【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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死神其の二

「……あの建物か」

 

 超体育着を着用したE組の生徒達は、死神によって指定された場所へと集まった。

 

「空中から一周したが、周囲や屋上に人影は無い」

 

 糸成3号(偵察ヘリ)を回収したイトナが言う。建物はそんなに大きなものではない。手下がいたとしても、少人数だろうと速水が言った。

 

「それと、花束に盗聴器を仕込む必要があったって事は、逆に考えるとその直前のE組(こっち)の情報には詳しくない確率が高いって事」

「いいか皆。この超体育着や……皆がそれぞれ殺せんせーを殺す為に開発した武器。敵がどんだけ情報通でも……俺達の全てを知る事はまず不可能。それがこっちの強みだ。大人しく捕まりに来たフリをして……スキを見てビッチ先生を見つけて救出。全員揃って脱出する!!」

「律。12時を過ぎて戻らなければ殺せんせーに事情を話して」

「はい。皆さん、どうかご無事で」

「……行くぞ!」

 

 そう上手く行けばいいが。それに、棗はE組の中でも戦闘力が低い。暗殺に特化した道具を作る知識も無いし、暗殺には今でもそこまで興味が湧かない。普段は皆に合わせて集団暗殺には参加しているが、今回ばかりはとんでもない足手まといになりそうな予感しかしない。なんと言うか……真っ先に捕まってしまいそうだ。

 ガゴン……と扉を開く音が鳴り響く。建物の中は嫌に広い。

 

『全員来たね。それじゃ閉めるよ』

 

 どこからか声が聞こえる。スピーカーと監視カメラがあるらしい。場違いな事を考えるが、何だかバラエティ番組だったり、デスゲーム系の映画みたいな感じがする。

 

「……ふん。やっぱりこっちの動きは分かるんだ。死神ってより覗き魔だね」

『皆そろってカッコいい服を着てるね。スキあらば一戦交えるつもりかい?』

「クラス全員で来る約束は守ったでしょ。ビッチ先生さえ返してくれればそれで終わりよ」

『……ふむふむ。部屋の端々に散っている油断の無さ。よく出来ている』

 

 ガゴッと大きな音がして、()()()()()()()()()()()()()()()に襲われる。それもその筈だ。()()()()が下へ降りているのだから。

 

「捕獲完了。予想外だろ?」

 

 部屋が辿り着いた先には、死神の姿。その後ろには、縛られたイリーナの姿があった。

 

「お察しと思うが、君達全員あのタコを誘き寄せる人質になってもらうよ。大丈夫、奴が大人しく来れば誰も殺らない」

 

 これだけぶっ飛んでいるのだから、本当かどうか疑ってしまう。そう、棗ですら疑う程、死神は胡散臭い。目の前にいる相手を胡散臭いだなんて思ったのは、棗にとって初めての事である。

 

「……本当?ビッチ先生も今は殺すつもりは無いの?」

 

 片岡が死神に問いかけた。クラスメイト達の数人はガンガンと壁を叩いたり殴ったりしている。棗は黙って死神の言葉を聞いていた。

 

「人質は多い方がいい。奴を確実に狩り場に引き込む為に……場合によっては大量の見せしめがいる。交渉次第では……30人近く()()()命が欲しい所だ」

「……!!」

「でも今は殺さない。本当だな?」

「ああ」

「俺達がアンタに反抗的な態度取ったら……頭に来て殺したりは?」

 

 岡島がびくびく震えながら、死神に質問を投げかけた。死神は相変わらず不気味なくらい穏やかな笑顔で答える。

 

「しないよ。子供だからってビビり過ぎだろ」

「いや、ちょっぴり安心した」

「ここだ竹林!!空間のある音がした!!」

 

 三村が叫び、竹林が取り出したのは、指向性爆薬。そして、奥田がカプセル煙幕を床へ投げつける。そうして破壊した壁から、生徒達は一斉に逃走する。

 

「いいね。そう来なくちゃ!」

 

 死神はまるで新しい玩具を見つけた子供のような笑顔を見せた。そして、煙幕が消えた部屋の中に、一人だけ残っている人物がいる事に気がつく。

 

「……ん?あれ、君は……確か歌川棗さん、だっけ。皆逃げたのに、君は逃げないの?」

 

 棗は独断でその場に留まることを選んだ。

 

「作戦は乱しちゃうし、迷惑かけちゃうかもしれないけど。多分一緒に行く方が足手まといかなと思って、独断で残りました。最初の頃に比べたら人並みに運動出来るようになったけど、私元々運動音痴だから、他の皆と比べると全然動けないんですよね……」

「まぁ、そういう情報も知ってるけど」

「あ、そうなんですね。なんか凄いな〜……というか、E組の子達含め周りには凄い人がいっぱいいるなぁ〜……」

「緊張感がないね、君」

「死ぬのは怖いけど〜、泣いて叫んで喚き散らしたところでどうにもならんし。ここはもう、開き直るしかないかと」

「君達は、一致した巨大な目標と、学校内差別の苦い経験を共有しているからこそ、結束が非常に高いようだね」

「そうですねぇ」

 

