【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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今回今までで一番長いです。


プール

 夏も深まって来たこの時期。つまり、プール開きの時期でもある。運動音痴の棗は、当然泳ぎもてんで駄目だである。プールは嫌いではないが、自由に動き回る分には好きというだけで、二十五m泳がなければならないなど指定があるのは苦手だ。

 棗たちは殺せんせーに連れられ、どこかに誘導されていた。どこなのかは着いてからのお楽しみだとはぐらかされたが。

 

「ヌルフフフフ、さぁ着きましたよ。ご覧あれ!」

 

 そう言われ、見た先にあったのは……殺せんせー特製のE組専用プールだった。生徒たちは顔を輝かせて、次々にプールへと飛び込んだ。

 皆悠々自適に過ごしている。棗は浮輪を持って来たので、その上に乗ってぷかぷかと浮かんでいた。茅野も同じように浮輪の上でビーチボールを持ち浮かんでいる。

 

「楽しいけどちょっと憂鬱。泳ぎは苦手だし…水着は身体のラインがはっきり出るし」

「カエデちゃん大丈夫だよ、私も泳げないよー」

「……………くっ、私よりもちっちゃいのに、私よりも胸が大きい…………!!!!」

 

 グラマラスな矢田に比べれば大したことはない。中村や原だって棗よりも胸は大きい。それでも茅野にとってはCカップを超えればそれは巨乳にカテゴライズされるようで。

 

 (Cカップは普乳だと思うが…)

 

 まぁ身長の割には大きいと言えるかもしれない。

 

「大丈夫さ、茅野。その身体も、いつかどこかで需要があるさ」

 

 (確かに需要はある)

 

 貧乳はステータスだ。希少価値だ。小さいからこその良さがあるのだ。

 

「…うん、岡島君。二枚目面して盗撮カメラ用意するのやめよっか…」

 

 堂々と立派なカメラを抱えてカシャカシャと写真を撮り捲る岡島には、いっそ感心さえする。岡島はエロいからこその面白さがあっていいと思うが、真面目にしていたら多分素材は悪くないと思う。ただ、盗撮は危ういので止めた方がいいとも思う。

 

「木村君!!プールサイドを走ってはいけません!!転んだら危ないですよ!」

「あ、す、すいません!」

「原さんに中村さん!!潜水遊びは程々に!!長く潜ると溺れたかと心配します!!岡島君のカメラも没収!!」

「あらー…」

「狭間さんも本ばかり読んでないで泳ぎなさい!!」

 

 何かと小煩い殺せんせー。余程生徒たちのことが心配なのだろう。確かに水場は危ないし、気持ちは分からないでもない。

 ただ、殺せんせーは監督席にいるだけで水の中に入る気配がない。そう言えば湿気が高い時にふやけていたことを思い出す。だからなのだろうか。

 

「堅いこと言わないでよ殺せんせー。水かけちゃえ!!」

「きゃんっ!!」

 

 倉橋に水をかけられた殺せんせーが、何とも言い難い悲鳴をあげる。そして何を思ったのか、カルマが殺せんせーの傍へ寄って椅子を揺らし始めた。当然、殺せんせーは焦る。

 この出来事により、殺せんせーが泳げないということが判明した。

 


 

 その翌日、棗が教室へ戻ろうとした時、何やら揉めているような声が聞こえて来た。何があったのかと教室の戸を開けようとしたら、丁度寺坂が教室から出て来るところで。一瞬目が合ったが、すぐに逸らし寺坂は去って行ってしまったので何も聞けずじまいだ。

 そしてまた翌日のこと。

 何故か殺せんせーはずっと号泣していた。その割には何故か涙の色が黄色かったが。イリーナが意味もなく涙を流す理由を聞けば、それは涙ではなく鼻水だと殺せんせーは言った。どうやら鼻の穴は目の真横にあるらしい。昨日から身体の調子がおかしい様だ。

 殺せんせーでも風邪を引くことがあるんだな…と思っていると、ガラリと教室の戸が開いて寺坂が登校してきた。昨日何があったのかはよく知らないが、殺せんせーは昨日の今日でもしかしたら登校して来ないのではないかと心配していたようで、嬉しそうに寺坂に飛びついている。

 

 (めっちゃ鼻水飛んでるが…)

 

