【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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イトナ君登場。


異次元転校生

 6月も半ば。

 

「おはよーございまーす」

「はい、おはようございます。さて、烏間先生から転校生が来ると聞いてますね?」

「あー、うん。まぁぶっちゃけ殺し屋だろうねー」

「律さんの時は甘く見て痛い目を見ましたからね。先生も今回は油断しませんよ」

 

 律に続き、2人目の転校生がやってくる今日。今度はどんな転校生なのだろうか。また女の子だといいな、と棗は思った。

 

「いずれにせよ、皆さんに暗殺者(仲間)が増えるのは嬉しいことです」

「そーいや律、何か聞いてないの?同じ転校生暗殺者として」

 

 律のすぐ近くに席のある原がそう質問すれば、律は少しだけならば知っているという素振りを見せた。

 

「初期命令では…私と『彼』の同時投入の予定でした。私が遠距離射撃、彼が肉迫攻撃。連携して殺せんせーを追い詰めると」

 

 (男かぁ…)

 

「ですが…ふたつの理由でその命令はキャンセルされました」

「へぇ…理由って?」

「ひとつは、彼の調整に予定より時間がかかったから。もうひとつは、私の性能では彼のサポートに力不足。私が彼より暗殺者として、圧倒的に劣っていたから」

 

 律の言葉にクラス内に緊張が走ったその時。突如ガラリと教室の扉が開かれて、全身白づくめの謎の人物が現れた。その人物は徐に腕輪を前に出すと、ポン、と手から鳩を出して見せた。

 

「はははは、ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ。私は保護者。…まぁ白いし、シロとでも呼んでくれ」

 

 (メ○ナイトみたいな人ー)

 

「いきなり白装束で来て手品やったらビビるよね」

「うん。殺せんせーでもなきゃ誰だって…」

 

 渚がそう言って殺せんせーのいる前の方を見たら、いつぞやのは○れメタル状態になって天井に貼り付いていた。余程驚いたのだろう。

 

「ビビってんじゃねーよ殺せんせー!」

「奥の手の液化まで使ってよぉ!」

「い、いや…律さんがおっかない話するもので!!……あ、初めましてシロさん。それで、肝心の転校生は?」

 

 元の状態に戻りながら、殺せんせーはシロに聞いた。

 

「初めまして殺せんせー。ちょっと性格とかが色々と特殊な子でね。私が直で紹介させてもらおうと思いまして」

 

 そう言いながら殺せんせーの近くまで歩み寄るシロは、生徒たちの方をじっと見つめる。

 

「何か?」

「いや、皆いい子そうですなぁ。これならあの子も馴染みやすそうだ。席はあそこでいいのですよね、殺せんせー」

 

 シロは棗の左隣にある空席を指差して問う。

 

「ええ、そうですが」

「では紹介します。おーい、イトナ!!入っておいで!!」

 

 誰もが前の扉に注目したが、転校生は予想外のところから現れる。突如ドン!と大きな音を立てて、教室後部の壁が破壊された。飛び散った破片が棗の方にも飛んで来る。何事かとそちらを見やれば、恐らく転校生らしき少年がつかつかと入って来て、まるで何事も無かったかのように席に着いた。

 

「俺は…勝った。この教室のカベよりも強いことが証明された」

 

「「「「「いや、ドアから入れよ!!!!」」」」」

 

「お、おおう……ナイス総ツッコミ……」

 

 壁をぶち破った転校生にも驚くが、このクラスの息ピッタリな総ツッコミも相当だと思う。イトナと呼ばれた転校生は、「それだけでいい…それだけでいい…」と血走った目で譫言のように呟いている。殺せんせーもリアクションに困っているようで、笑顔でも真顔でもない、何とも形容し難い中途半端な表情を浮かべていた。

 

「堀部イトナだ。名前で呼んであげてください」

 

 周りは騒ついているし、シロの声質は低いしで聴き取りづらい。どうにかならないものか。

 

「ねぇ、イトナ君。ちょっと気になったんだけど、今外から手ぶらで入って来たよね。外土砂降りの雨なのに…なんでイトナ君、一滴たりとも濡れてないの?」

 

 カルマの指摘はごもっともであるが、4月からずっと現実離れした出来事が起こりまくっているせいで、棗はもう何が起きても不思議ではない気がしていた。イトナのそれも不思議現象のようなものだろう。というか、自分を挟んでやり取りされると気不味いので切実にやめてほしい。

 そんな棗の心情など知る由もないイトナは、カルマの方を一瞥し席を立った。

 

「お前は多分、このクラスで一番強い。けど、安心しろ。俺より弱いから…俺はお前を殺さない」

 

