あのサバイバルを経てクラス内では殺せんせーを助ける方法についての議論が執り行われていた。それを先導するのは竹林だ。
「普通に考えてみよう。各国首脳は……本当に先生を殺す事しか考えてないのかな?」
竹林が言うにはこうだ。本来の目標は地球を救う事。だから、殺せんせーを殺す以外の方法で爆発しないように出来るならばそれもまた立派な選択肢のひとつになり得る。殺す研究と平行で、必ず少しは助ける研究も進めている筈であると。
「そしてその研究は……『死神』だった頃の殺せんせーが知ってた内容より進んでる筈だ。それを皆で探ってみないか?」
「恐らくそれは無理だ」
烏間が言う。
「このタコを作った研究組織は……月の爆発以降その責任を問われ、先進各国に研究のデータと主導権を譲り渡した。今では……各国トップの科学機関が研究を分担し、地球を救う国際プロジェクトチームを形成している。当然プロジェクトの情報は全て最高機密。研究内容を君等が知るのは至難だろう」
その矢先に律が「プロジェクトのデータベースに侵入しました」と声を上げ、烏間が目を剥いて驚いた。思った以上に律の性能は向上しているようだ。
「オンラインで繋がっているCPUなら大体
恐るべしAIの底力。
「……すげぇ!!世界中でやってる研究項目と研究スケジュールが全部わかる!!」
律の筐体画面にずらりと並ぶ文字の羅列。これら全てが研究項目とスケジュールらしい。
「……ただ、具体的内容は機密保護が厳重過ぎてわかりません。研究の核心に関わる情報は全てオフライン。最重要情報のやり取りに至っては……
「じゃあこいつら核心情報はどうやって伝えてるの?」
「要するに手渡しです」
人の手で直接厳重に管理したメモリを運ぶのは原始的な方法であるが、最も情報を盗まれにくい方法でもある。
「……で、肝心の殺せんせーを救う研究はやってんのかよ?」
「タイトルを見れば大体の内容は察しがつくね。えーと……ほとんどが殺す研究ばっかだな」
不破が指でなぞって研究項目の確認をする。その中にめぼしいものを発見したらしく、ハッとしたような表場を見せた。
「これ!!今研究中でそれらしいのはこれしかない!!」
アメリカ班の研究「触手細胞の老化分裂に伴う反物質の破滅的連鎖発生の
ISS。つまり国際宇宙ステーションの略称だ。
「そんなとこで研究してやがったのか……」
「あっ……有り得ます!!」
奥田が声を上げた。無重力や真空状態でなければ出来ない研究も多いのだと。
「それに……その……万が一大爆発するような研究をしてたとしても……宇宙空間の方が被害が小さい!!」
「……で、その研究結果は地球に帰ったらすぐ分かんのかよ?烏間先生がリミットした今月中によ」
「……恐らく、結論がどちらにせよ現場の君等にすぐに伝わる可能性は低い。機密の多い最先端技術を含むデータだし、地球を救えるほどの情報なら……すぐには渡さず外交の材料に使うかもしれん。厳しい事を言うようだが、上にとっては君等は末端の暗殺者の一派に過ぎない。状況によっては最後まで君等に情報は来ない」
それは最悪の場合、殺せんせーを救えるかどうかも分からないまま3月まで暗殺を続けるという事に他ならなかった。
「烏間先生。結果はどうあれ俺等は暗殺やめないよ。けど半端な気持ちで殺りたくない。救う方法がもしあればまず救うし、無ければ無いで皆も腹を決められる」
「……でしょ渚?」とカルマが渚に投げかける。
「……うん。クラスの大事な目標だもんね」
「だから今、はっきりと知りたいんだ。卒業まで堂々と暗殺を続けるために」
烏間は眉間に皺を寄せ考え込む。烏間も、生徒達の意志を尊重したい気持ちがあるからこそ悩んでいるのだ。
「烏間先生。席を外してもらえませんか」
何故か土星のような姿になった殺せんせーが烏間にそう促した。烏間は言われるがまま教室から退室する。
「……さて、つまり君達の望みはこうですね。宇宙からデータが
しかし研究スケジュールには「研究データを積んだ帰還船は太平洋上に着水。万一
「とても賢い警戒態勢です。先生あまり重い物は持てませんから……5トンの帰還船を金庫代わりにされると盗みようがありません」
あまりにも厳重過ぎて、盗み見るなどほぼ不可能に近かった。
「そこでです!!近々これが打ち上げられるのを知っていますか!?」
殺せんせーが見せたのは、日本で開発中の有人宇宙往還船の実証試験機の画像。
