心菜ちゃんと果穂ちゃんに声がつくの楽しみですわ〜。
発表会が終わったあと、杉野はどこか落ち込んだ様子で机に突っ伏していた。
「しっかし杉野は熱演だったよなー」
「あんな邪悪な顔が出来るとはね」
確かに、杉野の演技は中々のものだった。意外な才能だ。
「神崎さんと共演出来るから力入り過ぎてよー。あんな顔したら嫌われるぜ逆によ」
杉野の演技は素晴らしかったし、神崎がそういう事で簡単に人を嫌う事などないと思うが。そう考えたところで、神崎本人が「そんな事ないよ杉野君」と否定した。
「演技力がある人ってカッコいいなって凄く思った」
「マ、マジで!?野球辞めて役者の道進もっかな〜」
寺坂から「ちょれーなコイツ」と突っ込まれる。全く持ってその通りである。野球が大好きな筈なのに、そんな事を言うとは……冗談ではあるのだろうけど。好きな人に褒められたら、冗談でもその人が褒めてくれた事をしてみようかと思う。それだけ好きという事なのだろうか。
「ピッチャーにだって演技力は要りますからねぇ。自分の生徒の意外な才能は嬉しいもんです」
殺せんせーは顎に手を当て頷いている。
入口近くにいた渚は、茅野に呼ばれてどこかへ行ってしまった。殺せんせーも、気づいてそれを追っていく。
教室に残っている生徒達は、冬休みの暗殺計画について話し合っていた。
別れの時期が、近づく。
これまで、色々な事があった。殺せんせーが突然やってきた時は、自分が二次元の世界にでも迷い込んだか、殺せんせーが二次元の世界から飛び出して来たのかと思った。でも、殺せんせーは人離れした見た目だけど、普通に良い先生だと感じてすぐに馴染んだ。律に、シロやイトナ、鷹岡、死神。色んなトラブルもあった。修学旅行、体育祭、文化祭。共に臨んだどの学校行事も楽しかった。わかばパークでの経験も、為になったと思う。
「お別れが近づいちゃうのは、寂しいなぁ……」
「歌さんは殺せんせーと普通の生徒と先生って感じだったからね。そういう気持ちの方が強いのかも」
竹林が眼鏡を指で持ちあげながら言う。
その時だった。ドゴォォ、と大きな音と共に、校舎全体が大きく揺れたのは。
何事かと、皆で外へ飛び出す。
「殺せんせー!今の音は……」
殺せんせーの元へ駆け寄る。そして、殺せんせーが見上げる先には。
「……か……」
「……茅野さん」
茅野だった。しかし、いつもと様子が全く違う。それより、何より。
「……何?その触手?」
彼女の首から生えているのは、紛れもなく触手だった。殺せんせーやイトナと同じもの。
「……あーあ。渾身の一撃だったのに。逃がすなんて甘過ぎだね。……私」
「……茅野さん。君は一体……」
「ごめんね。茅野カエデは本名じゃないの。雪村あぐりの妹。そう言ったら分かるでしょ?人殺し」
雪村あぐり。それは、転校生二人を除くE組生徒ならば、誰もが聞いた事のある名だった。前の担任だ。突然いなくなった。諸事情で退職したとしか聞いた事が無かったが……
「しくじっちゃったものは仕方ない。切り替えなきゃ。明日また殺るよ、殺せんせー。場所は直前に連絡する。触手を合わせて確信したよ。必ず殺れる。今の私なら」
茅野はそれだけ言い残して、どこかへと去ってしまった。その場に残された全員が、呆然とそれを見つめている。
「茅野……どうなってんだよ。ずっとあの触手生やしてたのか」
岡島が口を開くと、即座に「ありえない」というイトナの言葉が重なった。
「メンテもせずに触手なんか生やしてたら……地獄の苦しみが続いてた筈だ。脳みその中で棘だらけの虫がずっと暴れてる気分。表情にも出さず耐え切るなんてまず不可能だ」
それを実行するだけの覚悟と精神力、演技力があったという事だ。そりゃあわかばパークでの劇が上手いわけだ。
「しかも……雪村あぐりの妹……だって?」
「
突然の出来事に、言葉を発する生徒は少ない。
「……どっかで前に茅野を見た事あると思ってたんだ」
三村が思い出したかのように言い出す。
「……んー……?雪村先生とは似てなかったと思うけどな」
確かに、磯貝の言う通り、記憶しているあぐりの顔立ちと茅野の顔立ちはあまり似ていない。
「違うんだよ。キツめの表情と下ろした髪で思い出した。磨瀬榛名……って憶えてるか?どんな役でも軽々こなした天才子役。休業して結構経つし、髪型も雰囲気も全然違うから……気付かなかった」
三村に見せられた子役の画像は、確かにどことなく、先程の険しい表情の茅野に似ている。
「……言われてみれば確かに茅野だ」
「……すげえな。顔つきから雰囲気まで全然違う」
「この演技力じゃ、1年近くも正体隠していられるわけだ」
楽しく明るく、
「殺せんせー。茅野……先生の事人殺しって言ってたよ。なぁ……過去に何があったんだ?」
岡島の問いに、何も答えない殺せんせー。
棗は思い出す。茅野と初めて顔を合わせた日の事を。
──わー!私よりも小さい子がいる!ね、私茅野カエデ。あなたは?
