そしたら多分番外編で書く事もあるかもしれない。
昨晩の作戦は、時間帯的に参加する事は出来なかったが、収穫はあったようだ。烏間の部下である鶴田の頭に出来たたんこぶが気になったのだが、それは軽率にシロに協力した事による鉄拳制裁を烏間から喰らったらしい。
殺せんせーを下着泥棒だとでっち上げたのは、シロ達だった。誤解が解けた今、生徒達は殺せんせーに謝罪をし、宥めているが、殺せんせーはつーんと絵に描いたような口の尖らせ方をしてそっぽ向いている。
「先生の事はご心配なく。どーせ体も心も厭らしい生物ですから」
完全に拗ねている。やってもいない事で疑われ、汚物を見るような目を向けられたのだから当然だろう。そんなもの、誰でも嫌な気持ちになるに決まっているのだから。
「心配なのは、姿を隠したイトナ君です。触手細胞は人間に植えて扱うには危険すぎる」
どうやらイトナは触手が暴走し、ついにはシロから見捨てられてしまったらしい。なんと無責任なのだろう。それでどうして保護者を名乗れたのか……疑問でならない。
「名義上はクラスメイトだけどさ。俺等あいつの事何も知らねーよな」
杉野の言う通り、棗を含むE組の生徒達は、誰も彼の事を知らない。どこに住んでいるのか、どういう風に生きて来たのか、どうしてあんなに強くある事に拘るのか、どうしてシロと出会って触手を持つに至ったのか。棗達は何も知らないのだ。
『椚ヶ丘市内で携帯電話ショップが破壊される事件が多発しています!!あまりに店内の損傷が激しい為、警察は複数人の犯行である線もあると……』
律がモニターに映し出した映像には、無残な姿と成り果てた携帯ショップの中継が流れていた。
「これ……イトナの仕業……だよな?」
「……ええ。使い慣れた先生にはわかりますが、この破壊は触手でなくてはまず出来ない」
「……どうして携帯ショップばかりを?」
携帯電話ショップに、何らかの執着があるのか。それは誰にも分からない。
「担任として責任を持って彼を止めます。彼を探して保護しなければ」
「助ける義理あんのかよ、殺せんせー」
「つい先日まで商売敵だったみたいな奴だぜ」
「あいつの担任なんて形だけじゃん」
確かに、岡島や中村の言う事もご尤もかもしれない。イトナはほとんど学校に来ていなくて、いないようなものだったし、現れたとしても、プールの一件では生徒ほぼ全員を巻き込み、命を危険に晒された。
「でも……イトナくんもまだ私達と同じ中学生だし……危険に巻き込まれたりもしたけど、結局のところそれはシロが寺坂くんを利用しようとしたからで、イトナくんも多分同じなのでは。本当に悪いのは多分子供を利用しようとするシロで、イトナくんも被害者な気がする……可哀想って言葉で片付けるのはなんか違うかもしれないけど……うーん」
「そうですね。それに、形だけだとしても……それでも担任です。『どんな時でも自分の生徒から
今夜、母は夜勤。父も現在海外出張中で不在。弟には「内緒にしてくれ」と釘を刺しておけば問題はないだろう。下着泥棒の件では参加出来なかったが、今夜は力になれそうだ。
『近道は無いんだぞ、イトナ。日々勉強の繰り返し。誠実に努力を続けた人だけが強くなるんだ』
イトナの脳内には、過去に父親から言われた言葉が反芻していた。
「……ウソつき」
そう口にしながら、携帯電話ショップを破壊する。
「キレイ事も遠回りもいらない。負け惜しみの強さなんてヘドが出る。勝ちたい。勝てる強さが欲しい」
頭を押さえながら呟き、フラフラと覚束ない足取りで前へ進む。
「やっと人間らしい顔が見れましたよ、イトナ君」
声がした方には、殺せんせーとE組の生徒達。
「……兄さん」
「殺せんせーと呼んでください。私は君の担任ですから」
殺せんせーは穏やかに言う。薄明りなのでわかりづらいが、イトナの顔にはたくさんの脂汗が浮かんでいた。きっと、かなり苦しいのだろう。シロはどうして、あんな子供を利用してこんな真似が出来るのか。その神経が全く理解出来ない。イトナの姿を見ていたら、余計にそう思えた。
「スネて暴れてんじゃねーぞイトナァ。テメーにゃ色んな事されたがよ、水に流してやるから大人しく着いて来いや」
何か思うところがあるのか、寺坂が口を開いた。
「うるさい……勝負だ……今度は……勝つ」
今のイトナには、寺坂の言葉はあまり響かないようだ。これも触手の影響によるものなのか。
「勿論勝負してもいいですが、お互い国家機密の身。どこかの空き地でやりませんか?
