【完結】その生徒、暗殺者に非ず。   作:クリオネf。t

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喧嘩してる奴らの前で発狂して逆に冷静にさせるやつ。



三学期編
分裂かもしれない


 いよいよ三学期。中学生として最後の学期が始まった。

 

「おはようございます!三学期もよく学び、よく殺しましょう!!」

 

 明るく出迎えてくれる殺せんせーとは裏腹に、生徒達の表情は暗い。

 

「うん……」

「おはよう殺せんせー」

 

 声にも覇気がなかった。

 

「殺せんせー、おはようございますっ!」

「おお、棗さん!おはようございます!」

 

 そんな中、棗だけは変わらず明るい。殺せんせーも嬉しそうに挨拶を返してくれた。

 教室に入れば、皆お通夜モード。対する棗は至ってマイペースだった。お絵描き用のノートを取り出して、ひたすら好きなように落書きをする。重苦しい教室の中、彼女だけが普段通りに過ごしていた。

 

 

 そして放課後。

 

「ンだよ渚。テメーが招集かけるなんざ珍しいな」

「ごめん……でも、どうしても提案したくて」

 

 渚がクラスメイト全員を招集し提案を持ち出すなど珍しい。原が「言ってみて」と続きを促した。

 

「…………。出来るかどうか分かんないけど。殺せんせーの命を……助ける方法を探したいんだ」

 

 この場にいるほぼ全員に激震が走る。今まで殺す為に試行錯誤し、切磋琢磨してきた。そんな中で出て来た、殺せんせーを救うという選択肢。

 

「助ける……ってつまり、3月に爆発しないで済む方法を?」

「アテはあるの?」

「勿論今は無い。無いけど……あの過去を聞いちゃったら……もう今までと同じ暗殺対象(ターゲット)としては見れない。皆もそうなんじゃないかな」

 

 3月の地球爆破も、殺せんせー本人の意志とは関係ない。ここにいる皆と同じように失敗し、悔い、生まれ変わってE組(ここ)へ現れた。生徒達が同じ失敗をしないよう様々な事を教えてくれた。何よりずっと一緒にいて楽しかった。

 そんな先生の事を、殺すよりも先に助けたいと思う方が自然だと言うのが渚の思いだった。

 

「わたしさんせい〜!!殺せんせーとまだまだ沢山いきもの探したい!!」

「渚が言わなきゃ私が言おうと思ってた。……恩返ししたいもん」

「倉橋さん、片岡さん」

 

 倉橋や片岡を筆頭に、原や杉野、不破など多くの生徒が渚の意見に賛同した。

 棗と同じ「殺せんせーに生きていて欲しい」と思う生徒が、こんなにも増えた。もしかしたら……本当に、殺せんせーとこの先も色んな事が出来るのかもしれない。そんな希望が見えた気がした。

 しかし。

 

「こんな空気の中言うのはなんだけど……私は反対」

「えっ……」

 

 事はそう簡単には上手くいかないらしい。

 

暗殺者(アサシン)標的(ターゲット)が私達の絆。そう先生は言った。この一年で築いてきたその絆……私も本当に大切に感じてる。だからこそ……殺さなくちゃいけないと思う」

 

 どうやら中村は反対派らしい。寺坂達もそうだった。

 

「助けるって言うけどよ、具体的にどーすんだ?あのタコを一から作れるレベルの知識が俺らにあれば別だがよ。奥田や竹林の科学知識でさえ……精々大学生レベルだろ」

 

 確かに、現実的な事を考えると寺坂の言うことはご尤もである。

 

「渚よ。テメーの言いたい事……俺等だって考えなかったわけじゃねぇ」

「けどな、今から助かる方法探して……もし見つからずに時間切れしたらどーなるよ?」

 

 そうなれば、今一番ついている暗殺の力を使わず無駄に過ごし、タイムリミットを迎える事になる。

 殺せんせーがそんな半端な結末で、半端な生徒で喜ぶ筈がないと、寺坂達は言う。

 

「で、でも、考えるのは無駄じゃない……」

「才能あるやつってさ、何でも自分の思い通りになるって勘違いするよね」

 

 何だか不穏な空気を感じ取る。カルマだ。

 

「ねぇ渚君。随分調子乗ってない?」

「……え?」

「E組で一番暗殺力があるの渚君だよ?その自分が暗殺やめようとか言い出すの?才能が無いなりに……必死に殺そうと頑張って来た奴等の事も考えず。それって例えるなら……モテる女がブス達に向かって『たかが男探しに必死になるのやめようよ〜♡』……とか言ってるカンジ?」

「そ、そんなつもりじゃ」

「第一暗殺力なら僕なんかよりカルマ君の方がずっと……」

「そういう事言うから尚更イラつくんだよ。実は自分が一番……力が弱い人間の感情理解してないんじゃないの?」

「違うよ!!そーいうんじゃなくてもっと正直な気持ち!!」

 

 (この空気無理ー!!!!なにこれー!!!)