 これまた物騒である。この子に一体何があったと言うんだ。

 

 (わぁ、イトナくん、渚くんと並ぶくらいかわいい見た目してるな〜)

 

 なんて場違いなことを考えてみても状況は変わらず。何とも言えない空気感が漂っている。

 

「俺が殺したいと思うのは…俺より強いかもしれない奴だけ…」

「もぐもぐ…よう噛んで食べます…」

「この教室では殺せんせー。あんただけだ」

 

 地味に親父ギャグを言いながら羊羹を頬張る殺せんせー。

 

「強い弱いとは喧嘩のことですかイトナ君?力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」

「立てるさ。だって俺たち…」

 

 そして同じく羊羹を取り出すイトナ。状況が全くわからない。こういう時どういう顔をすればいいのだろうか。笑えばいいのだろうか。

 

「血を分けた兄弟なんだから」

 

「「「「「ええーーーーッッ!!!??き、き、き、き、き、兄弟ィーーーーーッッッ!!!??」」」」」

 

 (耳が痛い)

 

 再び巻き起こる総ツッコミに、棗の鼓膜が揺さぶられる。

 

「負けた方が死亡な、兄さん。…兄弟同士小細工はいらない。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する。放課後にこの教室で勝負だ。今日があんたの最後の授業だ。こいつらにお別れでも言っておけ」

 

 イトナはそれだけ言い残して、先程開けた穴から外へ出て行ってしまった。普通の授業には参加しないつもりなのだろうか。あと今、気のせいでなければ噛みちぎった羊羹の包み紙を食べていなかったか。シロもいつの間にかいなくなっている。色々ツッコミどころの多い子である。

 

「ちょっと先生!!兄弟ってどういうこと!?」

 

 やはり皆気になるのはそこらしい。かくいう棗も気にはなる。一体どういうことを意味するのだろうか。

 

「そもそも人とタコで全然違うじゃん!!」

 

 それに関しては元は人間だった可能性もあるのではなかろうか。漫画ではよくあることであるし。

 

「全く心当たりありません!先生、生まれも育ちも一人っ子ですから!!昔両親に『弟が欲しい』って強請ったら…家庭内が気不味くなりました!!」

「そもそも親とかいるのか!?」

 

 何にせよ、また少し賑やかになりそうである。

 


 

 朝、教室を出て行ってしまったからどうなるのかと思ったが、イトナは普通に授業に参加していた。……いや、大量のお菓子を食べているので普通ではないかもしれない。

 

「凄い勢いで甘いモン食ってんな…甘党なところは殺せんせーとおんなじだ」

「表情が読みづらいところとかな」

「にゅ…兄弟疑惑で皆やたらと私と彼を比較してます…ムズムズしますねぇ。気分直しに今日買ったグラビアでも見ますか…これぞ大人の嗜み…」

 

 殺せんせーは生徒たちの目の前でグラビア雑誌を読み始めた。棗的には構わないし、何なら内容が気になるが……普通に考えると、こういう場所で堂々と読む物ではない気がする。しかもよく見たらイトナも全く同じ雑誌を読んでいる。

 

「にゅやッ!?」

「巨乳好きまで同じだ!!これは俄然信憑性が増して来たぞ……!!」

 

 その光景を見ていた岡島が、一人何かに興奮していた。

 

「そ、そうかな岡島君…」

「そうさ!!」

 

 大きな声をあげ、殺せんせーたちと同じ雑誌を掲げる岡島。

 

「巨乳好きは皆兄弟だ!!!」

「3人兄弟!?」

 

 (……あとで見せてもらお)

 

 そこからも殺せんせーとイトナの関係性の様々な考察が行われたが、いまいちしっくり来るようなものはなかった。

 


 

 そして、運命の放課後。

 教室内はまるでリングのようになっていた。今までの暗殺法と全然違うソレに、誰もが固唾を飲んで見守っている。

 

「ただの暗殺は飽きてるでしょ殺せんせー。ここはひとつルールを決めないかい?リングの外に足が着いたら、その場で死刑。どうかな?」

 

 もうずっと思っていることだが、言うことがいちいち物騒すぎる。

 

「…なんだそりゃ。負けたって誰が守るんだそんなルール」

「…いや。皆の前で決めたルールを破れば、()()()()()の信用が落ちる。殺せんせーには意外と効くんだ、あの手の縛り」

 

 カルマが冷静に分析する。

 

「…いいでしょう。そのルール、受けますよ。ただしイトナ君。観客に危害を加えた場合も負けですよ」

「では、合図で始めようか」

 

 シロは合図をするため、腕を上にあげる。

 

