召喚士シルヴィアが求めるサメ   作:永瀬皓哉

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第37話:鉄壁の騎士とチーム『GUIBLY』

『神に求めるものなどない。私は私の力で私の命を全うする』

 

 そう叩きつけるように言い放ったのはいつのことだったか。たしか、神を名乗る不審人物に向けた言葉だったような気がする。

 そんな薄ぼやけた記憶から20余年。アクリアの神に愛されし我が国とその王家を守護する宮廷騎士団。先代団長が不慮の事故により退団となり、その後任を任された私は、以後その役目を全うすべく尽力してきた。あらゆる艱難辛苦を退け続け『英雄』と称えられた先代には遠く及ばないが、私が団長となって以来、あらゆる戦いでただの一人も死者を出していないのは密かな自慢のひとつだ。

 女王陛下からは「先代団長の影が其方を責めることもあるだろうが、歴代団長が願ってやまなかったのは勝利ではない。敗北なく犠牲者を出さないことこそ何にも代えがたい成果である。其方はその点において、先代団長をも凌ぐ優秀な騎士であることに間違いはないのだ」と身に余るお言葉を賜り、私らしい在り方というものを見つめ直す善き機会となった。

 

「お前とここで鉢合わせるとは思わなかったぞ、ウィルフリード・(ハート)・アラート……!」

「貴様の狙いもあの邪竜か、"影を断つ双つの刃"ユーリィ……!」

 

 影を断つ双つの刃。

 王家と幾度となく対立し続けてきた国内最大規模マフィア『アルターリ』の幹部、ユーリィに与えられた脅威名だ。

 脅威名は通常、その文節が多く区切られるほどにその脅威度が高い傾向にある。歴史上、最も多く区切られた文節は5つ。それもたったの3人。

 そんな中、「影を」「断つ」「双つの」「刃」と4節に区切られるユーリィの脅威名は、現代犯罪史において実質的最上位の恐ろしさを表している。

 

「ユーリィ、彼らは?」

「この国の宮廷騎士団……の、特殊先遣隊さ。それだけならまだなんとかなるかもしれないが、なんであの『鉄壁の騎士』まで一緒に来てるんだ……!」

 

 鉄壁の騎士。

 そう呼ばれるようになったのは、先代騎士団長であったマトヴェイ団長と対峙した公開戦技競技会からだろう。あの戦いにおいて、私はマトヴェイ団長にほとんど為す術もなく敗れたわけだが、同時にあのマトヴェイ団長を相手に初めて「時間切れ」まで戦い続けたのが私であった。そんな私に対し、マトヴェイ団長が「おそらくこれから何十年経ったところで、自分が彼に負けることはないだろう。だが同時に、彼に勝てることもないだろう」と私には過ぎるほどの評価をしていただいたことが始まりであった。

 かの英雄に付けていただいたお墨をここで落とすわけにはいかない。たとえ相手があのユーリィであったとしても、私はここで彼を捕える義務がある。

 

「別働隊さ。特殊先遣隊に先行してもらい、私は諸々の手続きを終えて後から追ったに過ぎない」

「バカ言え、王都からここまでどれだけ距離があると思ってる。まして特殊先遣隊の機動力はお前たち宮廷騎士団の中でもトップだ、いくらお前でも追いつけるわけが……!」

「簡単なことだ。大盾(これ)を構えた私を破城砲で撃ってもらえば、一瞬で距離を詰めることができた」

「お前『破城砲』の意味わかってんのか? 城を壊す大砲だから破城砲なんだぞ。なんでその衝撃受けて無事なんだよお前とその盾」

 

 歴代の宮廷騎士団長たちはその位を頂くに際し、それぞれが求めた国防兵器(ロイヤルウェポン)を国からひとつ賜ることができる。

 そこで私が求めたものがこの純白の大盾……万難を耐え抜き国と民を守り抜く『鉄壁』の盾。その名を――、

 

「この『アンブレイカブルハート』が破城砲程度で壊れるものなら、それに己の半心を預けた私はとうの昔に朽ちている」

「真面目なバカはあらゆる不条理を理屈の通ったバカ理論で握り潰すから始末に負えない」

「だからといって無意味に捻くれた精神ではこの国を護り抜くこともできない。バカバカしいほどに愚直な精神こそが根源的な正義を貫くのだ」

 

