【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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ようやく二学期編開始です。
長編は完結まで書けた試しがないので、完結まで行けるか分かりません……


二学期編
新学期


 夏休みが明け、今日から二学期が始まる。

 始業式は当然体育館で行われる為、E組はいつものように山を降りて体育館へと集まっていた。

 E組の生徒たちは、皆明るい顔でそれぞれ会話を楽しんでいる。そこへ、声をかける者たちがいた。

 

「久しぶりだなあ、E組共。ま、お前らは二学期も大変だとは思うがよ」

「めげずにやってくれ、ギシシシ!」

 

 学秀を除く五英傑の面々だ。何やら意味ありげに言い残して、自分たちの列へと向かって行った。

 

「出鼻から五英傑かぁ」

「休み明けから縁起悪いなぁ」

 

 散々な言い様である。

 そんなこんなで始業式が始まった。式次第も着々と進み、その中には野球部の都大会準優勝の報告もあった。そして式も終わりに差し掛かった頃。

 

「さて、式の終わりに、皆さんにお知らせがあります。今日から3年A組に一人仲間が加わります」

 

 ついにその時がやって来たようだ。しかし何も知らない他のE組生徒たちは、転校生でも来たのだろうかと考えていた。しかし、荒木の発した次の言葉で衝撃を受けることとなる。

 

「昨日まで、彼はE組にいました。しかし、弛まぬ努力の末に好成績を取り、本校舎に戻ることを許可されました。では、彼に喜びの言葉を聞いてみましょう!竹林孝太郎君です!!」

 

 名前を告げられ、竹林が舞台裏から壇上へと出て来る。E組の生徒たちは棗以外皆唖然とした表情を浮かべた。

 

「僕は、4ヶ月あまりをE組で過ごしました。その環境を一言で言うなら…地獄でした」

 

 今度は棗も驚愕した。まさか竹林の口からそんな言葉が出て来るとは思っていなかったからである。

 

「やる気のないクラスメイト達。先生方にもサジを投げられ、怠けた自分の代償を思い知りました」

 

 全く身に覚えのないことをつらつらと述べられる。

 

「もう一度、本校舎に戻りたい。その一心で死ぬ気で勉強しました。生活態度も改めました。こうして戻って来られたことを心底嬉しく思うと共に、二度とE組に落ちることのないよう頑張ります。以上です」

 

 竹林のスピーチはそこで終わった。

 

「おかえり、竹林君」

 

 学秀が拍手をしながらそう告げれば、体育館内にいる本校舎生徒たちも口々に「おかえり」「よく頑張った」「偉いぞ竹林」「お前は違うと思っていた」と声を上げ始める。

 竹林が本校舎に戻りたがっていたのは間違いなく本心であると思うが、E組に対する罵倒の言葉は本心ではないと思う。そうでなければ、メッセージのやり取りであんなに歯切れが悪いわけがないのだ。だから棗は「まぁいいや」と切り替えた。

 始業式終了後。

 棗はいつものように学秀に声を掛けに行った。

 

「浅野くんこんにちは!久しぶり〜」

「…ああ、君か。何か用か?」

 

 まさかこの状況で普通に声を掛けられるとは想定していなかったのか、一瞬驚いた顔をした。それもすぐに戻ってしまったのだが。

 

「こうやって集会で本校舎に来る時くらいしか顔合わせる機会滅多になさそうだし、声掛けに来たよー」

「そうか。君くらいなものだよ、何の警戒心もなく僕に声をかけるE組生徒は」

 

 学秀は呆れ半分といった表情で言う。

 

「うーん、不思議やねぇ。こんなに普通に会話出来るのにね!」

 

 確かに学秀はこの学校で最も優秀な生徒であり、生徒会長であるが…まぁそれだけに過ぎない。中学生にしては聡明過ぎるのだろうけれども、それでも自分と同じ中学生である。他と変わらないだろう。

 

「いや、だから警戒心が…」

「えー、別に全く警戒心ないわけじゃないんよ〜?いやまぁ他人を信用しすぎるところがあって親友にも心配されたりはするんだけど。なんかこの人変かな?って思わないわけじゃないべ?でも自分の勝手な思い込みかも、相手に失礼かもって思っちゃうんだよねぇ…」

