【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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殺せんせー&カエデちゃんとLet's恋バナ。



恋バナしましょう

 年明け前の事。茅野の見舞いへ行く前に、棗はとある場所へ足を運んだ。

 

「せっ、せんせーッ!!殺せんせーッ!!今何時ー!?」

「一大事〜!!……って急にどうしました棗さん!?」

 

 目的地である旧校舎へと辿り着いた棗は、猛ダッシュで教員室の扉を開ける。某妖怪時計のアニメEDのフレーズを投げかければ、突然の事であったにも関わらずノリよく返してくれた殺せんせーは流石である。

 

「そうなんです一大事なんです先生!!!!」

 

 様子のおかしい棗に戸惑う殺せんせーになど構わず、棗は勢いよく近づいた。

 

「にゅやっ!?落ち着いて、まずは深呼吸しましょう!」

 

 殺せんせーに促され、深呼吸をする。段々と気分が落ち着いて来たので、棗は本題に入ることにした。

 

「あの、先生……」

「一体どうしたんです?何かありましたか?」

「その……れ、恋愛相談、聞いて欲しくて……」

「にゅやっ、先生にですか!?!?本当に!?!?」

 

 普段生徒達の恋愛事情を下心満載で眺め、ノンフィクション恋愛小説のネタにまでするなど何かと下世話な為誰にも恋愛相談されない殺せんせー。それが今この瞬間、生徒から恋愛相談をされた。殺せんせーの心は今、歓喜に打ち震えている。

 

「まさか……!!まさか生徒から恋愛相談を持ちかけられるなんて……!!」

「せ、先生?」

「おっと、失礼しました……それで棗さん。一体どのような相談でしょう?」

 

 殺せんせーの中で十中八九学秀の事だろうと察しはついているが、敢えてこちらからは何も言わなかった。

 

「えっと……先生は、雪村先生の事は恋愛的な意味で好きですか……?」

「にゅ、先生ですか?」

 

 棗が尋ねてきたのは、殺せんせーとあぐりの事であった。思わずぱちくりと瞬きを繰り返す。

 

「はい。先生にとって雪村先生は凄く大事な人なんだなっていうのはわかるんです。でも、恋愛的対象としてはどうなのかなって……」

「……そうですね。あぐりは私にとって唯一無二の存在ですよ」

「そ、そうですか……」

「どうしてそんな事を?」

「……分からなくて」

 

 恋心とはどういうものなのか分からなくて、殺せんせーがあぐりをそう言った意味で好いていたのなら参考になるかと思ったのだ。

 

「私、子どもの憧れに近い淡い恋とかみたいなのはした事あるけど、心の底から恋焦がれるとかそういうのはなかったから……そもそも恋愛自体漫画とかで推しカプ愛でるくらいしか興味無いし……」

「確かに君はあまり現実の恋バナには興味を示しませんねぇ」

 

 修学旅行の恋バナすら話を振られる事にあまり気が進まなかった程だ。振られるくらいならまだ良くて、深掘りされるのは最悪だとすら感じている。

 

「冬休み前に浅野くんから告白されて……私、生まれて初めて告白されたから凄くビックリして。それに、ずっと友達としか思ってなかったから」

「ふむ、なるほど」

「……嫌とかじゃ、なかったんです。寧ろ気持ちは物凄く嬉しくて……で、でも、それだけで、いざ付き合ってみて同じ気持ち返せなかったら、申し訳ないって思って断っちゃいました」

 

 段々としりすぼみになっていく棗の声。それでも殺せんせーは真剣に耳を傾けた。

 

「……ふむ、それは実に君らしいですねぇ」

「で、でもですよ!浅野くんが『つまり気持ちがあれば付き合ってくれるってことでいいのかな』とか言い出して!」

「うわああああ!!それ恋愛漫画でしか見たことないやつぅ〜!!」

「あ、諦めるつもりないって、言いきられて……!それとデートして欲しいって……だからこの前クリスマスデートに行って来たんですけど、もう何回言ったのか数え切れないくらい『かわいい』とか『好き』とか言うし、ナチュラルに手は繋いでくるし、映画の上映中に私の方観察しながら鑑賞するとかいう器用なことしてくるし、お昼食べる時にあーんしてくるし……!もう心臓何回壊れるかと思いましたよ……!」

「浅野君……確かに君と浅野君は仲が良かったですし、浅野君の方は君のことを憎からず思っていそうでどこか認めていない感があったのに……受け入れた瞬間そんな暴走機関車みたいになる子だったんですか……先生流石に予想外です。あの浅野理事長もひっくり返りそうな案件ですね……」

 

 ひっくり返る學峯、想像は出来ないが、是非拝んでみたいものだ。ある意味御利益がありそうである。

 

「さっきも言ったけど私、恋愛なんてほとんど考えた事ないから……自分の気持ちが分からないんです」

「だから先生に恋がどういうものか聞きたくて先程の質問をしたのですね」

「はい。……でも。こういうの、恋愛漫画でよく言うじゃないですか。『そこまで真剣に悩むんなら、もう答えは出てるんじゃない?』って。私、もう浅野くんのこと、好きなんじゃないかな……って薄々感じてて……でもこういう風に真剣に悩んでる時に限って自分の感覚が信用出来なくて……」

 

 告白は戸惑ったけれど、素直に嬉しかった。上映中に見られていた事も、手を繋がれた事も、食事中に手ずから食べさせられた事も……嫌悪感は一切感じなかった。優しく触られるのも嫌ではない。もしかしたら、とは思うのだ。しかし、確信が持てなかった。

 

「ふむふむ。それも君らしい悩みですね。ですが棗さん。先生はね、君のその感覚、信用してもいいと思いますよ。……もし君自身がその感覚を信用出来なくとも……君のその感覚を信用する先生を信用してください」

