転校先で美少女ガールズバンドのデスボイスボーカルとしてお迎えされた件について   作:クワガタ信者

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第15話 人の噂も七十五日、俺なら一瞬で終わらせられる

 それからの俺は充実した日常を送っていた。

 学校では橘さんや一年組と昼食を取り、放課後はholicに集まって次のライブでやる曲の練習をしていた。

 みんな俺を褒めてくれる。今までスクリーム以外これと言って優れたものもなければ秀でたものもない俺だったが、このコミュニティ内では俺も主役の1人として扱われる。

 それが俺にとっては嬉しかった。

 認められるということがこんなにも嬉しいことなのだとは思わなかった。

 

 でも俺を認めてくれるのはあくまで彼女達だけだ。

 俺を認めない奴らはどこまでも俺のことが気に食わないらしい。

 

 

 

 

 

「須賀先輩っスよね?」

 

 二時間目終わりの十分休憩。トイレから戻る道中、丸刈りと茶髪ヘアピンの一年生男子らしき二人組に声をかけられた。

 

「ああ。そうだけど」

「俺、一年の中田っス。こっちは三上」

「ちょりす」

「はあ」

 

 二年の教室は一階、一年の教室は三階にある。十分間しかない休憩時間中にわざわざ階段を2フロア分降りて俺になんの用だろうか。

 

「単刀直入に言います。吉川と付き合ってるんスか?」

「……はぁ?」

 

 結果から話せ、要点だけ話せとはよく言うけど、やっぱ過程って大切だと思うんだよね俺。突拍子もない事ズバッて言われても混乱するだろ?

 

「……ごめん、話が見えない。なんでそうなってんの?」

「噂になってるんスよ。須賀先輩があの橘さんや吉川、塚見さんとよく放課後一緒にいるって」

 

 あーはいはい。そういう感じね。このおにぎり坊主、恐らく真琴に気があるんだろう。

 彼女達と一緒に過ごしてわかったことだが、シュガースポットの面々、特に真琴と塚見さんは男子とほぼ絡まないらしい。そんな二人が男子である俺と一緒に過ごしているってのは、彼女達を慕う彼らにとっては異常事態もいいところってわけだ。

 

「なるほど、安心しろよ。別に俺と真琴は恋仲ってわけじゃない。ただ一緒に音楽活動してるからつるむことが多いってだけだよ」

「本当スか!? よかっ――」

「塚見は? 塚見とはどうなんよ?」

 

 ヘアピンがおにぎり頭の声を遮ってそう尋ねてきた。食い気味だなこいつ。

 

「別に。塚見さんともそういう関係じゃない」

「やっぱそう? だよなーw」

 

 ヘアピンは人を小馬鹿にした感じで「ははははは」と笑う。

 こいつなんかうざいな。先輩風吹かすつもりなんてさらさらないけど、普通上級生には敬語使うだろ。明らかに舐めている。

 もう制服の着こなしからして随分と育ちが悪い。なんでベルトの位置そんな低いんだよ。

 

「お前さすがにそれは失礼だろ。上級生だぞ」

「えー、いいっしょ別に」

 

 おむすび君は髪型からして野球部かな? ヘアピンと比べて随分とちゃんとしてる様に見える。てかこのヘアピンがヤベー奴すぎるのかもしれん。まあ、別に指摘してやるつもりはないけどね。こいつがこの態度のまま社会に出たとして、損をするのはこいつだ。こいつがこの先酷い目に遭ったとして俺が困ることなんて万に一つもない。

 教育ってやっぱ大事だわ。俺は親に恵まれたな。

 

「じゃあさ、塚見の連絡先知ってる?」

「……さあてね」

 

 俺と塚見さんは直接SNSで繋がっているわけではない。しかし、お互いシュガースポットのグループラインに加入している以上、その気になればいつでも『友達』になれる。  

 まあ、それをこいつに言う義理はない。

 

「とぼけんなよ。知ってんだろ? 教えろよ」

「知ってたとして本人の同意もなしに教えられるわけないだろ? 知りたきゃ本人に直接聞けよ」

「……てめえ調子に――っ!」

 

 痺れを切らしたヘアピンが俺の胸倉を掴んで引き寄せようとする。

 が、無駄。むしろ作用反作用の法則でヘアピンの身体がバランスを崩した。

 

 俺は運動部というわけでもないし何かスポーツをやっていたわけでもないが、ことデスボイスにおいては自分なりにがむしゃらにやってきた。

 パワフルなスクリームを出すことにおいて……いや、それに限った話じゃないな。歌唱において最も重要なことは体幹だ。おへそから指三本分下の部分にある丹田と呼ばれるところを使って身体を支える。 

 つまりしっかりと足裏から地面に根を張って歌うことは基本中の基本。ちょっと押されたり引っ張られたくらいでよろけるようじゃあ、やってられないんだよ。

 

