書いてたらうちの子のかわいさが爆発して浅野学秀が勝手に暴走したんだ。
茅野の正体や、殺せんせーの正体についての騒動があり、それだけで脳の許容量が限界を迎えそうになっている、今日日。本日は、そんな二学期の終業式である。
皆、殺せんせーの話を聞いてどこか暗い雰囲気だ。棗は他のクラスメイトと違い元々暗殺者とは言えない立場にいた。3月には、大好きな先生とのお別れが確定していて。それが、クラスメイトが暗殺に成功しようがしまいが訪れることを先日知った。
考えることが多すぎて、いよいよ埒が明かない。どちらにせよ変わらないのなら……変に考え込んだところで仕方ないか、と思う。
「歌川さん」
「あぁ、浅野くん」
下山してすぐ、本校舎前で棗を待っていた学秀と合流する。
終業式が終わった頃、学秀から声をかけられたのだ。少し話をした後、またいつもの場所で待っていると言われた。期末テスト以降、学秀からメッセージが届いたり、こうやって声をかけられたりする事が増えたと思う。生徒会の仕事もあるだろうに、今日のようにわざわざ棗と帰ろうとする事もある。
「……歌川さん、何かあった?大丈夫?元気がないように見えるけど」
学秀が心配そうに棗の顔を覗き込む。そういう顔もするようになったんだなぁ、と彼の新たな一面を知った。
「え……そう?まぁ、考え事は色々ありはするけど、思い詰めたりとかはないんやけどねぇ」
「そう。それならいいけど。でも、何かあったら言って。君の事なら、いつでも相談に乗るから」
「うん、ありがと」
学秀は優しい顔で話に耳を傾けてくれる。自分ばかりが話していて学秀はつまらなくはないのだろうかとも思うが、本人は棗の話を聞くのは好きだから問題はないと言うのだ。
「……浅野くん、元々優しくはあったけど、もっと優しくなったよね〜。表情とかもさ」
E組との勝負の末、彼の中での考えの変化があったり父である學峯との蟠りが解けたり……それ故なのだろうか。
「……君が好きだからかな」
学秀は自然と、それが当たり前であるかのようにそう口にした。棗は思わずフリーズして、思考を巡らせる。竹林が戻って来た時も、『君と話すのはメイド喫茶にいるよりほんの少しだけ好き』と言われたことがあったし、学秀の言ったこともそれと同じであると解釈する。とは言え。
「……ちょ、あー……面と向かって唐突に言われたら友達相手でも照れるぜ……」
真正面から伝えられる好意の言葉は、誰からのものであっても照れくさい。それでも、棗も「あ、私も浅野くんのこと好きだぞ〜」と返した。棗にとって学秀は大切な友達だと思うし、学秀と過ごす時間は好きだからだ。
「でも、嬉しいな〜。前は『嫌いじゃない』だったから。あの時も嬉しかったけどね」
前回と違い、明確な好意を口に出してくれたのだ。嬉しい、それ以外に言い表せる言葉が無い。
「歌川さん」
「ん?」
学秀は足を止めて、棗の方を向く。棗も、それに釣られて足を止めて学秀と向き合った。じ、と見つめられる。何だろう、とそわそわしていると、今度は徐に、そっと手を取られた。
「え……あの」
「歌川さん。僕は君が好きだ。出来ることなら……ずっと君の隣にいたいし、隣にいて欲しいと思う」
「…………ン?」
何だか、妙な雰囲気を感じる。なんと言うか、言い方に含みを感じるような。
「付き合って欲しい」
「……………………へ???」
一瞬何を言われているのかわからなかった。
付き合って欲しい。学秀は今、付き合って欲しいと言ったのか。どういう意味だろうと。流石の棗も、漫画のヒロインのように「付き合って欲しい」を「どこに?」と勘違いするようなタマではなかった。話の流れ的にも、そうではないことは一目瞭然である。それでも……信じられない思いであるのは確かだ。
「えっと……?それって……いや、まさかそんなわけ……ないよね?」
一気に現実味がなくなってしまい、動揺が隠せない。
「今、どういう風に想像してる?」
そんな学秀からの問いが飛んでくる。
「付き合って欲しいって言われたから……恋人になって欲しい方かなって思ったけど……いやでも、私だしさ……」
「それで合ってるよ。恋人になって欲しい。……君に」
今度ははっきりと言われて、間違いではないということが確定してしまった。
「…………え。こっ…………告白?これ…………」
「うん、告白。どうかな、歌川さん」
どうかな、と言われても。急過ぎて脳の処理が追いつかない。しかし、学秀が冗談でそんなことを言うとは思っていないので、自分と付き合って欲しいというのは多分本心なのだろうと何となくわかった。
「……歌川さんは、僕と恋人になるのは嫌?」