そう言って殺せんせーが取り出したのは、バーベキュー用の串だ。先日は下着泥棒の一件で叶わなかったし、リベンジしたいのだろう。棗もバーベキューはしたい。
「そのタコしつこいよ~。
棗はあまり殺せんせーをしつこいと感じた事はないが、相性などの問題なのだろうか。いや、カルマと殺せんせーの相性が悪いとは思わないけれども。
「当然ですよ。目の前に生徒がいるのだから……教えたくなるのが先生の本能です」
「……」
その時だった。
突然物凄い破裂音がして、粉のようなものが当たり一面に舞う。
「ゲホッ、な……何!?」
粉を浴びたイトナの触手と、殺せんせーの表皮がドロドロに溶けていく。対先生物質の
トラックの荷台に乗ったシロが、バズーカ捕獲ネットでイトナを捉える。
「がっ……」
「さぁイトナ、君の最後の奉公だ。追って来るんだろ?担任の先生♡」
発進したトラックが、イトナをそのまま引きずって走り去って行く。
「大丈夫ですか皆さん!?」
「……多分、全員なんとか」
「では先生はイトナ君を助けて来ます!」
殺せんせーは生徒達の安否を確認したのち、すぐにイトナの元へと向かってしまった。
「俺等を気にして回避反応が遅れたな」
「……あンの
寺坂の顔には血管がビキビキと浮かぶレベルで、口角も引き攣っていた。相当お怒りのご様子だ。他の生徒もそうだ。棗だって憤りを感じている。
「あんなの絶対痛いやん……なんであんな事出来るんや……イトナくんが可哀想すぎる。何なんあの人擬き。バケモンが人間に擬態してんじゃあねーぞ」
「棗ちゃんが珍しく辛辣だ……」
あの腐れ外道には、一言物申してやらねば気が済まない。
生徒達は急いで殺せんせーの後を追った。辿り着いた時には、四方八方から対先生BB弾を撃たれる殺せんせーとイトナの姿。服と風圧で何とか防いだようだが、網も対先生物質らしく、殺せんせー一人では救出は難航している。
「チタンワイヤーを対先生繊維でくるんだネット。いくらお前でも弾を防ぎつつ救い出すのは難しいよ。先ほどの負傷と圧力光線で動きづらい中、ちょっとでも目を離せばイトナの触手は破壊されてイトナ諸共死んでしまう。そして今までの暗殺で確認出来たが、お前は自分への攻撃は敏感に避けるが
「ねぇ渚くん、あのゲロ以下自己紹介してるの?」
「棗ちゃん??」
こんな人とも思えない仕打ちが出来るのだから、シロの方こそ自分以外を大切に出来ない身勝手な生き物に他ならない。だって、人の心がない。
「とにかく、あいつらは俺達を警戒してない。一気に畳みかけるぞ!」
そんな磯貝の一声に、皆一斉に飛び出す。木の上の人間を落とす者、そしてそれを簀巻きにする者。あっという間に形勢逆転だ。
「イトナくん大丈夫!?」
棗は磯貝や前原と共にイトナへ駆け寄った。
「ネット、すぐ外すからね……!」
「……お前ら、なんで……」
イトナが目を見開いてこちらを見つめる。
「カン違いしないでよね。シロの奴にムカついてただけなんだから。殺せんせーが行かなけりゃ私達だって放っといてたし」
見事な生ツンデレ発言をしたのは、速水である。少し感動を覚えたのはここだけの話だ。
「速水が『カン違いしないでよね』って言ったぞ」
「生ツンデレは良いものだね」
同じように思っていた者が約2名いたようである。
「こっち見てていいの~シロ?撃ち続けて殺せんせーを釘付けにしてたのに。撃つのやめたら……ネットなんて根本から外されちゃうよ」
時すでに遅し。光の速さでネットを外す殺せんせーがそこにいた。
「去りなさいシロさん。あなたはいつも周到な計画を練りますが……生徒達を巻き込めばその計画は台無しになる。当たり前の事に早く気付いた方がいい」
「……。モンスターに小蠅たちが群がるクラスか。大層うざったいね」
「ッるせーぞこのクサレ脳ミソ!!てめーの思考のがよっぽどバケモンじゃい!!」
「歌川さんさっきからすげー口悪いな!?」
「……確かに私の計画には根本的な見直しが必要なのは認めよう」
(完全に無視しやがった!!)