「有人!?日本の技術で人間なんて飛ばせんの?」
「それだけの技術信頼度は充分あります。先生の影響で開発を早めたかもしれませんねぇ」
実験内容としてはセンサー付きのダミー人気を実際に座らせてロケットで打ち上げ、生命維持に問題がないかを計測。軌道上でISSとドッキング。補給物資を下ろし、荷物を積んで地球へ帰還するというものだ。
「この日本の宇宙船がISSに着くのは当のアメリカの実験データがISSを離れる3日前です。もしもこの時、
その一言で殺せんせーの言いたい事を全員が察し、緊張が走った。
「そう!!暗殺教室!季節外れの自由研究テーマ!!宇宙ステーションをハイジャックして実験データを盗んでみよう!!」
未だかつてそんな自由研究をする学生はいただろうか。いや、いない。そもそも普通にお縄である。大丈夫かな……と一抹の不安を覚えながらも、殺せんせーを救う為ならと腹を括る事にした。
皆でワイワイ取り組むのも嫌いではないし。
「今回の計画は……いかに相手の眼と耳と手足を乗っ取れるか。関係者の大半は暗殺と無関係な人達ですから……あまり余計な迷惑をかけてもいけません。出来ますね?律さん」
「お任せ下さい!!律の能力全てを使って宇宙までお連れします」
そんな事よりも律だからこそ可能な超体育着のミニスカニーソアレンジ姿がかわいい。
(いやまぁ……私のもキュロットスカートなんだけども)
決行の日、1月18日。
渚とカルマ、そして律が持ち帰った情報はこうだ。
「我々の任務は件の超生物の反物質サイクルの暴走を防ぐ研究だ。様々なタイプの反物質を製作し、生命維持カプセルに入れ、宇宙空間へと放出して……寿命死から暴走→爆発までを観測する。宇宙空間では月面と違い……反物質連鎖を起こす物質が周囲に無いので爆発の規模を最小限に抑えつつ観察出来るのだ。実験の結果、爆発リスクは反物質生物の『サイズ』と反比例する。大きい程安定で……小さい程高確率で爆発した。また『奴』から月面ネズミへのケースのように、強引に細胞を株分けしても暴走リスクは上がると判明。従って、月面ネズミの悲劇を起こす条件は……人間ベースでオリジナル細胞の『奴』にはほぼ該当せず、暴走・爆発の確率は思われていたより遥かに低い。更に以下に化学式で示す薬品を投与し定期的に全身の珪素化合物の流動を促す。……分かりやすく言うと『凝りをほぐす』事で更に飛躍的に暴走リスクが下がると判明。以上の条件を満たす時……爆発の可能性は高くとも1%以下。……恐らくは爆発より先に他の細胞が寿命を迎え、90年以内に穏やかに蒸発するだろう」
なんと、殺せんせーは例え殺す事が出来なかったとしても、爆発する可能性はほぼ無いに等しかったのである。
「この薬品って作れんのかよ?」
「割と簡単です。……ていうか、前に私……これとほとんど同じ薬を作った事が」
は○れメタルみたいになったあの薬か。あれは伏線だったのか……皆衝撃を受けている。
「……嘘でしょ?あんなところに解決の糸口があったっての?」
「……いいのかよ。こんな簡単に見つかって……」
「……ううん。そんなに簡単な道じゃなかったと思う」
破壊生物になりかけた殺せんせーを命懸けで止めたあぐり。そのあぐりの後を継ぎ命をかけ棗達に授業をしてくれた殺せんせー。命をかけて行った暗殺。クラスの皆が命をかけていなければ薬も作れなかったし、宇宙まで答えを探しに行ける
「何にせよ1%以下じゃ無いも同然だ!!」
「ころせなくても……地球が爆発しないで済むぞ!!」
わぁっとそれぞれ歓喜の声をあげ、抱き合って喜ぶ者もいた。しかし問題が残る。
暗殺についてだ。一学期から続けて来た暗殺。それを今日限りで終わりにするか否か。この実験結果を受けたとて、暗殺依頼はそう簡単には取り消されないだろう。検証の必要もあるし、殺せんせーが危険生物である事には変わりないのだ。
クラスメイト達が出した答えは……国からの依頼が消えない限り、3月まで全力で暗殺を続ける事。
暗殺はE組の使命であり、絆であり、皆を出会わせ育ててくれたこのクラスの必修科目であるから。
何を得ようが失おうが、責任を持って受け入れる「覚悟」を。それが彼等の決めた事だった。
そして棗も……これまで通り見守る事に決めた。この先どんな結果になろうとも。
めちゃくちゃ終わりが近くて感動してる今日この頃。
もしかしたら完結いけるか……!?