転校先で美少女ガールズバンドのデスボイスボーカルとしてお迎えされた件について   作:クワガタ信者

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第14話 国境を超えるのは音楽だけの専売特許じゃねぇぜ!!

 次の日のお昼休み。

 チャイムが鳴ると同時に大きなあくびが出る。

 ふあぁ~、と同時にお腹の虫が鳴る。眠気と空腹、睡眠欲と食欲が同時に押し寄せてきた。食っちゃ寝食っちゃ寝とは実にいい響きだ。三大欲求のうち二つを満たす言葉。そんな暮らしをしてみたいものだ。

 

 さて、いつもの我らがたまり場へと行きますかと思いながら大きく伸びをすると、教室のドアがバーーーンと開け放たれる。

 

「須賀くーん。いるー?」

 

 ピンと張ったピアノ線のようにはっきりとした声。弁当組の生徒が一斉に注目する。ドアの前には橘さんが立っていた。

 

「チッ、また須賀かよ。なんであんな奴が……」

 

 誰かが静寂の中そう呟いた。本人にとってはただの独り言でしかなかったのだろう。だが、橘さんに皆が気を取られて沈黙している中、その声は教室中に響き渡った。

 

 もちろん橘さんの耳にも入る。

 

「……」 

 

 橘さんは無言でその生徒を一瞥する。美しさは時に恐怖をもたらすことがある。青く澄んだ海洋も人によっては恐怖症にかかるほどだ。

 美人の真顔は怖い。橘さんは特にそれが顕著だ。睨まれた生徒は「んひぃっ」と身体をビクつかせながら目を逸らした。

 

 気にせず橘さんは俺の席に来る。

 

「須賀くんゴメンっ! 今日ちょっと用事あって遅くなりそう。だからこれ!」

 

 そう言ってお弁当箱の入ったランチバッグを渡した。

 

「ちゃんと食べてね。自信作だから♪」

 

 そう言って橘さんは教室から出た。

 

「橘さんが須賀君に弁当を!?」

「マジかよ。橘さんの手作り弁当……」

「マジ羨ましい……」

「俺、許せねえよ……」

 

 橘さんが去った後、ギャラリーの目線は一気にこっちに来ることになる。好奇な視線が突き刺さってイタイ。

 俺は逃げるようにその場から去った。

 

 

 

 

 

 

 ランチバッグの重みに期待を膨らませながら俺は、旧音楽室の扉を開けた。

 

「あっ……」

 

 中には真琴が弁当箱を広げて昼食を取っていた。

 

「どうも」

「あぁ、お疲れ」

 

 以前のような気まずさはなく、簡素なあいさつはお互いそれなりに打ち解けたことを表していた。

 

「真琴一人?」

「はい。幸は茶道部の子と」

「茶道もやっているのか。すごいな!」

 

 和装でお茶をかき混ぜている塚見さんは想像に難くない。めっちゃ似合う。

 

「でも大変そうだな。ギターに茶道に華道、勉強もやってかなきゃいけないから並行するのキツそうじゃないか?」

「幸は私と違ってなんでも要領よくやりますから」

「へえ、器用なもんだ」

 

 確かにあの時のテクニカルなギターテクは不器用な人には難しかろう。一音一音、音に雑味がなく正確に弾くのは彼女の器用さがあってこそだろう。

 

「そういえば、先輩はいずこへ?」

「橘さんなら用事があるって言ってたな。しばらく来ないんじゃないか?」

「そうですか」

 

 そう言って真琴は小さな弁当箱を片付けた。

 

「もう食べ終わったのか。早いな」

「まぁ、量が量なんで」

「少食なタイプ?」

「女の子は体型維持するのも楽じゃないんです」

 

 なるほど。たしかに真琴は細身だ。顔も小さくて身長の割に頭身が高く見える。

 だが――

 

「ちゃんと食べないと大きくなれないぞ? いろんな意味で」

「余計なお世話です! あとなんですか!いろんな意味でって! どこ見て言ったぁ!」

 

 小さなランチバッグを振り回しぽかぽかと叩いてくる。

 

「やめなさい!危ないでしょ!」

「小さいには小さいなりの戦い方ってもんがあるんです! 希少性って知ってます!?」

「わかった!悪かったって!オレが悪かったよ」

 

 わかればいいんです、と今度こそランチバッグをカバンの中にしまう真琴。

 

 にしても弾みであんなことを口走ってしまったが、冷静に考えると物凄いセクハラにならないか?

