ホテルへと戻った生徒たちの間には、変わらず重苦しい空気が漂っている。
千葉は撃った瞬間自分がミスをしたことに気づいたと言う。この弾では殺せんせーを殺すことは出来ないと。
「…断定は出来ません。あの形態に移行するまでの正確な時間は不明瞭なので。ですが、千葉君の射撃があと0.5秒早いか、速水さんの射撃があと三十cm近ければ、気づく前に殺せた可能性が五十%程存在します」
律はそうフォローを入れるが、それだけで千葉や速水の表情が晴れることはなく。
練習では本番よりも不安定な場所でも外すことはなかった筈なのに、本番となると失敗出来ないというプレッシャーに負けてしまったのだと、二人は言った。
「しっかし疲れたわぁ…」
「部屋戻って休もうか…もう何もする気ねぇ…」
前原と三村が力なく言いながらテーブルに伏せる。
「んだよテメーら。一回外したくらいでダレやがって。もうやることやったんだから明日一日遊べんだろーが」
「そうそう、明日こそ水着ギャルをじっくり見んだぁ!どんなに疲れてても全力で鼻血出すぜ!」
「そんな元気ねーよ…」
そんなやり取りに苦笑を浮かべる渚だったが、どこか異変を感じ取る。いくらなんでも皆疲れすぎていると感じたのだ。
そこへ、中村がやって来る。
「渚君よ…肩貸しちょくれんかね…」
そう言って中村は床へ倒れた。顔は紅潮し、体温も上がっている。「想像しただけで鼻血が出そうだ」と言う岡島は、本当に鼻血を出した。異常なくらいに。
「コータローくん…なんか…私もちょっと…熱っぽいかもしれん…」
そしてそれは、棗もであった。比較的症状は軽い方であったが熱は高く、悪寒と倦怠感が酷い。
「う、歌さん…しっかりするんだ」
事の異変を感じ取った烏間が、即座に駆けつける。
「君、この島の病院はどこだ?」
ウェイトレスに話を聞くものの、この島は小さな島なので診療所も一箇所しかなく、この時間にはもう医師もいないとのことだった。
その時、烏間のスマホに一本の着信があった。
その者の話によれば、生徒たちには人工的に作り出したウイルスを盛ったと言う。それは、一度感染すれば一週間もすれば全身の細胞が破壊され死に至る殺人ウイルスだと。治療薬もオリジナルで、一種しかない。今から一時間以内にこの島の山頂のホテルの最上階まで殺せんせーを連れて来ることが、その治療薬を渡す条件であった。そして、動ける生徒の中で最も背の低い男女二人に持って来させろという指令だ。
話し合いの結果、看病の為に残る竹林と奥田の二人を除いた動ける生徒たちは、皆山頂のホテルへ向かうこととなった。
先程まではそれなりに動ける状態であった棗も、症状が悪化して起き上がることが困難になってしまっていた。まさかこんなことになるとは思わなかった。もしかしたらこのまま死んでしまうのかもしれないとさえ思ってしまった。
「皆発熱が酷い。脳にダメージが行かないよう、頭だけは冷やしておくんだ」
「は、はい!」
竹林の家は病院を営んでおり、竹林本人も医者志望の身。その手の知識は豊富であった。だからこそここに残されたのだ。
「あの…これだけ強いウイルスなら、この島中に広まってしまうんじゃ…」
奥田がそう懸念するが、竹林は即座にその可能性は限りなく低いと答えた。
「これは恐らく経口感染。飲食物等に混入されたと見るべきだね。赤の他人にバシバシ移す心配はないと思う」
例えそうだとして、ではいつ、どのタイミングで混入されたのか。
「こーたろ、くん…」
「歌さん…体力を少しでも温存する為にも、今は極力話さない方がいい」
「…わたし、しぬのかな…」
「そうならない為に、皆が頑張ってくれてる」
「どうせ……しぬなら……いりーな先生みたいな、ないすばでーの、おねえさんの……ふくよかな谷間にうもれてしにたい人生だった……」
「……そうか……」
ふざけているようだが、こうでも言って気を紛らわせておかなければ不安やら死の恐怖やらでどうにかなりそうだった。竹林もそれを察しているのか、それ以上言葉を返すことはなく。
「ゔー…」
「歌川さん…大丈夫です、心配ありません。きっと助かりますから…」
奥田が優しく声をかけながら、棗の手をそっと握った。
「ん…」
棗は小さく声を漏らす。奥田が握る棗の手に、僅かだが力が篭る。体温が上がり、倦怠感に襲われ、心細いのだ。棗は具合が悪い時、頭を撫でてもらいたいし手を握っていて欲しいと思ってしまう。
人は身体が弱ると心までも弱ってしまうと聞く。それを察した奥田は、棗が寝息を立てるその時まで手を握り続けた。
この後無事戻って来た生徒たちにより、このウイルス騒動の犯人が鷹岡であることや、生徒たちに漏られたのは鷹岡が雇った殺し屋たちがすり替えた食中毒菌の改良版であることが知らされることとなる。
兎にも角にも、殺し屋たちから渡された栄養剤により倒れていた生徒たちは無事に回復に至ったのであった。
茅野ちゃんより身長低いから、物語の都合上感染してもらいました。あとこの主人公は元気でも絶対ホテルに行かない方がいい。