 舌打ちと同時に、ユーリィを乗せたワイヴァーンレックスが私を含めた特殊先遣隊の駆るホワイトグリフィンへと炎を放った。

 私がグリフィンの背から飛び出しその火球を防ぐと、その足元へ空中跳躍魔法の足場となる魔法陣が展開。続いて2発、3発と撃ち込まれた炎も、同じように防いでいく。

 

「よく合わせてくれた、ジーナ」

「団長の無茶は隊長から聞き及んでますので」

「なるほど。よい部下を持ったな、パーヴェル隊長」

「き、恐縮です!」

 

 とはいえ私が出張ったばかりに部下の成果を奪ってしまうのはいただけない。

 

「パーヴェル隊長、防御は私が務めよう。君たちはユーリィ及び彼が率いるチームを捕えよ」

「了解! 皆も聞いたな? ジーナは引き続きウィルフリード団長のサポート。他の者は一定の距離を保ちつつ攻撃と牽制を入れ、確実にユーリィの捕縛に当たれ!」

「「「了解!」」」

 

 さて、これで先遣隊の面目も立つだろう。しかしこのワイヴァーンレックス……おそらくはその首元に駆っていた少年の召喚獣だろう。

 ワイヴァーンレックスは数あるモンスターの中でも『空の王』とされるドラゴン種のひとつである『ワイヴァーン』の王。ワイヴァーンそのものはドラゴン種の中でもややランクの落ちるものではあるが、その力は時にあの『海の王』メガロシャークをも狩るというキングクラーケンに迫る。

 ワイヴァーンレックスに限らず、火を口から放つモンスターというのは、総じて体内に「発火器官」というものを持ち、そこで発生させた炎を食道・喉・口内を経て体外に吐き出す。

 この時、自分が放つ炎で体内を傷付けないよう大量の粘性分泌物を発生させるのだが、これにはそのモンスターの水分を急激に消耗する。だから炎を放てるモンスターだとしても、極力それを使おうとはしない。――というのが、私が率いる宮廷騎士団の召喚士隊の意見だったと記憶している。

 だとすれば――あの時、あのワイヴァーンレックスの首元に居た召喚士の少年が「なんの命令もしないまま」火球を放ち、今もこれだけ連続的に攻撃してくるのは、おそらくあのワイヴァーンレックス自身が主人であるあの少年の身を案じて自発的に行っているのだろう。

 

「もういいよ、ワイヴァーンレックス」

 

 そんな言葉が聞こえた瞬間、私の頭上から途轍もない殺気が迫った。

 

「この火球は目くらましか……!」

 

 空を仰ぐように頭上に意識を向けた時には、既に盾での防御が間に合わないところにまでユーリィが迫っていた。

 なるほど。あの火球は単なる牽制と目くらましだけでなく、頭上をとった時にできる影を炎の光で隠す意味があったのか。見事、と言いたいところではあるが……だとしてこのままやられてやる義理もなし。

 私の鎧の隙間――彼を見上げた私の喉元に突き立てる二つの短剣を、身を(よじ)って肩のアーマーで防ぐと、右手のメイスを振りかぶる。しかしさすがに暗殺士。私の反撃を見越していたように、初撃を防がれたと判断した時点で私の腹部を足場のように蹴って後退、暗殺技術というより軽業にも似た身のこなしだが、実際こうして躱されてしまった以上、それに()()をつけることは出来かねる。

 

「イヴァン!」

「星座のしるべ、海風のひびき、地脈のめぐり。魔の導きにより、我が問いかけに答えよ。ベルト!」

「拘束用の大帯魔法(ベルト)を、足場に……!?」

 

 魔法士のジーナも驚くこの大帯魔法(ベルト)の使い方は、私も初めて見るものだ。本来の大帯魔法(ベルト)は相手に巻き付けて動きを封じる拘束魔法(バインド)系統の一種だが、彼はその帯の幅と長さを拡張することで空中に伸びた『道』として展開し、それを足場のように扱っている。元々が敵を拘束するためのものだけあって、足場としての頑丈さも保証つきだろう。

 

「ジーナ、君にあれと同じことは?」

「すみません。長さはともかく、幅についてはせいぜい片足分程度のものしか……」

「構わない。むしろこれを見て君も学びを得ただろう。必ず生きて持ち帰り、モノにしろ」

「はい」

 

 大帯魔法(ベルト)で安定した足場を得たことでユーリィの攻撃は苛烈さを増した。あの短剣……逆手に握る彼の小指には何やら引き金(トリガー)のような装置がついているな。おそらく何かしらのギミックが施されているのだろう。暗殺士である彼の持つ短剣……毒を注入するための機構か? いや、それなら刃に塗りこむだけで十分なはず。ならばいったい……。

