【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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死神編は大分長めになります。



死神

 体育着を支給されたその日の下校時間、皆で山を下っていた時の事。

 

「すげえプレゼントもらったな。ああいうのはテンション上がるな、男子としては!!」

 

 杉野が上機嫌に口にする。その後ろから、イリーナが歩いて来た。

 

「女子のはね、私がデザイン案を出したのよ」

「ビッチ先生」

「カラスマの奴、男女同じ服にしようとしてたからさ。『女子はもっと身体のラインを出しなさい』って」

 

 ちなみに案③は圧倒的に布面積が少なく、防御力もクソもないデザインだったらしい。そして、棗にはずっと疑問に思っていた事がある。

 

「ちなみに私だけキュロットスカートなのは何故(なにゆえ)??」

 

 そう。女子の中でも、何故か棗だけキュロットスカートだったのだ。他は皆ホットパンツなのに。

 

「それはね、ナツメが前にズボンは苦手だ〜って言ってたからよ」

「棗ちゃんズボン苦手なの?」

「うん、長ズボンとか、ジーンズみたいにぴっちりしたのは特に。緩いのなら平気だし、ホットパンツくらいなら大丈夫だけど」

「じゃあ皆と一緒でもよかったじゃん」

「でもキュロットスカートかわいいし、気に入ったからいいかな。イリーナ先生が一生懸命考えてくれたデザインやし」

 

 デザインが一人だけ大きく異なるという訳ではないし、何故なのか理由が知りたかっただけで、他と違うから嫌だとかそういうのは一切ないのである。

 

「あいつ本当女心わかってないから。結局私にはプレゼントもくれなかったし」

 

 イリーナがムスッと唇を尖らせて呟く。

 

「あのタコでさえ分かってたのに!!あー、思い出したら腹立って来た!!」

 

 そう言いながら、づかづかと前を歩いて行く。生徒達はプレゼントとは何の事やら、と疑問に思っているようだが、倉橋が思い出したように声を上げた。

 

「思い出した。4日前の10月10日。ビッチ先生の誕生日だ」

 

 そう、イリーナは4日前に21歳の誕生日を迎えていた。イリーナと仲のいい棗は、同じ10月生まれであるという事で盛り上がった事がある。誕生日当日には、定番ではあると思うがハンカチを贈った。それでも大変喜んでくれたので、棗も贈って良かったと思っている。確かその日も、「カラスマがプレゼントを渡してくれる気配が無い」とボヤいていた気がする。

 

「烏間先生がくれるのを期待したけど、案の定何も無く。プライド高いビッチ先生からは言い出せず……か」

「相変わらずぶきっちょな人だな」

「でも……私達が騒ぎ起こしたのにも一因あるかも」

「……よーし。また俺等が背中押してやろうかね」

 

 暗殺旅行のとき宜しく、今回も二人をくっつける為に行動するらしい。後押ししたい気持ちは否定しないが、踏み込み過ぎない程度にしてあげて欲しいと思う。今回は見守りに徹する事にした。前回もそこまで作戦に参加していたとは言えないが。

 


 

 翌日。皆イリーナの気を引き烏間から遠ざけたり、その隙にプレゼント調達へ出たりと、中々躍起になっている様子だった。

 

「……今日は皆やけにイリーナに構うな」

「そーですねぇ……」

 

 作戦の事は内緒だ。傍観に徹しているとは言えども、それを暴露するような真似は出来ない。当たり障りのない返答をして誤魔化した。

 棗は殺せんせーと話をしようと思って教員室に来たが、折角烏間と二人になったのでら少し話をしようと試みる。

 

「そう言えば烏間先生、10日はイリーナ先生の誕生日だったんですよ、知ってました?」

「ああ。そう言えばそうだったな。それがどうかしたのか?」

 

 一応、この学園での同僚であるイリーナの誕生日は把握しているようだ。

 

「プレゼントとか渡さないんですか?」

「俺があいつにか?」

「はい。私が誕生日にプレゼント渡した時、『カラスマったら全然プレゼント渡してくれる気配がないのよ!!』ってボヤいてたんですよ〜」

「何故……?」

「イリーナ先生って烏間先生に懐いてる(?)じゃないですか。だから烏間先生からのプレゼント欲しかったんじゃないですかね?」

「あれは果たして懐いていると言うのか……?」

「んー、でもですよ、烏間先生の事気に入ってるとは思います。あくまで私から見たら、ってだけだから、はっきりとそうだと言い切るのは無理なんですけど」

 

 烏間は棗の言葉を聞いて、少し考えあぐねている様子だ。イリーナはきっと、烏間からのプレゼントに喜ぶだろうと思う。しかし、だからと言ってそれを烏間に強いる事は出来ない。もし彼が渡さない意向なのであれば、これ以上は何も言わない方がいいだろう。

 

「歌川さん。君は何を渡したんだ?」

 