──う、歌川棗です。えっと。
──棗ちゃんか!ちっちゃいもの同士仲良くしよーね!
「……」
「こんだけ長く信頼関係築いて来たから……もう先生をハナっから疑ったりはしないよ。でも、もう話してもらわなきゃ、殺せんせーの過去の事。でなきゃ、誰も今の状況に納得出来ない。そういう段階に来ちゃってんだよ」
暫しの沈黙が続く。
「……。わかりました。先生の……過去の全てをお話します。ですがその前に、茅野さんはE組の大事な生徒です。話すのは……クラス皆が揃ってからです」
その後、今夜7時に椚ヶ丘公園奥のすすき野原まで来るようにというメッセージが、殺せんせー宛に届いた。
メッセージの通り、棗達はその場所へと集う。
「来たね。じゃ、終わらそ!!」
満面の笑みを浮かべる茅野。その表情には、どこか狂気すら感じる。
「殺せんせーの名付け親は私だよ?ママが『滅ッ!!』してあげる」
「茅野さん。その触手はこれ以上使うのは危険過ぎます。今すぐ抜いて治療しないと命に関わる」
「え、何が?すこぶる快調だよ。ハッタリで動揺を狙うのやめてくれる?」
そうは言うが、イトナの事も目の当たりにしていて、自分の命に危険がないだなんて、聡明な彼女が理解していない筈はない。彼女はきっと、命の危険を理解して今此処に立っているのだ。
「……茅野。全部演技だったの?楽しい事、色々したのも。苦しい事、皆で乗り越えたのも」
渚の問いに返ってくるのは、残酷な答えで。
「演技だよ。これでも私役者でさ。渚が鷹岡先生にやられてる時、じれったくて参戦してやりたくなった。不良に襲われたり、死神に蹴られた時なんかは……ムカついて殺してやりたくなったよ。でも耐えて、ひ弱な女子を演じたよ。殺る前にバレたら……お姉ちゃんの仇が討てないからね」
「お姉ちゃん……雪村先生?」
「この怪物に殺されてさぞ無念だったろうな。教師の仕事が大好きだった。皆の事もちょっと聞いてたよ」
「……知ってるよ茅野。2年の3月……二週間ぽっちの付き合いだったけど、熱心ですごく良い先生だった」
「そんな雪村先生を、殺せんせーはいきなり殺すかな?そういう酷い事……俺等の前で一度もやった事ないじゃん」
竹林や杉野の言う通りだ。
「……ね。殺せんせーの話だけでも聞いてあげてよ、カエデちゃん」
「停学中の俺ん家まで訪ねるような先生だったよ。……けどさ、本当にこれでいいの?今茅野ちゃんがやってる事が……殺し屋として最適解だとは俺には思えない」
「体が熱くて首元だけ寒い筈だ。触手の移植者の代謝異常だ。その状態で戦うのは本気でヤバい」
ああ、そう言えばイトナもいつもタンクトップにファーという、薄着なのに首元だけ防寒しているような服装だった。あれはそういう事だったのか。
「熱と激痛でコントロールを失い、触手に生命力を吸い取られ、死……」
その瞬間、茅野の触手がゴウっと燃え上がった。
「……。うるさいね。部外者達は黙ってて」
炎がみるみるうちに乾燥した草へ燃え広がる。
「どんな弱点も欠点も磨き上げれば武器になる。そう教えてくれたのは先生だよ。体が熱くて仕方ないなら……もっともっと熱くして全部触手に集めればいい」
「……だめだ……それ以上は……!!」
「最っ高の
そうして殺せんせーと茅野の周りを囲うように炎が広がり、棗達を隔てる。炎のリング。殺せんせーの苦手な環境変化だ。
「全身が敏感になってるの。今ならどんなスキでも見逃さない」
「やめろ茅野!!こんなの違う!!僕も学習したんだよ!!自分の身を犠牲にして殺したって……後には何も残らないって!!」
「自分を犠牲にするつもりなんてないよ渚。ただコイツを殺すだけ。そうと決めたら一直線だから」
今の茅野には、誰のどんな言葉ももう届かない。目の前にいる彼女はもう、棗達の知る彼女ではない。