 

 勘弁してくれー、と心の中で絶叫する。いや、本当に何だと言うのだこの流れは。意味が分からない。棗のキャパシティは既にオーバーヒートを起こしている。

 

「カルマ君は殺せんせーの事嫌いなの?映画一緒に見に行ったり……色々楽しかったじゃん!!」

「だぁから!!そのタコが頑張って……渚君みたいなヘタレ出さない為に楽しい教室にして来たんだろ!!」

 

 (じゃあ最初から殺したくなかった私は何やねーん!)

 

「殺意が鈍ったらこの教室成り立たないからさぁ!!その努力もわかんねーのかよ!!体だけじゃなく頭まで小学生か!?」

 

 棗の頭のオーバーヒートと共に、二人のやり取りも白熱して来た。

 

「…………」

「え、何その目。小動物のメスの分際で人間様に逆らうの?」

「……。僕はただ……」

 

 ドンッ、とついにカルマが手を出した。カルマと渚が仲違いをするのは珍しいが、カルマが渚に手を出すのも珍しい。

 

「文句あるなら一度でもケンカに勝ってから言えば?ほら、受けてやるから来いって」

 

「ウオオオオアアーーーッッ!!」

 

 ついに限界を迎えた棗が絶叫した。今にも掴み合いを始めそうだった二人も、それ以外のクラスメイト達も、何事かと呆気に取られている。棗はもう冷静ではなかった。

 

「ゴチャゴチャやかましいわあああああ!!!!大好きな先生を助けたい気持ちがヘタレなわけないだろおおおおお!!!!そんでもって先生の思いを大事にしたい気持ちも間違ってるわけないだろおおおおお!!!!」

「な、棗ちゃん!?」

「う、歌さん、一旦落ち着こう……」

 

 竹林が宥めに入るが、棗は止まらなかった。

 

「ナンデ!?両方じゃ駄目なんか!?なんでどっちかに決めないとなんだ!!!!殺す派は今まで通り暗殺を続ける!!!!助けたい派は助ける方法を探す!!!!役割分担すりゃー済むだろーがよぉ!!!!思い通りにしてやるくらいの意気込みあってもええやろがい!!!!」

 

 ドスドスとこれでもかと言うほど地団駄を踏んで叫びまくる姿にあのカルマも興醒めし始めたし、渚もカルマから離れて棗を宥めに来る。はっきり言って渾沌(カオス)である。

 

「棗ちゃん落ち着いて……!」

「…………はぁ」

「うわぁ!!急に落ち着かないで!?」

 

 一通り言いたい事をぶち撒けた棗の頭は冷静さを取り戻した。すっきりしたのと同時に少し死にたくなった。誰か殺してくれ。

 

「棗ちゃん大丈夫?」

「スミマセンデシタ大変申し訳ゴザイマセン空気に耐えきれませんデシタ」

 

 心配して声をかけてくれた茅野。棗は最早それどころではなく、カタコトで謝罪を述べている。

 

「中学生のケンカ、大いに結構!!……と、思いましたが収まりそうな感じですか?」

「カルマ君と渚君は止まったけど、どうするかまでは確定してないですよー……」

「では、ひとつ提案です。暗殺で始まったクラスですから、武器(これ)で決めてはどうでしょう?」

 

 最高司令官の格好をした殺せんせーが現れ、あろうことか仲裁案を出してきた。事の張本人なのに。

 

「なんで最高司令官のコスプレなのよ」

「これに似合う格好をと思いまして」

 

 ドンッと目の前に置かれたのは赤と青のBB弾にインクを仕込んだ対先生ナイフ、チーム分け用の旗と腕章だった。

 

「先生を殺すべき派は赤。殺すべきでない派は青。まずしっかり全員が自分の意志を述べて……どちらかの武器を手に取って下さい。この山を戦場に赤チーム対青チームで戦い、相手のインクをつけられた人は死亡退場。相手チームを全滅か降伏させるか、敵陣の旗を()ったチームの意見を……クラス全員の総意とする!勝っても負けても恨み無し!どうです?」

「楽しそうだな殺せんせー。自分の生死に関わる問題なのに」

「ここに来て力技で決めるのかよ……」

「多数決でもいいですが、それも一種の力技です。()()方式でも多人数有利は変わりませんが……この教室での一年の経験をフルに活かせば、人数や戦力で劣るチームにも勝ち目がある」

 

 何よりも、大事な暗殺者(せいと)達が全力で決めた意見であればそれを尊重する。それが殺せんせーの言い分だった。

 

「最も嫌なのは、クラスが分裂したまま終わってしまう事。先生の事を思ってくれるなら……それだけはしないと約束してください」

 

 結果、殺す派と殺さない派で大体半々に分かれた。律はどちらが正解か判断するか今の自分の性能(スペック)では早すぎるとの事で、協調の観点からも中立の立場を選ぶようだ。

 

「棗さんはどうしますか?」

「私は先生に生きてて欲しいな〜と思うけど、さっき言った通りどっちの考え方も間違ってないと思うからりっちゃんと一緒に観戦する事にします」

 

