棗達はイトナを連れて夜の道を歩いていた。
心配になりそうな程──実際めちゃくちゃ心配だが──ふらふらとした足取りのイトナを、寺坂と棗が支えながら進む。対先生ネットをリメイクしたバンダナを頭に巻いたものの、応急処置に過ぎず、またいつ暴走を始めるかわからない。
「……さて、おめーら。どーすっべこれから」
言い出しっぺである寺坂がとんでもない事を言い始めた。まさかの無計画である。棗達は目が点になった。
「考えてねーのかよ何にも!!」
「うるせー!!5人もいりゃ何か考えあんだろーが!!」
「ホンッット無計画だなテメーは!!」
「あ、イトナくん足元気を付けんと危ないよ」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ寺坂達。寺坂が手を離した後もふらふらと前へ進もうとするイトナを支える。棗は何だか弟をお世話しているように思えて来た。
「村松んちラーメン屋でしょ。一杯食べたらこの子も気ぃ楽になるんじゃない?」
「お、おお」
狭間の提案により、棗達は村松の実家のラーメン屋へ行く事に。
出された熱々のラーメンを、イトナはズズッと啜った。棗もちゅるちゅると麺を吸い込む。麺を啜るのは下手くそなのだ。
「どーよ。マズいだろ、うちのラーメン。親父に何度言ってもレシピ改良しやしねぇ」
「……マズい。おまけに古い。手抜きの鶏ガラを化学調味料で誤魔化している。トッピングの中心には自慢げに置かれたナルト。四世代前の昭和のラーメンだ」
イトナは意外と知っているらしく、ご丁寧に解説し始めた。
「ウマウマ」
「おい、このチビ女はバカ舌なのか?」
「否定はせん、基本的に何でも美味い」
基本的に豚骨派だが、たまには他の種類も悪くはない。と言うか、関東圏なので豚骨が少ない。九州を出たら一気に豚骨の店が少なくなる事に驚いたものだ。
「じゃ、次はうち来いよ。こんな化石ラーメンとは比較になんねー現代の技術見せてやッから」
「ンだとォ!?」
寺坂グループは今日も仲がよろしい事で……と思いながら、只管ラーメンを食す棗であった。
*
次に訪れたのは、吉田モータース。吉田の実家のバイク屋だ。E組に来るまで気にした事はなかったが、親が自営業を営んでいる家は意外と多いのだなと思う。
「どーよイトナ!?スピードで嫌な事なんざ吹き飛ばせ!!」
吉田は後ろにイトナを乗せて、バイクを思いっきり飛ばしていた。
「いーの、中学生が無免で?」
それに関しては狭間と同意見である。
「あいつん家のバイク屋の敷地内だしな。
「へー……」
普段話していても充分伝わって来るが、本当にバイクが好きなのだな。ついでに言うと、吉田に父の話をした時のように、父に吉田の話をしたら「その子はどういうバイクが好きなの?」と聞かれたので、いつか会わせて話をさせてみようかと思っている。
そんな事を考えていたら、イトナが茂みに突き刺さっていた。
「わーッ!?イトナくん!?」
「バカ、早く助け出せ!!このショックで暴走したらどーすんだ!!」
「いやいや、この程度じゃ平気じゃね?」
3人でいそいそとイトナを引っこ抜く。なんというか、まるでアニメのような突き刺さり方だ。
「イトナくん怪我とかしとらん?だいじょぶ?」
あと、9月の夜は肌寒い。イトナは首にファーを巻いてはいるものの、服装はノースリーブだ。寒くはないのだろうか。自分の着ている上着を羽織らせるべきかと悩んでいたら、狭間が何かをドサドサと置いた。
「復讐したいでしょ、シロの奴に。名作復讐小説『モンテ・クリスト伯』全7巻2500ページ。これ読んで暗い感情を増幅しなさい。最後の方は復讐やめるから読まなくていいわ」
「うわーッ!!狭間ちゃんイトナくんに何させようとしてんのー!?」
「狭間テメーは小難しい上に暗いんだよ!!」
「何よ。心の闇は大事にしなきゃ」
だからと言って外野が復讐心を増幅させるのは違う気がするのだが。
「もーちょっとねーのかよ。簡単にアガるやつ!!だってこいつ頭悪そう……」
寺坂がそう言いかけた時、イトナがブルブルと震えていることに気付く。
「やべぇ……なんかプルプルしてんぞ」
「だ、大丈夫?やっぱり寒い?具合悪い?」
「寺坂に頭悪ィって言われりゃキレんだろ」
皆口々に言うが、そうではないと狭間が言う。イトナの震えは、触手の発作だ。
「また暴れ出すよ」
バンダナは見る影なくバリバリと破られ、どす黒い触手が伸びて来る。目は完全に血走っていた。
「俺は適当にやってるお前らと違う……今すぐあいつを殺して勝利を……」
皆巻き込まれぬ為に素早く身を引く。棗も狭間に手を引かれ、イトナから距離を取った。そんな中で、寺坂だけが前へ出る。
「おうイトナ。俺も考えてたよ。あんなタコ、今日にでも殺してーってな。でもな、テメーにゃ今すぐ奴を殺すなんて無理なんだよ。無理のあるビジョンなんざ捨てちまいな。楽になるぜ」
(言い方がやべーお薬みたいに聞こえるよー……)
「うるさい!!」
