【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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ちなみにですが、年代は2016年くらいを想定して書いてます。


間違い

 その夜、岡島からのメッセージが入った。

 

『歌川!聞いてくれよ、俺すげー通学路を開拓したんだよ!』

 

 簡単にまとめるとこうだ。

 小高い丘の上から、フリーラーニングで建物の屋根を伝って行くと、ほとんど地面に降りずに隣駅の前まで到達出来る。ただ通学するだけで訓練になるとの事。

 しかし懸念がある。烏間からは「裏山以外でやるな」と言われているし、誰かに怪我をさせてしまう可能性も全く無いとは言えない。もしもの可能性を考えたら、やらない方がいいだろう。その旨を伝えると、

 

『心配すんなって!まぁでも歌川は前より運動神経良くなって来たとはいえ、まだまだ運動下手だしやらない方がいいか!』

 

と返ってきた。いや、確かにそうなのだけれども、そういう問題では無いのだ。

 最後に、『本当に、もしもの事があったらよくないと思うから、やめときなよ。』ともう一度だけ注意して、会話は終わった。これで考え直してくれるといいのだが……一縷の不安を覚えつつ、その日は就寝した。

 

 事件が起こったのは、その翌朝の事であった。

 ガラガラと教室へ入って来た殺せんせーから、岡島達が例の通学コースで老人に怪我をさせてしまったと聞かされる。

 

「何してんだ奴は……昨日あんだけ他人様に迷惑かかるかもしれんって言ったのに……」

 

 岡島達は殺せんせーによるビンタを喰らったそうだ。平等に扱わないと不公平だと言う事なので、本件に関わりのない生徒も申し訳程度のビンタを喰らっていた。

 棗は何故か喰らわなかった。今し方不公平だと言わなかったかと問えば、「棗さんは再三注意していたようなので、叩くのはちょっと違う気がして……」と言われた。注意はしても、全く響いていないのなら無意味だと思うが。

 そんな訳で、棗達はテスト勉強を禁じられ、代わりにその老人──松方の経営する保育・学童施設の手伝いをする事になった。正直自分が子供っぽいので、自分より歳下の子の面倒を見ることが出来るか心配ではあるが……致し方ない。

 

「ねー、せんせー、この人ほんとにチュウガクセー?身長うちらとそんな変わんないじゃん」

 

 施設の子に、開口一番そう言われた。

 

「こらこら」

 

 職員の女性が咎めるが、棗は全くと言っていい程気にしていない。

 

「確かに私は小さいけど、私より小さい人が周りにいないから、私が隣に並ぶと多少身長の低めの子でも普通の身長に見えるんだぜ」

「へー」

「お姉ちゃん髪長〜い」

 

 今度はサイドに垂らした三つ編みをくいくいと引っ張られる。

 

「長いやろ。お姉さんが髪を伸ばし始めたのは、丁度君らくらいの歳の頃さ。○リキュアが好きでね、お姉さんが幼稚園行ってた時は○リキュア5ってのがあってて、中でもキ○アド○ームが好きやったんよ。その子に憧れて伸ばし始めたのがきっかけよ」

「お姉ちゃん○リキュア好きなの!?」

「誰が好き!?」

「今やってるやつだとキ○アミ○クルが好きよ」

「えー、お姉ちゃんエ○ゼイドとかジ○ウオウ○ジャーとか見ないの?」

「お。お姉さんは仮面ラ○ダーもスー○ー○隊も好きやで」

 

 ニチアサは一通り見るので、未就学児とは話が合いそうである。そこからは絵が描ける事を活かし、ヒーローや○リキュアの絵を描いた。概ね好評だった。自分の好きな事で誰かが喜んでくれるのは、やはり嬉しいものだ。

 29人で二週間。やれる事はたくさんある。皆気合が入っているようで、それぞれ得意な事を活かして子供達と接していた。茅野達の繰り広げる劇も中々面白くて、子供達は大盛り上がりだ。カルマが悪ノリしていたのはいただけないが。

 

「茅野子供ウケいいな」

「ああ……空気の掴み方わかってるな。体型も近い」

 

 茅野はめちゃくちゃ失礼な事を言われていた。

 

「身長は歌川の方が小さいけど、アイツ意外とむっちりしてるからな」

 

 棗は流れ弾を喰らった。

 施設の子達の中には、当然小学生もいる。その子達の勉強を見る生徒達も数人いた。棗は教えるのが壊滅的に下手なので戦力にはならないが、代わりに未就学児の子達と共にお絵描きを楽しんでいる。この子達の中にも、将来絵に携わる仕事がしたいと思う子が出て来たりするのだろうか。

 施設での仕事は初めてづくしだが、職場体験をしているようで結構楽しい。まぁ、ほんの少し、ほんの一面だけだが、これも社会経験のひとつだろう。学校でやらない勉強をたくさんするうちに、二週間はあっという間に過ぎていく。