 

 棗は察するのは苦手だし、他人の裏表もよくわからないが、だからと言って全く何も察することが出来ないわけではない。場合によっては相手に違和感を覚えることもあったりはするが、何せ自分の感覚を信用出来ないので『いやでも、もしかしたら自分の思い違いかも』と思ってしまうのである。

 

「それは一周回って警戒心がないようなものだと思うが?」

 

 学秀からばっさり言われて、

 

「うー…そっかぁ…そうだよねぇ…」

 

と項垂れる。

 

「人を信用するのを悪いこととは言わないが、信用しすぎるのは自分の首を絞めることになる」

 

 聡明な学秀からの言葉には、説得力がある。確かにそうだな、と思った。

 

「浅野くんが言うと説得力あるねぇ」

 

 棗は呑気にそう口にする。学秀は頭も良くて、努力家で、自分を助けてくれた人物。棗はそんな学秀に、全幅の信頼を寄せていた。E組との仲はよろしくないし、当たりも強いけれど、他人に親切に出来る部分があるのだから根は悪い子ではないと、棗は本気で思っている。

 

君は、僕とは正反対だな

 

 学秀が何やら呟く。小さい声であったし、周りの雑音に掻き消され棗には何も聞き取ることが出来なかった。

 

「ん?何?何か言った?」

「いや、こっちの話だ。気にするな」

 

 気にするな、と言われると余計に気になる。

 

「そう言われるとめっちゃ気になるんやけど」

「気にするなと言ったんだから気にするな」

 

 学秀は頑なに話そうとはしなかった。どうしても聞かれたくないことなのだろうかと、棗は問いかける。

 

「えー、聞かれたくないこと?」

「…まぁ」

「絶対に?」

「…そうだな」

「ふーん…絶対なら仕方ないね!」

「納得するのか…」

「うん。絶対駄目って言われたことはしない」

 

 棗は『絶対』という言葉に強く反応する。逆に、曖昧な言葉だと非常に混乱してしまう。

 例えばの話だが…夏休みの宿題が終わらなかった者たちがそれを終わらせる為の集まりが放課後にあるとする。『終わってない人は集まってやってください』という指示だけだと『絶対参加』なのか『出来れば参加』なのかが判別出来ない。それ故に、『まぁ参加しなくても家で出来ることだしいいかな』と判断してしまう可能性がある。だから棗に何かを指示したり、してほしくないことを言う時は『絶対』という言葉が最も有効だ。

 ちなみにこれらは余談である。

 

「…そうか。確か君は竹林とは仲が良かっただろう。彼が本校舎に戻ったことに関して思うことはないのか?」

「うーん、別に。コータローくんがそうしたくてそうしたわけだから、私から言うことは特にないわな。ぶっちゃけクラスが離れても友達じゃなくなるわけでも無し、そういうのはあんま気にしとらん。親友とも距離は離れちゃったけど変わらず仲良いし、別に心が離れてるとは思わんし…場所とかそういう物理的な距離はあんまり関係ない気がする」

 

 心の距離と物理的距離は比例しないというのが棗の持論である。

 

「……そういうものなのか」

「うん。これからは同じクラスみたいだし、コータローくんと仲良くしてあげてね!…あっ、そろそろ行かないとだ。じゃーね浅野くん、ばいばーい」

「…ああ。気をつけるんだぞ」

 

 棗の言動の幼さからか、学秀はどこか保護者のような口ぶりで言う。それに対し「はーい」と返事をして、棗は旧校舎への道のりを急いだ。

 

 

 始業式終了後のE組は、皆浮かない顔をしていた。

 何も告げられることなく目の当たりにした、竹林のA組への突然の編入。動揺して当然のことだ。

 なんの心配もしていないのは棗のみである。

 

「なあ、歌川さん」

 

 棗がいつもの如く机に突っ伏していると、磯貝から声を掛けられた。棗はゆっくり顔を上げながら、「はぁい〜」と間延びした返事をする。

 

「歌川さん、竹林と仲良かったよな」

「うん」

「竹林から何か聞いてたりしないか?」

「んー…?」

 