 その上こいつは格好こそ派手目だが、身体自体はひょろい。言動から言って運動部に所属しているわけでもないのだろう。筋トレする根性もなさそうだ。

 察するに派手目な外見と高圧的な態度でイキッてたと見える。カーストの低め男子ならそれだけで気圧されてしまうだろう。

 しかし、運動部には劣るがそれなりに身体を鍛えている俺にとって、怖い相手ではなかった。

 

「…………」

「う、ううっ……」

 

 無言で俺はヘアピンを睨みつける。いや、睨む、なんて仰々しい表現は間違っているな。

 自分の思い通りにいかないとなると途端に狼狽えるこいつを哀れに思ってしまっている。コケ脅しが通じない相手に対してやり場のない怒りを持て余しておりながら何もできないこいつは無様を通り越して悲惨だ。

 俺の視線に威圧や怒りは含まれていない。ただただ冷めているだけだ。

 

 もういいだろう。さっさと消えてくれ。見ていて恥ずかしいんだ。共感羞恥って奴。

 

「もうやめとけって三上」

 

 おむすび君がヘアピンの肩を叩いて下がらせる。

 

「すみませんでした。こいつが失礼なことをして」

 

 そう言って彼は頭を下げた。やはりこのおむすび君、まともだ。

 

「いや、いいよ。じゃあ俺もう行くから――」

「須賀先輩、こんなこと頼むのもどうかと思うんスけど」

 

 おにぎりはそう前置きして――

 

「俺と三上に吉川と塚見さんを紹介してくれないスか?」

「え?」

 

 なんとも図々しいことを言ってきた。

 

「俺ら、あの二人とどうしてもお近づきになりたいんス。でも彼女たちは全然男子と関らないから取っ掛かりがなくて。でも須賀先輩の紹介なら話すキッカケになると思うんスよ。ファーストインプレッションが大事って言うでしょ? 須賀先輩と仲がいいってことにしたらあの二人も信頼しやすいと思うんで」

 

 おにぎり頭がそう言うと、ヘアピンもコクコクと細かく頷く。

 

 ……あー、こいつらそういうことか。

 

 ドア・イン・ザ・フェイスって奴だ。

 初めに「大きな要求」をして相手に断らせた後に、本命に関連する「小さな要求」をすることで、本命の要求を受け入れてもらいやすくする交渉術。

 二人の連絡先、というのはあくまでブラフ。本命は俺からの紹介ってことね。

 

 しかもヘアピンで脅した後におにぎりが謝るのがタチ悪い。おそらく奴らの想定としては、ヘアピンでビビらせてからおにぎりが優しくすることで要求を飲ませやすくしようってところだろう。つまるところ飴と鞭だ。ヤクザがよくやる手口だよ。

 

 このおにぎり、爽やかそうに見せかけてとんだ食わせもんだ。ハナから俺をリスペクトなんてしてなかった。

 

 さて、どうしたものか。このおにぎりは中々どうして体格がいい。ここで俺が断ったら本性表して暴力に訴えてくる可能性もなくはない。

 喧嘩も格闘技もやったことのない俺じゃ勝ち目は薄いな。

 

『親密になりたい余り、私と仲のいいクラスメイトに『紹介してくれ』とか『連絡先教えてくれ』とか迫るのはちょっとやめてほしいんだよね』

『そこまで行くと迷惑ですよね』

『ちゃんとこっちの気持ちも考えてほしいなーって』

 

 …………………。

 

「悪いけど、それはできない」

「どうしてスか?」

「紹介とかそういうの、やめてほしいって本人に言われてるんだ」

「そこをなんとか――」

「彼女たちが嫌がることはしたくないんだ」

 

 俺はおにぎり頭の目を見てはっきり言う。

 

「……そっスか。わかりました」

 

 行くぞ、とヘアピンに一言告げておにぎりは踵を返した。ヘアピンはこっちを睨みつけながら舌打ちしておにぎりの後を追った。

 

「……はぁ~」

 

 どっと疲れが押し寄せてきた。こんな修羅場みたいなのは生まれてこの方初めてだ。

 今までのぼっち生活だと馬鹿にされたりパシリにされるのが精々だった。

 あんな風に変な悪意を向けられて絡まれるのは初めてだった。

 

 ようするにめちゃめちゃ緊張したということだ。

 

「もう勘弁だな」

 

 そう呟く俺の内心とは裏腹に、俺はシュガースポットのメンバー目当ての男子生徒に話しかけられることが多くなった。

 

 みんな口を揃えてこう言う。

 

 

 

 

『あの子と仲がいいんだろう? 紹介してくれないか?』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 坊主頭たちに絡まれてから数日経った。

 

「……遅いですねえ先輩」

 

 昼休み、旧音楽室で大きく伸びをしながら真琴は呟いた。

 