 そしてその時はやって来る。

 

「さて、私の生徒は良い働きをしましたかねぇ」

「フン。何十人いようが烏合の衆だ。ガキの重みで木造平屋が潰れてなければ上出来……ん?」

 

 退院した松方が戻って来た。そして開口一番に放ったのは……

 

「なんということでしょう!!」

 

 劇的ビ○ォーア○ターのナレーションのようなセリフだった。

 

「よう、じーさん。二週間分の損害と見合ってるか?」

 

 E組の裏山から間伐した木と廃材を集めて作られた家。窮屈で貧弱だった保育施設が広くて頑丈な多目的空間へと生まれ変わった。

 

「なんと……」

 

 コンピュータの計算で強度もカンペキだ。崩れそうな母屋ごと新しい柱で補強している。

 

「まるで鳶職人みたいでしたよ、この子達。休まず機敏に飛び回って」

 

 二階の部屋は二部屋に分かれ、ひとつは図書館。子供達が勉強や読書に集中出来るようになっている。

 

「……だだっ広いな」

「時間と資材が限られてたんで単純な構造に」

「近所を回って読まなくなった子供向けの本もらったの」

 

 そしてもう一室は室内遊技場。ネットやマットを入念に置き、安全性を確保している。雨に濡れない室内なので、腐食や錆で遊具が脆くならない。

 

「……!!」

 

 (こやつら……)

 

「あの回転遊具覚えといてな」

「さ、次は職員室兼ガレージへ」

「……? ガレージ?」

「そう。このリフォームの目玉です」

 

 何ということでしょう。

 倒れて前輪が曲がってしまった園長の自転車を技術班が改造。安全性が高く、大積載量の電動アシスト付き三輪車に。

 

「上の部屋の回転遊具が充電器とつながっています。走行分の大半は遊具をこげば賄える計算です」

 

 つまり、たくさんの子供達がたくさん遊ぶ程、松方園長が助かる仕組みとなっている。

 

「う……上手く出来過ぎとる!!お前ら手際が良すぎて……逆にちょっと気持ち悪い!!」

 

 (それは流石に草)

 

「園長先生の思い出のこもった古い入れ歯は自転車のベルに再利用……」

「そんな匠の気遣い要らんし!!」

 

 それに関してはどうしてそうなったのか棗にも分からない。誰だ、入れ歯をベルにしようと提案したのは。

 

「第一、ここで最も重要な労働は建築じゃない。子供達と心と心を通わせる事だ。いくらモノを充実させても……お前達が子供達の心に寄り添えていなかったのなら、この二週間を働いたとは認めんぞ」

 

 皆の顔が緊張で強ばる。そうだ。それこそこの施設で最も大切な事である。そこへ、明るい少女の声が響いた。渚が勉強の面倒を見ていたさくらという少女である。

 

「ジャーーン!!なんとクラス2番!!」

 

 彼女が見せた算数テストの答案用紙は95点。

 

「おー凄い、頑張ったね!!」

「お前の言う通りやったよ。算数テスト()()不意打ちで出席して……解き終わったら速攻で帰った」

「いじめっ子もテストの最中じゃ手の出しようがなかったでしょ」

「うん。先生以外誰にも行く事言ってないしね。寧ろあいつら今回点数悪かったってさ。急に出てきた私を気にして集中力削がれたかな」

「多分ね」

 

 何とも策士である。恐るべし潮田渚。流石潮田渚。

 

「自分の一番得意な一撃を、相手の体勢が整う前に叩き込む。これがE組(ぼくら)の戦い方だよ、さくらちゃん。今回は算数だけしか教えられなかったけど、こんな風に一撃離脱を繰り返しながら……学校で戦える武器を増やして行こう」

「だ、だったら、これからもたまには教えろよな」

「勿論!!」

 

 渚の返答に、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべるさくら。やはり女の子の笑顔は最強である。渚も随分と懐かれたようだ。

 

「……クソガキ共。文句のひとつも出て来んわ」

「あ、園長おかえり。見てよコレ!!」

 

 嬉しそうに駆け寄るさくらの頭を撫でながら松方は言う。

 

「元よりお前等の秘密なんぞ興味は無い。ワシの頭は自分の仕事で一杯だからな。お前等もさっさと学校に戻らんか。大事な仕事があるんだろ?」

 

 どうやら、松方のお眼鏡にかなったようだ。殺せんせーも屋根の上で笑みを浮かべながら、うんうんと頷いている。

 起こした事故の賠償責任を自分達で果たしたE組。二週間の特別授業はこれにて幕を下ろしたのだが、それは中間テストの前日であった。二週間も授業を受けずにテストに望んだ棗達の結果は惨敗だ。

