転校先で美少女ガールズバンドのデスボイスボーカルとしてお迎えされた件について   作:クワガタ信者

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第12話 ゴアグラインドを最初に聴いた時の『深淵』感は異常

 放課後。HRが終わり、部活や遊びなど各自思い思いの時を過ごす。

 スマホを除くと橘さんから連絡が来ていた。

 

『今日は用事あるから一緒に帰れないの。ごめんね』

 

 おお、一緒に帰ること前提だったのか。思えばここ数日は橘さんと一緒に帰ることが多かった気がする。 

 しかし橘さんが謝る必要なんて全くないのだ。

 一人で帰るのなんて俺にとっちゃソシャゲのデイリーミッションよりも気安い。

 そもそもバンドメンバーだからといって、年がら年中一緒にいなきゃいけないなんてルールなんてないんだ。各々用事はあるしな。

 

 全然気にせず素知らぬ顔であくびをかましながら帰路に就く。

 先日橘さんから「ライブでやるから覚えておいてね」と送られた曲を遅くまで聴いたり歌詞を覚えたりしていたので寝不足だ。

 なんでも、いつかスクリームボーカルを加入させた時用に予め曲を作っていたそうだ。

 流石は橘さん。情熱がもうすごい。ちなみに作曲は基本的に橘さんが担当している。

 

 靴を履き替えて外に出る。すると、見知った顔の生徒が目に入った。

 ちんまい茶髪のポニーテールが4人の女子生徒に囲まれながら歩いている。それぞれ、カーストは上の方っぽい顔立ちをしていた。

 

「吉川さんってどこの美容室行ってるの?」

「髪めっちゃ綺麗だよねー。うらやまー」

「ねえねえ。最近のトレンドは地雷系メイクらしいよ! 真琴もやってみようよ!」

「リップ変えようと思うんだけど何がいいかなー」 

 

 なんかキャピキャピしてる。

 

「もー、一斉に言われても困るってー」

 

 真琴は楽しそうに困っていた。

 おー。今時の女子高生って容姿だとは思ってたけど、あんな一軍女子達の中心にいるとは。ただのサイコレズではなかったというわけか。

 

「あ、じゃあ私達こっちだから」

「また明日ねー吉川さん」

 

 校門を出たところで四人が右方向へ舵を切る。

 

「うん、また明日ー」

 

 真琴は満面の笑みで同級生達を見送るように手を振っていた。

 笑顔のまましばらく振り続けている。

 

「……はぁ」

 

 と思いきや、どっと疲れたような表情で肩を落としていた。

 

「あ……」

「おっ」

 

 こちらに気付いたようだ。

 

「……どうも」

「あ、ああ。お疲れ?」

 

 お互いよそよそしい挨拶をかまして歩き出す。俺と真琴の帰り道はどうやら一緒のようだ。

 

「…………」

「…………」

 

 先日の打ち解けた感じはなんだったのか、俺達は無言のまま並んで歩いていた。 

 いや、そうおかしなことではなかった。友達の友達は友達ではない。

 AさんとBさんが友達だとしよう。AさんはBさんに別のコミュニティの友人であるCさんを紹介した。Aさんの手前、BさんとCさんはお互いフレンドリーに接するだろう。しかしAさんが席を外した途端、BさんとCさんはお互い無言になってスマホをいじり出すんだ。所詮BさんとCさんを繋がりはAさんありきのもの。AさんがいなくなればBさんとCさんはただの他人同士というわけだ。

 

 所詮、俺と真琴の関係も橘さんや恋ありきということだったのだ。悲しいね、同じバンドに属しているのに。

 

「……くま、すごいですよ」

「ぉぁっ!」

 

 とか変なこと考えて自分の世界に入り込んでるから急に話しかけられてビックリしてまうのだ。悪い癖なんだ。

 なんだよ「ぉぁっ」って。どうやって発音したんだよ。

 

「な、なんですか……?」

「い、いや。なんでもない」

 

 真琴は挙動不審な俺をいぶかし気な目で見る

 

「ほら、橘さんに曲覚えとけって言われたからさ。遅くまで聴いてたんだ」

「ああ、そういう」

「真琴こそ、随分と疲れた感じじゃないか。さっきまで楽しそうに友達と話してたのに」

「覗きとか趣味悪いですよ」

「いや、すぐ目の前にいたからさ」

 