「くれてやるよ、そんな子は。どのみち2~3日の余命。皆で仲良く過ごすんだね」
シロはそのままトラックで去って行ってしまった。今まで出会った事のないくらいムカつく奴だ。いつか天罰が下ればいい。あんな奴はきっと誰も助けてはくれないのだろうから。そうして自身の過ちに気が付いた頃には手遅れになって後悔し、苦しみながら死ぬまで生きればいい、と心の底からそう思った。
残されたイトナは、苦しそうな顔をしてぐったりと弱り切っている。
「触手は意志の強さで動かす物です。イトナ君に力や勝利への執着がある限り……触手細胞は強く癒着して離れません。そうこうしている間に肉体は強い負荷を受け続けて衰弱してゆき、最後は触手諸共蒸発して死んでしまう」
なんて危険なシロモノを植え付けたんだ、あの人擬きは。
「……それは、いくらなんでもかわいそーだな」
「後天的に移植されたんだよね?なんとか切り離せないのかな」
確かに、片岡の言う通り、人の手で後天的に植え付けたものであるのならば、切り離す手段も無い事は無さそうだ。
「彼の触手への執着を消さなければ。そのためには……
「……でもなー。この子心閉ざしてっから」
「身の上話なんて素直にするとは思えねーよな」
中村や前原の言う通り、イトナの口から身の上話を聞き出すのは至難の業だろう。人の心というものは複雑怪奇で、難しい。
「そのことなんだけどさ」
不破がスマホを取り出しながら言う。
「気になってたんだ。どうしてイトナ君はケータイショップ襲ってたのか。で、さっきまで律と何度かやりとりしてたんだ。機種とか戸籍とか、彼に繋がる物を調べてもらって。そしたら、『堀部イトナ』ってここの社長の子供だった」
なんという情報収集能力。律の力添えがあったとはいえ、本当に探偵に向いているのではないだろうか。
『堀部電子製作所』
「世界的にスマホの部品提供してた町工場だけど、一昨年負債抱えて倒産しちゃって、社長夫婦は息子残して雲隠れだって」
なんともまぁ、複雑な事情だ。棗には想像もつかない苦労があったのだろう。
「ケ、つまんねー。それでグレただけって話か」
「寺坂!」
「皆それぞれ悩みあンだよ。重い軽いはあンだろーがよ。けどそんな悩みとか苦労とか、割とどーでもよくなったりするんだわ」
吉田と村松の肩にポンと手を置いて、寺坂が前へ出て来る。
「俺等んとこでこいつの面倒見させろや。それで死んだらそこまでだろ」
(寺坂くんが頼もしすぎる)
「おい、チビっ娘」
「ん?」
「お前も来いや」
どうやら、棗も協力しろとの事らしい。力になれるかは正直分からないが、頼られたわけだし、イトナの事は棗も心配であったので、出来る限り尽くさせてもらう事にしたのだった。
仲良し度★★★
赤羽業
1、2年で同じクラスだった。サボり癖のあったカルマと顔を合わせる機会こそ然程多くはなかったが、合えば会話する程度の友好度はあった。カルマは棗を面白い奴認定している。
奥田愛美
大人しめの奥田と、明るいが実はどちらかというと内向的な棗は意外と相性が良く、お互い話しかけやすいな〜と思っている。種類は違うものの、オタク気質であることも共通している。ちなみに両者規定丈のスカートであり、三つ編みである。
茅野カエデ
共に身長140cm台。茅野の方が自分よりも小さい棗に関心を持っており、よく話しかける。その為自然と棗の方からも声をかける程度の仲になった。
神崎有希子
ゲームという共通の話題から仲良くなった。棗は家庭用ゲーム派なのでゲーセンはあまり行かないし、ゲームもどちらかというと他人のプレイを見る方が好きで、自分でやるのはあまり得意ではない方。唯一リズムゲームは得意な方なので、オンラインマルチプレイをすることがある。
木村正義
漫画好きなので話が合う方である。棗は木村に対し「足速くてすげーなぁ」と思っている。木村は棗を「すげー天然」と思っている。棗の自身の名前に関するポジティブな捉え方には救われている部分もあったりする。
潮田渚
1、2年で同じクラスで、会話を交わすこともそれなりに多い仲だった。渚は棗を尊敬している部分があり、棗は渚をかっこかわいいと思っている。何気に、渚が「ちゃん付け」をする珍しい相手である。理由は「なんとなく『歌川さん』より『棗ちゃん』という感じがするから」。
菅谷創介
種類は違うが、絵を嗜む者同士。棗は菅谷の絵の才能や、好きな事を貫く姿勢を尊敬しており、菅谷が絵を描くところを観察したりする事もある。
不破優月
少年漫画好きの不破とは話が合う部分もあるが、仲良し度が★★★なのは、不破がどちらかというとアクティブなタイプだから。学校で会って話す分には丁度いいが、一緒に遊びに行くとなるとちょっと感覚が違う、という認識。
三村航輝
棗は三村の映像編集技術を尊敬していて、完成動画や製作工程の動画を見せてもらったりする。三村も棗のイラストを評価しており、一緒に動画を作れたら面白いだろうなと思っていたりする。
瀬尾智也
実は梅雨の一件から交流がある。とは言っても、本校舎と旧校舎なので顔を合わせる機会は少ない。連絡先を交換しているので、メッセージのやりとりはそれなりにする。瀬尾は無自覚ではあるが、本能的に「学力で勝てても人としては勝てない」と感じているので、棗に対しては見下す態度を取らない。
土屋果穂
瀬尾同様、梅雨の一件から交流がある。落ちこぼれクラスでありながらそれを気にしなかったり、見下され、嫌な事を言われても大して動じずに、不遜な態度を取っていた自分達を助けようとする棗の姿に思うところがあり、以降地味に棗に懐いている。連絡先の交換をしており、たまにメッセージのやりとりをしている。