イトナの触手が、寺坂を襲う。しかし、寺坂はそれを体を張って受け止めた。プールの一件の時のように。
「2回目だし、弱ってるから捕まえやすいわ。吐きそーな位クソ痛てーけどな」
寺坂は本当に成長した。まるで映画でのジ○イアンのようだ。
「吐きそーといや村松ん家のラーメン思い出した」
「あん!?」
思わぬところで被弾する村松。哀れ。
「あいつな、あのタコから経営の勉強奨められてんだ。今はマズいラーメンでいい。いつか店を継ぐ時があったら……新しい味と経営手腕で繁盛させてやれってよ。吉田も同じ事言われてた。
棗も父に何度も言われた事がある。知識は武器であり、持っていて損はない。今は使わなくても、いつかふとした時に役に立つかもしれないから、今覚えておくことは無駄な事ではないと。
「なぁイトナ。一度や二度負けた位でグレてんじゃねぇ。
「……耐えられない。次のビジョンが出来るまで……俺は何をして過ごせばいい」
「はァ?今日みてーにバカやって過ごすんだよ。その為に
寺坂の言葉にどことなくだが、イトナの様子が落ち着いたように見えた。
「俺は……焦ってたのか」
「……おう。だと思うぜ」
そのタイミングで、殺せんせーがやって来た。
「目から執着の色が消えましたね、イトナ君。今なら君を苦しめる触手細胞を取り払えます。大きな力のひとつを失う代わり……多くの仲間を君は得ます。殺しに来てくれますね?明日から」
その言葉に、イトナが薄く笑みを浮かべる。どこか吹っ切れたような顔だ。
「……勝手にしろ。この
こうして、堀部イトナが正式にE組の仲間として加入する運びとなった。
*
*
*
翌日。
イトナはバンダナスタイルで学校へ登校して来た。皆、歓迎ムードだ。
「おはようございます、イトナ君。気分はどうですか?」
「最悪だ。力を失ったんだから。でも、弱くなった気はしない。最後は殺すぞ。……殺せんせー」
指をさして宣言するイトナ。早くもE組に馴染めそうな雰囲気だ。ちなみに、彼は寺坂グループである。
「おはよーイトナくん。これからよろしくね」
「……ああ。お前は……」
「歌川棗だよ!」
「……棗。昨日は世話かけたな」
確かに昨日、寺坂に言われて同行したけれど、ラーメンを食べたり、バイクから振り落とされたイトナの姿を見てあたふたしたりしていただけで、何か役に立てたかと言うと全くそんな気はしない。結局のところ何も出来なかったと思う。
「いやー、私は何もしてないよー」
「……お前はある意味このクラスの中で一番強い……気がする」
「んー……?よく分からんけど、ありがとう?」
「まぁ……これからよろしく」
「うん、よろしく!」
イトナの言う事の意味は全く分からないが、仲良くなれそうな雰囲気ではあるのでよしとする。
仲良し度★★
仲良し度★★〜★の人達は基本的に必要最低限の伝達事項でしか棗ちゃんから話しかけなかったり、話しかけられたら会話するレベルの人達です。★★と★の違いは、★★の人達は比較的棗ちゃんに話しかけてくる頻度が高く(伝達事項以外の事でも話しかけてくれる)、★の人達は話しかけてくる頻度が低い(棗ちゃんも★の人もお互いに最低限の伝達事項のやりとりしかほぼしない)というところです。
磯貝悠馬
基本的にクラス全員の事を気にかけてくれるいい人なので、棗の事も気にかけて話しかけてくれる。棗は磯貝に対し「良い人だなー」と好感を持っている。磯貝は棗に対し「基本いい子だけど変わってるなー」と思っている。
片岡メグ
同上。棗は片岡に対し「美人でしっかりした良い人」と好感を持っている。片岡はぼんやりしている棗の事を「大丈夫かな……」と心配してくれている。
倉橋陽菜乃
寺坂が強く出られない・調子が狂うという共通点がある。棗は倉橋のゆるふわビジュが好き。倉橋は棗を「不思議な子」だと思っている。
中村莉桜
中村は人を揶揄うのが好きだが、棗は恋愛事で揶揄うのも揶揄われるのも非常に嫌っているため棗に対してはしつこく食い下がることはない。というか、基本的に感情的に怒ったりせず寛容(あまり他人に興味が無いだけ)な棗の嫌そうな顔がなんか心にくるので出来ない。棗は中村を「オタクに優しいギャル」だと思っている。
前原陽斗
女たらしであるため当然棗にも声をかけたことがある。ちなみに棗の返答は「初絡みでお茶……コミュ力おばけ(純粋な感想)」である。前原は棗を「不思議ちゃん」だと思っている。棗は前原を「コミュ力おばけなクラス一の陽キャ」だと思っている。
矢田桃花
棗は矢田のおっぱいが好き。優しくてコミュ力があり、程よい距離感を保てる部分に好感を持っている。矢田は棗を「素直でいい子な不思議ちゃん」だと思っている。
仲良し度★★★(追加)
堀部糸成
席が隣であり、寺坂グループであるため会話の機会が多い。イトナは棗を「ある意味強い奴」だと思っており、棗はイトナを「弟みたいでかわいい」と思っている。たまに一緒に村松の家のラーメンを食べさせてもらっている(棗はお金を払って食べている)。