(全部、雪村あかりっていう女の子の一部ではあるんだろうけど)
そこからは壮絶な闘いが繰り広げられた。まるで映画でも見ているかのような、そんな感覚だった。
「イトナ。テメーから見てどーなんだ。茅野は」
「……。俺よりもはるかに強い。今までの誰より殺せんせーを殺れる可能性がある。……けど、あの顔を見ろ」
「……きゃはッ、千切っちゃった。ビチビチ動いてる♡」
言われて見た茅野の顔は、どう見ても正気とは言い難い。
「わずか数十秒の全開戦闘で……もう精神が触手に侵蝕され始めている。触手の宿主への負担は恐ろしくでかい。肉体強化無しでこの一年を耐えた精神力は物凄いが……それは触手を温存してきたからだろう」
「あははッ、どーしよ殺せんせー!!もう頭が痛くないの!!痛いのが気持ちイイの!!」
(どう見てもキマっちゃってますやん!!触手怖過ぎる!!カエデちゃん死んじゃうよ、あんなん作ったの誰だよ!!)
「……あそこまで侵蝕されたらもう手遅れだ。復讐を遂げようが遂げまいが、戦いが終わった数分後には死ぬとと思う」
こんな事があっていいのだろうか。だって彼女も棗と同じ、15歳の女の子だ。まだまだこの先の未来がある筈なのに、享年15歳なんてあんまりだ。
茅野はひたすら「死んで、死んで」と譫言のように口にしている。その姿があまりにも痛々しい。見ていられない。
「……。言ってる方が今にも死にそうだぜ」
「カエデちゃん……」
「……なんとかなんねーのかよ。茅野が侵蝕されてくのを見るしか……!!」
その時、目の前に突如として殺せんせーの顔だけがぱっと現れた。
「うおっ!!!」
「なんで顔だけ!?」
「先生の分身です!茅野さんの猛攻であまりに余裕が無さすぎて……顔だけ伸ばして残像を作るのが精一杯です!」
それはそれで器用すぎる。
「手伝ってください。一刻も早く茅野さんの触手を抜かなくては!!彼女の触手の異常な火力は……自分の生存を考えていないから出せるものです!一分もすれば生命力を触手に吸われて死んでしまう!ですが、彼女の殺意と触手の殺意が一致している間は……触手の『根』は神経に癒着して離れません!イトナ君の時のように……時間をかけて説得する暇がないのです!!」
「…………。じゃ、どうすれば……」
「手段はひとつ。戦いながら引き抜きます。彼女の……というより、触手の殺意を叶えるため、ネクタイの下に位置する心臓。ここを完全に破壊されれば先生はしぬので」
それは……殺せんせーの命も危ないのでは。
「触手が先生の心臓に深々と刺さり、"殺った"という手応えを感じさせれば……少なくとも『触手の殺意』は一瞬弱まる。その瞬間、君達の誰かが……『茅野さんの殺意』を忘れさせる事をして下さい」
「……。殺気を……どうやって?」
「方法は何でもいい。思わず暗殺から考えが逸れる何かです」
宴会芸とか?いや、それだと逆にこちらに殺意が向き兼ねない。棗には全く見当もつかない。忘れさせるくらい衝撃的な事。自殺をキスで止めたあれとかだろうか。でも、今回のは殺意だ。そういうので止まるだろうか。
「これだけは先生には出来ません。殺意の対象からふざけた事をされたところで、更に殺意が膨らむだけ。寺坂君がイトナ君にやったように、君達の手で彼女の殺意を弱めれば、一瞬ですが、触手と彼女の結合が離れ、最小限のダメージで触手を抜けるかもしれない」
「……その間ずっと先生の心臓に茅野の触手が?先生が先に死ぬんじゃねーの」
「上手いこと致死点をズラすつもりですが……まあ、先生の生死は五分五分でしょう」
五分五分。半分、死んでしまう可能性があるということ。今、この瞬間に別れが来てしまうかもしれないということだ。
「でもね。クラス全員が無事に卒業出来ない事は……先生にとっては死ぬ事よりも嫌なんです」