 棗はただ一人、暗殺を目標としていない。学校内差別に関しては、全く持って気にしていないし、興味が無い。改めて自分はE組の中でも異質なのだなと思うが、まぁそれも個性だ。

 ほんの少しだけ会話のラリーを交わした後、死神は端末を取り出して、それに向かって話し始めた。

 

「聞こえるかな、E組の皆。君達がいるのは閉ざされた地下空間だ。外に通じる出口には全て電子ロックがかかっている。ロックを解く(キー)は……僕の眼球の虹彩認証のみ。つまり君達がここを出るには……僕を倒して電子ロックを開かせる他ないって事だ」

 

 話し続ける死神をぼんやりと見つめながら思う。

 この人は何の為に殺し屋をしているのだろう。生きる為だろうか。殺せんせーを狙う理由も、そういう事なのだろうか。棗には全く想像にすら及ばない理由かもしれない。何だか、興味がある。目の前にいる、ファンタジー的存在に。こんな杞憂な人物だ、生きて帰る事が出来れば、創作のネタになったりするかもしれない。

 

「実はね、竹林君の爆薬で君達が逃げて嬉しかったよ。これだけの人数の訓練を積んだ殺し屋達を……一度に相手に出来る機会は滅多に無い。人質にするだけじゃ勿体ない。未知の大物の前の肩慣らしだ。君達全員に……僕の技術(スキル)を高める相手をしてもらう。期待してるよ。どこからでも殺しにおいで。……じゃ」

 

 そう言って死神は通信を切った。

 

「あ、行くんですか。もう少し話してみたかったのに」

「時間稼ぎでもするつもりだった?そんな事した所で無駄だけど」

「え、そんな高度な事私に出来ると思ってるんですか???」

「……うーん。正直思わないね。君は駆け引きが得意なタイプでは無さそうだし。あと、相手を信じようとするタイプでしょ」

「確かに他人を疑うのはあんまり得意じゃないですけど」

「じゃあ、一体何の目的があって僕と会話がしたいんだい?」

「興味です。空想(ファンタジー)の登場人物っぽいから」

「……ふーん。君って変わってるってよく言われるでしょ」

「言われます」

「何故決め顔なんだい。……まぁ、いいや。取り敢えず、今は君とゆっくり話している時間は無いから」

「……皆は手強いですし、殺せんせーや烏間先生だって死神さんが想像してる以上に凄い人だと思いますよ。死神さんも凄い人だから、皆も凄く手古摺るかもしれないけど……最後に勝つのは皆だって、私は信じてます。勝手にここに留まっておいて、どの立場から物を言ってんだ〜って話ですけどね」

 

 死神は何も答えずに去ってしまった。一人、広い部屋に取り残される。暫くはこの状態が続くだろう。

 

「……支部とかアニメとか見れたらいいのになぁ〜……暇過ぎる」

 

 勝手な事をしておいてそう思うのも良くないかもしれないが、暇なものは暇だった。

 

「イリーナ先生、起きて話し相手になってくれないかな〜……久しぶりにイリーナ先生と話したいし」

 

 しかし、縛られているイリーナの瞼が開く兆しは一向に無い。歌でも歌って気分を紛らわそうかと考え、暫く歌い続けた。何曲目かに差し掛かった時、イリーナのいる場所の扉が爆発音と共に破壊された。

 

「ビッチ先生!!」

 

 入って来たのは、片岡達だ。周りを警戒しながら、イリーナへ近寄る。

 

「って、歌川!お前、やっぱ逃げてなかったのかよ。何やってんだよ、マジで!」

 

 檻の向こうにいる棗に、岡島が話しかけて来た。

 

「いや……うん。ホントスマン……一緒にいた方が足手まといになりそうだったからさ……」

「もー!棗ちゃん、心配したんだよ!」

「ゴメンナサイ……」

「歌川さんの事はまた後で助けに行く。取り敢えず、今はビッチ先生を連れて、まず寺坂のC班と合流しよう。協力してA班を救出しつつ……『死神』が来たらぶっ飛ばす!ビッチ先生と杉野を守りながら……岡島君と三村君が先導、私が後衛!!敵が一人なら充分渡り合える!!」

 

 杉野がイリーナを背負い、その前を岡島達が、後ろを片岡が歩く。その背中を眺めていたら……背負われたイリーナが、突然片岡と杉野を気絶させた。

 

「……え、何事??」

 

 ドサリと倒れ込む二人と、佇むイリーナ。驚愕するその他。

 

「……フー……六ヶ月くらい眠ってたわ。自分の本来の姿も忘れて」

 

 イリーナが口を開いた。

 

「目が覚めたの。死神(カレ)のお陰よ」

 