「おいタコ。そろそろ本気でぶっ殺してやんよ」

 

 寺坂は自身の顔に飛び散った鼻水を殺せんせーのネクタイで拭き、言った。放課後プールへ来いと。

 

「てめーらも全員手伝え!!俺がこいつを水の中に叩き落としてやッからよ!!」

 

 普段皆の暗殺に協力しない寺坂が突然そんなことを言い出し、皆不審に思っているようで…誰も彼に従おうとする気配はなかった。

 それに対して、来ないなら来ないで構わない、その時は自分が百億を独占すると言い残し、寺坂は教室を出て行ってしまう。

 殺せんせーはというと、鼻水どころか顔全体がドロドロに溶けていってしまっていた。

 

 

 殺せんせーの言葉もあり、生徒たちは沢へと集まった。寺坂はプール全体に散らばるように入れと支持し、皆渋々それに従う。しかし、棗は何も言われなかった。

 

「およ?寺坂くん、私は??」

「…あー。お前はいーわ…ここにいろ」

 

 まさかの戦力外通告である。まぁ実際、棗は泳げないし、何かあったらそれこそ足手まといになりかねないので納得した。

 

「疑問だね僕は。君に他人を泳がせる器量なんてあるのかい?」

「うるせー竹林。とっとと入れ!!」

 

 寺坂の蹴りを喰らい、竹林はプールへと落とされた。

 

「なるほど。先生を水に落として皆に刺させる計画ですか。それで君はどうやって先生を落とすんです?ピストル一丁では先生を一歩たりとも動かせませんよ」

 

 確かに殺せんせーはそう簡単には水の中に落とすことは不可能だろう。一体どうするつもりなのかと、銃を構える寺坂を静かに見つめる。

 

「ずっとテメーが嫌いだったよ。消えて欲しくてしょうがなかった」

 

 鈍感な棗にも、寺坂が殺せんせーのことをそんなに好きではないのだろうということは何となく察してはいた。敏感な殺せんせーには当然わかっていただろう。

 

「ええ、知ってます。暗殺(これ)の後でゆっくり2人で話しましょう」

 

 殺せんせーのそんな言葉すら癇に障るのか、寺坂の顬に血管が浮かんでいる。これからどうなってしまうのだろう。寺坂の様子に若干の不安を覚える。

 しかしまさか、自分の不安が的中してしまうとは夢にも思わなかった。

 寺坂が引き金を引いたその瞬間、プールの水をせき止める為の堰堤が破壊され、水が一気に流れ出し始めたのだ。その勢いは凄まじく、皆流れに逆らえずに流されていく。

 

「!?」

「皆さん!!」

「えっ…えっ…!?」

 

 寺坂も意表をつかれたような顔をし、殺せんせーは瞬時に生徒たちを助けに向かう。棗はいきなり起こった出来事にパニックになり、その場に立ち尽くした。

 

「嘘だろ…こんなこと…聞いてねぇよ…!!」

 

 しかし隣にいる寺坂が震えながらそう言っている姿を見て、棗は幾分か冷静さを取り戻す。混乱しているのは変わらないが、まずは隣にいる寺坂を落ち着かせなければ、と頭が働いたのだ。

 

「て、寺坂くん、取り敢えず落ち着こ…ね?大丈夫だから…」

 

 棗は寺坂の傍に寄り、背中を摩り声をかける。しかしそんな棗の姿が目に入っていないのか、寺坂は譫言のように何かを呟きながら呆然と目の前の光景を見ていた。

 そこへ、先程の大きな音を聞きつけたのだろう、カルマが駆けつける。

 

「何これ…」

「カルマくん…!」

「棗ちゃん、これは…」

「俺は…何もしてねぇ…話が違げーよ…イトナを呼んで突き落とすって聞いてたのに…」

 

 寺坂のこの作戦は、どうやら寺坂自身の考えたものではなく、他の誰かに唆されたということらしかった。

 

「なるほどねぇ…自分で立てた計画じゃなくて、まんまとあの2人に操られてた…ってわけ」

「言っとくが俺のせいじゃねぇぞ…こんな計画やらす方が悪ィんだ…皆が流されてったのも全部奴らが悪…」

 

 寺坂がそう言い訳じみたことを言い始めると、カルマが勢いよく殴り倒した。

 

