【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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学園祭

 11月も半ばに差し掛かり、学園祭が近づく。

 E組でも、何をするか、皆で話し合いを進めていた。何でも、本校舎は3-A対3-Eの対決の話でやたら盛り上がっているのだとか。勝てないまでも、何かE組はやるのではないかと。

 殺せんせーは「勝ちに行くしかないでしょう」と言い、くるりと振り返った。何故か口から鼻から団子が生えている。流石に目から生えているとは思えないので、恐らく鼻の穴だと思われる。

 

「今までもA組をライバルに勝負する事で、より君達は成長してきた。この対決、暗殺と勉強以外のひとつの集大成になりそうです」

「……集大成?」

「そう。君達がここでやってきた事が正しければ……必ず勝機は見えてきます」

「……つったって、勝つ方法はよ」

「店系は300円まで。イベント系は600円までが単価の上限って決められてる。材料費300円以下のチープな飯食べに……誰が1kmの山道登って来るかしら」

 

 ちなみに杉野の話によれば、学秀は飲食店等とスポンサー契約したらしい。

 

 (浅野くんってつくづくファンタジーな存在やな)

 

「浅野君は正しい。必要なのはお得感です。安い予算でそれ以上の価値を産み出せれば客は来ます。E組におけるその価値とは……例えばこれ」

 

 殺せんせーが取り出したのはどんぐりだ。

 

「裏山にいくらでも落ちています。色々種類はありますが……身が大きくアクの少ないマテバシイが最適です。皆で拾って来て下さい。君達の機動力なら一時間あれば山中から集めて来れる筈です」

 

 そうして集めた山のようなどんぐりを水に漬け、浮いたものは捨て、殻を割って渋皮を除き、中身を荒めに砕く。それを布袋に入れ、川の水にさらして一週間程アクを抜く。その後は3日程校庭で天日干しし、更に細かくひいてどんぐり粉が完成した。

 

「これが小麦粉の代わりに使えます。客を呼べる食べ物と言えばラーメン!!これを使ってラーメンを作りませんか」

「ラーメン……だと?」

「ラーメン!美味しそう!」

 

 村松がペロリと粉を舐める。

 

「……ちょい厳しいな。味も香りも面白ぇけど、粘りが足りねー。滑らかな食感をこの粉で出すには大量の『つなぎ』が必要だから……結局その分材料費かかるぜ」

 

 流石ラーメン屋の子息だ。詳しい。

 

()()()()()()()。このツル。()()()という小さなジャガイモみたいなのが目印です。この根元を慎重に掘っていくと……」

 

 土の中から出て来たのは、長い芋。とろろ芋のようなそれは……

 

「え、これ自然薯じゃね??」

「ええ、そうです。天然物は店で買えば数千円します。とろろにすると香りも粘りも栽培物とは段違い。つなぎとして申し分ないでしょう」

 

 何ならとろろ丼にして食べたいくらいである。

 

「自然の山にはどこにでも生えている。標的を捕える時の観察眼でこのツルを探しましょう」

 

 この旧校舎のある山奥に生息する食材達。これこそ、E組ならではの最大の武器だ。村松は、これら食材の香りを活かすには濃いつけ汁の方がいいと考え、つけ麺へ変更する。スープが少なく済む分、利益率も高くなるとの事だ。

 他にも、川の魚や木の実など、たくさんの食材が集まる。中には松茸もあった。E組は、これらの食材をふんだんに使った料理の飲食店を出す事が決定。

 

「殺すつもりで売りましょう。山の幸(君達)の数々の刃を!!」

 こうして11月中旬の土日、学園祭戦争が幕を開けるのであった。

 


 

 当日の棗の役割は、客寄せ係だった。棗的には入れ替わり立ち代わりの激しい不特定多数の相手とのコミュニケーションは苦手である為、出来れば洗い物などに撤したいところではあったが……

 

「まぁ、歌川さんひとりじゃなくて矢田も一緒だし、大丈夫だよ」

 

ということなので、頑張ってみることにしたのである。

 

「この先かヨ。あいつらの店」

「なんだ、どんぐりつけ麺って。初めて聞くぞ」

 

 見るからに怖そうな不良集団が、E組の看板を見て言う。

 