 まずったなぁ。コミュニケーションを間違えたかもしれん。ちょっと仲良くなっただけで勘違いしてライン超えるのもコミュ障あるあるなんだよな。俺は内心、人見知りのぼっちなだけで致命的なコミュ障ではないのでは?と自負していたが、実はシンプルにコミュにケーションに問題のあるやつだった可能性出てきた。ダウナー系コミュ障からアッパー系コミュ障にクラスチェンジしただけかもしれん。ねぇ誰か殺してくれよこの悲しき怪物を。

 

 と、ひとり自己嫌悪していると真琴は気を取り直しておもむろに雑誌を取り出した。

 

「♪」

 

 こころなしか機嫌は悪くなさそうにも見えなくもない。実はそんなに怒ってない? 大丈夫? セーフ? このくらいのいじりはギリギリアウトじゃないのか?

 

 そんな事を考えながら何の雑誌を読んでいるのか真琴の方をチラ見した。

 

 ――のが間違いだったかもしれねぇ。

 

「なあっ、にぃっ!?」

 

 真琴の読んでいた雑誌には、バカみたいな水着を着た女の子の絵が描かれていた。

 タイトルは狂楽天。バリッバリのエロ漫画雑誌だ。

 

「ちょっ、おま、なんてもん見てんだ!?」

 

 思わず叫んでしまう。

 

「大きい声出さないでくださいよ」

「『大きい声出さないでくださいよ』じゃないだろ!」

 

 一体何が起こっているのかわからない。イカれているのか? この子は。

 

「知らないんですか須賀先輩。狂楽天」

「し、知らないな、そんなもの」

「またまたご冗談を」

 

 真琴はニヤッと口元をつり上げて笑った。

 

「年頃の男子高校生がこういうのに興味を持たないわけないでしょう。知っていますよ須賀先輩は」

「し、知らん! 俺は硬派なメタラーだ。メタラーはそんな軟弱なもの読まん!」

「ポルノグラインドも知らなかったにわかメタラーのくせによく言いますよ」

 

 真琴は気にせずパラパラとページをめくる。

 

「それともあれですか? 須賀先輩は漫画よりビデオ派ですか?」

「黙秘する」

「中学生じゃあるまいし、男子のくせにそういうの恥ずかしがるのって童貞臭くてダサいですよ?」

「ど、童貞の何が悪い! 今のこのご時世、大人でも童貞だって人いくらでもいるんだぞ!」

 

 二十代の男性で女性経験がゼロ、というのは今の御時世珍しくもない。

 そうネットのニュースで書いてあったもん!

 

「そういうお前こそどうなんだよ。煽る割にしょ、しょじょだったらモゴモゴモゴ」

「処女って単語だけでモゴモゴしないでくださいよ童貞臭い」

 

 クリティカルな一撃。童貞は致命傷を負った。心がふたつあるー(真っ二つ)

 

「……気になります?須賀先輩」

「な、なにが……」

「私が処女かどうか」

「……興味ないね」

「傾聴の姿勢バッチリじゃないですか。ダメな議員か」

 

 気がついたら俺は耳に手を添えていた。悔しい。でも気になっちゃう。

 

「じゃあ須賀先輩耳貸してください」

 

 真琴の口が俺の耳元に近づいてくる。橘さんのような柑橘系のスッキリとした香りや、恋のようなローズ系の大人っぽい香りとも違う。バニラのような甘い、ガーリッシュな香りがする。あ、待ってやばい息当たるやばいやばいくぁwせdrftgyふじこlp――

 

 

 

 

 

「ヒ・ミ・ツ」

 

 

 

 

 

 

 ピシッと真琴は俺の耳たぶをデコピンの要領で弾いた。

 

「あはははは!」

 

 真琴は俺を指さして笑う。

 