「か、カルマくんっ!」

標的(ターゲット)がマッハ20で良かったね。でなきゃお前大量殺人の実行犯にされてるよ。流されたのは皆じゃなくて自分じゃん。他人のせいにする暇あったら、自分の頭で何したいか考えたら?」

 

 カルマはそれだけ言い残し、立ち去って行ってしまった。棗はカルマの後は追わず、その場に残る。寺坂が心配だったのだ。

 

「寺坂くん…だ、大丈夫?立てる?」

「…………」

 

 声をかけても返事はない。何かを考えているのだろうか。棗は暫く何も言わず、じっと見守る。そうしたら、寺坂は徐ろに立ち上がってスタスタと歩き始めた。棗も慌ててその後を追う。

 

「…歌川」

「え、あ、うん。何?どした?」

 

 今まで無言だった彼に突然名前を呼ばれ、棗は驚いて素っ頓狂な返事をしてしまった。

 

「俺はよ…自分が強いと思ってた。弱そうな奴にターゲットを決めて支配下に置いて…それで俺は楽勝だった。だがよ…この学校じゃそんな生き方通用しなかった」

「…そーなんだ」

 

 他になんと言えばいいのかわからなくて、棗はそう簡潔に相槌を打った。

 寺坂は椚ヶ丘への進学後も今までのように生きていたら、周りから白い目で見られ……そして自身の持つ安物の武器など何の役にも立たないことを悟った。寺坂を笑い馬鹿にしてきた者たちのように先々を見据え努力をする人間が、大人になり自分のような無計画な人間を支配するのだと……

 

「落ちこぼれのE組に落ちて、同じような目的のない連中と楽に暮らせると思ったら、そこでも違った。いきなり怪物がやって来て、クラスにデカい目的を与えちまった」

 

 取り残された寺坂は、E組でも目的があり計算高い者に操られ使われていたと。そう言った。

 棗は聞いていてひとつ、思ったことを口にする。

 

「でも寺坂くん。私思うけどさ、椚ヶ丘って凄い名門校でさ、偏差値も高いじゃん。入試もさ、バカ難しかったよ?でもさ、寺坂くん入学出来てるじゃん。それってさぁ、寺坂くんが頑張ったってことでしょ?それに私も自分の将来の夢とかわからんよ。でも別にいいじゃん、目的も努力も人それぞれよ?……なんて、そんな偉そうなこと言えるような人間じゃないけど」

 

 棗の言葉に、寺坂は一瞬大きく目を見開く。

 

「そうかよ」

 

 それだけ言って、寺坂は崖の方へ駆け出した。その先では、救助された生徒たちが殺せんせーとイトナの戦いを見守っている。

 

「マジかよ…」

「あの程度の水のハンデは何とかなるんじゃ…」

 

 押される殺せんせーを見て、片岡がそう言った。追いついた寺坂は「水だけのせいじゃねぇ」と言う。

 

「寺坂!?」

「力を発揮出来ねーのは、お前らを助けたからよ。見ろよ、タコの頭上」

 

 寺坂に促され、追いついた棗も皆と共に殺せんせーの頭上の方へ注目する。

 

「!! 助けた上げた場所が触手の射程圏内に!!特に…ぽっちゃりが売りの原さんが今にも落ちそうだ!!」

 

 それはちょっと原に対して失礼ではなかろうか。

 殺せんせーは原たちを守る為に、動きが制限されている状態だった。

 

「あいつらの安全に気を配るから、なお一層集中出来ない。あのシロの奴なら、そこまで計算してるだろうさ。恐ろしい奴だよ」

「呑気に言ってんじゃねーよ寺坂!!原たちあれマジで危険だぞ!!お前ひょっとして…今回のこと全部奴らに操られてたのかよ!?」

 

 前原の言葉に、寺坂は自嘲の笑みを浮かべながら「ああ、そうだよ」と事実を肯定した。

 

「目的もビジョンもねぇ短絡的な奴は…頭のいい奴らに操られる運命なんだよ。…だがよ、操られる相手くらいは選びてえ。奴らは懲り懲りだ。賞金持ってかれるのもやっぱ気に入らねぇ。だからカルマ!テメェーが俺を操って見せろや」