「名前の通り、どんぐりで出来たつけ麺です。山の天然食材をふんだんに使った新食感なの。多分日本で食べれるのここだけだよ。先輩さん達みたいな価値を知ってる大人でも……初めての美味しさだと思いますよ!!」

 

 矢田は大勢相手にも物怖じせず、持ち前のコミュ力でスムーズに対応していた。しかも、宣伝の仕方も客が惹き付けられるような魅力的なものだ。レベルが違う。

 

 (トーカちゃんすごい……コミュ力の塊……)

 

「サイドメニューも豊富じゃねーか」

「聞いてて腹減って来たぜ」

「おい!目的忘れんじゃねー。……山の上だと冷蔵庫とかもロクにねーだろ。衛生面とかどーなのかねぇ」

「その点は大丈夫ですよ!デリケートな食材は注文を受けてから山に入って獲って来れるし、ここで注文してくれたら、山の上につく頃には獲れたて新鮮なものが食べられる仕組みになってるんです」

 

 今対応している絵に描いたような不良の姿に、怖い、よりも本当に存在するんだ……という気持ちを強く感じる。

 

「足腰弱い人は中腹まで送るけど……先輩さん達強そうだし余裕ですよね!!」

「興味があったら、是非寄って行ってくださると嬉しいです」

「へぇ……」

 

 不良たちは、受け取ったチラシを一瞥しそのまま山の方へ向かって行った。

 

「うーん、なんか絵に描いたような不良さんたちだった」

「そうだね〜。でも、美味しく食べてくれるといいよね」

「うん。でも、大丈夫だと思う!こんなの他にないし、味もめっちゃ美味しかったし!私ももう一回食べたいなぁ……」

 

 棗も学園祭の前に試作段階のつけ麺を何度か試食させてもらったりしていた。語彙力がないので上手く説明することは出来ないが、とても美味しかったということだけ言える。

 

「棗ちゃん凄く美味しそうに試食してたよねぇ」

「食べるの好きやもん。ご飯系は基本何でも好き」

「そうなんだ」

「ただ残念なのは、我々が本校舎への立ち入りが出来ないことだ……」

「まぁ、仕方ないよ」

 

 基本的に本校舎に立ち寄れないだとかそういう校則に関しては大きなデメリットは感じていないが、学園祭に関しては少し考えものであった。

 

「他のクラスも回りたい……飲食系は他にもいっぱいあるし……オーソドックスな飲食系でも美味しいものは美味しいから食べたい……」

 

 たこ焼きに焼きそばに、サンドイッチ……学園祭では、様々な飲食系の出店がある。

 

「食べ物のことで頭がいっぱいだ……あ、A組のライブステージとかには興味ないの?浅野君のクラスじゃん。噂だと五英傑でバンドするって噂聞いたよ。浅野君はギターボーカルだって」

「浅野くんすごいねぇ」

 

 確かに学秀たちがバンドを組んで演奏しているところは少し気になる。ドリンクセットもあるようだし、楽しいのかもしれない。本校舎には立ち入れないが。いや、体育館とかならワンチャン行けるのだろうか。

 

「棗ちゃん、浅野君と仲良いでしょ。やっぱり行きたいんじゃない?」

「そうだねぇ、浅野くんとはこうやって本校舎近くまで来ないと中々お話出来んしね〜。連絡先持ってないんよな〜」

「…………えっ!?!?」

「おっ?」

 

 矢田が驚愕の声をあげ、棗もそれに釣られて驚いてしまった。矢田は、会えば話をするというのに未だ連絡先を交換していないというここに来てまさかの衝撃の事実に驚いているのだ。

 

「えっ、ちょっと待って……連絡先交換してないの……!?う、嘘でしょ!?」

「だってタイミングが……」

「顔を合わせたタイミングでいいじゃん!!」

「自分から『ちょうだ〜い』って言うのなんかこう、迷惑じゃないかな〜って……」

 

 会えば話しかける癖に、変なところを気にする棗に苦笑いを浮かべる矢田。

 

