内部進学の出来る本校舎生徒とは違い、外部生扱いのE組は皆漏れなく受験が間近に迫っている。特に私立の受験は本当にすぐそこだ。
「お前ら高校どこ行くんだ?」
「ああ、ちょっとだけレベル下げて余裕あるとこ行くわ」
「殺せんせーに高3の基礎まで教わったしな。高校生活は目いっぱいスキルを高めるぜ」
各々自分の将来やりたい事へ向けての進路を目指しているようだ。マスコミ志望の者達は学歴も欲しいと言うことで結構大変な人も多いらしく、不破はげんなりしていた。カルマはわざわざ外部受験で椚ヶ丘に入り直すらしい。追い出したはずの奴が戻って来て自分達の上に立たれた時の本校舎生徒達の顔を拝みたいのだとか。
「歌川はどこ行くんだ?」
岡島から話を振られ、「上野学芸」と答える。
「俺と同じとこか」
「うん。私の目指す絵のジャンルは菅ちゃんとは違うけど、デフォルメ調の絵もリアルな絵も根本は同じだし色々学べる事あるかな〜って」
「となると、お互い受かればまた3年間一緒だな」
「だね、お互い頑張ろーね」
棗の受ける国立上野学芸高校の前期試験は2月中旬。試験結果はその2〜3日後に発表される。その前に滑り止めである私立の高校の受験もあったりするので大忙しだ。
そして受験バトルも全日日程の山を越え、E組でも結果の明暗が分かれ始めた頃。
そこにはどんよりと沈んだ竹林の姿があった。キノコでも生えてくるのではないかというくらいの湿り気である。
その理由は明白だ。第一志望の高校に落ちたのである。彼の受けた高校は国内最難関だ。仕方の無いことであるが……一生懸命臨んだ分やはりショックは大きいだろう。
「なんであそこでマークミスなんてしたんだ……プレッシャーがかかるといつも僕はダメなんだ。E組を離れて一人で戦ったらこの程度さ。フヘヘヘヘ」
(大丈夫かコイツ……)
趣味が変わる程の落ち込みよう。それを励まそうと必死な殺せんせー。というか何故シル○ニアファミリーなんだ。
「か、確率の問題でこういう不運もありますって!!90%は受かってたんです元気出して!!」
完全に傷口に塩である。
「前原定期落としたよ」
前原が落とした定期を拾った岡野の台詞を耳にした殺せんせーが即座に反応をする。
「落ちるとか滑るとか言っちゃダメ!!竹林君が傷つくでしょう!!以後一切禁止します!!」
どう考えても殺せんせーが一番大きな声で口にしていた。
「受験生は戦う場所が違えども助け合うべし!!以後受験生へのヘイト発言をする生徒は……不良生徒と見なし全員ピッタリ七三に手入れします!!」
皆自分の前髪を抑える。相変わらずこのクラスは息がピッタリである。
「冗談じゃねーぞ!!」
「今どきこんなベタな禁句問題にすんな!!」
「問答無用!!先生の粘液でどんな髪でも滑らかに整えて……」
言いかけて、殺せんせーはス……と七三分けのカツラを被った。自分もしっかり守るとは、律儀なものだ。
「楽しい話で空気を明るく変えましょう。三村君、最近見て面白かったドラマは?」
「……。そーだなー……今年は大河ドラマが結構熱いよ。真田幸村の浪人時代から描かれててさ……」
はっとなる三村だが、もう遅い。真顔の殺せんせーにキッチリ手入れされ、七三分けになった。割と似合っている。
「浪人なんて不吉な事を竹林君の前で言うんじゃない!!誰か他の人……倉橋さん天気の話で和ませて!!」
「え、え〜と。さ、最近よく雪降るけどさ。中々積もらなくてガッカリだよね〜」
倉橋も七三にされた。雪が積もれば滑るのでアウトらしい。そうなると最早何も言えないのでは。
「お、おう元気出せや竹林!!」
「こっからじゃねーか」
「勝負はどう転ぶかわからねー……」
寺坂組も犠牲になった。
「ええいまだるっこしい!!先生が見本を見せます!!取っておきのスベらない話で竹林君を笑わせます!!この前自販機にお釣り忘れてさぁ。後で気づいてスゲー慌ててぇ。で急いで戻ったのよ。したらまだお釣りそこにあってぇ……超焦ったわぁ〜……」
(……?)