何とも彼らしい言葉。それを無碍にすることなんて当然出来ないし、大切なクラスメイトである茅野には助かって欲しい。
「うっ!!!分身が保てなくなってきました。ここからは触手への対応に専念します!30秒程戦ったら決行します!!とびきりのやつをお願いしますよ!!」
そう言って殺せんせーの分身はフッと消え、彼は戦いに専念し始めた。
「ど……どーすんのよ。あの闘いに乱入して
「……三村。エアギターやれ。テメーの超絶技を見せてやれや」
無茶振り過ぎである。三村も自分に殺意が湧くと突っ込んでいる。そりゃそうだ。
皆、考えている。どうすべきか。……さっきの方法で行くか?しかし、自分がやっても良いものか。いや、今は彼女の命に関わる。やって良いとか悪いとか考えている場合では無い筈だ。そう思考を巡らせていた時、前に出る影があった。
渚だ。
「な、渚君……」
渚は茅野と向き合う。それを、ハラハラと見つめる。そして一歩、踏み出した。
彼がとった行動は……キスだ。
しかも濃厚なやつだ。
(と…………とびきりのやつだーーーーー!!!!!)
周囲に激震が走る。カルマと中村はすかさずスマホを構えていた。通常運転過ぎて尊敬する。
「えっ……えっ……
「歌さん!?」
棗も大概通常運転であった。
気がつけば茅野の身体からは力が抜け、くたりと倒れ込む。
「殺せんせー。これでどうかな」
「満点です渚君!今なら抜ける!!」
殺せんせーが素早い動きで、的確に触手を引き抜く。
「これで……茅野さんは大丈夫になったんですか?」
「……ええ。恐らく。暫く絶対安静は必要ですが」
茅野は奥田に支えられながら、静かに気を失っている。かなり体力を消耗しただろう。体力どころか、
「王子様〜、キスで動きを止めるとはやるじゃないか」
「殺意を一瞬忘れさすには有効かと思って。茅野にはあとでちゃんと謝るよ」
まさか冗談半分で考えていたキスが正攻法とは、分からないものである。
「キス10秒で15HIT。まだまだね。この私が強制無差別ディープキスで鍛えたのよ。40HITは狙えた筈ね」
「ウム……俺なら25は固いぞ」
前原がキメ顔で言っている。流石プレイボーイ。しかし後ろの岡島までキメ顔なのは何故だろう。二人の近くにいる片岡は、「もうやだこの教室……」と嘆いている。そんな片岡も、20は固くないらしい。流石イケメグ。
安堵の空気が流れる中、殺せんせーがゲホッと噎せ、コボゴボと血を吐いた。致命点を避けたとは言え、心臓に攻撃を喰らったのだ。無理もないだろう。
「……平気です。ただ流石に心臓の修復に時間がかかる。先生から聞きたい事が有るでしょうが……もう少しだけ待って下さい」
その時、銃弾が飛んで来た。飛んで来た方向にはシロが立っている。
「瀕死アピールも大概にしろ。まだ躱す余裕があるじゃないか」
とは言え、ギリギリ躱したといった感じだ。普段の殺せんせーの様子と比べたら、かなり瀕死の状態だと思う。
「使えない娘だ。自分の命と引き換えの復讐劇なら……もう少し良いところまで観れるかと思ったがね」
「シロ……!!」
「出たなクサレ脳味噌……!!」
「大した怪物だよ。一体一年で何人の暗殺者を退けて来ただろうか。だが……ここにはまだ二人程残っている」
シロは喋り続けながら、何か小型のマイクのような視界を外して捨てた。あれが変声期だろうか。
「最後は
遠くてよくは見えないが、海藻のような髪がチラリと見える。
「行こう
隣にいる、顔まで隠した真っ黒な服装の男の肩に手を乗せて、シロは立ち去る。
「3月には……呪われた
「……」
「ケ、あんな奴のブサイクな素顔なんてどーでもいいわ。それよりこっちだ。目ェ覚ましたぜ」
気を失っていた茅野の意識が戻ったようだ。皆茅野の元へ集まる。
「茅野さん……良かった」
「茅野……平気?」
