転校先で美少女ガールズバンドのデスボイスボーカルとしてお迎えされた件について   作:クワガタ信者

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第22話 圧倒的温度差

 あれから数週間が過ぎた。

 俺たちは無事に和解し、結果的に絆が深まった。

 やることは以前と変わらない。

 みんなで何かを食べたり、駄弁ったりしていた。

 だが、本命はこっち。もうすぐ俺の初ライブ本番だ。

 俺たちは練習や研鑽を積み重ね、メキメキと成長していった。

 

 

 

 そしてついに――

 

 

 

 

 

「いやーついに来たわね! 本番!」

「だねえ」

 

 橘さんが腕を組んで仁王立ちをし、恋が軽いノリで返す。

 俺たちはちょっと大きめのライブハウス、toxicに来ていた。

 つまるところ、今日が本番なのである。

 

「なんか……緊張してきた……」

「須賀先輩足震えてる(笑)」

 

 真琴がクスクスと俺の足を指さして笑う。

 

「そらお前あれよ。武者震いよ」

「強がっちゃってまあw」

「お前あれよな。全然先輩に対して敬いとか無いよな(怒)」

「私が敬うのは先輩だけですよ」

 

 ねー、と真琴は塚見さんに笑顔を向ける。

 

「真琴、あんまり失礼なのはよくない」

 

 おっ! 塚見さんが俺の見方をしてくれている! 

 会話は多くないけど、溜まり場でいつも一緒にいたのがきいてるんだ!

 言ってやってくれ!

 

「雅貴は確かに頼りない」

 

 おお! 

 ……うん。

 

「リズムは若干ズレるし思い込みが激しいし相談とかしないし喧嘩相手を煽っておいて一方的にボコられる」

 

 あれ?待って。全然味方してくれないむしろ敵だろこの子。

 にしても酷い言われようだ。事実だから仕方がないんだけど。

 

「でも、最後にはちゃんと丸く収めてくれる。そんな人」

 

 落としてから上げるタイプだった!

 少しでも敵扱いした自分が恥ずかしい。穴があったら入りたい。誰か俺を埋めてくれよ。っていうか――

 

「塚見さん……初めて俺の名前を……」

 

 そう。塚見さんが俺の名前を呼ぶことが、今の今までなかったのだ。

 以前話しかけられた時も、背後に回って肩を叩かれるだけで名前を呼ばれることがなかった。

 みんなとの会話の中で、彼女が俺のことを指す時は人差し指をこちらに向けていた。

 もはや「お前」とか「あんた」とも呼ばれなかったレベルだった。

 

「しかも下の名前で……感激だ」

 

 感動した。

 正直ちゃんと仲良くなれているのか不安だったが、一緒にいた時間は決して無駄ではなかった。

 

「真琴は雅貴をもう少し敬ってあげるべき」

「そうだそうだ! 少しは塚見さんを見習え!」

「いや、呼び捨てされてる分まだ私の方が敬ってるでしょ。騙されてますよー須賀先輩」

「三人ともー、遊んでないで行くよー?」

 

 後輩二人とのじゃれ合いは恋によって制され、俺たちはライブハウスへと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 目に映るのは大量の落書き。

 壁一面、天井に至るまで、ここに赴いたバンドマン達の足跡が残されていた。

 俺たちは楽屋に案内され、ここで待機していた。

 リハーサルも終え、既にライブは始まっている。俺たち以外にも最近人気が出ているバンドが参加しているので、オーディエンスは三桁を超えていた。

 楽器の演奏やボーカルの歌声、観客達の歓声が楽屋に薄く響いていた。

 

「さて、もう一度流れを確認しましょうか」

 

 俺たちはこのライブのトリ。最後に三曲演奏する。

 いつもはもっと多いそうだが、俺の初ライブだということで、曲数を絞っているらしい。 

 

「まずはいつもの面子で一曲演る。観客がいつも通りのライブだと思っているところで、満を持しての須賀君投入。二曲目からは須賀君の出番ってわけ」

 

