【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

38 / 59
死神其の四

 監視モニターには、烏間とイリーナの攻防が映し出されている。

 

「……イリーナ先生」

 

 烏間なら、きっとイリーナを助けられると信じている。イリーナは戻って来る、必ず。そう信じる。信じたい。そう思いながら、棗はただ静かにモニターを眺めていた。

 

「……!!」

 

 爆音と共に、モニターの中で天井が崩れていくのが見える。

 

「烏間先生!!モニター見てたら爆発したように見えましたが、大丈夫ですか!?イリーナ先生も!!」

 

 殺せんせーがトランシーバーに向かって語りかけた。

 

『……。俺はいいが、あいつは瓦礫の下敷きだ』

「!!」

『……だが、構っているヒマはない。道を塞ぐ瓦礫を退かして「死神」追う』

 

 烏間は棗達生徒を優先して、先へ進もうとする。それを止めたのは、倉橋だった。

 

「どーして助けないの烏間先生!!」

『……。倉橋さん。彼女なりに結果を求めて「死神」と組んだ。……その結果だ。責めもしないし助けもしない。一人前のプロならば自己責任だ』

「プロだとかどーでもいーよ!!15の私がなんだけど……ビッチ先生まだ20歳だよ!?」

「うん。経験豊富な大人なのに、ちょいちょい私達より子供っぽいよね」

「多分……安心の無い環境の中で育ったから。ビッチ先生はさ、大人になる途中で……大人のカケラをいくつか拾い忘れたんだよ」

『……』

「助けてあげて、烏間先生。私達生徒が間違えた時も許してくれるように、ビッチ先生の事も」

 

 矢田が言う。

 

「そうですよ、烏間先生。私達の事を思ってくれるなら、私達が大好きなイリーナ先生の事も助けてあげてください!」

 

 棗も、同調した。

 

『……時間のロスで君等が死ぬぞ』

「大丈夫!『死神』は多分目的を果たせずに戻って来ます。だから、烏間先生は()()にいて」

 

 磯貝がそう伝えた。これより、三村の考えた作戦を開始する。その作戦は……迷彩で壁に擬態する事だ。この超体育着の機能を活かす作戦である。

 三村の作戦通り、焦った死神が外した首輪を爆破した。

 

「マジで使えるよ、超体育着の暗殺迷彩。カベの色そっくりに変えれるぜ」

「カメラに衣装、まるで映像作品の段取りだったね」

「三村こーいうの好きだよね。で、殺せんせーは?」

「先生はフツーに保護色になれるから、俺等の隙間を自然に埋めてる」

「……てことは今素っ裸なんだよね」

「赤くなんなよ、バレるから」

 

 貴重な殺せんせーの裸だが、壁に張りついているので見る事が出来ない。彼の身体は一体どんな風になっているのだろうか。

 すると、モニター越しに何かが水に落ちるのが見えた。

 

「上からの立坑ですねぇ。そして……烏間先生!!……そして『死神』!!」

 

 殺せんせーがにょーんと目を伸ばして、実況を始める。

 

「『死神』がナイフを……あっ違う次はワイヤーだ!!烏間先生これをっ……おおスゴい、避けざまに返しの肘っ……あっダメだナイフを盾に……それを見て瞬時に蹴りに変えたけど……えーと、えーと、ど、同時!!なんか……なんかすごい闘いだーーーー!!」

 

 情景は全く浮かばないが、とにかく凄い闘いが繰り広げられている事は伝わって来る実況だ。

 

「何言ってるかサッパリだよ殺せんせー!!」

「分かるように説明しろよ!!」

「にゅやッ!?」

 

 クラスメイト達からは不評である。

 

「心配せずとも、そう簡単に烏間先生は殺られません。『死神』の持つ技術(スキル)は確かに多彩。しかも全ての技術(スキル)が恐ろしく高度。いくら警戒しても彼の前では裏をかかれる。だから烏間先生は……敢えて接近戦に持ち込んだ。場所も……水とコンクリだけのシンプルな舞台。罠を仕込むヒマもない通常戦闘なら、烏間先生の技術(スキル)レベルは『死神』以上。烏間先生にイリーナ先生。彼等のようなエキスパートが君達を教えているからこそ……先生も退屈せずに殺される日々を送れるのです。ただ……心配なのは、『死神』はこんな状況でも、秘密兵器を隠し持っているだろう事」