「は?」

「その狡猾なおツムで、俺に作戦与えてみろ!!完璧に実行して、あそこにいるのを助けてやらァ!!」

「いいけど…実行出来んの、俺の作戦?死ぬかもよ」

「やってやンよ。こちとら実績持ってる実行犯だぜ?」

 

 寺坂の表情がいいものになった。これならきっともう大丈夫だろう。棗は頑張れ、と2人を応援する。

 

「思いついた!原さんは助けずに放っとこう!!」

「え、カルマくん??」

 

 …応援していた筈だが、カルマから耳を疑う言葉が聞こえてきた気がした。

 

「おいカルマ、ふざけてんのか?原が一番危ねーだろうが!!ふとましいから身動き取れねーし、ヘヴィだから枝も折れそうだ!!」

「だからさっきから原さんに対して失礼過ぎんか君ら」

「…寺坂さぁ。昨日と同じシャツ着てんだろ。同じとこにシミあるし。ズボラだよなー。やっぱお前悪巧みとか向いてないわ」

「あァ!?」

「でもな、頭は馬鹿でも体力と実行力持ってるから。お前を軸に作戦立てるの面白いんだ」

 

 ブチブチとカルマは寺坂のシャツの前を、ボタンを飛ばしながら開く。

 

 (あぁ…ボタン…あー…)

 

 誰が付け直すんだ、そのボタンは。

 

「俺を信じて動いてよ。悪いようにはしないからさ」

「…馬鹿は余計だ。いいから早く指示よこせ」

 

 打って変わって先が思いやられるが、カルマと寺坂なら大丈夫だろう。そう思うことにした。

 

 

「さぁて、足元の触手も水を吸って動かなくなってきたね。とどめにかかろうイトナ。邪魔な触手を全て落とし、その上で『心臓』を…」

「おいシロ!!イトナ!!」

「…寺坂君か。近くに来たら危ないよ?」

 

 カルマに指示され、寺坂は崖の下の方へ降りで行きシロに対して大声で叫ぶ。

 

「よくも俺を騙してくれたな!」

「まぁそう怒るなよ。ちょっとクラスメイトを巻き込んじゃっただけじゃないか」

 

 シロは悪びれる様子なくそう言うが、下手をすれば死人が出ていたかもしれない程の大事なのだ。恐らくシロは、子どもたちの犠牲など省みない人間なのだろう。

 

「うるせぇ!!てめーらは許さねぇ!!イトナ!!テメェ俺とタイマン張れや!!」

 

 寺坂は着ていたシャツを脱ぎ、構えながらイトナの前へ出る。当然殺せんせーは止めた。

 

「クス…布切れ一枚でイトナの触手を防ごうとは、健気だねぇ…黙らせろ、イトナ。殺せんせーに気をつけながらね」

 

 いよいよ寺坂が危ない。渚はとっさに「カルマ君!」と叫ぶ。それに対しカルマはこれでいいと言った。

 

「あのシロは、俺たち生徒を殺すのが目的じゃない。生きているからこそ、殺せんせーの集中力を削げるんだ」

 

 原も一見危険だが、イトナの攻撃の的になることはない…と言うのがカルマの見解だ。

 

「だから寺坂にも言っといたよ。気絶する程度の触手は喰らうけど、逆に言えばスピードもパワーもその程度。死ぬ気で食らいつけって」

 

 カルマの言う通り、寺坂はイトナの攻撃を受け尚その場に立っていた。とてつもない衝撃なのだろうが、恐らく寺坂の身体はそれなりに頑丈なのだろう。棗は自身があれを喰らえば一発で気絶する自信しかなかった。

 

「よく耐えたねぇ。イトナ、もう一発あげなさい」

 

 シロが命令し、イトナはもう一度臨戦態勢に入ろうとするが……瞬間、くしゃみを連発し始める。

 実は寺坂の着ているシャツは、昨日と同じままだった。昨日、寺坂はスプレー缶を床に叩きつけ、それを至近距離で浴びたらしい。それが、殺せんせーが花粉症のようになった原因である。

 そしてイトナも触手を持つ為、シャツに染み込んだその成分は効き目抜群だ。それで出来た一瞬の隙で、殺せんせーが原を救出した。

 

「吉田!村松!」

「はぁ?」

「デケェの頼むぜ!」

「マジかよ」

「ったく」

 