 教室内の視線が棗に集まる。正直物凄く気まずい。一斉に注目するのはやめていただきたいものである。

 

「そういえば棗ちゃん、あんまり動揺してる感じないよね。なんで?」

 

 岡野からそんな疑問が飛んでくる。

 

「なんで…?うーん…クラスが変わったところで友達なのは変わらんから?」

 

 岡野は『何か知ってるんじゃないの?』というニュアンスで訊ねたのだが、棗は『棗が動揺していないのは何故か』という言葉通りの意味で受け取ってしまった為にこの返答である。はぐらかそうとする意図は全くない。

 

「そうじゃなくて、何か知ってたんじゃないかってこと!」

「あ、そういう意味か…んー…夏休みの間にA組に行くとは聞いとったよ」

 

 竹林は『A組に行くことを絶対に言わないでくれ』と言ったが、今はもう始業式でのスピーチで知ってしまっているので最早効力はないだろう。

 

「はァ!?なら何で言わねぇんだよ!!」

 

 寺坂が声を上げた。

 

「だってコータローくんから『絶対に言わないで』って言われてたから」

 

 絶対って言われたら、ちゃんと守らなきゃ駄目だよね?と棗は続ける。

 

「それに、コータローくんにも色々あるんだよ~。私がとやかく言う事でもないし」

 

 依然としてぽやぽやしている棗。明らかに周りとの温度差があった。棗の言い草があまりにも他人事のように感じたのか、岡野が不満げな表情で言う。

 

「棗ちゃんさ、なんか冷たくない?」

「? 冷たい……のかな?分からん」

 

 E組は皆落ちこぼれの烙印を押され、傷つき合った者同士結束が深い。だから、棗の普段と変わらぬ態度は冷たく見えてしまうのだろう。

 

「でも、クラスが変わるだけだよ。会える頻度は変わっちゃうけど、友達である事実は変わらんよね。だからそこまで重く捉える必要はないと思う、私は」

「あんなに酷い事、スピーチで言われたのに何とも思ってないの?」

「酷い文章読ませるモンだな~とは思った。それ以外の感情はあんまりないかな。だって別に、あれはコータローくんの本心じゃないし、あんな事言われたところで皆の良さが無くなるわけでもないから。何言われたところで、皆の持つ良さは変わらんよ。勿論皆はそうは思えんとやろうし、納得出来んとやろうけど……私はそう思っちゃうから、そこは仕方ない。価値観の違いやね」

 

 棗の言葉から、彼女なりのE組への好意や信頼を感じ取ったのか、岡野はそれ以上は何も聞かなかった。そして今度は、片岡が口を開く。

 

「ねぇ、竹林君にも色々あるって言ってたけど……歌川さんは彼が本校舎に復帰した理由を知ってるの?」

 

 片岡の質問に、再びクラス中の視線が向く。

 

「……んー。知らん……っていうのは嘘になるけど。でも、プライバシーに関わる事っていうか……わざわざ復帰する事皆に言わないでって言うくらいだからさ。そこは私を信用して話してくれた事なんだと思う。だから……私の口からは、言えんかな。ごめんけど。気になるなら、コータローくん本人に直接聞いてみて欲しい」

「……わかった」

 

 思うところはありそうだったが、片岡は棗のその言葉に短くそう答え、自身の席へと戻って行った。他のクラスメイト達の視線も、いつの間にか棗から外れて、ほっと胸を撫でおろす。注目されるのは落ち着かないし、苦手だ。

 棗はそっとスマホのメッセージアプリを開く。

 

『やっほ、コータローくん。皆君の事すっごい気にかけてたぞー。コータローくんの気が向いた時でもいいから、皆ともちゃんと話してみたらいいんじゃないかね?』

 

 余計なお世話かもしれないが、それだけ、メッセージを送る。既読はつかない。まあ、今は学校にいるわけだし、すぐに既読がつかなくてもおかしくはないだろう。

 これからどうなるかはさっぱりだけれども、クラスの皆にとっても、竹林にとっても、いい方向に事が進めばいいなと、ただそれだけを棗は思う。

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