「須賀先輩耳真っ赤っ赤www」

 

  お、おのれ! 人様をおちょくりやがって! なんというメスガキムーブだ。でもなんだろう。すっごく悪くない。すごくすごーく悪くない気分だ。今のもっかいやってくれませんかね

 

「で、だ。結局なんでそんなもん急に見始めたんだよ」

 

 俺の質問に真琴はきょとんとした顔で答える。

 

「そんなの、好きだからに決まってるじゃないですか」

「何が」

「これが」

 

 真琴は雑誌を指さした。

 

「ポルノは芸術です。人と人が交わる逢瀬、生命の神秘、抑圧からの解放! 国籍や人種、世代や宗教。争いは絶えずとも、思想は分かり合えなくとも、人類皆エロスで繋がっている!」

 

 ま、まずい。何か語りだしたぞこの娘

 

「愛を司る神エロースは混沌より生み出された原初の力。キューピッドでお馴染みクピードーと同一視されてます。太陽系の433番目の小惑星でもあります。小惑星は基本的に女性の名前でつけられますが、エロースは初の男性の名前をつけられた小惑星なんです。初めてつけられた男性の名前が愛の神エロスだなんてロマンチックでしょう?」

 

 急に神学と天文学の話しされてもわかんねぇよ。

 

「特にこの狂楽天。プレイが豊富で大変魅力的です。アデリークラブやアクアリウムなど青年漫画雑誌は数あれど、これほど数多の需要に応えた雑誌はほかにありません! 大変刺激的です! おすすめの漫画家としては白子《しらす》の――」

「と、とにかく真琴がソッチ方面で造詣が深いのはよくわかった。それはいいけど、なんで急に俺の前で読み出したかを聞きたいんだ」

 

 好きだからといって異性がいるところでエロ本をおっ開くのは、明らかに自然じゃない。

 それに真琴は意外と周りの目を気にしている。女子の友達と普通に溶け込めている真琴に常識が欠けているとは思えない。

 ん?まてよ。そうなるとクラスに溶け込めていない俺は非常識の異常者?

 

「だって須賀先輩言ってたじゃないですか」

 

 へ?俺?

 

「私の好きを否定しないで全部受け止めるって」

 

 そんなこと言っ……てたわ。

 

「だから須賀先輩の前だけですよ。私が人前でこんなの見られるの」

「……はは、なんだそりゃ」

 

 抑圧からの解放、だっけ? 真琴は俺同様、普通の人とは趣味が違う。それでも周りとうまく馴染めるよう興味のないことでも全力で取り組んでいたんだ。息苦しくてフラストレーションが溜まっていてもおかしくはない。

 だったらせめて俺や橘さん、シュガースポットのメンバーだけでも彼女の素を受け入れてあげるべきだ。

 

 それでこの子の生きにくさが少しでも和らぐんなら、そうするべきだろう。

 

「おすすめの漫画家はあるかい?」

「どんな絵柄が好みです?」

 

 俺の好きなエロ漫画家はぎぃ氏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらほら、これとかすごくないですか?」

 

「おおぁ……これは……大変刺激的ですのう……」

 

 俺は椅子の上であぐらをかいている真琴の後ろに立ってエロ漫画雑誌を読んでいた。

 

 それにしてもこのCOMIC狂楽天、少々過激すぎではないか? 純愛よりもNTR、ノーマルプレイよりハードプレイ、SMプレイは当たり前ときた。ちょっとアブノーマルの道に行きそうで怖い。

 

 コツコツコツとローファーで地面を叩く音に、夢中で雑誌を読み耽る俺は気づかなかった。

 ガララッとドアが開け放たれる。

 入ってきたのは橘さんだった。

 

 真琴は咄嗟に雑誌を鞄にしまい、何食わぬ顔で橘さんに寄っていった。

 

「せんぱーい、お待ちしておりましたー!」

「お疲れ様真琴。なんか今須賀君と距離近くなかった?」

 

 ギクゥ。

 

「やだもう、先輩ったら! そんなわけないじゃないですかー」

 

 きゃぴっ★と真琴はシラを切る。

 

「それより先輩、お疲れみたいですけど、何かありました?」

 

 確かにさっきと比べて橘さんに元気がないように見える。というかゲンナリしてる?