「暗殺…開始!!」

 

 その合図の瞬間、殺せんせーの腕がいとも容易く切り落とされた。その場にいる全員が唖然としながらその光景を見つめている。彼らが見ていたのは、切り落とされた殺せんせーの腕ではない。

 対するイトナの頭からうねうねと伸びる、触手である。

 

 (……あー……なるほどわかった……)

 

 まさに伏線回収だ。イトナの言っていた『兄弟』とは、血の繋がりだとかそういうものではない。『同じ触手を持つ者』を指すのだと、すぐに理解した。

 

「どこだ……」

 

 殺せんせーの顔が、最初に寺坂たちを叱責した時と同じドス黒い色へと変わっていく。

 

「どこでそれを手に入れたッ!!……その触手を……!!」

 

 殺せんせーが怒りに満ちた反応をするということは、この触手というのはあまりいいものではないのかもしれない。

 

「君に言う義理はないね、殺せんせー。だがこれで納得したろう。両親も違う。育ちも違う。だが…この子と君は兄弟だ。しかし、怖い顔をするねぇ。何か…嫌なことでも思い出したかい?」

「…どうやら、貴方にも話を聞かなきゃいけないようだ」

「聞けないよ。死ぬからね」

 

 シロの腕から、謎の光が放たれる。その光線を浴びると、殺せんせーの触手が一瞬硬直してしまうという代物らしい。そこから、イトナの猛攻が始まる。

 殺せんせーは月一回の脱皮でその場を凌ぐが、すぐに追い詰められていく。綿密に練られた暗殺。殺せんせーが殺されて、いなくなってしまうのではないかという不安。いや、いずれはそういう運命ではあるのだけど。でも、思ったよりも早くその瞬間が訪れてしまうのではないかと恐れた。しかし同時に……もしかしたら殺せんせーには、まだ奥の手があるかもしれないとも思った。

 

 (まだ…お別れしたくない。殺せんせー、頑張れ…!)

 

「足の再生も終わったようだね。さ、次のラッシュに耐えられるかな?」

「ここまで追い込まれたのは初めてです。一件愚直な試合形式の暗殺ですが……実に周到に計算されている。貴方たちに聞きたいことは多いですが、まずは試合に勝たなければ喋りそうにないですねぇ」

「まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね」

 

 (これは……勝ち確台詞と負けフラグ建設では……!?)

 

「シロさん。ひとつ計算に入れ忘れていることがありますよ」

「ないね。私の計算方法は完璧だから。…殺れ」

 

 一気にシロから小物臭がして来た気がした。そして、見事にフラグは回収される。

 

「おやおや、落し物を踏んづけてしまったようですねぇ」

 

 殺せんせーはいつの間にか渚の手から対先生ナイフを拝借していたようで、それに触れたイトナの触手はグズグズになってしまっていた。

 

「同じ触手なら…対先生ナイフが効くのも同じ。触手を失うと動揺するのも同じです。でもね、先生の方がちょっとだけ老獪です」

 

 脱皮した抜け殻にイトナを包んだ殺せんせーは、そのまま彼を教室の外へと投げ飛ばした。

 

「先生の抜け殻で包んだからダメージは無いはずです。ですが、君の足はリングの外に着いている。先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と、先生を殺れませんねぇ。生き返りたいのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい。性能計算では簡単に測れないもの…それは経験の差です。君より少しだけ長く生き…少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、経験(それ)を君たちに伝えたいからです。この教室で先生の経験を盗まなければ、君は私には勝てませんよ」

「勝てない…俺は…弱い…」

 

 イトナの様子がおかしい。触手が黒く変色し、暴走していた。今にも殺せんせーに飛び掛ろうとしたイトナは、シロに何かを撃ち込まれ気を失う。

 

「すいませんね、殺せんせー。どうもこの子は…まだ登校出来る精神状態じゃ無かったようだ。転校初日でなんですが…暫く休学させてもらいます」

「待ちなさい!担任としてその生徒は放っておけません。一度E組(ここ)に入ったからには卒業まで面倒を見ます。それにシロさん…貴方にも聞きたいことが山ほどある」

「嫌だね。帰るよ。力ずくで止めてみるかい?」

 

 イトナを担ぎあげたシロが教室を立ち去ろうとする。それを引き留めようと手を伸ばせば、シロに触れた瞬間に触手が弾けとんだ。

 

「対先生繊維。君は私に触手一本触れられない。心配せずともまたすぐに復学させるよ、殺せんせー。3月まで時間はないからね。責任持って私が…家庭教師を努めた上でね」

 

 そう言ってシロは立ち去ってしまった。




長めになった気がする。
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