ずるい聞き方だ。嫌か嫌じゃないかと問われれば、嫌ではない。仲が良くて信頼している友達からの好意は、どんな形であれ嬉しいもので。
しかし根が真面目な棗には、嫌じゃないだとかそういう理由だけで、恋愛感情を向けていないのに付き合うというのは気が引けた。
「い、嫌とかはないけどさ、でッ……でも私、浅野くんのことそういう目で見たことないっていうかさ……そういう発想自体今の今までなかったわけでさ?気持ちがないのにお付き合いするのは失礼だし、出来んよ……」
そう言って丁重にお断りした。付き合ったとして、期待だけさせて恋愛感情を向けることが出来なかったら、申し訳がなさすぎる。
「……そうか」
学秀はそう言って一瞬考える素振りを見せる。
「つまり、気持ちがあれば付き合ってくれる……ってことでいいのかな」
「へ!?」
あまりの爆弾発言に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「そういうことだよね?」
そうにっこりと微笑まれて、言われてみれば確かにそうなのか……?と考える。
「とっ……とりあえずさ……先に進まない……?」
人通りは少ないとは言え、道のど真ん中である。何だか居た堪れない。
「……そうだね」
二人は再び歩みを進めた。ここから駅までそんなに遠くはないが……気まずい。一体何を話せばいいというのだろう。
「あ……あの、さ。ちなみに聞くけどさ。なんで私なん?」
正直、自分を恋愛対象として見る人間などほぼ皆無で、いたとしてもその人は物好きだなという認識があった。だから不思議なのだ。
そもそも、学秀は恋愛に対して淡白なイメージがあった。モテはするだろうが、彼自身の異性に対する関心は薄そうに見える。
「なんで……か。そう言われると、説明が難しいね」
学秀でも難しいことはあるようだ。まぁ、学秀も人間だし、苦手なことや難しいことくらいはあるだろう。
「ただ、ひとつはっきり言えることは……君の全てが愛おしいということかな」
「ゔぁ゛っ……」
思わず潰れた声が出た。よくもまぁ、そんな小っ恥ずかしいことをすんなりと言えるものだ。
「それだけじゃ駄目かな?」
「う……ううん……別に……何となく、理解したような……」
要するに、理屈ではないということだろう。きっと、棗の両親と同じなのだ。良い部分も悪い部分もひっくるめて、相手の全てが好きだということ。説明は難しくても、確かに愛はそこにある。そういうことなのだ。
(それが私に向けられてるっていうのがなんか……変な感じだ……)
自分よりももっといい人がいる……と言うのは、真剣に想いを伝えてくれている学秀に対して失礼にあたるだろう。気の迷いだ、と言うのもそうだ。そんなもの、棗が決めていいことではない。学秀の気持ちを決めるのは学秀自身なのだから。
気持ちがないのに付き合えない。学秀の気持ちを否定したくない。そう思って、足りない頭で考え出した最適解が先程の返事であったのだが……まさかこうなるとは。ただでは倒れないのが学秀だと、改めて思い知らされた。
「もう駅に着くよ、歌川さん」
「え、あ、う、うん……」
思考を巡らせ続けていたら、いつの間にか駅もすぐそこだ。とりあえず、学秀と別れたら心を落ち着かせなければならない。棗はそう思った。
「えーっと。それじゃあ……」
「……歌川さん」
またね、と言おうとしたら、学秀に再び手を取られる。あまりゴツゴツはしていない綺麗な手。それでも、男子の手だった。
「ほあっ!?」
今しがた自分に告白してきた相手から握られて、どぎまぎしてしまう。
「さっきも思ったけど。手、小さいね。かわいい」
繋ぎ方だって……指と指を絡めるもので。
「ひぇ……」
棗の口からは、そんな情けない音しか発する事が出来なかった。
「歌川さん。僕は諦めるつもりはないよ。案外脈、ありそうだしね」
「ミ゚ッッ」
「振り向いて貰えるまで……告白するから。覚悟しておいて」
「ヒョエェ……」
「あと……君は受験勉強があるだろうけど。冬休み、時間があれば……デート、してくれる?」
「デッ……い、イイヨ……」
まぁ、別に友達と出かけたりする事もデートと言ったりするし、と心の中で謎の弁明をし自分を納得させる。
「じゃあ。冬休みに、ね。詳しい事はまた、後から連絡するから」
「ウ、ウン……マタネ……」
絶対に逃がして貰えなさそうな気しかしない。会う度に毎回告白するつもりなのか。次から次へと考えなければいけない事が増えて、気が遠くなる。
明日から、冬休みが始まる。
ツンデレからの遷移が凄すぎるね浅野君。
二学期編は一応これで終了となります。冬休み編を少しだけ書いて、三学期編へ突入かなという感じ。