 棗も中立の立場を選んだ。そもそもどちらを選んだところで戦力外過ぎるのだ。彼女はこの教室にいながら暗殺者ではないのだから。

 棗が止めたとは言え、渚とカルマの間には未だ気まずい雰囲気が流れている。根本的なところは同じなんだからそんな喧嘩なんかする必要ないのにとも思わないでもないが、本人達の問題だ。一人一人考え方は違うし、それを押し付けたところでどうにもならないだろう。

 

「あーあ、すっかり喧嘩しちゃってまぁ……」

「……。前から少し気になってたんだけどさ、あの二人って友達付き合い長いんだよね?」

「そーだな。中一からクラス一緒だしよく遊ぶし」

「その割には……どこか他人行儀だよね。互いの事をゲスト扱いしてるっていうかさ……未だに双方君付けだし」

「そーいやそーだな。俺なんかクラス来た日に双方呼び捨て合ってたけどな」

「杉野はフレンドリー過ぎるけどね」

「あ、でもそれを言ったら歌川も渚とカルマとはずっと同じクラスだけど若干距離あるじゃん」

「私?私の中では別に呼び方と親密度比例してないから。私の中の感覚で相手の事呼んでる。この人はくんっぽいー、さんっぽいー、ちゃんっぽいーみたいな。敬称つけてるから距離があるとか、呼び捨てだから距離が近いとかはない」

「独特の感覚だ」

 

 寧ろ『呼び捨て=距離が近い・親しい』という一般認識の方が不思議でならないのだが、あれは一体どこから来ているのだろう。なんなら敬称を付けて呼ぶことが相手への最大限の親しみを表しているという人も割といるというのに。

 

 駄弁もほどほどに、暗殺サバイバルが始まる。

 開幕早々殺られたのは片岡と竹林。スナイパー組が布陣の時点でマークし、狙撃したのである。そしてスナイパーの一人である千葉とそれを守備する岡島が神崎によって殺られた。サバゲーで磨いた腕で、次々と敵を倒していく。しかし、そんな神崎もカルマに殺られる。皆とんでもない暗殺者に育ったものだ。ひょえ〜と間の抜けた声を出しながら観戦する。

 最終的には渚とカルマのタイマン対決となり、カルマが降伏してバトルは終幕を迎えた。

 

「皆お疲れ様ー、凄かったぜ!」

 

 これで「標的(ターゲット)を助ける方法を探す」事がE組(クラス)の方針となった。それぞれ思うところはあるだろうが、もう異論を唱える生徒はいない。

 

「いやー、カルマ君も渚君ヤバかったね!ヒヤヒヤしたよ私は。必要な喧嘩でもやっぱ喧嘩は好きじゃないし」

「あはは……でもあんなに叫び散らかしてる棗ちゃんも珍しいよね」

「いやー、ホントにね。どうかしてたよね」

「動画に収められなかったのが残念だよ」

「カルマ君はブレんねー」

 

 まぁその場合はいっその事自分からネタにして乗っかっていく所存だ。揶揄いたいのにその対象自らそのネタを出していくと揶揄う方も興醒めだろうから。

 

「ところでカルマ君」

「ん?」

「カルマ君は渚君の事メスだと思ってたの?」

「一応聞くけど棗ちゃん、今何考えてる??」

「いや……非常に美味しいなって」

「棗ちゃん??」

「薄い本が厚くなりそうだなって」

「うん……やっぱいいや」

 

 聞かなきゃよかった、とカルマが言う。渚は何とも言えない表情を浮かべていた。

 この結果を踏まえ、烏間から出された条件はひとつ。助ける方法を探す期限は今月一杯までという事だった。例えE組が暗殺を休止したとて、彼等以外にも殺せんせーを殺そうとする勢力は沢山存在する。

 

「俺もな、殺すのなら他の誰でもない君等に殺して欲しいんだ。だから約束してくれ。一月の結果がどうなろうと、二月から先を全力で暗殺に費やすと。生かすも殺すも……全力でやると」

 

 こうして再び、クラスの心はひとつになった。




<作者の個人的見解>
カルマ君が渚君に対して「才能あるやつってさ、何でも自分の思い通りになるって勘違いするよね」と言ったのはかつての自分を重ねている、つまり「自分がそうだったから相手もそうだ」という認識に過ぎない。
出来る事(才能)とやりたい事は本来別のものであり、「自分は頑張っても出来ないのに才能のあるお前がなんで辞めるとか言うの」は出来ない側の押しつけに過ぎない。勿論本人の特性上配慮が必要な部分は合わせるべきではあるが、それは同じ事をやっている以上ある程度合わせると言うだけの話。「そもそも出来なくても出来ないなりにやってみよう」と決めたのは出来ない側であり、出来る側がそれを辞めるからととやかく言う筋合いはない。出来ないなりに頑張るのは出来ない側の意志と責任であり、出来るけどやりたい事は別で辞めるなら出来る側の意志と責任。
渚君に必要だったのは「自分はこうしたい」と自分の意見を述べた上で「皆はどうしたいか」と他の人の意見を尊重すること。カルマ君に必要だったのは冷静さ。
あと、「暗殺者と標的」という関係性は絆を結ぶきっかけではあるが絆を維持し続けるためのものではない。
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