 いつもドアをバーーーンと大きな音を立てて開ける橘さんだが、随分と勢いのないドアの開け方に見えた。

 

「あーね、これよこれ」

 

 橘さんはヒラヒラと封筒のような便箋を揺らした。色はピンク色でハートのようなシールが貼られていた。

 

「これって……」

「まあ!」

「そ、ラブレターって奴」

 

 アンニュイな表情で橘さんはソレをしまう。

 

「一枚だったから一人だろうなぁと思って屋上行ったら、十人以上いたから流石に面食らったわ」

「なにそれ怖い」

「集団告白ですか。流石に私も二桁はなかったなー」

「えっ、真琴もあるのか!?」

「はい。私はせいぜい三人くらいでした。幸はもっと多いと聞いてます」

 

 すげぇな、シュガースポットの面々。当たり前のように告白されるんだもんな。

 

「気持ちは嬉しいんだけどさ。正直恋愛とかわかんないんだよねー。あんま興味ないっていうか」

「わかりますー。私も男子と付き合うより女の子と遊んでたほうが楽しいですから」

「でもお前めちゃめちゃ興味津々じゃんエロマ――ぐほあっ!」

 

 真琴の肘が俺の脇腹に突き刺さる。

 

(先輩の前で変なこと言わないでください!)

(お前、橘さんには話してないのかよ)

(先輩に成人向け雑誌が好きだなんて言えるわけないでしょう!)

 

 俺にはいいのかよ。

 

(これ打ち明けたの須賀先輩だけですからね! 恋先輩や幸にもバラしたら、シュガースポットメンバー全員に「須賀先輩に貧乳イジリのセクハラ受けました(泣)」って泣きつきますから!)

 

 やめろぉ! その攻撃は社会的に死ぬゥ!

 

「何二人してコソコソ話してんの?」

「いいえー♡なんでもありませんよー? ねぇ須賀先輩ー?」

 

 万力のような力で真琴は俺の膝をつねる。

 痛い痛い千切れる千切れる。

 

「あ、ああ。なんでもないよ。ホントに」

 

 痛みで顔引きつるからつねるのやめて! 不自然になっちゃうでしょ!

 

「告白する分にはイイんだけどさ。恋愛感情持つのは自由なんだし。けど親密になりたい余り、私と仲のいいクラスメイトに『紹介してくれ』とか『連絡先教えてくれ』とか迫るのはちょっとやめてほしいんだよね」

 

 真琴が「あー……」と相槌を打つ。あるあるなんだろうか。

 

「そこまで行くと迷惑ですよね」

「そうそう。ちゃんとこっちの気持ちも考えてほしいなーって……あ、そうだ! 須賀君、弁当食べてくれた?」

 

 あ、やべっ忘れてた。

 

「ごめん、今から」

「あれま、じゃあ一緒に食べましょうか」

 

 橘さんはそう言ってお弁当箱を取り出す。俺もランチバッグから弁当箱を取り出した。形はおそろい色違いの弁当箱。

 

「ちょ、ちょっとどういうことですか須賀先輩!? なんでおそろいの弁当箱なんて持っているんですか!」

 

 真琴は理解不能とばかりに俺と橘さんを交互に見比べた。

 

「須賀くんったらね、お昼ごはんをパン二個とサプリだけで済まそうとするのよ。これじゃあ栄養バランス偏っちゃうでしょ? だから私がバランスのいいお弁当を作ってあげることにしたの。これで力強いスクリームが出せるって寸法よ!」

 

 橘さんは自信満々に胸を張る。

 

「ず、ずるい!須賀先輩だけずるい! 先輩私にもー!」

「しょうがないわねぇ。須賀君、真琴にも少し分けてあげてもらってもいい?」

 

 橘さんが言うならしょうがない。

 

「やたっ♪ 先輩、あーんしてくださいあーん♡」

「もう、子どもじゃないんだから」

 

 なんか二人でイチャイチャしとる。

 

 真琴に唐揚げや卵焼きをつままれながらも俺は至高の昼食を味わうのだった。

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