 彼女が手に持っているのは、ピストル型の注射器だった。恐らくそれで二人の気を失わせたのだろう。

 

「……さて。逝かせてあげるわ、ボーヤ達」

 

 イリーナは、最初に出会った頃のような表情を浮かべている。

 

「ビッチ先生……」

「本気なの?」

 

 矢田と倉橋が、ショックを受けたように言う。実際、ショックは大きいだろう。あれだけ仲良くなったのだから。棗だって、夢かと思った。

 

「あんた達と可能性の見えない暗殺を続けるより……確率の高い奴と組む。悪いわね。商売敵は黙らせろってカレが言うのよ」

「ビッチ先生……そんな人だと思わなかったよ」

「こんな人よ。どんな人だと思ってたわけ?」

「え……いや……身勝手で……欲望に弱くて……男がいないと性欲で前身が爆裂して死ぬ。あ、割とこんな人か」

 

 中村の言っている事が一々酷すぎる。イリーナも、「恐い設定付け足すな!!」と普段の調子でツッコんでいた。

 

「な、……なぁ、ビッチ先生。『死神』の手先になってたのはショックだけどよ」

「その……今から一人で俺等を相手にするつもり?一応俺等も毎日訓練積んでるし……」

「先生一人じゃ……もう勝負にならないと思うよ」

 

 岡島達の言葉にクス、と笑う。

 

「なら……最後の授業をしてあげるわ、ガキ共」

 

 ゆら……と歩みを進めてくる。そして……

 

「あっ()うっ!!」

 

と叫びながらその場に蹲ってしまった。「ハダシで石踏んだ……」と言う彼女に、一瞬目が点になった生徒達だが、心配して駆け寄ろうとする。そしてその隙を見たイリーナが、流れるように三村と矢田に注射器を打った。

 

「え……」

 

 よろめきながら、今度は岡島と中村に打つ。最後に、神崎と速水に注射器を打った。これで全滅だ。

 

「ず……ずりぃ……」

「弱ったフリするなんて……一瞬心配しちゃったじゃん……」

「訓練には無かったでしょ、こんな動き。訓練が良くても結果が出せなきゃ意味無いの。手段はどうあれ、私はこの場で結果を出し、あんた達は出せなかった。経験の差よ。修羅場を踏んだ数が違うと心得なさい」

 

 これがプロか……と不謹慎にも感心してしまう程、イリーナは手際が良かった。そして、全員ドサリと倒れ込み、眠るように気を失ってしまう。

 

「……なんだ、君一人に負けちゃったか」

 

 いつの間にか、死神が戻って来たようだ。

 

「あんたの言った通りだったわ。やっぱりこの子達とは組む価値が無い」

「そういう事。世界が違う。この子達が透明な空気を吸ってる間……僕等は血煙を吸って生きて来たんだ」

 

 確かに、彼等は棗の想像を絶するような世界で生きて来たのだろう。ぬくぬくと平和な環境で育った棗達が何を言ったところで、それら全て綺麗事になってしまうかもしれないが、思う。簡単な事では無いかもしれないが、生き方を変えられるかどうかはその人生を歩む当人の気持ちや行動次第なのでは、と。

 

「だが、それにしてもあっけない。もう少し戦術や用意があるものとわくわくしていたんだが……」

 

 死神はそう言いながら再び去って行った。残りの生徒の元へ向かったのだろう。

 

「イリーナ先生おはようございます。元気にしてましたか?」

「……あんた、緊張感ないわね」

「開き直ってるだけです。あ、でも、イリーナ先生の事心配してたのは本気ですよ!イリーナ先生、本当に戻って来ないんですか?」

「言ったでしょ。あんた達と私じゃ、生きて来た世界が違うのよ」

「え、でも、イリーナ先生だってE組で過ごした時間があるし、ほんの少しだけ重なってた部分あるじゃないですか。イリーナ先生はその間、どう思ってたんですか?楽しいとか思った事一度もないんですか?皆の事嫌いですか?確かに殺し屋の仕事で教師をやってるだけかもしれないけど、その時イリーナ先生が感じた感情が真実だと思いますけど。その時感じた事は、今どう足掻いて誤魔化しても嘘にはならないですよ」

「あんた、私が本気で楽しんで先生やってたとか思ってるわけ?」

「はい!私、イリーナ先生大好きなんで!イリーナ先生がどう言おうと、私はイリーナ先生の事勝手に信じ続けます!これは決定事項です」

「……好き勝手言ってくれるわね」

「はい、好き勝手言います。私は卒業までイリーナ先生と皆で過ごしたいんで!」

 

 棗の言葉に、イリーナはそれ以上返す事は無く、ただ何も言わずに棗を見つめていた。




殺せんせーみたいな漫画のキャラ的なのが目の前にいて、防衛省の職員がたくさんいて、「暗殺して欲しい」とか言われるの現実味が無さすぎて普通は「なんかファンタジーの世界生きてるみたいだー」って感覚になりそうなもんです。
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