「オチは!?」
恒例クラス総ツッコミ。
(あぁ、そういう……どの辺がどうスベらん話かと思ったらオチがないって事か……)
完全に嵌められている。というかそれはアリなのだろうか。
「コータロー君、大丈夫だよ。他の高校でもいい友達が出来て高校生活満喫出来るかもだし、それに最終目標のお医者さんだって別に他の高校行ったって目指せるんだからさ!!って、私が言ってもしょうがないけど!!」
「……歌さん。ありがとう。そうだね、その通りだよ……」
ようやくどんよりとした表情から穏やかな表情へと戻る。しかしほっとしたのも束の間だった。次の瞬間今まで見た事がない程の怒り顔を浮かべ銃を持ち、殺せんせーへ向ける竹林。
「ひょえ……」
「ありがとうございます殺せんせー。くどい程NGワードをぶっ込んでくれて」
「たっ……竹林君落ち着いて!!ホ、ホラ皆さん彼を止めて……」
殺せんせーは生徒達に助けを求めるが、他の生徒もみな激おこである。
「もう皆七三にされた今……言えない言葉は何もない」
「受験中は使うのを控えていた罠がある。今なら使える」
「ち、ちょっと皆さん……」
「死ね!!」
あまりにも皆殺意が高過ぎて棗は引いた。少し離れたところで行く末を見届ける。まぁ……これに関しては殺せんせーの自業自得の成すところなので仕方がない。
「人の受験で楽しみやがって!!」
「ええそうですとも!!お祭りなんですよ受験なんて!!」
あっさりと認めた。
「竹林君!!落ちたっていいんです高校受験の第一志望ごとき!!君の刃は1本だけですか?2本目の刃でもちゃんと勝負出来るでしょう?」
「……ッ、当然ですよ!!滑り止めの高校だろうが僕の進路に影響は無い!!」
「なりたいのは医者ですか!?それとも爆発物取扱!?」
「医者ですよ!!色々迷ったけどやっぱりなりたい!!」
「それがいい!!君に合ってる!!君の細やかな知識吸収力!!弱者ゆえに身についた強さ!!全て大事に弱い人の味方になって下さい!!」
「分かってますよ!!考えてみりゃNGワードなんて余計なお世話だ!!」
「滑って」「転んで」「落ちて」。そんなものはE組で慣れっこなのだ。
攻防の末、殺せんせーもクラスメイト達も疲れ果てて息を切らしていた。
(お疲れ様やでー…)
殺せんせーははぁはぁと息を切らしながらも渚にもひとつ、アドバイスを送っていた。
きっと殺せんせーの本心は、生徒達がどんな高校へ進もうがあまり気にしていないのだろう。棗が「E組にいようともそこにいる自分が何を思い、何を選ぶか」に価値を見ていたように、「どの川に棲んだか」でなく「棲んだ川でどう泳いだか」を重んじる教育方針であるから。
「ねぇ、私のメイク落としどっかに転がってない?」
そこへ入って来たのはイリーナだ。
「何よコレ床めっちゃ滑るじゃない。整髪料?それで何よアンタ達。皆七三で転げ回って。そんな事やってたら……落ちるわよ受験」
バナナを食べながら、狙ったかのようにNGワードを連発している。逆に凄いなと棗が感心する一方で、クラスメイト達は血管ビキビキだ。
「あーあ、同じ落ちるなら恋に落ちたいわ。あ、誰かこの皮捨てといて。滑ってコケたら悲惨だしね」
「イリーナ先生、自分で出したゴミは自分で捨てないと……」
「ブッ殺せーー!!」
「ヒィィッ!!なによ急に殺気立って!!」
「なんかもう無意識に殺意沸くんだよ!!」
「……あちゃー」
もうてんやわんやだ。それでも、こういう時のE組はいつになく活き活きしているなぁ……と、生暖かい目で見守る棗である。
おまけ
棗「殺せんせー、私まだ七三分けじゃないので私にもしてください!!」(わくわく)
殺「にゅやっ、勿論お易い御用です」
竹「何故自ら七三分けを望むんだ…」
A.ヘアアレンジが面白そうだから