 一曲目は橘さんのクリーンのみで歌うポップでキャッチ―な『2000年代前半のスクリーモ』、二曲目は俺のヘヴィなサウンドを活かした重厚感のあるブレイクダウンを使った『2000年代後半のスクリーモ』、そしてラスト三曲目は前期後期両方の特徴を併せ持つ『2000年代中期のスクリーモ』を演奏する。

 

 特に三曲目は俺と橘さん両方の持ち味を十全に発揮しなければならない。

 二人の息をピッタリと合わせることで互いにシナジーを作り出すことができる。

 難易度も高い。

 

 だが――

 

「私達ならやれるわ」

 

 橘さんは不敵に笑う。

 

「最ッ高にぶちあがっていきましょう」

 

 いろんなことがあった。楽しいことばかりではなかった。すれ違いで袂を分かちかけることもあった。それでも精一杯やってきたんだ。

 

「まさっきー。失敗してもいいからね。大事なのは自信満々で最後まで演り切ることだからさ」

 

 恋が俺の右耳にこそこそと耳打ちしてくる。

 なんだかんだで一番バンド全体を俯瞰して見てくれているのは彼女だ。

 厳しいようでとことん気を使ってくれる。すっげーありがたかった。

 

「ありがとう恋。なんていうか、恋はこのバンドの裏リーダーって感じするよな。縁の下から支えてくれてるっていうかさ」

「あははっ、そりゃそうだよ。こういうのは年長者がみんなの面倒見るもんだからさ」

 

 恋は俺の背中をバシバシと叩く。この力加減にも慣れてきた。癖になりそう。

 

「何言ってんだよ。俺らと同じ高2だろ?」

「あれ?言ってなかったけ?」

 

 恋は首を傾げながらてのひらを口元に当てる。

 

「あたし高3だからさっくとまさっきーの一個上だよ?」

「えっ」

 

 え、いや、だって橘さん恋のこと呼び捨てにしたりタメ口使ってたりしたじゃん。

 

「さっくって誰に対してもああだし、あたしもあんま気にしないからさー」

「じゃあ本当に……」

「うん。あたし今年で十八歳でーす」

 

 ピース!と指に本を前に出してウインクする恋。

 せ、先輩でしたか……

 

「あっ、失礼言ってすんません……」

「ちょっとちょっとやめてよー。今更そんなん気にするはずないじゃん」

 

 いつも通りでいいよー、と恋は笑う。

 

「あたしとまさっきーの仲っしょー」

「まあ、恋がそれでいいならいいんだけどさ」

 

 よく考えたら俺も塚見さんに呼び捨てで呼ばれてるし、俺も許容してるからそんなものか。

 

「それよりさ。まさっきーも本番前にライブ見ときなよ。雰囲気とか掴んどいたほうがいいっしょ」

「そうね。客側で楽しむのもライブの醍醐味よ。みんなで行きましょうか」

 

 橘さんは真琴と塚見さんを連れて楽屋から出る。

 俺と恋もそれに続いた。

 

 初めてのライブ参加。恋と橘さんに背中を押し出されて観客の中に混ざる。

 モッシュと呼ばれる観客同士が体をぶつけあうパフォーマンスに巻き込まれ、体をもみくちゃにされる。ようするにちょっとしたおしくらまんじゅうだ。

 我が校の売店での争奪戦を思い出す。

 

 でも、なんだか楽しいな。

 すごい一体感を感じる。

 演者だけじゃなく、観客も一丸となってこの最高にキマッてる空間を作り出してるのだ。

 確かに楽しい。めっちゃ楽しい。

 

 本番が来るまでの間、俺はこの音楽を愛する者達による最高の空間を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくるから」

 

 そう言って、橘さん達は裏方から、薄暗いステージへ旅立った。

 

 しばらくすると、塚見さんのギターがフェードインする。

 静かにリズムを取る恋のドラムが響きこだまする。

 それに続きベース、リズムギターが次々と入っていき、ゆったりとしたインストの演奏になる。

 