「……うん」
茅野はゆっくりと身体を起こす。
「……茅野っち……」
「……。最初は、純粋な殺意だった」
皆が心配そうに見守る中、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
「けど、殺せんせーと過ごすうちに、殺意に確信が持てなくなっていった。この先生には私の知らない別の事情があるんじゃないか。殺す前に確かめるべきじゃないかって。でもその頃には……触手に宿った殺意が膨れ上がって、思い止まる事を許さなかった。……バカだよね。皆が純粋に暗殺を楽しんでたのに、私だけ一年間ただの復讐に費やしちゃった」
自重するように笑みを浮かべ、茅野は俯く。
「茅野。茅野にこの髪型を教えてもらってからさ。僕は自分の長い髪を気にしなくて済むようになった。茅野も言ってたけど、殺せんせーって名前、皆が気に入って1年間使ってきた。目的が何だったとかどうでもいい。茅野は、このクラスを一緒に作り上げてきた仲間なんだ」
そうだ。それに、茅野は学園生活の中「殺せんせーにも事情があるかも、聞かないといけないかも」と思ったと言った。そういう理性が残っていたのだから、茅野が心から楽しんでいた素の瞬間もきっとある筈なのだ。
「どんなに一人で苦しんでたとしても、全部演技だったなんて言わせないよ。皆と笑った沢山の日が」
「……」
「殺せんせーは皆揃ったら全部話すって約束した。先生だって聖人じゃない。良い事ばかりしないのは皆知ってる。でも、聞こうよ。皆で一緒に」
渚の言葉に、茅野の瞳から涙が零れ落ちる。震える声で彼女は言う。
「……うん。ありがと……もう演技、やめていいんだ……」
そして……
「……殺せんせー。茅野はここまでして先生の命を狙いました。並大抵の覚悟や決意じゃ出来ない暗殺だった。そしてこの暗殺は……先生の過去とも、雪村先生とも……つまりは、俺等とも繋がってる」
次は、殺せんせーの事を聞く時が来る。
「話してください。どんな過去でも……真実なら俺等は受け入れます」
《棗ちゃんの「椚ヶ丘学園の校則」の認識について》
・学習環境の劣悪さ→そもそもそこまで劣悪とは思っていないので特に気にしていない。田舎の出身でエアコンのない環境に慣れているし、山の上なので寧ろ涼しいと思っている。勉強も自分のペースで出来るし丁度いい。
・教室が山奥→運動が苦手で休みの日は家にこもりがちなので、大変ではあるが丁度いい運動になると思っている。
・本校舎への立入禁止→そもそも本校舎に用事がないから気にしていない。
・校内行事・文化祭・体育祭からの除外→校内行事に関しては基本的にあまり興味が無いのでデメリットはそこまで感じていない。ただ、文化祭だけはちょっと残念…
・清掃・補助業務の押しつけ→疑問はあるがそこまで気にしていない。やるからにはとことんやってやるぜの精神。
・E組への侮辱が黙認されている構造→かなりの疑問点。まるでフィクションだなと思っている。本人的には興味のない相手からの侮辱はどうでもいい。
・成績関係なく、落ちたら即“見下し対象”になる理不尽さ→かなりの疑問点。まるでフィクション以下略。興味のない相手からの見下しもどうでもいい。
ここから見えるのは、
・興味ないものは本当にスッパリ興味ない。
・自分の感覚にとって重要でなければ、理不尽でもあまり動じない。
・でも、明らかな差別構造にはちゃんと「変だな」と感じる。
・自分が傷つくことじゃなければスルーできる懐の広さ。
・でも、共通ルールの形で理不尽があると「おかしい」と思える思考の軸の強さ。
という棗ちゃんならではの感性です。まぁ総じて、「自分にとってのデメリットはそこまで感じていない」という感じ。「自分が直接困るかどうか」が判断基準なところがあります。