 真琴はふぅ、と息をついてしばらく黙り込んだ。

 

「……普通の女子高生に紛れるのも大変なんですよ」

「そうなのか?」

 

 俺からしたらどんな集団でも溶け込むのに自信ないんだけど。

 

「ええ。流行りもの全力で追わないとついていけないし、空気読めないと詰むし、話を合わせるの大変なんです」

 

 あー、女子って独特のコミュニティ築くよね。

 

「私みたいな変わり者は努力しないとうまくとけこめませんから」

「変わり者、ねえ」

 

 確かにこの前見せたスクリームへのこだわりは中々のものだっただろう。俺もびっくりしちゃった。でもこだわりなんて多かれ少なかれ誰だって持っているはずだ。そんなことで変わり者扱いされちゃあ、たまんない。

 変わり者というのは空気を読めずクラスのカラオケでデスメタルを歌うような奴の事だ。

 はい、俺の事ですね。

 

「努力ってつまんないですよ。興味のないコト本気じゃないものに向き合うのって結構ストレスなんです」

「あー、だから成績が――」

「成績の話は今してません!」

 

 ほっぺたをふくらましてプンスコと怒っている。ちょっとかわいい。

 

「流行りの音楽、流行りの恋愛ドラマ、流行りのコスメ、インスタ映えするお菓子、全ッッッッッ然興味持てないのにみんなと足並み揃えないとすぐハブにされる。もう追うのが大変で大変で」

 

 あー。

 女子ってそういうところあるよね。トイレ一緒に行かなかっただけで爪弾きにされた子中学にもいたわ。あれなんなんだろうね。女子ってツレション意味あるの?洋式トイレをみんなで囲んでおしっこすんの? 意味わかんねーよ。

 

「なるほど。ベースもやって流行りにも付いて行って、だから勉強する時間がないのか」

「いや、勉強は普通にしないですけど」

 

 しろ。

 

「特に音楽が大変で大変で」

「音楽? 俺達の分野じゃないか」

「先輩は興味ないジャンルとかってあります?」

「演歌とかかなあ」

「それを延々と聴かされてカラオケ歌えるようにしろと強制させられたら?」

「うわあ……」

 

 嫌だ。嫌すぎる。その時間でどれだけのスクリーモと出会えるか。

 

「そういうことです。ストだのスノだの興味ないんですよ。もうあらかた歌えるようになりましたけど」

 

 ちなみにストの方はデスボイスを取り入れてるらしいよ。流石に本業でやってる人達にはまだまだ及ぼないけど、アイドルでそういう取り組みは珍しいから割と応援してる。これを機にコッチの界隈も盛り上がってほしいよね。ガチでね。

 

「そんなのよりパーパスとか聴きたいのに」

「パーパス!? パーパスとか聴くの!?」

 

 パーパスってのはイングランドの有名なバンドだ。

 ポストハードコアやスクリーモ以上に激しく、聴く人を選ぶバンドだ。

 

「私、一番好きなジャンルがゴアグラとブルデスなので」

「マッッッッッッジか!?」

 

 ゴアグラとブルデス、それぞれゴアグラインドとブルータルデスメタルの略称である。

 いずれも殺人や暴力といった猟奇的なセンテンスを織り込んだ歌詞が特徴なデスメタルである。スクリーム、というよりかはガテラルを使う傾向がある。

 ジャケットも血みどろモツまみれのグロテスクなイラストや写真を扱われている。人によっては忌避感を覚えてもおかしくないレベル。

 端的に言ってめちゃくちゃヤバいジャンル。俺ですら初見は引いた。

 

「な、なんですか。私がブルデス聴いてちゃいけないんですか?」

 

 目を大きく開いて驚く俺を見て、真琴はムッとした。

 

「いや、いけないってことはないさ。人には人の好みがある」

「とか言って。おかしい子だって思っているんでしょう? いいですよ別に。慣れてますから」

 

 そう言って真琴は無表情で向こうを向いた。

 