 そしてそれらはある時を境に一斉に制止し――

 

「始めるよ」

 

 ――凛とした鈴のような声と共に、スポットライトがカッとステージ上を照らした。

 歓声と演奏は同時に始まった。

 

 塚見さんの爽快感溢れるギターが疾走する。ノリのいいポップなイントロは観客たちの心を一瞬で掴み、演奏が始まったばかりだと言うのにもう熱狂的な盛り上がりを見せていた。

 

「I never trust you would lose will. The saddest part was not see through the lies.」

 

 軽快なリズムで橘さんは言葉を紡ぎ出す。

 彼女にしてはやや低めの音程、後に響く布石だ。

 曲調に対して歌詞はやや物悲しい。それに寄り添うようにベースが陰から支える。まるで演者がそれを望んでいるかのように。

 橘さんのしっとりとした低音ボイス、真琴の芯まで響き渡る重低音。観客の心は完全に掌握された。

 

 ここからが本番だ。

 

「When I fall to the hell, will you smile in heaven?」

 

 ボルテージが、ギアが一気に上がった。切っ先を突きつけられたかのように急に鋭さを帯びたハイトーンが観客達を刺していく。

 

『私が地獄に堕ちたとき、あなたは天国でわらってくれますか?』

 

 その問いかけは彼女の献身、音楽に懸ける覚悟が込められていた。

 

 ゾクッと背筋に氷を入れられたような冷たさが走る。

 

 彼女は【これ】の為ならば命を賭けることができる。

 例え地獄に堕ちてもソレを手放すことはしないだろう。

 そんな狂気はオーディエンスにも伝搬し、爽やかな曲調の中、ルナティックな緊張感を出していた。

 

 だが、時計の針は止まらない。サビは必ず訪れる。

 狂乱の中、突き抜けるようなサビがオーディエンスに襲い掛かる。

 

「So scared to be loss the ark. So scared when you loss my faith」

 

 脳裏に浮かんだのは青く澄み渡る空。絶対的なハイトーンは天を翔ける稲妻として雲を薙ぎ払った。

 

 雲一つない青空に浮かぶ月は人々を魅了し、狂わせた。

 

「So scared to be loss the ark. So scared when you loss my faith」

 

 もはやオーディエンスは忙しなく動き回るどころか、呼吸をすることすら忘れている。

 ひたすら彼女の狂おしいパフォーマンスに圧倒され、その場を動くことができなかった。

 

 圧倒的だった。

 

 

 

 

 

 

「てっぺんは常に私! sug@r spΩtです!」

 

 しんと静まり返った空間の中、橘さんが天を指差す。

 するとオーディエンスはせきを切ったかのように狂喜乱舞し、今ライブ一の盛り上がりを見せた。

 

「サクラちゃあああああああああん!!!!」

「大好きいいいいいいいいいいいい!!!!」

「マコトオオオオオオオ!うおおおおおおおお!!マコトオオオオオオオオオ!!!」

「レン様あああああああああああああ!!!!」

「ゆきてぃゃあああああああああん!!こっち見てえ!!!」

 

 なんか……ファン層が濃い。

 動画やライブ映像で感じたイメージなんて比にならないほどの熱量だ。

 これがシュガースポットというバンドなのか。

 

 恋がスティックを頭の上に掲げてニイと笑っている。 

 真琴があざとく舌を出しながらピースを横に向けている。

 塚見さんに至っては真顔でツーンとしてる。

 

 それだけなのにワアアアアアアアアアと歓声が上がった。

 彼女たちはファンサも完璧だ。まるで隙がない。

 完全無欠、最強のガールズバンドだ。

 ステージ上の彼女たちは、俺の知っているみんなじゃないみたいだ。

 

「みんな今日はありがとう! みんな私たちのことは知ってると思うけど、初めての方もいると思うから、まずはメンバー紹介よ!」

 

 橘さんのMCが幕を開ける。

 