 

 繰り広げられる壮絶な闘い。凄いな〜…とぼんやり思いながら、静かに見入る。

 暫しの攻防を繰り広げ、死神は一輪の薔薇を投げた。指をピストルの形にして、何かを放つ。何かを放ったのかすら、分からないが。最早ス○ンド能力の域なのでは……?と棗は思った。

 烏間が胸から赤い液体を流し倒れ込む。

 

 しかし……烏間から流れる()()は、()()()()()()。殺せんせーの触手が烏間の肌の色に擬態し、彼の摂取したトマトジュースが触手の先から放たれていたのだ。

 

「この短時間で脱出するのは難しいですが……触手一本ならギリギリ外に出せます」

「殺せんせー、トマトジュース飲むっけ?」

「あまり好きじゃないですが。烏間先生とこのアジトへ向かう途中に買いました。必要になると思いまして」

 

 トマトジュースが必要になるタイミングとは。……今か。

 烏間の拳が、死神の股間に命中する。死神はその壮絶な痛みに、股間を押えて悶えていた。彼も男という事らしい。何だか締まりが無い。

 烏間のトドメの一撃が決まり、死神はついに再起不能となった。

 

「全生徒と全先生。クラス皆で掴んだ勝利ですねぇ」

 

 正直棗は勝手にその場に留まったり、時間稼ぎを試みるも失敗に終わったり……役に立てた気がしないが。

 暫くして、烏間が端末をもって殺せんせーと生徒達が閉じ込められている檻のある部屋へ戻って来た。

 

「ぬぬ……ぐっ……何とか……何とか手は無いものか……」

 

 そう唸っている。殺せんせー()()を閉じ込めたまま殺す方法が無いかを考えているのだろう。

 

「考えても無駄ですねぇ、烏間先生」

 

 プークスクス、と殺せんせーは笑っている。

 

「出ようと思えば出れるんです、こんな檻。マッハまで加速して壁に何度も体当たりしたり、音波放射でコンクリートを脆くしたりね。ただ、それはどれも一緒にいる生徒にとても大きな負担をかける。だから貴方に『死神(かれ)』を倒してもらったんです」

「……。驚異的な技術(スキル)を持つ男だったが……技術(スキル)を過信し過ぎていた。人間としてどこか幼かった。だから隙もあった」

「そーいう意味じゃビッチ先生と同じかもね〜」

「心の成長が、どこかで止まっちゃったのかもね」

 

 虐待を受けた子供の脳は萎縮すると聞いた事がある。彼がどんな虐待を受けていたかは分からない。横暴な性格の両親だと言っていた。手を出されていてもおかしくは無いし、手を出されていなくとも、愛情を貰えなかったのは確かだろう。

 

「……けどよ。なんでここまで……顔潰してまで技術(スキル)を求める心理がわかんねーよ」

 

 吉田が言う。何やかんや真っ当に生きている棗達には、当然理解出来ぬ感覚である事は間違いない。理解出来ないし、理解しようとも思わない。一生理解出来なくていい感覚なのだ、きっと。

 

「幼い頃の経験だそうだ。殺し屋の高度な技術(スキル)を目の当たりにして……ガラリと意識が変わってしまったらしい」

「……。影響を与えた者が愚かだったのです。これほどの才能ならば……本来もっと正しい道で技術(スキル)を使えた筈なのに」

「人間を活かすも殺すも……周囲の世界と人間次第……か」

「そういう事です」

 

 ポン、と渚の頭に手を添える殺せんせー。取り巻く環境は、その人間の有り様(生き方)や人格に大きく影響を与えるものだ。それは何となく理解出来る。今の自分を形成するものは、家族や友人、過去の出来事なのだから。

 全てが終わり、ほっと胸を撫で下ろすと、背後からコツンと乾いた音が聴こえた。振り向けば、イリーナが抜き足差し足忍び足……と去って行こうとするところで。

 