 崖にしがみついていた吉田と村松は、寺坂の一声で下へと降りてくる。

 崖の上にいたメンバーも、カルマの合図で一斉に下へ降りた。

 思い切り水飛沫をあげ、そして水をかけまくる。殺せんせーとの弱点が同じイトナには、あまりにも効果抜群だった。

 

「大分吸っちゃったねぇ。あんたらのハンデが少なくなった〜」

 

 (おおー…)

 

 例によって棗は運動音痴な為、崖を素早く降りることが出来ず、ゆっくりと下へ降りている最中であった。

 

「で、どうすんの?俺らも賞金持ってかれんの嫌だし、そもそもアンタの作戦で死にかけてるし…ついでに寺坂もボコられてるし。まだ続けるなら、こっちも全力で水遊びさせてもらうけど?」

 

 皆、バケツやビニールなどを持っていたり、両手で水を掬っていたり……殺る気満々である。

 

 (殺意高ぁ)

 

 これ以上は不利だと判断したのか、シロは引くことを選んだようだ。

 

「どうです?皆で楽しそうな学級でしょう。そろそろちゃんとクラスに来ませんか?」

「…イトナ」

 

 結局、イトナはシロと共に去って行ってしまった。彼がちゃんとこのクラスの仲間として加わる日は来るのだろうか。

 

「ふぅ…何とか追っ払えたな」

「良かったねぇ殺せんせー。私たちのお陰で命拾いして」

「ヌルフフフフフ、勿論感謝してます。まだまだ奥の手はありましたがね」

 

 一難が去り、その場に和やかな空気が流れ……

 

「そーいや寺坂君。さっき私の事散々言ってたね。ヘビーだとか太ましいとか」

 

………たかと思いきや、何やら不穏な空気を感じる。というか、あの距離でよく聞こえたものである。原はきっと地獄耳なのだろう。

 

「い、いや、あれは状況を客観的に分析してだな…」

「言い訳無用!!動けるデブの恐ろしさ見せてあげるわよ!!」

 

 あの寺坂も、どうやら原には勝てないらしい。母は強し……ということなのだろうか。

 

「あーあ。ほんと無神経だよな寺坂は。そんなんだから人の掌の上で転がされるんだよ」

「うるせーカルマ!!テメーも高いところから見てんじゃねぇよ!」

 

 そうやって面白がっているカルマを、寺坂が引っ掴んで水に落とす。

 

「はぁァ!?何すんだよ上司に向かって!」

「誰が上司だ!!触手を生身で受けさせるイカレた上司がどこにいる!!大体テメーはサボり魔のくせにオイシイ場面は持って行きやがって!!」

「あー、それは私も思ってた」

「この機会に泥水もたっぷり飲ませようか」

「あらま…」

 

 カルマがクラスメイトに押さえつけられて悪戯されている。そんな珍しい光景に笑みを浮かべながら、棗は寺坂の傍へ寄る。

 

「寺坂くん」

 

 声をかけられ、棗に気づいた寺坂は、目を逸らしながら「…おう」と返事をした。

 

「何だ、その…ありがとよ、色々と」

 

 そして何故か礼を言われ、棗はきょとんとする。

 

「ん?私特に何もしてないけど…まぁ、どういたしまして?」

「…ああ」

 

 寺坂は照れくさそうに頬を掻く。すると、先程までわちゃわちゃと騒いでいたカルマたちがにやけながら寺坂を見ていた。

 

「あっれぇ、寺坂もしかして…」

「歌ちゃんのこと好きになっちゃった〜?」

 

 面白そうにそう冷やかしてくるカルマたちに、寺坂が吼える。

 

「はァ!?ンなわけねーだろうが!!誰がこんなちんちくりん好きになるかよ!!」

「えっ!?く、クラスメイトとしては…!?」

 

 棗は寺坂のことをクラスメイトとして割と好きなので、好きではないと言われるのは少し悲しい。

 

「あ、あー…いや…まぁ…く、クラスメイトとしてなら?好きじゃないことも、ねぇけど?」

「そ、そっかー!よかった!」

 

 寺坂の言葉に、棗はほっと胸を撫で下ろした。

 ともあれ、寺坂も無事クラスに馴染んだのであった。




寺坂君好きです。
個人的に偏差値高い進学校に合格してる時点で寺坂君も大分頭良い方だと思いますね。
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