 

 そうだ。自分の感覚は信じられなくとも…信じられる相手はいる。殺せんせーもその一人だ。

 

「そ、うですね……先生が言うなら……」

「先生、応援してますよ」

「ありがとうございます、先生」

 

 棗は荷物を持って立ち上がる。

 

「ごめんなさい殺せんせー。これからカエデちゃんのところにお見舞いに行くから長く居られなくて」

「いいえ、大丈夫ですよ。こうして来てくれただけでも嬉しいです。何せ他に誰も来てくれなくて寂しいので……」

「……あはは」

 

 きっと過去の話を聞いて中々暗殺に手を出しづらいのだろう。クラスメイト達の心中お察しする。

 

「それじゃあ先生、また。良いお年をー」

「はい、良いお年を」

 

 年末の挨拶を交わし、茅野の入院する病院へ向かうべく山を降りる。

 


 

「カエデちゃん、調子はどう?」

 

 あの後無事病院へと到着した棗は、茅野のベットサイドへ見舞いの品を置きながら問うた。

 

「うん、一応冬休みいっぱいは入院する事になってるけど、体調自体はいいよ」

「そっかー。ナチュラルにカエデちゃん呼びのままだったけど、OK?」

「うん。呼ばれてるうちに気に入っちゃったから」

 

 こうして病室で同級生と一対一の会話をするなど、何だか不思議な気分だ。

 

「皆、どういう風に過ごしてる?」

「さぁ……ただ夏休みの時みたいに暗殺のお誘いが来んから、色々考えてるんじゃないかなーとは思う」

「そっか……ごめんね、きっと私のせいだ」

「別に気にすることないんじゃない?いつかは知る事になってた事実だろうし。皆がどう思ってるかはよー分からんけど、少なくともカエデちゃんのせいだとは思っとらんでしょ」

 

 棗が案外ケロッとしているのは、元々殺す派ではなかったからだ。誘われないと暗殺に参加していなかったし、正直知る前と知った後であまり変わらないような気がする。

 

「暗殺はしてないけど、殺せんせーとは連絡取ってるよ。誰も来てくれなくて寂しいんだって言ってたから、ここに来る前に殺せんせーに会ってきた」

「そうなんだ。なんか……棗ちゃんは変わらないね」

「まぁ、元々殺せんせーを殺す気がなかったというか。死んで欲しくないなぁって思って、単独暗殺はしない方向性だったから」

「確かに棗ちゃんが一人で暗殺しにいってるとこ見た事ないかも。殺せんせーと何話してきたの?」

「……えっと……」

 

 ここで言い淀んだ。

 棗が殺せんせーにしていたのは、恋愛相談である。人選ミスでは?と思われるかもしれないが、信頼出来る大人に相談したかったのだ。両親に話すには……まだちょっと勇気がいる。烏間に恋愛相談というイメージはない。イリーナは……相談には乗ってくれるだろうが本人も色々奮闘中であるし、ちょっとエッチなアドバイスをしてきそうな気がしたので消去法で殺せんせーにしたのである。

 

「え、何何。何話したの??」

「ちょ、ちょっとね、恋バナ?っていうか」

「修学旅行の夜にすら空気に徹しようとしていた棗ちゃんが恋バナ!?え、何か気になるよー」

「あ、浅野くんの事なんだ……」

「えっ、浅野君?あー、確かに仲良かったもんね。浅野君の方は棗ちゃんの事好きっぽかったし」

「え……分かるもんなの?」

「割とあからさまだったと思うけどな……」

「そ、そうなんだ……私、自分を恋愛対象にする人がいるなんて想像した事無かったからな……」

「それでそれで、棗ちゃんは浅野君の事好きなの?」

「分かんない……絆されて来てる気はするけど。告白されるまで本気で友達としてしか見とらんかった」

 

 告白されただけでこれだけ意識してしまうとは、改めて自分のチョロさを実感する。

 

「告白されたんだ」

「うん、終業式の日に。一旦は断ったけど、『気持ちがあれば付き合ってくれるって事だよね?』って言われて。クリスマスはデートもした……」

「なんか浅野君フルスロットルだね?」

「うん、殺せんせーも暴走機関車って言ってた。理事長もひっくり返る案件だって」

「あはは、ひっくり返る理事長か……ちょっと見てみたい気もするね」

 

 どうやらそこは共通認識らしい。

 

「……カエデちゃんは……」

「ん?」

「あの夜……き、キスされてたけど、さ……」

「……うん」

「渚くんの事、どう思う……?」

「…………。あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

 

 急に大声をあげ始めた茅野に、思わずビクリと肩が揺れた。

 

「か、カエデちゃん!?」

「う゛ー……無理……」

「む、無理!?」

「あんなの、好きにならないわけないじゃんー!!」

「お、おー……」

「無理無理ホント無理!!!!」

「落ち着いてー……」

 

 じたばたとベッドの上で暴れまくる茅野をどうどうと宥める。話を振ったのは棗なので、ちょっと申し訳なく思った。

 

「自分がこんなに単純だなんて思ってなかった……」

「そっか……私は自分は単純な人間なんだなって改めて思ったよ」

 

 茅野でさえ、いとも容易く恋に落ちてしまった。では、自分は。自分も、学秀とキスでもすれば分かるのだろうか。

 

 (って私は何を考えてるんだー!)

 

 二人して居た堪れない気持ちに襲われ、何とも言えない空気がそこに漂っている。

 

「……取り敢えず、今日は帰るね。また今度、お見舞い行くよ」

「うん……待ってるね……」

 

 結局微妙な空気のまま、病室を後にした。




殺せんせーは小説のネタにはするけど真剣に相談すれば真剣に応えてくれる先生だと私は信じます。
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