「てめービッチ!!」

「なに逃げよーとしてんだコラ!!」

「ひぃぃ、耳のいい子達だこと!!」

 

 イリーナは吉田と村松の手によって呆気なく捕獲された。

 

 (皆元気だな〜)

 

「あーもー、好きなようにすりゃいいわ!!裏切ったんだから制裁受けてトーゼンよ!!男子は溜まりまくった日頃の獣欲を!!女子は私の美貌への日頃の嫉妬を!!思う存分性的な暴力で発散すればいいじゃない!!」

「発想が荒んでんなー」

「それ聞いて寧ろやりたくなってきたわ」

 

 女子も……ということは、レズ凌辱的展開ということだろうか。複数人という事は輪姦?AVやエロ同人誌のようなシチュエーション過ぎる。

 

「いーから普段通りに来いよ学校。何日もバッくれてねーでよ」

「続き気になってたんだよね。アラブの王族誑かして戦争寸前まで行った話」

 

 何なんだその物騒な話は。

 

「来ないなら先生に借りてた花男の(フランス)語版借りパクしちゃうよ」

 

 それは普通に窃盗罪だ。

 

「…………。殺す直前まで行ったのよ、あんた達の事」

「おう」

「過去に色々ヤッて来たのよ、あんた達が引くような事」

「何か問題でも?裏切ったりヤバい事したり、それでこそのビッチじゃないか」

「今も過去も全部ひっくるめてのイリーナ先生ですよ。私達皆イリーナ先生の事大好きだから、戻って来てくれないと寂しいですよ〜」

「たかがビッチと学校生活楽しめないで……うちら何のために殺し屋兼中学生やってんのよ」

 

 皆、笑顔でイリーナを迎え入れる。イリーナも、E組には欠かせない一員だ。イリーナがいてこそのE組なのだ。

 

「そういう事だ」

 

 烏間が、一輪の薔薇を差し出す。先程死神が投げていたものだろうか。

 

「その花は、生徒達からの借り物じゃない。俺の意志で敵を倒して得たものだ。誕生日は、()()ならいいか?」

「……はい」

 

 イリーナは、とても嬉しそうだ。歳相応の、かわいらしい笑顔に見える。

 

 (イリーナ先生かわいいし、髪下ろした烏間先生はカッコいいし、尊過ぎだなこりゃ)

 

「……ただし烏間先生。いやらしい展開に入る前に一言あります」

「断じて入らんが、言ってみろ」

 

 殺せんせーは、生徒全員の頭にペタリと触手を乗っけて言う。

 

「今後……このような危険に生徒を決して巻き込みたくない。安心して殺し殺される事が出来る環境作りを……防衛省(あなたがた)に強く要求します」

「……わかってる。打つ手は考えてある」

 

 確かに、ここまで危険な目に遭うのは御免被りたい。そんなわけで、E組からの要求書を書く事が決まった。

 

「……歌川さん」

「えっ?あ、はい」

 

 烏間が、棗に声を掛けてきた。普段話しかける事も話しかけられる事も少ないので、変な感じだ。

 

「君の言う通りだったな」

「?」

「初めから……俺がきちんと考えて渡せば、イリーナの事も、君達の事も、危険な目に遭わせずに済んだかも知れない」

「……あぁ。でも、たられば言ったところで、もう終わりましたし。皆無事だったし、最終的にイリーナ先生喜んでるみたいだし。結果オーライですよ。気にしなくていいと思います」

「そうか」

 

 烏間は一言そう言って、微笑を浮かべた。

 

 (無理な笑顔を浮かべるより、満面の笑みじゃなくても今みたいな自然な笑顔が一番烏間先生に似合うよなぁ)

 

 棗も、吊られてにっこりと笑顔になった。

 

「あー、棗ちゃん烏間先生と何話してるの〜!?」

「ビッチ先生といい雰囲気だったのに〜!!ほら、ビッチ先生に譲って!!」

「あ、うん」

 

 ともあれ、イリーナが帰って来た。また、いつも通りの騒がしい日々が戻って来そうだ。

 




書き忘れていましたが、烏間先生との仲良し度は★です。
今回話しかけに行ったのも、話しかけられたのも珍しいケース。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。