 しかし、総合順位は若干落としたものの、得意教科の成績は上がっているので、棗的には充分だと感じている。施設での経験も楽しかったし、結果オーライである。

 


 

 普段通りの学校生活へ戻り、E組の生徒達は烏間への謝罪に教員室を訪ねた。

 

「迷惑かけてすいませんでした、烏間先生」

「これも仕事だ。気にしなくていい」

 

 パソコン作業をしながら、烏間が問う。

 

「君等はどうだ。今回の事は暗殺にも勉強にも大きなロスになったと思うが、そこから何か学べたか?」

 

 渚が答える。

 

「……。強くなるのは、自分の為だと思ってました。殺す力を身につけるのは名誉とお金の為。学力を身につけるのは成績の為。でも身につけたその力は、他人のためにも使えるんだって思い出しました。殺す力を身につければ、地球を救える。学力を身につければ……誰かを助けられる」

 

 渚はカルマの方を見る。カルマは、「さーね」と答えていたが、表情はどこか嬉しそうである。

 

「もう下手な使い方しないっス。多分」

 

 そこははっきり言い切るべきだろうと思うが、まぁ、きっと大丈夫だ。

 

「気をつけるよ、色々と」

 

 生徒達の言葉に、教師陣は皆満足気な笑みを浮かべている。もう大丈夫だと感じたのだろう。

 

「考えはよく分かった。だが、()()()()では高度訓練は再開出来んな」

 

 ガタリと立ち上がった烏間が卓上に出したのは、ボロボロになった指定の体育着だ。

 

「ハードになる訓練と暗殺に……最早学校のジャージの強度では耐えられん。ボロボロになれば親御さんにも怪しまれるし……第一、君等の安全を守れない」

 

 廊下に出れば、烏間の部下達がダンボール箱を抱えて立っている。

 

防衛省(くに)からのプレゼントだ。今日を境に君達は……心も体もまたひとつ強くなる」

 

 そうして棗達が渡されたもの。

 それは、新しい体育着だ。何だか探検家のようなデザインである。ポケットもたくさん会って、たくさん収納出来そうで便利だ。

 

「本日から体育は……それを着て行うものとする。先に言っておくぞ。それより強い体育着は地球上に存在しない」

 

 軍と企業が共同開発した強化繊維で出来た体育着。それは、衝撃耐性、引っ張り耐性、切断耐性、耐火性。あらゆる要素が世界最先端なのである。

 

「ちょうど性能テストのモニターを探していたから……君等用に作らせたというわけだ」

「すっげぇ軽い……ジャージより軽いってどういう事だ」

「しかもこの靴すっごい跳ねるよ」

 

 恐るべし最新技術。最早ファンタジーの域である。いや、椚ヶ丘学園そのものがファンタジーのような気もするが。

 

「機能がそれだけだと思うな」

 

 特殊な揮発物質に服の染料が反応。一時的に服の色を自在に変える事が出来る。組み合わせは全五色。どんな場所でも迷彩効果を発揮する。

 肩・背中・腰は衝撃吸収ポリマーが効果的に守る。フードを被ってエアを入れれば頭と首まで完全防備が可能。つまり、危険な暗殺も無傷で実行出来るというわけである。

 体育着を支給されたばかりだと言うのに、皆気合が入り過ぎて、早速その体操着で何度も暗殺を試みていた。殺せんせーが息をつく暇すらない程に。

 

 (皆相当嬉しいんだなー……)

 

「折角の新装備。手の内を晒すのはやめとけと言ったんだがな。彼等がお前に見せたかったそうだ。新しい『(ちから)』の使い方を」

「教えの答えは暗殺で返す。それがE組(ここ)の流儀だからな」

「怒られた後だしね。真面目に殺しで応えなきゃ」

「約束するよ、殺せんせー」

「私達のこの『力』は……誰かを守る目的以外で使わないって」

 

 皆、いい表情になった。棗が実感する程に。皆、E組である事に後ろめたさを感じていたあの頃に比べて、前向きになったと思う。殺せんせーも嬉しそうだ。

 

 (元々いいクラスだと思ってたけど、もっともっといいクラスになったよなぁ〜)

 

「満点の答えです。明日からは通常授業に戻りますよ」

 

 そこには、はーい、という元気な声が響いていた。




仲良し度∞
影平杏子
唯一無二、永遠の親友。棗が転校するまでは幼稚園からずっと一緒で、互いに全幅の信頼を寄せている。お互い一緒にいて安心するし、恋愛感情は無くてもこの子となら結婚出来るな〜と思うくらいの関係性。

仲良し度未知数
浅野学秀
棗にとっては珍しい波長も違うし趣味が合うわけでもないのに仲のいい友達。学秀的には色々複雑な感情があるようだが、棗の事は嫌いではない。人畜無害で警戒心が薄いので心配だったりする。
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