 

「なるほど。そうやって防御に徹して相手の観察をしつつ、隙を縫いながらの反撃。相手の力量や技術を把握したら一気に攻めたてるのがお前の戦い方か」

「…………!」

「敵をじっくり観察してるのがお前だけだと思ったか?」

 

 はっとして、ユーリィの攻撃に合わせてシールドを突き出し、彼がその衝撃で飛ばされてから再び攻撃を仕掛けてくる僅かな間に、私は視線をワイヴァーンレックスの首元へ向けた。

 

「気付いたらしいな」

「ああ。集団戦における召喚士のおそろしさを痛感させてもらった……!」

 

 召喚士は基本的に自分が戦うわけではない。召喚獣を使役し、彼らに指示を出すのが召喚士の戦い方だ。

 だがその副次的な効果として、戦局全体を俯瞰して見ることができる。召喚士単体ではそれほど大きな意味を持つわけではないにせよ、集団戦においては勝敗に大きく影響を与える要因となるだろう。

 特殊先遣隊のような特例を除き、宮廷騎士団は基本的に戦士だけなら戦士だけの、魔法士だけなら魔法士だけの部隊に分け、戦況に応じてこれらを部隊単位で運用する。そのため、他の隊が持つ独自の強みを把握しきれていないところは大いにあった。今回、召喚士を単なる「召喚獣を使役するもの」として捉えていたのは、私の勉強不足・理解不足が招いたものだ。

 あの召喚士単体の力はさほど脅威とはならないだろう。だが召喚士が召喚士のみの状況などあるわけがない。召喚士を守るのが召喚獣の役目だからだ。

 ワイヴァーンレックスによって守護された召喚士の少年は、実質的に言えば「戦術的な思考を持つワイヴァーンレックス」と言い換えられるだろう。加えて、そこで観て判断したものを、彼の背後に構える魔法士が通信魔法(テレパシー)か何かでチーム全体に伝えている。本来、魔法を同時に2つ以上使うことはできないとされてきたが……確か数年前に魔法学校の生徒が編み出した「多層展開(マルチタスク)」を既に扱える魔法士がアルターリに居たとは……あれは宮廷騎士団の魔法隊でさえ数えるほどしか習得に至らなかった高等技法だと聞いたが……。

 

「見た感じ、お前の戦力は確かにとんでもないが、自分が前に出た時の連携はそうでもないらしいな」

「何……?」

「お前、自分が強すぎて基本的に一人で何でもこなしてきたタイプだろ。だから指揮能力はともかく、連携がとれてない。いや、周りがお前に合わせきれてないって言った方が正しいかもな。その証拠に、特殊先遣隊の隊長が出した指示はお前を含めたチームとしての連携じゃなく、お前をオレにぶつけてそれ以外を自分たち『チーム』で叩くって選択をした。だが、お前のせいでそれもできてない」

 

 なるほど。ユーリィの指摘は尤もだ。

 私はユーリィに対処可能な戦力が私のみだと判断し、彼の相手を自ら買って出た。だがそれは同時に、私が彼らを「5人」として扱っていたからだ。だがそれは最初から破綻していた。彼らは「5人」ではなく「1チーム」だったのだ。それに対し、こちらは「1人と1チーム」……数としてみればこちらには「チームに追加戦力がある」と見ることもできるだろう。だが実際は逆だ。「チームに異物が入り込んでいる」というのが真の事実。私の存在が異物となって、彼らはジーナという優秀な戦力を失っている。

 

「だとして、それは貴様も同じだろう、ユーリィ」

「本当にそう思うか?」

 

 同じように私と単独で交戦しているユーリィに対し、その威勢を欠かんと言葉を返すものの、やはりその効果は無かった。

 当然だ。彼は単独で戦ってはいるが、独りで戦っているわけではない。召喚士の少年が全体の戦況を観察し、あの魔法士と共に戦術を全体で共有し、重戦士と槍術士は高度な連携をもって特殊先遣隊を私から引き離すように立ち回り、そしてユーリィは私を孤立した戦力として戦いつつ時にはあちらをサポートするように毒針を飛ばしている。

 ワイヴァーンレックスによる火球の追撃がないのは、先ほどの連撃によってワイヴァーンレックス自体が消耗しているからだろう。私にとっての救いはそれだけと言えた。

 

「お前が戦ってんのはオレじゃなくて、チーム『GUIBLY』(オレたち)だってことを教えてやる

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