 なんだろうな。この子に凄まじいシンパシーを感じる。

 例えば女子高生や女子中学生にブルデスやゴアグラインドをオススメだと聴かせたとしよう。帰ってくる反応は想像に難くない。苦笑いされて変な奴だと陰で言われるのは想像に難くない。

 

 あの時の俺みたいに。

 

 ……おかしいだなんていうものかよ。

 

「……俺はパーパスよりもLWOHが好きだね」

「っ!」

 

 LWOH、Lost Weeks Of Humanityというゴアグラインドのバンドだ。ジャケットにはリスカ跡が残った腕が映されている。

 

「あの『カカカカカカカカカカカカカカン』ってスネアが癖になるんだよね。ドラムマジ大変だと思うわ。あれ」

 

 真琴は目を見開いてこっちを見ている。先ほどの冷めた表情は消えた。

 その眼は俺とカラオケに行った時の橘さんとよく似ていた。

 

「俺もそっち側だからさ。人のこと変って言えないけど、人にはどうしても趣味趣向とがあってさ。受け入れられるもの受け入れられないものがあるんだよ。俺達が好きなものは人には理解されにくいものかもしれない。時には笑われたり嫌な顔されるかもしれない。だからこそ、理解された時はすっごく嬉しいし、同志を見つけたときは胸に込み上げてくるものがある。俺にとっての橘さんがそれだったんだ」

 

 そうだ。俺の好きを初めて認めてくれたのはあの人だった。

 

「だからさ、真琴。オレにもっと教えてくれよ。真琴の好きなの。俺めっちゃ興味あるし。ゴアグラもブルデスもあんまり詳しくなくてさ。オススのバンドがあったら教えてほしい。全部聴くからさ」

 

 俺もそれに続け。

 

「俺は絶対に真琴の好きを否定したりはしない、全部受け止める」

 

 そう言うと真琴は口を半開きにしたまま、顔を赤く染めた。同胞が出来たのがよっぽど嬉しかったんだろう

 あっ、顔を逸らした。耳まで真っ赤になってる。

 そんなに嬉しかったのか? 

 でも気持ちはわかるぞ。俺が橘さんに抱いた気持ちと同じならそれはもうそれはもう。  やば、思い出しただけでも涙が出そうだ。

 

「QRコード、ください」

 

 真琴は携帯を取り出してそう言った。

 

「ラインの?」

 

 真琴はコクコクと細かく頷く。

 一応シュガースポットのグループラインに入ってるから、そこから友達に追加すればいいんだけど、まぁいいや。

 

「これでいいか?」

 

 真琴は素早くQRコードを読み取り、カカカッと高速でフリックし出した。

 ピコンッと俺のスマホに通知が来る。なんだなんだ、もうオススメの曲でも送ってきたか。そう思って真琴から送られてきたURLを開く。

 

 ――が、出てきたの2人の女の人が裸で縛られている画像だった。

 

「うおあっ!」

 

 思わずスマホを落としてしまう。

 同時に大音量で重たいギターサウンドとエフェクトを多用したガテラルが流れ始めた。

 

「なんだコレなんだコレなんだコレ!?」

 

 ただ縛られているだけじゃない。女の人は変なマスクをつけさせられながら、口元に謎のチューブを咥えさせられている。チューブから謎の白い液体が零れ落ちていた。

 

「知らないんですか? 須賀先輩。これはディック・アンド・テスティカル・トーチャーってポルノグラインドのバンドです」

「ポルノグラインド!? なんだよそれ!」

「ゴアグラの一部です。ジャケットや歌詞にセックスを取り入れたジャンルなんです!」

 

 なんだよそのジャンル! あとお外でセックスとか言わないでね。

 

「しかもモチーフとして取り入れられた性行為のジャンルとしてもかなり過激なんです! 具体的にはア◯ルファ――」

「それ以上言うなッッッッッッ!!」

 

 公衆の面前でなんてこと言ってんだこの子は。

 

「むー、なんですか。全部受け止めるって言ったじゃないですか」

「初っ端からオーバーフローさせてくるんじゃないよ! まずジャブ打って来いジャブ」

「こんなのまだまだ序の口です! もっと刺激的なジャケットのバンドだってあるんですから!」

 

 まだまだありますよ、と真琴は動画を送ってくる。ここしばらく俺のユーチューブの履歴はエログロに染まるのであった

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