「棗ちゃんって喋るタイプのコミュ症だよね……」

「その通り過ぎて返す言葉もねぇぜ……」

「普通に『交換しよ〜』って言えば、棗ちゃん相手なら交換してくれるんじゃないかな」

「そーなのかな〜」

「だって浅野君って何だかんだで棗ちゃんに甘いでしょ」

「甘い……のか?優しい子だとは思うけどそこまではわからん……」

 

 学秀は口振りは素っ気ないが、嫌な顔はせずに普通に会話を交わしてくれる。旧校舎へ戻る際には「気をつけるんだぞ」と声をかけてくれるし、いい子である事は間違いない。

 

「……棗ちゃんって意外と罪な子だよねぇ」

「……ドユコト??」

 

 言われたことの意味が全く分からず、疑問符が浮かぶばかりだ。矢田は「なんでもないよ、気にしないで」と言ってから再び集客のため声を上げ始める。気にしないでと言われたら気になるが、それも長くは続かず、まぁいいやと棗も客寄せに戻る。

 

 初日の今日、特にトラブルなく一日の仕事を終えた。

 

「初日無事終わったね〜」

「だね〜。うーん、やっぱ改めてトーカちゃんと二人で宣伝係になるとは思わんかったな〜……」

 

 矢田はスタイルもE組一よく、またコミュニケーション能力の高さ故か程よい距離感を保ってくれる子なので、棗にとってはふたつの意味で癒し要員である。こうやって二人だけで行動するというのは初めてだが、非常に楽しいと思えた。

 

「私も、棗ちゃんと二人っていうの初めてな気がする〜」

「ぶっちゃけ私要らんのでは……?って思うくらいトーカちゃんのコミュスキルがカンストしてて……『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな』案件だぜ」

「何その案件」

「わかる人にはわかるネタ……」

 

 ちなみに分からない人のために説明すると、これはコミカライズ版『仮面ラ○ダーBL○CK RX』の有名なコラ画像ネタである。

 

「私にはわかんなかったよ……ごめんね」

「わからないことも承知で言ったから気にせんで〜。私大体こんな感じだから〜」

「そっかー」

 

 そんな和やかな会話を交わしながら、そろそろ旧校舎へ戻ろうとしていたところに近づく影がひとつ。

 

「……歌川さん」

「あ」

「あれっ、浅野くんだ。初日お疲れ様やね!」

 

 声をかけてきたのは学秀だった。学秀は生徒会のリーダーでもあるし、A組のリーダーでもあり、ライブイベントを企画した張本人である。当然忙しくて会えない可能性の方が高いと思っていたが……

 

「ああ。君も」

 

 棗の労いの言葉に、学秀も若干微笑みながら返す。

 

「ゆーて私宣伝しかしてないけど……あっ、別に宣伝係を軽視してるわけじゃ決して無くてね!!」

「相変わらずだな君。そんな風に弁明しなくても僕も隣の彼女もそんなこと思わないから心配するな」

「浅野くん優しい……」

「…………はぁ」

 

 思わず出た言葉に、学秀が何拍か置いて溜め息を吐く。不機嫌そうな顔ではないので、機嫌を損ねたわけではないようである。

 そして棗は昼間に矢田と交わした会話を思い出した。

 

「…………はっ!そーだ!浅野くん!」

「今度はどうした」

「れ、連絡先ッ!!交換!!しよ!!!!」

 

 バッ!と勢いよくスマホを取り出す棗。

 

「いつになく勢いが凄いな……」

 

 勢いがいいのは緊張を紛らわすためである。

 

「え、えっと……だめ……かな……?」

 

 少し不安になった棗は、しおらしい態度で学秀の顔を見つめた。心做しか、学秀が小さく息を飲んで怯んでいるような気がして、矢田はその光景を静かに見守っていた。

 

「っ……その顔はやめろ……交換はしても構わないから……」

 

 やはり若干狼狽えている様子が見受けられて、矢田は珍しいものを見た、と思った。

 

「ホント!?ありがとっ、浅野くん!!」

 

 拒絶されなかったのが嬉しいのか、棗は満面の笑みを浮かべている。

 

「うぐっ……」

 

 今度はあからさまな反応を見せる学秀に、矢田はいよいよ確信を覚えていた。

 