 暫く考え込んでいた烏間が、そう問うて来た。

 

「私はハンカチを渡しました。普段使い出来る物はあまり派手過ぎたりしない限りはあって困らないだろうなって」

 

 問いに対し、そう答える。

 

「そうか」

「あっ、でも、私としては、烏間先生が一生懸命考えて贈るものだったら、イリーナ先生は何でも喜んでくれると思いますよ!えっと、なんと言いますか……こう、烏間先生がイリーナ先生の為に考える事が一番大事じゃないかと思うわけです!……さ、参考になるかは分からないですけど」

 

 親しい相手が自分の事を一生懸命考えて贈ってくれるものは、嬉しいものだ。相手が自分を想ってくれているというのが伝わるから。イリーナは棗ではないから、どう捉えているのかは分からない。でも、イリーナだって同じなのではないかとも思う。

 

「……考えておこう」

「はい!絶対喜んでくれると思います」

 

 声をかけてみてよかった。もしかしたら……ちゃんと渡してくれるかもしれないし、イリーナも喜ぶかもしれない。余計なお世話なのかも知れないが、こうやって声をかけるくらいは許されるだろう。

 

「あ、そう言えば殺せんせーを探しに来たんだった」

「そうか。ここにも教室にもいないなら、外にでもいるんじゃないか」

「そうですね!じゃあ、烏間先生、また後で!」

「ああ」

 

 烏間がイリーナに対してどういう感情を持っているのかはわからない。でも、二人は棗から見て仲が良さそうに見える。これを機に、二人がもっと仲良くなれたらいいと思った。それが、恋愛的であろうと友愛的であろうと関係無く。二人が大好きであるからこそ、そう思う。

 

 

 放課後。教室の窓から、荷物を抱えてザッザッと去って行くイリーナが見えて、何事かと思った。もしかして、気に入らないものでも渡されたのか。いや、烏間がそんなもの贈るとは思わないし、イリーナがそこまで本気で怒ったりするとも思えない。一体何があったのか、窓の外を見れば、教員室の窓の外に集まるクラスメイト達の姿が見えた。もしかすると、彼等の作戦が失敗したのかもしれない。

 

「あの、さっき教室の窓から帰っちゃうイリーナ先生見たんですけど、何かあったんですか?」

 

 教員室の引き戸を引けば、何とも言えない空気が漂っている。烏間は「何でもない」と言う。クラスメイト達は、気まずそうに口を噤んでいた。

 


 

 あれから3日経っても、イリーナは学校へ来ない。クラスメイト達は「余計な事をしてしまっかもしれない」と落ち込んでいる。

 

「烏間先生。任務優先もわかりますが、少しは彼女の気持ちになってあげては?」

 

 殺せんせーが烏間を諭しているが、烏間は「次の殺し屋との面接があるから」と教室を出ようとする。

 

「地球を救う任務だぞ。君達の場合は中学生らしく過ごしていいが……俺や彼女は経験を積んだプロフェッショナル。(なさけ)は無用だ」

 

 烏間は厳しい。一人前の大人に対しては、特に。

 その後、殺せんせーは「イリーナ先生に動きがあったら呼んで下さい」と言い残し、サッカー観戦の為にサッカーボールを持ってブラジルまで飛んで行ってしまった。

 

「ビッチ先生、大丈夫かな」

「う〜〜ん。ケータイも繋がんない」

 

 棗もメッセージを送ってみたり、着信したりを試みているが、既読もつかないし繋がりもしない。

 

「まさか……こんなんでバイバイとか無いよな」

「そんな事はないよ。彼女にはまだやってもらう事がある」

 

 そう言って、何故か見知らぬ人物が花束を抱えて、普通に教室へ入って来た。

 

 (誰やねんこの人)

 

「だよねー。何だかんだ。いたら楽しいもん」

 

 岡野が普通に会話を続けていて、何故誰も何も言わないのかツッコみたくなってしまった。本当に誰なんだ、この人は。皆の知り合いだろうか。少なくとも、棗はこの人物を知らない。

 

「そう。君達と彼女の間には充分な絆が出来ている。それは下調べで確認済みだ」

 

 本当にしれっと話を続けている。

 

 

「え。ガチで誰」

 

「僕はそれを利用させてもらうだけだ」

 

 そこでようやく他のクラスメイト達がその人物に反応した。たった今気がついたとでも言うように。

 

「え、何、コント?」

「僕は『死神』と呼ばれる殺し屋です。今から君達に授業をしたいと思います」

 

 見知らぬ人物の正体は、殺し屋であるらしい。人好きのする表情を浮かべた青年は、更に話を続ける。

 

「花はその美しさにより、人間の警戒心を打ち消し、人の心を開きます」

 

 (見るからに毒々しい色の花とかやべー臭いの花もあるけど……)

 

「渚君、君達に言ったようにね」

 

