スネーク型モンスター」に共通する攻撃手段。これに加えて、今回は
それがその名の所以ともなった可燃性の高い特殊なたんぱく質で構成された鱗を発射し、自切箇所に酸素が触れることで引火、爆発を発生させるというものです。
鱗ひとつでも魔法士の
つまり、わたしたちがすべき行動には幾つかの条件がつけられていることがわかります。
ひとつ、地上に降りてはならない。アンの分身音撃閃光弾にやられてのたうち回るだけで、樹齢1000を超えるであろう大木たちが小枝のように折られ倒されていく様を見るに、地上で戦闘を行うのは無謀きわまることがわかります。
ひとつ、逃げてはならない。スネーク型モンスターは非常に執念深く獲物を執拗に追い続けることで有名です。対峙してしまった以上、逃げたところであれは必ずいつかわたしたちを追ってくるでしょう。無関係な人々にこんな脅威を押し付けるわけにはまいりません。
ひとつ。じりじりと追いつめる戦いをしてはならない。
わたしはそれを全て仲間たちに伝えますが、やはりそれに相応する手札は我々にはない。
唯一の希望となるのはメガロシャークですが、メガロシャークを攻め手に回せば我々は地上へ降りることになるため条件不成立からの即死となるでしょう。
となると……やはり、切れる手札は
「あれほど巨大な相手を一撃で仕留めるとなると、それこそドラゴンやメガロシャーク級のモンスターでなければ話にならんか……!」
「アンナさまの
「残念だけど、
アンは
「ルカの攻撃で首を落とせない?」
「接近できれば不可能でもないが……近付けると思うか?」
「ただジタバタするだけであれほどの被害が出るわけですから、明確に攻撃的な意図を持って振るった胴体がぶつかればルカさまといえども……」
ルカの「切断」は自らが剣士に相応しい心意気を持って振るった剣状のものはあらゆる物体を2つに分けるという達人の中の達人が辿り着く境地。
そのため対象のサイズや強度に関係なくルカが「斬りたい」と思ったものは必ず両断できるわけですが、それでも「接近」という前提を要する以上は今回の場合では手札にもなりません。
フライテイカーなら遠距離からも攻撃可能ですが、そうなるとルカの「切断」の性質は失われてしまう。あくまでルカが手にしている状態で成立する妙技なわけですから。
「……わかりました。奥の手を使いましょう」
どれだけ考えても、状況が好転する手段は今のわたしたちの手札に見つかりそうもありません。
こうして議論する間にも、
「アン。まずは分身
「前半はともかく、あんな巨体を5秒かぁ……ギリギリできるかできないかっていう絶妙なラインの無茶振りしてくれるわね……」
頷いて準備に取り掛かるルカに対し、アンは自信なさげに声を洩らします。
けれど、わたしはそんな彼女に対して素直な意見を告げました。
「できますよ」
「何を根拠にそんな……」
「わたしの信じるアンなら」
そう言って召喚杖を構えたわたしを、アンはしばし見つめたまま硬直しました。
何がそんなに驚くようなことだったのでしょう。あくまで思った通りのことを言っただけのつもりでしたが……まぁ、それは後にしましょう。まずは目の前のこれをこなしてからです。
「チーム・Four"S"! Ready!」
『
合言葉と同時に、アンの魔法とわたしの召喚術の詠唱が開始。ルカはそれの防衛を務めつつ、ソフィーは何かを探るように
「召喚士シルヴィアが求める」
「水の導きにより、我が問いかけに応えよ。ミラー」
「邪悪なる牙を持つものよ」
「魔の導きにより、我が問いかけに応えよ。バブル」
「滅亡の深淵より来たれ」
「光の導きにより、我が問いかけに応えよ。フラッシュ」
「召喚――」
――レヴィアシャーク!!
◆
「ボス!」
同時刻。『アルターリ』のアジト最奥にて食事……と呼ぶにはあまりに荒々しく肉を頬張る男の前に、その部下らしき細身の若者が息を切らしながら声をかけた。
不機嫌そうに部下を睨みつけたその男は、ボトルのワインをひっくり返すようにして口に放り込むと、ひと息つくように声を洩らす。
「……なんだ、騒々しい」
アルターリはここしばらく、平穏とは決して言えないまでも変化の少ない日々を送っていた。
金品の強盗など当たり前、暴力・強姦・拉致・麻薬。あらゆる無法を良しとする犯罪集団『アルターリ』にとって、この外道と悪逆の日々こそが平々凡々とした日常であった。
そして同時に――その平々凡々とした日々に退屈と窮屈を感じているのが、何を隠そうアルターリのボスであるこの男であったのだ。
「アスペリマム上空で強力な魔力反応を検知したと、魔法部隊から報告がありました! おそらく、ボスのお求めになっていた例のモノかと……!」
「――ッ!? すぐに魔法部隊の精鋭を連れて斥候部隊を出せ! もし本当にアレが出たならすぐには消えん! 何があっても宮廷騎士より先に到着し、何かしらの情報を持ち帰れ!」
だがそんな退屈と窮屈に苛立ちながら諦観に等しい享受も致し方なしとしていた中で、部下の持ち込んだ報告は彼の興味を大いに引いた。
そう――それは彼が求めに求めたもの。それを求めてこの祭壇を――『アルターリ』を"奪った"のだ。
「チーム・
「い、イエス・ボス!」
物語が――この国を巻き込む運命の火時計が、動き始める。