「まだ終わってないんでしょうか」

 

 お昼休憩前に橘さんからシュガースポットのグループラインに連絡があった。

 

『また男子に呼び出されたから遅くなる~』

 

 ここのところ毎日だ。一昨日なんて昼食を取り損ねたと嘆いていた。

 

「先輩、ここ最近告られる頻度多くなりましたよね」

「……そうだな」

 

 理由は何となく察せられる。俺の存在だ。

 俺みたいな弾かれ者のぼっちが橘さん達のようなカースト上位グループと一緒にいれる、それは傍から見れば彼女達への高くそびえ立ったハードルが下がったように見られる。

 つまり、「須賀がいけるなら俺でもいけるんじゃね?」と男子たちに思われているのだ。

 

 「zzzzzzzzz」

 

 塚見さんがこっくりこっくりと舟をこいでいる。寝不足だろうか。

 

「もう、幸ったらまた夜更かしして」

 

 真琴は塚見さんに自分が使っていたブランケットを羽織らせた。

 

「フラストレーションが溜まるとひとつのことに没頭したがるんです。多分夜遅くまでギターを弾いてたんだと思います」

「フラストレーション、か」

「幸ってミステリアスで人気高いですから、先輩程ではないですけど結構モテるんです」

「…………」

 

 橘さんだけじゃなく、真琴や塚見さんも以前より声をかけられる頻度が増えている。

 あのおにぎり頭とヘアピンが俺に接触してきたのがいい証拠だ。

 俺を媒介にして彼女達との接触を試みようとする分にはまだいい。せき止められる。

 問題なのはしびれを切らした奴らが直接彼女らにアタックしてくることだ。

 そうなれば俺には止めようがない。

 

 フッて諦めてくれるなら話は簡単だ。弾数が限られているからな。

 厄介なのは懲りずに何度も告白してくる連中が多いことだ。フラれることもコミュニケーションの一環だと考えているのだろう。

 水滴石穿、諦めずにリトライすればいつかはワンチャンってとこか。

 好きだ好きだと言い続けられれば根負けしてなし崩し的に付き合ってしまう、なんてケースがあることは恋愛に詳しくない俺でも聞いたことがある。

 それを狙ってワザとフラれる奴も少なくない。

 

 とにかくそれがここ最近途切れることなく続いている。疲れるはずだ。

 真琴も平然としたフリをしているが、いつもより少し疲れているように見える。

 

 

 

 俺の存在がみんなに負担を強いている。

 

 

 

「なんか変なこと考えてません?」

 

 真琴がこちらを見ずにそう言った。

 

「別に須賀先輩のせいじゃありませんよ」

 

 俺の心を見透かしたように真琴は続ける。

 

「先輩が自分の意志で須賀先輩を誘って私達はそれに納得した、それだけのことです」

 

 ほら、須賀先輩何も悪くないじゃないですか、と彼女は困ったように笑った。

 

「私達は先輩に比べたらそこまでって感じですし」

「…………」

「いずれにしろ、こんなの長くは続きませんよ。そのうち止みますって」

 

 そう真琴はウィンクした。

 

 

 

 

 

 真琴の言う通り、数日後にこの告白ラッシュは終焉を迎えた。

 

 その代わりに橘さんにこんな噂が立つようになった。

 

『須賀なんかを傍に置いてる橘は大したことない』

『あいつは須賀なんかに腰振ってるビッチだ』

 

 前者は橘さんを疎ましく思っていたカースト二位帯の奴ら、後者はフラれ続けて逆恨みした奴らが流したのだろう。

 

 そんなくだらない奴らの戯言を鵜呑みにするなんて馬鹿のやることだ。

 だが悲しいことに、世の中そんな馬鹿はいくらでもいる。

 当然だ。転校したばかりで何も知らないはずの俺を噂一つで排斥するような連中だ。

 いくらでも惑わされるだろう。

 

 もちろんそんな連中ばかりじゃない。躍らされずに噂を糾弾している奴もいる。

 それに馬鹿は長続きしない。この噂だって次のゴシップが来ればすぐに流れるだろう。

 

 だがそれを待つ気はない。

 

 俺の所為でこんな噂が流れるなら、それを断ち切るのは俺であるべきだ。

 

 何よりも許せないのは俺自身だ。

 

 この件で橘さんに非は一切ない。

 橘さんは勉学も音楽も日常生活でさえも全て真摯に打ち込み、カーストの頂点を勝ち取ったはずだ。彼女の立っている地位は、彼女のたゆまぬ努力と人徳の成果だ。

 

 それを後からノコノコと入ってきた俺なんかの所為で揺らいでいいはずがない。

 

 俺を必要としてくれた彼女の為に俺ができることは簡単だ。

 

 

 

 

 

 校内での橘さんとの関りを断てばいい。

 

 

 

 

 

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