 (知り合いなんかい)

 

 何とも緊張感のない棗の内心だが、これはあまりの現実味の無さによる現実逃避に近い。現実味なんてそんなもの、この学園には最初か存在していないような気しかしないが。

 

「でも、花が美しく芳しく進化してきた本来の目的は──」

 

 死神と名乗った人物が、律に送った画像を表示するよう指示する。モニターに映し出されたのは、手足を縛られたイリーナの姿であった。

 

「──虫をおびき寄せる為のものです」

 

 皆、驚愕の表情を浮かべる。

 

「手短に言います。彼女の命を守りたければ、先生方には決して言わず、君達全員で僕が指定する場所に来なさい。来たくなければ来なくていいよ。その時は彼女の方を君達に届けます。全員に平等に行き渡るよう、()()()にして」

 

 何という恐ろしい発想。これが殺し屋なのだろうか。殺し屋はリスクを避ける為に標的以外には手を出さないイメージがあったのだが。

 

「そして多分、次の『花』は……君達のうちの誰かにするでしょう」

 

 (良い人そうな雰囲気で言ってることやばすぎて逆に怖!!あと人質なら絶対私が一番向いてる!!何故ならこの中で一番雑魚だから!!)

 

「……おうおう兄ちゃん。好き勝手くっちゃべってくれてっけどよ。別に俺等は助ける義理ねーんだぜ、あんな高飛車ビッチ」

 

 寺坂グループの三人が立ち上がって、死神を囲い込む。

 

「俺等への危害もチラつかせてるが、烏間の先公やあのタコはそんな真似許さねーぜ。第一……ここで俺等にボコられるとは考えなかったか、誘拐犯?」

「不正解です、寺坂君。それらは全部間違ってる」

 

 囲まれても尚、笑みを崩さない。圧倒的強者感。

 

「君達は自分達で思ってる以上に彼女が好きだ。話し合っても見捨てるという結論は出せないだろうね」

 

 優れた殺し屋ほど万に通じる。E組の思考を読むなど、赤子の手をひねる事のように容易いのだろう。

 

「そして、人間が死神を刈り取る事などできはしない」

 

 ──畏れるなかれ。死神が人を刈り取るのみだ。

 

 そうして残されたのは、花弁と一枚の地図。

 

「3日前の花束に……盗聴器が仕込んであったのか」

 

 盗聴器でE組の情勢を探り、イリーナが単独になる隙を狙った。殺せんせーがブラジルへ行く事も、烏間が仕事へ行く事も、全てを知った上で大胆にも単独でここへ乗り込んで来たのだ。

 

「でもさ〜、『死神』って程悪い人とは思えなかったよ。実は良い人とかってオチは無い?」

 

 流石に余っ程の事が無い限り、人攫いが良い人である事はないだろう。そうあって欲しいけれど。棗がもし、渚達のように彼と面識があったならば、倉橋と同じように思っていたかもしれない。流石の棗も、初対面でいきなり「人質を取りました、救いたくば命令に従いなさい」などと言ってくる奴は良い人とは思えなかった。

 

「スゴいよね〜。()()思わせちゃうんだから。あいつの前じゃ多分皆がそう思う。自分が殺される寸前までね」

「……うん。実際のとこ攫ってるしね、ビッチ先生」

 

 地図の裏には、『今夜18時までにクラス全員で地図の場所へ来て下さい。先生方や親御さんは勿論、外部の誰かに知られた時点で君達のビッチ先生の命はありません』と書かれている。

 

「鷹岡やシロの時とおんなじだな。俺等を人質にして殺せんせーを誘き出すのが目的だろう」

「くそっ……!!厄介な奴に限って俺等を先に標的にする!!」

 

 厄介な奴が生徒を標的にすると言うよりも、生徒を標的にするからこそ厄介な奴な気がする。

 

「しょーがないんじゃない。私等大金稼ぎの一等地にきるんだから。狙われて当然。そりゃあ世界一の殺し屋とやらもそーするでしょーよ」

 

 狭間の言う通りだ。

 とは言え、それでも棗達は、暗殺抜きならば普通の中学生だ。本来なら殺すだとか殺されるだとか、無縁な世界で生きる人間。それをこんな事に巻き込むなど、鷹岡と言い死神と言い、正気の沙汰ではない。

 

「使うか?これ」

 

 寺坂の言う"これ"とは、超体育着の事だ。

 

「守る為に使うって決めたじゃん。今着ないでいつ着んの」

「ま……あんなビッチでも色々世話になってるしな」

「最高の殺し屋だか知らねーがよ、そう簡単に計画通りにさせるかよ」

 

 すっかり殺る気に満ち溢れた生徒達。

 未知の敵との戦いが今、始まる。




Q.棗ちゃんは何故死神を認識出来たの?
A.漫画読者・アニメ視聴者目線に近いから。
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