「私たちこうやって話す仲になってもう半年経つのに、まだ交換してなかったんだ〜って感じだね〜」

「……そうだな」

「あ、なんか五英傑の皆とバンドしたってさっきトーカちゃんから聞いたよ。ギター弾く浅野くん絶対カッコいいよね!浅野くんってなんか存在がカッコいいし!」

 

 学秀は努力家で、色んなことを卒なくこなす。棗にとって、学秀は尊敬出来る格好いい人間の一人だ。勿論容姿もとても格好いいと思っている。

 

「っ……っ……!」

 

 何故か学秀は息を詰まらせている様子で、棗は思わず首を傾げながら問いかける。

 

「あれ?どした?もしかして調子悪いん?」

「っ、別に悪くない……」

 

 本人はそう言っているが、学園祭は明日もある。学秀はやることも多いだろうし、身体には気をつけて欲しいものである。

 

「そっか。まだ明日もあるし、お互いがんばろーね」

「そうだな」

「それじゃあ、またね!行こ、トーカちゃん!」

「……そうだねぇ」

 

 棗はくるり、と踵を返すと、旧校舎のある山の方へ向かって歩みを進めた。

 


 

 学園際二日目。

 E組が開店準備の為に旧校舎へ向かっていると、テレビ局が校舎の方へ向かって行くのが見えた。

 

「何撮るつもりだ?」

「この先にはE組しか……なんだこりゃ!?」

 

 見れば、長蛇の列。全てE組の開店待ちだ。

 

「昨日から今日でこの差は何?」

 

 確かに、昨日とは比べ物にならない数の客だ。一体何が起こったというのか。そこへ、駆け付けて来た不破が言うには、ネットで口コミが爆発的に広がっているとの事らしい。

 律が情報の発信源を探したところ、「法田ユウジ」という今一番勢いのあるグルメブロガーが自身のHP(ホームページ)に書き込んでいて、それが拡散されているようだ。この法田ユウジは、南の島で女装した渚に惚れ込んで、このE組まで来たのだとか。行動力の塊過ぎる。

 

「これは……私達、客引きするよりも店の方手伝った方が良さそうな感じだね」

 

 矢田が棗に話しかけて来た。「う、うん……」としか言えない。人気が出てくれる事は嬉しいが、これだけの人数を捌く事が出来るのか。果たして自分は戦力になれるのか。少し不安になった。

 そこからはもう、皆必死だ。注文が入る度に採って、作って、出して、また売っての繰り返し。知り合いや(ゆかり)があった者達が来るわ来るわで、遂にどんぐり麺の在庫が切れる寸前まで言っていた。

 

「予想以上に売れたからなー」

「でもA組はそれ以上に稼いでる筈」

「サイドメニューの山の幸も売れ行き良いよ。残り時間はこれでねばろーよ」

「もう少し山奥に足を伸ばせばまだ在庫は生えてるぜ」

 

 皆で後はどう凌ぐか、意見を出し合う。それを見ていた栗に扮した殺せんせーが、「ふーむ」と考え込み、

 

「……いや……ここいらで打ち止めにしましょう」

 

と言った。

 

「……!!でもそれじゃ勝てないよ」

「いいんです。これ以上採ると山の生態系を崩しかねない。植物も、鳥も、魚も、菌類も、節足動物も、哺乳類も、あらゆる生物の行動が『縁』となって恵みになる。この学園祭で実感してくれたでしょうか。君達がどれほど多くの『縁』に恵まれて来た事か」

 

 教わった者、助けられた者、迷惑をかけた者、かけられた者、ライバルとして互いに争い高め合った者達。全てが「縁」で結ばれているのだ。

 

「……あーあ。結局今日も授業が目的だったわけね」

 

 そもそもの話、体育祭や学園祭などと言った学校行事自体が、学びの一環である。

 

「くっそ、勝ちたかったけどなー」

「でも、頑張った成果は充分出たよ。勝っても負けても、この経験は無駄にはならないと思う」

「ええ、その通りです」

 

 学園祭の総合成績。E組は3位だった。A組は、高校の店を押さえ1位。やはり学秀の戦略は並大抵のものではない。

 そして……次に待つのは、いよいよ決戦。

 

 ──二学期末テストの時が、迫って来る。




彼女に他意など無い。
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