読みは見(まみ)えるです。
6月の全校集会が行われた今日。
中間テストでのこともあり、この日の本校舎生徒からのE組への差別や侮蔑は、より一層強いものだった。そんなそよ風、大したものではないが。
E組は今、集会も無事終わり旧校舎への帰路へついているところだ。棗も戻ろうと足を進めていたが、すぐそこに見知った顔を見かけた為ふと足を止める。
この前、本屋で困っていた棗を助けてくれた学秀だ。
「浅野くん。こんにちはー」
棗は基本的に、重要な伝達事項がない限り、ほぼほぼ関わりのない相手にわざわざ話しかけに行くことは滅多にない。しかし、学秀は自分を助けてくれた恩人である為、見かけたら挨拶しに行くことが礼儀だと感じた。
声をかけられ、学秀の方も棗を認識する。すぐに穏やかな笑みを浮かべ、
「やあ、歌川さん。こんにちは」
と返してくれた。
「この前は本当にありがとね!」
改めて先日の礼を告げる。だけどそれだけじゃ良くないような気がして、
「なんかお礼とかしたいけど、大したものは用意できないかも…」
と付け足した。
「そんなこと気にしなくてもいいのに」
「でも、やっぱお礼は大事だし…なんか飲み物でも奢るよ」
やんわり断ろうとした学秀にそう返すが、言い終わってからハッとなる。
「あっ…!ごめん、もしかして迷惑だったかな…!?」
「いや、そんなことは」
棗は一人プチパニックになっていた。お礼はちゃんとするべきだ。しかし、『別にいい』と言われているのにしつこく食い下がれば逆に迷惑になってしまう。
(どうしたら…!)
グルグルと目まぐるしく思考が回る。しかしそういう時、大抵の人間には棗がフリーズしているように見えてしまうのだ。学秀も、固まってしまった棗を見て少し心配になったらしい。
「……歌川さん。コーヒーでいいかな」
気を遣ってそう答えてくれた。
「……え、あ!コーヒーね!……あ、缶コーヒーがいいとか、ス○バとかのコーヒーがいいとかある?あ、あとブラックがいいとか微糖がいいとか、ミルクとか砂糖多めとか……」
ちなみにこの時の棗には、店のコーヒーだと今すぐ買って戻って来ることが出来ないという考えがすっぱ抜けていた。
「普通に自販機に売っているもので大丈夫だよ。あと、ブラックかな」
「わかった、ちょっとそこの自販機で買ってくる!!」
「あ、ああ、うん」
学秀がそんな風に困惑混じりの返事をした時、棗は既に颯爽と自販機へ向かっていた。そして自販機に辿り着いてまた考える。
「缶かボトルかまでは聞いてなかった……」
学秀の返答は『普通に自販機のコーヒーでいいよ』だった。だから、棗には自販機に売っているどのブラックコーヒーなのかがよくわからなくなってしまう。
「……こういう時は両方買おう。浅野くんが選ばんかった方を私が飲めばよかもんね」
そう考え、とりあえず両方購入。そして全力で学秀の元へ戻った。学秀は律儀に待ってくれていた。
「浅野くん!あのさ、どっちがいいかわからんくて缶とボトル両方買ったんだけどどっちがいいかな!?」
「ああ…ありがとう。缶の方を貰おうかな…」
「缶ね、ほい!」
「………」
「あっ、そろそろ戻らなきゃだわ。ごめんね浅野くん、時間取っちゃって。そんじゃーね!ばいばい!」
「大丈夫だよ。気をつけてね」
暫し困惑顔を浮かべていた学秀だが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて言った。
「ありがと、またね!」
棗は手を振って、全力で駆け出す。
旧校舎までの道のりは遠いのだ。急がなければ。
浅野君的には変な女に懐かれた…という心境。
今まで周りにいなかったタイプなので珍しく扱いに戸惑ってる。