「まずはギター!ユキ!かましちゃって!!」

 

 塚見さんが繊細かつ常人離れしたピッキングでかき鳴らす。

 そこには一切のブレがない。まるでDTMで打ち込んだ音を再生するかのような正確さ。

 塚見さんの大人しめのロングスカートも相まってまるで美しい人形のようだった。

 無駄な動きは一切ない。もはや一種の美しさすら感じられた。

 

「すっご……」

「ゆきてぃぁん……神……」

 

 大きな歓声は上がらない。ただただ観客はその演奏技術に見とれていた。

 

「ベース!マコト!いっけえ!」

 

 真琴は高速スラップでの速弾きを見せる。ギターと比べてベースのパフォーマンスに派手さはないが、真琴は全身を躍動させてそれをカバーしていた。

 スラップと共にチアリーダーのように足を高く上げて見せる。

 ホットパンツから伸びる脚は健康的なエロスを感じさせた。

 

「まこっちゃああああああああああああああん!!!」

「マコト可愛いよおおおおおおおおおおおおおおお!!マコトオオオオオオオオオ!!」

 

 先程とは打って変わって黄色い声援だ。会場全体が激しく盛り上がりを見せる。

 

 最後に真琴はベースを回し、その勢いで虚空に回し蹴りを放つ。最後にあざとくキャルンとウィンクをして締める。ひと際大きい歓声が上がった。

 

「ドラム!レン!!」

 

 激しいシンバルが辺りに響く。凄まじく叩かれるスネア、ツインペダルを用いて叩き込まれるバスドラムに聞き覚えがあった。

 betrayers monkのpain slayer、その前奏だ。

 メタルの中でも最難関、特にドラムは手足がいくつあっても足りないなんてレベル。

 並大抵のドラマーじゃとても叩けやしない。

 

「すげっ!pain slayerじゃん!」

「なんかわかんないけどすごい!」

「レンのpain slayerが聴けるなんて……つべでリクエストしてきた甲斐があった……」

「レン様……♡」

 

 恋のカリスマ性は異常に高く、一部のファンは眩暈を起こしそうになっていた。

 

「よっしゃボーカルの紹介はアタシがやるよ!」

 

 スティックをくるくると回しながら恋は笑う。お前らこれを待ってたんだろ? そんな風に読み取れた。

 

「お前らこいつを待ってたんだろ!? 我らがsug@r spΩtのメインボーカル、サクラアアアアアア!!」

 

 恋がそう叫ぶと、橘さんがその場で大きくジャンプする。着地と同時にギターをジャーンとかき鳴らすと、これ以上ないくらいの歓声が響いた。

 

「サクラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!」

「サクラちゃああああああああああああああああああああああああん!!!」

「せーの、」「「「こっち見てええええええええええ!!」」」

 

 満を持しての橘さん。やはり雛形、メインボーカル。4人の中でもずば抜けた人気を誇っていた。この瞬間だけは彼女がこの空間を支配している。

 

 スタジオのキャパは満員御礼。誰もが橘さんに目を注いでいた。

 

「今日はね、みんなに紹介したい人がいるの!」

 

 橘さんがそう言うと、焔の様に燃え盛った会場が一気に凪ぐ。

 

「私達sug@r spΩtに新しいメンバーが加わります」

 

 わっ、オーディエンスが沸く。誰も予想していなかった新メンバーの追加。こんな一大イベントで落ち着いてなんていられないだろう。こんなの俺だって興奮する。

 

「第2のボーカル、その名は……」

 

 ここから俺の出番だ。

 

 パチン、と橘さんが指を弾くと同時に照明が消える。

 暗闇の最中、俺は裏方から橘さんの隣まで移動する。

 

「マサキィィィィィィィィィィィィ!!」 

 

 全ての照明が一点に光を刺した。そこに立っているのは、手を広げている橘さんと――

 

「へ?」

「誰?」

「男!?」

「ほぅ、」

 

 一人の冴えない男だった。

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